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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

吸血鬼プリキュラ!

やっつけですが超短編SSを一本投下します。

ことの発端は、今朝のプリキュアを見ていた時、そういえばプリキュアとドラキュラって言葉の響きが似てるなぁって思ったことでした。
で、吸血鬼プリキュアってのも面白そうだなと思い、ツイッターでツイートしたところ、思いのほか賛同者が多かったので、これは書いてみようかなと。

ドラキュラ様を不思議な生き物代わりにしちゃいましたが、楽しんでいただけましたら幸いです。


吸血鬼プリキュラ!

「はわわー! 遅刻しちゃうー!」
まだセットも途中といった感じで髪を振り乱しながら走る少女。
もうすぐ朝礼が始まってしまう。
髪の毛などにかまっている暇はないのだ。
「もう! お母さんったら起こすのが遅いんだもん!」
少女は母親に文句を言うが、実のところはお門違いである。
彼女の母親は、今朝も数度にわたって彼女を起こしていたからだ。
つまり起きられなかった彼女の自業自得なのだが、彼女自身はそれを認めたくはない。
母親が起こしてくれなかったのが悪いのである。

「もう・・・どうして朝が来ちゃうのよー! ずっと夜だったらいいのにぃ! 私、夜だったらいくらでも起きていられるんだから!」
息を切らせながらも通学路を走り続ける少女。
その姿を上空から見ている姿があった。

「うむ、そなたのような夜に強い者こそ余が求めていた少女だドラ」
突然少女の横に奇妙なものが現れる。
「えっ? 何?」
それは黒いもこもこした丸い毛玉のようなもので、両側にはコウモリの羽のようなものが生えており、ぴょこぴょこと動いている。
おそらくはその羽の力なのだろうが、毛玉はふわふわと浮きながら、少女の横に並んでいた。
「え? えええええ? 何これ?」
驚きつつも足を止めないのは、これ以上遅刻したくないという気持ちの表れか。
しかし、彼女の眼はその浮遊する毛玉に釘付けになっていた。
「余はドラキュラドラ。吸血鬼一族の長だドラ」
「ドラキュラドラさん?」
お約束の返しを行う少女。
もっとも本人にはそのつもりはない。
「違うドラ。このドラは口癖にされてしまったのだドラ」
「ふうん・・・どこから声を出しているのかな?」
少女がよく見ると、どうやら毛玉の正面と思しきところには水平に裂け目があり、そこから牙が覗いている。
おそらくこれが口なのだろう。
「捕まえて売ったらお金になるかな?」
やや物騒なことを考える少女。
「なかなか邪悪な性格らしいドラ。まさに我がしもべにふさわしいドラ」
「しもべ?」
「そうドラ。お前は余のしもべとなり、あのバカを始末するのに頑張ってもらうドラ」
「何それ? 今学校に行くのに忙しいからヤダ」
「問答無用だドラ!」
そういうと黒い毛玉は少女の首筋のところに飛んでいくと、がぶりと噛みついた。
「あ・・・いや・・・あ・・・」
力が抜けて地面にへたり込んでしまう少女。
その間にも黒い毛玉は彼女の首筋から血を吸っていく。
「ドラ・・・キュラ・・・って・・・マジ・・・」
前のめりに倒れこみ、意識を失ってしまう少女。
「だから最初からそう言ってるドラ」
少女の首筋から離れ、ふわふわと再び飛び始める黒い毛玉。
やがて毛玉は意識を失っている少女の口元に近づくと、黒いしずくを一滴たらす。
しずくは少女の口にたれ、少女はそれを舌で舐め取った。

静かに起き上がる少女。
その口元に笑みが浮かび、瞳は真っ赤に輝いている。
「これでお前は余のしもべになったドラ」
少女の前にふわふわと飛んでくる黒い毛玉。
「はい。ドラキュラ様。私はドラキュラ様のしもべです」
少女がにっこりとほほ笑むが、その様子は先ほどとはガラッと変わっていた。
「それでいいドラ。これからは余の命令に従うドラ」
「はい、ドラキュラ様。何なりとご命令を」
こうして黒い毛玉は新たなしもべを一人手に入れたのだった。

                   ******

「汐里(しおり)ちゃん、こんなところに呼び出してどうしたの? 今日は朝から何か変だよ」
少女の後について人気のない校舎裏にやってくるもう一人の少女。
メガネの奥の瞳がくりくりとしていて、お下げ髪がかわいい。
「そうかな? 今朝、ドラキュラ様のしもべになったからかしら・・・」
メガネの子に背を向けたままにやりと笑みを浮かべる汐里。
その口からは尖った牙が見えている。
「ドラキュラ? しもべ?」
何のことだかわからないという表情のメガネっ子。
「うふふ・・・霧華(きりか)ちゃんもすぐにわかるわ。ドラキュラ様に血を吸ってもらえばね」
くるりと振り返る汐里。
真っ赤な唇から尖った牙が見えている。
「ひっ! し、汐里ちゃん?」
「うふふふ・・・私はドラキュラ様に血を吸っていただいて、しもべになったの。霧華ちゃんもしもべになるのよ」
そう言った汐里の肩にふよふよと黒い毛玉が飛んできて、クワッと口を開ける。
「い、いやっ!」
慌てて逃げ出そうとする霧華。
だが、黒い毛玉が素早くその肩口に飛びつき、首筋に牙を突き立てる。
「あ・・・あああ・・・」
そのまま地面に崩れ落ちる霧華。
黒い毛玉はその首筋から思う存分に血を吸うと、霧華の口にも黒いしずくを一滴たらした。

                   ******

青白い炎に包まれて崩れ落ちる人影。
「うふふふ・・・まずは一人」
「ドラキュラ様に逆らう愚か者のしもべの末路ね」
二人の少女が冷たい笑みを浮かべている。
「よくやったドラ。これでこいつがしもべを増やすことはもうないドラ」
「ありがとうございます、ドラキュラ様」
「愚か者のしもべの処理は私たちにお任せくださいませ。ドラキュラ様」
スッと黒い毛玉にひざまずく二人の少女。
学校の制服に黒いマントを羽織った姿はなかなかになまめかしい。
「余のしもべたちよ、頼んだドラ。一刻も早く我が力を取り戻すためドラ」
「「はい、ドラキュラ様」」
二人の少女たちが声をそろえる。
「さあ、今度は私たちの番ね」
「ええ、おいしい血をたっぷりと吸いたいわ」
スッと立ち上がる二人。
「それじゃ行きましょう、キュラファング」
「ええ、行きましょう、キュラティース」
二人はそれぞれをそう呼び合う。
日曜朝の少女アニメのファンだった汐里が名付けたものだったが、霧華もそれを気に入っていた。
「私たちはプリキュラ。ドラキュラ様の忠実なしもべ」
「ドラキュラ様に歯向かう愚か者は、私たちプリキュラが始末するわ」
二人はそういうと、楽しみな食事をするためにマントを広げて夜空に消えていった。

エンド

  1. 2017/04/16(日) 20:50:19|
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鬼母、鬼姉、そして・・・

今日は2月3日の節分ですねー。
ということで、久しぶりに超短編SSを一本書きました。
ネット復活記念としてはたいしたものじゃないですけど、楽しんでいただければ幸いです。


鬼母、鬼姉、そして・・・


「ただいまぁ」
玄関で声が聞こえる。
父さんが帰ってきたな。
今日は結構早いんだな。
ぼくはスマホでゲームをやりながら、リビングに入ってきた父さんに目をやった。

「お帰りなさい。今日は早かったのね」
台所から母さんが出てくる。
「ああ、このところ仕事も少ないからな。そういえば今日は節分なんだな。駅で豆を売るコーナーがあったよ」
「そうよ。うふふ、ちゃんと恵方巻き買ってあるわよ」
母さんが笑顔を浮かべてる。
そうか。
それで今日は夕食の支度をしている様子がなかったんだ。
「お、いいね。それじゃ風呂入ったら一杯やりながらつまむとするかな? どうせもう豆まきなどはせんだろう?」
「でしょうね。詩織(しおり)も智樹(ともき)ももういい大人だし、やらないでしょ?」
父さんと母さんがぼくと姉ちゃんのほうを見る。
当然豆まきなんてやる気はない。
ぼくは首を振ったし、姉ちゃんはパスというだけでスマホから顔を上げようともしなかった。
「ハハ・・・子供のころは喜んで豆を撒いていたものだがなぁ」
「うふふ・・・仕方ないわよ。いつまでも子供じゃないから」
ちょっと寂しそうにする父さんと母さん。
やれやれ。
いつまでも仲がいい感じで結構だけど、見ているこっちが恥ずかしくなるよ。
ぼくはスマホのゲームに目を移した。

「お、うまそうだ」
テーブルに並べられる恵方巻き。
美味しそうな海鮮太巻きが四本だ。
「楽でいいわぁ。切らなくてもいいしね。恵方巻き様様よ」
母さんが笑いながらそういう。
まあ、たまには主婦が楽する日があってもいいよね。
「あー、お腹空いたぁ」
姉ちゃんもスマホを置いてテーブルに着く。
ぼくもゲームをやめてテーブルに向かう。
珍しく四人そろっての夕食だね。
父さんは早速冷蔵庫からビールを出して注いでいる。
サラリーマンの楽しみだそうだけど、この程度の楽しみってのはいやだなぁ。
ぼくも就職したらそうなるのかなぁ・・・

「?」
なんだ?
今玄関ですごい音がしたな?
ぼくが玄関のほうを見ると同時に、みんなも一斉に玄関を見る。
ぼくが何が起こったのか確かめようと腰を浮かせた時、リビングにそいつらは入ってきた。
「うわっ!」
「な、なんだお前ら!」
思わず声が出る。
リビングに入ってきたのは、まさしく鬼だったのだ。

「グフフフフフ・・・思ったとおりだ。この家は豆撒きをやっていない」
「ギヒヒヒヒヒ・・・小さい子供がいない家は豆撒きをやらないというのは本当だったな」
「しかもだ。なかなかいい女も二人もいやがるぜ」
筋肉質の大柄な体格をした三人の男たち。
そのいずれもが額から一本、もしくは二本の角を生やしている。
躰は赤や青の色をしており、腰には虎縞のパンツを穿いているのだ。
どこからどう見ても鬼だ。
まるで子供の絵本から抜け出てきたような鬼たちに、ぼくはあっけに取られるだけだった。

「な、なんだお前たち! 出て行け! 出て行かないと警察を呼ぶぞ!」
少し震える声で父さんが鬼たちに出て行くように言う。
だめだ・・・
そんなんじゃ、こいつらは出て行かないよ・・・
ぼくはそう思ってしまう。
こいつらはコスプレなんかじゃない。
本物だ。
本物の鬼がなぜか突然現れたんだ。
ぼくはそう感じていた。
だって、こいつらには人間なんかはるかに超えるようなとてつもない威圧感があったのだ。

「グフフフフフ・・・何か言ったか?」
「で、出て行かないと警察を・・・グハッ」
「と、父さん!」
精一杯鬼を出て行かせようとした父さんを、赤鬼が殴り飛ばす。
「きゃーっ!」
「あ、あなた!」
姉ちゃんが悲鳴を上げ、母さんが殴り飛ばされた父さんのところに駆け寄る。
くそっ!
よくもよくも・・・
でも、だめだ・・・
足が動かない。
父さんや母さんを何とかして守りたいのに、恐怖でまったく躰が動かない。
ど、どうしたらいいんだ・・・

「ギヒヒヒヒヒ・・・お前はこっちだ」
「あ、いやっ! 何を!」
父さんのそばに駆け寄った母さんを、青鬼の腕がつかみ寄せる。
「お前もだ」
「いやぁっ! 離して!」
「ね、姉ちゃん!」
壁際で震えていた姉ちゃんも、緑色の鬼がグフグフ笑いながら近づいてつかみ寄せてしまう。
くそっ!
足よ動け!
動いてくれ・・・
情けないことにぼくの足はガタガタ震え、まるで床に張り付いてしまったかのようだ。
父さんは殴られたせいか床でぐったりしているし、母さんと姉ちゃんは鬼に腕をつかまれて動けない。
「か、母さんと姉ちゃんを放せ!」
ぼくは必死にそう叫ぶ。
「グフフフフフ・・・ガキはおとなしくしていろ!」
赤鬼がぎろりとぼくをにらんでくる。
それだけでもうぼくは何も声が出せなくなってしまった。
立っているのが精一杯だ。
母さん・・・姉ちゃん・・・

「ギヒヒヒヒヒ・・・こいつはなかなかいい女だぜ」
「ゲヘヘヘヘへ・・・こっちの若いのもなかなかだぜ」
「いやぁっ! 助けてぇ!」
「離してぇ!」
必死にもがく母さんの首をべろりと舌で舐める青鬼。
緑の鬼も姉ちゃんの頬を舐めている。
「グフフフフフ・・・俺たちには女が少ないからな。こいつらをいただくとしよう」
「そうだな、ギヒヒヒヒヒ・・・」
三人の鬼たちがいやらしい笑みを浮かべている。
「な・・・なにを・・・」
ぼくはかろうじてそれだけを口にする。
「ガキはおとなしくしろと言ったろう!」
「ひっ!」
ぼくの全身を恐怖が走る。
だめだ・・・とても逆らえない・・・
誰か・・・
誰か助けて・・・

「グフフフフフ・・・まずはお前だ」
「い、いやっ! 何をするの?」
青鬼に腕をつかまれて身動きできなくされている母さんに赤鬼が近づいていく。
赤鬼は穿いている虎縞のパンツの中から何かを取り出すと、それを母さんの額に突き立てた。
「ひぃっ!」
それは彼らと同じ鬼の角だった。
母さんは額に鬼の角を付けられてしまったのだ。
「か、母さん!」
「ひぃっ! な、何これ? いやぁっ! 頭に・・・頭に何かがぁっ!」
「グフフフフフ・・・お前はメスの鬼になるのだ」
なんだって?
母さんが鬼に?
メスの鬼になってしまうというのか?
「ああ・・・いやぁ・・・アガッ・・・アガガガ・・・」
母さんの目が赤く染まっていく。
筋肉が盛り上がり、着ている服が内側から破れていく。
「アガガ・・・い、いやぁ・・・アグゥ・・・」
めきめきと音を立てて母さんの耳が尖っていき、口からは牙が生えてくる。
「そ、そんな・・・か、母さん」
「う、うそでしょ・・・」
緑の鬼に腕をつかまれている姉ちゃんもあまりのことに声が出ないようだ。
母さんの胸は大きくなり、指には尖った爪が伸びてくる。
肌の色は青くなり、母さんを捕まえている青鬼の肌の色とほとんど同じになっていく。
「ギヒヒヒヒヒ・・・どうやら青鬼になるようだな。うれしいぜ」
「ちっ、まあいいさ。メス鬼はみんなのものだぜ」
「ギヒヒヒヒヒ・・・わかっているって」
鬼たちがニヤニヤと母さんが変わっていくのを楽しんでいる。
母さん・・・
母さんが鬼になってしまうなんて・・・

「ア・・・グゥ・・・」
ぐったりとなる母さん。
着ているものはぼろぼろとなって腰の周りに巻きついているだけになり、その躰は青く額からは一本の角が伸びている。
「ブフ・・・ブフフフフフ・・・」
不気味な笑い声を出して母さんが顔を上げる。
「うわぁ」
「きゃーっ!」
ぼくも姉ちゃんも思わず悲鳴を上げる。
母さんはにたぁっと牙の生えた口をゆがめて笑みを浮かべ、真っ赤な眼をらんらんと輝かせていたのだ。
「グァァァァァァァァッ! なんだか力がみなぎってくるわぁ! 気持ちいいぃ!」
「グフフフフフフ・・・メス鬼になった気分はどうだ?」
「最高! 最高よぉ! ブフフフフフ・・・鬼は最高だわぁ」
べろりと舌なめずりをする母さん。
いや、メスの青鬼だ。
母さんはもうメスの青鬼になってしまったんだ・・・

「ゲヘヘヘヘへ・・・こっちも早く頼むぜ」
姉ちゃんを押さえつけている緑の鬼が催促する。
「おう、待ってな」
赤鬼は再びパンツの中から角を取り出す。
今度は母さんのより小さめだが、二本だ。
「いやっ! いやぁっ! いやぁぁぁぁぁ!」
「ね・・・姉ちゃん・・・」
ぼくにはもうどうしようもない。
ただ見ているしかない・・・
「きゃーーー!」
姉ちゃんの額に二本の角が突き立てられた・・・

                   ******

「ブフフフフフ・・・」
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・」
ぼくの目の前で繰り広げられる惨劇。
さっきまで母さんだったメスの青鬼と、姉ちゃんだったメスの黄色の鬼が、父さんの死体を貪り食っているのだ。
それもとても美味しそうに。
「ブフフフフフ・・・美味しいわぁ」
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・ホント、恵方巻きなんかよりずっと美味しいわ。どうして今まで人間の肉を食べなかったのかしら」
くちゃくちゃと音を立てて肉を租借する姉ちゃん。
母さんも父さんの腕にかぶりついている。
「ギヒヒヒヒヒ・・・そろそろいいだろう?」
青鬼がじれったそうに声を掛ける。
「ブフフフフフ・・・わかってますわぁ。腹ごしらえがすんだら気持ちいいことしましょ。ブフフフフフ・・・」
べろりと舌なめずりをする母さんだったメス青鬼。
その真っ赤な眼は欲望に潤んでいる。
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・アタシもアタシもー。ふっといおチンポほしいわぁ。ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・」
黄色鬼になってしまった姉ちゃんも爪で歯をほじりながら緑鬼のほうを見ている。
「ゲヘヘヘヘへ・・・楽しもうぜぇ」
黄色鬼の腰に手を回し、緑鬼も舌なめずりをする。

「グフフフフフ・・・あの二人はもう完全なメスの鬼になったのさ。これから俺たちはあのメスたちとたっぷり楽しむつもりだ。お前はどうする? 鬼になりたいのなら、この角を付けてやってもいいんだぜ」
ぼくの肩をぽんと叩く赤鬼。
ぼくは・・・
ぼくは・・・
ぼくは・・・

                   ******

「ゲヒヒヒヒヒ・・・君の母さんもすっかりメスの鬼になったようだね」
ぼくは角を付けられてメスの緑鬼になった女を彼女に見せ付ける。
彼女はぼくのクラスメートだ。
クラスの中でもかわいくてぼくは前から気になっていた。
だから角を付けてぼくのメスにしちゃうのだ。
「そんな・・・お母さん・・・どうして? 高谷(たかや)君ひどいよ」
ぼくに腕をつかまれて身動きができなくなっている彼女。
名前はなんていったっけ?
もう思い出せないけどどうでもいいや。
鬼になれば名前なんて必要なくなるんだから。
「ゲヒヒヒヒヒ・・・君も鬼になるんだよ」
「いやっ! いやぁっ!」
ぼくは彼女の頬をべろりと舐める。
かわいいなぁ。
この娘が鬼になったらもっとかわいくなるに違いない。
ぼくはパンツの中から赤鬼にもらった角を取り出すと、彼女の額に無理やりねじ込んだ。

エンド
  1. 2017/02/03(金) 19:11:42|
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遠吠え (後)

昨日に引き続きまして10年記念&400万ヒット記念オリジナルSS「遠吠え」の後編をお送りします。

お楽しみいただけましたら幸いです。

それではどうぞ。


「ん?」
一歩その家の中に入って感じたのは、においだった。
農場だから家畜を飼っているのは当たり前かもしれないが、なんというか獣臭いにおいを感じたのだ。
見るとディブも感じているらしく、鼻に手をやっている。
強烈なものではなく、微かといってもいいぐらいなのだが、なんとも獣臭かったのだ。
「エランドさん。いるなら出てきなさい。保安官だ」
ディブが奥に向かって声をかける。
玄関から奥に向かっていくと、リビングがあった。
小奇麗で片付いてはいるものの、さっきよりも獣臭さが強く感じる。
大型犬でも室内で飼っているのか?

「いったいなんですか? いきなり」
部屋の奥の扉が開き、男が一人現れる。
やつだ。
夕べ妻をさらっていった男だ。
「失礼、郡保安官だ。トニー・エランドだな? 聞きたいことがあったので入らせてもらった」
ディブがライフルを肩に担ぐ。
「ああ、こんにちは保安官。今日はいったい何の用です?」
ふてぶてしくも落ち着いた表情の男。
こいつ、保安官といっしょに俺がいるのに、なんとも思わないのか?
「彼を知っているだろう? 町の雑貨商のオスカーだ」
「ああ・・・知ってる。何回か買い物をした。もっとも、あんたに言われてからは行ってないがね」
チラッとこっちに一瞥をくれる男。
歳は俺とそう変わらない若さのようだが、体格はがっしりしている。
だが、雰囲気は優男そうに感じないこともない。

「それで、どうも彼が言うには、君が・・・」
『アオーーーーン』
な、何だ?
犬の遠吠え?
やはりここは犬を飼っているのか?
「今のは?」
ディブも驚いてきょろきょろしている。
それにしても大きな吠え声だ。
「ふふふ・・・新たな仲間が興奮して吠えたようで」
男はニヤニヤしながら奥に通じる扉のほうを見る。
「そ、そうなのか・・・それで」
「あら、あなた・・・来てたの?」
ディブが話を続けようとしたとき、奥から現れたのはサリーナだった。
「サリーナ・・・お前・・・無事で・・・」
俺は妻の無事を喜ぼうとしたが、何かが変に感じる。
どうにも目の前の妻に違和感を感じて仕方がなかったのだ。
いったいどうしたというのだ?
着ているのはブラウスとジーンズという姿だし、どこも変わったところなどないはずなのに・・・

「サリーナ、旦那さんが迎えに来たようだよ」
何?
こいつは今妻のことを名前で呼んだのか?
「うふふふ・・・そうみたいですわね」
なんだかねっとりした視線を俺に向け、ぺろりと唇をなめるサリーナ。
そのしぐさは妙にエロティックでいやらしい。
「サリーナさん、無事でよかった。彼に連れ去られたというので心配で来てみたところだ。ご主人もいるし帰りましょう」
ディブが手を差し伸べる。
だが、サリーナは驚いたことに、やつの元へ行き、その躰にしなだれかかったのだ。
「うふふ・・・ありがとうラウエルさん。でも私はもう戻るつもりはないの。あなたもわかって頂戴。私はもう彼のメスになったのよ」
「な?」
俺は耳を疑った。
サリーナは今何を言ったのだ?
なぜサリーナはあの男に恋人のように寄り添っているのだ?
いったい何があったのだ?

「ねえ、トニー。私、生まれ変わったばかりでお腹が空いたわ。肉が食べたい」
先ほどよりもいっそう舌を出して唇を舐めるサリーナ。
何だ?
彼女は以前の彼女じゃない。
いったい・・・
「ふふふ・・・それならちょうど目の前にいるじゃないか」
「ああん・・・でも、彼を食べるのはまだ気がすすまないわぁ。それにイザベラさんが狙っているみたいだし」
「そうなのか? それじゃ、そっちのほうにするか」
二人の視線がディブに向く。
いったい・・・
二人はいったい何を言っているんだ?
俺は躰が震えていることに気がついた。
何だ?
こいつらはいったい何なんだ?

妖艶な笑みを浮かべているサリーナ。
普段の・・・今までのサリーナでは絶対に浮かべないような笑みだ。
美しさを通り過ぎ、不気味ささえ感じさせる笑みだ。
「うふふふ・・・ねえ、ラウエルさん・・・あなたとても魅力的ね。おいしそうだわぁ」
ゆっくりとディブに近づくサリーナ。
いったい何をするつもりだ?
俺は恐怖を感じる。
なぜだ?
なぜ俺は妻に恐怖を感じなくてはならないんだ?

「奥さん、いったい?」
ディブも戸惑っている。
いつも笑顔でおいしいドーナツを作ってくれた女性だ。
その彼女が妙な笑みを浮かべて近づいてくる。
戸惑うのが当たり前だ。
「うふふ・・・いただきます」
ディブの首に両手を回すサリーナ。
まさかキスでもするつもりなのか?
だが俺のそんな考えは一瞬で裏切られた。

「ギャッ!」
小さな悲鳴とともに、血しぶきが上がる。
「うわぁーーーーーーー!」
気がつくと俺も悲鳴を上げていた。
妻が、サリーナがディブの首筋に噛み付いたのだ。
そして肉をえぐるように噛み千切り、むしゃむしゃと食っているではないか。
「うわぁーーーーーーー!」
悲鳴が止まらない。
口から血を滴らせた妻が俺に笑みを向けたのだ。
その瞬間俺は入り口に向かって駆け出していた。
違う!
違う違う!
あれは俺の妻じゃない!
何か別の存在だ!
俺の妻はあんなことはするはずがない!

あと少しで玄関だというところで、目の前に人影が現れる。
いや、人じゃない!
犬?
いや、狼だ?
巨大な人ほどの大きさのある狼が玄関先にいて、俺をにらんでいるのだ。
何なんだ?
いったいなんでこんなところに狼なんかがいるんだ?
俺は追い払おうと拳銃を抜く。
威嚇して追い払うつもりだった。
だが、だめだった。
拳銃を抜いたとたん、狼は一直線に俺に飛びかかってきたのだ。
俺は拳銃を発射したが、狼は俺に体当たりをかけて押し倒す。
床に倒れた衝撃で俺は頭を打ち、そのまま意識を失った。

                   ******

ん・・・んちゅ・・・ぴちゃ・・・ちゅぷ・・・
何の音だ?
俺はゆっくりと目を覚ます。
あたたた・・・
頭が痛い。
そうだ・・・
俺は狼に押し倒され、頭を床に・・・
俺ははっとした。
ここは?
俺はいったい?

「う・・・」
目を覚ますと、そこは薄暗い部屋だった。
見ると俺はイスに座らされ、両手を後ろ手に縛られている。
しかも下半身はむき出しにされ、股間のものを一人の女性が舐めていた。
「うわっ」
俺は驚いて思わず声を出す。
「フフ・・・目が覚めたみたいね」
上目遣いで俺を見上げる女性。
この女性はいったい?
さらに奥ではベッドをギシギシと鳴らしながら、一組の男女がセックスをしているではないか。
いったい何なんだ?

「あはぁ・・・いいわぁ・・・最高・・・最高よぉ・・・」
聞きなれた知っている声が聞こえてくる。
そんな・・・
ベッドの上で男にまたがって腰を振っているのは、紛れもなく妻だ。
いやらしい姿で腰を振り、いやらしい声で男に媚びている。
そんな妻を見る羽目になるなんて・・・
「あはぁ・・・あなたぁ、目が覚めたのね? 見てぇ・・・私・・・彼のメスになっちゃったのぉ」
口元に指を当て、潤んだ目で俺を見るサリーナ。
その間も腰の動きは止まらない。
「気持ちいいのぉ・・・獣のセックスは最高なのぉ・・・はぁん」
「ふふふふふ・・・どうだ? 彼に生まれ変わった姿を見せてやったら」
男がサリーナを下から突き上げる。
そのたびにベッドがギシギシと揺れている。
「ええ、そうしますわぁ・・・あなた、見てね・・・私の生まれ変わった姿。彼のメスになった姿を・・・ワオ・・・ワオーーーーーーン」
俺は目を疑った。
サリーナが・・・彼女の躰がみるみるこげ茶色の毛に覆われていき、鼻が突き出し、耳も尖って伸びていくのだ。
それはそう、まるで人間が狼になっていくような姿。
サリーナの口からは尖った牙がのぞき、両手の指からは鋭いつめが伸びていく。
「ワオーーーーン!」
誇らしげな遠吠えが彼女の口から放たれ、その姿こそが本当の姿だと訴えているようだ。
「アオーーーーン!」
彼女の下にいた男も、彼女同様に姿が狼に変わっていく。
やがて二人は、二頭の狼の姿となり、更なるセックスを楽しんでいく。

「うふふふ・・・驚いた? すっかり元気がなくなっちゃったみたいね」
さっきから俺の股間に顔をうずめていた女性が顔を上げる。
「うふふふ・・・私たちは狼人間なの。兄が彼女を気に入ったのよ。彼女はもう狼人間の仲間。兄のメスとして生まれ変わったの」
「狼・・・人間・・・」
俺は何が真実なのかもうわからない。
目の前で起こっていることは本当なのか?
妻は・・・サリーナはもう人間じゃなくなったというのか?
「うふふふ・・・彼女を取り戻しにきたのは立派よ。でももうあきらめたほうがいいわ。彼女はもう兄のメスとしての気持ちしかないの。あなたのことはもうどうでもよくなっているわ」
「そんな・・・」
「でも心配しないで。今度は私があなたのメスになってあげる。あなたのこと気に入ったわ。私といっしょになりましょう」
「えっ?」
俺が彼女が何を言ったのか理解する前に、彼女は再び俺のものを口にする。
うわ・・・
さっきまでは気づいていなかったが、なんて気持ちがいいんだ。
こんなフェラチオは今まで経験がない。
たまらない。
俺の股間はこんな状況にもかかわらず反応し、むくむくと屹立する。
「うふふ・・・これでよし」
彼女は下着を脱ぎ捨てると、イスに座る俺の上からまたがるように座ってくる。
そして俺のそそり立ったものを彼女の中へと導いた。
ああ・・・
なんてこった・・・
妻の・・・サリーナの目の前で、俺も別の女性とセックスしているではないか・・・
だがなんという快感・・・
気持ちいい・・・
なんだか力がみなぎってくる感じだ・・・
ああ・・・
世界が・・・
世界が変わっていく・・・

                   ******

「いらっしゃいませ、こんばんは。うふふふふ・・・」
店に入ってきたのがトニーだとわかると、すぐに彼女の表情がうっとりとしたものになる。
「ああん・・・トニー・・・待ってたわぁ・・・」
いそいそと彼の元へ行くと、彼に腕と片足を絡め、濃厚なキスを味わっていく。
サリーナは彼のメスだ。
いずれ彼の子を孕み、産むことになるのだろう。
少し複雑な気持ちだが、そうなってしまったものは仕方がない。
「ふふふふ、彼と浮気していたんじゃないか?」
「ああん、そんなことないに決まっているでしょ。彼はイザベラのものですもの。それに、私はもう身も心もあなたのものよ、トニー」
「そうかい? じゃあ、食事にでも行こうか。この町の郊外にはまだまだ獲物がいっぱいいる」
「狩りに行くのね。うれしいわ」
目を輝かせているサリーナ。
以前の弱弱しさは姿を潜め、野性味あふれる生気に満ちている。

「ハイ、オスカー」
トニーといっしょにやってくるイザベラ。
俺は彼女を抱き寄せると、その口にキスをする。
かわいい俺のメス狼。
猛々しさを持つその姿は彼女にふさわしい。
「私たちも食事に行きましょう」
そういって俺に腕を絡めてくるイザベラ。
失ったものもあったが得たものもあった。
そして、俺は今とても気分がいい。
外は満月。
俺たちの世界だ。
俺はイザベラとともに店の外に出ると、夜空に向かって思い切り吠え声を上げるのだった。

END
  1. 2015/07/18(土) 21:11:53|
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遠吠え (前)

今日明日で10年更新達成記念&400万ヒット記念SS第一弾ということで、短編オリジナルSSを一本投下します。

タイトルは「遠吠え」

悪堕ちという面ではちょっと物足りないかもしれませんがお楽しみいただければと思います。
あと寝取られ注意です。

それではどうぞ。


遠吠え

「あなた・・・」
妻のサリーナが青ざめた顔をして俺を呼ぶ。
店の表に止まったピックアップトラックに、俺はなぜ妻が青い顔をしているのかがすぐにわかった。
俺は妻に店の奥に行っているように言う。
妻が店の奥に入るのとほぼ同時に、ピックアップトラックから降りてきた男が店の入り口を開けて入ってきた。

「いらっしゃい」
俺は努めてにこやかに出迎える。
一応客は客だ。
うちのような小さな雑貨屋では、来てくれる客は大事にするしかない。
もっとも、こいつ一人来なくなってもかまわないと言えばかまわないんだが・・・

男はカウンターに俺しかいないのを見て舌打ちをする。
そして店の奥の部屋に通じるドアを忌々しげに見つめていた。
がっしりした体格の男で、いかにも農場での力仕事をやっているという感じの男だ。
穿き古されたジーンズと色あせたシャツがその肉体を覆っている。

「今日は何をお求めで?」
「ん・・・ああ・・・」
俺には興味がないように一瞥をくれてくるだけ。
残念だったな。
あいにくお前の目的のモノは先ほど店の奥に仕舞ったばかりだ。
お前が帰るまで再び出すつもりはないよ。

男は少しの間何かを探すふりをして店の中をうろつき、妻が出てくるのを待っている。
だが、表に新たな車が止まった音が聞こえ、それが保安官事務所のパトロールカーだとわかると、棚から適当に二つ三つ商品を持って来た。
「1ドル45セントになります」
「・・・・・・」
男は無言で金を置く。
それと同時に、店に制服姿の保安官補が入ってきた。
少し恰幅のよい赤ら顔に広いつばが全周に広がったキャンペーンハットを被っている。
「よぉ!」
「いらっしゃい、ディブ」
にこやかに俺に手を上げてくる保安官補に、俺も思わず笑顔になる。
それと入れ替わるように、男は俺が紙袋に入れた商品をひったくるようにして受け取り、さっさとドアを開けて店の外へと出て行った。
ふう・・・やれやれだ。
ディブが来てくれて助かったよ。

「助かったよ、ディブ」
「ん? なんかあったのか?」
お目当ての商品を物色しながら俺のほうを向きもしないが、ディブはちゃんと俺の言葉を聞いている。
彼はこのあたりの郡保安官事務所の保安官補であり、この村の担当だ。
いつもお昼ごろにはうちに来て、妻の手作りのドーナツを買っていってくれるのだ。
「いや、さっきの客なんだがね」
「ああ、あんまり見かけん顔だな」
「二ヶ月ほど前に村外れの農場に越してきた連中の一人らしいんだが・・・」
「ああ、あそこの。それで奴がどうかしたのか?」
商品を棚から手に取り、抱えるようにして振り向くディブ。
おいおい、お菓子ばかりじゃないか?
「実は、うちの妻に色目を使うんで困っているんだ。いやらしそうな目つきで見つめてくるらしくて、妻が怖がってしまって・・・」
まるで舌なめずりでもするような表情で見てくるらしい。
俺が仕入れなどで外出していると、いつ襲われるかと恐怖さえ感じると言うのだ。
それでここ数日は妻には奴が来たときには店に出ないようにさせているんだが・・・
「なんだって? 奥さんにか? そいつはけしからんな」
ディブの表情が険しくなる。
「ああ・・・」
「よしわかった。今度巡回に行ったときに俺がそれとなく言っておいてやろう。ところで」
ディブの目がカウンターに釘付けになっている。
「俺が楽しみにしていたドーナツが無いのも、奴のせいなのか?」
「ああ、こりゃすまない。おーい、サリーナ。ディブにドーナツを」
俺は店の奥に声をかける。
今日は午前中に客が多かったせいで、ドーナツは予定の数が出てしまったんだ。
もちろんディブの分はちゃんと妻が取っておいてあるはずだが。

「いらっしゃい、ラウエルさん。はい、ドーナツ。揚げたてよ」
店の奥から妻が湯気の立つドーナツを持ってくる。
「いやぁ奥さん、ありがとう。この店のこいつを食べないと昼を食った気がしないんでね」
ディブがにこやかにドーナツの包みを受け取る。
俺は会計を済ませると、店から出て行くディブを見送った。
彼が今回のことを気にしてくれるのであれば、何とか問題は済みそうだ。
俺は妻にそのことを言って、安心するように言ってやった。

                   ******

ディブがあの男に何か言ってくれたおかげなのか、あれから男は店に姿を見せなくなった。
売り上げ的にはほんのほんのちょっとだけ落ちたが、もとより気にするほどのことではない。
むしろあの男が来なくなったことで、妻も気が楽になったらしく、にこやかに接客をしてくれている。
ディブは毎日のようにドーナツを買いに来てくれ、妻も作る張り合いがあるらしい。
ありがたいことである。

                   ******

ん?
何だ?
俺はふと夜中に目が覚めた。
何か、物音か気配のようなものを感じたのだ。
いったい・・・

「ゴフッ!」
ベッドから躰を起こしたところいきなり頭に衝撃を受ける。
「うっ、ううっ・・・」
必死に遠くなりそうな意識を引き戻し、何事が起きたのかを確認しようとする。
「あっ、いやっ! 何を! やめてっ!」
サリーナの声だ!
くそっ、何がどうなっている?
暗くてよくわからん・・・
俺は窓のカーテンを乱暴に開く。
月明かりが煌々と差し込んできて、室内が少し明るくなる。
「あっ、お、お前は!」
見ると、隣のベッドから妻を抱えあげた男が立っていた。
しばらく店に顔を見せなかったあの男だ。
「貴様! 妻に何をする!」
俺は男に怒鳴りつける。
くそっ、後頭部がずきずきして躰が思うように動かない。
男は妻の気を失わせたのか、ぐったりとした妻を抱きかかえながら、俺のほうを見て笑みを浮かべる。
「この女、気に入った。俺のものにする」
「なんだ・・・と」
何を言ってるんだ、こいつ!
「ふざけるな! 妻を置いて出て行け! さもないと・・・」
俺はベッド脇のチェストに目をやる。
あそこには拳銃があるのだ。
拳銃さえ取り出せれば・・・

「ふっ」
男は俺に一瞥をくれると、もはや眼中にないとでも言うのか、妻を抱えたまま後ろを向く。
そのままこの部屋を出ようというのだろう。
そうはさせるか!
俺はチェストに飛びつき、拳銃を取り出そうとした。
「うがっ!」
引き出しを開けようとしたその瞬間、俺は再び背中に強烈な痛みを受ける。
「な・・・」
床に崩れ落ち、急速に意識が遠くなる中で、俺は何が起こったのかを確認する。
「兄さん、こいつ殺さなくていいの?」
「かまわん。この女を奪い返しに来ることもあるまい。行くぞ、イザベラ」
「OK」
閉ざされていく視界の中で部屋を出て行く男女。
まさかもう一人いたとは・・・
まったく気がつかなかった・・・
サリーナ・・・
すぐ・・・助けに・・・行く・・・

                   ******

「う・・・」
頭がずきずきする。
起き上がるとふらふらする。
もう朝・・・いや、昼近いじゃないか。
なんてこった。
サリーナを・・・サリーナを助けに行かなきゃ・・・
俺はふらつく脚をなだめながら、店に出る。
ちきしょう!
サリーナに手を出したら撃ち殺してやる。
と、いかんいかん。
拳銃を忘れるところだった。
俺は部屋に戻ると、チェストから拳銃を取り出し、予備の弾もポケットに入れる。
六連発の回転弾倉式拳銃なので、予備の弾はそう使うことはないだろうが、用心に越したことはない。

俺は家を出ると、車のエンジンをかける。
やつは確か郊外の農場だったな。
待ってろサリーナ。
俺は車に乗り込むとアクセルを踏む。
いつものように調子よく走り出す車。
20世紀の偉大な発明品だ。
馬なんかよりもはるかに早い。

農場に向かって車を走らせていると、向かい側から一台の車が土ぼこりを立てながら走ってくる。
ありがたい。
あれはディブのパトロールカーだ。
昼近くなったので、俺の店に来るつもりなんだ。

俺は窓から手と顔を出してディブの車を呼び止める。
ディブもすぐに気づいてくれたようで、車を止めてくれた。
「よう、オスカー。急いでいるようだがどこへ行くんだ」
「ディブ、いいところに来てくれた。大変なんだ。いっしょに来てくれ」
俺は窓から顔を出したディブに、いっしょに来てくれるように頼み込む。
妻を取り戻すのに、これ以上はない援軍だ。
あいつら、誘拐犯としてディブに突き出してやる。

「どうした? 何があったんだ?」
俺の切羽詰った表情に、ディブも気がついてくれたのか、彼の表情も真剣みを帯びる。
「あいつが、あいつが妻を連れ去ったんだ。妻があいつに連れて行かれた!」
「何? 奥さんがどうしたって?」
「農場のやつだ。あの男が昨晩俺の家に押し入って、妻を連れて行ったんだよ!」
「何だって? 本当か?」
保安官というものは何でも疑わないと気がすまないのか?
こんなときに嘘を言ってどうなるというんだ。
「嘘じゃない! 本当だ! 早くしないと妻が!」
「わかった。連れて行ったのは農場のやつで間違いないんだな?」
「間違いない。顔もしっかり見た。妹だかもいっしょにいた」
「よし、ついて来い」
ディブはパトロールカーをUターンさせると、そのまま俺の車の前を走って先導する。
ありがたい。
俺はすぐに車をディブのパトロールカーの後ろにつけて走らせた。

農場は寂れた感じで静かだった。
ディブと俺はパトロールカーと車を適当に止め、外に出る。
ディブはパトロールカーからライフルを取り出した。
俺も拳銃をズボンのベルトに刺し、ディブのあとについていく。
「まあ、まずは俺が話をして、奥さんがいるかどうか確かめる。君は落ち着いて何もするな。いいな」
ディブが俺にそういうのを、俺は素直にうなずく。
とにかく妻さえ無事なら、あとはディブに任せればいい。
誘拐だろうが住居侵入だろうが悪いようにはされないだろう。
ここのやつらも出て行くに違いない。

「エランドさん、トニー・エランドさん」
農場の一角にある住宅の入り口をたたくディブ。
「いないんですか? エランドさん」
何度かドアをノックするも返事がない。
ガレージには店に来るときに乗ってくるピックアップトラックがあるので、いるとは思うのだが・・・
「エランドさん! 保安官だ! 聞きたいことがあるんだ! いないのか?」
返答がないことにディブもだんだんといらだってきたようだ。
「くそっ」
そういってドアノブをまわすディブ。
「ん?」
すると、ドアは何の抵抗もなく開いた。
「開いている?」
思わずディブは俺のほうを向き、二人で顔を見合わせる。
「こうなったらとにかく入ってみよう。何かあったのかも知れん」
ディブはそういってドアをさらに開け、中に入る。
俺もそのあとに続き、家の中に入ることにした。

(続く)
  1. 2015/07/17(金) 21:22:38|
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退魔少女の母親をかぼちゃ頭にするだけの簡単なお仕事

今日はハロウィンですね。
と言うわけでハロウィンにちなんだ(?) 超短編SSを一本投下しますー。
お楽しみいただけましたら幸いです。


退魔少女の母親をかぼちゃ頭にするだけの簡単なお仕事

「ターッ!」
少女が奇妙な杖を振り上げる。
やや「く」の字に折れ曲がった杖は少女の背丈ほどもあり、その一番上に付いている青く輝く玉から稲妻のようなものが発射される。
それは狙いたがわず少女が相対している虎のようなものに向かって伸びていき、その虎を轟音とともに燃え上がらせた。
「ウギャァァァァァ!」
少女との戦いで疲れ果てていた虎はもはやなすすべはなく、全身が燃え上がったことで止めを刺されたのか、断末魔の叫びを上げて倒れていく。
やがて虎は燃え尽き、あとにはわずかなカスのような物だけが残るだけだった。

「ふう・・・」
少女は一息つくと杖を振って変身を解く。
白を基調にしたミニスカート型コスチュームから、普通の服へと戻っていく。
バイザー付きヘルメットのようなものに覆われていた頭部も、ごく普通のあどけない少女の顔へと戻っていた。
少女は最後に持っていた杖を一振りして光の粒子に戻すと、何事もなかったかのように去っていく。
たった今までそこで死闘が繰り広げられていたなどとは、誰も夢にも思わないに違いない。

だが、その少女と虎のようなものとの戦いを見ていたものは確かにいた。
『妖虎がやられたようだな・・・』
『クククク・・・奴は我らの中では小者・・・などと言っていいものではないぞ』
『ああ・・・あの少女、ますます強くなっている・・・』
『どうする? 妖虎ですら歯が立たぬとなると、そうそう手出しはできなくなる。正面から向かっても返り討ちにされるのが落ちだ』
『ぬう・・・退魔少女、恐るべし・・・』
『むう・・・』
『ククククク・・・』
『貴様・・・何がおかしい?』
『ククククク・・・いや、なに、ちょっとしたアイディアを思いついたのだ。あの少女のことは俺に任せてくれないか?』
『ほう・・・自信がありそうだな』
『お前のその頭で何ができるというのだ?』
『まあ、待て。やらせてみようではないか』
『うむ、あの少女のことはお前に任せる。好きにするがいい、ジャック』
『ククククク・・・心得た』
そこで複数の者たちが行っていた会話は途切れ、一つの気配が消えていった。

                   ******

「ただいまぁ」
少女が玄関を開けて入ってくる。
「おかえりなさい」
奥の部屋から母親が顔を出す。
にこやかな笑顔が美しい女性だ。
「ただいま、お母さん」
少女は先ほどまでの死闘のことなどおくびにも出さず、まるで友達の家ででも遊んできたかのような表情だ。
「おかえりなさい、恵美(めぐみ)。帰ってきてくれてちょうどよかったわ。料理酒の買い置きを切らしてしまっていたのを忘れていたの。ちょっと買いに行ってくるからお留守番お願いね」
エプロン姿でいそいそと財布と買い物袋を手に取る母。
「ハーイ、いってらっしゃーい」
少女はちょっと苦笑すると、入れ替わりに玄関を出て行く母を見送る。
なんていうことはないありふれた日常の光景だ。
このありふれた光景こそ少女が守りたいと思うものだった。

「はぁ・・・全くいつもながらドジだわぁ・・・買い置きを切らしちゃっているなんて・・・」
ため息をつきながら近所のスーパーへと急ぐ。
せっかく今日は美味しい肉じゃがを作ろうと思っていたのに・・・
そのための準備はしっかりしていたはずなのだ。
牛肉、ジャガイモ、にんじん、タマネギ、鞘インゲン・・・
いっけない!
白滝を買うのを忘れていたわぁ!
はあ・・・
どうして私っていつもこうなのかしら・・・
ドジってばかりであの人も恵美も私に愛想を尽かしちゃう・・・
ドジを治すにはどうしたらいいのかしら・・・
そんなことを考えながら足早にスーパーに向かう少女の母。

「あら?」
ふと見ると、通りに沿った塀の上になにやら大きなオレンジ色の丸い物体がごろんと置いてある。
形から言ってどうやら巨大なかぼちゃのようだが、奇妙なことに、そのかぼちゃには大きな丸い目玉のような穴が二つに、ぎざぎざだが両端がつり上がって笑っているように見える口とがくり抜かれている。
なんとなく雪ダルマの頭の部分のようだと言えないこともない。
「ああ、そういえばもうすぐハロウィンだったわね。かぼちゃのランタンだわ。この家の方が作ったのかしら」
巨大なかぼちゃのランタンにほほえましさを感じる彼女。
最近流行ってきたと言っていい西洋の行事だが、そのおかげでこのかぼちゃのランタンもよく見かけるようになってきたものだ。
とはいえ、こんなふうに通りに沿った塀の上に一個だけごろんと置いてあると言うのも変かもしれない。
なんとなく気になった彼女は、そのままそのかぼちゃランタンのところへと近づいていく。

「変だわ・・・あのかぼちゃランタン・・・」
気が付くと、そのかぼちゃランタンは常に彼女のほうを見ているのだ。
遠くから歩いてきたときも、こうやって近くに寄ってきたときも、常にその丸い目は彼女のほうを向いている。
塀の上に置かれただけのかぼちゃランタンにそんなことができるだろうか?
まるで・・・
まるで自分をじっとみているかのようではないか。
そう思いながらも彼女は近づくのをやめない。
まるでそのかぼちゃランタンの目に吸い寄せられているかのようだ。
じょじょに近づいた彼女は、ついにかぼちゃランタンの前に立つ。
スーパーに急いでいたはずなのに、彼女の足はそこで止まる。
そして、正面からかぼちゃランタンと向き合うと、おもむろに手にとって持ち上げた。
「結構重いのね。見たところ普通のかぼちゃのよう。でも大きいわ。すっぽりと被れる感じね」
ずっしりとした重さがあるかぼちゃランタンは、下側に丸く穴が開けられ、そこから中身がくり抜かれている。
その穴がなんとなく頭に被れるような感じに見えたのだ。

「被れ・・・る・・・」
ふと彼女の目と手に持ったかぼちゃランタンの目が合う。
単にくり抜かれただけの丸い穴だが、なぜか彼女はその穴から目が離せなくなった。
やがて、彼女はゆっくりと手にしたかぼちゃランタンの向きを変える。
そして両手でささげ持つようにかぼちゃランタンを高く掲げると、ゆっくりと自分の頭に被っていった。
「は・・・はああ・・・」
かぼちゃランタンはまるであつらえたかのように彼女の頭にすっぽりと被さると、その口から彼女の声が漏れてくる。
「ああ・・・あああああ・・・」
両手をだらんとぶら下げて小刻みに躰を震わせる彼女。
「あああ・・・いやぁ・・・ゃぁ・・・」
がっくりとひざを着いてしまう彼女。
その彼女の躰が、じょじょに黒い雲のようなものに覆われていく。
その黒い雲は彼女の躰にまとわりつくと、まるで液状化したかのように張り付いて、彼女の躰にぴったりとした全身タイツのような衣装へと変貌する。
セーターにスカートを身に着け、その上からエプロンをしていた彼女の躰が、ボディラインも露わな黒い全身タイツのような衣装へと変ったのだ。
そして、雲の一部は彼女の背中に張り付き、長いマントへと変わっていく。
やがて彼女の首から下は、黒い全身タイツに背中からマントを羽織った姿に変化した。

ゆっくりと立ち上がる彼女。
頭部のかぼちゃランタンのくり抜かれた目の奥に赤い光が灯る。
先ほどまで丸かった目は、やや上部が欠けて、意地悪そうな笑みへと変る。
「うふ・・・うふふふふ・・・」
その口から笑い声が漏れてくる。
先ほどまでとはうって変わった冷酷な笑い声だ。
「うふふふふ・・・なんだかお腹が空いたわ。狩りに行かなくちゃ・・・」
彼女はマントの前を閉じると、全身から黒い雲を湧き立たせ、その中へと消えていく。
やがて黒雲が晴れると、通りには彼女の持っていた買い物袋だけが落ちていた。

                    ******

夕暮れの中、家路を急ぐ一人の女性。
会社帰りのOLなのか、タイトスカートのビジネススーツにショルダーバックを下げ、いつもどおりにやや空腹を抱えながら慣れた自宅への道を歩いていた。
『うふふふふ・・・』
どこからともなく女性の笑い声が聞こえてくる。
「えっ?」
OLはふと足を止めて周囲を見るが、人気のないさびしい道には誰もいない。
立ち並ぶ家々からの声でもなさそうだ。
気のせいかと思って再び歩き始めたOLの前に、突然黒雲が湧き起こる。
「えっ?」
「うふふふふ・・・見つけたわ。美味しそうな生きのいい魂を・・・」
OLの目の前で黒雲が晴れていくと、そこにはマントを羽織って黒い全身タイツに身を包み、頭には笑みを浮かべたようにくり抜かれた巨大なかぼちゃを載せた女性が立っていた。
「ひっ?」
突然現れた不気味な人影にOLは思わず声を上げる。
「うふふふふ・・・お前の魂をお寄こし!」
かぼちゃ頭の女性は両手に死神の持つような長い柄のカマを出現させると、それをOLめがけて振り下ろす。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
OLの悲鳴が上がり、カマはOLの躰を一閃する。
すると、OLの躰は見た目には全く何の傷もつかなかったように見えたが、淡いオレンジ色の光の玉のようなものがOLの胸から現れ、ふわふわとOLを離れてかぼちゃ頭の女性の手に渡る。
「うふふふふ・・・美味しそうな魂。いただきます」
かぼちゃ頭の女性はその淡いオレンジ色の光の玉を、くり抜かれた口のところから吸い込むと、満足そうに手の甲で口をぬぐった。
「うふふふふ・・・美味しい。やはり生きのいい魂は格別の味だわ」
かぼちゃ頭の女性がそういうと、OLの躰がどさりと倒れた。
「ご馳走様。美味しかったわよ。うふふふふ・・・」
かぼちゃ頭の女性は、その内部で赤く燃える目で倒れたOLを見下ろすと、現れたときと同様に黒雲を湧き起こしてその中に消えていく。
あとにはカッと目を見開いたOLの死体だけが残されていた。

『ククククク・・・』
その様子を見ていたものがいる。
先ほど姿を現したかぼちゃ頭の女性と同じように、頭にかぼちゃのランタンを載せ、どこかみすぼらしい姿をした男だ。
彼のことを人々は「ジャック・オー・ランタン」と呼ぶ。
『ククククク・・・これでいい。これであの女は人間の魂を口にした。もはや身も心も魔物と化し、わがしもべとなっただろう』
くり抜かれた口に笑みが浮かんでいる。
『ククククク・・・さあ、退魔少女よ、今度は自らの母親が相手だ。うまく戦えるかな? ククククク・・・』
ジャックは今頃何食わぬ顔で自宅に戻ったであろう退魔少女の母親のことを思い浮かべる。
そしてこれから苦悩することになるであろう退魔少女を、新しいしもべとともにどうやっていたぶるかを想像し、楽しみに思うのだった。

END
  1. 2014/10/31(金) 21:02:12|
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学園の吸血鬼(2)

昨日の続きです。
矢浜先生の運命やいかに・・・


「ここに・・・ここにあったはず・・・」
放課後になって保健室に戻ってきた私は、机の中を引っ掻き回す。
確か生徒がイタリア旅行のお土産といってくれたのがあったはず・・・
その時はさして気にも留めなかったけど、今こうなってみると、見つからないことがいらだってくる。

結局他の先生方に久鬼先生のことを伝えるのはあきらめざるを得なかった。
しゃべろうとしても、何かに書いて渡そうとしても、躰が言うことを聞かなくなり、勝手に違う言葉を発したり、違う文字を書いてしまうのだ。
これはもう久鬼先生に何かされたとしか思えない。
久鬼先生は間違いなく吸血鬼なのだ。
そして学園長もすでに久鬼先生のしもべにされてしまったのだ。
このままでは私も久鬼先生のしもべにされてしまう・・・

「あった」
私は机の引き出しの奥にあった十字架を取り出した。
生徒からもらったものだけど、確か吸血鬼は十字架に弱いはず。
血を吸われそうになったときにこれを突きつけてやれば・・・
久鬼先生だってひるむに違いない。
その隙を突いて逃げ出すことができれば血を吸われずにすむわ。
私は手の中の小さな十字架が私を救ってくれる魔法のアイテムのように思えた。

日の暮れた校舎。
私は帰り支度を済ませたにもかかわらず、保健室にたたずんでいる。
本当は一刻も早く帰りたいはずなのに、足が玄関へ向かわない。
それどころか、心のどこかで久鬼先生が来るのを今か今かと待ちわびているのだ。
久鬼先生は吸血鬼。
彼が来たら私は血を吸われてしまうかもしれない。
でも・・・
心の片隅でそれを望んでいる自分がいることに気がついていた。

いけない。
私はぐっと手の中にある物を握り締める。
手の中に納まるほどの小さな十字架。
でも、これさえあれば・・・
久鬼先生を追い払って学園を正常な状態に戻せるに違いない。
屈してはだめ。
気をしっかり持つのよ、矢浜皐月(さつき)。

「待たせたかな?」
外からの月明かりが差し込む暗闇の保健室。
扉が開いて人影が入ってきた。
ドクン・・・
その姿を見ただけで心臓が跳ねる。
たった一回血を吸われただけなのに、なんだか目の前の人物にひれ伏したくなりそうな思いがよぎる。
私は再度手の中の十字架に集中する。
これを突きつければいくらなんでも無事ではすまないはず。
小説でも映画でも吸血鬼は十字架に弱いもの。
久鬼先生だってきっと・・・

「矢浜先生?」
「はい・・・」
私は久鬼先生に応えるように一歩前に出る。
久鬼先生がにやっと笑い、唇から牙がのぞく。
あの牙が私ののどに突き立てられたんだわ。
私は身震いを必死で隠し、従順な振りをして久鬼先生が近寄るのを待つ。

「ククククク・・・」
ゆっくりと近寄ってきた久鬼先生がぴたっと立ち止まり、含み笑いを漏らす。
「何かたくらんでいますね?」
私は息をのんだ。
私がやろうとしていたことは見透かされていたの?
「まだ一度しか吸っていないのに、あんまり従順に振舞われても疑念を抱くだけですよ、矢浜先生」
「そ、そんな・・・」
やむをえない。
まだ位置は遠いけどこれを見せれば。
「えーい!」
私は意を決して十字架を久鬼先生に突きつけた。

「ククッ・・・クククク・・・なるほど」
「えっ?」
私は唖然とした。
久鬼先生は十字架を見ても平然としているのだ。
なぜ?
どうして?
私は何がなんだかわからない。

「ククククク・・・だめですよ、矢浜先生。自分で入信してもいない宗教のシンボルを見せられても、私は痛くもかゆくもありません」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる久鬼先生。
「そ、そんな・・・」
私は十字架を突き出したまま動くことができない。
「日本はいい国です。あの宗教がほとんど入信されてない。十字架に効果をもたせることのできる人間がほとんどいないのですからねぇ」
「な・・・なんてこと・・・」
まさか十字架に信心が必要だなんて思ってもみなかった・・・
ど、どうしたらいいの・・・

「いけない娘だ。さあ、こちらに来なさい」
久鬼先生の目が赤く輝く。
いけない・・・
あの目を見てしまっては・・・
でも私の足は私の意に反して歩き出す。
私は握っていた十字架をその場に落とし、ふらふらと久鬼先生のほうへ歩いていく。
だめ・・・だめなのに・・・
そう思うけど躰は言うことを聞かない。
やがて久鬼先生は私の躰をゆっくりと抱きしめると・・・

                   ******

「はっ」
私はベッドで飛び起きる。
昨日と同じ。
あれが夢でないことは躰のだるさが物語っている。
軽いめまい。
冷んやりする躰。
血が・・・
血が足りなくなっているのかもしれない・・・

ゆっくりと起き上がり、姿見を見る。
首筋のところの呪われた赤い二つの穴。
吸血鬼の噛み痕。
私は二回目を吸われてしまった・・・
確か三度吸われれば・・・私は吸血鬼になって久鬼先生の言いなりになるらしい。
そんなことになりはしない。
吸血鬼になんてなってたまるものか。
でも・・・
でもどうしたらいいのか・・・

「おはようございます」
いつもと同じく学校に出勤する。
朝起きたときには今日は学校を休もうかとも思っていたはずなのに、いつの間にか身支度を整えて学校に向かっていた。
それどころか、この職員室に入るまで久鬼先生のことを誰かに相談しようとかすら考えていなかったことに愕然とする。
もしかして、私の思考はすでに侵され、吸血鬼としての思考になり始めているんじゃないだろうか。
どうしたら・・・
どうしたらいいのだろう・・・

「おはようございます、矢浜先生」
突然声をかけられ、私は息をのむ。
「どうしました、矢浜先生? 顔色が悪いですよ?」
「小野寺・・・先生」
私は思わずホッとした。
「大丈夫です。今朝は少し貧血気味で・・・」
「それはいけませんな。お大事に」
「ありがとうございます」
私は小野寺先生に頭を下げる。
こうして心配してくれるのはありがたいこと。
「最近は生徒の中にも貧血の娘が多いみたいですねぇ」
「そうなんですよ。今の娘は朝食をとらない娘が多いみたいですからね」
小野寺先生に数学の石沢先生がうんうんとうなずいている。
そうじゃない・・・
貧血の娘が多いのは違う理由だわ。
以前は私も朝食を食べないからだと思っていた。
でも今は違う。
貧血の娘は久鬼先生に血を吸われたか、彼に吸血鬼にされた娘に吸われたかに違いないのよ。

「おはようございます、皆さん」
職員室に久鬼先生が入ってくる。
それだけで何か違う空気が職員室に広がったような気がする。
何とかしなければ・・・
久鬼先生を何とかしなければ・・・
私は手をぎゅっと握り締めた。

                   ******

「先生」
友人に肩を貸しながら体操服姿の女子生徒が保健室に入ってくる。
「どうしたの?」
見ると彼女に肩を借りた女子生徒のひざが赤くなっている。
「体育の授業でひざをすりむいちゃって・・・」
「それは災難だったわね。そこに座って。すぐに手当してあげる」
私は怪我した女子生徒を椅子に座らせると、薬棚から消毒液と傷薬、包帯を取り出した。

「痛たた」
彼女のひざからは血がにじんでいる。
激しく出血しているわけではないが、少しずつ流れて白い靴下に届きそうだ。
少し暗い赤い血。
ひざからにじみ出ているわ。
止血しなくちゃ・・・
オイシソウダシ・・・

「せ、先生?」
口に広がる甘い血の味。
なんて美味しいのかしら・・・
「先生?」
「えっ? あっ?」
私の目の前には血がにじんだ女子生徒のひざ。
私は・・・
私はいったい?
私は彼女のひざの血を舐めてしまったというの?

「先生・・・」
彼女も付き添いの娘も変な表情で私を見る。
そりゃあひざの血を舐められたりしたら驚くのも当然だわ。
「あ・・・その・・・こうすると血が早く止まるのよ・・・」
嘘だわ・・・
そんなの誰も信じるはずがない・・・
「あ、あの・・・ごめんね。あとはお願いしてもいいかしら。ちょっと気分が悪くなって・・・」
「は、はい・・・」
付き添いの娘に包帯を手渡すと、私はいたたまれなくなって保健室を飛び出した。

もうだめだ・・・
このままではだめだ。
私自身がおかしくなってしまう。
久鬼先生を・・・
久鬼先生を何とかしなくては・・・

私は工作室に飛び込むと、工作材料の丸棒を手に取る。
そして準備室にある工作道具の中から木工用のナイフを取り出すと、丸棒を適当な長さにして先を尖らせる。
いったい自分が何をやっているのかもうわからないけど、久鬼先生をこれ以上野放しにはできない。
吸血鬼は胸に杭をさすと滅びるはず。
十字架がだめでも杭ならば・・・
杭ならば・・・
杭ならばきっと・・・

                   ******

「ふふふふ・・・今晩はあなたのほうから来ましたか」
「はい・・・ご主人様」
私は静かにそう応える。
なんだか不思議・・・
心と躰がふわふわする感じ。
久鬼先生を見ているだけでとても幸せな気分になってしまう。
これが久鬼先生の魔力なの?
でも、そんなのもうどうでもいい。

私はゆっくりと久鬼先生に近づいていく。
外から差し込む月明かりが、真っ暗な教室の中を照らしこむ。
私は背中に隠した丸棒の杭を、久鬼先生に気付かれないように気をつける。
この杭を久鬼先生の胸に突き立てれば・・・

「ククククク・・・今日は何を用意したのですか? 矢浜先生」
「えっ?」
「ふふ・・・あなたの目は死んでない。いまだしっかりと意思ある者の目だ。きっと私に何か仕掛けるつもりでしょう? たとえば・・・木で作った杭とか・・・」
私は思わずひざから崩れ落ちそうになった。
見破られている・・・
私のやろうとしたことはすべて久鬼先生には筒抜けだった・・・
私が杭を用意したことも知っていたんだわ・・・

「そ、そんなことありませんわ、ご主人様」
私は必死で冷静さを保ち、久鬼先生にそう言う。
今は少しでも久鬼先生を信用させ、杭を突き立てるチャンスを・・・
「無駄ですよ、矢浜先生。私に何かしようとしても無駄なこと。あなたはもう私のものだ。だから私に何かしようとしても、私には伝わってしまうんです」
「そ、そんな・・・」
そんなことって・・・

「さあ、来なさい。今日であなたは三回目。すべての血を吸い尽くして私のしもべにしてあげましょう。明日からは心から私のことをご主人様と呼ぶようになりますよ」
「う・・・あ・・・」
いけない・・・
彼の目を見ては・・・
私はすぐに彼から目をそらそうとした。
でもだめだった。
私の目はしっかり彼の目を見つめ、彼の声を甘美な音楽のように聞きほれている。
もう彼の言いなりになっていたのだ。

「さあ、背後に隠したものを捨てなさい。そして私の胸に抱かれるのです」
「はい・・・」
私は隠し持っていた杭を捨て、ゆっくりと久鬼先生のもとに歩み寄る。
にやっと笑った久鬼先生の口持ちの鋭い牙が月明かりに輝いている。
あの牙がもうすぐ私ののどに突きたてられるのだ。
そうすれば・・・
私はもう何も考えることもなく久鬼先生のしもべとなる。
久鬼先生の言うことに従い、久鬼先生のために尽くす。
ああ・・・
先ほどまではそれが恐ろしいことだったはずなのに・・・
今ではそれを私は待ち望んでいるわ。
ご主人様・・・
早く私の血を飲み干してくださいませ・・・

ご主人様の胸に寄り添う。
まるでキスを受けるように私のあごが持ち上げられ、端整な久鬼先生の顔が私に覆いかぶさってくる。
つと首筋に痛みが走り、躰の熱がそこからじょじょに吸われていく。
手足が急激に冷えていき、とても寒くなってくる。
少しでも温めたくてご主人様の首に手を回そうとするけど、どうにも躰がだるくなって力が入らない。
仕方がないから白衣のポケットに入れて手を温める。

「グフッ!」
ズシッとした重い手ごたえが響いてくる。
冷たくなっていた手に熱いものが降りかかってくる。
「な・・・何・・・を」
首筋に突き立てられていた牙は離れ、その口から驚愕したような言葉が漏れてくる。
私は自分のやったことに驚きながらも、握ったナイフをさらに久鬼先生の躰に押し付けた。

白衣のポケットの中にあった木工用のナイフ。
ポケットの中に入れていたのをすっかり忘れていたわ。
そのナイフの感触に気がついたとき、私はそれが何かを思い出し、ポケットの中で鞘をはずして親指を傷付けたのだ。
その痛みが私を正気に戻し、私はナイフを取り出して久鬼先生に突き刺したのだ。

「矢浜・・・先生・・・いけませんな・・・そんなものを隠し持っていては」
私を突き飛ばすようにして自らに刺さったナイフを抜く久鬼先生。
ナイフが刺さったわき腹からは、血がシャワーのように飛び散って、私の頭から降りかかる。
私は床に尻餅をつき、返り血で白衣を濡らしながらも、ナイフを久鬼先生に突きつける。
「来ないで・・・来ないでください。この学校から出て行って!」
「クク・・・ククククク・・・」
「えっ?」
いったい何がおかしいのか?
わき腹を刺されて痛みを感じていないのか?
私は戸惑い、立ち上がることを忘れていた。

「ククククク・・・まさか本気でそんなもので私を倒せると思っていたわけじゃないでしょうね?」
「えっ?」
ど、どういうこと?
「やれやれ・・・スーツが台無しじゃないですか。私のしもべになった暁には弁償してもらいますよ」
「ま、まさか・・・」
私は驚いた。
ナイフで切り裂かれた服の下からはもう流血が止まっている。
それどころか傷さえ塞がりかけているのだ。
「そんな・・・」
「今のでだいぶ血が流れてしまったな。あなたの血で補充してもらわなくては。もっとも・・・あなたの血ももう少ししか残っていないでしょうけど・・・ククククク・・・」
ゆっくりとこっちに向かってくる久鬼先生。
「いや、来ないで!」
私はもう一度ナイフをかざす。
だが、すぐに久鬼先生に払いのけられてしまう。
「いけない娘だ・・・しもべにしてたっぷりと可愛がってあげるとしよう・・・」
「いやっ! いやぁぁぁぁぁ!!」

じわじわと近寄ってくる久鬼先生。
ナイフの傷はもう全く無くなっている。
「いやっ! 来ないで!」
必死に床を後ずさる私。
だが、すぐに教室の壁に追い詰められてしまう。
「ククククク・・・逃げ場はありませんよ。矢浜先生」
「ああ・・・」
どうしたら・・・
どうしたらいいの?

そのとき私の目の片隅に何かがチラッと見えた。
何?
私が目だけでそっちを見ると、そこには私がさっき放り投げた丸棒の杭が落ちている。
あれだ!
あれならば・・・
ナイフがだめでもあれならば・・・

私を迎え入れるかのように両手を広げて近づいてくる久鬼先生。
私は一か八か杭に向かって飛び込んだ。
「無駄だ! 逃がしはせん!」
私を捕まえようと久鬼先生も飛び掛ってくる。
お願い・・・
届いて!

ぐっと白衣の襟首をつかまれる。
思わず後ろにのけぞる形になる私。
だが、一瞬早く私の手は丸棒の杭をつかんでいた。
「ええーい!」
私は久鬼先生に引き寄せられるまま、しっかりと握り締めた杭を持ち、躰をねじって思いっきり杭を突き出してやった。

                   ******

「おはようございまーす」
「おはようございまーす、先生」
廊下を歩いている私に教室へ向かう生徒たちが挨拶をしていく。
うふふ・・・
みんなかわいらしい子達ばかり。
今すれ違った子なんてとても美味しそうな首筋をしていたわぁ・・・
うふふふふ・・・
なんだかキスしたくなっちゃうわね。

「おはようございます」
私は職員室に他の先生方に挨拶すると、そのまま学園長室へと向かう。
そしてノックをしてドアを開け、奥の机に座っているお方に笑みを向けた。
「おはようございます。ご主人様」

「おはよう、矢浜先生。気分はどうかな?」
学園長の椅子に座っていらっしゃるご主人様。
「はい。とてもいい気分です。本当に生まれ変わったような気持ちです。ここに来るまで生徒たちの首筋に噛み付きたい衝動をこらえるのに必死でしたわ」
これは本当のこと。
昨晩ご主人様に血を最後の一滴まで吸い尽くしてもらったことで、私はご主人様のしもべとなることができたわ。
もうすごく気持ちよくて、思わず夜の街を歩き回っちゃったぐらい。
夜の静けさと心地よさをどうして今まで気がつかなかったのか。
生徒たちの血がとても美味しそうなのにどうして今まで飲もうと思わなかったのか。
昨日までの私が信じられないぐらい。

「ふふふふ・・・それはよかった。昨日は本当に肝を冷やしましたよ。あなたに杭を打ち込まれるんじゃないかと思いました」
「まあ、矢浜先生がご主人様に対してそんなことを?」
ご主人様の脇に座ってうっとりとご主人様を見上げていた学園長がキッと私をにらみつけてくる。
それも当然のこと。
昨日のことは私自身とんでもないことをしたと思っているのだから。
「申し訳ありませんでしたご主人様。あの時はまだご主人様のしもべとなることがどれほどすばらしいことかを知らなかったものですから」
私はひざまずいて頭を下げる。
どうして私はご主人様に逆らうようなマネをしていたのだろう。
許しがたい愚か者だったわ。

「ふふふふ・・・今はどうなのです? 私に心から従いますか?」
「もちろんです。ご主人様のしもべとしてご主人様のためなら何でもいたします。どうぞ何なりとご命令くださいませ」
そうよ。
私はご主人様の忠実なるしもべ。
ご主人様に従い、ご主人様に尽くすのが私の使命。
ご主人様、どうぞ私にお言葉を・・・

「では、その証を見せなさい」
スッと自らの足を差し出すご主人様。
私はご主人様の前に歩み寄ると、そのままご主人様の靴に舌を這わせていく。
ああ・・・ご主人様の靴をお舐めするなんて・・・
なんて素敵で気持ちがいいのかしら・・・
ご主人様・・・
永遠にお慕い申し上げます・・・
ご主人様・・・

                   ******

「ああ・・・ああん・・・」
「うふふふふ・・・気持ちいいでしょ? 血を吸われる快感は格別のはず」
保健室のベッドに座り、女子生徒を着ている黒マントでやさしく包み込んで、その首筋から甘い血をたっぷりと吸う。
これでこの娘はもう二度目。
あと一回で私の忠実なしもべになるわ。
そうすれば三人目のしもべが完成する。
こうしてどんどんしもべが増えれば、学園はご主人様の思いのまま。
もちろん家畜も飼っておかなくちゃね。
すべての女子生徒がしもべになれるわけじゃない。
ご主人様好みの選ばれた女子生徒だけがしもべになれるのよ。
教師では学園長と私、それに遠野朱音(とおの あかね)先生が夕べ二回目の吸血をされたはず。
遠野先生も明日にはご主人様のしもべに仲間入りね。
仲良くしなくちゃ。
うふふふふ・・・

私は血を吸われてぐったりした女子生徒をベッドに寝かせると口元の血をぬぐう。
なんて美味しいのかしら。
血の味は最高。
これもご主人様のおかげ。
私は永遠にご主人様にお仕えするの。
なんてすばらしいことかしら。

私はベッドから立ち上がってお気に入りの黒いマントを整えると、血を吸って火照った躰をかき抱き、幸せに身を震わせるのだった。

END


いかがでしたでしょうか?
拍手、感想などいただけますとうれしいです。
それではまた。
  1. 2014/01/09(木) 21:00:00|
  2. 異形・魔物化系SS
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学園の吸血鬼(1)

先日投下いたしました「午年の初夢」に続きます、新年SS第二弾「学園の吸血鬼」を今日明日の二回に分けて投下させていただきます。

本来なら松の内に投下したかったのですが、最後の詰めをなかなか書けないうちに今日まで来てしまいました。
数週間かけてこのレベルのSSというのもお恥ずかしい限りですが、どうかお楽しみいただければ幸いです。

それではどうぞ。


「学園の吸血鬼」

「吸血鬼?」
私は思わず聞き返す。
普通はそんな単語は会話の中では出てこない。
「吸血鬼なんて、映画か小説の中のお話でしょ?」
思わず私は苦笑した。
「でも先生、最近貧血の子が多いし、夜出歩いている久鬼(くき)先生を見たって言う人もいるし・・・」
「ねぇー」
二人の女子生徒が顔を見合わせている。
「そりゃあ久鬼先生だって夜に出歩くぐらいはするでしょう? コンビニにでも行ったのかもしれないし。それに貧血が多いのはみんな朝御飯をちゃんと食べないからなのよ」
私はしっかりと釘をさす。
本当に最近の子はダイエットとかで朝食を食べない子が多いのだ。
栄養をしっかり取らなくては、貧血になるのもあたりまえ。

「だいたい、久鬼という苗字が吸血鬼に通じる感じだからそんな噂が出たんじゃないの?」
おそらくそんなところじゃないかと私は思う。
今年度から学園に赴任してきた久鬼先生は、外国人とのハーフとのことで英語はペラペラだし見た目も素敵だから生徒たちに人気がある。
女の子同士の嫉妬とは怖いもので、余計なライバルを増やさないためにあえて吸血鬼の噂を流し、久鬼先生に近づく女子を減らそうという魂胆なのだろう。

「まあ、夜遅く出歩くのは感心しないから、吸血鬼に襲われたくなかったら、夜は部屋で勉強したほうがいいわよ」
「えー」
「そんなぁ」
二人がいっせいに不満の声を漏らす。
「さ、おしゃべりはここまで。そろそろ帰る時間よ」
私は二人を促す。
委員会の後もここでおしゃべりしていたのだが、そろそろ切り上げないとね。
「はぁーい。それじゃ失礼します」
「先生さよならー」
「はい、さようなら」
私が手を振ると、二人はかばんを手に立ち上がり、手を振って保健室を出て行った。

「さてと、私もそろそろ職員室に行かなくちゃ・・・」
二人を送り出したあとで私も席を立つ。
そろそろ職員会議の時間だ。
養護教諭である私も出席しなくてはならない。

「あら?」
職員室に向かう途中、私は背の高いハンサムな男性教師を見かける。
先ほど噂に出ていた久鬼先生だ。
女子生徒の肩に手を回しているみたい。
確かにあのような態度はよくないと思うけど・・・

「またあとで来るがいい」
「はい・・・久鬼先生・・・」
私が一言言おうと近づくと、女子生徒は久鬼先生に一礼して去って行った。
「あ・・・」
私が言葉を失ってしまったところに、久鬼先生がにっこりと振り返る。
「おや、矢浜(やはま)先生。いらっしゃったんですか」
「え、ええ、その・・・久鬼先生、生徒とあまり親しげなのは・・・」
私はなんとなく毒気を失ってしまったものの、一応言うべきことは言っておこう。
「親しげ?」
「生徒の肩を抱くようなことはしないほうがいいと思います」
「ああ、これは失敬。生徒にはフレンドリーに接しようとつい。今後は気をつけますよ」
薄く笑みを浮かべる久鬼先生。
ハーフであるからかドキッとするようなハンサムなのに、なぜかその笑みが冷たく感じられる。
もしかして反省していない?

「さ、職員会議が始まりますよ」
くるりと背を向けて歩き出す久鬼先生。
私は何も言えずに黙ってそのあとに従うのだった。

                   ******

「さてと・・・そろそろ帰ろうかしら」
一日の仕事を終え、私は後片付けをする。
そんな時、つい言葉に出してしまうのはもう歳のせいなのかしら。
いやだなぁ。
まだ26なんだし中年なんかじゃないわよね。
早いとこいい人見つけて結婚もしたいし・・・なんてね。

私は保健室の戸締りをして職員室に鍵を返すと、職員玄関へ向かって歩き出す。
「あら?」
ふと目の片隅に、何かが映る。
私は思わず気になって脚を止めた。
とっぷり日も暮れて真っ暗な教室の中。
廊下に面したドアの窓からちょっと見えた影。
いったい何かしら?
私は窓から中を覗く。

「あっ」
私は思わず声を上げた。
真っ暗な教室の中、一組の男女のシルエットがキスをしていたのだ。
そして口からそのまま女性のうなじにもキスをする。
そのシルエットが教師と生徒であることは間違いない。
女子高である学園に、男性は教師以外ありえないからだ。
だとしたら、これは見て見ぬ振りなどできることではない。

「そこで何をしているの?」
私はドアを開けて教室内に入り込む。
その声に男がゆっくりと顔を上げる。
外の明かりに照らされて見える顔。
「久鬼先生・・・あなた・・・いったい・・・」
私は顔を上げた久鬼先生の口から赤黒いものが垂れていることに気がついた。
「おや、やはりあなたでしたか矢浜先生」
くいっと手の甲で口元をぬぐう久鬼先生。
先ほどまでしなだれかかっていた女子生徒は、今はグッタリと力が抜けているようだ。
久鬼先生はその子をそっと床に寝せる。
「久鬼先生・・・今何を? あなたは本当に・・・吸・・・」
私はその先が続けられなかった。
吸血鬼なんてありえない。
ここにいるのはただのアブナイ男性教諭に過ぎないはず・・・

「ふふふっ」
意味ありげに笑う久鬼先生。
「久鬼先生! あなた、生徒に何を!」
その笑いに少々私は腹が立った。
こんな時間に生徒と二人きりで何をするつもりだったのか!
「ふふふふ・・・見られちゃったみたいですね。まあ、先生には見られてもいいとは思っていたんですが。ええ、おっしゃるとおり、私は吸血鬼です」
「な! ふざけないでください!」
ニヤニヤと笑っている久鬼先生。
きっと私をからかっているに違いない。
だからわざと吸血鬼だなどと・・・
そこで私はハッと気がついた。

「ちょ、ちょっとあなた、大丈夫?」
私は床に寝かされた女の子のところへ駆け寄った。
久鬼先生に気を取られていたとはいえ、養護教諭としてあるまじきことだわ。
なんてこと・・・

「ふふふふ・・・心配は要りませんよ。彼女はこれで三回目。すべての血を吸い尽くしました。あとはわが眷属としてよみがえるだけ」
三回目?
眷属?
いったい何のこと?
私はわけわからずに倒れていた女の子を抱き起こす。
軽い・・・
まるで羽のように躰が軽い。
そして恐ろしいほどに冷え切っているわ。

「と、とにかく保健室へ」
「その必要は無いと言ったでしょう。さあ、起きなさい」
久鬼先生がそういうと、私が抱き起こしていた女の子が突然目を覚ます。
そしてゆっくりと立ち上がると久鬼先生のほうに向き直る。
「えっ?」
私は何がなんだかわからない。
いったいどうなっているの?

「ふふふふ・・・わが眷属に生まれ変わった気分はどうかな?」
「はい・・・とてもいい気持ちです。ご主人様」
久鬼先生の下に歩み寄ってそう答える彼女。
にやっと笑みを浮かべたその口元から、長く伸びた犬歯がのぞいている。
「クククク・・・いい娘だ。さあ、行くがいい。友人たちの血は美味しいぞ」
「はい。まずは茉里(まり)ちゃんの血を・・・うふふふ・・・」
ぺろりと舌なめずりをして教室を出て行く彼女。
私はあまりのことに声も出ない。

「久、久鬼先生・・・あなたは本当に・・・」
やっとの思いで私はそう口にする。
「ええ・・・言ったでしょ? 私は吸血鬼だと」
にやりと笑う久鬼先生。
その笑みは私の背筋を凍らせるには充分だった。

「ふふふふふ・・・そんなに青い顔をして。あなたの方がよほど吸血鬼のようですよ矢浜先生」
ゆっくりと私のほうに近づいてくる久鬼先生。
私は思わず後ずさる。
「ふふふふ・・・何も恐れることはない。あなたもすぐに私の眷属となり、私の忠実なしもべとなるのだから」
「な、何を言って・・・そんな・・・」
私は必死にその場を逃げようと考える。
だが、いつの間にか私は教室の隅に追いやられるような形になっていて、入り口は久鬼先生の背中側になっていたのだ。
「こ、来ないで・・・」
私は何とか逃げようと久鬼先生の隙をうかがう。
だが、久鬼先生には隙らしいものは見当たらない。
どうしたらいいの・・・

「さあ、来るのです。我が下に」
久鬼先生がそう言って私を見つめる。
なんだかその目が赤く輝いたような・・・
私はその目を見つめ、彼のところへと歩いていく。
なんだろう・・・
何かが変・・・
でも、何が変なのかわからない・・・
私はただ久鬼先生の赤い目に引き寄せられていくよう・・・
私はここを出て行くつもりじゃなかったの?
でも・・・
なんだか今はそんなことどうでもいい気がするわ・・・
ああ・・・
久鬼先生・・・

                   ******

「はっ」
私はベッドから飛び起きる。
今のは?
今のは夢?
いつの間に私は家に帰ってきていたの?
夕べ学校から帰ってきた記憶がない。
いったい・・・いったい何が起こったの?

私は昨日のことを思い出す。
仕事が終わって家に帰ろうとして・・・
教室の中に久鬼先生と女子生徒がいて・・・
私ははっとした。
そうだ。
久鬼先生は吸血鬼だったのだ。
私はそのことを知って逃げ出そうとして・・・
それから・・・
それからどうしたんだったかしら・・・
確か・・・
久鬼先生の目が赤く・・・
そして首筋に・・・

私は姿見のところに行って首筋を映して見る。
首筋のところにある二つの傷。
ピンを刺したような傷あとに私は背筋が冷たくなる。
吸血鬼の噛みあとだ。
久鬼先生は本当に吸血鬼なんだわ。
私も・・・私も彼の眷属にされてしまうと言うのだろうか・・・
あの少女のように・・・

私は首を振る。
私は久鬼先生に対する恐怖感も嫌悪感も持っている。
彼女のように久鬼先生を崇拝するような気持ちはない。
私はまだ吸血鬼にはなってないわ。
だって、血が吸いたくなんかないもの。

こうしてはいられない。
早く学園に行って学園長に知らせなくては。
久鬼先生を早く学園から追い出してもらわねば、生徒たちが吸血鬼にされてしまう。
私は身支度を急いで整えると、学園に向かった。

「おはようございます」
学園に着くと私は足早に職員室に入る。
「おはようございます」
「矢浜先生おはようございます」
すでに学園に来ていた先生方が朝の挨拶を返してくれる。
よかった・・・
どうやら久鬼先生はまだ来ていないらしい。
吸血鬼だから朝は弱いのかしら?
などと一瞬思ったものの、こんなことはしていられない。
私はすぐに学園長のいる学園長室に向かう。
この時間なら学園長はもう来ているはずだ。
一刻も早く学園の危機を知らせなくては・・・

「失礼します」
私はノックもそこそこに学園長室の扉をあける。
「朝早く失礼します学園長。お話したいことが・・・」
私はその先を続けることができず、室内の光景に息を呑んだ。

わが学園の学園長は先代から引き継いだという女性で、まだ三十代の若さだ。
見た目も美しい人で、学園の広告塔としても活躍なされているが、学園の改革にも熱心で、古い旧弊を打ち払い、新しい学園を作ることにも尽力されている。
旦那さんは別の仕事をお持ちだそうで学園のことにはタッチしておらず、学園長が学園のいっさいを取り仕切る形になっている。
優しい旦那様とのことで、小学生の娘さんもいるらしい。
そんな彼女が、今自分の机のところで白崎(しらさき)先生の首筋に牙を立てていたのだ。
私はただ驚くことしかできなかった。

「が、学園長・・・」
「あら、おはよう矢浜先生。いきなり入ってくるのは失礼ですわよ」
にやっと笑みを浮かべて白崎先生の白い首筋から口を離す学園長。
「が、学園長。あなたいったい・・・何を・・・」
「ウフフフフ・・・今、白崎先生の血を飲んでいたところですわ。白崎先生の血は若い女性だけにとっても美味しいの。血は最高のご馳走よ。そうですよね、ご主人様」
私はハッとして部屋の脇をみる。
そこには腕組みをして薄く笑みを浮かべた久鬼先生が立っていた。
「ふふふふ・・・そうですね、学園長」
「ああ・・・美味しいわぁ。何で今まで血を飲まなかったのかしら。こんな美味しいものは他に無いというのに。これもご主人様に私の血を吸っていただいたからですわぁ」
そういって再び白崎先生の首筋に牙をつきたてる学園長。
そののどが動き、血を吸っているのが私にはわかった。

「あ・・・あああ・・・」
私は言葉が出なかった。
学園長はすでに久鬼先生のしもべにされている。
喜んで他の人の血を吸う吸血鬼になってしまったんだわ。

「矢浜先生」
「ひっ」
久鬼先生に声をかけられ、私は思わず小さな悲鳴をあげてしまう。
「ふふふふ・・・怖がることはないと言ったでしょう。どうです? 彼女の姿。幸せそうだとは思いませんか?」
私は首を振る。
白崎先生の血を吸っている学園長は確かに見ようによっては幸せそうなのかもしれない。
でも、そんな幸せはこの世にあってはならないものだわ。

「なに、あなたもすぐにそう思うようになりますよ。それよりも・・・いけませんねぇ」
ゆっくりと近づいてくる久鬼先生。
私は部屋から逃げ出したかったものの、どうにも躰が動かない。
「学園長に私のことを言うつもりでしたね? いけませんねぇ」
「いえ、私は・・・」
「口止めしておかないとなりませんね」
目をそらしていた私のあごを持ち上げて自分の顔のほうに向ける久鬼先生。
その目が赤く輝いて・・・
「あ・・・」
彼の目を見た瞬間、私は脳をかき回されるような感じがしてめまいがした。
彼が何か言ったようだけど、よくわからない。
あの目を見てはだめだったんだわ・・・

                   ******

「矢浜先生、矢浜先生」
「あ、えっ?」
いつの間にか私の前には三年生の学年主任の小野寺(おのでら)先生がいる。
「小野寺・・・先生?」
「どうしたんです? 学園長の部屋から出てきたと思ったら、ずっとぼうっとしたような感じで・・・」
「えっ? あれ?」
ふと見回すと、いつの間にか私は職員室にいた。
そんな・・・
先ほどまで私は確かに学園長の部屋にいたはず。
学園長が白崎先生の首筋から血を吸ってて、久鬼先生がそこにいて・・・
「そ、そうよ! 小野寺先生、聞いてください」
「な、なんですか? いいですよ」
いきなりのことに驚いた表情の小野寺先生。
初老の人のいいおじさんという感じだが、生徒指導には定評がある方だ。

「小野寺先生、大変なことが起こっているんです。この学園で」
「学園で大変なこと?」
一瞬怪訝そうな顔をした小野寺先生だが、私の顔を見てしっかり話を聞こうとしてくれている。
「はい、実は久鬼先生が・・・」
「久鬼先生が?」
「とてもハンサムで素敵な方なんです!」
私は思い切ってそう言った。
「えっ?」
「えっ?」
小野寺先生と私は思わず顔を見合わせる。
わ、私はいったい何を?
言いたいのはそんなことじゃなかったはず。
久鬼先生が吸血鬼だということを言わなくちゃならないのに・・・

「わははは、そりゃ確かに大変ですなぁ」
「あははは」
職員室の一画に笑いが起こる。
「久鬼先生は確かにハンサムですからなぁ。生徒たちもきゃーきゃー言いますからねぇ」
「私もあんなふうに生まれたかったですよ。わははは」
数人の男性教師が笑っている。
私が言いたかったのはそんなことじゃないのに。
でも、なぜか口に出せなくなっている。
久鬼先生が吸血鬼といいたいのに、なぜか口が動かない。
そうだわ・・・
さっき久鬼先生が私に命令したんだった・・・
赤い目を見つめているときに誰にも伝えてはならないと言われて・・・
それで言えなくなっているんだわ。

だとしたら・・・
私は近くにあったメモ用紙に久鬼先生のことを書こうとする。
だめだ・・・
何度書こうとしても手が止まってしまうのだ。
久鬼先生が吸血鬼と書こうとさえしなければ、なんてことなく手が動くのに・・・

私はいつの間にか自分の席に着いていた久鬼先生をにらみつける。
久鬼先生はにやっと笑って私の方へとやってくる。
「久鬼先生・・・」
今この場で大声で彼が恐ろしい吸血鬼であることを訴えたい。
なのに・・・
「無駄ですよ、矢浜先生」
私の耳元で囁く久鬼先生。
他の先生方はもうそれぞれの授業が始まるので出て行くところだ。
彼の言葉は私にしか聞こえていないだろう。
「今晩、保健室で待っていなさい。いいね」
「はい・・・」
私は自分の返事にびっくりした。
どうしてこんな返事を?
私・・・いったい・・・
私が驚いている間に久鬼先生は去っていく。
私は愕然としてその場に立ち尽くすだけだった。
  1. 2014/01/08(水) 21:00:00|
  2. 異形・魔物化系SS
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巳年

今年最初のSSを投下です。

どちらかというと悪堕ちというよりは異形化ネタというところでしょうか。
少し楳図先生風味が入ってます。
お楽しみいただけましたら幸いです。


「巳年」

「きゃー!! いやぁ!!」
「ちょっとパパ、やめてよ、気色悪い!」
家に帰ってくるなり娘と妻の悲鳴の合唱だ。

まあ、無理もないか。
俺が持っているのはたまたま友人からもらった蛇の抜け殻なんだからなぁ。
「ごめんごめん。でも、今年は巳年だろ。蛇は縁起がいい生き物なんだぞ。この蛇の抜け殻でお金が貯まるといわれているんだ」
俺はビニール袋に入れられた蛇の抜け殻を後ろに隠す。
「そ、そういう話しがあるのは知っているけど・・・」
「いやぁ」
今にも泣きそうな娘の麻菜(まな)を妻の麻子(あさこ)が抱きしめている。
困ったなぁ。
神棚の脇にでも置いておこうと思ったんだが・・・

「まあ、そういうなよ。別に生きているわけじゃないし。それにこんなふうに頭から尻尾まできれいに残っている抜け殻は珍しいんだぞ。ほら、眼の部分だってしっかりしている」
よせばいいのに、なんだかこれだけ嫌がられるのが腹立って、俺はもう一度ビニールを持ち上げて見せる。
「キャー!!」
「や、やめてパパ」
麻菜は一目散に自分の部屋に逃げ帰ってしまったし、麻子は俺をにらみつけてくる。
あちゃー。
しまったなぁ。
麻菜には刺激が強すぎたか。
さっきはなんとなく見ただけだったろうからな。
こうして見せ付けられたら逃げもするよな。
うー・・・
あとで謝ろう。
トラウマにならなければ・・・
ん?
麻子が硬直している?

「どうした、ママ?」
「えっ? あっ? な、なんでもないわ。なんか蛇と眼が合ったような気がして・・・」
「眼が合った?」
俺はぶら下げたビニール袋を見てみる。
確かに眼の部分までしっかり残ってはいるが、眼が合ったというのは・・・
「気のせいだと思うわ。それよりも麻菜きっと泣いているわよ。どうするの?」
腰に手を当てて怒っている麻子。
「ごめんごめん。蛇なんてそんなに見たことないだろうにこんなに怖がるとは思わなかったよ。謝ってくるよ」
「ちゃんと謝ってよ。それとその蛇の抜け殻、目に付かないところにしまっておいてよ」
「わかったわかった」
俺は麻子にそういうと服を着替えに寝室にいく。
そしてかばんと蛇の抜け殻を置くと、スーツを着替えて麻菜のところへ行って謝った。

                   ******

「ねぇ、パパ、あの抜け殻どこに置いたの?」
仕事から帰ったら麻子が不安そうな顔をしてそう聞いてきた。
「どうした? 何かあったのか?」
「今朝は言わなかったけど、私夢を見たのよ。あの蛇が私を飲み込む夢。私なんか怖くて・・・」
心なしか青ざめているようだ。
「おいおい、昨日見たからその印象が強かっただけだよ。ちゃんと神棚の脇に白い紙袋に入れて置いたから見えないよ」
「ねえ、なんだか気味が悪いわ。捨てることはできないの?」
「うーん・・・せっかく堂坂(どうさか)がくれたものだしなぁ。それに俺から頼んだことだし・・・」
堂坂がわざわざきれいなものを見繕ってくれたものをそう簡単に捨てるのもなぁ。
それにお金が貯まるというのは捨てがたいよ。
堂坂も今じゃ年収1000万らしいし、それも彼の努力以外に蛇の抜け殻のご利益があるかもしれないじゃないか。
まあ、俺も心から信じているわけじゃないが・・・
「そう・・・」
不安そうな麻子。
「気にするなよ。一週間もすれば気にならなくなるって」
「だといいんだけど・・・」
麻子としては捨ててほしいんだろうけど、俺としては捨てられないよなぁ。
ここは我慢してくれ、麻子。

                   ******

「ねぇ、パパ。あの白いのには何が入っているの?」
今日は麻菜か。
「白いのって?」
「あれ」
麻菜が指差す先には神棚の脇に置いた白い紙袋がある。
「あー、あれはパパの大事なものが置いてあるんだよ。高いところにあるから麻菜は届かないと思うけど、触っちゃだめだよ」
麻菜には蛇の抜け殻は捨てたことにしたんだよな。
だからあの中に蛇の抜け殻が入っているなんて知られるわけには行かないからな。
「でも、どうしてだい?」
「今日幼稚園から帰ってきたらママがあの袋の中を見てニコニコしていたの」
「えっ? ママが?」
「うん。だから何かいいものが入っているのかなって思って・・・ママに聞いてもなんでもないって言うし」
麻子のやつ。
麻菜の前で袋覗いていたら麻菜が気になるのは当たり前じゃないか。

「ママ、いいかい?」
俺は麻菜がテレビを見始めたので、先ほどのことを確認するべく台所に入る。
「ん? なにやってるんだ?」
俺が台所に入ると、麻子が茶碗を傾けて何か飲んでいた。
「え? ああ、パパ? これ? たまごが古くなってきてもったいないと思ったから飲んだのよ」
「たまごを飲んだ?」
こともなげに答える麻子に俺は驚く。
たまごなんて普通生では飲まないんじゃ?
「ええ、飲んだのよ。たまご、美味しいわよ」
「そ、そうか・・・ところで、あの蛇の抜け殻、見たのか?」
「抜け殻? ううん、パパがあそこに置いてからは見ていないと思うけど・・・」
ふるふると麻子は首を振る。
嘘を言っているようには見えない。
「そ、そうか。いや、麻菜がママがあの袋の中を覗いていたって言うもんだから・・・」
「麻菜が? 変ねぇ。見たような記憶はないんだけど・・・でも、今朝からなんか頭がぼうっとするのよね・・・」
「風邪か?」
「わかんない・・・くしゃみも鼻水も出ないから違うとは思うけど・・・熱もないようだし」
自分の額に手を当ててみる麻子。
その手の甲がなんだか白くがさついているようだ。
台所仕事で手が荒れているのかな・・・
「そうか。体調には気をつけろよ」
俺はなんだか妙な感じを受けながらも、台所をあとにした。

                   ******

「ただいまー」
「パパおかえりー」
奥から麻菜が両手を前にしてやってくる。
「おー、麻菜。ただいまー」
俺はかばんを置いて麻菜を抱きかかえる。
そしてそのまま靴を脱いでリビングに向かう。
「ママはご飯の支度かな?」
「ママ寝てるぅ」
「寝てる?」
こくんとうなずく麻菜。
今日は麻子が出迎えに来なかったので、きっと台所かなと思っていたのだが、寝ているとは。
昨日頭がぼうっとするって言っていたから、やっぱり風邪かな・・・

「な?」
リビングに入った俺は驚いた。
寝ているというからてっきり部屋で寝ているのだとばかり思ったら、なんと麻子はリビングのテーブルの下で丸くなって寝ていたのだ。
「マ、ママ?」
「ん・・・あ・・・パパ? お帰りなさい」
ゆっくりと目を開け、ぼうっとした表情でテーブルの下から俺を見上げる麻子。
「な、なにやってんだ? こんなところで」
「え? あ・・・あれ? 私なんでこんなところで? なんか狭いところで丸まってたいなって思って・・・」
もぞもぞとテーブルの下から這い出してくる麻子。
「丸まってたいって・・・何もテーブルの下にいることないだろう」
俺は苦笑しながら麻菜を下ろす。
「そ、そうよね・・・でも、なんだかここが落ち着いちゃって・・・」
自分でも不思議だという感じで首をかしげている麻子。
「変な奴だな。まあいいや。それよりも先にお風呂に入ってくるから、晩御飯よろしく頼むよ」
「ええ・・・それじゃ麻菜も一緒にお願いできるかしら」
「いいよ。よし麻菜、パパと一緒にお風呂入ろう」
「わぁい。パパとお風呂ー」
両手を挙げて喜んでくれる麻菜。
俺は麻菜を連れてお風呂に行く。
あと何年こうして一緒に入ってくれるかな・・・

「美味しいね。ママのシチューは絶品だね」
「ぜっぴん」
麻菜が舌足らずな口調で俺のマネをする。
お風呂上がって三人で夕食だ。
以前はもっと帰りが遅かったんだが、この不景気で残業も減り、こうして早く帰ってこられたりもする。
もっとも、その分給料は減っているのだが・・・
「うふふ・・・褒めても何にもでないわよ」
微笑みながらペロッと舌を出す麻子。
なんだかさっきからやたらと舌を出しているような・・・
まあ、食べているのがシチューだからそのせいだろう。
寒い季節にはクリームシチューはぴったりだ。
躰も温まるしね。
「おかわりー」
麻菜も今日はおかわりだ。
たくさん食べて大きくなるんだよ。

                    ******

「ねえママ、見て見てぇ」
日曜の昼下がり、のんびりしていると麻菜が絵本を持ってくる。
俺に見せるのかと思ったが、どうやらママに見せたいらしい。
「ママ見てぇ。カエルさーん」
絵本のページを広げながら台所のママを呼んでいる。
「あらぁ、美味しそうなカエルさんねぇ」
食器洗いを終えたのか、台所から麻子が顔を出して麻菜の差し出す絵本を見たが、俺はその言葉にぎょっとした。
「お、美味しそう?」
俺が横から麻菜の持っている絵本を見てみたが、そこにはかわいらしいカエルの王子様が描かれているだけで、どこにも美味しそうな雰囲気はない。
「美味しそうって、どこが?」
「え? パパ知らないの? カエルは食用になるのよ。食用ガエルってあるんだから」
麻子は唇を舌で舐めながら、きょとんとした表情を浮かべている。
「いや、それは知っているけど・・・これは食用とかそういう話じゃ・・・」
麻菜もなんだか寂しそうな顔をしている。
きっと可愛いとでも言ってほしかったのだろう。
「えー? でもカエル美味しそうじゃない? カエル食べたくなっちゃったわぁ」
ぺろりと舌なめずりをする麻子。
なんだか先日から様子が変だ。
いったいどうしたというのだろうか?

「パパ・・・カエルさん・・・」
「うんうん、可愛いね。読んであげようか?」
俺はとりあえず言い争いをするつもりもないので、困ったような顔をしている麻菜を呼ぶ。
「わぁい」
とてとてと俺のところにやってきて、ちょこんと俺の前に座ると絵本を開く麻菜。
その首筋がちょっと赤い。
「麻菜、これどうした?」
なんか傷がついたみたいだ。
でもこんなところが傷つくなんて、何かあったのかな?
「ママにかじられたの」
こともなげにそういう麻菜。
だが、俺はびっくりした。
「ママにかじられたって?」
「うん。朝、ママにかじられたの」
「朝? 痛くなかったの?」
「ちょっと」
麻菜は別に気にしていないみたいだ。
確かに可愛い麻菜は食べちゃいたいぐらいとは思うが・・・
かじるなんておかしくないか?

「ちょっとママ、いいかな?」
絵本読みがひと段落ついたところで、俺は麻子に声をかける。
なんだかこのところ変だぞと言おうと思ったのと、麻菜をかじったというのが気になったからだ。
「なぁに? どうしたのパパ?」
麻子が手をさすりながら俺のほうを向く。
相変わらず舌をぺろぺろと出している。
「手、どうかしたのか?」
俺は話のきっかけをつかむのと、手をさすっていることが気になってそう聞いた。
「ああ、これ? 特になんでもないわ。乾燥するとうろこ肌になっちゃうのよね」
麻子はなんでもないとばかりに両手を俺に見せてくれたが、その手の甲は白くがさがさしてまさにうろこ肌というのがぴったりだ。
「本当にうろこのようだな。大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。ハンドクリームも塗っているし」
「そうか・・・ならいいんだけど、最近ちょっと変じゃないか?」
「変?」
きょとんとする麻子。
いきなり変だと言われたらそりゃそうか。
「ああ、カエルが美味しそうとか魔菜の首を噛んだりとか・・・」
「ええ? だって、カエルは美味しそうじゃない? あなたは食べたいとは思わないの?」
「思うわけないだろ。カエルなんて普通食べないぞ」
「そうかしら・・・私は食べたいわぁ。カエル美味しそうなんですもの」
ごくりと麻子がつばを飲み込む。
本当にカエルが食べたいらしい。
そんな食習慣が麻子にあったなんて・・・

「麻菜だって美味しそうじゃない? 頭から丸呑みしたくなっちゃうわぁ」
「なんだって?」
頭から丸呑みだと?
「ああん、でも心配しないで。あの子を食べたりはしないわ。あの子は大切な私たちの子ですもの」
「当たり前だ!! わが子を食べるなんてどうかしているぞ。お前、少しおかしくなっているんじゃないか?」
思わず声が荒くなる。
麻菜を食べるなんてとんでもない。

「私がおかしいですって?」
ぎろりと俺をにらんでくる麻子。
俺は背筋が凍った。
こんな眼で彼女は俺をにらむのか?
釣りあがった目で瞳が細長く見える。
まるで獲物をにらみつける肉食動物のような目だ。
俺はたちまち自分の中で気力が萎えていくのを感じていた。
「私のどこがおかしいって言うの? 私はおかしくなんかないわ」
「あ・・・ああ・・・」
俺はそう答えるしかない。
もう麻子に何も言う気はない。
この場から逃げたい。
麻子ににらまれたくない。

「パパー」
麻菜が呼んでいる。
「い、今行くよ」
俺はこれ幸いと麻子のそばを離れた。
ああ・・・なんだかすごく恐ろしかった・・・

                   ******

あれから俺は麻子に何も言えなくなってしまった。
麻子の目が怖くて何か言おうにも怖気づいてしまうのだ。
麻菜は別に気にならないらしい。
ママママと寄り添っているし、二人で仲良くしているようだ。
ここ数日はママとお風呂も入っているようだし、気がつくとぺろぺろと舌を出すようにもなっている。
麻子のくせが移ったのかもしれない。

麻子のうろこ肌はひどくなっているようだ。
手の甲あたりはまるで鰐皮のようにうろこ状になっている。
病院に行ったらと言いたいのだが、本人は気にならないらしい。
むしろうろこ状の肌を愛しそうに眺めていたりする。
何でこんなことになってしまったのだろう・・・

                   ******

「パパ・・・パパ・・・」
「ん・・・」
俺を起こす声がする。
なんだ・・・こんな時間に・・・
俺は眠い目をこすりながら起きると、呼んでいる声に振り向く。
「うわぁっ!」
その瞬間、俺は心臓が口から飛び出すかと思うほどの衝撃を受けた。
暗闇の中にゆらりと立っていたのは麻子と麻菜だ。
だが、それは俺の知っている二人ではなかった。
二人の顔は表面がすべてうろこで覆われ、ぎょろりとした眼は瞳が縦に細長く、先が二つに割れた舌がちろちろと口から出たり入ったりしていたのだ。
「うわぁっ! な、なんだ、お前たちは?」
「うふふふふ・・・私たちは蛇。蛇神様に蛇にしていただいたのよ。二人とももう身も心も完全な蛇になったのよ」
蛇の顔をした麻子がくすくすと笑っている。
「パパ。パパも一緒に蛇になろ。みんなで蛇になるの」
同じく蛇の顔をした麻菜がちろちろと舌を出す。
バカな・・・
これは夢だ。
俺は夢を見ているに違いない。

「蛇神様はパパも蛇にしていいとおっしゃってくださったわ。あなたも蛇になるのよ」
口をあけて鋭い牙を見せる麻子。
俺に向かって伸ばした両手も鋭い爪が伸びうろこに覆われている。
「うわぁっ! やめろぉっ!」
俺はあわてて布団を跳ね除ける。
そして部屋を飛び出すと、神棚の脇にあった白い紙袋を手に取った。

そうだ。
本当はとっくに気がついていたのだ。
この蛇の抜け殻をもらってから麻子はおかしくなったのだ。
二人があんなふうになったのはきっとこれが原因だ。
だからこれさえ捨ててしまえば・・・

俺は二人が牙を向いて襲い掛かってくるのを背後に感じながら玄関から外へ出る。
そして紙袋ごと蛇の抜け殻を握りつぶし、ぐしゃぐしゃにして遠くへ放り投げる。
「キャーー」
「ああーー」
背後で二人が倒れるのを俺は感じていた。

                   ******

「ママ、ママ、しっかりしろ」
俺は倒れている麻子を抱き起こす。
その顔はいつもの麻子の顔だ。
さっきまでのうろこに覆われた顔じゃない。
倒れた麻菜も普通の顔に戻って寝息を立てている。
どうやらあの蛇の抜け殻を捨てたことでもとに戻ったようだ。
「あ・・・パパ?」
麻子が目を覚ます。
「よかった・・・気がついたか」
俺は麻子を抱きしめた。
よかった・・・本当によかった。
「パパ・・・パジャマ姿で私どうしてこんなところに?」
「ああ・・・驚くなよ。ママは蛇になっていたんだ。でももう大丈夫。あの抜け殻のせいだったんだ」
「そう・・・私は蛇になっていたの・・・ねえ、それはこんな顔だったかしら?」
俺が驚く間もなく麻子の顔には再びうろこが覆い、鋭い牙をむき出してくる。
「うわぁっ! そんな!」
悲鳴を上げた俺に覆いかぶさろうように麻子がのしかかってくる。
すごい力だ。
いったいどこにこんな力が・・・
「や、やめ・・・」
やめろといいかけた俺の口に麻子の口が重なって何かを流し込んでくる。
「ぶえっ! な、何を?」
「うふふふふ・・・言ったでしょ、私はもう身も心も蛇になったって。もうあの抜け殻を捨てても遅かったのよ。パパには私の体液を飲ませたわ。麻菜にも飲ませて蛇にしたの。これでパパも蛇になるのよ」
にたぁっと口の端を吊り上げて笑みを浮かべる麻子。
「あ・・・そんな・・・」
のどが熱くなり、俺は急速に意識を失った。

                   ******

「パパおかえりー」
「おかえりなさい、パパ」
会社から帰ってきた俺を妻と娘が出迎えてくれる。
「ただいま。ほら、お土産だぞ」
俺は会社帰りにペットショップで買ってきたカエルが入った箱を差し出す。
「わぁい」
「あら、美味しそうなカエルね。あとでいただきましょ」
うろこに覆われた顔に笑みを浮かべ、ちろちろと舌を出している麻菜と麻子。
二人とも好物のカエルを見てうれしそうだ。
もっとも、俺自身もさっきから食べたくて仕方がないんだがな。

あの日から俺たちは蛇になった。
蛇神様によって蛇に生まれ変わったのだ。
俺たちがなぜ選ばれたのかはわからない。
だが、俺たちは蛇に生まれ変わったことに満足している。
普段はうろこを隠しているが、家では隠す必要もない。
俺は先の割れた舌をちろちろと出しながら、麻子に続いてリビングに入る。
蛇になったおかげで、会社でも言うことを聞かない奴をにらみつけて従わせることができるようになった。
これで部下の把握もうまく行き、給料も上がるかもしれない。
そうなれば麻子に二人目を仕込んでやろう。
卵を産む麻子の姿が眼に浮かぶようだ。
今年はきっといい年になるに違いない。
俺はそう思いながら妻と娘を後ろから抱きしめた。

END


いかがでしたでしょうか?
今年もよろしくお願いいたします。

それではまた。
  1. 2013/01/01(火) 19:04:23|
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Dで始まる署名

なんか思いつきで一本超短編を書いてしまいました。

どこかで見たような作品ですが、楽しんでいただければと思います。


『親愛なるコレット。お元気そうで何よりです』
私は燭台を机の上に置き、手紙を書き始める。
大学の後輩であり、あの事件での私の協力者であった彼女には、どんなに感謝してもとてもしきれない。

『大学卒業おめでとう。あれから半年になるのですね』
そう・・・
あの事件から半年になる。
あの忌まわしい事件。
私から妻を奪い去ったあの事件のことを思うと、私は今でも胸が苦しくなる。

奴を呼び込んでしまったのは私のミスだった。
考古学の資料として欧州から取り寄せた各種の物品。
その中にまさかあのような存在が居ようとは・・・
神ならぬ身ゆえに知りようもなかったのだとしてもだ。

最初は奇妙な死体の発見だった。
血をすべて失って死んでいる死体。
警察もその原因はわからなかった。

やがて失血死した死体の数が増え、それとともに奇妙な噂が広まっていった。
いわく・・・夜歩く不気味な男の噂。
マントを羽織ったその奇妙な男が夜歩くたびに、町には失血死した死体が転がるという。

ばかばかしい話だと思った。
20世紀になって20年以上経つというのに、そんなオカルトめいたことなどあるはずがないと思っていた。
だが、真実は違っていたのだ。

気がついたときには手遅れだった。
奴はひそかに気に入った女を手に入れ、自分の支配領域を増やしていきつつあったのだ。
私が研究で大学に夜遅くまで詰めていたころ、妻のマリアンもまた奴の手の内にされていたのだった。

私は妻を取り戻そうとして、奴の正体を知った。
奴ははるか昔の15世紀から延々と生き続け、そして犠牲者の血をすすりながら現在まで過ごしてきたのだ。
そして時折気に入った女をそばにはべらせ、気まぐれな期間だけそばに置いておく。
飽きればまた別の女を捜しに行くというわけだ。

妻はもう奴のものだった。
奴とともに哀れな犠牲者の血をすすり、奴とともに笑っていた。
私には何もできないと思っていたのだろう。
奴は自分の正体を私には見せつけたのだ。

情けない話だが、私はその場から逃げ出していた。
妻の嘲笑を背中に受けても、私は恐ろしさに耐えられなかったのだ。
だが、生き延びたとわかったとき、私の恐怖は怒りへと変わった。
奴をそのままにしては置けない。
奴は滅ぼさなくてはならない相手なのだ。

私は奴を滅ぼす方法を探した。
科学ではだめだ。
奴は科学では滅ぼせないに違いない。
むしろオカルト的な手段でなら可能かもしれない。
私はそう考え、大学の図書館で奴のことを調べまくった。

そのとき手伝ってくれたのがコレットだった。
メガネをかけた知的な雰囲気のする女性だが、メガネの奥の瞳はくりくりとして可愛く、歳相応の幼さも感じさせてくれる。
私は彼女に手伝ってもらいながら奴を退治する方法を探した。
あんまり熱心に探していたので、コレットに躰の心配をさせてしまうほどだった。
だが、私から妻を奪った奴を私はなんとしても赦せなかったのだ。

私はいつしかコレットに妻を奪われた苦しみを吐露していた。
コレットは私を慰めてくれ、奴に対する恐怖と滅ぼさねばならないという思いとを共有してくれた。
私と彼女はいわば戦友のようなものになったのだ。

そして私たちはついに奴を滅ぼす方法を見つけた。
古い文献に載っていた一つの方法。
それはやはりあまりにも科学とはかけ離れた方法だった。

まずはサンザシの木で杭を作らねばならない。
その杭をどうするのか。
奴の胸にハンマーで打ち込むのである。
このサンザシの杭を胸に打ち込むことこそ、奴を滅ぼす唯一の手段なのだ。

奴はどういうわけか日中は動かない。
だから奴の潜む屋敷に昼間乗り込んでいき、奴が動けないでいるうちにサンザシの杭を打ち込むのだ。
私はすぐに行動に移った。

『あの時のことを君は今でも覚えていますか? 私は今でも鮮明に思い出すことができます』
私はペンを走らせる。
そう・・・
あのときのことは忘れない。

ひんやりした地下室に奴は潜んでいた。
屋敷の主はとっくに干からびた死体になっていたのだろう。
奴は我が物顔でその屋敷に暮らしていたのだから。

だが、日中は奴は動けない。
私は犯罪であることを承知で屋敷の門を破り、玄関を壊して中へと侵入した。
そのとき後ろにはコレットが付いていた。

私はなんとか彼女をこれ以上巻き込まないようにしようと思った。
だが、彼女は私が一人では大変だと言い続け、ついに最後まで私に付き合うと言って譲らなかったのだ。
私は彼女の頑固さにあきれながらも、彼女を連れて行くことにしたのだった。

階段を下った奥。
ワインセラーかなんかだったのであろう地下室には、棺が四つも置かれていた。
白木の棺が三つと黒塗りの棺である。
棺は奴のベッドである。
奴は日中をこの暗い地下室にある棺のベッドで寝ているのだ。

一つの白木の棺のふたを開ける。
意外なほど簡単にふたは開いた。
そして中に横たわっていたのは・・・私の妻マリアンだった。

「あら・・・いらっしゃい、あなた。私に血を吸われに来たのかしら」
妻は目を覚ますとそう言って微笑んだ。
まるで以前の妻であるかのように。
だが、彼女の笑みを浮かべた口元には二本のとがった犬歯が見える。
彼女はもう人間ではない。
奴と同じ吸血鬼になってしまったのだ。

私は意を決してサンザシの杭を妻の胸に打ち込んだ。
目覚めたばかりで動きの鈍い妻は、あっさりと杭を打ち込まれて砕け散った。
吸血鬼は死ぬと砕け散るのだ。
骨すらも残らない。
私はただその場に泣き崩れるしかなかった。
私は自分の手で妻を殺してしまったのだから。

「先生・・・ウォーカー先生。しっかりしてください。まだやらなければならないことが・・・」
泣き崩れていた私を気付かせてくれたのがコレットだった。
彼女がいなければ、私は放心状態で夜を迎え、奴に殺されてしまっていたに違いない。

私は立ち上がると、あらためて棺のふたを開けていった。
そして奴の手で吸血鬼にされてしまった哀れな女性たちの胸に杭を打ち、その魂を解放してやった。

最後は黒塗りの棺だった。
当然これには奴が寝ているに違いない。
私は力を入れてふたを開ける。
そこにはやはり奴が寝ていた。
背の高い貴公子のような姿。
整った顔立ち。
生まれ持つ身分の高さによる威厳。
そんなものが相まって、この男を飾っている。
何も知らない者が見れば、こいつが悪魔の申し子だとは思えないだろう。

私はサンザシの杭を男の胸に当て、思い切りハンマーを振り下ろす。
肉をえぐる感触があり、杭は男の胸に突き立った。
その瞬間、男は目を見開いて悲鳴を上げる。
そして俺の顔を見て驚いたようにこう言った。
「お前か・・・何もできぬ腰抜けと思っていたものを・・・」
「妻を奪われたんだ。これぐらいのことはする」
「ククク・・・われは滅びぬぞ。何度でも蘇るさ」
「そうはさせないさ・・・」
私は再度杭を打ち込んだ。
血しぶきが飛び散って私の躰に降りかかる。
だが、私は力を緩めない。
やがて血は止まり、男の躰は崩れていった。
悪夢は終わったのだ。

そう・・・
悪夢は終わった。
あれから半年になる。
崩れた奴の躰はそのまま棺ごと墓場に埋め、それ以後復活した様子もない。
奴は完全に滅びたのだ。

私はあの後引越しし、別の町へ移った。
妻との思い出がある町には居づらかったのだ。
コレットは大学に残り、私とは別の道を歩んでいる。
卒業後は大学の司書になるらしい。
それまで若干時間があるというから、卒業祝いもかねてこの町に呼んでみようか。
もちろん旅費はこちら持ちでだ。
あの後あわただしく町を出てしまったのできちんと御礼もしていない。
これで少しでも御礼になればいいのだが。

私は今はこの町の大学で歴史学を教えている。
だが、もうあのような事件はこりごりだ。
資料を取り寄せるにしても、充分すぎるほど注意を払っているつもりだ。
最近は妻のことのショックも薄らいだのか、なんとなく女性に目が行くようになった。
自分もまだまだ若いつもりだが、最近の若い女性は本当に大胆な服を身に着けている。
胸元が開き、まるでキスしてくださいといわんばかりのようだ。
彼女たちの胸元や首筋にキスしたらどんな味がするのだろう。
きっと甘美な味がするに違いない。
そう・・・
コレットの首筋にもキスしたい。
彼女なら私とともに生きてくれそうな気がする。

さて、手紙を書き終えてしまわねば・・・
それにしても妙だ。
最近自分の署名にえらく困惑する。
Walkerと綴らなくてはならないはずなのに、どうしてもDで書き始めてしまうのだ。
そう・・・
Draculaと・・・

End
  1. 2011/02/17(木) 21:21:21|
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おみくじ

改めまして皆様あけましておめでとうございます。

お正月二日目、いかがお過ごしでしょうか?

今年はついに元日SS投下ができなくてすみませんでした。
その代わり、今日は早めに更新でSS投下します。

タイトルは「おみくじ」
楽しんでいただければと思います。

それではどうぞ。


おみくじ

「新年あけましておめでとー」
「おめでとー」
私は親友の智春(ちはる)ちゃんに新年の挨拶をする。
今日は元旦。
2011年の始まりの日。
また一年が始まるよ。

「ねえ、初詣行くでしょ?」
「うん。いくよ」
私がそう答えると、智春ちゃんがにっこりと微笑む。
「よかったぁ。綾香(あやか)ちゃんを連れて行くって言っちゃってたんだ」
「言ったって、誰に?」
「もちろん智里お姉ちゃんだよ。お姉ちゃん今年も舞方神社で巫女さんやってるから」
「あ、そっか」
私はハッと気が付いた。
智春ちゃんのお姉さんは、ここ数年毎年舞方神社で巫女さんのアルバイトをやっているんだったっけ。

「さ、行こ行こ、行っておみくじ引こ。きっとお姉ちゃんがいいおみくじ引かせてくれるよ」
私の手を引く智春ちゃん。
「何それ。いくら智里さんが巫女さんやっているからっておみくじを選ぶことができるわけないでしょ」
苦笑する私。
「いいの。お姉ちゃんからおみくじもらえば、いいおみくじのような気がするんだから」
笑っている智春ちゃん。
その笑顔を見ていたら、何だか私もそんな気がしてきたよ。

ジャラジャラと鈴を鳴らし、パンパンと拍手をして神様にお参りする。
どうか・・・今年こそジャアク帝国との戦いに決着が付きますように・・・みんなが平和に暮らせますように・・・
私はそう神様にお願いする。
そうなのだ。
私は今ジャアク帝国という侵略者と戦っている。
地球を狙うジャアク帝国。
私は選ばれた光の戦士として、地球を守るために戦っている。
その戦いが一刻も早く終わりますように・・・

「どうか綾香ちゃんの戦いが早く終わりますように・・・」
小さくつぶやくように言う智春ちゃんの願いに、私は思わず振り向いた。
「うふっ、綾香ちゃん、私も神様にお願いするからね。早く綾香ちゃんが戦わなくて済むようにって」
にこやかに微笑む智春ちゃん。
私は思わず胸が熱くなった。
そう。
智春ちゃんと智里さんは私が光の戦士としてジャアク帝国と戦っていることを知っている。
そしていろいろな面で私をサポートしてくれていた。
そのおかげで、私は心置きなくジャアク帝国と戦えていたのだった。

「さ、こっちこっち」
智春ちゃんが私の手を引っ張る。
私はその手に引かれるようにして本殿の脇にある社務所のほうへと向かっていく。
そこで何人かのアルバイトの巫女さんたちが、お守りや破魔矢、そしておみくじを売っているのだ。
私と智春ちゃんはまっすぐ智里さんのところへ行き、そこでおみくじを買うことにした。

「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます、智里さん」
「はい、あけましておめでとう。おみくじ引く?」
巫女服姿もりりしい智里さんがにこやかに私たちを迎えてくれる。
巫女服に合わせてあるのか、目の周りにはアイシャドウを引いて、口紅も真っ赤なものをつけていた。
「もちろん。いいおみくじちょうだいね、お姉ちゃん」
「こら、そんなことできるわけないでしょ」
「ちぇっ」
智里さんにたしなめられて、ぺろっと舌を出す智春ちゃん。
二人は本当に仲がいい。

「でもね、今年はちょっと違うわよ」
智里さんがそういってごそごそと後ろから黒い筒を取り出す。
「はい、引いて引いて」
「はーい」
智春ちゃんが手を出すと、智里さんがすっと引っ込める。
「だーめ。まずは綾香ちゃんからよ」
「え~っ、なんで?」
「なんででも。さ、綾香ちゃん引いて」
「あ、はい・・・」
私は智里さんが差し出す筒に手を入れ、おみくじを一つ取り出した。
あれ・・・
何だか躰に電気が走ったような気がする・・・
なんだろう・・・

「そのおみくじは特製なのよー。開いてみて」
「えっ? でも・・・」
そりゃ見るけど、そんなふうに迫られるとちょっと恥ずかしいよ。
「お姉ちゃん、私にも」
「智春は待ちなさい。綾香ちゃんのおみくじを見てからよ」
「えーっ?」
口を尖らせる智春ちゃん。
「あ、智春ちゃんが引いてからで・・・」
「だーめ。さ、あけてみて、綾香ちゃん」
少しにらむように私を見つめてくる智里さん。
うーん・・・しょうがないなぁ・・・
私はおみくじを開いてみた。

「あれ?」
突然周囲が暗くなる。
隣にいたはずの智春ちゃんもいなくなり、闇の中に私と智里さんだけになる。
「いったい・・・」
「ああ、気にしなくていいのよ。ちょっと結界を張っただけ。それよりもおみくじはどう?」
智里さんがニコニコと笑っている。
何だかすごくいやらしい笑い・・・
でも・・・
すごく似合っているような・・・

私はおみくじを開く。
周囲が暗くなったのなんてどうでもいいや。
それよりもおみくじだよね。

目の前に現れた“大吉”の文字。
「やったぁ!」
私は思わずガッツポーズをする。
「どれどれ? わぁ、大吉ね? おめでとう」
智里さんもすごく喜んでくれる。
あれ?
智里さんの着ていたのって赤と白の巫女服じゃなかったっけ?
袴がいつの間にか黒くなっているような気がするけど・・・気のせいかな?
うん・・・気のせいだよね。
そんなことよりおみくじおみくじ。

「大吉:願い事かなう」
やったね。
これでジャアク帝国の手から地球を・・・
地球を?
どうするんだっけ?

「待ち人:すぐ来る」
うんうん。
地球侵略の手勢がすぐ来るってことだよね。

「失せ物:見つかる」
うんうん。
失くしていた闇の力が解放されるってことだよね。

「旅立ち:行うがよし」
うんうん。
地球が終われば次だよね。

「商い:うまく行く」
うんうん。
制圧した地球人を奴隷にして売り払えば・・・ね。

「恋愛:良縁あり」
うわぁ。
今度来る軍勢にいい人がいるのかな?

「争いごと:危うからず」
うんうん。
光の軍勢なんて物の数じゃないよね。

などなどすごくいいことが書いてある。
今年は運勢がよさそう。
地球制圧も簡単に済みそうだよね。
あれ?
地球制圧?

「うふふ・・・大吉でよかったわね、綾香ちゃん。これであなたもジャアク帝国の一員よ」
いつの間にか背中からコウモリのような羽を生やした智里さんが笑っている。
頭からも角が生え、まるで悪魔のよう。
何だかとっても素敵だわ。

「私がジャアク帝国の一員?」
「そうよ。自分の姿を見て御覧なさい。あなたはもう光の戦士じゃないわ。ジャアク帝国の魔戦士なのよ」
智里さんに言われて私は自分の姿を見てみた。
すると、私はいつの間にか黒革のコルセットのようなものを身に着け、申し訳程度の黒いショーツを穿いている。
背中からは智里さんと同じようなコウモリ型の羽が生え、頭を触ると角が生えていることがわかった。
「これは?」
「うふふふ・・・そのおみくじのおかげよ。そのおみくじに込められた闇の力が、綾香ちゃんを生まれ変わらせたの」
智里さんが私の持っているおみくじを指し示す。
そうなんだ。
このおみくじのおかげなんだ。
なんて素敵なんだろう。
私はもう光の戦士なんかじゃないわ。
ジャアク帝国の闇の魔戦士なのよ。
うふふふふ・・・

「さあ、行きましょうアヤカ。皇帝陛下がお待ちかねよ」
「はい、チサトさん。チサトさんもジャアク帝国の一員なんですね?」
私はチサトさんが差し出した手をしっかりと握る。
「ええ。今年のおみくじを用意しているときに闇の力を注がれたの。今ではジャアク帝国の忠実なるしもべよ」
そっかー。
だから私にも闇の力を込めたおみくじを用意してくれたのね。
うれしいな。
「あ、智春ちゃんはどうするの?」
「智春のことは気にしなくていいわ。あの子にはいずれあなたが闇の力をあげればいいの。そのほうがあの子も喜ぶでしょ」
そうか。
そうだよね。
智春ちゃんもいずれ闇に染めてあげればいいんだ。
うふふふふ・・・
楽しみだなぁ。
私はチサトさんとともに、闇の世界へと飛び込んでいった。

END
  1. 2011/01/02(日) 13:38:15|
  2. 異形・魔物化系SS
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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