第一次世界大戦中、英国海軍はフィッシャー提督の提唱する速度こそ防御力であるというコンセプトに基づき、高速で巨大な主砲を持つが装甲の薄い巨大軽巡洋艦というものを作り出しました。
軽巡洋艦といっても、その大きさはまさに戦艦級であり、全長は240メートルほど、最大幅25メートルほどもあるもので満載排水量では20000トンを超えるという巨大なものでした。
しかもその主砲は戦艦にも匹敵する38センチ連装砲塔一基であり、ちょうどかつての日本海軍の三景艦(松島・厳島・橋立)のような特殊な軍艦を建造したのです。
しかし、1917年に相次いで完成した二隻の大型軽巡は、作ってはみたものの適当な作戦や任務がなく宙に浮いた存在になってしまいます。
そこで英海軍は、船体の大きさと高速性に目をつけ、二隻の大型軽巡を航空母艦に改装することに決定しました。
こうして空母に改装されたうちの一隻が「グローリアス」でした。
グローリアスは、まだ航空機も小型軽量だったころの航空母艦の黎明期の改装だったので、日本の「赤城」や「加賀」で一時期採用されたような上下二段の飛行甲板を持つ航空母艦でした。
格納庫から艦首までの下段飛行甲板と、船体上部を全通する上段飛行甲板を持ち、約30ノット近い速力を持つ航空母艦に生まれ変わったのです。
その後の航空機の発達と大型化によって、下段の飛行甲板が役に立たなくなるのは、赤城や加賀と同様でしたが、グローリアスは赤城や加賀のような再度の大改装を受けることはなく、ほぼそのままの形で艦隊空母として使われました。
搭載機こそ40機ほどと少ないのですが、英国初期の空母として貴重なものであったことは間違いありません。
1939年9月に第二次世界大戦が勃発すると、グローリアスは英国の空母戦力の一翼を担い、ドイツ海軍の通商破壊艦の捜索に任じます。
そして翌1940年4月、ドイツ軍がノルウェーに侵攻すると、ノルウェー沖へと出撃。
搭載機によってドイツ軍の地上部隊を攻撃するなどの任務に当たります。
しかし、ノルウェーでの戦況は、連合軍にとっては不利な状況になっていき、ついに英軍は撤退の憂き目を見ることになりました。
グローリアスは再びノルウェー沖で搭載機を発進させ、味方の撤退を援護します。
6月8日、陸上から逃げてきた戦闘機などを載せたグローリアスは、二隻の味方駆逐艦に護衛されて英国への帰途につきました。
グローリアスにとってのノルウェーでの戦闘も終わったかと思われました。
しかし、このときグローリアス以下の艦隊が煙突から吐き出す煙をドイツ軍が発見します。
発見したのは選りにも選ってノルウェー沖で連合軍商船を狩っていたドイツの巡洋戦艦「シャルンホルスト」と「グナイゼナウ」という強力な戦闘艦でした。
17時30分ごろ、ドイツ艦隊はグローリアスとその護衛駆逐艦に対し砲撃を開始。
28センチ砲が火を噴き、最大速力31ノットの巡洋戦艦が追って来るという事態に、グローリアス以下の三隻は絶望的ともいえる交戦に入ります。
17時38分、グローリアスに砲弾が命中。
頼みの綱の艦載機の発進ができなくなります。
18時20分には複数の砲弾命中が重なり速度低下。
逃げ切れる望みは無くなりました。
18時22分、護衛の駆逐艦アーデントが沈没。
18時39分にもう一隻の駆逐艦アカスタが放った魚雷がシャルンホルストに命中し、シャルンホルストが中破するという被害を与えますが、抵抗もここまで。
19時10分にグローリアスは空母が敵艦の砲撃によって沈められるという珍しい状況で沈没。
あとを追うように駆逐艦アカスタも沈みます。
結局英軍は三隻すべてを失い、うち一隻は航空母艦という大損害を受けました。
グローリアスの生涯はここで閉じたのです。
航空母艦が敵水上戦闘艦の砲撃によって沈められたという例はまことに珍しく、おそらくこのグローリアス以外では、レイテ沖海戦時のサマール島沖でアメリカの護衛空母「ガンビア・ベイ」が沈んだぐらいでしょう。
英国空母の先駆けの一つであったグローリアスは、沈没もまた戦史上の先駆けだったのかもしれません。
それではまた。
- 2008/08/11(月) 21:53:14|
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水上艦対航空母艦という意味では、エンガノ岬沖海戦の米デュボース艦隊対空母千代田もありますね。
もっとも、これは昼間の損傷で身動きできない千代田をデュボース艦隊がなぶり殺しにした構図なのであまり気分が良いものではありませんが。
この時、千代田を救援に行った駆逐艦初月も諸共に沈没。初月に救助された第三艦隊防空直援隊の生き残りの搭乗員も一緒に沈んでしまいました。
砲撃で沈められる母艦乗員や航空機パイロットの気持ちは、いかばかりだったのでしょうか。
- 2008/08/11(月) 22:44:42 |
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- いなづまこと@178 #-
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>>いなづまこと@178様
あらー、そうだったんですか。
小沢艦隊の四隻の空母はみな空襲で沈んだものとばかり思っておりました。
千代田は水上艦に止めを刺されたんですね。
驚きました。
母艦に乗ったまま、空に飛ぶことなく命を落としたパイロットは、輸送船に乗ったまま沈められ、陸に上がれずに命を失った陸軍兵士同様無念やるかた無しだったでしょうね。
つらかったと思います。
- 2008/08/12(火) 20:10:06 |
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- 舞方雅人 #-
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