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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

可愛いー

「グァスの嵐」第十三回目です。

今日もあまり書けなかったのですが、公開しますねー。
よろしくお願いいたします。

13、
「そうれ!」
破壊されつつあるボイラーになおも一撃を加えて行く老人。
その周囲はすでに炎が取り囲み、老人の衣服にすら火が燃え移っている。
しかし老人は斧を振り下ろすのをやめない。
ギャレーからは引っ掛け鍵が引っ掛けられ、引き寄せられようとしていたが、燃え盛る船上の火勢に飛び移るのは躊躇されていた。
「何をしている! さっさと飛び移れ! 火を消すんだ!」
「む、無理です。すでに火勢は強く、このままではこちらにも燃え移る可能性が・・・」
提督の怒鳴り声に精いっぱいの抵抗を試みる副長。
「黙れ! まずは貴様が行くんだ! さもないと縛り首にするぞ!」
「ええっ?」
怒気強く言いつけるエスキベル提督。
その剣幕はまわりにいるものの肩をすくませる。
「おい、そこの貴様! すぐにやめるんだ! 死にたいのか?」
提督は老人を怒鳴りつけ、何とか破壊をやめさせようとするが、老人は聞き入れない。
「貴様ぁ! 聞こえないのか! やめるんだ!」
「提督、無駄です。覚悟の行動です。聞き入れるわけが・・・」
副長が何とかなだめようと、提督に進言する。
自航船を覆う炎は音を立てて燃え盛り、その火の粉はギャレーにまで舞い降りつつある状況の今、すぐにでも鍵を離して退避しなくてはならないのだ。
「うるさい、黙れ! 目の前に自航船があるんだぞ! それを失ってみろ・・・ワシは・・・ワシは・・・」
「提督・・・もう無理です。奴は覚悟の上ですこれ以上そばにいてはこちらも燃えてしまいます」
副長が必死になって説得する。
「お、おのれ・・・」
炎上する自航船に提督は歯噛みした。

「よし、もうチョイだ、頑張れ!」
ゴルドアンが四本の腕を使いロープを手繰り寄せる。
手繰るごとに少女の躰は引き寄せられていく。
「もう大丈夫だからね。もう大丈夫だから」
エミリオは思わず笑みを浮かべてしまう。
フィオレンティーナは、まるで自分が少女の立場であるかのように手を握り締めてじっとゴルドアンの動きと少女を交互に見つめているのだ。
ロープがしっかり彼女の躰に巻かれているから、多分もう大丈夫だろう。
もし少女の体を浮かせている木片が外れたとしても、ロープが切れなければ引き上げられる。
だが、できるだけ早く引き上げた方がいいのは変わらない。
「ようし、もう少しだぞ」
じょじょに近づく少女を受け取るために、エミリオも舵を固定して船首側へ行き、舷側から手を伸ばす。
少女はその可愛らしい手をいっぱいに伸ばしてくる。
ゴルドアンによって近づいてきた少女の手がエミリオに触れる。
「届いた!」
エミリオは少女の手をがっちりと掴み、思い切り引いた。
その途端にエミリオの躰が逆に外側へと引き寄せられる。
え?・・・
エミリオは一瞬驚いたものの、少女の躰を受け取るように船内に収容した。
「うわー、よかったー」
すぐにフィオレンティーナは少女のそばへ行って抱きかかえる。
見たところは幼い妹を抱きしめるお姉さんといったところか。
5フィート2インチほどのフィオレンティーナよりもさらに低い。
5フィートあるかないかだろう。
背中まである金色の髪の毛が風になびいている。
「もう大丈夫。もう大丈夫だからね。かわいそうに・・・こんな小さい娘が・・・」
フィオレンティーナは今にも泣き出しそうだ。
この海に放り出された少女の心細さを感じたのだろう。
「はい。ミューはもう大丈夫です。ありがとうございます」
抱きしめられたまま少女は言う。
ミューというのは彼女の名前なのだろう。
「無事でよかった。でも、どうして? 海に落ちたのかい?」
エミリオがひざを折る。
目線を合わせるのだ。
少女は一瞬考え込んだ。
「ミューはマスターであった人によって船を降ろされました。それはマスターにとってもやむを得ないことだった可能性が90%以上であるとミューは考えます」
「マスター? 君はまさか奴隷なのか?」
ロープを巻き取りながらゴルドアンが驚いたようにミューを見る。
「ミューは奴隷ではありません。ミューは自らの判断でマスターを選びました」
「どういうことだ?」
いぶかしがるゴルドアンとエミリオ。
「もう、いいじゃないそんなこと。助かったんだから良しとしましょ。ね、ミューちゃん、お腹空いていない?」
フィオレンティーナは少女の躰に結び付けられたフローティの木片をはずして行く。
木片がはずれた途端、ファヌーの船体がずんと沈む。
まるで重い積荷を載せたようだ。
「お腹は空いていません。それよりもお願いがあります。マスターを・・・マスターだった人を助けてください」
ミューはエミリオとゴルドアンのほうを向いてぺこりと頭を下げる。
二人は顔を見合わせた。

煙は天高く上り、炎は赤い手で全てを飲み込んで行く。
その熱気はもう近づくことさえ許さない。
もう老人の手は動いていない。
斧はもはやどこへ行ったかわからず、老人の姿もおぼろげに見えるだけである。
「あちち・・・これ以上は無理だ。鍵をはずせ!」
副長の命令に水兵たちはすぐさま鍵をはずし、突き棒で引き離す。
「う・・・むむ・・・」
その様子にエスキベル提督は歯噛みする。
炎上する自航船はもはや手が出せない。
たとえ火が消えたとしても、その焼け跡からでは自航船の秘密はわかるまい。
してやられたのだ・・・
まさか死を賭してまで船を焼くとは・・・
何が悪かったのか・・・
ワシの指揮に問題が?
いや、そんな事は無い。
ワシの指揮に問題はなかったはずだ。
ではなぜ・・・
艦長だ・・・
奴が事あるごとに邪魔をしたのだ。
そうでなければワシは今頃は・・・
パチパチと木がはぜる音がする。
火の粉が天に上って行く。
ゆっくりと浮力を失い降下し始める自航船。

「軍艦に追われて?」
「あれだ・・・こりゃあ・・・」
ミューの必死な懇願に、とりあえずエミリオはファヌーを走らせた。
行き先にはぽつんと船影が小さく見えていたが、そこからはもうもうと煙が天に上っていた。
「ミュー、ありゃあかなりの船火事だ。無理かも知れんぞ・・・」
「ゴル! 行ってみないとわからないでしょ! ミューちゃん、そのマスターって大事な人なんでしょ?」
フィオレンティーナが悲観的な意見を突っぱねた。
まあ、確かに行って見ないとわからない。
場合によってはミューと同じように木片にでもつかまっているかもしれないし、軍艦が救助しているかもしれないのだ。
「マスターはミューの大事な人です。ギャレーの軍人たちから守ってくれたんです」
「ミュー。なぜ軍艦がミューとそのマスターを追って来たんだい?」
エミリオはそれが聞きたかった。
こんな少女が軍に必要とは思えない。
おそらくそのマスターが彼女を巻き込みたくなかったんだろう。
しかしそれにしても放り出すなんてどうかしている。
「それは・・・申し訳ありません。現時点ではお教えできません」
ミューは首を振る。
「それにしても、あの火災はどういうわけだ」
帆を操りながらゴルドアンが前方を注視している。
「マスターが火をつけたんです」
「何だって?」
エミリオもゴルドアンも驚いた。
それじゃ自殺じゃないか。
「マスターが・・・軍には渡さないという考えで火をつけたんです」
ミューがはっきりという。
「一体、君のマスターは何を運んでいたんだ?」
「ごめんなさい。言えません」
エミリオの問いに首を振るミュー。
「もう、何だっていいじゃない。大事なのはミューちゃんのマスターでしょ」
フィオレンティーナが怒ったようにエミリオをにらんでミューを抱きしめた。
「あ、ミューでいいですよ」
ミューは抱かれるままに立っている。
その様子にエミリオは思わず微笑んだ。
  1. 2006/09/21(木) 21:30:48|
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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