今日はちょっとしたSSを一本投下です。
いわばネタシチュSSなので、舞方の好みを押し出した作品です。
読んで楽しんでいただければ幸いです。
「ある少女の面接」
「ねえねえ、弘美(ひろみ)ってさ、子供のことが好きだったよね?」
夏休みを前にして、自分の席で休み中のアルバイトを考えていた私に、彩子(あやこ)が声をかけてきた。
いつも一緒にカラオケに行ったりする仲の彩子は、先月からアルバイトを始めたとかで、最近は学校でしか会ってない。
以前は化粧なんかしなかったのに、アルバイトを始めてからは目元をパッチリさせるアイシャドウを入れているので、時たま女の私が見てもドキッとするような美しさを見せていた。
「うん、好きだよ。将来は保母さんになりたいなって思っているし」
私は彩子にそう答える。
これは本当のこと。
いとこの美佐子お姉さんとこの翔君や、近所の俊哉君とか見ていると、とっても元気で可愛いなぁって思う。
だから将来は子供と接する仕事をしたいなぁって思うんだ。
「だったらさ、これなんてどうかな? うちの系列会社でバイト募集しているんだけど、子供好きな弘美ならうってつけだと思うんだ」
そう言って彩子が取り出したのは一枚のパンフレット。
受け取った私がそこに見たのは・・・
「ヒーローショー?」
そのパンフレットには色とりどりなバトルスーツに身を包んだ戦隊ヒーローが写しだされていた。
いわゆるデパートや遊園地で繰り広げられるヒーローショーのパンフレットで、次回公演の予定とアルバイト募集の文字が小さく記されていたのだ。
「うん、ヒーローショー。こういうのは嫌い?」
にこやかな笑みで彩子が私の顔を覗き込んでくる。
うう・・・
彩子ったら・・・
私が特撮ヒーロー系の話が大好きなことを知っているくせに・・・
大体カラオケで私が歌うのだって特撮ヒーロー番組のオープニングやエンディングだし、翔君や俊哉君と遊ぶときにはしっかり悪の怪人役をやってあげたりしてるのだ。
「嫌いじゃないよ。私がこういうの好きなの知っているくせに」
「でしょ? やってみたらどう? 日給もいいみたいだよ」
彩子の言葉に私はうなずいていた。
ヒーローショーのアルバイトかぁ・・・
これはもうやるしかないよね。
******
夏の暑い日差しの中、日曜日だというのに制服姿の私は彩子にもらったパンフレットに書いてあった電話番号に電話をかけ、早速面接に出向いてきたのだった。
「有限会社黒井企画かぁ・・・ヒーロー側よりも悪側っぽい名前だよね」
そんな独り言を言いながら、私は指示された場所へと歩いていく。
雑居ビルの地下一階。
こじんまりした事務所といってたっけ。
「ここだわ」
メモの住所の雑居ビル。
黒井ビルって看板が出てるってことは、グループなのかな?
彩子ちゃんも系列って言ってたっけ。
そういえば私、彩子ちゃんがどんなバイトしてるのかちゃんと聞いてなかったな。
製造部門だって言ってた気がしたけど・・・
え~と、今はそれはどうでもいいや。
うう・・・緊張するなぁ。
え~と、黒井企画黒井企画・・・と・・・
あった。
ビルの案内板の地下一階のところに、確かに黒井企画ってある。
ここでよかったんだ。
私は階段で地下に下りると、事務所のドアをノックした。
「いらっしゃいませ。アルバイトの面接の方ですね?」
入り口で出迎えてくれた若い女性に私は思わず目を丸くした。
「は、はい。お電話しました古林(こばやし)です」
私の目の前に現れたのは、まさに特撮番組から抜け出してきたかのような黒いレオタードに網タイツ姿、それにブーツと手袋をつけて腰には赤いサッシュを巻き、顔には青地に赤でこうもりの模様がメイクされた女性だったのだ。
うわぁ・・・
これって女戦闘員だぁ・・・
かっこいい・・・
私は異様とも言える衣装を着た女性に思わず目を奪われちゃう。
ヒーローも好きだけど、悪の組織に魅力を感じる私は、こういった戦闘員も大好き。
すごく素敵だわぁ。
「古林さんね。黒井企画へようこそ。さあ、入って」
「あ・・・は、はい」
思わず見惚れていた私に気がついたのか、女戦闘員のお姉さんがくすっと笑う。
「ああ、これ? 驚かせてごめんなさい。次回のショーの衣装合わせなの」
「そ、そうなんですか? すごくかっこいいです。悪の組織の女戦闘員って感じでとても素敵です」
私はどうして彼女がそんな格好していたかすぐに納得し、感じたままにそう言った。
「くすっ、ありがと。あなたは悪の組織向きかしらね」
「はい、悪の組織は大好きです」
あまり大きな声じゃいえないけど、悪の組織に改造されて女怪人になりたいなって思ったこともあるのよね。
「そう、それはうれしいわ。面接がんばってね」
「ありがとうございます」
奥の部屋に通された私は女戦闘員さんに頭を下げた。
「いらっしゃい。古林さんね? そこに座って」
わぁ・・・
面接の担当の方なのか、部屋にはこちらも若い女性の方がいた。
しかも、黒い全身タイツの上に赤いアーマーパーツをつけて頭には角のついたサークレットを嵌めている。
まさに悪の女幹部といったいでたちだわぁ。
私はもう感激して、座ることも忘れてしまう。
「どうしたの? 座って」
「あ、は、はい。失礼します」
私はソファに腰掛け、両手をひざの上に置く。
「驚いたでしょ? 時間がなくて衣装合わせのままで失礼しますね。私は黒井企画の所長で闇川(やみがわ)といいます。よろしくね」
向かい側に腰掛ける闇川さん。
その姿は本当に悪の女幹部って感じですごくかっこいい。
あこがれちゃうわぁ。
「古林弘美です。よろしくお願いいたします」
私は頭を下げる。
もう私はここで働きたいっていう思いが強かった。
できるだけいい印象を与えなきゃ・・・
「それじゃ、一応履歴書を見せてくれるかしら」
「はい」
私はカバンから履歴書を取り出して手渡した。
「はい。採用」
「えっ?」
私は思わず聞き返した。
闇川さんは私の渡した履歴書をほとんど見てもいない。
「採用よ。驚いた?」
「はい。こんなにあっさりと・・・その」
「こういうのはね、相性みたいなのが大事なの。あなたなら組織の一員にぴったりだわ」
組織?
うわ、なんかすごくいい響き。
悪の組織って感じだわぁ。
「あ、ありがとうございます。がんばります」
この場で採用になるなんて思いもしなかったけど、笑顔の闇川さんに私はまた頭を下げた。
「それでね。悪いんだけど、ショーの役割としてあなたには悪の女怪人をやってもらいたいの。いいかしら?」
悪の女怪人?
うわぁ・・・
もちろん大歓迎だよぉ・・・
「は、はい。悪の女怪人大好きです。ぜひやらせてください」
「うふふ・・・あなたならそう言ってくれると思ったわ。データ通りね」
えっ?
データ通り?
どういうことなんだろう・・・
「私よ・・・そう、彼女は承諾したわ。これで怪人がまた一人・・・うふふ・・・ええ、持ってきてちょうだい」
闇川さんが手元の電話で何か話している。
うう・・・
悪の女怪人ができるなんてうれしいよぉ・・・
でもヒーローショーで悪の怪人役なんて上手にできるかなぁ・・・
「失礼します」
先ほど私を案内してくれた受付の女戦闘員さんが大きなケースを持ってくる。
「ご苦労様、下がっていいわ」
「ヒャイー!」
ケースを私の脇に置いた女戦闘員さんは、敬礼をして奇声をあげる。
うわぁ・・・
感激だよぉ・・・
ちゃんと女戦闘員さんしているよぉ・・・
まさに悪の女幹部と女戦闘員のやり取りというものを見て、私はすごくうれしくなった。
ええい、オタクと笑うなら笑え。
悪の組織好きとしては、こういうシーンにしびれるのよぉ・・・
「そのケース、開けて御覧なさい」
ソファーで脚を組んだ闇川さんが私に言う。
「は、はい」
思わず悪の女幹部の命令に私は姿勢を正しちゃう。
大きなケースを私は手に取り、テーブルの上に載せてふたを開けた。
「うわぁ・・・」
私は思わず声を上げる。
ケースの中には赤茶色の怪人の衣装が入っていたのだ。
「わがシャドウブラックの女怪人ムカデーラの衣装よ。早速着てみてくれるかしら」
「えっ、今からですか?」
私は驚いた。
「衣装合わせは早いほうがいいわ。さあ、着て御覧なさい」
先ほどとはぜんぜん違う闇川さん。
優しいお姉さんって感じだったのが、威厳ある上司の顔になっている。
「はい。着替えます」
私はすぐに制服のスカートに手をかける。
「えと・・・ここで、ですか?」
「かまわないでしょ」
「あ、はい」
何か闇川さんの威厳に飲まれちゃった感じで、私はスカートを脱ぎ捨てる。
制服の上着も脱ぎ、下着だけの姿になって、私はケースの中から衣装を取り出した。
「下着も脱ぎなさい」
「ええっ?」
「この衣装はレオタードのように躰にぴったり張り付くの。下着も脱いで着替えなさい」
闇川さんの目が私の有無を言わせない。
私は仕方なく下着も靴下も脱いで裸になる。
うう・・・
恥ずかしい。
でも、それと同時に私はどきどきするような興奮も感じていた。
今から私は悪の組織の女怪人になるんだ。
あこがれていた女怪人になれるんだわ。
衣装はまさにレオタードといった感じのものだった。
少し厚手の赤茶色のレオタードのそでと両脇にムカデの小さな足がついている。
ムカデかぁ・・・
あのわさわさ歩くのは嫌いなんだけど、悪の怪人だから仕方ないよね。
私はレオタードに両脚を通し、腰までたくし上げてそでに腕を通す。
背中に入った切れ込みがファスナーでもないのにすっと閉じて、首周りまで密着する。
するとレオタードが私の皮膚になったように感じられ、両脇と両腕についた歩肢も自分の躰の一部のようにわさわさと動き始める。
すごい。
どんな仕掛けなんだろう。
まるで本当に私の躰が変化したみたいだわ。
続けて私はひざまでのブーツを履き、足になじませる。
ハイヒール状になっているのに、まるで履いてないかのように足が軽い。
次に手袋を嵌めると、手袋の指先についた鉤爪が私の爪のように輝いていた。
そしてムカデの頭部を模したヘルメットをかぶると、目の部分がバイザーのようなもので覆われ、一瞬視界が妨げられる。
でも、額から伸びる触角がふるふると震えると、すぐに私は外部のことが手に取るように察知できた。
「うふふふふ・・・新たなるシャドウブラックの怪人ムカデーラの誕生ね」
闇川さんが・・・いいえ、シャドウブラック女幹部ヘルザーラ様が立ち上がる。
シャドウブラックのベルトを締めた私は、ヘルザーラ様にひざまずいて一礼した。
「ヘルザーラ様。私はシャドウブラックの女怪人ムカデーラ。どうぞ何なりとご命令を」
私はヘルザーラ様とシャドウブラックに忠誠を誓う。
そう・・・
私はもう古林弘美などという人間ではない。
シャドウブラックの女怪人ムカデーラ。
この身も心も悪の組織ブラックシャドウのものなんだわ。
「うふふふ・・・ムカデーラよ、お前はその躰についた歩肢を震わせることで催眠音波を発することができるのだ。その能力を使い人間どもをコントロールして我がブラックシャドウの手先とせよ」
「かしこまりましたヘルザーラ様。このムカデーラにお任せを」
私は本当の悪の女怪人になれた喜びに打ち震え、これからの任務の楽しさを想像して笑みを浮かべるのだった。
END
以上です。
よければ感想や拍手などいただけるとうれしいです。
雑談所(
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/11495/)での雑談も大歓迎ですので、ぜひ遊びに来てください。
それではまた。
- 2008/07/10(木) 21:41:52|
- 怪人化・機械化系SS
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