他所様のことになってしまいますが、私がいつも大変お世話になっておりますg-than様のサイト「
Kiss in the dark」が、本日めでたく四周年を迎えられました。
g-than様、四周年おめでとうございます。
そして、先日はこちらも私がお世話になっておりますxsylphyx様のサイト「
x only」も二周年を迎えられ、その記念として当ブログを含めまして三サイトでいっせいに、xsylphyx様が創作なされました魔法機動ジャスリオンの新作SSを掲載することとなりました。
すでにx only及びKiss in the darkでは公開されており、当ブログが一番最後となりましたが、xsylphyx様ならびにg-than様より文章と挿絵の掲載許可をいただいておりますので、ここに掲載させていただきます。
それではxsylphyx様のすばらしいSSと、g-than様の素敵なイラストのコラボレーションを、心ゆくまでお楽しみくださいませ。
魔法機動ジャスリオン2nd 第10話『マナミとチヒロ』
19時15分
川霧女学園『パソコン研究会』の部室だけ明かりが灯っている。
「あとは静電気に気をつけてメモリーを取り付けるだけっと」
「またぁ こんな時間まで残ってちゃダメだって言ったでしょう!」
戸締りの見回りをしていた大河内真奈美(おおこうち まなみ)が苦笑いで常習犯に声をかける。
「あっ 真奈美先生 もうちょっと、もうちょっとで新しいパソちゃんが組み上がるの! あと30分だけ 30分で帰りますからお見逃し下さいませ」
手を合わせて拝むように頭を下げる常習犯、パソコン研究部部員三枝椎子(さえぐさ しいこ)。
彼女は川霧女学園2年生で真奈美も日本史を教えていた。
「だ~めっ 直ぐに帰る用意をしなさい」
「あうッ… で、でも… このパソちゃんをこのままの姿で放って帰るなんてわたしには……真奈美先生! 真奈美先生は大好きなケーキを半分だけ残して止められますか!! 彼氏と会って、おやすみのキスもしないで別れて帰れますか!!! どうなんですか!!!!」
「いや…あのね三枝さん ちょっと例えがヘンかな… それと…いないんだな…彼氏…」
「そうでしたか それは失礼… ってことで、あと30分だけわたしに時間を下さい」
「軽く流すなっ!! 仕方ないなぁ わたしが迎えに来るまで そうね、あと10分くらいかな」
「えぇぇ!! あと10分… わかりました 全力で組み上げます!!」
「う~ん この可愛いピンクのボディがたまりませ~ん」
組み立てを終えたパソコンを見つめながら椎子はニヤニヤしている。
「明日は朝からOSのセットアップ走らせて… いや、今から走らせるか…」
椎子がブツブツ独り言を言いながら、ディスクの群れを物色しはじめると…
「へえぇ CPUはペンシルの1.5THzか」
「うん 海外からお取り寄せしたんだよ Vittaは評判悪いから問題外と」
椎子は手に取った三枚のうちから一枚のディスクを机の上に放り出した。
「となると、サービスパック9で安定性と信頼性を向上させたXOか、無理やりNyacOSVVにするか」
「なに言ってるのよ これからはVitta! Vittaの時代よ」
椎子が放り出したディスクを黒い手が拾い上げ、有無を言わさず彼女自慢のパソコンに挿入していた。
「ちょ、ちょっとキミ! 勝手にセットアップしな あっ…あぁぁ…走っちゃったよ」
「重いけど、まぁ1.5Tならそこそこ動くんじゃない」
「そ、そこそこって失礼ね 最強のペンシル1.5Tよ! 放熱にも工夫してるんだからね!!」
「だってこの闇機械なら、何倍?何十倍?何百倍? ううん、何千倍の処理能力があるから」
「ナッ! そんなサイコロみたいなのが……って言うかさ、キミだれ?」
黄色い回路図模様が画かれた黒い躯で、額の黄色い眼と冷たい輝きを秘めた瞳で自分を見つめている美少女を見て、驚きもせず椎子は尋ねていた。
「私? 私はメモリ 闇機械軍団アクマシン 記の魔女メモリ」
「闇機械軍団? アクマシン? 記憶の魔女? メモリー?」
「アッ、それ間違ってるから 記憶の魔女じゃなくて記の魔女ね メモリーってのばさないでメモリね」
「名前はどうでもいいけど その小さいサイコロに、わたしの傑作パソ君が足元にも及ばないですって?」
椎子は鼻で笑いながら、メモリが手の平に乗せている立方体を指でつついた。
「フフ… どうでもいいって失礼なヤツ」
「失礼なのはあなたでしょう こんな時間に学校に忍び込んで………あれ? あなたどこかで…」
「見たことある? 当然よ…」
微笑みながら、持っていた闇機械を椎子の額に押し付けると、柔らかい物に突き刺すかのように椎子の額に指を沈め、闇機械を彼女の頭の中に埋め込んだ。
「エッ、エエぇッ! イ、イタッ…くない… あ、あれ、あれ?」
闇機械を押し付けられた額を擦り、どうもなっていないことに首を傾げる椎子。
「あれ?あれ?? サイコロどこ行った? サイコロと指が刺さったように思えたけど…」
『フフフ… プロセッサの言ったとおり あなたは役に立ちそうね…』
いつのまにかメモリの姿も消え、彼女の声だけが椎子の頭の中に響いた。
「エェェ!! 消えた?消えた!! 夢?じゃない! 声が聞こえた! 役に立つって言われた!! 役に立つ? なんの?」
「三枝…さん? 何してるの?」
訳の分からないことを叫びながら、キョロキョロしている椎子を、見回りを終えて迎えに来た真奈美が不思議そうに見つめていた。
「あっ! 真奈美先生、いま、いまッ」
【RESET】
真奈美にメモリのことを話そうとした椎子が固まったように動かなくなり、抑揚のない口調で話し出す。
「データを復元中・・・・復元完了 システムを再起動します しばらくお待ち下さい・・・・起動完了」
「三枝さん? そうしたの?」
【RESTART】
「組み立て完了っと!! 見て下さい この美しいピンクのボディ!! カワイイと思いませんか」
「えっ? ええ、そ、そうね…」
組み立てたパソコンに頬擦りをして、いつも以上に奇妙な行動をとる椎子を、真奈美は怪訝な顔で見つめていた。
「ホントにもう! みんなと一緒に帰らないとダメよ」
「わかってるけど、パソ君たちを弄りだすと止まらなくなってしまうんですよね」
真奈美は見回り当番があった日、必ずこうして椎子と一緒に夜道を歩いている。
「そうだ! 真奈美先生にお聞きしたいことがあるんですけど…」
「えっ? なに? またヘンなこと聞かないでよ」
「ヘンなこと…かな… さっき真奈美先生、彼氏いないって言ってたでしょう」
「エッ!! そ、それがどうかしたのか、か、かしら」
「でも 彼女とかは、いるんじゃないですか?」
「か、か、彼女って! バ、バ、バカなこと、い、言わないでよ!」
「ふふぅ~ん… そうです…か やっぱりそうきますか…」
意味深な笑みを浮かべた椎子が、カバンの中からデジカメを取り出していた。
「わたし見ちゃったんですよねぇ 真奈美先生と3年の山咲センパイが××してるところ…」
「な、なに言ってるのよ! 3年の山咲さんとわたしがそんなことするわけ… おかしなこと言わないでよ!」
「ふぅ~ん… おそろいの服を着た真奈美先生と山咲センパイ とっても綺麗でしたよぉ でもどうしてあんな格好を?」
撮影した写真を探しながら歩いている椎子を、真奈美は横目でみつめていた。
「あったぁ!! ホラ見て下さい! これってレオタード…かな? 色はパープル…だと思うんです」
椎子がデジカメの液晶に映し出されている映像を真奈美に見せる。
「先週末の深夜、新作ソフトを買った帰りに撮ったんです」
「ちょ、ちょっと三枝さん! この写真、顔がはっきり写ってないじゃない これでどうして、わたしと山咲さんだって言うのよ!」
「フッフッフ… 確かに顔は写っていません マスクのような物を着けてる感じがするし… でも、間違いなく真奈美先生と山咲センパイです」
「三枝さん! いい加減にしないと」
「まだあるんです!」
「エッ…」
不敵な笑みを浮かべる椎子のメガネが輝いた。
「この写真を画像分析した物が家のパソに…」
「そこまでしなくても…」
街灯の明かりがとどかない薄闇を歩いているため、真奈美の顔は見えなかったが、いつもの優しい笑顔のない、冷たい瞳で椎子の横顔を見つめていた。
「でも残念なことに、元ネタが鮮明じゃないから全く判別できませんでしたw でも、わたしには真奈美先生と山咲センパイにしか見えなくて…… この人たち、どうしてこんな格好してるのかなぁ 深夜にコスプレってのもなぁ」
「もうッ! 三枝さんが勝手に、わたしと山咲さんだと思い込んでただけじゃないの!」
「アハハハッ ごめんなさぁい それじゃ真奈美先生、今日もありがとうございました 明日からはなるべく気をつけますので~」
「ホントにそう思ってる? 毎回そう言って別れてますけど?」
「アハハハッ おやすみなさぁい」
「おやすみなさい」
椎子が少し先に見える我が家に向かって走り出すと真奈美は立ち止まり、彼女が家に入るのを確認してから、きびすを返した。
深夜
高層マンションの屋上
二つの影が眼下に見える部屋の明かりを見つめている。
「マナミ あの娘なの?」
「ええそうよ チヒロ クス…そんな眼をしないの」
美しい黒髪を風になびかせ、チラリと自分を見やるチヒロをマナミは後ろから抱きしめた。
「結構カワイイじゃない 気になる娘なんでしょう」
「ええ とっても気になるわ 魔力を纏い、闇に同化しているわたしたちの姿があの娘には見えている」
「そんなに嬉しい? 今日のマナミ、ずっとあの娘のことばかり…」
「エッ? クスクス… チヒロ、妬いてるの?」
「そんなことない!」
チヒロの両肩をやさしく掴んだマナミはくるりとチヒロを振り向かせて唇をあわせる。
「ンふ… あの娘はそんなのじゃないわ 私が欲しいのはチヒロだけ…」
「…ホント? ホントにわたしだけ?」

マナミは小さく頷き…
「大好きよ チヒロ」
「わたしもマナミが好き… 大好き」
マナミの首に腕をまわして抱きついたチヒロは唇を重ね、赤紫の瞳を輝かせるとマナミの体を優しく弄りはじめた。
「マナミがキスするから… したくなってきたじゃない…」
「ダメ…チヒロ… いまは…あの娘を私たちの…あぁっ…」
頬を紅潮させてチヒロの腕を抑えたマナミが愛しい恋人の頬を優しく撫でる。
「仕事が終わってから…ね だからいまは…」
マナミは体を密着させて、チヒロを強く抱きしめると唇を奪い、激しく舌を絡ませた。
同じ時刻
帰宅後、食事とお風呂を適当に済ませた椎子が、マイパソコンの改造を完了させていた。
「学校から借りてきた予備ペンシルへの換装完了!! さっそくスピード測定っと… うひゃあぁ♪ Vittaの起動が速い速い速~い!! これが1.5Tの力かぁッ! これだったら学校のパソ」
ご機嫌に話をしていた椎子の言葉と動きが止まる。
「アクマシンモード起動・・・ピ…ピッピ……キュイーンー……ピロン…ポロロン…」
椎子の瞳が金色に輝き、抑揚のない言葉を並べると、全身が深緑のゼンタイスーツを着込んだように変化し、その表面に金色の回路図のような模様が描かれた。
人間の体内に埋め込まれた闇機械は精神と肉体を支配し、アクマシンの『械人』に改造する。
椎子もメモリに埋め込まれた闇機械で械人に改造されていた。
「オプション接続・・・」
異様な姿に変貌した椎子は、机の上に置いてあった銀色のデジカメを自分の顔に押し付け、デジカメを体内に取り込むと、右眼をレンズ、左眼を液晶に置き換え、頭部全体をシルバーの金属で覆った。
「ピッピ…ウォーニング デスマドーハンノウ・・・・ピッピ… サクテキカイシ・・・・・・」
椎子は電子音のような声で話、窓の外を見やると、右眼のレンズをズームさせて、マナミとチヒロが潜んでいるマンションの屋上にフォーカスを合わせた。
右眼で捉えている映像が左眼の液晶に映し出され、頭に埋め込まれた闇機械が画像を分析する。
「ピッピ… デスマドーホソク ズームイン・・・」
マンションの壁しか映っていなかった左眼の液晶に、うしろからマナミに抱きしめられているチヒロと、彼女の耳元で囁いているマナミの姿が浮かびあがり、二人の顔だけがズームアップされた。
「ピッピ… サーチ・・・」
左眼の液晶にアイマスクを着けた二人の顔が表示され、その隣に椎子が記憶している人物の顔が次々に映し出される。
「ピッピ…ターゲット1 ヤマサキチヒロ ピッピ…ターゲット2 オオコウチマナミ シュウシュウデータヲソウシン・・・・・・・・・ピッピ…プロセッササマカラノ シレイヲジュシン・・・メイレイプロセスヲジュンビチュウ・・・・・・オプションユニットセットアップ・・・」
椎子が自慢の手作りパソコンや部屋中に散乱しているパソコンパーツを体内に取り込みはじめると、深緑の躯がパソコンや周辺機器のカバーを変質させた白い西洋風の鎧で覆われ、腰や背中、腕などに怪しい武器に改造されたパーツが装備された。
「ピッピ…オプションヲユウコウニスルタメ システムヲサイキドウシマス・・・・・・・・・ピッピ…サイキドウカンリョウ・・・メイレイプロセスヲジッコウ・・・」
窓から外に飛び出した椎子は、背中と足の裏に装備されたファンで宙に浮くと、二人がいるマンション屋上へ向かう最短距離を移動した。
「…マナミ…そんなにされたら… もう我慢できないよ…」
「ダメよ… んムぅ…」
「ムグぅ…」
妖艶に微笑んだマナミが激しくチヒロの唇を奪う。
「ンン… つづきは三枝椎子を仲間にしてから、ゆっくり楽しみましょね チ・ヒ・ロ」
「もう…いじわる… あとでいっぱいしてもらうから…」
向かい合い、しっかり指を絡ませて手を握り合っていた二人が、背中合わせになり魔力を高めた。
「敵… ジャスリオンじゃないわ」
「ええ 例の敵…ね 気をつけて、チヒロ」
「マナミもね」
宿敵ジャスリオンとは違う邪悪な気配を感じ取った二人。
「ピッピ…ターゲットロックオン・・・ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
「マナミ、上!!」
頭上からの電子化された女性の声に素早く反応したチヒロが、腕の怪しげなパーツで二人を狙っている椎子に向けて魔弾を放つ。
魔弾の軌道を瞬時に計算した椎子は回避行動をとりながら、先端に四角いソケットが付いたケーブルを発射してチヒロの腹部、ヘソに命中させていた。
「ウッ…」
「チヒロ!!」
「ピッピ…ケーブルセツゾクカンリョウ・・・インストールディスクセット・・・ドライブユニットセツゾク・・・」
椎子が腰の黒いボックスにディスクを挿入し、チヒロの腹部に打ち込んだケーブルの反対側を接続するとボックスはチヒロに向かって飛んで行き、彼女の腰にグルグルとケーブルを巻きつけるとベルトのバックルのように納まった。
「ピッピ…ターゲット1 データコピーカイシ・・・」
「何よこんなもの!」
「チヒロ すぐに外してあげるわ!」
「エッ…なに…」
怪しい黒いベルトを装着されたチヒロがボックスを剥がそうとしていると、ボックスの表面に+(プラス)の文字が現れ、青紫に明滅しはじめる。
それと同時に、チヒロは頭の中に何かが流れ込んでくるような不愉快な感覚に襲われた。
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
チヒロに取り付けられたボックスを取り外そうとしているマナミに椎子が狙いをさだめる。
「外れない… チヒロ、魔力を高めて! 破壊するわ」
「ダメッ! マナミ アイツが狙ってる わたしのことは後でいいから」
「大丈夫? 動けるの? 私がアイツを引き付けるから、その間にここから」
「次は外さない! 何があっても私はマナミと一緒に戦うから!!」
力強く輝くチヒロの瞳と言葉がマナミの言葉を遮る。
「チヒロ… わかった 無理しないでね」
マナミは鈍い音とともに打ち出されたケーブルをかわしながら威嚇の魔弾を放ち、チヒロは意識を集中し、魔力を最高まで高めた。
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
何度目かの攻撃をかわしたマナミは、なかなか攻撃をはじめないチヒロを見やった。
「チヒロ! どうしたのチヒロ!!」
チヒロの体全体に金色の回路図様の模様が拡がり、纏っている魔力も異質な波動を帯びていた。
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
「…ダ…メ……マナ…ミ…… …にげ…て… …わたしが… …わたし…じゃ… ウグゥッ…」
「チヒロッ!!」
様子がおかしいチヒロに駆け寄ろうとするマナミの行く手を阻み、椎子がチヒロのとなりに舞い降りると、彼女に取り付けたボックスにアクマシンシの紋様が描かれたディスクを挿入した。
「ピッピ…ターゲット1 データコピーカンリョウ・・・アクマシンスレイブシステムディスクセット・・・」
「なに…を…する……やめ…アガッ… ……マ…ナ……ィ………」
ディスクを挿入されるとすぐ、チヒロの体に描かれた回路図に光が走り、ボックスの+の文字が青紫に輝くと、チヒロの瞳に青紫が滲む。
そして全身に描かれた回路図を保護するかのように、青紫のメタル皮膜がボックスから拡がり、さらにその上から透明の樹脂膜がチヒロの全身を覆っていった。
「チヒロ チヒロ! チヒロッ!!」
「………」
無表情になったチヒロはマナミの呼びかけに答えようともせず…
「アクマシンスレイブシステム起動… …闇機械が確認できません… …セーフモードで再起動… …機能制限中…」
感情のない口調で話すチヒロが冷たい異質な魔力を纏う。
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
「かしこまりました… デスマドー戦闘員捕獲をサポートします…」
誰かの命令に答えるかのように言葉を並べたチヒロが、鏡面のように月明かりを反射する体をマナミに向けた。
「チヒ…ロ… …いや…そんな眼で見ないで…お願いだから… チヒロ…」
冷ややかにマナミを見つめたまま、コツコツと音をたて近づくチヒロが、歩きながら手のひらをマナミに向けると、迷うことなく魔弾を放った。
「アウッ …やめてチヒロ… おねがいだから…」
何も出来ずにいるマナミを見据え、チヒロは躊躇なく魔弾を打ち込む。
全身に魔力を纏い、チヒロの魔弾を防ごうとしたが、アクマシンで異質に変化したチヒロの魔弾を完全に防ぐことができず、肩、胸、お腹と次々に魔弾を撃ち込まれたマナミはその場に膝をついた。
「ウッ… カハッ… ゴフッ… クッ…… や…やめて…チヒロ…」
「デスマドー戦闘員を捕獲します」
マナミは自分を捕らえようと手を伸ばすチヒロの腕を掴み、引き寄せると強く抱きしめた。
「私はチヒロが好き…大好きなの… ずっと一緒にいたい… チヒロと戦うくらいなら…私も…」
「川霧女学園教員 大河内真奈美 暗黒魔界デスマドー デスマドー少女隊を率いる中心的存在 マナミ」
「チヒロ… 私のこと…わかるの…」
マナミの手を振り払い、冷たい体を密着させて、後ろからマナミを取り押さえるチヒロ。
「ターゲットを捕獲 アクマシンスレイブドライブを装着して下さい」
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
チヒロが完全に敵の手に堕ちていることを悟ったマナミは、何も言わず、されるがままだった。
「…これでまた…一緒に戦える… でも… もうあなたのぬくもりを感じることは…」
悲しそうに微笑むマナミの体にケーブルが撃ち込まれ、チヒロの物とは少し異なる、表面に-(マイナス)の文字が描かれた黒いボックスが取り付けられた。
漆黒の体に描かれた回路図に赤、青、黄色の光りを走らせている三つの影。
アクマシン三幹部、知の魔女プロセッサ、記の魔女メモリ、動の魔女ドライブが並んで立っている。
そしてその後ろの闇で、二つの黄色い眼が開いた。
「デスマドーの戦闘員をアクマシンの支配下においたようですね わが娘たちよ」
「はい マザー デスマドーの亡霊とアクマシンの技術を融合させた闇携帯端末『ERO-G』が選び出した二人の戦闘員を」
「アクマシンの忠実なシモベに改造し、二人に、自分たちが指揮していた戦闘員たちを」
「闇機械軍団アクマシンの戦闘員に改造する手伝いをさせてあげました」
三人はボードマザーに作戦完了の報告を行い頭を下げる。
「お前たち、マザーに自己紹介なさい」
プロセッサの命令に従い、青紫に輝いている体で跪いていた集団が顔を上げ、青紫に染まった瞳を頭上の黄色い眼に向ける。
彼女たちは装着された黒いボックスに描かれている+と-それぞれに分かれ、マナミとチヒロを先頭にピラミッド状に整列していた。
「マナミRe(アールイー)」
立ち上がり敬礼の姿勢で答えるマナミ。
続いてチヒロたちも同じ姿勢で応える。
「チヒロRe」
「アサミRe」
―――
―――
―――
「ミノリRe」
「「「「 アクマシン少女隊 闇機械軍団アクマシンに永遠の忠誠を誓います 」」」」

アクマシンのシモベと化した少女たちは、最後の一人が挨拶を終わらせると声を揃えて宣誓の言葉を唱えた。
「マザー このようにアクマシン少女隊は、アクマシンスレイブシステムと魔動力コンバータを内蔵した外付け闇機械で制御、完全にわれらの支配下にあります」
少女隊全員の体にはウエストの黒いボックスの他に、手にガントレット様のユニットが装着されており、マナミとチヒロだけはヘッドセットが取り付けられていた。
「わが娘プロセッサ その二人、他にはない装備が装着されているのはなぜですか」
「はい マザー この二人、いまはスレイブシステムと闇機械、そしてこのシールドリングで完全に支配管理しています ですが、システムのバージョンアップとシールドリングを装備するまでは、不可思議な力でお互いを惹きつけ合い、自我を取り戻すことがたびたびあり、二人が自我を取り戻すと他の少女隊も自我を取り戻すという興味深い反応を見せていました」
「闇機械の絶対支配力から逃れることなど、あり得ない事です」
「ホントです マザー プロセッサの言ってることは」
「わかっています わが娘メモリ その力、魔動力の秘密を知る手掛かりになるかもしれません」
「はい マザー マナミReとチヒロReに装備したシールドリングで二人を監視しています」
「よろしい その二人については、プロセッサ、おまえにすべて任せます」
「はい かしこまりました マザー」
「おっはよー!!」
「「エッ!!」」
「ん? んん?」
「ど、どうしたの…純玲ちゃん…」
「なにが? 千尋、風邪は大丈夫? 頑丈な千尋が一週間も休むから心配したよ」
「なにがって… だって純玲ちゃんが…」
「頑丈って… 人を何だと思ってる! わたしはスミスミが予鈴の前に、教室にいるってことが心配だッ!」
「うん… わたしも心配… 何か良くない事が…」
「な、なんてこと… 綾がそんなこと言うなんて… コイツか! コイツが綾を悪の道に!! 許さんぞぉ●ョ●ー!!」
千尋に向かってファイティングポーズを決める純玲。
「誰が悪だ! 誰が●ョ●ーだ! スミスミ、また昭和の特撮モノに嵌ったな」
「そう! そうなの!! あの主役の渋クサイ芝居は癖になるよぉ」
「純玲ちゃん…千尋ちゃん…先生だよ」
「ハーイ とっくに本鈴鳴ってますよ! みんな席に…… うそッ なんで?」
呆然と純玲を見つめる真奈美。
「ん?」
じっと自分を見つめる真奈美を見つめ返して、純玲は小首を傾げた。
「ん? んん? んーん? あっ 真奈美先生も風邪治ったんだ」
「う、うん もう大丈夫だけど… それより い、雷さん ど、どうしたの…」
「どうしたの?って…」
教室の掛け時計と腕時計を何度も確認する真奈美の仕草に純玲もようやく気づき。
「ま…まさか…真奈美先生まで… ひどぉいよぉ…」
教室が笑い声で溢れる。
だがそれはアクマシンの械人にされた下級生と戦ったばかりの純玲には辛すぎる光景だった。
そして…
笑いの中心で無理して明るく振舞ってみせている純玲を、冷たく見つめる真奈美と千尋。
その二人を妖しく微笑み見る綾。
純玲は周囲が大きく動き始めていることに、まだ気づいていなかった。
【 次週予告 】
純玲だよっ
アクマシンってほんっとに頭にきちゃう
わたしの登校時間に限って現れるなんて!
おかげで、今日も遅刻しちゃって…ち、違うよ
今朝は遅刻なんかしてないんだからねっ。
じゃ、次回第11話「暗黒の日」に
リードネオジャスリオン!
はわっ、綾~~~、おいてかないでぇ~~~!
いかがでしたでしょうか。
xsylphyx様、いつもながらすばらしいSSをありがとうございました。
g-than様、素敵なイラストをありがとうございました。
(架空の深夜アニメの形をとっておりますので次回予告が入っておりますが、続けてSSが投下されるということではございませんので、ご了承くださいませ。)
それではまた。
- 2008/06/23(月) 20:25:01|
- 魔法機動ジャスリオン
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