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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

炎上

「グァスの嵐」十二回目です。

短いですけどどうぞ。

12、
「マスターーー!」
ミューは声を限りに叫んでいた。
音声伝達は距離に反比例する。
距離が遠くなれば伝わらなくなってしまうのだ。
おそらくもうぎりぎりの距離だろう。
ミューは自己の能力をいっぱいに使って視覚を望遠にする。
遠ざかる蒸気船はギャレーに今まさに追い付かれそうになっていた。
「マスターーー!」
ミューの叫びは届かない。
接近してくるファヌーがあるのを認めたが、ミューは意識的に無視をした。
どの道ミューには身動きの取りようがなかったし、どうやら悪意があって近づいてくるとは思えなかったからである。
おそらくは彼女を人間と誤認識した者たちが、急いで救出しようと思って近づいてくる可能性が80%以上だろう。
ミューももちろんだが、人間は海に浮いていられはしない。
船から放り出されるということは生命活動に重大な危険を及ぼすことなのだ。
だから人間はできる限り救助しようとする。
近づいてくるファヌーも救助活動に当たる可能性が大だった。
「マスターーー!」
ミューは叫ぶ。
すでにマスターではないと命じられはしたものの、ミューのシナプス回路は納得をしていない。
自己に及ぶ危険を考慮した場合、ミューをこのように放り出すという行動自体が通常の行動ではない。
自己保存を優先する場合はミューと蒸気船を軍隊に差し出すのが一番確率的に有利である。
軍隊はミューと蒸気船を手に入れることで、マスターへ危害を加えない可能性が一気に上昇するからだ。
しかし、マスターはミューを放り出した。
ミューを破壊したいという行動ではない。
それならばフローティの木片をくくりつける必要は無い。
そのまま放り出すか、ミューに船から飛び降りるように命じればよい。
そうすればミューの躰は密雲に飲み込まれ、おそらくは二度と浮かび上がることなく永遠に雲の下の強大な圧力に閉じ込められたままだろう。
と、なると考えられることはマスターは自己保存の確率が低くなることを承知の上で、ミューを放り出したということになる。
「マスター・・・どうして・・・」
ミューの胸にはいい知れない感情が湧き上がっていた。

「そこの船! 帆を降ろして停船せよ! こちらはリューバ王国海軍艦シファリオンである! 繰り返す! 停船せよ!」
ギャレーの船首で大声を上げている士官。
「ふん・・・何が停船じゃい」
まったく意に介した様子もなく老人はワインをラッパ飲みしている。
美味い・・・
「停船せよ! 止まらなければ攻撃する!」
すでにギャレーは蒸気船の右側に並ぶほどになっている。
だが、老人はただ一瞥するとゆっくりと立ち上がった。
「さて、始めるとするか・・・」
老人はそうつぶやいた。

「だめです、提督。まったく停船する気配がありません」
「何をしておる! 鍵を引っ掛けて乗り移るんだ。自航船を手に入れるんだ!」
副長の報告に怒鳴りつけるエスキベル提督。
もう指呼の距離にあるというのに何をやっているというのか。
「は、ハハッ! おい、引っ掛け鍵を用意しろ! 乗り込み用意!」
慌てて指示を下す副長。
どうも対応が遅い。
エスキベル提督は苛立ちを隠せない。
ことここにおよんで逃がしでもしたら・・・
そう思ったその時。
「う、うわ。あいつ、火を・・・」
「うおっ、火をつけやがった!」
なんだと?
水兵たちのどよめきに提督は驚いた。
火を・・・つけただと?
「い、いかん! 火を消せ! 火を消すんだ!」
我知らず提督は大声で叫んでいた。

老人の周囲で燃え上がる炎。
予備の帆や薪を燃やしたのだ。
ボイラーに残っていた燠火を撒き、さらに帆や燃えやすい物をそこに広げる。
燠火はしばらく燻ぶったあとに燃え広がり、木造の船体をその炎が舐め始めていた。
「これでいいわい。あとは・・・」
斧を取り出す老人。
彼はその斧を思い切りボイラーに向かって振り下ろす。
ガシーンという金属音が響いてボイラーに裂け目が入った。
「もう一丁」
老人は再び振り下ろす。
ボイラーは悲鳴を上げるかのように金属音を上げ、斧によって壊されていった。

「ようし、もうチョイ舵を右に切ってくれ」
「わかった」
エミリオはゴルドアンの指示通りに舵を切る。
ファヌーは徐々に人影の方へと近づいていた。
「女の子だわ」
はらはらしながら浮いている人影を見ていたフィオレンティーナが、その人影を少女と認める。
「ああ、なんてこったい。こんなところで何があったんだ?」
ゴルドアンの四本の腕が激しく動き、帆を微妙な角度で捌いていく。
「フィオ! ロープの先にフローティの木片をつけて!」
「え?」
とっさのことにエミリオの言ったことがフィオレンティーナには理解できない。
「投げてやるんだ。早く!」
「あ、わ、わかったわ」
すぐにフィオレンティーナも理解して作業にかかる。
ここは空間である以上、ロープを投げてもすぐに垂れ下がってしまって、相手には届かないのだ。
そのために木片を取り付けて先端を浮かせなくてはならないのだ。
「できたよ」
先端に手ごろな大きさの木片を付けたロープがエミリオに向けられる。
「よし、ゴルに渡してくれ」
「わかったわ」
フィオレンティーナはうなずくと、すぐにそれをゴルドアンに手渡しに行った。
「ゴル、これ」
「よしきた!」
ゴルドアンはロープを受け取るとすぐさまそれを放り投げる体勢に入る。
腕が四本あるというのはこういう時にはなんと便利なのだろうか。
「おーい、聞こえるか~! 今からロープを投げる。しっかり受け取れー!」
ゴルドアンは浮かんでいる少女に対してそう叫んだ。

ミューのそばまでやってきたファヌーから声が聞こえる。
なまりの無いセリバーン海の地方言語だ。
ロープを投げるから受け取れと言っている。
「わかりましたー」
ミューは両手を頭上で振って了解の合図をする。
すぐにファヌーからロープが投げられ、ミューの手元に流れてくる。
上手い。
ミューは感心した。
この海という空間で、ロープをきちんと流すのはコツがいる。
それをいともたやすく流すなんて熟練の船乗りなのだろう。
バグリー人だわ。
ミューはファヌーの船上に、このあたりではあまり見かけない異星人を発見する。
四本の腕が特徴の直立したオオトカゲのような恒星間種族。
それがこの星に居るのはミューもデータ上から知ってはいた。
だが、こんなところで会うのは確率上からも少なかったのだ。
ミューは流れてきたロープをしっかりと手に取ると、躰にくるりと巻きつけた。
  1. 2006/09/13(水) 21:50:26|
  2. グァスの嵐
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
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