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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

月子の懸念

今日は帝都奇譚をお送りします。
しばらく重点的に書いていくつもりですので、楽しんでいただければ幸いです。

23、
重苦しい沈黙が室内を支配している。
啜り泣きがあちこちから聞こえてくる。
喪服姿の人々があちこちで沈痛な表情を浮かべている。
「小夜さん・・・」
布団に寝かされ、白い布をかぶされた小夜。
「どうか、顔を拝んであげてください」
父親が白い布をそっとはずす。
「ああ・・・」
姉川久がたたみに額を擦り付けるように泣き崩れた。
「小夜さん・・・」
「真木野さん・・・」
茶道部の友人たちもみな一様に声を詰まらせる。
青ざめた顔の小夜は穏やかな表情で目を閉じていた。
白い着物を着せられ寝かされている小夜は、その眠りが永遠のものになってしまったなど信じられない。
「小夜さん・・・」
摩耶子はそっと手を合わせ、目を閉じて小夜の冥福を祈る。
ほんのちょっとしか知り合えなかったが、彼女のことは妙に心に残っていた。
電灯を背にした小夜の顔。
あれは本当にあったことだったのだろうか・・・
何かぼんやりしている。
一体何が・・・

摩耶子は意を決して立ち上がる。
そっとその場を離れると、玄関から裏庭に向かっていく。
幸い皆通夜の支度で急がしそうで、摩耶子の行動を見咎める者はいなかった。
私は何をやっているのかしら・・・
自分でも不思議に思う。
でも、確かめずにはいられない。
小夜に夕べ会ったのだとしたら・・・
会ったのだとしたら・・・?
小夜の死は私が原因だとでも?
摩耶子は首を振る。
そんなことはありえない。
心の臓の発作だと言っていた。
心の臓の発作が小夜の命を奪ったのだ。
そこに自分は関係ない。
たとえ夕べ小夜に会っていたとしても、その死には関係が無いはずだ・・・

真木野小夜の家。
今日始めて訪れた彼女の家。
なのに・・・
なのになぜ・・・
なぜ見覚えがあるのだろう・・・
摩耶子が歩く先には大きな庭が広がっていた。
真木野家は大きな武家屋敷が元になっている。
庭には池もあり、石灯籠がおいてある。
そのすべてが摩耶子の記憶にぴったりとはまるのだ。
間違いない。
私は夕べここに来たんだ・・・
摩耶子はそう思う。
そして、その思いは、障子窓が開けられた小夜の部屋が見えたときに確信に変わった。

「あれ? 摩耶子さんは?」
久が気が付くと、いつの間にか摩耶子の姿が見えなくなっていた。
「さっき出て行ったようですわ」
「お手洗いにでも行ったのではありませんか?」
茶道部の友人たちが教えてくれる。
「それにしては遅くない?」
「そうですわね。出て行かれてからもうかなり経ちますわね」
久は壁にかけられた時計に目を移す。
すでに時間は夕方の6時過ぎ。
そろそろお坊様がお経を上げに来るはずだ。
久は立ち上がった。
また無理をして気分が悪くなったのかもしれない。
だとしたら大変だ。
とりあえずどこにいるのか探しておこう。
久はそう思ったのだった。

「あ・・・れ・・・?」
目を覚ます摩耶子。
額には濡れた手ぬぐいが置かれ、いつの間にか制服のまま布団に寝かせられていたのだ。
「目が覚めましたか?」
「月子・・・さん?」
隣には心配そうな表情で摩耶子をうかがっている月子がいる。
「ここ・・・は?」
上半身を起こす摩耶子。
庭から見えた小夜の部屋が、あの記憶とぴったり当てはまったことを理解してからの記憶がない。
「ここは鷹司のお屋敷ですよ。あなたは真木野家で気を失われたそうで、姉川様と言うお嬢様がお知らせくださったのです」
月子は摩耶子の額から落ちた手ぬぐいを拾い、洗面器の水に漬ける。
「そうでしたか・・・また姉川さんにご迷惑をおかけしてしまった・・・」
「貧血のようですね。こういったことはしょっちゅうあるのですか?」
手ぬぐいを絞って摩耶子に手渡す月子。
摩耶子はそれを受け取り、額と首筋に浮かんだ汗をぬぐっていく。
「いいえ、この数日です。どうも躰の調子が思わしく無く・・・」
「躰の調子がですか? いけませんですね。勉強に根を詰めすぎなのではありませんか?」
手ぬぐいを摩耶子から受け取り微笑を向ける月子。
仕事とはいえ、こうして知り合った娘さんと仲良くできるのはうれしいもの。
だからこそ、躰のことも気にかけてしまう。
「そんなことは・・・それよりも・・・」
「それよりも?」
脇においておいたりんごの皮をむき始める月子。
「私・・・昨夜・・・おとなしく寝ていたのでしょうか?」
その手が摩耶子の言葉に止まる。
「おとなしく寝ていなかったのではないかと?」
月子の目が鋭くなる。
「わかりません。ただ・・・」
「ただ?」
「真木野さんの家に行ったような・・・」
「今日お通夜のあったお宅ですね?」
摩耶子はこくりとうなずいた。
「真木野さんの家に行って何かをしたのですか?」
「わかりません・・・小夜さんに会ったのだと思います」
「小夜さんというのは亡くなられたお方?」
「はい・・・」
月子は何か考えつつ皮むきを再開する。
「はい、召し上がれ」
皮と芯をきれいに取り除かれたりんごを皿に載せて差し出す。
「ありがとうございます」
摩耶子がりんごを食べ始めたとき、月子はそっと摩耶子の額に手を当てた。
何も感じられない・・・考えすぎか?
でも・・・
「熱は無いようですね。りんごを食べたらおやすみなさい。私は部屋で待機しますので」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんてとんでもないですわ。ゆっくり休んでくださいね」
月子はそう言って部屋を出る。
その表情は硬かった。
  1. 2008/03/06(木) 19:20:13|
  2. 帝都奇譚
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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