100万ヒット記念SS、本日もう一つは先日予告しましたとおり、「魔法機動ジャスリオン」2ndシーズンの先行販売DVDとなったストーリー、「プロローグ・魔女生誕」です。
今日明日明後日と三日連続で投下しますので、どうか楽しんでいただければと思います。
皆様、あらためまして100万ヒットありがとうございました。
「魔法機動ジャスリオン2ndシーズンプロローグ・魔女生誕」
いずことも知れぬ闇の中。
その一点にぼんやりとした明かりが現れる。
その数二つ。
薄く黄色く輝くその明かりは、周囲を照らすものではなく、まるで誰かが開けた眼のように切れ長で、闇の中に二つ淡く浮いていた。
『うふ・・・うふふふふ・・・』
どこからか笑い声が漏れてくる。
その笑いが闇の中からのものであることに気が付くのはたやすいこと。
まるで闇そのものが眼を開き、笑みを浮かべているかのようだった。
『おろかですねデスマダー・・・おのれの一部でありながら、それによっておのれを封じられてしまうとは・・・』
闇に篭る声が響く。
それは艶のある女の声。
何者かはわからぬものの、この声の持ち主は女性であるかのようだった。
『まあよい・・・おかげで妾(わらわ)はこうして目覚めることができました。礼を言わねばなりませんね・・・オホホホホホ・・・』
甲高い女の笑い声が周囲を圧する。
闇が震えたように感じたのはその笑いのせいだったかもしれなかった。
******
「おはよー」
「おはよー」
いつもの朝が今日もやってくる。
学生カバンを手にした睦月寿美(むつき かずみ)もいつものように学校へと向かっているところだった。
川霧女学園の校門付近には、今日も女子生徒たちが登校してくる。
また新たなる一日がスタートするのだ。
春の温かい日差しと、ちょっぴり冷たい空気を胸に含んで、寿美は気持ちよい朝を迎えていたのだった。
「おはよう寿美」
「おはようございます、寿美さん」
背後から声をかけられて寿美は振り返る。
そこには温かな笑顔を浮かべた二人の女子高生が立っていた。
「おはよう、珠恵ちゃん、摩子ちゃん」
寿美はにこやかに二人の級友に挨拶を返す。
昨年一緒になったクラスメートだが、三人はとても馬が合うらしく、まるで生まれたときから親友であることを定められたかのようなつながりを感じることもある。
ちょっと背の高い涼風珠恵(すずかぜ たまえ)は運動神経抜群で、体育はいつも上位の成績を誇るが、反面学業がおろそかになりがちで、試験前には二人に勉強を教えてもらうこともしばしば。
長い黒髪をなびかせる吹雪摩子(ふぶき まこ)は正真正銘のお嬢様で、いつも丁寧な物腰を崩さない。
勉強も得意で試験では常に学年上位を保っていた。
そんな二人に囲まれる寿美にはこれと言ってとりえがない。
しいて言えば家事が得意ということになるのだが、そんなのは母の手伝いをしていれば自然とできてしまうものであると寿美は思う。
だから、体育では珠恵に教わり、勉強では摩子に教わりという形になってなんとなく肩身が狭いのだが、そのことを二人に言うと、二人はそろって驚いたような顔をしてこう言うのだ。
「「知ってる? 私たちはすごく寿美に助けられているんだよ。寿美がいるから私たちは私たちでいられるんだよ」」と。
それがどういうことを意味しているのか寿美にはいまいち飲み込めないことであったが、時々寿美が手作りのお菓子を作って持って行くと二人ともすごく喜んでくれるので、それで恩返しになっているのかなと勝手に思うことにしていた。
「英語の宿題やってきましたか?」
カバンを両手で持って歩く姿はまさにお嬢様という感じの摩子が言う。
「う~~~、やろうとは・・・やろうとはしたんだよ。でも・・・でもワィーが、ワィーが私を呼んでいたのさ」
こぶしを握り呼ばれたことを力説する珠恵。
ワィーというのはゲーム機だ。
要はゲームで遊んでしまったということなのだが。
「私も・・・やってはみたんだけど、半分ぐらいしかできなかった」
寿美も肩をすくめる。
英語は苦手だ。
どうして外国の言葉など学ばなくてはいけないのか?
どうせなら英語圏の国に生まれていれば英語に苦労しなくてもいいのに・・・
「摩子~~~。三時間目までによろしく」
珠恵が頭を下げる。
「くすっ、そんなことしなくてもいいですわ。みんなで一緒に休み時間にやりましょう」
「おおー、ありがとう摩子様。あなたは女神様のような人だ」
「あははは、大げさだよ珠恵ちゃん」
三人はいつものように笑いあい、楽しく校門をくぐるのだった。
「う~~~、遅刻遅刻ぅ」
校門に駆け込んでくる活発そうな女子生徒。
玄関のところでは、にこやかに微笑みながら彼女を待つもう一人の生徒が手を振っている。
「えっ、遅刻?」
珠恵が思わず腕時計を見た。
時刻はまだ八時半。
朝礼までにはまだ十分もある。
「あれは三年生の雷(いかづち)先輩ですわね。どうも口癖になっちゃっているのではないでしょうか」
「うんうん。私もそう思う。いっつも走るときに遅刻遅刻ぅって言っているもん」
寿美は先ほどから先輩の姿を眼で追っていた。
昨年、ふとしたことで知り合ってから、雷先輩は寿美の気になる人になっていたのだ。
親友の巻雲先輩や山咲先輩といつも楽しそうに過ごしている雷先輩。
雷なんていういかめしい苗字とは裏腹に、純玲(すみれ)という素敵な名前であることを寿美は知っている。
珠恵や摩子に感じるのとは違う思い。
それが憧れだけなのかどうかは寿美にもわからないが、玄関に入って行く純玲を寿美の眼は最後まで追っていた。
******
「ふう・・・」
お腹すいたなぁ・・・
そう寿美は思う。
時刻は十二時少し前。
四時間目も半ば近くなったころだ。
ふと窓に眼をやると、下に広がるグラウンドでは体育の授業が行われているところだった。
どうやら走り幅跳びの時間らしい。
白い体操着に紺のスパッツ姿の女子生徒たちが次々とジャンプを繰り広げている。
窓際の席であることをいいことに、授業にも飽きてきていた寿美はその様子をなんとなく眺めていた。
その眼が一点に凝集する。
次にスタートに立ったのは、誰あろう雷純玲だったのだ。
教師に右手を上げて報告し、スタートを切る。
カモシカのような引き締まった脚が、ぐんぐんと純玲の体を加速する。
「ふわぁ・・・」
運動神経がいいとは知っていたが、こうしてみるとすごく素敵だ。
珠恵ちゃんとどっちが速いかななどとも考えてしまう。
純玲はその加速のピークで踏み切り板を踏むと、ぐんと高くジャンプしてそのまま前方に躰を投げ出して行く。
着地したのは踏み切り板からかなり離れたところ。
寿美には天地がひっくり返っても到達し得ない場所だ。
すごい・・・
寿美は心の底からそう思う。
だが・・・
踏み切り板のところにいた女生徒が旗を上げた。
ファールだ。
ガッツポーズをしていた純玲がその揚がった旗を見てへなへなと崩れ落ちる。
思わず寿美は笑みが漏れた。
かっこいいのに、素敵なのに、どこかドジな純玲先輩。
寿美はそんな純玲がとても好きだった。
プルプルとポケットの中で何かが震える。
えっ?
思わず寿美はポケットに手を入れるとともに、周囲に気を配る。
マナーモードになっているから着信音はないものの、突然のバイブレーションは寿美をドキッとさせるには充分だった。
きっとぼんやりしていた自分を見て、珠恵ちゃんがメールでも送ってきたのだろう。
振動で授業に集中させようと思ったのかもしれない。
寿美はそう思って珠恵の方を見たが、肝心の珠恵は空腹を紛らわせるには寝るのが一番とばかりに机に突っ伏している。
あれ?
それじゃ摩子ちゃんかな?
彼女たち三人は一年の時から一緒のクラスだ。
二年生へは持ち上がりなので、今年になっても一緒のクラスは変わりがない。
三年生になれば進学組みや就職組みなど進路によってクラスが変わるが、今年一年は一緒にいられるのだ。
寿美は摩子の方を見るが、授業が楽しい摩子は寿美には注意を払っていない。
おそらくメールも彼女ではないだろう。
じゃ、誰かしら・・・
もしかして迷惑メール?
授業が終わった後に確認すればいいだけなのだが、寿美はなんとなく着信したものが気になった。
先生が黒板に向かった時を利用して寿美は携帯電話を取り出してみる。
開いてみると着信が一件入っていた。
差出人:mother@akumasin.com
件名:見つけたわ
「?」
寿美は首をかしげた。
迷惑メールはフィルターがかかっているから着信しないはず。
もちろんそれをかいくぐっての迷惑メールだってありえるし、開いたらやばいものもあるのはわかっていた。
だけど・・・
寿美はこのメールが気になった。
中を見たくて仕方なかったのだ。
見つけたというのは何を見つけたのか。
こういう場合はたいていいやらしいサイトを見つけたとかいう迷惑メールだと思うのだけど、寿美は何か得体の知れないものを感じてもいた。
怖いからこそ見たくなる。
まさにそういう状況だったかもしれない。
寿美は授業中であることも忘れ、メールを開いてみた。
「ひゃぁっ!」
思わず声を上げてしまう寿美。
携帯電話の液晶画面いっぱいに黄色く輝く眼が映し出され、それが彼女をぎょろりとにらんできたのだ。
さらに、機械の回路図のようなものが画面から湧き出して、携帯電話の赤いボディに広がっていく。
寿美は授業中であるにもかかわらず、携帯電話を放り出してしまったのだった。
しんと静まり返った教室。
一瞬後教室に忍び笑いが広がっていく。
「睦月さん」
あきれたような表情で寿美を見ている日本史の教師。
親しみやすいという評判の真奈美先生でも、授業中に携帯電話をいじっていたら怒るに決まっている。
寿美は自分が何をしてしまったのかに気が付き、うなだれた。
「す、すみません」
「もうすぐお昼で授業に身が入らないのはわかるけど・・・携帯をいじるなんてだめじゃない」
真奈美先生は苦笑している。
寿美は何も言えなかった。
まさか携帯電話に眼が表示されたからだなんて言えるはずが無い。
「ふう・・・もうだめよ。携帯を拾ってしまっておきなさい」
「はい」
寿美は席を立ち、放り出してしまった携帯電話を取りに行く。
床に転がった携帯電話はいつもと変わった様子は見受けられない。
全体に広がった回路図のようなものもきれいさっぱりと消えていた。
なんとなくホッとして寿美は携帯電話に手を伸ばす。
「!」
携帯電話に触れた寿美の手にピリッと小さな痺れが走る。
一瞬顔をしかめた寿美だが、真奈美先生が見ている以上再度放り出すこともできず、すぐに携帯電話をポケットに放り込んだ。
******
「それで? 今はどうなんですか?」
心配そうに摩子が寿美の顔をうかがう。
お昼休みの校舎の屋上。
寿美たちは春の温かい風が吹くこの屋上でお昼を食べていたのだ。
「うん、今はなんとも無いよ。待ち受け画面もお気に入りのやつだし」
寿美がわざわざ携帯電話の待ち受け画面を二人に見せる。
そこには以前三人で撮った写真が表示されていた。
本当はこっそり撮った純玲の写真を待ち受け画面にしたいのだけど、さすがに恥ずかしくてそれはできなかった。
「ふうん、でも妙だね。着信したメールって消えちゃったんだろ?」
「そうなの。着信したはずなんだけどなぁ」
それは寿美が一番不思議に思ったことだった。
確かにあの時メールは送られてきていたのに・・・
『見つけたわ』と件名も入っていたというのに・・・
「まあ、そういうこともあるってことじゃないの? 携帯会社の新企画とかさ」
「そういうことも考えられますわね。最初にドッキリさせておいて迷惑メール対処には月額何百円のセットをどうぞって」
摩子の言葉に珠恵がうんうんとうなずいている。
確かにそんなこともあるかもしれない。
でも、あれはそんなものじゃないと思う。
もっと・・・
もっと恐ろしい何かが・・・
寿美は表示されたあの眼を思い出しぞっとした。
- 2008/02/14(木) 20:05:43|
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