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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

前任者の意思を継がされた女

今日から当ブログは19年目に突入です。
あと2年続ければ20年ですよ。(笑)
そこまで続けられるといいなぁ。
(*´ω`)

ということで、今日は18周年記念ということでSSを一本投下します。
タイトルは「前任者の意思を継がされた女」です。

それではどうぞ。


前任者の意思を継がされた女

 「ぬおおお! おのれ斬剣戦隊めーーー!」
 全身の黒い鎧にあちこちひび割れを生じ、がっくりと膝をつくアルメ団の幹部キュイラス。
 さんざん地球で暴れまわり、人々を苦しめてきた大男にもついに最後の時が来たのだ。
 人々の幸せを願い、必死にアルメ団と戦ってきたソードイエローの黄森裕美(きもり ゆみ)にとっても、待ち望んできた瞬間だ。

 よろよろとしながらも手にした巨大ハンマーを杖代わりにして立ち上がり、ヘルメットの下のいかつい顔を上げ、その目で彼女たち斬剣戦隊の五人をにらみつけてくるキュイラス。
 瀕死の重傷を負ってもなお戦おうとするその姿は、さすがに地球を狙うアルメ団の幹部にふさわしい。
 だが、裕美たち五人にとっては憎むべき敵であり、倒さねばならない相手なのだ。

 「ぐふっ……このままでは終わらんぞ……必ず俺の意思を継ぐ者が……クククク……」
 ニヤッと笑みを浮かべて不気味に笑うキュイラス。
 そして杖代わりの巨大ハンマーをゆっくりと持ち上げる。
 なんという気力だろうか。
 もはやそんな力は残っていなかっただろうに……

 「とどめだ! ソードパワー!」
 「「「ソードパワー!」」」
 ソードレッドの声にブルー、イエロー、ピンク、グリーンが唱和する。
 それぞれが高く掲げた剣に力が集中し、光となって現れる。
 「「「レインボーカッター!!」」」
 掛け声とともにレッドの剣にそれぞれの光が集中し、五色の光の剣となって振り下ろされる。
 「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
 光の剣がキュイラスを真っ二つに切り裂いたようにその躰を通り抜け、断末魔の悲鳴が上がる。
 何体ものアルメ団の装甲獣を葬ってきた無敵の必殺技だ。
 さすがのキュイラスとはいえ、ひとたまりもないだろう。

 ドサッとその場に倒れるキュイラス。
 「ふう……」
 思わずソードレッドが息をつき、他の四人も集中を解く。
 裕美はすぐにピクリとも動かなくなったキュイラスに近づくと、その死を確かめるためにかがみこむ。
 「ひっ!」
 小さく悲鳴を上げる裕美。
 突然キュイラスの目が開き、その手がガシッと裕美の足を掴んできたのだ。
 「イエロー!」
 「イエロー!」
 すぐにほかのメンバーも駆け寄ってきて、裕美の足からキュイラスの手を引きはがす。
 「こ、これで……ぐふっ」
 引きずられるようにしてソードイエローから引き離されたキュイラスはそれだけ言って絶命し、その躰は塵になって崩壊する。
 「大丈夫か、イエロー?」
 「え、ええ。突然掴まれたからびっくりしたけど、大丈夫」
 裕美は掴まれた自分の右足をじっと見る。
 確かにケガをしたり痛みがあったりするわけではない。
 どうやらただ掴まれただけのようだ。
 「そうか。よかった」
 「まったく……驚かせやがるぜ」
 レッドもブルーもほっと安堵したようだ。
 イエローを道連れに自爆でもされるのではと思ったのだ。
 「とにかくこれでキュイラスは死んだ。戻って司令に報告しよう」
 「ああ」
 「ええ」
 五人は着ていたバトルスーツを解除すると、急いで基地へと戻るのだった。

                   ******

 「ふう……疲れちゃったのかな?」
 シャワーを浴び終え、パジャマに着替えた裕美はベッドに腰を下ろして、まだ乾ききっていない髪を拭いていく。
 キュイラスを倒したことで本部は喜びに包まれ、ささやかにお祝いも行われたのだが、裕美はなんとなく気分がすぐれずにいたのだ。
 このままで済むはずがない……
 そういう気持ちがある。
 アルメ団がこんなことぐらいで滅ぶはずがないのだ。
 必ず次の手を打ってくるに違いない。
 そう思うと、浮かれているみんながバカみたいに思える。
 ふう……
 裕美は手で右足に触れる。
 キュイラスにがっしりと掴まれた感触がよみがえってくる。
 別に痛みがあったり痣になったりしたわけではない。
 だが、掴まれた瞬間にゾワッとしたものを感じたのは事実だ。
 あれはなんだったのだろうか……

 立ち上がって髪を拭いていたタオルをハンガーにかけに行く。
 気にしてもしょうがない。
 突然掴まれたからびっくりしただけだろう。
 明日に備えて寝なくては。
 気にすることはないわ……
 裕美はそう思い、ベッドに戻ると眠りについた。

 規則正しい寝息を立てていた裕美。
 その目がカッと見開かれる。
 ゆっくりと上半身を起こす裕美。
 その口に笑みが浮かぶ。
 「ふふふ……どうやら眠りについたようだな」
 そうつぶやくと、ゆっくりとベッドから抜け出して明かりをつける。
 そしておもむろに自分の躰を見下ろした。
 「これがこの女の躰か。ふふ……悪くはない。男に比べて力は劣るが、なに、そのようなものはどうとでもなる」
 手を握ったり足を曲げたりして躰の感触を確かめる裕美。
 「ククク……まさかソードイエローとはな。女に取り憑くことになるとは思わなかったが、近くに来たのがこいつだったからやむを得ん」
 やがて裕美はゆっくりと鏡のところに向かっていく。
 そして鏡に映る自分の顔をじっくりと見つめていく。
 「ふふ……普段ヘルメットに覆われた姿しか見たことは無かったが、なかなかの美人ではないか」
 鏡の前で顔の向きを変え、いろいろな角度から自分の顔を映していく裕美。
 「なに……心配するな。お前を傷付けたりはせん。俺はもうすぐ消える。だが、その前にお前の思考に干渉し、お前を俺と同じ思考に変えてやる」
 まるで鏡の向こうにいる裕美に話しかけるようにつぶやく裕美。
 「そう……お前を俺の後継者にしてやるのだ。ふはははは……」
 静かな夜の一室に、裕美の低い笑い声が響いた。

                   ******

 目覚ましが鳴っている。
 もう朝か……
 「う、うーーーん……」
 裕美はベッドの中で思い切り伸びをする。
 躰が伸びて気持ちがいい。
 「ふわぁあ」
 大きくあくびをして起き上がる。
 まだ寝ていたいところだが仕方がない。
 今日も一日が始まるのだ。

 「ふふっ」
 洗顔のために洗面所に来た裕美は、鏡を見て小さく笑う。
 自分で言うのもなんだが、なかなかいい女だと思うのだ。
 胸だってそこそこあるし、躰だって引き締まっている。
 悪くない躰だ。
 これならバカな男どもをたぶらかすのはわけないだろう。
 「うふふ……」
 人間なんてそんなもの。
 愚かな連中。
 はたしてそんな連中に守る価値などあるのだろうか……

 「えっ?」
 そこまで考えて裕美はハッとする。
 私はいったい……
 私はソードイエロー。
 人々を守るのが私の……

 裕美は一度頭を振って気を取り直すと、顔を洗って身支度を行なっていく。
 そしていつもの通りに斬剣戦隊の本部へと向かった。

 「おはようございます」
 「おはよう」
 「おう、おはよう」
 「おはようございます」
 本部の控え室に入ると、裕美の挨拶にメンバーが返事を返してくる。
 どうやらソードグリーンこと緑村(みどりむら)とおるはまだ来ていないらしい。
 赤野(あかの)、青沢(あおさわ)、桃山(ももやま)の三人だけだ。
 あとは緑村が来れば斬剣戦隊の五人がそろうわけである。

 「異常は?」
 「今のところはないな」
 昨晩は本部詰めだった青沢が答える。
 「昨日キュイラスを失っているんだ。動くはずもないさ」
 赤野の言う通りだろう。
 大幹部であるキュイラスを失ったのだ。
 そう簡単にアルメ団が動けるはずもない。
 そうよ……
 アルメ団は大切な大幹部を失ったのよ……
 早く後継者を用意しないと……
 意思を継ぐ邪悪な後継者を……

 「裕美さん?」
 「えっ?」
 気付くと香織(かおり)ちゃんがこちらをのぞき込んでいた。
 桃山香織はソードピンクとして、裕美とともに斬剣戦隊の二人の女性のうちの一人である。
 「ぼうっとしてましたけど、どうかしました?」
 「えっ? そ、そうだった?」
 アルメ団のことを考えていたからだろうか?
 香織ちゃんは自分より年下だけど、結構しっかりしたところがあるから、装甲獣に改造しても面白いかもしれない。
 きっと彼女ならいい装甲獣に生まれ変わる……
 えっ?
 ぎょっとする裕美。
 わ、私は今何を?
 香織ちゃんを装甲獣に?
 確かに彼女なら……

 「ほら、また。もしかして昨日飲み過ぎちゃいました?」
 「そ、そんなことは」
 首を振る裕美。
 そもそも夕べは気分がすぐれなかったので、早々に部屋に戻ったはずなのだ。
 飲み過ぎるわけがない。
 「まあ、ちょっとぐらい飲み過ぎていたとしても、今日なら大丈夫ですよ。アルメ団も今頃は地球から逃げ出す準備でもしているんじゃないでしょうか」
 「そんなはずないでしょ!」
 思わず強い口調で言ってしまう裕美。
 アルメ団がそんなやわな組織のはずはないのだ。
 偉大なる首領様の元に精強な軍団をしたがえる素晴らしい組織なのよ。
 何も知らない小娘のくせに。

 「パトロールに行ってくるわ」
 裕美はそういうと、ヘルメットを手に控え室を後にする。
 どうもなんだかイライラしてしまうのだ。
 あまり緊張感のない雰囲気にイラついてしまったのかもしれない。
 くそっ!
 忌々しい……

 オートバイにまたがり道路を疾走する裕美。
 せっかくアルメ団の幹部を倒したというのに、ちっともうれしいとは感じない。
 それどころか、なぜか悔しさを感じてしまうのだ。
 地球人のような下等な連中に敗北するなど、アルメ団の幹部にあるまじき行為だ。
 偉大なる首領様もきっとお嘆きになっているはず……

 それでもこうしてバイクで風を切って走っていると、少しは気分も晴れてくる。
 どうせパトロールなど口実なのだ。
 このまま少し郊外まで行ってみようか。
 裕美はバイクのアクセルを回す。
 ヘルメットの下から伸びる裕美の髪が風になびいた。

                   ******

 「ふう……」
 バイクを駐車スペースに戻してヘルメットを脱ぐ裕美。
 髪が広がって解放感に包まれる。
 今日は楽しかった。
 途中でパトカーに追いかけられたが、軽く引き離してやったのだ。
 斬剣戦隊のメンバーの腕を舐めないでほしいわ。
 スピード違反?
 事故らなければいいのよ。
 くだらないルールに縛られるなんてばかばかしい。
 どうして今までルールに従おうなどと思っていたのだろう。
 下等な人間の決めた勝手なルールだというのに……

 とにかく気分がスカッとしたことは間違いない。
 どこかもやもやしていたものも吹き飛んだというものだ。
 このまま……
 このまま戦いに望みたいくらいだわ。
 戦い?
 私は戦いを望んでいるというの?

 「お帰り。何か異常はあったか?」
 裕美が控え室に入ると、雑誌を読んでいた青沢が顔を上げて声をかけてくる。
 ほかのメンバーはそれぞれ出かけているらしい。
 「別にないわ」
 そっけなく答える裕美。
 なんだろう……
 いつもなら愛想よく答えていた気がするのだが、なぜかそんな気にならないのだ。
 それどころか、スカッとしたはずの気分がまたもやもやとしてくる。
 神経がイラ立ってくるのだ。
 私はどうしてこんなところにいるのだろう……
 むしろアルメ団と遭遇したい気さえする。
 アルメ団と……

 「どうせここにいてもやることはないでしょ? やっぱり気分があんまりよくないの。今日はこれで上がるわ」
 このままここにいてもイラつくだけだと感じた裕美は、戻ったばかりだが早々に引き上げることにする。
 「ん、そうか。お大事にな」
 青沢もそれ以上は何も言わない。
 基本的には連絡がつけばいいのだ。
 「あっ」
 部屋を出ようとしたところで、戻ってきた香織とぶつかりそうになる裕美。
 「気を付けて! あ、いえ、ごめんなさい」
 裕美は一瞬声を荒げてしまうものの、ハッとしてすぐに謝る。
 「あ、いえ、こっちこそすみません」
 香織がすぐに脇によけてくれる。
 「ごめんね香織ちゃん」
 せっかくよけてくれたので、裕美は片手をちょっと上げて礼を言い、そのまま廊下へと出る。
 「どちらへ?」
 「あー、うん、どうも今日も気分がすぐれないの。家に戻るわ」
 「そうなんですか? ドクターに診てもらわなくても大丈夫ですか?」
 心配そうに声をかける香織。
 「ええ、そこまでではないわ。少し寝れば大丈夫だと思う」
 「わかりました。お大事に」
 「何かあったらすぐに連絡ちょうだいね」
 「はい」
 そんな会話をして裕美は廊下を歩きだす。
 さっきは思わず香織ちゃんを怒鳴りつけてしまった。
 なんだか自分の前を遮られたのが不愉快だったのだ。
 私の前を遮ることができるのは……偉大なる首領様……
 えっ?
 今私は何を?
 なんだか……何かが変だわ……

                   ******

 「ふう……」
 どうにも神経がいら立つ。
 どうしたというのだろう?
 自宅に帰ってきた裕美はそう思う。
 特に仲間たちの言動にいら立つのだ。
 こんなことは今までになかったこと。
 でも……
 なんだかみんなが敵に見えてしまう……

 体調が良くないのかもしれない。
 頭もなんだか少しぼんやりする。
 どこか自分が自分ではないような……
 ああ……
 偉大なる首領様……
 もうすぐ……

 いけない……
 なんだか本当に思考がまとまらないような気がするわ。
 これじゃいざというときに戦えない。
 今日はさっさと横になろう。
 風邪とかじゃないといいけど……

 とりあえず裕美は食事なども軽く済ませ、早々に横になって眠りにつく。
 明日になってもまだよくないようなら、本部のメディカルチェックを受けてもいいだろう。
 斬剣戦隊の戦士にとっては体調管理も重要なことなのだ。
 やがて裕美は規則正しい寝息を立てはじめた。

 深夜、裕美が目を開ける。
 そしておもむろに躰を起こす。
 「はあ……はあ……どうやら俺はここまでのようだ。だが……この女の思考はだいぶ俺と同じに……ククク……」
 どこか苦し気な表情だが、ニヤリと笑う裕美。
 「俺はもう消える……だがあとは……あとは……」
 そうつぶやいて一旦目を閉じる。
 そしてもう一度目を開けると、裕美はうつろな表情でこうつぶやいた。
 「はい……あとは私が……」

                   ******

 「うーん……ふわぁ」
 躰を起こして伸びをする。
 気持ちのいい朝だ。
 なんだか頭もすっきりしている。
 昨晩ぐっすりと眠れたおかげだろうか。

 さて……
 身支度をして出かけなくては。
 裕美はパジャマを脱ぎ捨てて着替えをし、もろもろの身支度を整えて家を出る。
 そしていつものようにバイクにまたがると、アクセルを回して走り出した。

 あれ?
 気付くと見慣れない場所にいる裕美。
 本部へ向かうつもりだった気がするが、いつの間にか違うところに来ていたのだ。
 いや、そうではない。
 ここに来るつもりだったような気もする。
 このアルメ団のアジトに……

 住宅街の一角のなんの変哲もない一般的な民家。
 どこにでもある一軒家の住宅。
 裕美は無造作に駐車スペースにバイクを止め、そのまま玄関へと歩いていく。
 塀で囲まれたそこそこ裕福な家庭が暮らすような家。
 だが人の気配はない。
 窓もカーテンが閉じられ、中を伺うことはできない。
 玄関のドアも鍵がかかっている。
 当然だ。
 ここは人間どもが入っていい場所ではない。
 団のメンバーだけが入れる場所なのだ。

 「メゼニソルアズラムフ」
 自然にそんな言葉が口から出る。
 カチッと音がしてドアが開く。
 裕美はそのまま中に入ってドアを閉める。
 「グーデ!」
 玄関に入ったところで再び言葉を口にする裕美。
 すると黒い闇が目の前に現れ、裕美の躰を飲み込んでいく。
 やがて闇が晴れた後には、裕美の姿は消え去っていた。

 ひんやりとした闇の回廊。
 裕美の歩く足音がカツカツと響く。
 初めて歩く場所のはずなのに、どこか懐かしさを感じるのはなぜだろう?
 この先にあるのはアルメ団のアジトの中心部。
 先ほどのはアジトから通じる外界との出入り口の一つに過ぎない。
 あのような出入り口はたくさんあり、アルメ団は自由自在に様々な場所に出現することが可能なのだ。
 ふふっ……
 思わず裕美の口元に笑みが浮かぶ。
 こんなことすら斬剣戦隊の連中は知らないなんて……
 対応が後手後手になるはずだわ。
 その程度でアルメ団に対抗しようだなんて……
 愚かにもほどがある……

 意外なことに、アジトの中だというのに誰にも会うことがない。
 裕美はとがめられることも無くアジトの中心部にやってくる。
 そこは薄暗いホールのような場所。
 正面には一段高くなって誰もいない椅子があり、そこに向かって両側に白い柱が立ち並んでいる。
 誰もいないはずなのに、どこか威圧感のようなものを感じる裕美。
 それとともに親愛の情のようなものも湧いてくるのだ。
 裕美はそのまま前に進み、段の前まで進み出る。
 そして、そのまま片膝をついてひざまずいた。

 (顔を上げよ)
 偉大なる首領様の声がじかに頭に響いてくる。
 聞くだけで心が高揚してくるようなお声だ。
 裕美はその声に従い顔を上げる。
 一段高くなったところにある椅子に、黒い人型の影が座っている。
 裕美はそれがアルメ団の偉大なる首領様の影であることに気が付いた。

 慌てて再び顔を下げる裕美。
 偉大なる首領様を直接仰ぎ見るなど恐れ多いと思ったのだ。
 (よい。かまわぬ)
 再び響く首領様の声。
 「あ、ありがとうございます」
 裕美は恐る恐るまた顔を上げる。
 (ふふふ……我がもとによくぞ来た。キュイラスの後継者よ)
 「えっ?」
 思わず声をあげてしまう裕美。
 後継者?
 私が……キュイラスの後継者?
 だが、驚きはやがて確信へと変わっていく。
 そうだわ……
 私はキュイラスの後継者。
 彼に代わってアルメ団の指揮を執り、偉大なる首領様のために働くのが私の役目。

 「はい。私はキュイラスの後継者。彼に代わってアルメ団の指揮を執り、この世界を征服して首領様にお捧げします」
 決意に満ちた表情で、裕美はきっぱりとそう口にする。
 (それでよい。お前は我がしもべ。アルメ団の指揮を執るがいい)
 「ははっ! お任せくださいませ」
 (立つがよい。お前に力を与えよう)
 「はっ!」
 裕美はスッと立ち上がる。
 椅子の人影が手を伸ばし、そこから黒い闇が伸びて裕美の躰を包み込んでいく。
 「ひっ!」
 一瞬戸惑う裕美だったが、闇は彼女の躰を完全に包み込み、何も見えなくしてしまう。
 裕美は自分の躰がほてってくるのを感じたものの、それはなんとも心地よいほてりだった。
 やがて闇が晴れてくると、全身を灰色の全身鎧に包んだ裕美の姿が現れる。
 頭部にも灰色の兜が被られ、顔以外はすっぽりと覆われていた。

 黒いアイシャドウが引かれた目をゆっくりと開ける裕美。
 ハッと気づいたように、あらためて自分の躰を見下ろしていく。
 「こ、これは?」
 全身を灰色の鎧に包み込まれた彼女の躰。
 両胸のところは丸く膨らみ、腰の部分はくびれて彼女の躰にぴったりとフィットしている。
 それに躰の内側から力があふれてみなぎってくるようだ。
 なんてすばらしいのだろう。
 私はもう下等な人間などではないのだわ。

 (黄森裕美よ。我が力を受け取った気分はどうか?)
 首領様の声が聞こえてくる。
 「はっ! ありがたき幸せ。首領様のお力をいただき、天にも昇る気持ちでございます」
 すぐさまあらためてひざまずき頭を下げる裕美。
 このような力をいただけるなんて……
 なんと幸せなのだろうと裕美は思う。
 (それでよい。これよりお前は魔将ラメラ―と名を改め、キュイラスの後継者として我がアルメ団の指揮を執るのだ)
 魔将ラメラ―!
 なんとすばらしい名前だろう。
 私はもう黄森裕美などというくだらない人間ではないのだ。
 「はっ! 我が名は魔将ラメラ―。偉大なる首領様に心からの忠誠を誓い、キュイラス殿の後継者としてアルメ団の指揮を執ります!」
 ラメラ―は心からの喜びに満ち溢れ、邪悪に染まったその美しい顔を上げるのだった。

                   ******

 「う……」
 ゆっくりと目を開ける桃山香織。
 いったいどうしたのだろう?
 確か裕美さんと一緒にパトロールに出たところまでは覚えているが……
 「えっ?」
 躰を起こそうとして、香織は自分が裸で寝かされていること、さらには両手首と足首を固定されていて起き上がれないことに気付く。
 「こ、これは?」
 いったいどういうことなの?
 私は捕らわれてしまったというの?
 何がなんだか香織はわからない。

 「うふふ……目が覚めたようね、香織ちゃん」
 「えっ?」
 声がした方に顔を向ける香織。
 そこには全身を灰色の全身鎧に覆った女性が立っている。
 「あ、あなたは?」
 「うふふ……仲間の顔を見忘れたのかしら?」
 近寄ってきた女性の兜の下の顔に気が付く香織。
 「そ、そんな……裕美さん? 裕美さんなんですか?」
 「うふふ……ええ、以前はそんな名前だったわね。でも今は違うわ。私は偉大なる首領様にお仕えする魔将ラメラ―。キュイラス殿の後継者として新たにアルメ団の指揮を執る者よ」
 にやりと冷たく笑うラメラ―。
 それは香織が見知っている裕美なら絶対に浮かべないような冷酷な笑みだ。
 「ど、どうして? どうして裕美さんが?」
 愕然とする香織。
 昨日まで……いや、先ほどまで一緒にアルメ団と戦ってきた仲間だったはずでは?

 「私はアルメ団のすばらしさに気付いたの。地球は偉大なる首領様が手になさるべき星。その邪魔をするなどおろか者のすることだとね」
 ゆっくりと語りかけるように話すラメラ―。
 すでに準備は整っているのだが、香織の驚愕と絶望の表情がたまらないのだ。
 「そんな……目を、目を覚ましてください裕美さん! あなたは騙されているんです! 地球をアルメ団なんかの手に渡しては……あっ!」
 「おだまりなさい!」
 ラメラ―のガントレット(籠手)の甲が香織の頬を打つ。
 「地球はアルメ団が支配するべき星よ。ごめんね……痛かった? 大丈夫。香織ちゃんもすぐに理解するわ」
 そのあとですぐに打った後の頬を優しく撫でるラメラ―。
 香織を傷付けるつもりはないのだ。
 彼女にはこれからアルメ団のために働いてもらうのだから。

 「理解? 私をどうするつもりですか?」
 香織はゾッとする。
 まさか自分も裕美のようになってしまうのではないだろうか?
 「うふふ……心配しないで。香織ちゃんはこれから改造を受けて装甲獣になるのよ。人間なんかの躰を捨てて、強い強い装甲獣に生まれ変わるの。とても素晴らしいことだとわかってくれると思うわ」
 香織が寝かされている台に腰かけ、優しく諭すように語り掛けてくるラメラ―。
 「そんな……い、いやっ! いやです!」
 身をよじって何とか拘束を解こうとする香織。
 だが、手首足首の拘束はがっちりとして外れない。

 「無駄よ。その枷は人間ごときには外せないわ。おとなしく装甲獣になるのよ」
 腰かけていた台から立ち上がり、そのわきにあるスイッチを押す。
 「ひああ……」
 寝かされていた香織の躰に電気のようなものが走り、ビクンと躰が跳ね上がる。
 「ああ……あああ……」
 全身が焼けるような熱さに包まれ、苦悶の表情を浮かべる香織。
 やがてその躰に変化が起きていく。
 白く抜けるような肌が、灰白色の硬い皮膚へと変化していき、体毛がすべて抜け落ちる。
 顔も鼻のあたりからせり出していき、鋭い角が生えていく。
 足の指も一つにまとまり、かかとも伸びてハイヒールのブーツを履いたように変化する。
 手の爪も鋭く伸び、鉤爪のように変わっていく。
 香織の躰はまるで人間の女性と動物のサイが融合したような姿へと変わっていった。

 それと同時に香織の精神も変化する。
 人間であったことは忌むべき過去となり、装甲獣であることが誇らしく思えてくる。
 アルメ団の首領に従うことこそが素晴らしいことであり、歯向かうものは皆殺しにしたくなる。
 地球はアルメ団のものであり、下等な人間は支配されて当然だと思うようになる。
 香織はもはや以前の香織ではなくなってしまっていた。

 「ブルルルル……」
 すっかり変化してサイのような顔になった香織がうなり声をあげる。
 「ふふふ……どうやら終わったようね。立ち上がりなさい、装甲獣ライノーサ」
 ラメラ―がスイッチを押すと、香織の手足を固定した枷が外される。
 「ブルルルル……」
 変化した躰をゆっくりと起こす香織。
 そのまま台から足を下ろし、その脇に立ち上がる。
 「うふふふふ……気分はどうかしら、装甲獣ライノーサ」
 「ブルルルル……それが私の新しい名前なのですねラメラー様」
 姿勢を正してラメラ―の前に立つライノーサ。
 「そうよ。お前は我がアルメ団の装甲獣ライノーサ」
 「ブルルルルッ! なんてすばらしい名前。最高の気分です。私はもう人間なんかじゃないわ。私は装甲獣ライノーサ! アルメ団の忠実なる戦士」
 喜ばしそうに胸を張るライノーサ。
 まるで灰白色の装甲に覆われたような躰だが、両の胸のふくらみも腰の括れもそのままで、女性らしいラインは損なわれていない。

 「うふふふ……それでいいわ。お前は装甲獣ライノーサ。これからはアルメ団のために働きなさい」
 「もちろんですラメラ―様。地球は偉大なる首領様のもの。歯向かう者はこの装甲獣ライノーサが角で突き殺してやりますわ。ブルルルルッ!」
 スッとひざまずくライノーサ。
 早く命令を下してほしいかのようだ。
 「うふふふ……暴れなさいライノーサ。お前が好きなソードレッドを含む斬剣戦隊を皆殺しにするのよ」
 「ラメラ―様、それは私が下等な人間だった時に抱いていたくだらない感情。そのようなものはもう今の私には存在いたしません。斬剣戦隊はアルメ団に歯向かう愚かな連中。このライノーサが必ず皆殺しにしてご覧に入れますわ」
 「ふふふ……頼もしいわ。さあ、行きなさい、ライノーサ!」
 ライノーサの答えに満足するラメラ―が命令を下す。
 「はっ! お任せくださいませ、ラメラ―様! ブルルルルッ!」
 うなり声を上げて立ち上がるライノーサ。
 カツカツと足音を響かせて出ていくその後ろ姿を見て、ラメラ―は笑みを浮かべるのだった。

END

いかがでしたでしょうか?
よろしければ感想などいただけますとうれしいです。

明日も一本投下する予定です。
お楽しみに。

今日はこんなところで。
それではまた。
  1. 2023/07/17(月) 18:00:00|
  2. 女幹部・戦闘員化系SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:9
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コメント

乗っ取り&怪人化

19年目のSSお疲れ様です。倒された敵幹部が変身ヒロインに乗り移り精神が同化、いいですね。

女怪人でサイは珍しいですがセクシーなサイ怪人というのもいいですね。これが本当のサイボーグ。←

明日もSS楽しみです。
  1. 2023/07/17(月) 18:08:20 |
  2. URL |
  3. テンプラー星人 #-
  4. [ 編集]

感想

19年目突入おめでとうございます!

今回は乗っ取りと洗脳の中間みたいな感じでしたね。
とても斬新に思いました。
パスワード等が頭に刷り込まれている所がいい(≧∇≦)b

とてもよかったです
  1. 2023/07/17(月) 19:41:46 |
  2. URL |
  3. sen-goku #rFnOs2i6
  4. [ 編集]

ブログ18周年おめでとうございます
そして19年目突入お疲れ様です( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )

催眠や洗脳というよりは精神汚染に近く、ジワジワと染まっていくも堕ちる時は一瞬という手遅れ感も感じれて良かったですね〜(*゚∀゚*)ムッハー
ラメラーが倒された時もまた誰かが引き継ぎそうですね
  1. 2023/07/17(月) 20:11:00 |
  2. URL |
  3. IMK #-
  4. [ 編集]

女性らしい体のラインが浮き上がった全身鎧もいい。(*´▽`*)

18周年記念SS投下、お疲れ様です。

今回のSSは「相手の体に乗り移り、じわじわと思考を同調させていって自分の後継者に仕立て上げる」というシチュエーションでしたが、やはりじわじわと思考が変わっていくというシチュエーションはいいですねぇ。
(*´▽`*)

また、魔将ラメラ―となった裕美や装甲獣ライノーサとなった香織は、女性らしい体のラインが浮き上がった全身鎧を着たような姿になりましたが、露出ゼロの全身鎧でも女性らしい体のラインが浮き上がったデザインの全身鎧はエロカッコよくていいですよね!
(*゜∀゜)=3

今回のSSもエロく、そして面白かったです!
明日も投下されるという新作SSも楽しみにしています!
(^_^)/
  1. 2023/07/17(月) 20:53:06 |
  2. URL |
  3. XEROXEL #97P46UCU
  4. [ 編集]

価値観融合と言うような感じの変化、素晴らしかったです!
キュイラスがパワー系?なキャラだったので、ソードイエローもその様な感じになるなかと想像したのですが、そうはならなかったのでよかったです(^^;
  1. 2023/07/18(火) 00:40:05 |
  2. URL |
  3. marsa #.dp7ssrY
  4. [ 編集]

18周年記念SSお疲れ様でした!
意思を継ぐとはこういうことでしたか。
ただの悪堕ちで無く、憑依からの後継者誕生とは新鮮でした。
睡眠で意識が無防備な時に一気に、起きてる時も徐々にかな。
一晩でかなり汚染されてるの凶悪ですね。
キュイラスに近づかなければ…、大幹部を倒しても油断しない慎重な性格が裏目に出ちゃいましたねー。
変わりっぷりも素敵。香織ちゃんが憑依されてたら小悪魔系幹部化してたかな(笑)
ネーミングは毎回色々考えておられ頭下がります。
次も楽しみにしています。
  1. 2023/07/18(火) 16:57:09 |
  2. URL |
  3. くろにゃん #rC5TICeA
  4. [ 編集]

皆様コメントありがとうございます

>>テンプラー星人様
憑依からの精神汚染もわりと私には珍しいですし、サイの怪人というのも珍しいかもしれませんね。
今回は敵組織がアルメ団=アーマー:鎧でしたので、サイがちょうどいいかなと思いましたのです。

>>sen-goku様
合言葉的なものがすっと出てくるのは「堕ちた」感じがするかなーと思って取り入れました。
憑依して汚染しちゃうのもいいですよね。

>>IMK様
まさに今回は憑依からの精神汚染系でした。
汚染の強さを出すためというわけでもないのですが、わりとあっさり堕ちてしまいましたね。(笑)

>>XEROXEL様
やはり女性を堕とすからには女性らしさを出したいですよね。
西洋鎧にはわりと女性らしいラインの物もあるということで、そういうものをイメージしました。
ライノーサは上にも書きましたが鎧をまとったっぽい生き物ということでサイを選びましたです。

>>marsa様
あー、確かにキュイラスはパワー系でしたねー。
おそらくラメラーはどちらかというと「嫌らしい」攻め方をしてきそうな感じですね。

>>くろにゃん様
おそらくおっしゃる通り寝ているときに一気に汚染されたんでしょうねー。
近づいてこなければ……その時はその時で何かこう一旦遺品に移し、その遺品を拾った人間が……みたいなことになったのかも。
確かに香織ちゃんだと小悪魔系だったかもしれませんね。
  1. 2023/07/18(火) 18:41:19 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

もう18年過ぎてしまうのですね、おめでとうございます~

今回の作品は乗っ取りかと思わせて、仲間にも悟らせずに内部から洗脳を試みるって感じでしょうか?
アジトに拉致する必要もないので凄く合理的ですね。
こういうお話好きです。

自分の死後の事も気にして組織に尽くす姿勢。
キュイラス真面目ですよねって思ったりもして。
  1. 2023/08/10(木) 09:39:16 |
  2. URL |
  3. g-than #-
  4. [ 編集]

>>g-than様
お久しぶりです。
コメントありがとうございます。
もう18年なんですわぁ。
早いものですねぇ。
g-thanさんともそのくらいのお付き合いになるんですよねー。

今回は「憑依からの精神汚染」という感じでやってみました。
確かにキュイラス殿はまじめだったのかも。(笑)
  1. 2023/08/10(木) 17:57:50 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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