今日は超短編SSを一本投下。
(´▽`)ノ
今朝ほどTwitterで女戦士をスケルトン化したら意思が残ったみたいなツイートをしたのですが、なんかSSにできそうだったので書いてみましたところ、先ほどできあがりましたので即投下。
タイトルは「骨だけの女」です。
短いですがお楽しみいただければと思います。
骨だけの女
しまったなぁ……
リーザは後悔していた。
勇躍乗り込んではみたものの、そこは人身売買のゴロツキの集まるあばら家ではなく、魔術師のねぐらだったというわけなのだ。
子供がさらわれたという話だったから、てっきりゴロツキどもがどこかに売り飛ばそうとしているのだと思い、それなら一刻も早くと相手のことを何も知らずに乗り込んだのがまずかった。
まさか相手が魔術師だったなんて……
なんとまあ……
魔術師は困惑していた。
まさか単身で女戦士が乗り込んでくるとは思わなかったのだ。
確かに魔法薬の材料としての子供をさらっては来たが、子供などどこでどうなるかわからないもの。
魔物に襲われて死ぬこともあれば病気で死ぬこともある。
そうなってもいいように複数産んでおくのが普通なのだ。
一人二人さらったからと言ってわざわざ追いかけてくるようなことでもあるまいに。
それに……
私を相手にするなら、せめて冒険者パーティでやってきてほしいものだ。
女戦士一人でやってくるとは無謀に過ぎるというものだろう。
こうしてにらみ合っていても仕方がない。
幸い剣は既に抜いてある。
あとは踏み込んで切りかかるだけ。
魔術師は確かに強敵かもしれないが、弱点だってあるのだ。
その最たるものは呪文詠唱だろう。
魔法は呪文を詠唱しないと発動しない。
だからパーティを組んだ時も、魔術師の呪文詠唱が終わるのをカバーする戦士が必要なのだ。
軽戦士で身軽な私ならば、呪文詠唱が終わる前に相手を……
リーザは意を決した。
やれやれ……
足元に倒れている女戦士。
逃げもせずに切りかかってくるとはおろかな女だ。
だいたい呪文詠唱なしに発動する魔法で身を守っていないとでも思っているのか?
魔法の矢を二発も食らえば即死だろう。
ちょうどいい。
今後こういうやつが入ってこないように、ゾンビにでもして門番に置いておこうか……
いや、ゾンビはどうしても肉体の腐敗臭が好きになれん。
それに見れば若い女戦士。
女の顔が腐っていくのを見るほど酔狂でもない。
いっそスケルトン(動く骸骨)にでもしようか。
スケルトンなら戦士にはぴったりだろう。
うむ、そうしよう。
そんな……
いったい何が起こったのだろう……
呪文の詠唱などなかったのに……
気付いたら何かに躰を貫かれていた。
一撃を与えることすらできずに倒れるだけ。
情けない……
こんなことで死ぬというのか?
リーア……
ごめ……ん……
******
あ……れ?
意識が戻ってくる。
私は死んだのでは?
死なずに済んだのかな?
呪文の詠唱が聞こえてくる。
その声を聴いているとなんだか心地よくなる。
支配者の声だ。
私のすべては彼のもの。
私は彼に従わなければならないのだ。
ご主人様……
何かが躰から流れていく。
躰がどんどん軽くなるのだ。
なんだろう……
すごく気持ちがいい。
今までなんと邪魔なものを身に着けていたものか。
躰がこんなに軽いものだったなんて……
だんだん周囲の様子がわかってくる。
呪文の詠唱をしているのはあの魔術師。
彼こそが私のご主人様。
私は彼に造られるのだ。
なんてうれしいことだろう。
「む?」
呪文の詠唱が終わった魔術師はふと気づく。
目の前に横たわる女戦士は、今すべての血肉が溶け落ちて骨だけになった。
その骨は魔力で動き、彼の命令に従う不死の奴隷。
スケルトンと呼ばれる骸骨戦士だ。
そのはずなのだが……
すべての血肉が溶け、骨だけになったはずのスケルトンの胸に、なぜか心臓だけが残っているのだ。
「心臓が残った?」
なぜ心臓だけが残っているのか?
もちろん動いてはいない。
死んでいる。
普通アンデッド作成呪文で作り出されたスケルトンに心臓など残るはずもない。
だが、なぜかあばら骨の内側で心臓だけが浮いているのだ。
いったいどういうことなのか?
命令がない……
呪文の詠唱は終わっている。
私はもうできあがっている。
なのに命令がない。
動いてもいいのだろうか?
起き上がってもいいのだろうか?
起き上がってご主人様にご挨拶してもいいのだろうか?
『あ、あのぅ……』
リーザはしびれを切らして声を出す。
「なにっ?」
驚愕したようなご主人様の表情。
何か驚かせるようなことをしてしまったのだろうか?
私はただ起き上がってもいいかたずねようとしただけなのに。
魔術師は驚いた。
スケルトンがしゃべったのだ。
スケルトンがしゃべるなど聞いたことも無い。
いったいこいつは何者だ?
ただのスケルトンではないというのか?
「お前は……なんだ? スケルトンなのか?」
ああ……ご主人様が返事をしてくれた。
それだけでリーザはうれしくなってしまう。
『はい。私はご主人様に造られたスケルトンです。ご主人様のために働きます』
「か、会話が……できるだと?」
またしてもご主人様が驚かれている。
どうしてしまわれたのだろう?
私の答えがご不満なのだろうか?
『申し訳ございませんご主人様。驚かせるつもりはありませんでした』
スケルトンの言葉に魔術師はただただ唖然とする。
このスケルトンには知性がある。
というか、おそらくは元の女戦士の魂が残ったままなのだ。
信じられない。
普通ゾンビやスケルトンになったものは、元の魂など消滅する。
ただ命令に従って動くだけの人形になるのだ。
いったいどこでどうしてしまったというのだろう……
『あの……ご主人様。起き上がってもよろしいでしょうか?』
「あ、ああ……」
よかった。
やっとご主人様の許可がいただけた。
リーザはゆっくりと躰を起こす。
すごい。
なんて躰が軽いんだろう。
今までの躰とは全く違う。
力を入れなくても自由自在に動く感じだ。
立ち上がったスケルトンがそのままスッとひざまずく。
『偉大なるご主人様。私をお造りいただきましてありがとうございます。私はご主人様の忠実なしもべ。どうぞ何なりとご命令ください』
うーむ……
あばら骨の内側に動かない心臓がある以外は、いたって普通のスケルトン……いわゆる人間の骸骨のようだ。
だが、どうやら意識を持っており話もできるという意味では普通のスケルトンではありえない。
「お前は我が命令に従うか?」
魔術師は確認のために問うてみる。
『もちろんでございます。私はご主人様に造られたスケルトン。ご主人様の命令に従うのが私の存在する意味です』
どうやら命令には従うようだ。
ならばこれは面白い存在かもしれん。
しばし使役して様子を見たほうがいいだろう。
「ならば入り口のところで見張りをせよ。誰がやってきても中に入れてはならぬ」
『かしこまりました、ご主人様』
リーザは最高の幸福を感じる。
ご主人様の命が下ったのだ。
スケルトンとしてこれほどうれしいことは無い。
主人のために働くことこそがスケルトンである私の存在意義なのだ。
誰がやってきたとしても、絶対に中に入れはしない。
リーザはそう決意する。
******
人間の時に使っていた剣を持ち、入り口のところに立つリーザ。
彼女の役目はここで見張りをし、ご主人様の邪魔をするおろか者が来たら排除することなのだ。
命令を果たしていると思うだけで気持ちがいい。
それにこの躰の軽いこと。
今まで筋肉だの内臓だのという余計なものを身に付けていたのだから当然だ。
極限まで削減したこの躰が軽くないはずがない。
どうして今まであのような重い躰で活動しようとなどしていたのか不思議なくらいだ。
こうしてご主人様にスケルトンとして造り変えていただいたことを心から感謝したいとリーザは思う。
それにこの躰なら疲れることも無い。
ご命令に従いいつまでだって立っていられる。
ご主人様のご命令に従うという喜びがあるから、飽きることだってあり得ない。
最高の躰だわ。
みんなもご主人様にスケルトンに作り替えていただけばいいのに……
リーザはそう思う。
おや?
誰かがくる気配がする。
生きている人間だ。
生きているというだけでムカムカする。
心臓など止まってしまえばいい。
生きている人間など見たくもないわ。
「お姉ちゃん……どこ?」
来たのは軽装備の弓戦士の女性。
ショートボウを手にしている。
茶色の髪を後ろでまとめ、菫色の目で周囲をうかがうことに余念がない。
リーア……
リーザはその女性に見覚えがある。
彼女の妹なのだ。
彼女が戻ってこないので探しに来たのだろう。
『リーア』
「ひっ!」
リーザが呼びかけたのに、妹は恐怖に目を見開いている。
どうしたのだろうか?
私を探しに来たのではないかしら?
******
「ふーむ……」
魔術師は考える。
どうやら可能性としては、あのスケルトンはまだ完全に死んでいなかったのではないだろうか。
仮死状態の人間をスケルトンにしてしまったために、魂が消滅しなかったのかもしれない。
それが正しいかどうかはわからない。
もう一度試してみてもいいかもしれない。
ガタッと入り口の方で音がする。
「ん?」
魔術師は立ち上がる。
また誰か来たのだろうか?
あのスケルトンに門番を任せてはみたが、あっさりやられてしまったのかもしれん。
やれやれ……
「おや?」
入り口に倒れている一人の女。
その後ろにはあのスケルトンが立っている。
『ご主人様。お願いがあります』
「お願い?」
スケルトンがお願いだと?
魔術師は聞いてみることにした。
******
魔術師の家の入り口に二体のスケルトンが立っている。
二体とも普通のスケルトンとは違い、あばら骨の内側に心臓が浮いている。
もちろんその心臓は動いてはいないが、なぜか心臓だけ存在するのだ。
『お姉ちゃん。この躰ってすごくいいね』
『でしょ? 以前の人間の躰なんか比べ物にならないわ』
『うん。すごく軽くてなんでもできそう』
『肉だの内臓だの本当に邪魔くさかったのね』
『スケルトンになれてよかった』
『本当ね』
二体のスケルトンが笑い合う。
その声はどこか女性の笑い声のようだった。
END
いかがでしたでしょうか?
よろしければ感想コメントなどいただければと思います。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2023/03/05(日) 19:00:00|
- 異形・魔物化系SS
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| コメント:7
短編SS拝見しました。女戦士が骸骨化しても動くという設定はホラー要素が強いですがいい意味で怖さが少なく読みやすいですね。
舞方さんの悪堕ちSSの流れとラストの姉妹のある意味ハッピーエンドにほっこりしました。
骸骨なので見た目ではわかりませんが、姉妹ですし中々美人でしょうね。
- 2023/03/05(日) 19:56:11 |
- URL |
- テンプラー星人 #-
- [ 編集]
視点が交互に変わるのが読んでて楽しかったです。
魔術師もテンパってたりシリアスでいて妙に愉快な雰囲気がツボりますねえ。
スケルトンなのになんか可愛いのが悔しい(笑)
ラストは姉妹揃って、といい作品でした。
- 2023/03/05(日) 23:20:50 |
- URL |
- くろにゃん #rC5TICeA
- [ 編集]
スケルトンにされたのに全く可哀想に思えない描写が面白かったですw
人間→スケルトンの変化と共に常識や倫理観が変わっていくのも舞方さんの作品ならではで楽しませて頂きました❀(*´▽`*)❀
魔術師は今後も同様のスケルトンを作っていってその道のプロみたいになるかもですねw
- 2023/03/06(月) 10:06:30 |
- URL |
- IMK #-
- [ 編集]
>>テンプラー星人様
どちらかというと「ファンタジー」作品に登場するスケルトンなんですけど、死体を動かすという意味ではホラーでもありますよねー。
骸骨になる前はそこそこ美人だったのではないかと思っておりますです。(笑)
>>sen-goku様
ですです。
そういう意味で心臓を残しました。
脳よりもらしいかなと。
>>くろにゃん様
魔術師にしても予想外の出来事でしたからねぇ。
どうしたものかと思ったでしょうね。
可愛いと思っていただけたのはうれしいです。
(*´ω`)
>>IMK様
スケルトンになったことに本人が「前向き」みたいなところがあったからですかねー。(笑)
主人のしもべとして働くのが喜びみたいなのは、やはり悪堕ち好きとしては外せないところです。
- 2023/03/06(月) 19:24:29 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
- [ 編集]
短編SS、拝読させていただきました。
「動かない心臓を持ち、自我を持つ」というスケルトンという発想が面白いですし、素晴らしいですね!
人間からスケルトンになったことによる「リーザ」の意識の変化の描写も素晴らしいです!
また、魔術師のやっていることは「人さらい」や「殺した女性をスケルトンにする」という非人道的な行為にもかかわらず、魔術師のリアクションのお陰か、どこかコミカルな感じがあって楽しく拝読できましたし、おおよそスケルトンにされてしまったとは思えない「リーザ」と「リーア」の微笑ましいやり取りも、「このままずっと2人のやり取りを見ていたい」と思わせてくれるような感じがして良かったです!
それにしても、朝にネタを思いついてその日の内にSSを仕上げて投下してしまうとは、その筆の速さにただただ驚かされました!
今回、このような素晴らしいSSをアップしていただき、ありがとうございました!
<(_ _)>
これからも応援していますので、体に気をつけて、舞方さんのペースで頑張ってください!
(^_^)/
- 2023/03/06(月) 23:57:21 |
- URL |
- XEROXEL #97P46UCU
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>>XEROXEL様
上級の吸血鬼以外ですと、普通はアンデッドは意志など持たない人形になるのが普通ですからね。
意思を持つスケルトンもなかなか面白いのではないかなと思ったのでした。
さすがに一日で仕上げるのはきつかったですけど、なんとかできました。
楽しんでいただけて良かったです。
ありがとうございます。
- 2023/03/07(火) 18:15:44 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
- [ 編集]