ブログ丸17年達成記念SSの第二弾です。
タイトルは「素敵な伴侶を得た女たち」です。
実はこのSSはもともとは「首魁の定め」氏がpixivに投下した作品(現在は退会されており削除されております)に感銘を受け、イメージをいただいた感じで作った作品です。
その時点では昨日の作品「ゲジゲジ怪人のパートナーにされてしまった人妻」とは、全く何の関係もない作品だったのですが、書いている途中からどうせなら同じ世界観にしてやれと思い立ち、スピンオフ作品のような形になってしまいました。
(^o^;)
ということで、「シュシューッ!」だの「キリキリキリッ!」だの「キチュチュチュ!」だのやかましく読みづらい作品になってしまったかもしれませんが、お楽しみいただけましたら幸いです。
それではどうぞ。
素敵な伴侶を得た女たち
「遅ーい! もう始めちゃってるよ」
「ごめーん。少し残業することになっちゃってさぁ」
居酒屋のボックス席にやってくる一人の若い女性。
背中まで流れる濃いめの茶の髪が美しい。
急いできたのか、少し息が上がっている。
「あるあるー。いきなり残業押し付けてくるのよねー」
「うちはめったにないけど、それでもそういうことはあるなぁ」
すでに席には二人の同年代と思われる女性たちが着いており、片方が今来た彼女が座れるようにとやや奥に詰める。
今来た女性も含め三人とも整った顔立ちの美しい女性たちで、どうやら会社帰りらしい。
「それじゃ奈津美(なつみ)も来て三人そろったし、乾杯と行きますかー」
追加注文の飲み物が来たことで、三人はあらためて乾杯を行なおうとグラスを持つ。
「えーと、先月はお疲れ様でした。今月もなんとかお仕事乗り切りましょう。それと素敵な彼氏欲しいぞー。かんぱーい!」
「私も欲しいー。かんぱーい!」
「かんぱーい!」
三人が笑顔でグラスを合わせ合う。
「ぷはぁー、美味しーい。仕事のあとの一杯は格別ですねぇ」
「香織(かおり)、それおっさん」
「えー? 智里(ちさと)だってぷはぁってやるじゃん」
「まあまあ、最初の一杯はそうなるよねー」
「なるよねー」
三人が笑いながらグラスを傾けていく。
「でも、ホント、いい男欲しいー」
「だったらヒロ君と別れなきゃよかったのに」
「そうそう。香織ったらもったいない」
運ばれてきたつまみに手を伸ばしながら会話が弾む。
「うーん……どうしてもねぇ、ダメだったんだよねぇ。彼はさぁ、お姉さんを求めちゃってるのよ……」
「ああ……そういう」
「それでいて私は頼りがいのある男性が好みだったし……」
「私も頼れる男性がいいなぁ」
「奈津美は取引先にいい男いないの?」
「それがみんなオジさんばかりなのよねぇ」
「うちもそうだわぁ。社内も取引先もみーんなおっさん。あーあ……どこかにいい男転がってないかしら?」
「そろそろいい人見つけてさ、結婚もしたいよね」
「結婚したーい」
「そうよねぇ」
「結婚したらぁ、旦那さんと一緒に仕事するのもいいよねぇ」
「私は専業主婦がいいかなぁ」
「このご時世、なかなかそうはいかないでしょ」
「そうよねぇ。共働きかぁ……」
「まあ、なんにせよ、いい男見つけたいよねー」
「そうだねぇ」
思い思いにしゃべりながら、お酒とつまみを楽しんでいく三人。
大学時代に知り合い、それからずっと仲良くしている三人なのだ。
「それじゃねー」
「それじゃまた来月ー」
「おやすみなさーい」
「香織ぃ、帰りにいい男見つけたからって、フラフラついて行ったらダメよー」
「うるさいわ! いいもーん……ついていかなくたってきっと素敵な王子様が私をさらっていってくれるもーん」
「なんじゃそりゃ」
「アハハハハ……」
楽しく過ごした時間はあっという間に終わり、三人は居酒屋の前で別れていく。
少し寂しさを感じるものの、また来月には会えるだろう。
それを楽しみにまた月曜日からがんばろう。
香織はそう思う。
「ふう……」
いつもは通らないはずの駅からの裏道。
街灯も少なく人通りもほとんどないので、家への近道ではあるものの、普段は遠回りして帰るのだ。
だが、今日は酔いの勢いもあったのか、早く家に帰ろうと思ってこっちに来てしまった。
住宅街ではあるものの、この一画だけがぽつんと空地のようになっている。
なので、この付近だけは家もない。
幸いほかに人の気配はないし、誰かにあとをつけられているようなこともない。
香織はさっさと通り過ぎてしまおうと足を速める。
ヒューーゥ……ガサッ……
「えっ?」
何かの音がする。
まるで空気を切って何かが飛んできたかのような音。
香織は一瞬立ち止まって、後ろを振り返る。
ぽつぽつと街灯に照らされた道には誰もいない。
ヒューーゥ……ストッ……
また音がする。
なにかの足音のようにも聞こえる音。
しかもその音はなんだか近づいているようにも感じるのだ。
香織は思わず逃げ出そうと前を向き、驚愕に目を見開く。
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」
夜の闇に香織の悲鳴が響いた。
******
「やっぱり未読のままかぁ……」
お昼を終えた奈津美はスマホの画面を見てため息をつく。
何度送っても既読にならないのだ。
昨日の日曜は電話もかけてみたが、呼び出し音はなるものの香織は出ない。
いったいどうしたのだろう……
次回の飲み会の日程を決めるためにLINEを送ったのだが、土曜日も日曜日も、月曜日のお昼になっても既読になることがない。
飲み会の帰りに何かあったのだろうか?
もしかして事故にでも遭ったのではないだろうか。
そうは思うものの、電話もLINEもつながらないのではどうしようもない。
智里にもそのことは伝えてあり、彼女も連絡を取ってみるとは言っていた。
もしかしたら智里の方では連絡が取れているかも。
そう思って奈津美は智里にLINEを送る。
そちらはすぐに既読が付き、返信も返ってくる。
だが、智里の方でも連絡はついていないようだった。
「室内に変死体?」
LINEを閉じ、何か変わったことでもないかとなんの気なしに開いたネットニュース。
その見出しに奈津美は目を奪われる。
しかもそれは香織の家の近くではないか。
どうやら一軒家で変死体が発見されたらしい。
家族全員がすべての血を抜き取られて死んでいたという。
警察では事件とみて捜査中とか。
まさか……
香織も何か事件に巻き込まれていたり……
「そんなこと……ないよね……」
奈津美は首を振る。
きっと考え過ぎだ。
確かに香織の家に近いとはいえ、それでも事件の場所とは結構離れているはず。
でも……
今日は多分残業にはならないだろうから、香織の家に行ってみようか……
うん……そうしよう……
奈津美はそのことを智里にLINEで送り、午後の仕事に向かうのだった。
******
「えーと……確かこのあたり」
数回来たことがあるだけの上、今時期は日が暮れるのが遅いとは言うもののすでに周囲は暗くなっており、奈津美は香織の家を訪ねるのにやや苦労していた。
残念ながら今日は、智里が抜けられない用事があるとかで来られなかったが、仮に来ていたとしても方向に弱い智里は頼りにはならなかっただろう。
それでも記憶と地図アプリを駆使すればなんとかなるのが今の時代。
奈津美もあと少しで香織の家に着くところまで来ていた。
「え?」
地図アプリを見ていたスマホにLINEが届いたという合図が出る。
見てみると香織からだ。
『今どこ?』
この一言のみ。
確かにスマホを見てもらったら伝わるように、家に行くとはLINEしておいてはあったのだが。
とりあえず、もうすぐ着くよと返信する。
『どこ?』
『あ、あれか』
『見つけた』
立て続けにLINEが入ってくる。
「えっ? えっ?」
戸惑う奈津美。
見つけたってどこ?
香織が近くにいるの?
どこ?
周囲を見渡してみる奈津美。
街灯と家々の明かりが道路をぼんやり照らしているが、人の姿らしきものはない。
いったいどういうことだろう?
ヒューーン……
「えっ?」
奈津美の耳に何かの音が聞こえた。
空気を切り裂くような音。
スタッ!
何の音だろうと思った次の瞬間、その音とともに奈津美の目の前に白い人の影のようなものが飛び降りてくる。
「ひぃっ!」
奈津美は思わず小さく悲鳴を上げる。
飛び降りてきたのは白に薄茶色が混じったような色で、人間の女性のような体つきをしているものの、躰は節を持った虫のような表面をしており、頭にも全く毛が無く、黒く丸い複眼が付いている。
口元は笑みをたたえた人間のような感じだが、足にも手にも小さなとげのようなものが密生し、まるで何かの虫と人間の女性が掛け合わさったもののように見えた。
「シュシューッ! こんばんはナツミ。来てくれてうれしいわ。こっちから会いに行こうと思っていたところだったのよ」
「えっ? あ……え?」
人間あまりの恐怖の時には悲鳴も出せないということを奈津美は知る。
目の前に化け物がいるのに声が出ないのだ。
「ナツミ? ああ、怖がらないでいいのよ。あなたから血を吸うつもりはないわ。シュシューッ」
口元に笑みを浮かべて近づいてくる化け物に、奈津美は必死に悲鳴を上げようと口を開ける。
「き……」
だが、奈津美が悲鳴を上げようとした瞬間、彼女の背後から手が伸びて、彼女の口と躰を押さえつける。
「ギシュシュシュ! 騒ぐな」
奈津美の耳元で声がささやくが、口をがっちり押えられた上に躰も抱きかかえられてしまっており、騒ごうにも騒げない。
「むぐ……むぅ……」
奈津美は必死に逃れようと暴れるが、まったく抜け出せない。
それほど相手の力は強いのだ。
「ギシュシュシュ! ノミギーラよ、この女で間違いないのか?」
「ノミゲラン様! わざわざ来てくださったのですか? はい、この女で間違いありません。シュシューッ!」
ノミギーラと呼ばれた虫女が両手の指を胸の前で組み、とてもうれしそうにする。
奈津美を確保するのは一人で充分と思っていたのに、わざわざ手助けをしに来てくれるなんて……
それだけでもうノミギーラは涙が出そうなほどにうれしい。
「ギシュシュシュ! ではさっさと引き上げよう。人間どもが騒ぎ立てるとまずい」
グッと奈津美を抱える腕に力が入る。
「あう……」
そのまま奈津美は意識を失った。
******
「はぁぁぁん……ノミゲラン様ノミゲラン様ノミゲラン様ノミゲラン様ぁ……」
「ギシュシュシュ! おいおいノミギーラ、そろそろあの女が目を覚ます頃だぞ」
「あぁぁぁん……かまいませんわぁ。アタシはこうしてずっとノミゲラン様にしがみついていたいんですぅ」
「ギシュシュシュ! 可愛いやつめ……んんん」
「んんんん……ぷあぁ……あぁん……ノミゲラン様にキスしていただけるなんて、最高に幸せですわぁ」
「ギシュシュシュ! こういう時はお前の口が人間のままでよかったな」
「シュシューッ! はい。人間の部分が残っているなんていやですけど、こうしてノミゲラン様に喜んでもらえるなら……」
「ギシュシュシュシュ! これからもよろしく頼むぜノミギーラ」
「シュシューッ! もちろんです、ノミゲラン様ぁ」
うっすらとした意識の向こうで、語り合う男女の声が聞こえてくる。
あ……ここは?
私は……いったい?
奈津美の意識が徐々にはっきりしてくる。
そうだわ……確か私は虫のような化け物に……
「はっ!」
慌てて起きようとする奈津美。
だが、意識ははっきりとしているのに、躰がまったく起き上がれない。
首から下が何か麻痺したような感じなのだ。
しかも、まったくなにも着ていないようで、裸になっているらしい。
「そ、そんな……」
かろうじて動く首で左右を見ると、何か黄色いぶよぶよのゼリーのようなものの上に寝かされているようだ。
半分躰が沈んでいるような感じである。
どうやら何かカプセルのようなものに入れられているのだろう。
上には半分開いた感じで蓋のようなものがあり、左右の壁は白い格子状になっていて、何か蜂の巣を思わせるようでもある。
これはいったい……
奈津美はとにかく起き上がろうとするものの、やはり躰が動かない。
いったいどうしてこんなことになったのだろう?
私はどうなってしまったのだろう?
いろいろと考えても全くわからない。
「だ、誰か……誰かいますか?」
奈津美は声を上げてみる。
とにかくここから出してもらわないと。
裸ではあるが、この際はやむを得ない。
「ギシュシュシュ! ほら、女が目を覚ましたようだぞ」
近くから声が聞こえてくる。
先ほど意識がはっきりしてくる中でかすかに聞いた声だ。
どこか人間離れしたような奇妙な声。
電子音のようにも聞こえる。
「シュシューッ! はい、ノミゲラン様。彼女の処置を始めますわ」
思わず身を固くする奈津美。
あの声は……あの化け物の声?
奈津美は自分の目の前に現れたあの虫女の姿を思い出す。
するともう一つの声は私を背後から捕まえてきた方の声だろうか?
だとしたら、私は彼らの巣に連れてこられてしまったの?
奈津美はなんとか逃げ出そうと考えるが、躰がまったく動かない。
ああ……
どうしたらいいの?
「ギシュシュシュ! 頼んだぞ。俺はダニゲランに声をかけてくる」
「シュシューッ! はい、行ってらっしゃいませノミゲラン様」
名残惜しそうに躰を離すノミギーラ。
ノミゲランとの甘いキスに、躰がまだ熱を持っているみたいだ。
できればそのまま彼との交尾に移りたかったが、今はナツミの処理をしなくてはならない。
部屋を出ていくノミゲランを見送り、奈津美の入っているカプセルに向かうノミギーラ。
その外骨格に包まれた足がカツコツと音を立てる。
うふふふふ……
待っててねナツミ。
あなたもすぐに私たちバグゲランの仲間になれるわ。
「ひぃぃぃぃぃぃっ!」
ヌッとカプセルをのぞき込んでくる虫女の顔に、奈津美は思わず悲鳴を上げる。
薄茶色の頭部には黒く丸い目が光り、口元は人間のような口が微笑みを浮かべている。
躰は固そうな外皮が覆っているものの、膨らんだ両胸ややわらかなラインは全体的に女性らしいシルエットをしており、まさに虫女と言っていいだろう。
「ば、化け物! いやぁっ!」
恐怖に首を振る奈津美。
「シュシューッ! ナツミ、ナツミってばぁ、そんなに怖がらないで。大丈夫よぉ」
口元に笑みを浮かべている虫女。
「ひぃぃぃっ! どうして? どうして私の名前を知っているのぉ?」
化け物が自分の名前を呼ぶことに、さらなる恐怖を感じる奈津美。
「何を言ってるの? 知ってるに決まってるでしょ。アタシたち友達じゃない。シュシューッ!」
「いやぁっ! 知らない! あんたなんて知らない! あっちに行ってよぉ!」
奈津美が半狂乱になって叫ぶ。
友達?
この化け物は何を言っているのだろう。
こんな化け物の友達がいるわけがない。
「あん……ナツミったらひどいわぁ。アタシたち何でも話し合ったじゃない。金曜日だってみんなでお酒飲んだでしょ? シュシューッ!」
「えっ?」
奈津美の目が見開かれる。
金曜日にお酒を?
えっ?
そんな……
まさか?
「か……おり? あなたは香織……なの?」
恐る恐るそう口にする奈津美。
信じられない。
目の前の化け物が香織だなんて、奈津美には信じられない。
だが、これまでの言葉からはそう思えてしまうのだ。
「シュシューッ! ええ、確かに以前はそういう名前だったわ。でもそれは私がまだ人間だった時の名前よ。今の私は偉大なるバグゲランの怪蟲人(かいちゅうじん)ノミギーラなの!」
誇らしげに奈津美に向かって胸を張るノミギーラ。
その外皮に覆われた形良い二つの胸のふくらみが奈津美の目を引く。
「ノミ……ギーラ?」
「そうよ。私はノミゲラン様のおかげで人間などという下等な存在から生まれ変わることができたの。私は幸せだわ。偉大なるバグゲランの怪蟲人にしていただけたばかりか、ノミゲラン様という素晴らしいオスのパートナーにしていただけたんですもの。シュシューッ!」
うっとりと自らを両手でかき抱くノミギーラ。
彼女にとってはノミゲランこそが理想のパートナー、すべてを捧げても惜しくない存在なのだ。
「怪蟲……人?」
奈津美は変わり果ててしまった友人の姿に目が釘付けになる。
信じられない。
信じたくない。
香織が化け物にされてしまったなんて信じられない。
「ウソ……ウソよ! そんなのウソよ!」
奈津美が首を振る。
そんなのウソに決まってる!
「シュシューッ! ウソじゃないわ。アタシはノミギーラ。心配いらないわ。ナツミもすぐに怪蟲人のすばらしさを感じるようになるの」
「えっ?」
「このカプセルは素晴らしいのよ。人間のような下等な生き物をバグゲランの怪蟲人へと変化させてくれるの。アタシもこのカプセルでノミギーラへと生まれ変わったわ。シュシューッ!」
「そ、そんな……」
愕然とする奈津美。
まさか自分も化け物にされるというのだろうか?
「いやっ! いやぁっ!」
奈津美は必死に躰を動かそうと試みる。
だが、首から下はまったく動いてくれない。
「あん、暴れないで。もっとも首から下は麻痺させてあるから動けないわ。大丈夫。すぐに怪蟲人になってそのことを感謝するようになるから。シュシューッ!」
「ひぃぃぃっ! いやぁぁぁぁっ!」
悲鳴を上げて泣き叫ぶ奈津美に、どうしてこんなに嫌がるのかしらとノミギーラは思う。
そんな下等な人間のままでいたいという方が信じられない。
怪蟲人に生まれ変われば、これがどんなに素晴らしいことかがわかるのに。
ああ……そうか……
そういえばアタシもナツミのように嫌がっていたかもしれない。
うふふ……
バカみたい。
「ナツミ、アタシを信じて。絶対あなたも怪蟲人になったことを喜ぶから。保証するわ。シュシューッ!」
「いやぁぁぁっ! やめてぇ!」
ノミギーラは奈津美の悲鳴を無視し、カプセルの脇の操作パネルに移動する。
ノミゲランよりこの操作方法は教わっているし、すべてのセッティングはバグドレーたちの手で終わっているはず。
あとはスイッチを起動させるだけ。
そうすればナツミもアタシたちの仲間になる。
きっと喜んでくれるわ。
ノミギーラはそう思い、スイッチを押した。
ウィーンという音がしてカプセルの蓋が閉まっていく。
「いやぁぁぁぁっ! 誰かぁぁぁっ!」
奈津美の悲鳴も蓋が閉まっていくにつれて小さくなり、やがて完全に閉まって聞こえなくなる。
それと同時にカプセルに付いている機械がうなりを上げ始め、奈津美の躰を変え始める。
あとは完成を待つばかりだ。
順調に作動し始めたカプセルに、ノミギーラがふうと息をつく。
どうやら問題は無さそうだ。
ノミゲラン様の言うとおりにしたとはいえ、どこかにミスがないかと緊張していたのは確かだったのだ。
よかった。
ノミギーラがそう思っているところに、入り口が開いてノミゲランが戻ってくる。
その背後には、茶褐色の外皮をしたもう一人の怪蟲人がいた。
「ギシュシュシュ! どうだ? 問題はないか?」
「はい、ノミゲラン様ぁ。今始まったばかりですわ。シュシューッ!」
すぐさまノミゲランに駆け寄るノミギーラ。
ノミギーラにとっては、ノミゲランはすべてを捧げるオスなのだ。
「それじゃあとは完成を待つだけだな。ギシュシュシュ!」
抱き付いてきたノミギーラをノミゲランが受け止め、そっと頭をなでてやる。
ノミゲランにとってもノミギーラは可愛いメスなのだ。
「ギリギリギリッ! ここは融合室じゃないか? それにずいぶんと可愛いメスもいる。これはいったいどういうわけだ?」
ノミゲランの背後にいたもう一体の怪蟲人が、その左右に分かれた巨大な顎を交差させる。
「ああダニゲラン。紹介するぜ。こいつはノミギーラ。俺と同種の怪蟲人でな。その……なんだ……俺のメスなんだ。ギシュシュシュシュ!」
ノミゲランが抱き付いていたノミギーラを引き離し、ダニゲランに紹介する。
「ギリギリギリッ! お前のメスだと? 確かに同種のメスのようだが……この野郎、いつの間に?」
交差させていた顎を左右に開いて驚くダニゲラン。
その小さな丸くて黒い目がやや大きくなっている。
「シュシューッ! 初めましてダニゲラン様。アタシはノミギーラ。ノミゲラン様のメスですわ」
ノミゲランに紹介されたノミギーラが、ダニゲランにあらためて自己紹介をする。
なるほどこの方がナツミの……
結構素敵な方ね。
「あ、ああ。俺様はダニゲランだ。ノミゲランにはいつも世話をしてやっている。ギリギリギリッ」
「ギシュシュシュシュ! よく言うぜ。お世話をしているのは俺の方だろ」
たがいに笑い合う二体の怪蟲人。
「それにしてもノミゲランよ、こんないいメスをいつの間に? ギリギリギリッ!」
「ギシュシュシュシュ! そのことでお前をここに連れてきたんだよ。あれが何か知っているだろう?」
ダニゲランに奈津美の入っているカプセルをさし示すノミゲラン。
カプセルは、小さなうなりをあげて稼働中のようだ。
「ああ、融合カプセルだ。俺様もあれで作られたものだぜ」
「ギシュシュシュシュ! 実は今あの中にはこいつの連れてきた人間のメスが入っていてな。新たな怪蟲人ができあがる予定なのさ」
「ギリギリギリッ! 新たな怪蟲人? 人間のメスから?」
ノミゲランの言葉に驚くダニゲラン。
怪蟲人の融合は勝手に行えるものではなかったはずなのだ。
「ギシュシュシュ! 心配するな。ちゃんと首領様に許可は取ってある。実は先日首領様に呼ばれてな、メスが欲しいかと聞かれたのさ」
「聞かれた? メスが欲しいか? 首領様にだと?」
左右の顎が開きっぱなしになるダニゲラン。
確かに任務成功の際などに首領様から呼び出されてお褒めの言葉をいただいたりすることはあるが、メスが欲しいかと尋ねられたなどとは聞いたことも無い。
「ギリギリギリッ! それでそのメスをか?」
「ああ、俺はもちろん首領様に欲しいですと答えたのさ。そうしたら首領様がではメスを与えてやろうと言われてな。それでノミギーラを作り出していただいたのさ。ギシュシュシュ!」
なんとなく照れ臭そうに頭をかくノミゲラン。
「ギリギリギリッ! くぅーっ! いいなぁ! メスをいただくってなんだよそれ? 初めて聞いたぞ。ちくしょー! 俺様もメスが欲しいぜ」
心底羨ましそうに顎を鳴らすダニゲラン。
可愛いメスの怪蟲人など、もちろん欲しいに決まっているのだ。
「それよそれ。俺がお前をここに呼んだのもそれが理由さ。そもそも俺が首領様からメスが欲しいかと聞かれたのも、ゲジゲランさんの件があったからなんだそうだ。ギシュシュシュ!」
「ゲジゲランさんの件?」
ダニゲランもゲジゲランの名は知っている。
同じバグゲランの怪蟲人として先輩にあたる方だ。
「ギシュシュシュ! お前もゲジゲランさんのことは知っているだろう?」
「もちろんだ。最近立て続けに任務を成功させ、首領様の信任も厚いという。ギリギリギリッ!」
「ギシュシュシュ! それそれ、その任務を立て続けに成功させた理由がな、素敵なメスを手に入れたかららしいのよ。メスと一緒に任務に就くことで互いに力を出し合い、これまで以上に成果を上げる原動力となったというんだ」
ノミゲランがうんうんとうなずきながら説明する。
「なんと! メスと一緒に任務に就くことで力を発揮するだと? ギリギリギリッ!」
「そうらしいのだ。ゲジゲランさんのメスはゲジギーラさんというそうなんだが、ゲジゲランさんのためならなんでもするような尽くすメスらしく、その上残忍で人間をいたぶるのが大好きらしい。さらに美蟲だというのだからいうことなしだ。ギシュシュシュシュ!」
「ギリギリギリッ! くぅー! いいなぁ!」
「だろう? だから首領様からメスが欲しいかと聞かれた俺は、欲しいですと即答したのさ。それでこうして俺も可愛いメスを手に入れたというわけだ。ギシュシュシュ!」
そう言ってノミゲランはノミギーラの肩を抱き寄せる。
「ちくしょー! そういうわけかよ。くそーっ! いいなぁ。お前ばかりうらやましいぜ。俺様もメスが欲しいぞ。ギリギリギリッ!」
そう言ってノミゲランの肩に自分の肩をぶつけるダニゲラン。
とはいえ、ノミゲランがメスをもらったことを羨ましがってはいるものの、腹を立てたりしているというわけではなさそうだ。
むしろ二人の仲の良さを感じさせると、傍で黙って見ていたノミギーラはそう思う。
「まあ、待て待て。それでな、どうも首領様はメスをあてがうことで怪蟲人の力をさらに引き出せると見たのか、俺だけじゃなく数体の怪蟲人にメスを与えてみようとお考えになられたらしい。ギシュシュシュ!」
「ギリギリギリッ! お前だけじゃなく?」
「そうさ。あそこで稼働している融合カプセルに何が入っていると思う? ギシュシュシュ!」
やや意地悪そうにカプセルを指し示すノミゲラン。
「何がってさっきお前が言ってただろう? 人間のメスから新しい怪蟲人を作ってるって……は? まさか? いやまさか? もしかして……俺様用のメスか?」
あんぐりと顎を左右に開くダニゲラン。
「その通り。ノミギーラに用意させた人間のメスを、今お前用のメスとして融合させているところだ。ギシュシュシュ!」
「なんと! 本当か? しかし、俺様用のメスといったところで、本当に俺を好いてくれるのか? 俺たち吸血系は人間にとっては嫌われ者だ。人間を基にしたメスで大丈夫なのか?」
うれしさと不安が入り混じるダニゲラン。
人間どもがどう思おうとかまわんが、同じ怪蟲人のメスに嫌われるのはたまらない。
「ギシュシュシュ! 心配いらん。ゲジゲランさんのケースから、融合時により強く精神融合を図る調整が行われたらしい。だからすぐにお前のことを好きになってくれるはずさ。ノミギーラもさんざん俺のことを化け物呼ばわりしていたが、今ではこうだからな」
そう言ってノミギーラを抱き寄せるノミゲラン。
「ああん……それはアタシが愚かな人間だった時のことですわぁ。今のアタシはノミゲラン様の忠実なメスです。偉大なるバグゲランとノミゲラン様に身も心も捧げてますわ。シュシューッ!」
うっとりとノミゲランに寄り掛かるノミギーラ。
「ギシュシュシュ! だから安心して完成を待つといい。おそらくそんなに待たなくてもいいはずだ」
「はい。きっとダニゲラン様好みのメスが完成しますかと。シュシューッ」
「ギリギリギリッ! そいつは本当か? うおお、これは完成が楽しみだぜ!」
ダニゲランは興奮した口調でそういうと、小さな丸い目でカプセルを熱く見つめるのだった。
やがて、まるで電子レンジででもあるかのようにチーンとベルの音が鳴り響き、ゆっくりとカプセルの蓋が開いていく。
「おおっ」
思わず声をあげてしまうダニゲラン。
「ギシュシュシュ! 慌てるなよ。今取り出してやるから」
そう言ってノミゲランは背後に無言で控えていたバグドレーたちに手で合図する。
「キーッ!」
「キーッ!」
すぐに二体の真っ黒な躰をした無貌のマネキン人形ともいうべきバグドレーたちがカプセルに近づいていく。
いずれも豊かな二つの胸を持ち、括れた腰のボディラインをしていることから、この二体が人間の女性を基に作られたバグドレーであることがうかがえる。
彼女たちは肉体を変えられ、ただバグゲランのためだけに働くように改造された存在なのだ。
「キーッ!」
「キーッ!」
二体のバグドレーがカプセルの左右から手を伸ばし、中からゆっくりと一体の怪蟲人を引き上げる。
小さな頭部は固い外皮に覆われ、小さく赤い丸い目が付いている。
胸には同じく外皮に包まれた二つの乳房が付いており、そのままスマートな腹部へとつながっている。
腕と足の間の両脇には細い脚が二本ずつあり、ダニゲラン同様にワサワサと動いている。
背中部分にはやや楕円型をした甲羅のような硬い外皮があり、少々のことでは傷つかない。
茶褐色の外皮に覆われた躰は、全体的には人間の女性っぽさを残しており、まさに人間とマダニが融合したような姿をしているが、唯一口元だけはノミギーラと同じく人間のままと言ってよかった。
「キリ……キリキリ……」
二体のバグドレーに支えられながら、カプセルから外に出る奈津美。
わ……私はいったい……
頭がぼうっとする。
考えがまとまらない。
なにか気持ちのいいゆりかごのようなものに揺られていたような気もする。
ここはどこ?
私……は?
ぶるっと躰を振るわせ、まとわりついていたゼリー状の物体を振り落とす。
ふらついていた足がしっかりして、バグドレーの支えが無くても立てるようになる。
うつむいていた顔が前を向き、その小さな丸い目に輝きが戻ってくる。
「キリ……キリキリキリッ」
無意識に歯が擦り合わされて音が鳴る。
そして、だんだん頭の中がすっきりとして、自分が何者なのかを理解する。
「キリキリキリッ! あはぁん……そうだわ。アタシはダニギーラ。偉大なるバグゲランの怪蟲人ダニギーラだわ。ふふふ……」
誇らしげに自分の名を口にする奈津美。
いや、すでに彼女は身も心も怪蟲人ダニギーラへと変貌していた。
人間のままの口元に笑みを浮かべ、自らの変化した躰を喜ばしく思う彼女。
以前の傷つきやすい柔らかくもろい肉体は、固い外皮に包まれた強靭な躰となり、四本しかなかった手足も短いとはいえ両脇に四本追加されている。
この脚を使えば人間だった時よりもはるかに速く這い回れるはずだ。
なんとすばらしい躰だろう。
アタシはもう人間なんかじゃないわ。
アタシはダニギーラ。
怪蟲人ダニギーラよ。
「なんと! 本当にダニの怪蟲人のメスだ! しかもなんと美しいではないか! ギリギリギリッ!」
「おいおい、言っただろ? お前用のメスだと。ギシュシュシュ!」
驚愕の目でダニギーラを見つめるダニゲランに、ノミゲランが苦笑する。
「いや、それはそうだが……それにしてもいいメスだ。本当にあのメスが俺様のものになるというのか? ギリギリギリッ!」
「シュシューッ! もちろんですわ。今こちらにお連れいたしますね」
まだ信じられないというようなダニゲランに、ノミギーラが微笑みながらダニギーラに向かう。
「ギリギリギリッ! まるで夢を見ているようだ……」
「ギシュシュシュ! 大げさなやつだ」
ノミゲランはやや呆れつつも、そう言えば自分もノミギーラを見たときはそんな感じだったなぁとふと思い出していた。
「シュシューッ! 融合は無事に終わったわ。気分はどうかしら、ナツミ? いえ、今はダニギーラね」
「キリキリキリッ! あぁぁぁん……最高。最高よぉ。こんな素晴らしい躰になれたなんて最高に幸せだわぁ」
ノミギーラの言葉に自らを両手でかき抱くダニギーラ。
二体のメスの怪蟲人の、人間のままの口元がなまめかしい。
「それはよかったわ。これであなたもアタシと同じくバグゲランの怪蟲人。バグゲランのために働きましょうね。シュシューッ!」
「もちろんよぉ。アタシの身も心もバグゲランにお捧げするわ。バグゲランのためならなんでもするの。アタシはバグゲランの怪蟲人よぉ。キリキリキリッ!」
誇らしげに宣言するダニギーラ。
「うふふ……ほら、あなたのパートナーがお待ちかねよ。ご挨拶に行きましょ。シュシューッ!」
「パートナー?」
ノミギーラの指し示す方向に目をやるダニギーラ。
その瞬間、躰にまるで電流が走るような衝撃をダニギーラは感じた。
カツコツと足音を響かせてダニゲランの元に歩み寄るダニギーラ。
その小さく丸い目がらんらんと輝いている。
「キリキリキリッ! 初めまして! ア、アタシは……ダ、ダニギーラと言います。よ、よかったらアタシを……アタシをあなたのメスにしてくれませんか?」
「な?」
いきなり近寄ってきたうえ、まるで初心な女子高生のような告白をするダニギーラに、思わず目を丸くするダニゲラン。
「ギリギリギリッ! マジか? 本当に俺様のメスになってくれるのか?」
「は、はい! もちろんですぅ!」
融合時に行なわれた洗脳によるものではあるが、今のダニギーラにとってはダニゲランこそが求める理想のオスなのだ。
「ギリギリギリッ! い、いいだろう。お前を俺様のメスにしてやる」
言葉にできないほどにうれしいにもかかわらず、やや格好をつけたように“許可”を出すダニゲラン。
「本当ですか? うれしいです! アタシダニギーラは今後バグゲランとダニゲラン様に永遠の忠誠を誓います。アタシをいつでも好きなようにお使いくださいませ。キリキリキリッ!」
両手を組み合わせて祈るようにダニゲランにひざまずくダニギーラ。
その様子をノミゲランとノミギーラがほほえましそうに見つめている。
「ま、まあ、そういうことで……よ、よろしく頼むぞダニギーラ。ギリギリギリッ!」
「はいっ。こちらこそよろしくお願いしますね、ダニゲラン様。キリキリキリッ!」
立ち上がって幸せそうに微笑むダニギーラ。
こんな素晴らしい躰に生まれ変わったうえに、最高のオスにメスとして迎え入れられるなど幸福以外の何物でもないのだ。
ダニギーラは心からそう思う。
「シュシューッ! おめでとうダニギーラ」
ノミギーラがダニギーラに近寄って声をかける。
仲間ができたことはとてもうれしいのだ。
数日前までは二人とも人間だったはずだが、今の二人にはそれは思い出したくもない過去である。
「あぁぁん、ありがとうノミギーラ。あなたのおかげよぉ。あんな素敵な方のメスになれただなんて……いくらお礼を言っても言い足りないわぁ。キリキリキリッ!」
心からの礼を口にするダニギーラ。
「シュシューッ! いいのよそんなこと。それよりも後は……ねえ、ノミゲラン様」
ノミギーラがダニゲランと話しているノミゲランに声をかける。
「ん? なんだ? ギシュシュシュ!」
「もう一人、シラミゲラン様の分のメスもご用意すればいいんですよね? シュシューッ!」
「ギシュシュシュ! もちろんだ。俺とダニゲランにメスがいて、シラミゲランだけメス無しというわけにはいかんだろう。なあ?」
「ギリギリギリッ! おお! あいつにもメスを用意してやるのか。それはいい。やはり俺たち吸血系は三人組だからな」
ノミゲランに話を振られたダニゲランも大きくうなずく。
仲のいいグループで仲間外れは可愛そうだからな。
「シュシューッ! かしこまりました。それでは智里を……うふふ」
「キリキリキリッ! アタシにも手伝わせてちょうだいノミギーラ。きっとあの子も怪蟲人に生まれ変われたら喜ぶと思うわ」
ダニギーラがノミギーラに申し出る。
「ダニゲラン様、よろしいですか?」
振り返ってダニゲランに許可を求めるダニギーラ。
「ギリギリギリッ! もちろんだ。行ってくるがいい」
「あぁぁん、ありがとうございますダニゲラン様ぁ。キリキリキリッ!」
ダニゲランの返事に、ダニギーラは思わず喜びに身をよじってしまう。
少々洗脳の効果が利き過ぎにも見えるが、ダニギーラは強烈な幸福感に包まれているのだ。
「シュシューッ! それじゃ行きましょ、ダニギーラ」
「キリキリキリッ! ええ行きましょ、ノミギーラ」
二体のメスの怪蟲人が足音を響かせて融合室から出ていこうとする。
その口元には同じような冷たい笑みが浮かんでいた。
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「ひゃぁぁぁん! シラミゲラン様シラミゲラン様シラミゲラン様ぁ! キチュチュチュー!」
「わあ、落ち着け! 落ち着くんだシラミギーラよ! ギチュチュチュチュ」
「はいー。アタシはシラミギーラですぅ。シラミゲラン様ぁ! アタシをシラミゲラン様のメスにしてくださーい! キチュチュチュ―!」
「ギチュチュチュチュ! わかった、わかったから」
「あぁぁぁん……うれしいぃぃぃ!」
カプセルから出てきたばかりのメスの怪蟲人がオスに抱き付いていく。
その場にいたほかの四体は思わず苦笑してしまう。
智里は無事に生まれ変わって、怪蟲人シラミギーラへと変化した。
カプセルに入れられる前のあの泣きわめきぶりがウソのようだ。
かなり白に近い褐色の躰は弾力のある外皮で覆われ、ややノミギーラに似ていないことも無い。
やわらかそうなお腹は少しのっぺりとしており、全体的なラインはほかの二体と同じように女性らしいラインを保っている。
彼女もまた口元は人間の時のままに形ではあるものの、他の二体と同じようにのどから針のような器官を伸ばすことで、生き物の血を吸うことができるようになっていた。
「シュシューッ! あらあらシラミギーラったら。でもこれでまた三人そろったわね」
「キリキリキリッ! ええ、これからも三人一緒で仲良くしましょうね」
シラミゲランに抱き付いて離さないシラミギーラの姿をやや呆れたように見つめつつ、ノミギーラとダニギーラはお互いに微笑んだ。
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ドサッと音を立てて足元に倒れ込む男。
その躰はまるでミイラのように干からびており、わずか数分前までは生きていたとは思えない姿だ。
「キチュチュチュ! アタシたちの姿を見て生きていられると思わないでよね」
喉から伸びた針状の器官を引っ込め、口元を外皮に覆われた手の甲で拭うシラミギーラ。
彼女にとって人間の血を吸い尽くして殺すなど、簡単なことなのだ。
「キリキリキリッ! こっちも片付いたわ。これでもう生きている人間はいなくなったわね」
「シュシューッ! 今回の任務はお互いのパートナーとではなく、アタシたちにやらせてもらったけど、アタシたち三人でもこの程度の任務なら充分こなせるわね」
奥の部屋から姿を現すノミギーラとダニギーラ。
そのさらに奥にはいくつもの死体が転がっていた。
「キチュチュチュ! 当然でしょ。アタシたちはバグゲランの怪蟲人よ。下等な人間どもを始末するなど簡単なことだわ」
転がった死体を足で蹴飛ばすシラミギーラ。
「シュシューッ! あらあら……」
お互いに顔を見合わせるノミギーラとダニギーラ。
一番最後に怪蟲人となったシラミギーラだったが、一番残忍さを持っているようだ。
「ふふ……でもまあ、これでアタシたちだけでまた任務をやらせてもらうこともできそうね。キリキリキリッ」
「そうねぇ……これからも月に一度くらいはまた三人で集まりましょうか? シュシューッ!」
「キチュチュチュ! それはいいけど、早く引き揚げましょう。詳しい話はアジトに戻ってからすればいいわ」
シラミギーラの言葉にほかの二人もうなずく。
「キリキリキリッ! そうね。大事なパートナーも待っているしね」
「そう言うこと。キチュチュチュ!」
「それじゃ戻りますか。シュシューッ」
三体のメスの怪蟲人たちは、愛しいパートナーの待つアジトに向かって、闇の中へと消え去るのだった。
END
いかがでしたでしょうか?
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2022/07/19(火) 20:00:00|
- 怪人化・機械化系SS
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