来月に向けていくつかSSを書き始めてはいたのですけど、昨日の私の誕生日に「お誕生日SS期待してまーす」というお声をいただきましたので、急遽昨日今日で誕生日祝いの超短編を一本書き上げましたので投下しますねー。
タイトルは「先輩は後輩を守りたい」です。
楽しんでいただけましたら幸いです。
(´▽`)ノ
先輩は後輩を守りたい
「ふう……すっかり遅くなっちゃったわね」
すっかり日も暮れた通りを二人の制服姿の女子高校生が歩いている。
「すみません真衣(まい)先輩。私が上手くできなかったせいで……」
少しうつむきながら申し訳なさそうに謝罪を口にするやや小柄な少女。
どうやら横を歩く女子高校生の後輩らしい。
どことなく小動物っぽい愛らしさがある子だ。
スポーツ部所属らしく締まった躰をしてはいるものの、女性らしい柔らかいラインが美しい。
「瑞希(みずき)ちゃんのせいじゃないわよ。ちゃんとカバーできなかった私が悪いの。もう少しうまくカバーしてあげられれば……」
横を歩く先輩が苦笑する。
「そんな、真衣先輩はまったく……」
思ってもみなかった答えに瑞希は驚く。
憧れの真衣先輩とペアを組めたのはとてもうれしいことだったが、今のところは自分が足を引っ張っているだけでしかないのだ。
真衣先輩にカバーしてもらわなくてもちゃんとできるようにならなくてはいけないのに……
「ううん。瑞希ちゃんは後輩なんだし、先輩の私がちゃんとサポートするのは当たり前だよ。それに瑞希ちゃんはしっかりやってる。むしろ私の方がカバーしてもらっているぐらい」
やや茶色いショートカットの髪をしたボーイッシュな真衣が首を振る。
スタイルもよくとても活発な彼女は、みんなのあこがれの的でもある。
もちろん瑞希もその一人だ。
「まあ、今日はコーチの虫の居所が悪かったのかな。うちらだけじゃなくみんなしごかれていたもんね。と、瑞希ちゃんの家はそっちだっけ?」
通りと裏手につながる道との分岐で真衣は立ち止まる。
「はい。それじゃせんぱ……」
また明日と続けようとした瑞希は、真衣がすたすたと自分の行く道の方に曲がったことに驚く。
「えっ? 先輩は向こうじゃ?」
「もうこんなに暗くなったし、可愛い後輩を一人で帰せるわけないでしょ」
そう言ってほほ笑む真衣。
「でも、それじゃ先輩が……」
私の家まではいいけど、そこから先は先輩一人になってしまうのでは?
瑞希はそう思う。
「いいからいいから。私はどうとでもなるから。先輩は可愛い後輩を守りたいのでーす」
おどけたようにそう言って手を差し伸べる真衣。
「はい」
瑞希も明るい笑顔を見せ、その手に引かれるように真衣の元へと歩き出す。
「それにしても、このあたりはホントに暗いね」
「ええ、いつもの時間ならまだもう少し人通りもあるんですけど……」
真衣と瑞希は人通りのない寂しい道を歩いていく。
このあたりは住宅街でも外れに位置するので、家の数も少なくまだ空き地のままのところも多いのだ。
幸い人通りがないということは、誰かにあとをつけられたりしているということも無いので、それは助かるのだが、用心するに越したことはない。
「た、助け……ぐはっ!」
何か人の声のようなものと、ドサッと何かが倒れたような音がする。
「えっ?」
「な、何?」
真衣と瑞希が顔を見合わせる。
「聞いた? 今の?」
「ま、真衣先輩も聞こえました?」
いったい何の音だったのだろうか?
誰かいるのだろうか?
二人はしばらくその場に立ち止まって様子をうかがうが、それから音は聞こえてこない。
「だ、大丈夫かな? 瑞希ちゃんの家ってこの先だよね?」
「え、ええ、そうです」
とりあえず変な物音もしないようだ。
ここにいつまでも立っているわけにもいかないだろう。
まずは瑞希ちゃんを無事に送り届けなくては。
「い、行こうか」
真衣は先に立って歩きだす。
「は、はい」
瑞希も恐る恐るそのあとに続いた。
「ヒッ!」
突然小さく悲鳴を上げる瑞希。
思わず真衣が瑞希に振り向く。
すると、瑞希が進行方向ではなく脇の空き地を見ていることに気が付いた。
「瑞希ちゃん?」
「ひあっ! せ、先輩……あれ……」
瑞希が指さすのは空き地にある小さな盛り上がり。
最初は刈り集めた雑草でも置いてあるのかと思ったが、その黒い盛り上がりが動いているのがわかる。
「えっ?」
真衣が声を上げたとき、その盛り上がりがうずくまった人影であることに気付き、その顔が二人の方を振り向いたことがわかる。
「ケケケケケ……見たな!」
その顔は黒い毛で覆われ、赤く丸い目がいくつも光っていた。
さらにそいつは立ち上がると、肩から腕が二本ずつ生えていたのだ。
まるで人とクモが合わさったような姿である。
「わぁっ!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
思わず悲鳴を上げ、手にしたカバンを落としてしまう瑞希。
「ケケケケケ……俺様の姿を見たからには生かして返すわけにはいかん」
躰中を短い黒と赤の剛毛で覆われ、腕が二本ずつあるクモの化け物が二人に向かって襲い掛かってくる。
真衣はとっさに化け物の目標が瑞希だと見ると、そのまま体当たりをするようにして化け物に横合いからタックルした。
「瑞希ちゃん、逃げて!」
両方とも逃げだすと思っていたのか、タックルをされたことで化け物がバランスを失う。
そのため、化け物の鋭い爪は瑞希の腕をかすめるだけに終わる。
その隙に真衣は化け物と瑞希の間に入り込むようにして立ちはだかった。
「せ、先輩!」
制服の袖を切り裂かれ、真っ青な顔をした瑞希が震えている。
「早く逃げて! すぐに警察呼んで!」
「で、でも先輩が……」
真衣はなんとか瑞希を逃がそうと、カバンを振り回して化け物に飛び掛かる。
「いいから早く! えーい!」
「は、はい! す、すぐに警察を呼びます! 待っててください!」
瑞希はようやく自分はこの場をいったん離れて警察を呼ぶ方がいいと思い、走ってこの場を後にする。
「ケケケケケ……あの子を逃がそうとでもいうつもりか?」
クモの化け物がその赤い目で真衣をにらむ。
「瑞希ちゃんの方には行かせない!」
カバンを手に真衣も化け物をにらみ返す。
「ケケケケケ……俺様はクモビルグだ。小娘、俺様が怖くないのか?」
「こ……怖い……怖いけど……私は先輩だから、後輩を守るんだ!」
がくがくと震える足を必死に抑え、目をそらさないように耐える真衣。
ともすればくじけそうになる心を、なんとか保とうと自分に言い聞かせているのだ。
「ケケケケケ……面白い小娘だ。気に入ったぞ。ちょうど俺様の手足となって働く手駒が欲しいと思っていたところだ。お前を俺様のしもべにしてやろう」
ニタッと笑い、鋭い牙を見せるクモビルグ。
「な? ふざけるな! 誰があんたのしもべになんか……」
なるものかと言おうとした真衣だったが、いきなり躰に白い糸が巻き付いてしまう。
「えっ?」
ねばつく糸は真衣の両手を閉じ込めるように躰ごと巻き付き、真衣は身動きが取れなくなってしまう。
「そ、そんな……むぐっ」
悲鳴を上げようにも口のあたりにも糸が巻き付き、まるで白い猿轡をされたようだ。
「ケケケケケ……」
絡みついた糸を引っ張り始めるクモビルグ。
それに伴い、真衣の躰もじょじょに引き寄せられていく。
「むー! むー!」
必死に叫ぼうとする真衣だが、まったく声が出せない。
やがて真衣の躰はクモビルグの四本の腕に抱きとめられてしまう。
「むー! むー!」
真衣は必死にもがくも、絡みついた糸はまったく切れる様子がない。
「ケケケケケ……俺様の糸は人間ごときの力では切れん。お前には俺様の血を分けてやる。俺様のしもべになるのだ」
「むーっ!」
真衣の首筋にクモビルグが噛み付く。
傷ついた真衣の首から血が流れていく。
するとクモビルグは今度は自分の腕を噛んで傷付け、そこから出るどろりとした黒い血を真衣の首筋の傷に当てるようにして流し込む。
「むーっ!」
真衣の首筋に垂らされたクモビルグの血が、真衣の血と混じり合っていく。
真衣の躰ががくがくと震え、クモビルグが手を離したことで、その場で地面に倒れ込んでしまう。
「ケケケケケ……」
ニヤリと笑みを浮かべ、真衣の体に巻き付けた糸をほどいていくクモビルグ。
あとは待つだけだ。
やがてゆっくりと真衣が立ち上がる。
そして、その鋭い爪で着ていた制服や下着を切り裂いていく。
つま先から何か尖ったものが突き出して裂けてしまったローファーや、履いていた白いソックスも脱ぎ捨てられる。
今の真衣にとっては、衣服など躰を拘束するもの以外の何物でもないのだ。
すべてを脱ぎ捨てた真衣は、闇の中にその姿をさらす。
それは以前とはすっかり変わってしまった姿。
躰には短い赤と黒の剛毛がまるでスクール水着や袖なしのレオタードを着たような形に生えており、両手も二の腕から先が、両足も太ももから下の部分がまるで長手袋やサイハイソックスを着けたかのように剛毛で覆われている。
足は指が消えて一つにまとまり、つま先からは太く鋭い爪が一本伸びていた。
手にも指先から黒く鋭い爪が伸びている。
顔は一見すると以前と変わらないようだったが、額には三つの赤い単眼が並んで輝き、目も白目や瞳が消えて赤い目に変化している。
少し開いた口もギザギザな歯が見えており、犬歯は牙のように尖っていた。
「あ……れ……私……」
ゆっくりと顔を上げる真衣。
「ケケケケケ……どうやら終わったようだな」
少女の変化にクモビルグは笑みを浮かべる。
これでこの娘は俺様の意のままだ。
「終わったって……何が終わったのですか、お父様? ケケケ……」
クモビルグの言葉にキョトンとして首をかしげる真衣。
無意識にクモビルグと同じような音を出している。
「ケケケケケ……お父様だと? 俺様を父と呼ぶのか?」
意外な言葉にやや戸惑うクモビルグ。
「えっ? だって私はお父様の血をいただいたんだからお父様の娘です」
真衣はそう思う。
それともお父様と呼んではいけなかったのだろうか?
「ケケケケケ……そうだな。お前は俺様の娘だ」
にやりと笑って真衣の頭をポンポンと叩くクモビルグ。
娘というのも悪くない。
「はい。お父様。ケケケケ……」
真衣はなんだかうれしくなる。
クモビルグ様の娘で良かったと思うのだ。
「ケケケケケ……名前はなんと言う?」
「私ですか? マイです。ケケケ……」
「ケケケケケ……それではマイよ、先ほどお前が逃がした娘は友達か?」
「はい。私の後輩で瑞希ちゃんと言います。そういえば私……彼女をどうして……」
逃がしてしまったのだろうとマイは思う。
お父様が捕えようとしたのに邪魔しちゃうなんて……
「ごめんなさいお父様、私……」
うなだれるマイの顎をクイッと持ち上げるクモビルグ。
「ケケケケケ……ならばどうすればいいか、わかるな?」
「はい。瑞希ちゃんを捕まえてお父様のところに連れてきます。ケケケケ……」
クモビルグの顔を見つめ、きっぱりと答えるマイ。
「では行け。ケケケケケ……」
「はい、お父様」
コクンとうなずくと、マイは思い切りジャンプする。
それは以前の真衣では考えられないほどのジャンプだった。
******
「はい……はい……そうです。はい……その交差点を右折してまっすぐ来てもらえれば……はい……お願いします。はあ……」
通話を切ったとたんに思わず力が抜けてしまう。
へなへなとその場にへたり込んでしまう瑞希。
その姿を街灯が闇の中に照らしている。
よかった……
あとは警察が来てくれるのを待つだけ。
思わず化け物が出たなどと言ってしまったけれど、警察の人はパトカーを向けると言ってくれた。
あれが本当に化け物だったのかは自信がない。
もしかしたら見間違えだったのかもしれない。
でも、変質者みたいなものだったかもしれないし、警察が来たら安心だろう。
そういえば先輩は……
真衣先輩はどうなったのだろう?
大丈夫だろうか……
大丈夫だといいけど……
戻ってみるべきだろうか?
それとも警察が来るまで動かない方がいいだろうか?
瑞希は迷う。
どうしよう……
真衣先輩……
先輩も早く逃げてきて……
いきなりシュッと風を切るような音が聞こえ、手にしたスマホが飛んでいってしまう。
「えっ?」
一瞬何が起こったかわからない瑞希。
突然持っていたスマホが何かに引っ張られたような気がして、気付くと手の中から消えていたのだ。
「ケケケ……もう、ダメじゃない。どこかに連絡なんかしちゃ。それにお父様から逃げるなんて……」
暗闇の中から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「えっ? えっ? 先輩? 先輩ですか?」
きょろきょろと周りを見る瑞希。
だが周囲には誰もいない。
「ケケケ……ここ、ここよ」
瑞希は声が上の方から聞こえたような気がして、思わず顔を上に上げる。
「ひっ!」
すると、向かい側の電柱の上に裸の女性のようなシルエットがあることに気付く。
「ケケケ……ダメじゃない、瑞希ちゃん。逃げたりしちゃ」
そのシルエットがひょいと瑞希の前に飛び降りてくる。
「ひぃっ!」
小さく悲鳴を上げる瑞希。
そこには黒と赤の短い剛毛で躰を覆い、両手と両足も同じような剛毛に包まれた女が立っていたのだ。
しかもその女は真衣先輩によく似た顔をしているものの、その目は赤く輝き、額にも赤く丸い単眼が三つ並んでいた。
「ケケケ……もう、瑞希ちゃんたら私を置いて行っちゃうんだもん、いけない子だね」
マイは糸を使って瑞希から取り上げたスマホを握りつぶす。
今の彼女には容易いことだ。
こんなものでよそと連絡を取られてはたまらない。
「えっ? そんな……まさか……先輩……なんですか?」
愕然とする瑞希。
目の前にいる先輩は、まるであの化け物と同じような姿ではないか。
「ケケケ……そうよ。違うように見える?」
「ど、どうして……そんな……」
「ケケケケ……私はお父様に血を分けていただいたの。お父様のおかげで私はお父様の娘になれたのよ」
マイは街灯に照らされた自分の躰を誇らしく思う。
目の前にいる人間の娘と違い、マイは父の血をいただいたのだ。
それがどんなにうれしいことか。
「ケケケ……さあ、お父様がお待ちかねよ。一緒に来て」
マイの言葉に瑞希は首を振る。
「もう……ダメよ瑞希ちゃん。先輩の言うことは聞かなくちゃ。ケケケケ……」
「いやっ、いやですっ!」
瑞希はひたすら首を振る。
こんなのは悪夢だ。
あの真衣先輩がこんな……
遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
「ケケケ……瑞希ちゃんったら警察を呼んだのね。仕方ないわね」
マイは股間に意識を集中する。
するとマイの股間から強靭な糸がするすると伸び始め、マイはその糸を器用に操って瑞希に絡めていく。
「きゃあっ! いやぁっ! むぐっ!」
クモビルグと同じように瑞希を口を糸でふさぐマイ。
父と同じようにできるのはとてもうれしい。
「ケケケ……さあ、お父様のところに行きましょうね」
マイは糸でからめとった瑞希の躰を抱えると、ジャンプしてその場を後にした。
******
「ケケケケ……」
急速に熱を失っていく女の腹から爪を引き抜く。
何が起こったのかわからないという表情で床に崩れる中年の女性。
それが数時間前まで母などと名乗っていたのが、ミズキには許せない。
私の親はお父様のみ。
お前のような人間のはずが無いわ。
ミズキはそう思う。
お父様の血で私は先輩と同じくお父様の娘になった。
だからこの家の人間は偽りの家族。
生かしておけるはずが無いわ。
「ケケケケ……」
ミズキは血に濡れた爪をぺろりと舐める。
人間の血の味も悪くない。
「ごふっ!」
背後で男の声がして思わず振り返る。
完全には死んでいなかったのか、床に倒れたまま落ちていたスマホに手を伸ばそうとしていたらしい中年男が、マイ先輩の爪で背中から貫かれたのだ。
「ケケケケ……もうミズキったら油断してるから。ちゃんと相手のとどめを刺さないと」
爪を引き抜いて立ち上がるマイ。
「ごめんなさい先輩。その男がまだ生きていたとは。死んだと思ったのに……ケケケケ……」
ぺこりと頭を下げるミズキ。
その姿はマイとそっくりで、彼女もクモビルグの血を与えられたことを物語っている。
「ケケケ……まあいいわ。これでこの家の人間はみんな殺したかしら」
「はい。この家には私の偽の父と母がいただけですから。ケケケケ……」
ミズキは忌々しそうに床に倒れた中年男女を見下ろす。
「なら大丈夫ね。いい、油断しちゃダメよ、ミズキ。私たちのミスはお父様に迷惑をかけることになるんだから。ケケケケ……」
「はい。でも、その時はマイ先輩が助けてくれるんですよね? ケケケケ……」
いきなり甘えたような甘い声を出すミズキ。
「もう、ミズキってばぁ……当たり前でしょ。後輩を守るのは先輩の役目ですもん。ケケケ……」
苦笑しながらもミズキの頭をなでるマイ。
「さあ、行きましょ。お父様がお待ちよ。ケケケケ……」
「ケケケ……はい、先輩。うふふ……私、お父様の娘になれて幸せです」
それはミズキの本心だ。
先輩と一緒にお父様の娘になれたというのは、なんと幸せなことだろう。
「私もよ。私たちはお父様の娘。お父様のためならなんでもする。ケケケケ……そうでしょ、ミズキ?」
「もちろんです、マイ先輩。ケケケケ……」
窓を開けて身を乗り出しながらマイはミズキを振り向き、ミズキもまたマイを見る。
二体のクモ少女は、お互いに顔を見合わせてニタッと笑う。
そして窓から夜の闇へと姿を消すのだった。
END
いかがでしたでしょうか?
短時間で作った割にはまあまあかなと。(^o^;)
よろしければ感想コメントなどいただけますと嬉しいです。
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2022/06/10(金) 21:00:00|
- 異形・魔物化系SS
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