新年SS第一弾が「機械化シチュ」、第二弾が「悪堕ちシチュ」となれば、舞方的にはあと足りないのは「異形化・怪人化シチュ」のSSではないでしょうか?
ということで、新年SS第三弾はその「異形化・怪人化シチュ」のSSです。
昨日で終わったと思った?
実は第三弾があったんじゃよ。
タイトルは「ある喫茶店の出来事」です。
第一弾、第二弾に比べたらかなり短い作品とはなりますけど、箸休め的にササッと読んでいただければと思います。
それではどうぞ。
ある喫茶店の出来事
「ありがとうございましたー」
カランカランと出入口の鈴が鳴り、お客様が退店していく。
私は頭を下げて見送ったあと、残された食器を片付けてテーブルを拭いてきれいにする。
「お疲れ様、瑠璃(るり)ちゃん。賄いができているから食べていいよー」
カウンターから店長の美緒(みお)さんが声をかけてくる。
「あ、はーい」
私はいそいそとエプロンを外し賄いのサンドイッチを受け取ると、誰もいなくなった店内から奥の部屋へと向かおうとする。
「こっちで食べてもいいよ。どうせ誰も来ないんだし」
「てーんちょおー」
私は苦笑する。
確かにサラリーマンが外回りを終えるこの時間になると、もうお客さんが来ることはめったにない。
一応夜の7時までは開いているのだけど、夕食を食べにうちの店に来るという人もまずいないしね。
とはいえ、店長自らが誰も来ないなんて言ってていいものだろうか?
「まあねぇ。だいたいうちの店に客が来るのはお昼から夕方にかけてだからねぇ。6時過ぎると来ないよねぇ」
美緒さんも早くも店仕舞いの準備を始めている。
「でも、お昼は結構来るんですよね?」
私は結局、奥の部屋と店の境にあるドアのところでサンドイッチをぱくついていた。
学校が終わってすぐここのバイトに来る私にとって、家に帰って夕食を食べるまでの間、この賄いがどんなにありがたいことか。
「そうでもないよぉ。来たって5、6人だしね。むしろ瑠璃ちゃんが来てくれる4時ごろから6時くらいまでの方が忙しいかな」
カウンターを拭いている美緒さん。
エプロンで隠れてはいるものの、いつ見ても胸の大きさに目が行ってしまう。
いいなぁ……
私ももう少し大きくなってくれれば……
それに胸だけじゃなく美緒さんはスタイルもとってもいい。
その上顔もよくて気配りも上手となれば、男の人が放っておかなかっただろうなとは思う。
今だって美緒さん目当てにお店にくるお客さんもいるけど、その人たちにとっては残念なことに美緒さんにはもう旦那さんがいるのだ。
きっと美緒さんの旦那さんは、周りからうらやましがられたんだろうなぁ。
「ま、だからこそ瑠璃ちゃんに来てもらっているんだし、助かっているのよ」
う……
美緒さんにそう言ってもらえるのはなんだかうれしい。
最初の頃はカップやお皿を割っちゃったりしたものだけど……
「ごちそうさまでした」
私はサンドイッチの皿とコーヒーのカップを洗い場に持っていき、そのまま洗剤で洗っていく。
さて、あと一時間ほど頑張りますか。
と言ってもお客は来ない。
ここは表通りからは離れているし、近所にめぼしい企業もない。
知る人ぞ知る隠れ家的喫茶店と言えば聞こえはいいが、実際には誰も知らない喫茶店かもしれない。
結局、私も店長もやることやってしまうと暇になる。
「店長……お客さんを呼び込む何かアイディア考えませんか?」
暇つぶしの窓拭きをやりながら私は言ってみる。
「アイディアねぇ……」
美緒さんも私の隣で窓を拭く。
なんとなく心ここにあらずといった感じだ。
「変わった料理を出してみるとか……女性向けにスイーツに力を入れるとかぁ……」
「うーん……それもねぇ……」
「でも……このままだとお店つぶれちゃいますよぉ」
もちろんこれは冗談だ。
でも、お客さんが少ないのは事実だし……
「大丈夫よ……かつかつだけどなんとかやっていけてるし、瑠璃ちゃんの給料分も確保してるから」
苦笑している美緒さん。
「ご、ごめんなさい。つぶれるなんて言っちゃって……」
私は思わず頭を下げた。
「ううん、いいのいいの。瑠璃ちゃんの言うとおりだし、この店がホントかつかつなのは事実だし。店だけでは食べていけてないのよ、本当は」
「えっ? でも……」
「うん……この店をやってるのは私のわがまま。晃司さんがいてくれなかったらとても無理だった」
「晃司さんって……店長の旦那さんですよね?」
「うん!」
まぶしいほどの笑顔で美緒さんはうなずいた。
「この店は私の父の店だったの。私が晃司さんと結婚した時、父はもう病気でね。この店は閉めるつもりだったの」
「そうだったんですか?」
「でも、この店をそのまま閉めるのはいやだったし、晃司さんも店を継いであげたらって言ってくれて……お金と家のことは心配するなって」
「ええ?」
「で、ふつつかな妻は大切な旦那様をほったらかして、ここでコーヒーを淹れているというわけ」
美緒さんはそういうけど、たぶんすごく旦那さんを愛しているんだろうなって思う。
お店と家庭を両立するために一所懸命なんじゃないだろうか。
そうじゃないとさっきの笑顔は出ないと思う。
「素敵な人なんですね、旦那さん」
「そうよぉ。私には本当にもったいないぐらいの人。彼のおかげでこの店もやってこられた。でも……」
「でも?」
美緒さんの表情が曇ったことに私は気付く。
「そろそろ考えなくちゃなって思ってるの。瑠璃ちゃんには悪いんだけど、彼は子供も欲しがっているし……私ももう30代だし……」
あ……
私は言葉が出なくなる。
子供……かぁ……
「あっ……うっ……」
突然美緒さんが胸を抑えてうずくまる。
「えっ? 店長? 大丈夫ですか? 店長!」
急速に青ざめていく美緒さんの顔色。
「うう……」
「店長ぉー!」
大変だわ!
私は急いで救急車を呼ぶ。
早く……早く来て……
******
「あ、あの……」
病室から出てきたスーツ姿の男性に声をかける。
美緒さんの旦那さんの晃司さんだ。
スーツが良く似合う素敵な男性で、美緒さんが好きになるのもわかる気がする。
「まだいてくれたのかい? 美緒を病院に連れてきてくれてありがとう。でも、今日はもう遅いから帰りなさい」
私がまだいたことに驚いている旦那さん。
彼自身も顔がまだ少し青ざめているものの、それでも駆け付けたときよりは顔色がいい。
「あの……店長は? 奥様の様子はどうなんですか?」
「うん……どうも手術が必要らしい……」
「えっ?」
私はびっくりした。
だって……今までずっと元気だったのに……
突然そんな……
「心臓に問題があるそうだ。ただ、手術さえすれば大丈夫らしい」
旦那さんの言葉に私は少しホッとする。
「じゃあ……」
「うん。それほど心配することはないそうだ」
「よかったぁ……」
美緒さんは助かるんだ……
よかった……
「ただ、お店はしばらく休むことになりそうだ。違うバイトを探した方がいいかもしれない」
「待ちます」
「えっ?」
「ひと月ふた月なら待ちます」
「いやぁ……それは……」
「待ちますから!」
私はきっぱりとそう言った。
バイト代はお小遣いのようなもの。
ひと月ふた月なら待ちますとも。
数日後、美緒さんは手術のため別の病院に転院となった……
******
「ここ?」
私はタクシーを降りて地図を確かめる。
郊外にある小さな個人の医院といった感じの建物。
ここに美緒さんが?
こんな小さな病院で手術を?
私は花とケーキの箱を持って入り口を入る。
待合室のようなものはあるが、誰もいない。
私は受付に美緒さんのお見舞いに来たことを告げる。
「ああ、それでしたら右手の階段を下って地下の3号室に行ってください」
なんとなく冷たい感じの受付の女性がそう言って階段を指さす。
地下?
病室が地下にあるの?
私は聞き間違いかと思って再度聞いてみたが、地下で間違いないらしい。
地下に病室があるなんて珍しいな。
それにしても美緒さんってば、暇しているから見舞いに来てだなんて。
タクシー代はあとで払うからって地図と一緒にメールしてきて。
もちろんお見舞いに行くつもりだったから、渡りに船だったけど。
私は階段を降りて地下に行く。
なんだか薄暗くて気味が悪い。
こんなところに病室があるなんて……むしろ具合が悪くなるんじゃないかしら……
ここが3号室?
廊下の右側にある金属のスライドドア。
まるで何か物品庫のようなドアだ。
名札も何も出てないし、本当にここでいいのだろうか?
「よいしょ」
私はノックの後で重いドアをスライドさせ、中に入る。
「失礼します。店長、いますか?」
そこは薄暗く広い部屋だった。
がらんとした中にベッドが一つだけ。
そのベッドに腰かけるようにして、足を組んで座っている姿があった。
「ひっ!」
私は思わず花とケーキの箱を取り落とす。
グシャッという音が部屋に響く。
「キシ……キシシシ……来てくれタのね、ルリちゃン」
ベッドに腰かけていたのは、美緒さんなんかじゃなかった。
そこには緑色をした巨大なカマキリがいたのだ。
「あ……あああ……」
「キシシシ……うれシいわ。改造が済んでカら、暇ダったのよ」
三角形をして巨大な複眼を持った頭。
口元には赤い唇が笑みを浮かべてる。
両手はトゲの付いたカマキリのカマになっていて、胸のところで構えられていた。
緑色をした躰は固い外皮で覆われていて、腰は信じられないくらいにくびれている。
組まれた脚はすらっとしてて、昆虫の脚のようにトゲが付いていた。
「て……店長?」
自分でもバカな質問だと思う。
この化け物が美緒さんのはずがない。
どうしてこんなのがここにいるの?
「キシシシ……ソうよぉ。アタシの顔、見忘レちゃった?」
ゆっくりと立ち上がるカマキリの化け物。
まるでカマキリと人間の女性が融合したような姿。
胸には丸い乳房まで付いている。
「そんな……どうして?」
「キシシシ……アタシは手術を受けタの。秘密結社ジャドッツによる改造手術ヲ」
カツンコツンと足音を響かせて近づいてくるカマキリの化け物。
逃げたいのに……
足が……足が動かない……
「キシシシ……アタシは幸運だったワぁ。うちの店に来たお客サんの中に、ジャドッツの工作員がいたんでスって。おかげでアタシは選バれ、こうして手術を受けるコとができたのよ。キシシシシ」
「そ……んな……」
私は少しずつ後ずさるが、すぐに背中が扉に着いてしまう。
「いや……こ、来ないで……」
「怖がることはナいわぁ。この躰はとても素晴らシいのよ。人間の時とは比べ物にナらないくらい」
「嘘……嘘です……」
「嘘じゃないワぁ。ルリちゃんもスぐにわかるわよ。さあ、あなたもジャドッツの改造手術を受けナさい。あなたも選ばれタのよ」
カマキリの大きな顔が私の目の前に迫った時、私の背後の扉が開き、私はバランスを崩すように廊下に出てしまう。
思わず後ろに倒れそうになった私の躰は、左右からガシッと掴まれ、私は身動きが取れなくなる。
「は、離して! いやっ!」
「さあ、こちらへ」
「あなたもジャドッツの改造人間になるのよ」
黒いレオタードを着て、目だけが覗いている黒いマスクを頭にかぶった女性たちが私の両手を掴んでいる。
その力はとても強く、私の力ではどうにもならない。
「キシシシシ……彼女タちはジャドッツの女戦闘員よ。人間の力では勝てはしナいわ。でも、ルリちゃんが改造手術を受けテ改造人間になれば、彼女たちをすぐに従えルことができるのよ。キシシシシ」
「いやっ! いやぁっ! 離してぇ!」
私は必死に逃げようとしたが、そのまま引きずられるように奥へと連れていかれる。
そして、手術中というランプがある両開きのドアが開き、私はその部屋の中へと入れられた。
******
「いらっしゃいませ」
店に入ってくる三人の女たち。
それを見た私は、すぐに入り口に準備中の札を出して窓のカーテンを全て閉める。
これで邪魔者は入ってこない。
店の奥の部屋に戻ると、三人はすでに擬態を解いて女戦闘員の姿となっていた。
黒いレオタードと網タイツに見える戦闘スーツを身にまとい、頭には目以外をすべて覆う黒いマスクをすっぽりとかぶっている。
偉大なる秘密結社ジャドッツの女戦闘員たち。
マスクの額部分と腰に巻いたベルトのバックルにはジャドッツの紋章が付いている。
いずれもカマキリ女の部下たちだ。
「キシシシ……それで状況ハ?」
部屋では擬態を解いたカマキリ女が脚を組んで座っている。
やはり本当の姿の方が落ち着くものよね。
私もすぐに擬態を解いて翅を広げ、ドクガ女の姿に戻る。
「キキーッ! 予定に変更はありません。ターゲットはこのまま山荘へと向かいます」
右手を上げて報告する女戦闘員。
「クシュシュシュ……それなラば話は早いワ。アタシが飛んでいって山道で始末スればいい」
それを聞いて私はカマキリ女に提案してみる。
擬態を解くと、やや言葉のアクセントがいつもとは変わってしまうのよね。
「キシシシ……ドクガ女ったラやる気満々ネ」
大きな複眼で私を見るカマキリ女。
「クシュシュ……当然でショ。ジャドッツの邪魔者は始末スるのみよ」
そう……
偉大なるジャドッツの邪魔者は始末する。
私の両親は私が始末したし、カマキリ女の夫もカマキリ女が始末した。
いずれも私たちにとっては正体を知られる可能性がある邪魔者だからだ。
カマキリ女は改造前にはとても愛していたとか言う夫を、たっぷりと切り刻んで楽しんだらしい。
うふふふふ……
あのあと私は偉大なるジャドッツの改造手術を受け、ドクガの能力を持つドクガ女として生まれ変わった。
なんて幸運だったのだろう。
こんな素晴らしい改造人間になれたなんて。
私をジャドッツの改造人間に推薦してくれたのはカマキリ女だったという。
カマキリ女はジャドッツの工作員によってあらかじめ心臓発作を起こすように仕組まれ、運び込まれた病院からジャドッツのアジトとなっているあの病院へと移されて改造手術を受けたのだ。
そして生まれ変わったカマキリ女は、自分のパートナーとして私を選んでくれた。
おかげで私はカマキリ女のサポート役として、ともにジャドッツにお仕えすることになったのだ。
もちろん場合によっては私がメインとなり、カマキリ女にサポートをお願いすることもある。
ともにジャドッツの女怪人同士として、いいコンビを組んでいるのだ。
「キシシシ……それじゃ今回はドクガ女に頼むワね」
「クシュシュ……ええ、任せて。たっぷり楽しませテもらうわ。ああ、でも、閉店までいた方がいい?」
私は少し意地悪く言う。
「キシシシ……かまわナいわ。どうせ準備中にしちゃったんでしょ? それにこの店など擬態用のクだらない店。むしろ客など来ない方がイいくらいよ」
彼女の言うとおりね。
擬態のためと拠点としての機能があるから使っているけど、いずれは私たちの専用アジトを手に入れたいもの。
さて、狩りを楽しんでこなくちゃ。
人間を殺すのは楽しみだわ。
ふふふふ……
私は裏口から外に出ると、翅を広げて夕方の空へと飛び立った。
END
いかがでしたでしょうか?
よろしければ感想コメントなどいただけますと嬉しいです。
これで今年の新年SSはすべて終了です。
三日間ありがとうございました。
本年も当ブログ「舞方雅人の趣味の世界」をよろしくお願いいたします。
- 2022/01/04(火) 20:00:00|
- 怪人化・機械化系SS
-
| トラックバック:0
-
| コメント:5
>>XEROXEL様
少し驚いてもらおうかなと、あえて予告しませんでした。(笑)
今回も丁寧な感想コメントありがとうございます。
やはり怪人化したら怪人の鳴き声みたいなのはあった方がいいですよねー。
あと、やはり冷酷で残酷になってほしいので、ついつい「以前愛していた相手」を殺させちゃうんですよねー。
ということで旦那さんは殺される役でした。(笑)
>>豆F様
今回は「即堕ち二コマ」みたいな展開の作品になってしまいましたですね。
価値観の変貌はやはり悪堕ちのメインかなぁと。
投下した後で考えますと、カマキリ女とドクガ女のゆりゆりシーンとかあってもよかったかもしれませんねー。
>>IMK様
これぞと言っていただけますのはありがたい限りですー。
やはり異形化・怪人化は大好きですから、ついついそういう話も多くなりますねぇ。
カマキリさんとクモさんにしようかとも思いましたが、今回はドクガさんにいたしました。
>>テンプラー星人様
いつもは鳴き声くらいで、めんどいのでカタカナ交じりの言葉にしたりはしないんですけど、今回は短いしいいかなーと。
口元は人間のままだけど、しゃべり方が少し変化しているというのも怪人化した感じが出るかなと思いましたです。
カマキリさんとドクガさんにはもう少しイチャイチャさせればよかったですねぇ。
- 2022/01/05(水) 18:27:01 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
- [ 編集]