今日は一本SSを投下いたします。
先日、いつも創作等でお世話になっております「Kiss in the dark」のg-than様が、ご自身のTwitterでとても素敵な「ショッカー女戦闘員」のイラストを投下されておりました。
そのイラストが、今回pixivにも投下されましたこちら。
「
帰ったら目の前に女戦闘員の足が… 」
Twitterでこのイラストを見たときには、まだ三枚目のイラストはありませんでしたので、ふと私は、この女戦闘員が帰ってきた人間の妻だったらさらなる悲劇だよなぁと思い、彼女が女戦闘員にされてしまうシーンをSS化してみようということで書かせていただきました作品です。
タイトルは「家に帰ってきたというのに……」です。
g-than様のイラストと一緒にお楽しみいただけましたら幸いです。
それではどうぞ。
家に帰ってきたというのに……
「ハッ」
冷たく固い台の上で目を覚ます一人の女性。
歳の頃は三十代半ばくらいか。
いまだ容色は衰えず、肌もみずみずしさを保っている。
おそらく近所でも美しい女性として通っているだろう。
その彼女は、今、両手と両足を金属の枷で固定され、円形の台の上で大の字に寝かされていた。
「こ、ここは? 確か私は……」
必死に記憶を手繰り寄せる彼女。
玄関の呼び鈴が鳴り、郵便配達人から主人宛ての小包を受け取ったことまでは覚えている。
そして、その小包から突然白い煙が噴き出してきたことも……
『目が覚めたようだな、智田恵理子(ともだ えりこ)』
突然、頭の上の方から声が響く。
恵理子が首を動かすと、壁の上の方に大きなワシのレリーフが飾られており、そこから声が流れてきたようだった。
おそらくスピーカーが埋め込まれているのだろう。
むしろ恵理子が恐ろしさを感じたのは、その声の重厚さからではなく、相手が自分の名前を把握していることだった。
つまり人違いでここに連れてこられたのではないということだ。
いったい何が目的だというのだろう……
思い当たることは……
主人に絡むことかもしれない……
「わ、私をどうするつもりですか?」
恵理子は改めて自分の置かれた状況を確認する。
両手と両足は、それぞれ手首と足首のところが金属の枷で固定されていて動かせない。
衣服はすべてはぎとられており、下着一つ身につけていない状態だ。
正直に言って恥ずかしいことこの上ないのだが、そんなことを気にしている余裕さえない。
どうやってここから抜け出して助けを求めるのか、恵理子には全く思いもつかなかった。
『お前にはこれより改造手術を受けてもらう』
ワシのレリーフのちょうどお腹の位置には、緑色に輝くランプがあり、それが声といっしょに明滅している。
その緑色の光が恵理子の顔を照らしていた。
「改造手術?」
聞いたことのない言葉だ。
手術というからには躰を切り刻まれるのかもしれない。
だが、改造とは?
「そうだ。これよりお前には我ら“ショッカー”の誇る肉体改造手術を受けてもらい、女戦闘員へと生まれ変わってもらう」
「ひっ!」
頭上にのみ注意が行っていたせいで、足の方から声がしたことに驚いた恵理子は小さく悲鳴を上げる。
見ると、そこには三人の白衣を着た男たちが立っていた。
医者?
恵理子はそう思ったが、彼らの顔には異様な赤と緑の色が縞模様のように塗られており、とても普通の医者たちとは思えない。
それに女戦闘員というのはいったい何なのだろう?
「い、いやっ! 手術なんていやです!」
自分が何か得体のしれないものにされるかもしれないという恐怖が恵理子を包み、彼女は首を振って拒絶する。
「誰もが最初はそう思う。だが、ショッカーの改造手術を受ければ、偉大なる組織の一員になれたことを感謝するようになるのだ!」
顔を塗った白衣の男が恵理子の周囲にやってくる。
その手には何に使うのかよくわからない器具や、緑色の液体の詰まった注射器が握られていた。
「いやっ! いやあっ! どうして私がそんな目に?」
『智田恵理子、お前の夫智田幸作(ともだ こうさく)は、東央技科学研究所の主任技術者だ。奴の存在は我がショッカーにとって望ましくない。お前が奴を始末するのだ!』
恵理子の目が驚愕に見開かれる。
そんな……
主人を……あの人を私に始末しろというの?
そ、そんなのは……
考えるだけでも恐ろしい。
「そんなのはいやあっ! 誰かぁっ! 助けてぇ!」
「無駄だ。このショッカーアジトには誰も来ない。おとなしく手術を受けるのだ」
「いやぁっ! いやですぅっ! あ……」
恵理子の腕に注射器が突き立てられ、緑色の液体が流し込まれていく。
白い肌に透けて見える血管が、緑色に染まっていく。
「あ……あああああ……・」
恵理子の全身に注射液が回っていくに連れ、恵理子の躰に激痛が走っていく。
三人の白衣の男たちはその様子に笑みを浮かべると、おもむろにスイッチを入れる。
恵理子の躰を注射液と光線の照射で強化していくのだ。
これによって恵理子の肉体は常人の数倍の力を発揮できるようになり、まさに“戦闘員”としての肉体を手に入れることになるのである。
キラキラと赤や緑の光線が恵理子の躰に照射され、恵理子の肉体が変化する。
白い肌が青い強化された皮膚へと変化し、筋肉も見た目は変わらないものの、今までとは比べ物にならない力を発揮できるように変わっていく。
「ああ……あああ……がふっ」
激痛と肉体の急激な変化に恵理子の意識が耐えきれなくなり、恵理子は気を失ってしまう。
だが、これはむしろ好都合であり、三人の白衣の男たちは次の段階へと移っていく。
台の周囲から細いワイヤーのようなものが伸び始め、恵理子の両耳から頭蓋骨の中へと潜り込んでいく。
恵理子の脳に思考支配と服従のためのチップが埋め込まれ、耳には通信機がセットされる。
これによってショッカーの戦闘員はいつでも首領や怪人の命令を聞くことができ、その命令に従って行動するようになるのだ。
恵理子も例外ではないだろう。
変化が収まってくることで、恵理子の呼吸も静かな規則的なものへと変わっていく。
青く染まった胸が強くなった心臓の鼓動を響かせる。
チップを埋め込まれることで恵理子の顔には新たな模様が生まれ、赤と青のペイントがされた特徴的な顔となる。
それはショッカーの女戦闘員に特有の顔であり、恵理子が女戦闘員として完成したことを示していた。
ここまで順調に終わったことで、三人の白衣の男たちにも安堵の表情が浮かぶ。
肉体強化時に細胞が耐えきれずに死んでしまうことは時々あることなのだ。
もちろんそれは、単にショッカーにふさわしくない肉体だったというだけのことなのだが、この女はそこをクリアして見せたのだ。
あとは仕上げをするだけでいい。
恵理子の両手と両足の枷が外され、大の上で気をつけの姿勢をしているように手と足が閉じられる。
その上からはかまぼこ型のカバーがかけられ、首から上だけが露出するように覆われる。
一人がスイッチを入れ、最後の仕上げが行われていく。
やがて、かまぼこ型のカバーが開けられると、恵理子の躰には戦闘員用の強化スーツが着せられていた。
それは俗にレオタードと呼ばれるものにそっくりな形をした黒の特殊スーツで、ある程度の防弾防刃機能を持ち、強化された肉体を保護してくれるものだ。
脚には網タイツのようなものが穿かされているが、これも同じ目的であると同時に、女戦闘員の“女”であることを最大限に生かし、敵の多くが男であることを利用してその目を引き付けるためのものでもある。
両手と両足にはそれぞれ手袋とブーツが履かせられ、首には赤いスカーフが、腰には赤いサッシュが巻かれている。
いわばこれがショッカー女戦闘員の“制服”と言っていいだろう。
「首領、手術完了です」
手術台を挟んで、壁の上のワシのレリーフに一礼する三人の白衣の男たち。
彼らとて手術に失敗すればそれなりに咎めを覚悟しなくてはならないのだ。
このような戦闘員ならともかく、最高の素材を選んで作られる怪人クラスの手術に失敗したとなれば、それこそ命はない。
それがショッカーという組織の掟なのである。
『起きるのだ、女戦闘員』
ワシのレリーフから声が響く。
その声は耳の通信機を介して脳へと直接届けられる。
偉大なる首領の命じる声。
それは今の彼女にとっては何よりも重要な声だ。
命じられるままに手術台の上の新たな女戦闘員がカッと目を見開く。
先ほどまでの恐怖はどこかに消え去り、その目には暗い闇の光が浮かんでいた。
「ふふ……」
口元に冷たい笑みを浮かべ、ゆっくりと躰を起こす女戦闘員。
レオタード状のスーツに包まれた美しい肉体が起き上がる。
そのまま躰を回すようにして、手術台から脚を下ろし、ブーツに包まれた足を床に着ける。
小さくカツッと音がして、女戦闘員はその身を手術台の横へと立たせた。
「イーッ!」
スッと右手を斜めに上げ、女戦闘員は奇声を上げる。
それはショッカー戦闘員が服従のために上げる声であり、首領への忠誠の表れである。
この声を上げて首領に忠誠を誓う。
それこそが今の彼女にとって一番大事なことであり、それ以外はすべて取るに足りないこと。
彼女はそう考えるようにされてしまっていた。
『お前はショッカーの女戦闘員として生まれ変わった。ショッカーのために働くのだ』
首領の声はまるで躰に染みわたるよう。
聞いているだけで躰が興奮に震えてくる。
この身すべてを捧げ、ショッカーのために働かねばならない。
新たな女戦闘員はそう思う。
すべてはショッカーのため。
「はい、お任せくださいませ。イーッ!」
女戦闘員は力強くそう答えた。
******
「ハア……ハア……」
呼吸を整えて周囲を確認する。
夜も更けた住宅街。
どうやら人の気配はなく、周囲の家々も静まり返っている。
無事に逃げ切れたようだ。
途中で助けてくれた青年を置いてくるような形になってしまったが、彼も逃げろと言ってくれていたし、あの場にとどまる方が危険だっただろう。
それにしてもやつらは何者なのか?
全身を躰にぴったりフィットするようなタイツ状の黒い衣服で覆い、奇声を上げてナイフで切りかかってくるとは……
あの時現れた紺のブレザー姿の青年は、出たなショッカーとかなんとか言っていたが、青年にも見覚えは無いし、ショッカーというのも初耳だ。
今研究所で開発している装置に関わることなのだろうか?
だとすると、明日にも研究所で他のメンバーにも注意を促さなくてはならないだろう。
ともかく今は……
門を開けて家の敷地に入り込む。
さすがにこの時間では恵理子も眠ってしまったようで、家に明かりは点いていない。
先ほどまでの恐怖を考えれば、恵理子の優しい顔を見、声を聴いて安心したいところだが、どうやら寝顔を見るだけで我慢するしかないようだ。
ふっ……やれやれ……
命が助かったばかりでなんと贅沢なことを言っているのか。
寝顔を見られるだけで充分ではないか。
玄関まで近づいて血の気が引く。
ドアが少し開いていたのだ。
鍵がかかっていないというだけなら、かけ忘れたという可能性も考えられるが、ドアが開いているとなれば……
まさかさっきの連中が?
「恵理子!」
まるで転がり込むような勢いで家の中に飛び込んでいく智田幸作。
一刻も早く妻の無事を確かめなくてはという気持ちばかりが焦る。
「恵理子!」
靴を脱ぎ散らかして廊下を抜け、リビングに飛び込んでいく幸作。
「はっ!」
次の瞬間、彼の目に網タイツに包まれた魅惑的な太ももが映り、頭上にブーツの踵が落ちてくる。
「がはっ!」
強烈な衝撃を受けて床にたたきつけられる幸作の前に、顔に赤と青の奇妙なペイントをして、黒いレオタードを着た妻の姿が現れる。
「恵……理子……」
「まさか生き延びて戻ってくるとは思わなかったけど、私がここにいて正解だったみたいね。さすがは偉大なるショッカーのコンピュータがはじき出した作戦だわ」
衝撃で意識を失いそうになるのを必死でこらえ、幸作は変わってしまった妻の姿を見上げる。
「恵理……子」
「それは今朝までの私の名前。今日私は偉大なるショッカーの改造手術を受け、女戦闘員として生まれ変わったのだ」
冷たい笑みを浮かべて見下ろしてくる妻の顔に、幸作は恐怖を覚える。
ああ……そんな……
彼女は……
彼女はもう別のものに作り変えられてしまったのか……
「お前は我がショッカーにとっては邪魔な男。この私が始末するわ。お前はここで死ぬのよ。ふふふふふ……さようなら、あなた」
今まで見たことのない冷酷な妻の顔。
女戦闘員の手刀が振り下ろされ、幸作の意識は闇に沈んでいった。
END
いかがでしたでしょうか?
今回投下前にg-than様にも読んでいただき、おかげさまで楽しんでいただきましたようで、投下の許可もいただけました。
このSSが少しでもg-than様のイラストの補完になればよいのですが。
それではまた。
- 2021/05/09(日) 18:00:00|
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