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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

娘の誕生日と四月馬鹿

月が替わりまして、今日は4月1日。
そう、エイプリルフールの日です。

エイプリルフールとなれば、はい、今年もまた“あのお方”が帰ってくることができました。
12回目の四月馬鹿様の登場です。

今年は誰がどんな騙され方になりますのか?
お楽しみいただけましたら幸いです。

それではどうぞ。


娘の誕生日と四月馬鹿

 「ママ、パパは今日も遅いの? くるみの誕生日なのに帰ってきてくれないの?」
 娘のくるみが悲しそうな顔で私を見る。
 テーブルにはケーキを用意し、脇には誕生日のプレゼントも置いてある。
 くるみの大好きなハンバーグもそろそろ焼けるころ合いだ。
 時間的にもこれ以上遅くなれば、くるみの寝る時間に影響してしまう。
 せめて……せめて今日ぐらい帰ってきてくれてもいいものを……

 「ごめんね……今日もパパは忙しいんだと思う。決してくるみの誕生日を忘れたわけではないのよ」
 私はくるみの頭をなでる。
 その目がじっと私を見る。
 胸が痛い。
 私はくるみに嘘をつく。
 あの人は忙しくて帰ってこられないんじゃない。
 どうせ今頃は……

 「さあ、ハンバーグが焼けたわ。くるみの大好きなハンバーグよ。美味しいわよ」
 私はフライパンからハンバーグを皿に移す。
 「わぁい! くるみハンバーグ大好き」
 そのいい香りに悲しそうな表情は消え、にこやかな笑みが娘に浮かぶ。
 「パパはきっと遅くなると思うから、ママと先に食べちゃいましょうか。ろうそくの火を消すんでしょ?」
 「うん」
 大きくうなずくくるみ。
 ハア……
 私はどうしたら……
 胸が痛い……

 「美味しーい」
 「それはよかった。ママもくるみが美味しそうに食べてくれてうれしい」
 ハンバーグを頬張るくるみの顔は、私をとてもうれしくさせてくれる。
 母も私にハンバーグを作ってくれたものだったわ。
 きっとこんな気持ちだったのかもしれないわね。

 四本のろうそくの火を吹き消し、ケーキをひと切れ食べてハンバーグも食べる。
 あとはパパさえいてくれたら、くるみにとっては最良の誕生日となるというのに……
 こんな日ぐらいこっちに帰ろうとは思わないのだろうか……
 もう……ダメなんだろうな……

 えっ?
 玄関で音がする?
 誰?
 誰か入ってきたの?
 私は急いで玄関に行く。

 「ただいま。遅くなってすまん。もう始めちゃったか?」
 「嘘……」
 私は思わず驚きに両手で口元を隠してしまう。
 玄関では靴を脱いでいる男が一人。
 帰って……帰ってきてくれたの?
 「いいにおいだな。腹減ったよ。俺の分あるか?」
 「えっ、ええ、もちろん」
 あなたが食べなくたって、ずっとみんなの分を作ってきたわ。

 「パパだー! お帰りなさいー!」
 私が部屋に戻るのが遅かったからか、くるみも玄関にやってくる。
 口にはハンバーグのソースが付いたままだ。
 「おお、くるみ。ただいまー」
 男は駆け寄ってきたくるみを抱き上げて頬擦りする。
 「やーん」
 「それそれー」
 「おひげいたーい」
 「わははは……そうかそうか。ごめんごめん」
 嬉しそうにはしゃぐくるみを下ろし、手をつないで部屋に入っていく男。
 私は置き去られたカバンを持ち、二人のあとから部屋に入る。

 「おお、美味しそうだなー。ハンバーグかー」
 「パパもママのハンバーグ好き?」
 「好きだぞー。ママのハンバーグは美味しいからなぁ」
 「美味しいー」
 テーブルに並んだハンバーグやケーキを見て、楽しそうにくるみと話しているあの人の姿をした男。
 嘘だ……
 この人はあの人じゃない……
 あの人は……こんなところに帰ってきたりしない……
 いつだって……
 いつだって私もくるみもほったらかしてきたくせに……

 でも……
 でも、いい……
 この人が何者だっていい……
 他人のそら似だってかまわない……
 だって……
 だって……くるみがあんなに楽しそうに……

 「ママー、どうしたの? 泣いてるの?」
 「う、ううん。違うのよ。ちょっと目にゴミがね。それよりもパパの分のハンバーグ焼かなきゃ。ちょっと待っててね、パパ」
 私は慌てて目元をぬぐい、キッチンに戻る。
 「ああ、ゆっくりでいいよ。久しぶりにくるみとおしゃべりもしたいしな」
 「くるみもパパとおしゃべりする―」
 「くるみはちゃんとご飯を食べてからな」
 「はーい」
 私の背後でかわされる会話。
 どうか……
 どうかこれが夢なら覚めないで……

                   ******

 ご飯を終え、プレゼントの中身に大喜びをし、パパとおしゃべりを楽しんで、すっかりおねむになったくるみを私はベッドに連れていく。
 その間にパパにはお風呂に入ってゆっくりしてもらい、私は部屋に戻ってカバンの中身を確かめてみる。
 何もない?
 カバンの中身は空っぽ。
 一切何も入っていないなんて……
 でも、声も姿もあの人そっくり。
 いったい彼は何者なの?

 「ふう……気持ちよかった」
 用意したパジャマに着替えたあの人がお風呂から上がってくる。
 本当に、見れば見るほどそっくりだわ。
 でも……
 でも……

 「お疲れ様。はい」
 私は冷蔵庫から缶ビールを取り出して彼に渡す。
 「お、ありがとう」
 私の向かいの席に着き、濡れた髪をバスタオルで拭きながら、缶ビールを開ける彼。
 「ぷわぁー! うまい」
 ああ……美味しそうに飲む姿もあの人そっくりだ。
 こういうところが好きだったのよ……

 「くるみはもう寝たのか?」
 「ええ、ぐっすりと……今日はありがとう」
 「ん? いいさ、たまには」
 私はその言葉に首を振る。
 「いいえ、たまにはではなく、初めてのことですよね?」
 「ん?」
 何のことかわからないというような表情をする彼。
 でもね、わかっているの。
 あなたはあの人ではないのよ。

 「あなたはあの人ではありません。私にはわかります。でも、くるみにとっては本当にあなたはパパでした。とっても喜んでパパと一緒に過ごす誕生日を楽しんでいました」
 「ふむ」
 少し表情が厳しくなる彼。
 私が気付いていたからだろうか……
 「だから私は決めたんです。今晩一晩、あなたをあの人として扱おうと。くるみのパパとして過ごしてもらおうと……」
 「おいおい、待てよ。俺は」
 「いいえ、あなたはあの人ではありません。あの人なら今頃は女の家にいるでしょう。娘のことなど心から追い出し、楽しい時間を過ごしているはず。ですから、あなたはあの人ではありません」
 そう……
 あの人にとって私とくるみはもういないものとされた存在。
 世間体のために今はまだ生活費を入れてくれているけど、いずれは離婚になるでしょう。
 だから、くるみのために早く帰ってくるなどあり得ないの。

 「ククククク……結構うまく化けたつもりだったが、やはり気付いていたのか。残念だ」
 突然ニヤッと笑いを浮かべる彼。
 やはりこの笑い顔はあの人とは違う。
 「はい。気付いていました。でも、あなたがくるみのパパを演じてくださったことには、本当に感謝しております。ありがとうございました」
 私は頭を下げる。
 これは本当に私の気持ち。
 彼のおかげで娘はすごく楽しめた。
 だから、心から感謝しているの。

 「あなたが何者で、なぜこんなことをしたのかはわかりません。お金がご入用でしたら、いくらかはご用意できると思います。何をお望みなのか、教えてくれませんか?」
 「ククククク……察しがいいな。望みはある。だが、金じゃぁない」
 「ひっ!」
 私は思わず口を押えてしまう。
 私の目の前で彼の姿が変化し始めたのだ。
 顔が茶色の短い毛でおおわれ、鼻づらがぐんぐん前へと伸び、ニタァッと歯をむき出して笑っている。
 耳は頭頂部に移動し、その間からはするすると大きな角が伸びて枝分かれしていく。
 馬?
 これは馬の顔?
 あっという間に彼の顔は角の生えた馬の頭になってしまったのだ。
 「そ、そんな……ば、化け物……」
 「ククククク……そうさ、俺様は化け物さ」
 ニタニタと笑っている彼に、私は驚きを隠せなかった。

 私は知った。
 彼は悪魔なのだ。
 私は悪魔を招き入れてしまったのだ。
 だとすれば、悪魔が金など欲しがるはずがない。
 悪魔が欲しがるものと言えば……
 「ああ……そう……そうなのですね……あなたが……あなたが望むものは……私の魂……私の命なのですね……」
 「ククククク……そうだ」
 馬の顔をした彼がうなずく。
 ああ……
 そんな……
 「わかり……ました……」
 私は覚悟を決めて静かにそう答える。
 「私の命は差し上げます。一晩の代償としては高すぎるという気もしますけど、あなたがそう望むのなら仕方がないのでしょう。あなたを家に迎え入れ、受け入れたのは私ですから……」
 「ククク……」
 彼はただ笑みを浮かべているだけ。
 「ですが……どうかお願いです。あと十年……せめて五年は待ってもらえませんか? あの子はまだ四歳なんです。今私が死んでしまったら、あの子は一人になってしまう! せめてあと五年……」
 私は頭を下げて必死に頼み込む。
 あの子を残してなんて……

 「大丈夫よママ。四月馬鹿様はそんなことを望んではいないの」
 えっ?
 くるみ?
 背後から聞こえてきた声に、私は思わず振り向く。
 「ひっ!」
 振り向いた私の目の前には、娘のパジャマを着てうさちゃんのぬいぐるみを持つ、馬の頭部と鹿の角を生やした彼にそっくりの化け物だった。
 「く……くるみ?」
 「うふふふ……ええ、そうよ。でも、私は四月馬鹿様のおかげで馬鹿として生まれ変わったの。今の私は四月馬鹿様のしもべなのよ」
 ニタニタと笑っている馬と鹿の化け物。
 パジャマから覗くぬいぐるみを持った手も、蹄のようになってしまっている。
 「そ……んな……どうして……」
 「ククククク……その子は俺様に騙されたからなぁ。俺様に騙された者は馬鹿となるのさ。ククククク……」
 「そんな……そんな……」
 「そうよ。私は四月馬鹿様をすっかりパパだと信じ込んでいたわ。だから完全に騙されて馬鹿として生まれ変わったの。馬鹿はとっても素敵。これからは私もいっぱい人を騙してやるの」
 くるみのパジャマを着てくるみの声でしゃべっている化け物。
 そんな……
 そんなことって……
 ひどすぎる……

 「心配ないわ。ママもすぐに馬鹿になるわ。ほら」
 えっ?
 見ると、私の手が馬の蹄のように変わっている。
 「いやぁっ! そんな! どうして?」
 「ククククク……お前も俺様に騙されたからさ」
 「違う! 私は騙されてなんかいない! あなたがあの人だなんて信じたりしなかった! 騙されてなんかいない!」
 私は必死に首を振る。
 私は騙されてなんか……

 「ううん、ママは騙されたわ。四月馬鹿様に」
 小さな馬鹿が首を振る。
 「えっ?」
 「だって、四月馬鹿様は命も魂も取ったりなんかしないわ。騙した相手を馬鹿にすることがお望みなの。でもママは……」
 「そう……俺様に魂を取られると信じていたよなぁ? クックックック……」
 「あ……」
 そうだ……
 私は四月馬鹿様に魂を取られると思い、必死で命乞いをした……
 四月馬鹿様に殺されると信じてしまっていた……
 あは……
 あははは……
 私も騙されてしまったんだわ……

 私の鼻が伸びていく。
 茶色の毛が生え、頭には角も生えてきたみたい。
 立ち上がって服を脱ぐと、躰も茶色い毛におおわれていた。
 両手と両脚は蹄ができ、お尻からは尻尾が生えてくる。
 ああ……
 なんて気持ちいいの?
 私はもう人間なんかじゃないわ。
 馬鹿になったのよ。

 「おめでとう。これでママも馬鹿ね」
 一足先に馬鹿になったくるみがにこにこと微笑んでいる。
 「ええそうよ。私は馬鹿。もう人間の女なんかじゃないわ」
 私もうれしくて、思わず歯をむき出して笑ってしまう。
 「うふふ……これからは一緒に四月馬鹿様にお仕えしましょうね」
 「ええ、もちろん。私たちは馬鹿。四月馬鹿様のしもべですものね」
 そうよ……
 四月馬鹿様のためにも、いっぱい騙さなきゃね。

 「ククククク……これでもうパパなど必要なくなったな?」
 「はい。あの男などもう必要ありません。私に必要なのは私に騙されてくれる愚か者たちですわ。うふふふふ……」
 ああん……たまらないわぁ……早く愚か者たちを騙したい。
 「ククク……まあ、好きにやれ」
 そう言って、どこからかつばの広い帽子とコートを取り出す四月馬鹿様。
 やがてそれらを身にまとうと、新たな獲物を探しに行ってしまわれる。
 私たち二人はその後ろ姿を見送ると、これからの楽しみを思い、顔を見合わせて笑みを浮かべるのだった。

 END

いかがでしたでしょうか?
来年もまた四月馬鹿様に登場してもらうためにも、また一年間無事に過ごしたいですね。
ではではまた来年。
(´▽`)ノ
  1. 2021/04/01(木) 20:00:00|
  2. 四月馬鹿
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
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コメント

四月馬鹿様、待ってました!(//∇//)
今年は母娘が被害と私得な展開でした(*゚∀゚*)ムッハー
四月馬鹿様の言葉を勝手に深読みして信じて騙されるとはまた面白い騙され方ですね

今後は娘は友達を馬鹿に変えていくのでしょうが、母娘揃って父親or父親の浮気相手を馬鹿に変えるかも?(๑´ㅂ`๑)♡
  1. 2021/04/01(木) 20:09:29 |
  2. URL |
  3. IMK #-
  4. [ 編集]

四月馬鹿様来ましたね~。
今年は珍しく良い話になるのか?と思いきや、
やはりそこは四月馬鹿様、良い話では終わらせなかったw
でも親子にとってはこの方が良かったのかも・・・?
楽しませていただきました!
  1. 2021/04/01(木) 22:03:37 |
  2. URL |
  3. MAIZOUR=KUIH #gCIFGOqo
  4. [ 編集]

こういう悪堕ちて救われる系の話、好きなんです。
今年もよろしくお願いします!
  1. 2021/04/02(金) 08:57:22 |
  2. URL |
  3. ryoubon #-
  4. [ 編集]

コメントありがとうございました

>>IMK様
今年も何とか登場させることができました。
今回もしっかり騙されてくれましたけど、人間って結構先入観で物を判断するって多いですよねー。

>>MAIZOUR=KUIH様
この母娘にとっては、もう夫もパパも必要無くなったので、よかったと言えばよかったんでしょうね。
四月馬鹿様も、わかってて犠牲者に選んだのかもしれませんね。

>>ryoubon様
やっぱり悪堕ちしたら幸せになってほしいですよねー。
  1. 2021/04/02(金) 18:22:50 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

お久しぶりです。

今年もあの方がやってきたか!
遅くなりましたが読ませていただきましたー。
相変わらず馬鹿にするためならなんでもする方ですなあ。
完璧な理想の夫演じる姿にほっこり。その姿勢に憧れる(笑)
途中まではもしや初の失敗か、と思いましたが、やはり一枚上手でしたねー。
堕ちたとはいえ母娘幸せそうでよかったですよ。
まず手始めは夫と浮気相手が餌食かな?

毎年ご苦労様です。来年も会えることを楽しみにしています。
また1年健やかでありますように( ˘ω˘ )
  1. 2021/04/04(日) 03:19:55 |
  2. URL |
  3. くろにゃん #cQR01DAo
  4. [ 編集]

>>くろにゃん様
うわー、お久しぶりです。
コメントありがとうございますー。

今年はなんとかスムーズにネタをひねり出すことができました。
まあまあいい感じにまとまってくれたと思います。
堕ちても幸せになるというのはいいですよねー。

機会があればTwitterにも顔を出してくださいねー。
(´▽`)ノ
  1. 2021/04/04(日) 17:43:26 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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