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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

私の望んだベージュ色の躰

とてもうれしく、またありがたいことに、このところ拙作「クリムゾン」や、その番外編であります「ナイロン獣になって」の、イラストや二次創作SSなどをほかの作家様方に書いていただけたりしております。

拙作を楽しんでいただいた上に、そういった作品まで作っていただけるというのは、本当に作者冥利に尽きるというもので、最高にうれしいものです。
おかげで、こうなりますと、私自身も何か「クリムゾン」の世界で一本書いてみようかなという気になりましたので、短編を一本仕上げてみました。

タイトルは「私の望んだベージュ色の躰」です。
まあ、タイトルでもろバレなんですが、自ら堕ちていく話です。
楽しんでいただけましたら幸いです。

それではどうぞ。


私の望んだベージュ色の躰

 「中咲(なかさき)さん、これからみんなでカラオケ行くんだけど、一緒にどう?」
 「あ、ごめんなさい。今日はこのあといろいろとあって……」
 嘘だ……
 用事なんて何もない……
 「ん、わかった。じゃあ、また来週ね」
 誘った方だって私が来るだなんて思ってもいない。
 同僚だからお義理で誘っただけ。
 きっと会社を出た途端に、私のことなどは忘れられる。

 それでいい……
 どうせ私は一人……
 誰かと一緒に楽しくなんて思わない……

 週末の夜。
 会社を出た私は、スーパーで出来合いのお惣菜と、甘めのカクテル系のお酒を買って家路につく。
 たった一つの楽しみのために……
 そう……
 私のたった一つの楽しみ……

 「ただいまぁ……」
 誰が返事をするわけでもない、一人暮らしのアパートの部屋。
 たいして家具類があるわけでもない殺風景な部屋。
 まるで私の心の中みたい・・・

 「ふう……」
 シャワーを浴びた私は、お惣菜をつまみにお酒の缶を開ける。
 何か面白いものでもやっているかしら……
 私はテレビを点ける。
 ちょうどニュースをやっている時間。
 明日はお休みだから、天気予報を聞く必要もないし、ほかに何か……
 ドキン……
 リモコンを持った私の手が止まる。
 これって……

 それは視聴者が撮影したという動画。
 炎の中を動く人影。
 警察が遠巻きに見守る中、その人影たちは何かをしている。
 アナウンサーが犠牲者が何人とか言っているけど、全然耳に入ってこない。
 ああ……
 今日現れたんだわ……
 ナイローンが……
 ナイローンが現れたんだわ。

 ドキドキする……
 胸が苦しくなる……
 なんて素敵……
 なんて美しい……
 なんて気持ちよさそう……

 まるで裸で踊っているみたい。
 目も鼻も口もない、全身タイツを着た女性たち。
 動画ではよく見えないけど、ベージュ色の女たちが闇と炎の中で蠢いている。
 ああ……
 素敵……
 恐ろしいはずなのに……
 人類の敵なのに……
 私もあんな姿になりたい……

 あの日から私の中で何かが変わってしまった気がする……
 そう、以前ニュースで彼女たちを見たときから、私は彼女たちの虜になってしまっていた……
 ベージュ色の躰で闇の中で蠢く女たち。
 物を壊し、人々を殺す恐ろしい女たち。
 なのに、とても美しい。
 その顔には目も鼻も口も無い。
 顔がマスクに覆われているから見えないのではない。
 無いのだ。
 彼女たちの頭はショーウィンドウに飾られた顔のないマネキンのようにのっぺりとしている。
 それでいて、両の胸はしっかりと双丘を作り、腰は見事にくびれている。
 それが全身タイツのようなものに包まれ、まるで裸のようなボディラインを惜しげもなくさらしているのだ。
 何より私を引き付けたのは、彼女たちが時折自分の顔や体を撫で、とても気持ちよさそうにしているところ。
 それがすごく魅力的で、私も彼女たちのようになりたいと強く感じてしまったのだった。

 彼女たちは暗黒帝国ナイローンだという。
 いつの間にか現れたテロリスト集団。
 男も女もみな全身タイツ姿という奇妙な格好で暗躍する、真面目なのか不真面目なのかわからない連中。
 でも、その活動は恐ろしく、社会インフラの破壊や人物の暗殺など様々に及ぶという。
 警察も防衛隊も歯が立たず、頼みの綱はAN(アン)ファイターと呼ばれる特撮番組から抜け出してきたような戦士たちだけ。

 ばかげた話だけど、これが今の日本で起きていること。
 日本のあちこちでナイローンが活動し、ANファイターと戦っているという話。
 人々はいつナイローンの襲撃に巻き込まれるかと恐れながらも、朝になれば満員電車に乗って会社に行く。
 そして前日と同じような仕事をして、疲れた体を引きずって家に帰る。
 そんな日常。

 ハア……
 息を飲む美しさ。
 ナイローンは恐ろしい組織。
 でも、それが何だというのだろう……
 社会が崩壊する?
 大勢が死ぬ?
 そんなの私にはどうでもいい。
 どうせ私は独りぼっち。
 会社で重宝されるような有能な人間じゃないし、彼氏だっているわけじゃない。
 社会が崩壊しようが知ったことじゃない。
 私はすでに次の話題に切り替わってしまったニュースを消し、缶のカクテルをのどに流し込んだ。

                   ******

 「ああ……ん……んん……ああん……」
 ベッドの上で躰をこすりまわす。
 私のたった一つの楽しみ。
 全身タイツを着てオナニーをすること。
 気持ちいい……
 ナイロンのすべすべとした肌触りが気持ちいい……
 全身タイツを着ることがこんなに気持ちいいことだったなんて……
 あのベージュ色の女たちが、時々自分の躰を撫でる理由がよくわかる。
 「は……はい……なります……仲間になりますぅ……」
 私は妄想する。
 今、私はナイローンのベージュ色の女たちに囲まれているところ。
 みんなが私も見降ろし、私がオナニーするところを見ているのだ。
 全身タイツに包まれ、気持ちよさそうにオナニーする私を。
 「ああ……いい……気持ちいいです……ナイローンの仲間になれて幸せですぅ……」
 全身タイツに包まれた私は、じょじょにベージュ色の女へと変わっていく。
 『お前も私たちの仲間になるのよ』
 『ベージュ色の女になるのよ』
 周囲から声が聞こえるのだ。
 私も見下ろすベージュ色の女たち。
 私がその仲間になるのを喜んで迎えてくれているのだ。
 ああ……
 なんてうれしい……
 「あ……ああん……イく……イっても……イってもいいですか?」
 『イキなさい』
 『イって、身も心も私たちのようになるのよ』
 「なります。仲間になります。ああん……イ、イくぅぅぅぅぅ」
 私は全身タイツの上から股間に指を這わせ、絶頂へと達していった。

 「ハア……ハア……」
 イってしまった……
 気持ちいい……
 これが……
 これが本当のことだったら……
 あのベージュ色の女性たちの仲間に本当になれたのだったら……
 どんなにいいことか……

 私は手でそっと顔をなぞっていく。
 鼻の盛り上がりや眼窩のくぼみを感じてがっかりする。
 わかってはいたけど……やっぱりナイローンのベージュ色の女にはなっていない。
 彼女たちの顔はのっぺりと凹凸が無い。
 眼窩のくぼみも鼻の盛り上がりもまったく無く、まるでゆで卵のようにつるんとしている。
 だから、きっとナイローンの女たちは人間ではないのだろう。
 私がいくら望んでも、あのベージュ色の女にはなれないのだ……

 私は汗と愛液で濡れた全身タイツを脱ぐ。
 この全身タイツを着たところで、彼女たちのようにはなれない。
 でも、近づくことはできる。
 全身を覆うことで、人間ではなくなるような気分を味わえる。
 なにより、ナイロンの肌触りは気持ちがいい。
 だから、私は全身タイツがとても好きになった。

 私はシャワーを浴びに浴室に行く。
 着ていた全身タイツを洗濯機に入れ、シャワーを浴びる。
 明日は洗濯しなくちゃ……
 シャワーを浴びた後は丁寧に躰を拭き、クロゼットからもう一着の全身タイツを出す。
 先ほどまで着ていたのが赤。
 これは青。
 これを着ると、布越しに世界が青く染まるのだ。

 あのナイローンのベージュ色の女たちを見たとき、私はとても衝撃を受けた。
 全身タイツなんてテレビなどで見たことはあったのに、裸とも思えるような彼女たちの姿を見たら、興奮してしまったのだ。
 私はすぐに全身タイツを注文した。
 本当は彼女たちと同じベージュ色のが欲しかったけど、このご時世、ベージュ色の全身タイツは売っていない。
 ナイローンのベージュ色の女に間違われるかもしれないし、彼女たちに成りすまして悪いことをする人間がいないとも限らないからなのだろう。
 全身タイツそのものの取り扱いをやめたところも多いらしい。
 仕方なく、私は赤と青の二着を買った。
 全身タイツに包まれるのはとても気持ちがいい。
 明日は休みだし、今日はこれを着て寝ることにする。
 ……
 朝起きたらナイローンの一員になっていたりしないかな……

                   ******

 「ふう……」
 すし詰めのバスの車内。
 身動きも取れない。
 仕事を終えて会社から帰るというのに、いつも乗るはずの電車が部分運休になってしまい、振り替え輸送のバスに乗るしかなくなってしまったのだ。
 テロなのか事故なのかわからないが、路線の付近で何かが崩れたらしい。
 おかげで一部区間が不通となり、バスに乗る羽目に……
 週明けの月曜日だというのに、やれやれだわ……

 周りから押されるように窓際に押し付けられる。
 苦しいけれどもどうしようもない。
 早くうちの近くの駅までたどり着いてほしい……
 窓の外では反対方向へ向かう緊急車輌が何台も。
 よくわからないけど、またナイローンが出たのかしら……

 「えっ?」
 私は目を疑った。
 あれは?
 もしかして?

 たまたまバスの揺れで後ろから押され、私の視線は上に向いた。
 その時、建物と建物の間の空間を何かが飛んだのだ。
 あれって……
 ナイローン?

 「お、降ります!」
 気付くと私はそう言っていた。
 バスが停留所で停車すると、とにかく無理やりに人を押し分けるようにして降りていく。
 やっと外へ出て新鮮な空気を吸うと、私は空を見る。
 いた……

 たぶん、普通は気が付かない。
 人は空を見ながら歩くようにはできていない。
 夜の街で暗い夜空を背景に、何かを見つけるのは偶然以外では難しい。
 ビルの上の黒い人影。
 私はその影に向かって走り出す。

 なんでこんなことをしているんだろう?
 どうして追いかけているんだろう?
 見つかったら……殺されてしまうかもしれないのに……
 話なんて……通じないかもしれないのに……

 きれいな姿……
 ビルからビルへと飛び移る黒い女の影……
 とてもきれい……
 裸としか思えないそのシルエット……
 でも、裸なんかじゃなく、ちゃんと包まれている……
 全身タイツに包まれているんだわ……

 包まれたい……
 彼女たちが着ている全身タイツを着てみたい……
 彼女たちのように目も鼻も口も無くなりたい……
 私も……
 私もナイローンになりたい……

 「ハア……ハア……ハア……」
 ビルから飛び降りた人影が暗闇の中へと消えていく。
 そこは誰もいないはずの場所。
 驚いた。
 ここはうちのすぐ近くにある廃工場だわ。
 今のところ更地にすることもできていなくて、立ち入り禁止になっていたはず。
 まさかここが?
 ここがナイローンの隠れ家なの?

 引き返すのなら今だ……
 今なら引き返せる……
 そんな言葉が思い浮かぶ。
 でも……
 私はそのまま進んでいく。
 立ち入り禁止の張り紙も、不法侵入は罰せられますという言葉も私を止めることはない。
 こんなことしていいのかという気はしないでもないけど……今を逃したらもう二度とチャンスはないかもしれないわ……

 幸い、外側の塀には一か所崩れかけているところがある。
 ここからならなんとか……
 私はスーツ姿なのも構わずに、その崩れかけた塀を乗り越える。
 足を引っかけてしまってストッキングが伝線してしまったけど、どうでもいいわ。

 私は構わず奥に行く。
 この廃工場……確かガス爆発があったって言ってた気がするけど……
 確かにあちこち壊れているし、壁なんかも崩れているわ……
 本当にここがナイローンの隠れ家なのかしら……

 「!」
 中へ入り込んだ私は、思わず声を出しそうになる。
 床に巨大な穴が開いていたのだ。
 ええ?
 何これ?
 地下室?
 こんなところに?
 どうやら天井となっていたここの床が崩れたものらしい。
 下の方は瓦礫が……

 『はあ……ん……』
 えっ?
 今……下から声がした?
 私は恐る恐る穴の淵から身を乗り出してのぞき込む。
 誰か……いる?

 私は思わずまた声を出しそうになり、必死に両手で口を抑える。
 あれは……ナイローン!
 私が見下ろした先には、数体の人影がいたのだ。
 暗くてよくは見えないものの、そのシルエットはまさに裸の男女が絡み合っているというもの。
 よく見ると、真ん中の一人が男のようで、他の三人は女性らしい。
 うっすらとそれがシマウマのような白黒の模様をした男と、ベージュ色の女たちであることがわかる。
 間違いないわ……
 ここはナイローンの隠れ家なんだ……

 『はあん……あん……ゼブラ様ぁ……』
 『ゼブラ様ぁ……私にも……』
 『ああ……ゼブラ様ぁ……とても気持ちいいですわぁ……ナイローン! ナイローン!』
 かすかに漏れ聞こえてくる声。
 女が気持ちよさにあえいでいるような声。
 シマウマ柄の男がベージュ色の女たちを撫でるたびに、女たちは声をあげていく。

 怖い……
 あそこにいる者たちからは邪悪な感じが漂ってきて、恐怖を感じてしまう。
 でも……
 でも、それ以上に、私は彼女たちがうらやましい。
 私も……
 私もあそこに混ざって、あんなように愛撫されたい。

 いつしか私の手は股間に伸びていた。
 あん……
 濡れている……
 感じているんだわ……
 ああ……
 なんて気持ち良さそうなの……

 「ヒッ」
 私は息を飲んだ。
 シマウマ柄の男の顔がこちらを向いたのだ。
 つるんとしたのっぺりとした顔で、目のくぼみも鼻の盛り上がりも何もない。
 でも、確かにその目が私を見たような気がしたのだ。
 私は急いで立ち上がると、その場を逃げ出す。
 怖い……
 怖い怖い怖い……
 やはりナイローンは恐ろしい存在なのだ。
 見つかったら殺されてしまうかもしれない。
 私は何とか必死に逃げ出し、転がるようにして廃工場から外へと出る。
 しばらく走って、通りの明るさが戻ってくるまで、私は後ろを振り返ることができなかった。

                   ******

 「ふう……」
 キーボードから手を放し、パソコンから顔をあげる。
 あのあとどうやって家まで帰ってきたのか、よく覚えていない。
 家に帰った私は、シャワーを浴びることもなく布団に潜り込んで震えていた。
 でも……
 落ち着くにしたがって、私はあそこで見たことが鮮明に思い浮かぶことに気が付いていた。
 『ああん……ゼブラ様ぁ……』
 『とても気持ちいいですわぁ……』
 ベージュ色の女たちの声が耳に残っている。
 なんて気持ちよさそうだったのだろうか……
 まるで布と布がすり合う音すら聞こえてくるぐらい……
 あのシマウマ柄の男……ゼブラ様とか言う男に触られるのが、そんなに気持ちいいのだろうか……
 触られてみたい……
 私も触られてみたい……

 「中咲さん?」
 「あっ、は、はい?」
 「書類できた?」
 「あ、いえ、もう少し」
 いけない……
 仕事中だった。
 忘れなきゃ……
 もうあそこに行ってはいけないわ……
 忘れなきゃ……

 そう思ったはずなのに……
 私は何をしているのだろう?
 私はどうしてここにいるのだろう?
 恐ろしいのに……
 殺されるかもしれないのに……
 どうして……

 会社から帰ってきた私は、またこの廃工場に来ていた。
 暗闇の中、そっと昨日の場所に行く。
 その手前、ちょっとした影になっている部分。
 私はそこに身を潜め、着ているものを脱いでいく。
 上着もスカートもストッキングも……
 下着もすべて脱ぎ、生まれたままの姿になる。
 そしてカバンから取り出したものを広げる。
 家で着ている赤い全身タイツ。
 これを着込んでいくのだ。
 脚を通して腰まで引き上げ、袖に手を通して背中のファスナーを上げていく。
 マスク部分を頭にかぶり、後頭部のファスナーを閉めれば、私の躰は全身タイツに包まれる。
 ハア……
 私は思わず顔を撫でる。
 全身タイツは本当に気持ちがいい。
 これで……

 私はそっと静かに昨日の場所へと近寄っていく。
 暗いうえに視界が全身タイツで遮られているので、慎重にゆっくりと。
 足元に気を付けながら進んでいく。
 思った以上に全身タイツのマスクを被ってしまうと、暗すぎて何も見えないわ。
 今度はマスク部分はたどり着いてからかぶるように……
 そこまで考えて私はおかしくなる。
 今度?
 今日死ぬかもしれないのに?
 見つかったらきっと殺されるというのに?
 ふふっ……おかしいわ。

 昨日の場所までくると、私はそっと下を覗き込む。
 あれ?
 今日は一人?
 シマウマ柄の男……ゼブラ……様だけ?
 ベージュの女たちはいないのかしら?

 下にはシマウマ柄のゼブラ様とか言う男が一人だけ。
 崩れた瓦礫の上に腰かけている。
 いったい何をしているのだろう?
 特に何かしているようには見えないけど……
 休息でもしているのだろうか?

 それにしても……
 見れば見るほどシマウマ柄の全身タイツを着ただけの男性に見える。
 たくましい躰つきが全身タイツによって強調されている感じ。
 これはこれで美しいと思う。
 ただ、本当に顔はのっぺりとして何の凹凸も無いところは、何かマネキンのような無機質さを感じ、それが恐怖を呼び起こすのかもしれない。

 私が息を潜めて見降ろしていると、優雅に腰を揺らすような歩き方で、三人の女たちが現れる。
 ベージュ色の女たちだわ。
 彼女たちもニュースなどで見たとおり、全身タイツを身に着けた女性たちのよう。
 こちらも顔の凹凸は一切無く、全身タイツが躰に張り付いているかのように躰にフィットしている。
 どんなにオーダーメイドで全身タイツを作ったとしても、ここまで胸の形をそのまま浮き出させはしないだろう。
 普通は周囲の布が引っ張って、胸を平たくさせてしまうから。
 だから、やっぱり彼女たちは全身タイツを着ているかのように見えるだけなんだと思う。

 『ベージュたちよ、こっちへ来るのだ』
 『はい、ゼブラ様。ナイローン』
 シマウマ側の男が手招きして、ベージュの女たちがそばに寄っていく。
 彼女たちを足元に座らせ、その躰を撫でていくシマウマ柄の男。
 『ああん……』
 『はぁ……ん……ゼブラ様ぁ……』
 そのたびに女たちは気持ちよさそうに声を上げる。
 口などまったくないのに、声を上げるのだ。
 それはもう気持ちよさそうに……

 私はその場に仰向けになり、目を閉じて自らの躰を撫でていく。
 「ああ……ん……」
 あのシマウマ柄の男、ゼブラ様に撫でてもらっていることを夢想し、自分の躰を撫でるのだ。
 「ああ……ゼブラ様……ゼブラ様ぁ……」
 できるだけ小声で、気付かれないようにしながら、私はベージュの女たちになった気分を味わうのだ。
 『お前もナイローンの一員になるのだ』
 妄想の中でゼブラ様が私に語りかけてくる。
 「なります。ナイローンの一員になります。ナイローン! ナイローン!」
 私は自分の躰を抱きしめるようにして忠誠を誓う。
 ああ……
 これが本当のことなら……

 「ふふふ……」
 「ふふふふ……」
 えっ?
 すぐそばで声が聞こえる。
 「ヒッ!」
 私が目を開けると、私のそばに三人のベージュの女が立っていた。
 い、いつの間に?
 そんな……

 「うふふふ……そんな恰好でのぞき見?」
 「悪くない姿ね。さあ、立ちなさい。ゼブラ様がお呼びよ」
 のっぺりとした顔には表情など存在しない。
 でも、私を見下ろしているのはわかる。
 私は先ほどまでの気持ちよさなど吹き飛び、ガクガクと震えながらも、立ち上がるしかなかった。

 「さあ、来るのよ」
 私が立ち上がると、三人のうちの一人が私を引き寄せる。
 あ……
 すべすべしたナイロン同士がこすれ合うような感触。
 やっぱり彼女たちも全身タイツのようなものを着ているというのだろうか?
 「ひぃっ!」
 私がそう思ったのもつかの間、私は穴の中へと突き飛ばされる。
 死ぬ……
 私はそう思ったが、私の躰は落ちた先でがっちりと受け止められた。
 えっ?
 見ると、私のすぐ目の前にシマウマ柄の男の顔がある。
 な?
 突き落とされた私の躰は彼が受け止め、お姫様抱っこのような形になっていたのだ。
 「あ……そ……」
 な、なにを言っていいのか?
 助けて?
 それとも、はじめまして?

 「あ、ありがとうございます」
 私は受け止めてもらったことに礼を言う。
 「ゼブラ様、ご命令通りにいたしました」
 三人のベージュ色の女たちは、まったく問題無いように上から飛び降りてくる。
 すごい……
 人間なら怪我をしてしまう高さなのに……

 「ふむ……赤か」
 私はそっと下ろされ、立たされる。
 そしてゼブラ様は私の姿を眺め、そうつぶやかれた。
 「クリムゾン様のような暗い赤でも、レッドのような赤でもない。少し明るめの赤だな。女、なぜそんな恰好をしてここにいる?」
 「あ……そ、その……」
 私は答えに詰まってしまう。
 その……皆さんを見てオナニーしたかったなんて……言えるはずが……

 「ふん……ANT(アント:Anti Nyloon Team アンチナイローンチーム)のスパイではなさそうだな。その恰好で我々の目をごまかそうとするような連中とも思えん。答えろ。何をしに来た?」
 腕組みをして私をにらみつけてくるゼブラ様。
 私の周りにはいつの間にかベージュの女たちが囲むように立っていて、とても逃げ出せる状況じゃない。
 どうしよう……

 「私……その……笑わないで欲しいんですけど、皆さんを見て、すごく素敵だって思ったんです……だから……」
 私はもう正直に話し始める。
 ナイローンの映像を見て衝撃を受けたこと。
 全身タイツを着たようなベージュの女たちがとても素敵だったこと。
 自分もそんな恰好をしてみたいと思い、全身タイツを手に入れたこと。
 偶然ここを見つけ、ゼブラ様とベージュの女たちがとても気持ちよさそうに躰を撫で合わせていたのが気持ちよさそうだったこと。
 あまりのことに、自分も撫でてもらっている気持になりたくて、この格好で……オナニーしようとしていたことを。

 「ひあっ!」
 言い終えた私をゼブラ様はしばし無言で見つめていたが、いきなり私の顎に手をかけて持ち上げる。
 「ベージュになりたいか?」
 「えっ?」
 「ベージュになりたいかと聞いているのだ。この女たちのように」
 ベージュに?
 なれる……の?
 人間が……?
 なれるの?
 「な……りたい……です」
 私は顎を掴まれながらも、コクンとうなずく。
 ベージュに……なれるの?

 「ふふ……いいだろう。コマンダーパープル様より、ベージュを増やす許可はいただいてある。おい、ベージュのナイローンスキンを持ってこい」
 「かしこまりました、ゼブラ様」
 ベージュの女たちの中でも一番小柄な女性が瓦礫の奥へと消えていく。
 「自分からベージュになりたいとは面白い女だ。お前を俺の四番目のベージュにしてやろう」
 「本当ですか? ありがとうございます」
 私はお礼を言う。
 本当にベージュにしてもらえるなんて……

 やがて闇の中から、先ほどの小柄なベージュ色の女性が戻ってくる。
 その手には折りたたまれた布のようなものが。
 「ゼブラ様、どうぞ」
 「ご苦労」
 差し出された布を受け取り、ベージュ色の女性の頬を撫でるゼブラ様。
 それだけでベージュ色の女性は最高の快楽を感じているようだ。

 「これはベージュのナイローンスキンだ。裸になってこれに着替えろ」
 手渡されるベージュ色の布。
 「ナイローンスキン?」
 「そうだ。我々ナイローンの躰を覆うナイローンスキン。これを着ることによって、お前は人間からナイローンの女戦闘員ベージュとなる」
 「ナイローンの女戦闘員……ベージュ……」
 私の手の中にあるベージュ色のナイローンスキン。
 これを着れば……私はベージュになるの?
 「ちょっと待って……これを着ればって……もしかしてこのベージュさんたちも、元は……」
 元は人間だというの?
 「そうだ。こいつとこいつなどは元は母と娘ですらある」
 先ほどこのナイローンスキンを持ってきた小柄な女性と、もう一人妖艶な色気を持つ女性をゼブラ様は指し示す。
 「ああん、ゼブラ様、それはもう過去の話でございます」
 「私たちは二人ともゼブラ様にお仕えするベージュ同士です。母だの娘だのという関係など存在しません」
 「ええ、私たちは仲間。ベージュ同士」
 そう言って二人は抱き合ってお互いの躰を撫でていく。
 それはぞくっとするほどなまめかしい。
 ベージュ同士……
 なんて素敵なのだろう……

 私は背中のファスナーを下ろし、全身タイツを脱いでいく。
 今まで私を包んでいた全身タイツを脱ぎ捨て、渡されたベージュ色のナイローンスキンを着るのだ。
 ナイローンスキンは本当に今脱ぎ捨てた全身タイツとそっくりな代物。
 手触りもナイロンの生地そっくり。
 これを着るだけでベージュになるなんて信じられない。
 私は騙されているのではという気さえする。
 でも……
 でも……
 着たい……
 着たくてたまらない。
 なんて素敵。
 なんてすばらしい。
 これがナイローンスキン。
 私を包み込んでくれるナイローンの皮膚なのね。

 ハア……ン……
 想像以上……
 タイツ部分に足を差し入れただけで、全身を快感が走る。
 気持ちいい……
 気持ちいいよぉ……
 私はいつも着る全身タイツと同じように、両足から穿いていく。
 ハアン……
 たまらない……
 最高……
 最高よ……

 穿いただけで、腰から下にきゅッと張り付くようなフィット感。
 よじれたりずり下がったりすることなどあり得ないのがよくわかる。
 着ているのに着ていない。
 皮膚なのに衣装。
 これがナイローンスキンなのね。

 袖に両手を通し、肩までスキンをあげていく。
 背中部分の切れ込みがすうっと閉じて、私の躰と一つになる。
 胸もその形そのままを覆うように張り付き、おへそのくぼみさえもうっすらと浮き出てくる。
 マスク部分を前からかぶるような感じでかぶれば、髪の毛まで包み込んで後ろ側で閉じられる。
 ファスナーも何もない。
 もう脱ぐことさえできはしない。
 ううん……
 脱げたって脱ぎたくなんかないわ。

 頭がくらくらする……
 めまいが起きているような感じ……
 でもふわふわして気持ちがいい……
 躰がナイローンスキンに包まれ、すごく快適。
 なんだか生まれ変わっていくみたい・・・
 私は……
 私は……
 私は暗黒帝国ナイローンのベージュ。
 ナイローンにこの身を捧げ、ナイローンのためなら何でもします。
 ナイローン……
 ナイローン……
 私はナイローンのベージュですぅ……

 気が付くと、私は地面に横たわっていた。
 いけない……気を失っていたのかもしれない……
 「ナイローン!」
 私は急いで立ち上がり、ゼブラ様に右手を上げて敬礼する。
 ゼブラ様は私のご主人様。
 本来私たちベージュは特定のナイロン獣様に属することはないけれど、私たち四人はゼブラ様に属するベージュなのよ。
 だから私のすべてはゼブラ様のもの。

 「ふふ……終わったようだな。ベージュになった気分はどうだ?」
 「はい。とても気持ちがいいです。ベージュであることがこんなに素晴らしいなんて思いませんでした。私はナイローンのベージュ。ナイローンとゼブラ様のためなら何でもします。ナイローン!」
 ああん……
 こうしてゼブラ様にご挨拶するだけでも気持ちがいい。
 これでゼブラ様に触られたりしたら……
 気持ちよくて何も考えられなくなりそうです……

 「ふふふ……それでいい。お前はベージュ。自分の顔を触ってみるがいい」
 「顔を……ですか?」
 ゼブラ様のお言葉に私は戸惑う。
 顔などと……私たちベージュには意味のない言葉ではないだろうか……
 とはいえ、ゼブラ様のお言葉に異を挟むなんてありえるはずもない。
 私は自分の頭部の正面を手で撫でまわす。
 あん……
 気持ちいい……
 ナイローンスキン同士が触れ合って気持ちいいわ。
 自分の手でさえこうなのだから、ベージュ同士で触れ合ったらもっと気持ちよさそう……

 「ふふ……どうだ?」
 「はい。すべすべで気持ちがいいです」
 私は正直に答える。
 のっぺりとした頭の表面を触るのはとても気持ちがいい。
 「目や鼻はあったか?」
 「ゼブラ様、私はナイローンのベージュです。目や鼻など存在するはずがありません」
 下等な人間じゃあるまいし、私たちベージュにそのようなものが無いことはご存じのはずでは……
 「そうだ。お前はもう人間ではない。ナイローンのベージュだ。それを忘れるな」
 「ナイローン! はい、ゼブラ様!」
 そういうことなのですね。
 ゼブラ様は私が人間ではなくなったことを忘れるなと。
 ナイローンのベージュであることを喜びに思えと。
 もちろんです。
 もちろんです、ゼブラ様。

 「うふふふ・・・」
 「うふふ・・・」
 「うふふふ・・・」
 それまで黙ってやり取りを見つめていた三人のベージュが私のそばにやってくる。
 「私たちはベージュ。新しいベージュを歓迎するわ」
 「これからはベージュ同士、ともにゼブラ様にお仕えするのよ」
 「私たちはベージュ。それ以外の何者でもないわ」
 それぞれが私の頬を撫で、躰を触れてくる。
 ああ……
 気持ちいい。
 お互いのナイローンスキンがこすれ合ってとても気持ちがいい。
 「ええ。私たちはベージュ。私もベージュの仲間よ」
 私は、自らも彼女たちの躰に触れていく。
 私たちはベージュ。
 みんな一つの存在なんだわ。

                   ******

 「ハア……ン……」
 全身から力が抜けてしまいそう。
 ゼブラ様に頬を撫でてもらうことが、こんなに気持ちがいいことだなんて……
 ナイローンスキン同士の触れ合いが、これほど素晴らしいことだったなんて……
 「ふふふ……よくやったぞ」
 「は、はい……ありがとうございます、ゼブラ様ぁ……」
 私はゼブラ様の言葉にそう答えるのが精いっぱい。
 躰が溶けてしまいそうです……

 ゼブラ様のご命令で、私は他のベージュたちとともに人間たちを襲ってきた。
 今の私には下等な人間を殺すのなど造作もないこと。
 ANファイターのような連中さえいなければ、ゼブラ様のお手を煩わせるまでもなく、私たちだけで充分だ。
 私は存分に殺戮を楽しみ、その気持ちよさを味わってきたけど、殺戮の快楽などゼブラ様に撫でていただくこの気持ちよさには比べるべくもない。
 ああ……私は幸せです……ゼブラ様ぁ……

 ゼブラ様のそばには、私のほかに三人のベージュたちがいる。
 いずれもうっとりとして、ゼブラ様の愛撫をいただいているのだ。
 私たちにとっての最高のご褒美。
 全身を包む快楽に身をゆだね、ベージュであることの幸福を噛みしめる。
 私はナイローンのベージュ。
 ベージュ色のナイローンスキンに包まれた女たち。
 全員がつるんとした目も鼻も口もないゆで卵のような頭部。
 顔などという無意味なものなど存在しない。
 これこそが、私が望んだ最高のベージュ色の躰なんだわ。
 私はゼブラ様の愛撫を身に受けながら、ベージュに生まれ変わった幸せを存分に味わっていた。

END

いかがでしたでしょうか?
よろしければ感想コメントなどいただけますと嬉しいです。

ということで今日はこんなところで。
それではまた。
  1. 2021/01/24(日) 21:00:00|
  2. クリムゾン
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

まるで麻薬の様にナイロンの魅力に取り憑かれてしまった女性が恐怖を感じつつもベージュに変えられてしまう様に興奮しました(๑´ㅂ`๑)♡
同じような女性は他にもいそうですねw
  1. 2021/01/24(日) 21:22:06 |
  2. URL |
  3. IMK #-
  4. [ 編集]

ナイローンの姿に魅了されてその一員となる事を希望する女性…
大変ドキドキしながら読みました。
自ら望んで悪に堕ちる女性もいいですね~(*´ω`*)
更新お疲れ様でした。
  1. 2021/01/24(日) 22:16:14 |
  2. URL |
  3. 名無しですー #rFnOs2i6
  4. [ 編集]

自ら堕ちる事を望むという、ちょっと意外なパターンですね。
舞方さんの作品は、独特のエロさがあって本当に素晴らしいです!!楽しまさせていただきました!
  1. 2021/01/24(日) 22:48:00 |
  2. URL |
  3. marsa #.dp7ssrY
  4. [ 編集]

コメントありがとうございました

>>IMK様
きっと悪に魅力を感じてナイローンに参加したいと思う人間もいるんでしょうなぁ。
とはいえ、彼女は本当に幸運だったんだと思います。
たぶん、悪事をしたいから加わりたいなんて奴は加えてもらえない気がします。

>>名無しですー様
ドキドキしていただけたなんてうれしいお言葉です。
彼女自身は悪に染まったつもりはないんでしょうねぇ。

>>marsa様
エロいと言っていただけて本当にうれしいです。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
  1. 2021/01/25(月) 18:25:41 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
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