ジューコフは麾下の部隊の進撃を停止させました。
すでにソ蒙側が主張する国境戦まで部隊は進出しており、それ以上の進撃は満州国への領土侵犯に他ならなかったからです。
スターリンは、このノモンハンでの戦いが日本との全面戦争までに発展することを望んではいなかったのです。
そう、スターリンは近々ドイツがポーランドに侵攻することがわかっていました。
そして、その時にはポーランドの半分をソ連が手に入れることにドイツとの間で密約が交わされていたのです。
スターリンの目はヨーロッパに向きました。
日本軍をある程度叩けたことで、ソ連の目的は達しました。
後は日本軍さえおとなしくしてくれれば、この戦いは終わりだとスターリンは考えておりました。
昭和14年(1939年)9月1日。
ソ蒙軍は各所で陣地構築に入ります。
日本軍の反撃に備え、国境線(ソ蒙側主張の)を保持するのが目的でした。
塹壕が掘られ、機関銃が据え付けられ、鉄条網が張られました。
長大な陣地線が構築されたのです。
まさにこの日、ドイツ軍はポーランドへの侵攻を開始いたしました。
歴史上、この日をもって第二次世界大戦が勃発した日とされています。
ヨーロッパでも戦争が始まりました。
第6軍は戦線を縮小し、ソ蒙側主張の国境線より兵を引きました。
しかし、関東軍はまだまだ負けたとは思っていませんでした。
8月後半に行なった参謀本部との交渉により、日本本土より第5、第14の二個師団が急遽満州に派遣されることが決まったのです。
これは、満州防衛に戦力不足を申し立てた関東軍の言い分を認めた措置で、参謀本部としては一応の注文としてノモンハンの戦場には投入しないという約束で送られるものでした。
満州全域でのソ連軍の攻撃におびえていた関東軍ですが、この二個師団の派遣により、国境守備における予備兵力を作ることができます。
ならば、確かにこの第5及び第14師団はノモンハンには使わないが、すでに満州駐屯である第2、第4、第7師団の三個師団をノモンハンに投入して、第23師団の敵討ちを取ろうと意気込んだのです。
一個師団を撃滅されておめおめと引き下がれるか!
関東軍参謀たちはそう言ってはばかりませんでした。
その撃滅されたのがどうしてなのかなど彼らの頭にはありません。
ヨーロッパでの戦争勃発で、ソ連の目はヨーロッパに向いた。
ならば今なら日ソの全面戦争はありえない。
だとしたら、ノモンハンの戦場に全力を投入できるではないか。
彼らはそう考え、9月2日には関東軍司令官の訓示でソ蒙軍撃滅を呼びかけます。
しかし、彼らの行動は直前で待ったをかけられました。
9月3日。
関東軍宛に参謀本部よりの電文が入ります。
そこには、事件の終結をはかり、関東軍司令官は攻勢作戦を中止すべしとあったのです。
これは大命(天皇陛下による命令)でした。
関東軍司令部は激昂しました。
本土からの二個師団は約束どおり使わない。
だから手持ちの三個師団は使ってもよいというのが参謀本部の考えではなかったのか?
そんな勝手なことを言い放ちます。
そこで彼らは考えました。
確かに参謀本部の命令は天皇陛下による大命である。
しかし、天皇陛下といえども間違いはあるし、命令の行間を読むことも大御心に沿うには必要であろう。
そう、またしても勝手な考えを抱くのです。
彼らは大命に基づき攻勢作戦は中止することにしました。
しかし、ノモンハンの戦場には、撃ち捨てられた友軍兵士の死体や、遺棄されて見捨てられた兵器があります。
それらは全て大事な陛下の赤子であり陛下より賜った兵器です。
そう言った大事なものを戦場に晒しておくのは忍びない、全て回収しなくてはならないので、ソ蒙軍陣地に小規模攻撃をかけて敵が混乱しているうちに回収するという名目を立てました。
つまり、戦場掃除にかこつけた攻勢作戦を取ろうというのです。
ですが、今度こそ参謀本部はこれを頑としてはねつけました。
全ての行動を禁じ、「大命」を繰り返して関東軍の行動を阻止します。
9月4日から5日にかけて、何度も関東軍司令部と参謀本部との間に侃々諤々の電文のやり取りや人員のやり取りなどがありましたが、結局関東軍の死体回収の名目での戦闘は行われることがありませんでした。
わずかに戦場南方のハンダガヤ付近では依然戦闘が続き、日本軍が確保したまま停戦を向かえることになります。
9月9日、モスクワで日本の大使東郷茂徳(とうごう しげのり)と、ソ連外務人民委員(外務大臣)ヴァチェスラフ・モロトフとの間で停戦及び国境線確定交渉が始まりました。
交渉は予想通り双方の思惑が絡む難しいものでしたが、ひとまず国境線確定を暫定的なものとして、正式な確定は後日回しにすることで、9月15日深夜に交渉がまとまります。
9月16日午前7時。
双方に一切の敵対行動の中止が命じられました。
ノモンハン事件は終わったのです。
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それではまた。
- 2007/10/22(月) 19:56:05|
- ノモンハン事件
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| コメント:2
早く次を読ませて~って気持ちです。
それにしても毎日更新なさっていて、頭の下がる思いです。
- 2007/10/22(月) 21:05:04 |
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