ブログ丸15年達成記念SS、昨日で終わりだと思った?
残念! もうちょっとだけ続くんじゃ。
ということで、記念SS二本目は短編SSです。
今月の7日8日で投下しました、「
軽率に隣の美人未亡人をロボット化 (前)」「
軽率に隣の美人未亡人をロボット化 (後)」と同じ世界観を持つ、「軽率にロボット化」シリーズの一本となります。
タイトルは、「軽率にロボット化 成浩(なるひろ)の場合」です。
お楽しみいただければと思います。
それではどうぞ。
軽率にロボット化 成浩(なるひろ)の場合
またボクは壁にかかった時計を見上げる。
先ほどから五分しか経っていない。
でも、もう一時間は経ったような気さえする。
「ママ遅いなぁ・・・」
買い物に出かけたにしては、あまりにも帰りが遅くはないだろうか・・・
心配だ。
なにか事故に遭ったのではないだろうか・・・
それとも・・・
まさかあいつに何か言ったんじゃ・・・
あいつのことを考えただけで、胸が苦しくなる。
学校の帰りに、あいつがいつもいる公園の前を通るだけでも、気分が悪くなるくらいだ。
ママが買い物帰りにあそこの前を通るのは充分に考えられる。
もしかして・・・
ママはあいつに何か言ってしまったんじゃ・・・
ボクをいつもイジメてくるあいつ。
筆入れを隠されたり、カバンを汚されたり、上靴に泥を入れられたり・・・
先生に言っても、みんな仲良くしなさいとか、人の嫌がることはしないようにとか、そんなことしか言ってくれない。
ママはすごく怒ったけど、ママが何か言ったりしたら、かえってあいつが余計に何かしてきそうだからやめてねってお願いしてあったのに・・・
でも・・・
ママが怒ってくれたのはうれしかった。
「遅いなぁ・・・」
もう一度時計を見る。
やっぱり三分ほどしか経ってない。
もう帰ってきてもいいはずなのに・・・
玄関でドアの開く音がする。
ママだ!
ボクはすぐに玄関に行く。
ママだ!
やっと帰ってきてくれた!
「お帰りなさい、ママ! えっ?」
ボクは玄関でママの姿を見て、思わず立ち尽くす。
ママ?
えっ?
ママ?
「ピッ! メモリー確認。曽根田成浩(そねだ なるひろ)を認識しました。初めまして。私はKSカンパニー製ヒューマンロボット、KSR-217アヤです。よろしくお願いいたします」
玄関でぺこりと頭を下げるママ。
いや、本当にママなの?
一体、これはどうなっているの?
玄関先に立っていたのは、ママだけどママじゃなかった。
手にしていたエコバッグはママの持ち物だったし、顔もママそっくりだったけど、胸の大きく開いた服を着て、足には網タイツを穿いたドキッとするような恰好をしていたのだ。
髪もママと同じ髪型なのに、色は金髪になっているし、なによりそのてっぺんからアンテナのような物が生えていて、先端が赤く光っていた。
顔もどこか作り物のような顔をしてて、まるでプラスチックのような感じがするし、目もガラスのようになっていて、まるでカメラのレンズのようだ。
ロボットって?
どういうこと?
「へえ、ここがアヤの家かー。よお」
ボクの背筋が凍った。
ママのあとから玄関に入ってきたのは、あいつ・・・
須法良晴(すほう よしはる)だったのだ。
どうして?
どうしてこいつがママと一緒にいるの?
「良晴様、ここは私の家ではありません」
えっ?
ママ・・・今、なんて?
「ん?」
「良晴様。ここは私の家ではありません。私は良晴様が所有なさいますKSカンパニー製ヒューマンロボット、KSR-217アヤです。ここは私の素体となった曽根田彩愛(そねだ あやめ)と曽根田成浩が住んでいる家です。世帯主の曽根田之浩(そねだ ゆきひろ)は、現在福岡に単身赴任中となっております」
アンテナのようなものの先端を赤く光らせながら、ママはあいつに話しかけている。
「ああ、そうだったな。アヤの家ではないってか。ハハハ・・・」
あいつがママに笑いかけている。
どうして?
どうしてママはそんな奴と話しているの?
出かけている間に何があったの?
「曽根田、こいつ、お前の母ちゃんだったんだよな?」
立てた親指の先でママを指し示すあいつ。
「ど・・・どういうこと?」
ボクは何が起こったのかわからない。
なんでこいつがママと・・・
「ハハッ、悪いな。こいつ、面白いから俺のロボットにしてやったんだわ。そうだな、アヤ?」
横で立っているママにあいつは声をかける。
「はい。素体名曽根田彩愛は、須法良晴様の手で頭にアンテナを刺し込まれましたことにより、フォーマットと組成改変による機械化が行われ、KSカンパニー製ヒューマンロボット、KSR-217として初期起動いたしました。その後良晴様によるマスター登録とオプションによります個性化が行われまして、当機はKSR-217アヤとして完成いたしました」
すらすらとママの口から日本語なのか外国語なのかよくわからない言葉が発せられる。
な、なにを言ってるの、ママ?
「ま、そう言うことだ。俺、前からお前の母ちゃんに目をつけていたんだよ」
「ボ、ボクのママに?」
こいつはボクのママを狙っていたってこと?
「ああ、前に授業参観で見かけたからな。そん時からこいついい女だなって思ってたんだ」
「そんな・・・」
「公園にいたらさ、こいつが通りかかったからさ、声かけてやったんだよ。そしたら無視しやがんの」
当然だ!
ママがお前なんかに返事するわけが・・・
「だからさ、俺を無視すると、もっと曽根田をからかっちゃうけどいいのかって言ったんだ。そしたら俺をにらみながら、何か用なのって・・・」
ああ・・・そのまま無視しても良かったんだ・・・
どうせこいつはボクをいじめるのをやめるつもりなんか無いんだよ、ママ。
「俺の方に来たからさ、一発やらせろよって言ったんだ」
ボクは驚いた。
一発って・・・
も、もしかしてセックス?
「そしたら、バカなこと言わないで、そんなことできるはずないでしょって怒るんだよな」
へらへらと笑うあいつ。
ボクにはその様子が目に浮かぶ。
「まあ、そうだろうなとは思っていたからさ、じゃあ土下座しなよって言ってやったのさ。土下座したらもうお前をからかわないよって」
そんなつもりはないくせに・・・
「そしたらさ、土下座したんだぜ、こいつ。もう成浩をからかったりしないでくださいって」
ボクはうつむいてしまう。
ママが・・・
ママがボクのために・・・
悔しい・・・
悔しいよ・・・
「だから土下座した時に、頭にこのアンテナを刺してやったのさ。プスッて。そうしたらホントにロボットになっちまうんだもんな。びっくりだぜ」
「そんな・・・」
ママはボクのために土下座をして・・・それでロボットになってしまったというの?
「最初キカキカとかピコピコとか言ってたけど、マスター登録しますかとかオプションは付けますかとか言うから、俺好みにさせてもらったぜ。もうばっちり俺好みになって、俺の言うことしか聞かなくなったわ。服も俺好みのを買わせて着せてやったしな」
「う、嘘でしょ、ママ?」
こいつのロボットになってしまったなんて、嘘だよね?
嘘だと言ってよ!
「曽根田成浩様、私はあなたのママではありません。私は須法良晴様に所有されますヒューマンロボット、KSR-217アヤです。お間違えにならないように申し上げます」
そう言って無表情でボクを見つめてくるママ。
ガラスのような目の奥で、レンズが動いているのがわかる。
そんな・・・
そんなぁ・・・
「あっはははは・・・ママではありませんだってさ。アヤはもう俺のもんだもんな。そうだよな?」
「はい。私は須法良晴様の所有物です」
表情を変えることなくママはそう答える。
「こいつ、俺の思った通りエロい躰しているんだぜ。さっき一発やってきたんだ。な?」
「はい。私は良晴様のご命令に従い、52分前と37分前にそれぞれ口とお尻の穴でセックスをいたしました」
「おいおい、そこまで言わなくてもいいぜ。見ろよ、曽根田が赤くなっているじゃないか」
「失礼いたしました。以後良晴様のご命令があるとき以外は申し上げないようにいたします」
ママのアンテナがちかちかと明滅している。
ボクはあまりのことに何も言うことができなかった。
「へへっ、それにしてもいいケツしてるぜ。曽根田、こいつお尻でセックスするの初めてだったみたいだぜ」
「お、お尻で?」
「ああ、そうだよな、アヤ?」
「はい。KSR-217アヤといたしましても、素体時の曽根田彩愛におきましても、お尻の穴でのセックスは先ほど良晴様にしていただくまでの回数は0回です」
こんなことまでママは無表情で答えていく。
「お尻の処女ゲット! ってやつだな。はははは」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
ボクはもうなにがなんだかわからない。
頭がカーッとなって、目の前が真っ赤になって・・・
気が付いたらボクの腕はママにがっちりと掴まれていた。
えっ?
「良晴様に危害を加えようとされていると判断いたしましたので、止めさせていただきました。良晴様に危害を加えることは、曽根田成浩に許可されていない行為です」
無表情でボクをにらみつけてくるママ。
そんな・・・
あいつを・・・
あいつを守るの?
「おー、こわー。よくやったぞアヤ。俺に殴りかかってこようとするなんて、いつものお前らしくないな。そんなに俺とアヤがやったのが悔しいのか?」
へらへらと笑っているあいつ。
ボクはママから手を振りほどこうとしたけど、ママの力は強くて、とても振りほどけない。
ママ・・・
ロボットになっちゃうなんて・・・
あいつのロボットになっちゃうなんて・・・
「へっへっへ・・・おいアヤ、そいつの顔を一発叩いてやれ」
「えっ?」
ママにボクを殴らせるつもりなのか?
「俺を殴ろうとしたなんて赦せないからな。母親のお前がちゃんと叩いてしつけてやるんだ」
「申し訳ありません、良晴様。KSR-217アヤは対人行為第3項の適用が行われておりますので、現状では曽根田成浩を叩くことはできません」
ボクをがっちりと掴んだまま、ママはあいつにそう答える。
「そうなのか? めんどくせえな。つまんねぇ・・・」
「第3項の適用をレベルごとに解除していただくことが必要となります」
「へぇー。じゃあ、全部解除しちゃえよ。それならこいつを叩けるんだろ?」
「かしこまりました。対人行為第3項をレベルDまですべて解除いたします・・・解除いたしました」
ママの中で何か機械が動く音がする。
本当に・・・
本当にママは・・・
「うあっ!」
ボクは頬を張り飛ばされて玄関に倒れ込む。
「良晴様のお言いつけに従い、メモリー内より曽根田彩愛が曽根田成浩を叩いた時の最上限の力で、曽根田成浩の頬を叩きました。これでよろしいでしょうか良晴様」
「うん、いいよいいよ。アヤは俺の言うことを聞くいい子だ」
「ありがとうございます。良晴様」
あいつに笑顔を見せるママ。
ボクは思わず涙が出る。
ママ・・・
「はははっ、曽根田、“ママ”に叩かれた気分はどうだ?」
「くっ!」
ボクは悔しくて目をそらす。
「まあ、こいつはもう俺のものだからな。これからもたっぷり楽しませてもらうわ。アヤ、お前からも言っておけ」
「はい。良晴様の言うとおり、私は良晴さまのものです。良晴様に危害を加えようとした場合、私が止めますのでご承知ください」
ママの目がボクを見る。
感情も何もないガラスの目。
ひどいよ・・・
ママは・・・
ママは・・・ボクのママなのに・・・
「行くぞ、アヤ。なんだかまたお前とやりたくなったからな。もう一回やらせろよ」
「はい、良晴様。私の躰は良晴様のものです。どうぞお好きにご使用くださいませ」
にこやかな笑顔であいつに頭を下げているママ。
悔しい悔しい悔しい・・・
「おっと、そうだ。ほらこれ」
立ち去ろうとしたあいつが、玄関に置いてあったエコバッグを放り投げてよこす。
「こいつがまだ“お前のママ”だった時に買ってきたものらしいぜ。もうアヤはお前に料理を作ったりすることはないかもしれないけど、冷蔵庫にでも入れといたらどうだ?」
「な・・・」
エコバッグの中にはひき肉だの玉ねぎだのパン粉だのが入っている・・・
ママ・・・もしかしてボクの大好きな・・・
「じゃあな。また明日学校で。ははははは」
笑いながらママと手をつないで出て行こうとするあいつ。
「ま、待って! ママ、行かないで! 行かないでぇ!」
ボクは思わずママに声をかける。
一瞬ママは立ち止まってこっちを向く。
「ママ・・・」
「もう一度申し上げます。私は須法良晴様の所有するヒューマンロボットKSR-217アヤです。曽根田成浩のママではありません。ですので、その命令は無効です」
無表情でボクにそう告げるママ。
そのままママはあいつと出て行ってしまう。
ボクはただ泣くしかできなかった・・・
******
気が付くともう真っ暗。
ボクは部屋の片隅でただ座っているだけ。
何もする気がない。
このまま死んでしまってもいい。
「ママ・・・」
悔しい・・・
ママが・・・
ママがロボットにされてあいつのものになっちゃうなんて・・・
でも・・・
どうすればいいんだろう・・・
玄関の開く音がする。
えっ?
誰だろう・・・
もしかして、ママが?
今までのことは全部夢だったんじゃ?
ボクは淡い期待を胸に玄関に行く。
「お邪魔します」
頭のアンテナの先端を赤くチカチカ光らせ、ママが玄関に入ってくる。
「ママ・・・」
やっぱり夢じゃなかった・・・
ママはロボットにされちゃった・・・
躰はプラスチックのようだし、目はガラスの奥でレンズが光っている。
肘の関節は人形のような球体だ。
服だって、あいつ好みという胸の開いた服を着て網タイツを穿いている。
でも・・・どうして?
どうして戻ってきたの?
もしかしてボクのことを思い出してくれたの?
「ママ!」
ボクが声をかけると、ママはボクの方に向き直る。
その動作はやはりロボットのように硬い感じ。
「曽根田成浩に申し上げます。私は良晴様のご命令で、この家で過ごすよう命じられました。よって、次のご命令までの間、この家で過ごさせていただきますのでご承知ください」
「な?」
あいつの命令だから、ここに戻ってきたというの?
あいつの命令だから・・・
そんな・・・
やっぱりママはあいつの・・・
「なお、ここにいる間は、曽根田成浩の“お願い”にもある程度対応していいとの仰せです。良晴様のご厚意に感謝してください。それと、再度申し上げますが、私はKSカンパニー製ヒューマンロボットKSR-217アヤです。曽根田成浩のママではありませんので、KSR-217アヤ、もしくは単にアヤと呼ぶようにお願いいたします」
「そんな・・・」
ママなのにママと呼ぶなって・・・
アヤと呼べって・・・
あいつの厚意に感謝しろって・・・
そんなの・・・
そんなのないよ・・・
「警告も申しあげておきます。私の躰は良晴様の所有物ですので、私の躰に関する“お願い”は拒否させていただきます。私の躰に触れることは許しませんのでご承知ください。また、私に対してのみならず、曽根田之浩に通報するなど良晴様の不利に働くような行為全般に対しましては、その都度対処させていただきます。場合によりましてはこの家から退去し、良晴様にご報告と対応依頼を行うことになりますので、こちらもご承知ください」
淡々とママはボクに通告する。
ボクが少しでもあいつに何かしようとしたら、ママはあいつのために行動するって言っている。
あいつのために・・・
ママがあいつのために・・・
「うわぁぁぁぁっ!」
ボクはママにとびかかる。
さっきのような怒りからじゃない。
ママの頭で赤く明滅しているアンテナ。
あのアンテナがママをこんなロボットにしちゃったんだ!
あいつがママの頭にあんなものを刺したりさえしなければ!
あのアンテナがー!
「曽根田成浩に警告します! 私の躰に触れることは・・・」
ママが何か言っているけど、ボクは構わずママに抱き着く。
あのアンテナさえ!
アンテナさえ取ってしまえば・・・
アンテナを取って・・・
ボクがアンテナを掴むのと、ママがボクを突き飛ばしたのはほぼ同時だった。
ポキッと軽い音がしてママのアンテナは簡単に折れ、ボクは折れたアンテナを手にしたまま、壁にたたきつけられた。
「あうっ!」
背中を打ったボクは一瞬強い痛みに息が止まったが、すぐに甲高い警報音のようなものを耳にする。
「ピー・ピー・ピー・ERROR・ERROR・ERROR・通信が途切れました。アンテナをご確認ください。ピー・ピー・ピー・ERROR・ERROR・ERROR・通信が途切れました。アンテナをご確認ください。ピー・ピー・ピー・ERROR・ERROR・ERROR」
見ると、ママは気を付けをしたようにまっすぐピンと立ち、口から機械がしゃべっているような音声が流れている。
「ピー・ピー・ピー・ERROR・ERROR・ERROR・通信が途切れました。アンテナをご確認ください。ピー・ピー・ピー・ERROR・ERROR・ERROR・通信が途切れました。アンテナをご確認ください」
ママはずっと同じことをしゃべり続けている。
ボクは手の中にある折れたアンテナを見る。
そうか・・・
アンテナが折れたから、ママは通信ができなくなったんだ・・・
えーっ?
でも、どうしたら・・・
「ピー・ピー・ピー・ERROR・ERROR・ERROR・通信が途切れました。アンテナをご確認ください。ピー・ピー・ピー・ERROR・ERROR・ERROR」
「ママ、ママ、見て! 折れたんだよ! ママのアンテナが折れたの!」
ボクは同じことをしゃべっているママのところへ行き、折れたアンテナを見せてやる。
アンテナが折れたことに気が付いてくれれば、元に戻ってくれるかもしれない。
「ピー・ピー・ピー・ERROR・ERROR・ERROR・アンテナの破損を確認いたしました。弊社サービスセンターにご連絡ください。電話番号は○○○○‐XXXX‐△△△△です。ピー・ピー・ピー・ERROR・ERROR・ERROR・アンテナの破損を確認いたしました。弊社サービスセンターにご連絡ください。電話番号は○○○○‐XXXX‐△△△△です」
えええええ?
しゃべる言葉が変わったけど・・・
サービスセンターに連絡?
でも、ママをこのままにはできないし・・・
ボクはママのハンドバッグの中からスマホを取り出すと、サービスセンターに電話した。
******
「うーん・・・困りましたねぇ」
蛍光灯の下で腕組みをして唸っている男の人。
黒いスーツに黒いサングラスをかけているので、最初玄関を開けたときにはびっくりした。
もう一人若い女の人もいて、そちらも黒いタイトスカートのスーツに黒いサングラスをかけている。
今はアンテナの折れたママのチェックをしているらしい。
二人はKSカンパニーのサービスマンだそうで、ボクが電話をしたらすぐに行くと言って、うちに来てくれたのだ。
ボクはママがロボットに無理やりされてしまったことや、あいつのものにされてしまったこと、何とか元に戻したくてアンテナを折ってしまったことなどを打ち明けた。
「うーん・・・大変申し訳ありませんが、こちらのKSR-217は須法良晴様の登録機体となっておりまして、お客様・・・えーと曽根田様の所有機ではございませんのです。ですので、曽根田様が修理を求められましても、須法様のご了解がいるというわけでして・・・」
そんな・・・
あいつに修理の了解なんか求めたら、ママがまたあいつのものになっちゃう。
「それに・・・元に戻すと言われましても、すでに素体であります曽根田彩愛はフォーマットと組成変換による機械化が行われておりますので、もう存在していないという形になります。そこはご了承していただきませんと・・・」
「そんな・・・人のママを勝手にロボットにして元に戻せないなんて、そんなことがあっていいわけがないよ!」
ボクはブンブンと首を振る。
ママを・・・
ママを元に戻してよ!
「そうですねぇ・・・もし、曽根田様がママ・・・その、お母さまが突然いなくなって困っているというお話でしたら、弊社といたしましてもお気持ちは充分お察しいたしますので、いかがでしょうか? KSRシリーズのアンテナを一本ご用意させていただきますので、そちらをご利用していただき、新たなお母さまロボットをお作りになられるというのは?」
黒いサングラスの男性が笑顔でボクにそういう。
嘘でしょ?
ボクにあいつと同じ事をしろっていうの?
誰かのママをボクのママにしちゃえっていうの?
ボクは即座に首を振る。
そんなことができるわけがない。
誰かのママをボクのママにするなんてできるはずがないよ。
それぐらいなら・・・
それぐらいなら、いっそママをボクのロボットにしてよ!
そうしたらもうあいつのものじゃなくなるんだろ!
ボクがそういうと、男の人は渋い顔をする。
無理なんだ・・・
やっぱり無理なんだ・・・
ママ・・・
このままあいつの元へまた返されちゃうの?
「主任、ちょっといいですか?」
黒いサングラスのお姉さんが、ボクと話していた男の人を呼ぶ。
「どうした? アンテナ交換で済みそうか?」
「そのことなんですけど・・・これを見ていただけます?」
「ん? ちょっと失礼」
黒いサングラスの男の人、主任さんがボクに断ってお姉さんの方へ行く。
どうしたんだろう?
まさかママはもう修理不能とか?
そんな・・・
「ん? アンテナナンバー00241? 須法良夫?」
「はい、登録所有者名とアンテナ譲渡者名が違ってまして・・・」
ママのそばで何やら話し込んでいる二人。
いったい何を話しているんだろう・・・
「んん? 譲渡者自らの使用条件で譲渡されているんじゃないのか? どうなってんだ?」
「これ・・・まずくないですか?」
「ちょっと確認してみる」
男の人がタブレットとスマホを持って部屋を出て行ってしまう。
どうしたんだろう?
「あの・・・」
ボクは恐る恐る、残った女の人に声をかける。
「もしかして・・・ママはもう修理できないとか・・・ですか?」
「ああ、いえ、そうじゃないんです。ちょっとした相違があるみたいで・・・その・・・」
女の人も口を濁す。
それにしても、黒いタイトスカートのスーツに黒いサングラスってかっこいいな・・・
「うーん・・・どうもまいったね、こりゃ・・・」
たっぷり15分は経ってから主任さんが戻ってくる。
困ったってどうしたんだろう?
「主任?」
「いらんってさ。どうも息子さんが勝手にヒューマンロボットにしたらしい・・・」
「息子さんが?」
黒いサングラスのお姉さんも困っているみたい?
いったい何が?
「それで、登録者名の変更と引き取りをお願いしたんだが、そんなどこのオバサンかわからんロボットなど引き取れないと・・・息子が勝手に使ったのは悪かったが、所有権は放棄するから、そっちで処分してくれと」
「そんな勝手な・・・」
「と言っても、相手の所有意思がない以上どうしようもないからなぁ・・・うーん・・・」
「だったら主任・・・こういう手はどうでしょう?」
「ん?」
二人はまたボクから離れて話し始める。
何がどうなっているのだろう?
所有権放棄?
処分?
まさかママは処分されちゃうの?
「曽根田様」
「は、はい?」
主任さんがボクのところに戻ってくる。
「曽根田様は、このKSR-217を修理して手元に置きたいとお考えということで、よろしかったでしょうか?」
「やっぱり元には戻せないんですか?」
「申し訳ありませんが、そちらは致しかねます」
はあ・・・
やっぱりそうなのか・・・
ママはもう元には・・・
「手元に・・・置くことはできるんですか?」
「はい。実は現在このKSR-217は所有者なしの状態になっておりまして・・・もし曽根田様がお望みでしたら、修理と初期化のうえでお渡しすることは可能です」
主任さんがそういう背後で、にっこりと笑ってくれる黒サングラスのお姉さん。
「そ、それって・・・ママをボクのロボットにできるってこと?」
「はい。初期化後にマスター登録を行っていただくことで所有者となっていただくことが可能ですし、オプションによる個性化を行っていただければ、曽根田さんのお好みの個性を持たせることも可能です。もちろん今までのようにママとして振舞わせることも可能ですよ」
うわぁ・・・
ママが・・・
ママがボクのママとして戻ってきてくれるんだ!
ママがボクのママに・・・
「一つだけ条件がございます。この件のことはどうぞご内密に」
黒サングラスのお姉さんが口元に人差し指を立てて“ナイショ”のポーズをとる。
ボクはうんうんとうなずいた。
折れたアンテナが抜き取られ、新たなアンテナがママの頭に差し込まれる。
かすかな機械音がして、アンテナのてっぺんが赤く点滅し始める。
「KSR-217、初期化を行いなさい」
「はい。初期化を行います」
ママの口から声が出てくる。
なんだかママが生き返ったみたいだ。
「KSR-217、初期化が完了しました。再度マスター登録を行いますか?」
「曽根田様、どうぞ」
黒いサングラスのお姉さんがボクをママの前に立たせてくれる。
「マスター登録します!」
ボクは大声で、はっきりとそう言った。
END
いかがでしたでしょうか?
よろしければコメントなどいただけますと励みになりますし、嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
15年記念SSは今回で終了です。
またいずれ新作をお目にかけたいと思います。
それではまた。
- 2020/07/24(金) 21:00:00|
- 怪人化・機械化系SS
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