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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ゴキブリの棲む家 (火曜)

ブログ丸15年更新達成記念SS、「ゴキブリの棲む家」の二回目です。

今日は「火曜日」分のみですので、やや短め。
じわじわと浸食が始まっていきますです。

ご注意:今作品は「ゴキブリ」が大いに絡む作品となります。
苦手な方は充分にご注意していただければと思います。



                   火曜日

朝、目が覚める。
薄暗いベッドの下。
遮光カーテンを通してわずかながらに入ってくる外の光も、さすがにベッドの下にはほんのわずかしか届かない。
結花は一瞬なぜこんなところに寝ていたのかと疑問に思ったものの、すぐにその思いは消え去り、ここがとても心地よい場所だと気がつく。
薄暗くて狭いところにいるのは気持ちがいい。
今までベッドの上なんかで寝ていたことが不思議に感じる。
ベッドの下はこんなに心地いいのに・・・
ベッドの下のような隙間で眠るのこそ、私たちにはふさわしい・・・
私たち?
私たちとはいったい?

一瞬変な気がしてしまう結花。
私たちとはいったい誰のことだろう?
だが、そんな思いも、彼女の耳元で蠢く黒い虫たちの立てるかすかな音によって消えていってしまう。
もうすぐ男が起きる。
そうなれば、男にベッドの下で寝ていたことを気付かれてしまうかもしれない。
今はまだその時ではない。
気付かれてはいけない。
起きて活動を始めるのだ・・・

結花は、もぞもぞとベッドの下から腹這いで這い出てくる。
ふと、なんだかめまいのようなものを感じてしまう。
ベッドの下の狭いところから、広い室内に出てきたからだ。
広い空間が落ち着かなく感じる。
だが、今はまだこの空間で暮らさなくてはいけない。
今はまだ・・・

うーんと両手を上に上げて伸びをする。
ぼんやりしていた頭も、だんだんはっきりとしてくる。
時計を見ると、そろそろ目覚まし時計が鳴る時間。
どうやら今朝は目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまったらしい。
結花は目覚ましのスイッチを切り、鳴らないようにしてしまう。
ベッドの上で気持ちよさそうに寝ている夫を、そのまま寝かせておいてあげようと思ったのだ。
彼を起こすのはもう少し後でもいいだろう。

さて、いろいろと支度をはじめなきゃ。
躰が少しぎくしゃくする。
なんだか躰がこわばっているみたい・・・
起きたばかりだからかしら・・・
寝違えたわけでもなさそうだけど・・・
そう思って寝ていたはずのベッドを見る。
まあ・・・
一人でベッドを占領するかのように、大胆に躰を広げて寝ている夫。
うふふ・・・
博文さんったらずいぶんベッドを広く使っているのね。
これじゃ私が寝るスペースがなかったじゃない。
あら?
それじゃ・・・私はいったいどこで寝ていたのかしら・・・
一緒に寝ていたと思ったけど・・・
私は・・・いったいどこで?

結花が不思議に思っていると、足に何かが触れてくる。
「えっ?」
見ると、足元に一匹のゴキブリがいて、その長い触角を揺らしていた。
「ひゃっ!」
思わず小さく悲鳴を上げるが、ゴキブリは逃げようともせずにその場で触角を揺らし続ける。
あ・・・
すうっと結花の目がゴキブリに吸い寄せられていく。
ゆらゆらと揺れる長い触角。
ゆらゆらゆらゆらゆらゆら・・・
結花の中から疑念が消えていく。
どこで寝ていたかなど、まったく気にならなくなっていく。
そんなことはどうでもいいこと・・・
もうこんなヒトと寝る必要はないのだから・・・
結花はなぜかそう思い、引き出しから着替えを用意すると寝室を後にした。

                   ******

朝は相変わらず戦争だ。
今までよりも早い時間帯で行動するのだから無理もない。
寝ていた男二人を起こし、食事をとらせて、会社や学校へと送り出す。
「それじゃ行ってくるよ」
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。気を付けてねー」
いつもの挨拶。
いつもの笑顔。
いつもの玄関先。
なにも変わりはない。

「さてと・・・」
キッチンに行き、朝食の後片付けを始める結花。
その足元にわさわさとゴキブリたちが寄ってくる。
「キャッ!」
突然現れたゴキブリたちに驚く結花。
だが、彼らのゆらゆらと揺れる長い触角が、またも結花の目をくぎ付けにする。
「あ・・・」
いつもなら感じていたはずの恐怖も嫌悪感も、すぐに全く感じなくなる。
それどころか、彼らのことがなんだか親しく感じてくる。
彼らに親近感が湧いてくるのだ。

「もう・・・驚かせないでって言ったでしょ? いつも突然現れるんだから・・・」
驚かせられたことについ文句を言ってしまうものの、思わず笑みも浮かんでくる。
「おはよう。もしかして私を待っていたの?」
結花が親し気に声をかけると、ゴキブリたちの触角がゆらゆらと揺れ動く。
なんだか返事をしてくれたようでうれしくなる。
「うふふ・・・なんだか会話をしているみたい。そうだわ、ちょっと待ってね」
昨日のようにトーストのパンくずを皿に集め、それを床に撒き散らす。
すぐにゴキブリたちがカサカサとパンくずを食べに動き出し、なんだか見ていて楽しくなる。
そういえば、昨日もこんなことをしていたような気がする・・・
カサカサと動き回るゴキブリたち。
彼らはとても素敵な生き物・・・
彼らと一緒にいるのは気持ちがいい・・・
結花はなんだかそう思う。

パンくずだけじゃ物足りなさそうなので、付け合わせで出した桃の缶詰の残ったシロップも、スプーンですくって床に垂らす。
フローリングに広がるシロップを、すぐにゴキブリたちが寄ってきて舐め始める。
「いっぱい食べてね」
結花はしゃがみ込んで彼らの食事を眺めていく。
それはとても心が安らぐ光景だった。
みんな美味しそうに食べるのねぇ・・・
私も欲しくなっちゃうじゃない。
結花は心からそう思う。
こんなことなら良樹と一緒に食事を取るんじゃなかった。
みんなと一緒に食べればよかったわ・・・

やがてシロップもパンくずも食べつくしたのか、ゴキブリたちが去っていく。
「うふふ・・・お粗末様でした」
ゴキブリたちを見送り、食器洗いを再び始める結花。
この家で彼らと一緒に過ごすのはとても楽しいことに感じる。
彼女と彼らはこの家の一員なのだから。

食事の後片付けが終われば洗濯である。
昨日さぼってしまった分、今日は洗濯物がたまっている。
さっさと洗濯してしまわねば。
結花は脱衣所に行って洗濯籠の洗濯物を仕分けていく。
肌着やタオルなどとズボンやジャージなどを選り分けるのだ。
あん・・・
何これ?
なんだか臭いようないいにおいのような・・・
何からかしら・・・
結花は鼻をくすぐるにおいに気が付く。
漂ってくる奇妙なにおい。
このにおいはどこから出ているのだろう?
結花が洗濯物をかき分けると、彼女の脱いだパジャマがそこにある。
においはそこから出ているのだ。
「私のパジャマ?」
どうしてパジャマからこんなにおいがするのだろう・・・

パジャマを取り上げ、くんくんと鼻を近づけてにおいを嗅ぐ。
ズキンと脳天に響くような強烈なにおい。
でも臭いというよりはいいにおいにも感じる。
くんくん・・・くんくん・・・くんくん・・・
止まらない。
においを嗅ぐをのやめられない。
まるで臭い靴下のにおいを嗅いでいるかのよう。
臭いのに嗅ぐをのやめられないようなそんなにおい。
くんくん・・・くんくん・・・くんくん・・・
だめ・・・
止まらない・・・
このにおい好き・・・
だーい好き・・・

なんだかじんわりと股間が濡れてくる。
急激に性の欲求が湧き起こってくる。
どうしたのかしら・・・
私・・・
ああ・・・
欲しい・・・
オスのあれが欲しい・・・
おマンコにオスのあれが欲しいわ・・・

パジャマのにおいを嗅ぎながら、結花の右手は股間に伸びていく。
穿いていたズボンを緩め、ショーツを下ろして性器に指を這わせていく。
あ・・・
いい・・・
気持ちいい・・・
におい好き・・・
においを嗅ぎながらオナニーするの好き・・・
指が止まらない。
くちゅくちゅと濡れた音が聞こえてくる。
ああん・・・
いい・・・
イく・・・
イッちゃう・・・
イッちゃうぅぅぅぅぅ

                   ******

「ふう・・・」
洗い終えた洗濯物を干し終わる。
なんだか恥ずかしい。
あんなことは初めてだ。
まさか洗濯物のにおいを嗅ぎながらオナニーをしてイッてしまったなんて。
それもあんなに感じながら・・・
私ったらどうかしているわ・・・
どうしちゃったのかしら・・・

おそらくしばらくご無沙汰だったからだろう。
良樹が大きくなってきたこともあり、夫ともここのところしていない。
本当は良樹に弟か妹を作ろうという話はしていたのだが・・・
博文が仕事で帰りが遅かったり、なんだかんだとあったりで、ずるずると先延ばしになっていたのだ。
もしかしたら夫と妻という関係ではなく、良樹の父と母という関係になってしまったのかもしれない。
だから、久しぶりのオナニーで激しく感じてしまったのかもしれないわ・・・

洗濯をして掃除を済ませればもうお昼。
何か適当に食べて終わりにしてしまおう。
そう言えばそろそろ冷蔵庫の中も空になる。
午後からは買い物に出掛けよう。
そうすれば気分も変わるはず。
天気もいいしそうしよう。

昼食を軽く済ませ、食材の買い出しに出かける結花。
以前の家なら歩いていける距離に小型の食品スーパーがあったのだが、今の家からだと一番近くても郊外型の大型スーパーで、歩いていくにはちょっときつい。
夫がいれば車を出してもらうところなのだが、ペーパードライバーの結花は車を運転する気にはなれず、自転車で行くことにする。
そこそこ距離があるけど仕方ない。
まあ、運動にもなるだろう。
それにしても今日は天気がいい。
太陽がまぶしくてくらくらするぐらい。
どうしてこんなにまぶしいのだろう・・・
なんだか太陽は嫌い・・・
夜がいい・・・
暗い夜がいいわ・・・

                   ******

「ただいまー」
良樹が学校から帰ってくる。
危ない危ない。
今日は思わず以前の家に帰るところだった。
途中で気が付いたからいいけれど、気が付かなければ前の家に行っちゃっていたかもしれない。
そんなことになったら、顔から火が出るほど恥ずかしかっただろうし、パパやママが知ったら笑われちゃったかも。
そうならなくてよかった。

「えっ?」
玄関を開けた良樹は、びっくりして思わず声が出てしまう。
玄関に母親の結花がぐったりと横たわっていたのだ。
そばには買い物に行ってきたのであろう中身の詰まったエコバッグやリュックが置かれている。
「ママ!」
思わず駆け寄って母親を揺さぶる良樹。
「う・・・うーん・・・」
「ママ!」
必死になって揺さぶる良樹。
すると、結花の目がゆっくりと開く。
「ママ!」
「あ・・・良樹? お帰りなさい」
目をこすりながら躰を起こす結花。
なんだか普通に寝て起きたときのようだ。
いったいどうしたのだろう?
なんでママは玄関先で寝ていたのだろう?

「ママ、よかった。びっくりさせないでよ!」
ホッとして胸をなでおろす良樹。
どうやら本当にママは眠っていただけのようだ。
もしかして病気か何かで倒れたのかと思ったのだ。
ママに何かあったのかと思って、心臓が破裂しそうだった。
とにかくなんともなさそうでよかった。
「ご、ごめんね、びっくりさせたみたいで。私どうしてこんなところで寝ていたのかしら・・・確か買い物に行って来て・・・あっ」
結花の目の前には買ってきたまま玄関先に放置されたリュックやエコバッグがあったのだ。
「いっけない!」
慌てて靴を脱ぎ捨て、リュックとエコバッグを手にキッチンへ向かう結花。
思わずその後を良樹も追う。

「あちゃー・・・溶けちゃったかぁ・・・」
エコバッグから取り出された冷凍肉が、いい感じに室温解凍されている。
これは今晩はこの肉を使って料理をするしかないだろう。
それと、カップのアイスクリームも半分溶けてしまっている。
幸い、この肉やアイスが熱を吸収してくれていたおかげか、ダメになったような食材はなさそうだ。
すぐに冷蔵庫に入れておけば問題はないだろう。
「良樹、これ食べちゃっていいわよ」
結花は食材を冷蔵庫に入れながら、半分溶けかかったアイスを一個良樹に渡す。
残りは冷凍庫に入れるしかないだろう。
再凍結で味は落ちるだろうが仕方がない。
溶かしてみんなと食べてもいいし・・・

「ママ、本当に大丈夫なの?」
アイスをもらったのはうれしいが、良樹は母親のことが心配だった。
なにせママが玄関先で寝ていたなんて初めてのことなのだ。
今は大丈夫そうだけど、本当に病気とかじゃないのだろうか?
「うん。大丈夫大丈夫。なんか寝不足だったのかもね」
結花は何でもないよと笑顔を見せる。
実際今は、躰に何の問題もないのだ。
いったいなぜ、玄関などで寝ていたのだろうか?
買い物に行ったところまでは覚えているのだが、太陽がずいぶんとまぶしくて、くらくらして・・・
そこから先の記憶があいまいなのだ。
こうして買い物は無事にしてきたようなのだが、玄関まで帰ってきて意識を失ったのだろうか?
もしかしたら、本当に病気か何かかしら・・・
もし続くようなら医者に行った方がいいのかもしれない。
結花はそう思いながら、残りの食材を冷蔵庫にしまうのだった。

                   ******

「おっ? 今日は豪華だね」
仕事を終えて帰宅した博文が、風呂から上がってきてテーブルに並んだおかずを見て笑顔になる。
「うふふ・・・引っ越し祝いに少し豪華にね」
夫のためにビールを用意しながら、結花はごまかし笑いをする。
本当は後日用にと買ってきた冷凍肉を、玄関先で寝て解凍してしまったからなのだ。
まあ、本来今日食べる予定だったおかず用の食材は、明日に回しても問題はない。
「へぇ、それはそれは。あ、ありがとう」
博文は妻から缶ビールを受け取り、ふたを開けて一口飲む。
風呂上がりに缶ビールで一杯。
この瞬間にために生きていると言っても過言ではない。
「くはぁーっ! うまい!」
思わず言葉が出てしまう。
「ホントあなたってばビールが好きねぇ」
ややあきれたように結花が言う。
結花も酒は飲まないわけではないが、ビールはどちらかというと苦手な部類だ。
「そうだなぁ。日本酒もいいけどな」
博文は酒なら特にこだわらない。
ビールもいいし、日本酒もいい。
焼酎だってワインだって美味しく飲める。
もちろん本当に味がわかっているのかと言われれば、わかっていないのかもしれないが。

ごくごくとおいしそうに缶ビールを飲む夫を見ていると、いつもとは違った気持ちが湧いてくる。
それにいつもよりもビールの香りが強く感じられるような気がして、なんだか飲みたくなってしまう。
「ねえ、一口もらってもいい?」
あとは彼が晩酌を終えたらご飯を出すだけとなった結花が、夫の隣にやってくる。
「えっ? 珍しいな」
そう言いつつ缶ビールを渡してくる博文。
妻に一口ちょうだいなんて言われるのは久しぶりだ。

結花は缶を受け取って一口飲む。
喉を通り抜けるさわやかな味。
えっ?
ビールってこんなに美味しかったかしら?
すごく美味しいわ。
ビールの味に驚く結花。
もっと飲みたくなってしまったが、一口と言った手前、これ以上飲むのは夫に悪いだろう。
彼だって楽しみにしているビールなのだ。
結花はしぶしぶ缶を彼に返す。
「やっぱりビールは苦手か?」
「ううん、そんなことない。すごく美味しいわ。もっと飲みたい」
できるなら冷蔵庫から新たに一本出してきたいぐらい。
ビールをもっと飲みたいなんて思ったのは初めてだ。
どうして今までビールを苦手と思っていたのだろう。

「あ、パパこれからご飯?」
二階から降りてきた良樹が顔を出す。
「おう、良樹はもう食べたのか?」
「うん、ボクはもう食べた。今日はお肉いっぱいだよ」
宿題をしていたのかゲームをしていたのかは知らないが、そろそろ寝る時間なので寝る支度をしに降りてきたのだろう。
「そうだな。ママが引っ越し祝いだって奮発してくれたみたいだぞ」
「えっ? 違うよー。ママが玄関で寝ちゃってて、買ってきたものが出しっぱなしになってたから、お肉が溶けちゃったんだ」
「えっ? 玄関で?」
博文が驚いて結花を見る。
「あっ、う、うん、そうなの。なんだか寝ちゃっていたみたいで、冷凍のお肉が溶けちゃって・・・」
苦笑いをする結花。
もう・・・良樹ったら余計なことを言うんだから・・・
「玄関で寝てたって・・・大丈夫なのか?」
博文が心配する。
肉なんかよりも、妻の躰の方が心配だ。
玄関で寝るなんて普通じゃないじゃないか。
「ええ、別に何ともないわ。なんだか疲れちゃっていたのかしらね。引っ越しもあったし。なんか太陽がすごくまぶしくて、それがいやでいやで・・・うちに帰ってきてホッとしたから寝ちゃったのかも」
「熱中症とかじゃないのか? まだ暑いからな」
「大丈夫だと思うわ。今はもうほら、こんなに元気よ」
結花は大げさにガッツポーズを作ってみせる。
実際日が暮れてからは調子がいいのだ。
むしろ力が湧いてくるみたいな感じだ。
太陽が沈んで夜になったからかもしれない。
太陽は苦手だわ・・・
暗い方が好き・・・

「そうか、ならいいけど・・・具合が悪いようなら、ちゃんと病院に行くんだぞ」
「ええ、もちろん」
妻がにこやかにうなずく。
「無理しないようにな。さてと、そろそろご飯もらおうか」
博文は妻の元気そうな様子に安堵し、茶碗を差し出す。
きっと彼女の言う通り引っ越しとかあったので疲れたのだろう。
まあ、この様子なら大丈夫そうだ。
結花は夫の手から茶碗を受け取ると、ついでに空になったビールの缶もキッチンに持っていって分別ごみの箱に入れ、茶碗に夫のご飯を盛って戻っていく。
良樹はすでに歯を磨き終わり、二階に戻るところのようだ。
「おやすみなさーい」
「おう、おやすみ」
「おやすみなさい」
夫に茶碗を渡し、良樹におやすみを言う結花だった。

                   ******

寝る支度を終えて寝室に戻ってくる結花。
夫はもうぐっすり寝ているし、自分も明日に備えて寝なくてはと思うのだが、眠気がそれほど襲ってこない。
むしろ明かりを消すと余計に目が冴えてくるような気さえする。
どうしたのだろう・・・
もしかして昼間に玄関で寝てしまったからだろうか?
だからあんまり眠くないのかもしれない。
でも、寝ないと明日も早いのだ。
また寝不足で昼間に寝てしまうようなことになっては困る。
無理にでも寝てしまわねば。

パジャマに着替えて腹這いになり、ベッドの下へと潜り込む結花。
えっ?
自分が無意識のうちにベッドの下に潜り込んだことに驚く。
わ、私、どうして?
だが、この暗く狭くひんやりした空間がなんとも言えず心地いい。
いまさら出る気にはとてもならない。
・・・ベッドの下で寝てもいいわよね。
なにもベッドの上で寝なくてはいけないというわけじゃないし。
何より、こうしていると気持ちがいい。
ああ・・・落ち着くわぁ・・・
どうして今までベッドの上で寝ていたのだろう・・・
もうベッドの上で眠るなんて考えられない。
こうして狭いところに潜り込んで寝るのが一番。
暗くてひんやりして最高。
とても気持ちがいいわぁ・・・

躰を丸くして眠りにつく結花。
規則正しい寝息が聞こえ始める。
やがてその周囲にカサカサという小さな音が響き始め、今夜もまた小さな生き物たちが蠢きだす。
触角をゆらゆらと揺らし、ゴソゴソカサカサと床を這い回っていくゴキブリたち。
つややかな翅をかすかな光に輝かせ、結花の周りを這い回る。
やがて動きを止めた彼らは、いっせいに結花の周りで触角を揺らし始める。
その触角の揺れが空気を震わせ、かすかな音を立てていく。
その音は結花の耳へと届いていく。
まるでゴキブリたちがその音を結花に聴かせているかのようだ。
結花はその小さな音に包まれ、気持ちよさそうに眠っていた。

しばらくして、触角を揺らしていたゴキブリのうちの一匹が、意を決したかのように結花の躰に這い上がる。
それをきっかけに、何匹ものゴキブリたちがいっせいに結花の躰へと群がっていく。
結花の薄い緑色のパジャマが、まるでアーモンドでも振りかけられたかのように黒い斑点に埋め尽くされていく。
だが、結花は目を覚ます様子はない。

ゴキブリたちはパジャマの上を這い回る。
そして自分たちの躰をこすりつけていく。
自分たちのにおいを付け、オスたちは精液をかけていく。
パジャマにじっくり染み込ませ、結花をにおいに酔わせるのだ。
だが、ゴキブリたちは直接結花の肌には触れないように気を付ける。
袖口や裾からは外に出ず、パジャマの上だけを這い回るのだ。
もちろん顔の上を這い回ったりもしない。
まだなのだ。
まだこの女はヒトなのだ。
だから気付かれてはならない。
もっと・・・
もっとこの女に音を聞かせてから。
もっとこの女が自分たちに染まってから。
もっとこの女が自分たちと同じくなってから。

作り変えるのだ。
この女をメスに。
作り変えるのだ。
この女を自分たちのメスに。
ゴキブリのメスに作り変えるのだ。
我らのメスに。
この女は我らのメスになるのだ。
焦ることはない。
じっくり作り変えればいい。
今日倒れたのは少し急ぎ過ぎたからかもしれない。
だが、明日になれば、この女はもっと自分たちと近くなる。
我らのメスへと近づくのだ。

(続く)
  1. 2020/07/18(土) 21:00:00|
  2. ゴキブリの棲む家
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

侵食と侵略が強くなってきましたね(//∇//)
次回も楽しみにしてますー(*゚∀゚*)ムッハー
  1. 2020/07/18(土) 22:26:35 |
  2. URL |
  3. IMK #-
  4. [ 編集]

遅ればせながら読ませていただきました~

作り変えられるって、どんな風になってしまうのか楽しみですっ!
ドキドキ
  1. 2020/07/19(日) 00:20:18 |
  2. URL |
  3. g-than #-
  4. [ 編集]

私自身はゴキブリが苦手なのですが、この作品も、ma2さんの「Chill阿久多」も、引き込まれて読んでしまいます。
結花さんが、そして夫と息子がどうなってしまうのか、今後の展開が楽しみです!
  1. 2020/07/19(日) 17:07:41 |
  2. URL |
  3. marsa #.dp7ssrY
  4. [ 編集]

>>IMK様
少しずつ浸食されていく感じが出ていればいいのですが。
続きもお楽しみにー。

>>g-than様
ご想像からそれほど変わらないのではとは思いますが、楽しみにしていただければと思いますー。
(´▽`)ノ

>>marsa様
私も実際のゴキブリって苦手なんですよー。
でも、こういう妄想って楽しいですよねー。
続きをお楽しみにー。
  1. 2020/07/19(日) 18:17:03 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
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