fc2ブログ

舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

変えられてしまった妻 (前)

GWですので、今日明日で短編SSを一本投下しようと思います。
タイトルは「変えられてしまった妻」です。

実はこの作品は、2010年に書き始め、途中まで書いたところで筆が止まってしまっていたものでした。
どうして止まってしまったのかはもう覚えておりませんが、なにかしら詰まってしまったんだと思います。

それからなんと10年もの間すっと放置され続けていたSSなのですが、先日未完成SSフォルダの中でこれを見つけ、読み返してみたところ続きを書けそうだなと思いましたので、10年ぶりに続きを書いて完成させたという代物です。
なので、文中の小道具も途中時点では「携帯」だったり「メール」だったりしたんですが、まあ、そのあたりは直しました。(笑)
/(^o^)\ナンテコッタイ

そういう作品ですので、最近はめっきり使わなくなってしまった「タバコ」も出てきます。
物語自体も「寝取られ」ですので、そういうのが苦手な方は避けていただいた方がよろしいかもしれません。

ともあれ、10年眠っていた作品をこうして日の目を見せてやれるのはよかったです。
よろしければお読みいただければと思います。

それではどうぞ。



変えられてしまった妻

「お帰りなさい」
いつもにこやかに出迎えてくれる妻、恵美子。
三十二歳になった今でも若々しく、ますます色気を増しているかのように美しい。
もっとも、これは自分の欲目もたぶんに入っているのかもしれないが・・・
「ただいま」
俺はカバンを手渡すと、先に立って部屋に入る。
恵美子はそんな俺に付き従うようにして後からついてくる。
俺がそうしろと言ったわけでもないのに、恵美子はいつもそうしてくれるのだ。
ありがたいものだ。

「疲れたー」
楽な服装に着替えた俺は、ついついそう言ってしまう。
「お疲れ様」
そんな俺ににこやかな笑顔でビールを出してくれる恵美子。
テーブルには俺の好きなおかずが並び、箸をつけられるのを待っている。
なんていうか・・・
幸せとはこういうことか・・・
俺は妻にビールを注いでもらい、思い切り飲み干した。

                   ******

「で、今日はその愛する奥さんのために早く帰らなくていいのか?」
上司の誘いにお付き合いしたあと、俺は同僚の荒池(あらいけ)と一軒のスナックに来ていた。
彼がいつも寄るなじみの店らしい。
「大丈夫だよ。電話もしたし、今頃は寝ているさ」
「本当か? 起きて待っていたりするんじゃないのか?」
「うーん・・・その可能性もないわけじゃないなぁ」
俺は苦笑する。
恵美子は俺がよほど遅くない限り、起きて待っていてくれる。
まだ日付も変わる前だし、今帰れば起きているだろうなぁとは思うのだ。

「あら、二人して何のお話?」
カウンター越しにスッと注文した水割りを出してくるスナックのママ。
髪を茶髪に染めてアイシャドウを引き、真っ赤な口紅をつけている。
長い爪にはマニキュアをして、細い指でタバコを取り出して火を点ける。
ふうと真っ赤な唇から白い煙が吐き出され、それがなんとも色っぽい。
「こいつの奥さんの話ですよ。こいつったらいつになってもラブラブでね。夕べもしっかり愛し合ったんだろ?」
荒池がケラケラと笑いながらからかってくる。
「おいおい、そんなこというなよ」
「ん? じゃしなかったのか?」
「そ、それは・・・」
ここで口ごもってしまったことで、しっかり夕べも楽しんだことがばれてしまう。
実際夕べは恵美子を抱いたし、恵美子もしっかりとイッてくれたはずだ。
躰の相性だって悪くないはずだと思うが、子供だけはまだ授かってない。
こればかりは焦っても仕方ないことだとは思うが・・・

「まあ、妬けますわね。こういう場で奥様の話だなんて」
ちょっとすねたような口調で俺に流し目を向けてくるママ。
俺は苦笑するしかない。
「こいつの奥さんはこいつ一筋なんですよ。もったいないと思いません? 俺ならいつでも相手するのにねぇ」
「おいおい、お前だって奥さんいるだろうに」
「あんなのもうどうでもいいんだよ。ねえ、ママ、こいつより俺のほうがいい男だと思いません?」
「うふふ・・・どうかしらねぇ。でも、お気をつけなさい。そういう奥様ほどほんのちょっとしたことでどうしようもない淫乱な女に変わっちゃうものなんですよ」
荒池の言葉をさらっとかわし、警告とも注意ともつかないようなことを言うママ。
俺はちょっとむっとした。
確かにママのようなエロくてけばけばしい女性も俺は大好きだけど、恵美子はまったく違って清楚な女性だ。
外へ出かけたって俺の後ろを静かについてくるような女で、誰かに声をかけられたりするのを恐れているようなところさえある。
そんな内気な恵美子がどうしようもない淫乱女性になどなるはずがない。

「ママの言うこともわからないじゃないけど、妻はそんなことにはならないよ」
酒の勢いもあって俺は思わず言ってしまった。
なんか恵美子をバカにされたような気がしたのだ。
「あら、そうかしら。夫一筋の世間知らずな女性なんて、案外もろいものなのよ」
「うちのはそうじゃない。妻に限ってそんなことはない」
「だったら賭けてみたらどうだ?」
荒池が口を出してくる。
「奥さんが淫乱になったらお前だってうれしいんじゃないのか? 前に清楚すぎて物足りないって言ってたじゃないか」
俺はかつて自分で言ったことを思い出した。
以前、話の流れで上司の愛人が淫乱すぎて困るという話に、ついおもねるつもりでうちの妻も清楚なだけで物足りないと言ってしまったことがあるのだ。
こいつはそれを覚えていたんだ。
「いや、それは・・・」
俺は自分の言葉を後悔した。
なんであんなことを・・・

「面白いわね。私が誘ってみてもいいかしら」
俺が口ごもっていると、ママがタバコの煙を吐き出しながら笑みを浮かべている。
くわえていたタバコを灰皿に置いたその指が、カウンターの上で何やら意味ありげに動き、俺の目を惹きつける。
赤くキラキラ輝くマニキュアが塗られた爪が躍っているかのようだ。
とても綺麗で、なんだかうっとりしてしまう。
「ママ・・・」
「自信があるんでしょ? 奥様が淫乱にはならないって。だったら私は奥様を淫乱で派手な女にしてみたいわ。賭けてみましょうよ」
挑戦的な笑みを向けてくるママ。
「いいぞいいぞ。決まりだな」
荒池は勝手に話を進めてくる。
「わ、わかったよ。とはいえどうやって賭けるんだ?」
俺は多少の不安を覚えつつもその賭けを受けることにした。
恵美子なら心配ない。
大丈夫だとの思いがあったからだ。

「そうね。二ヶ月。二ヶ月で奥様がここで働き、いやらしく男と遊び歩くような女にしてあげるわ。できなかったら私が百万払ってあげる」
吸い終わったタバコをもみ消しながら、ママは俺に向かって言ってのける。
相当な自信があるのか?
俺は少し不安を感じる。
だが、いまさら後には引けないし、恵美子なら大丈夫と思いなおした。
「わかった、OKだ。二ヵ月後には百万はいただくよ」
「成立ね。それじゃ文書にしておきましょ。それと、あなたは奥様には一切何も言わないし手出しもしないこと。もちろんセックスもよ。これぐらいは当然でしょ。あくまでも奥様の自由意志で決めさせるということでね」
「セックスもなのかい?」
俺より荒池が驚いていた。
「ええ、セックスで満たされちゃうと淫乱さがでてこないでしょ?」
「なるほど・・・」
しばらくお預けになるのか・・・
「どうする? やめるなら今のうちだぞ」
ニヤニヤと笑っている荒池にもムカついてくる。
「わかったよ!」
俺は口調を荒げてうなずくと、荒池を立会人にしてママと文書をかわしたのだった。

「お帰りなさい」
家に帰った俺を恵美子が迎える。
明かりが点いていたから起きているとは思っていたが、ちゃんと起きていて俺を迎えてくれたのだ。
もうこんな時間だというのに、いまだ身ぎれいにして俺を待ってくれていた恵美子。
こんな恵美子がママの言うような女になるはずがない。
俺はなんだかホッとした。
「遅くなってごめん。でも起きてて待っていてくれたんだ。ありがとう」
「ううん、私もあなたがいなくてなんだか眠れなかったの。早く帰ってきてくれてありがとう」
はにかむような笑顔を見せる恵美子。
夜も更けている深夜一時過ぎ。
決して早くなどないのに、俺を立ててくれている。
俺はそっと恵美子を抱き寄せ、愛しているとささやいた。
「もう、いきなりなんだから。でもうれしい。私も愛してるわ」
真っ赤になって恥ずかしそうにうつむく恵美子。
あんな約束しなきゃよかったと後悔したが、それ以上に俺は恵美子に安心したのだった。

                   ******

「ん? LINE?」
会社での仕事中、スマホにLINEが来る。
相手はあのママだった。
あの後お互いに登録したんだったっけ。
『今日奥様に接触します。最初はお話しするぐらいだから安心してね』
何が安心してねだ・・・
俺はスマホの画面に思わず毒づく。
ママには恵美子の写真と行きつけのスーパーなどを教えてあった。
おそらく偶然を装って出会うのだろう。
恵美子はどうするのかな・・・
俺は無性に気になったが、仕事中に抜け出すわけにもいかない。
ただ仕事に集中することで不安をぬぐうしかなかったのだった。

「ねえ、あなた」
俺の帰宅後に二人で遅めの食事を終え、食後のコーヒーを飲みながら、恵美子がにこにこと話しかけてくる。
「ん、どうしたんだい?」
俺は今日何があったのかを聞きたくて仕方がなかったが、恵美子からは特に何も言ってこなかったし、別段普段と変わった様子もなかったので、ホッとしていたところだった。
「今日ね、私スーパーに買い物に行ったの。そうしたら途中で女の人に道を聞かれたの。郵便局へ行こうとしたら迷っちゃったんですって」
「へえ・・・」
俺はまったく気にしていないようなそぶりで返事をする。
「それがすごく派手な人なのよ。爪には真っ赤なマニキュア塗っているし、髪も茶髪でアイシャドウなんかしちゃって・・・服も胸元が開いたような服を着たなんだか水商売のような人だったのよ」
「うん・・・」
「私、最初はなんだかいやだなって思ったの。だってそんな派手な女性って今まであまり見かけなかったから」
そうだろうな。
どちらかというとあまり社会経験のない恵美子だ。
水商売の女性などそう見たことはあるまい。
それにしても、ママだとは思うが、そんな格好でよく声をかけたものだ。

「でもね、お話しているうちになんだか全然気にならなくなっちゃったわ。それどころかすごく素敵な方だって思ったの」
「へえ・・・」
「最近越してきたとかで、郵便局の場所を間違えて覚えていたみたいだったの。だから私、案内してあげたのよ」
にこやかに話す恵美子。
俺はなんだか不安になる。
恵美子がママの張り巡らした蜘蛛の巣に引っかかったような気がしたのだ。
「それでそのあと一緒にスーパーで買い物をして、コーヒーをご馳走になっちゃった。お礼だからって。別によかったのにって言ったんだけど、おごらせてちょうだいって押し切られちゃった」
「まあ、お礼なんだからいいさ。いいことしたね」
「ええ。今度またお会いしましょうって別れたわ。なんだかとってもいい感じの人だった。葉子(ようこ)さんって言うんですって」
そういえばママの名前がそんな感じだったか・・・
俺はにこやかにしている恵美子の様子を見ながら、コーヒーの味が苦くなるのを感じていた。

                   ******

翌日、またしてもママからLINEが来る。
『昨日接触させていただいたわ。今日もこれからお会いする予定なの。偶然を装ってね。これから奥様がどう変わっていくのか、楽しみにしてね』
俺はちょっとむっとして席を立ち、トイレに行って個室の中から返信する。
「妻に何かするつもりか? 何をする気だ」
返事はすぐに来た。
『安心してちょうだい。私はただ奥様の心を解放してあげるだけ。あとは奥様次第なのよ』
心を解放だと?
どういうことだ?
俺はママを問い詰めたかったが、妻の心を解放するなどと言っても、妻がそう変わるとは思えない。
あの恵美子が変わるというのだろうか?
あり得ないとは思うが・・・
一抹の不安は感じたものの、結局俺はママにLINEの返事を返すこともなく、そのままトイレから出るしかなかったのだった。

「今日は何かあったかい?」
どうしても気になる俺は、夕食後についつい恵美子に聞いてしまう。
本当は恵美子から言って欲しかったのだが、なんだか言ってくれない気がしたのだ。
「えっ? 特に何も・・・」
「そ、そうか・・・」
俺はちょっとショックを受けた。
ママと会っているはずなのに俺には言わないつもりなのだろうか・・・
「あ、そうそう。昨日の葉子さんに今日も会ったわ」
俺は安堵の息を漏らす。
恵美子は隠すつもりじゃなかったのだ。
ただ、他愛のない日常の一コマだったので思い当たらなかっただけなのだろう。
と、言うことは、妻はママからさほど影響は受けなかったということだ。
きっとママは派手な格好で会うことで、妻に興味を持たせたかったのだろうが、あいにくとそうは行かなかったということだろう。
俺はホッと胸をなでおろした。

「昨日の派手な人かい? そりゃまた偶然かな?」
「ううん、私を探したって言ってた」
「探した?」
「ええ、私とまたおしゃべりしたかったんだって。親切にしてもらえてうれしかったのと、越してきたばかりでお友達もいないんですって。だからお友達になりましょうって」
ニコニコしながらコーヒーを淹れてくれる恵美子。
俺は受け取りながらも、先ほどの安堵感が薄らいだ気がする。
「友達に・・・なるのかい?」
「ええ、だってとても感じがいい人なのよ。派手な衣装やメイクもあの人なら許せるって感じなの。なんだか魅力的に感じるわぁ」
なんだか宙を見るような感じの恵美子。
うっとりとしているような感じだ。
「そ、そうか・・・でも、変な人じゃないんだろうな」
俺は精いっぱい妻に注意を喚起する。
恵美子はママの思い通りにはならないとは思っていても、どこか不安なことも確かなのだ。
「それは大丈夫。ちゃんとした人だと思うわ」
おいおい・・・
相手はスナックのママなんだよ。
俺はそう言いたいのを必死でこらえるのだった。

「でね、今日も一緒にお茶したんだけど・・・」
「うん」
「葉子さんって指がすごく綺麗なのよ」
「指が?」
俺はママの指先を思い出した。
確かに真っ赤なつやつやのマニキュアを塗っているが、細くて綺麗なことは確かだった。
「その指先がね。真っ赤なマニキュアでちょっと毒々しいんだけど、それがとても美しいの。なんだか惹きこまれそうなのよ」
「惹きこまれそう?」
「ええ。葉子さんが話している最中にもくねくねと指先が動いて、見ているだけでなんだか気持ちよくなっちゃうの。夢中で見ているうちに葉子さんの言葉も耳に入らなくなっちゃう感じなのよ」
思い出したようにうっとりとしながらコーヒーを飲んでいる恵美子。
なんだろう・・・
なんか、気にかかるな・・・
そういえば俺も彼女の指には見惚れていたような・・・

「まあ、あんまり知らない人と出歩くのは・・・」
「あら、もう知らない人じゃないわよ。それに会ったってお茶するぐらいだし、お茶代ぐらいはいいでしょ?」
「ああ、まあ、そのぐらいはな・・・」
俺はなんだかそれ以上言うことができなかった。

                   ******

「ふう・・・ただいま」
「お帰りなさい」
いつものように帰宅した俺を出迎えてくれる恵美子。
「ん?」
俺はドキッとした。
恵美子が真っ赤な口紅をつけていたのだ。
いつもは外出するときぐらいしかつけない口紅。
自宅にいるときはあまりつけてなかったはずなのに・・・
しかもずいぶんとどぎつい色だ。
真っ赤でつやつやしている。
いつもは少し幼い感じのする恵美子だが、口紅のせいかずいぶん色っぽかった。

「どうしたんだい? 口紅なんかつけて」
俺は先に立ってリビングに向かいながら、思わずそう訊いた。
「えっ? いやねぇ、何を言っているの? 私だって女なのよ。口紅ぐらいつけます」
恵美子が笑う。
「いや、そりゃそうなんだけど、うちではあんまりつけなかったからさ・・・」
「うーん・・・そうだったかしら。でも、なんだかつけたくなったのよ。どう? すごく真っ赤で綺麗でしょ?」
キスをせがむかのように唇を突き出してくる恵美子。
真っ赤な口紅がつややかだ。
「うん、確かに綺麗だけど・・・恵美子にはもう少し抑え目の色がいいんじゃないかな」
「そうかしら? でも私はこれが気に入ったの。これからもこれをつけるわ」
少しすねたように言ってキッチンに行ってしまう恵美子。
まさか・・・
これがママの影響なのか?
俺は胃のあたりがなんだか重く感じるのだった。

                   ******

『こんにちは。今日で10日経ちましたが、奥様の様子はいかがですか? そろそろ何かきざしが見えてきましたかしら?』
何がきざしが見えてきましたかだ。
俺はすぐさまトイレに駆け込んでLINEを打つ。
『きざしがどころじゃない! 一体妻に何をしたんだ! 答えろ!』
ここ数日で恵美子はママのいう通り変わりつつあるようなのだ。
あの日以来唇には常に真っ赤な口紅が塗られ、それを誇らしげにしている。
食器やカップにも口紅が付き、それが逆にうれしそうにさえ見えるのだ。
いまや恵美子の唇はあの真っ赤な毒々しい色以外の色を見せることがない。

『私はただ奥様の心を解放してあげただけ。もし変化があったとしたら、奥様の中にそういう気持ちがあったんじゃないかしら』
恵美子の中にだと?
恵美子の中にあんな真っ赤な口紅を付けたいという気持ちがあったというのか?
そんなバカな・・・
『約束は守ってくださいね。奥様のさせたいようにさせるのよ』
命令調のLINEの文面。
だが、俺はママに逆らうつもりが起きないことに気が付いた。
いったい俺は?

「ただいま・・・」
残業が入ってしまい、疲れた足取りで俺は玄関をくぐる。
「?」
俺はちょっとした違和感を覚える。
いつも出迎えてくれる恵美子が出てこない。
リビングには明かりがついているから、いないわけでもないだろう。
俺は少し変に思いながらリビングに入った。

「あ、お帰りなさーい」
俺が入ってきたことでようやく気が付いたかのように俺のほうを見る恵美子。
その目元にはドキッとするような紫のアイシャドウが引かれ、自分の前にかざしていた手の爪には、真っ赤でつややかなマニキュアが塗られていた。
「え、恵美子・・・お前?」
俺は一瞬唖然とする。
「えっ? あなたどうかした?」
俺が驚いたことに驚いたような妻。
「あ、いや、アイシャドウとかマニキュアとか・・・」
「ああ、これ? 素敵でしょ? 今日葉子さんにネイルサロンに連れて行ってもらったの。もうね、なんだか私の爪じゃないみたい。真っ赤でつやつやしてすごく綺麗なの。やっぱり女の爪はこうでなくっちゃねぇ」
うっとりと爪をかざす恵美子。
まるで虜になったかのように見入っている。

「アイシャドウも葉子さんに教わったの。女は目元も大事なんですって。葉子さんの言うとおりだわぁ。今まで化粧なんてあまりしなかったけど、これからはきちんとお化粧しなくちゃね」
「そ、そうか・・・」
俺は自分がどきどきするのを感じていた。
確かに恵美子が美しい。
だが、それと同時に、だんだん恵美子が変わってしまう恐ろしさも感じていたのだ。

「ところで夕食は?」
務めて冷静でいようと思い、俺はそう尋ねた。
テーブルには特に何の用意もされていない様子だったからだ。
「あん、冷蔵庫におかずがあるからチンして食べて。後片付けもお願いね」
うっとりと爪を眺めながらこともなげに言う恵美子。
俺はちょっとむっとした。
疲れて帰ってきている夫に対し、後片付けもとは・・・
「後片付けくらいは頼むよ」
「ええっ? いやよ。水仕事なんかしたら爪のジェルが剥げちゃうじゃない。ちょっとやそっとでは剥げないって言うけど、剥げちゃったらどうしてくれるの?」
いきなり怒ったように恵美子は俺をにらみつけた。
「恵美子・・・」
「食事の支度ぐらいはしてあげるから、後片付けは今日からあなたがしてちょうだい。いいでしょ、それぐらい?」
俺は何か言おうと思ったが、妻のしたいようにさせるというママとの約束が急に脳裏に思い浮かんでくる。
すると、何も言えなくなってしまい、俺は食事を済ませた後、自分で後片付けをするしかなくなった。

その日から恵美子は化粧をせずにはいられなくなってしまったようだった。
ちょっと近所に出かける時さえ、爪を綺麗に整え、口紅を真っ赤に塗り、紫のアイシャドウを引いていく。
足の爪にも真っ赤なペディキュアを塗り、サンダルのつま先から覗く赤い爪に、俺はどきどきするのだった。

俺はいったいどうしたいのだろう・・・
このまま妻が変わっていくのを眺めているべきなのか?
それとも注意してやめさせるべきなのか?
理性ではやめさせるべきだとわかっている。
だが、なぜかそれができないのだ。
俺は恵美子の今の姿が好きになっていることに気が付いていた。
真っ赤な爪をした白い指先も、毒々しい色の唇も、妖しい紫色の目元も好きなのだ。
俺はもう恵美子を止めることはできないのかもしれない。

                   ******

『今日からもう一段階進むわ。楽しみにね』
ママからのLINEが届く。
俺はそれを見ただけでどきどきした。
恵美子はいったいどうなるのか?
一段階進むとはどういうことなのか?
俺は仕事も手に付かず、帰宅を楽しみにしている自分に気が付いていた。

「ただいま」
玄関をくぐった俺は、一瞬にして一段階進むことの意味を知った。
リビングから漂ってくる煙臭さ。
まさか恵美子が?
俺は驚きを感じながらリビングへ行く。
最近はもう恵美子が出迎えてくれることはない。
どことなく心ここにあらずという感じで、笑みを浮かべながらファッション雑誌などを読んでいることが多かったのだ。

「お帰りなさい。ふう・・・」
真っ赤な唇から白い煙を吐き出す恵美子。
右手の細い指には、火の付いたタバコが挟まれている。
その吸い口には赤い口紅がこれ見よがしに付いていた。

「恵美子・・・お前」
「うふふ・・・ねえあなた、タバコって美味しいのねぇ。私全然知らなかったわぁ」
恵美子はうっとりとタバコを口にあて、その煙を吸い込んでいく。
今まで恵美子はタバコを嫌っていたはずなのに。
いつも禁煙席を選び、店などにそれがない場合には入店もしないぐらいだったのに。
父親がタバコを吸う人だったので、タバコは苦手なのといつも俺に言っていた恵美子はいったいどうしてしまったのか?

「ふう・・・うふふ・・・葉子さんがタバコは女のたしなみよって教えてくれたの。最初は煙たくて咳き込んだけど、吸っているうちにとっても美味しく感じるようになったわぁ」
「恵美子・・・」
妙なことにタバコの煙を吐き出す恵美子に、俺は美しさを感じていた。
細い指先に挟まれたタバコや、それに口をつけて吸う仕草など、なんだかとてもエロチックに感じてしまう。
「ねえ、あなたも一本吸う?」
テーブルの上からタバコの箱を取り、一本差し出してくる恵美子。
「いや、俺は・・・」
「そうよねぇ。あなたは吸わない人だものねぇ。つまらない人」
ふっと俺に煙を吹きかける恵美子。
なんだかその目は俺を軽蔑するような眼差しに見える。
「お食事は冷蔵庫に入っているから勝手に食べて。私は部屋に行くから、後はお願いね」
タバコの箱と灰皿を持ち、自室に行ってしまう恵美子。
私はその後姿に見惚れつつも、一人寂しく食事するしかなかった。

タバコを吸う恵美子は美しかった。
朝起きるともう一本目のタバコを吸っている。
化粧をしながらや、家事をしながらでも吸っているが、一番美しいのはやはり椅子に座って脚を組んでいるときだろう。
恵美子の白い肌は真っ赤なマニキュアやペディキュアがよく似合う。
ホットパンツにTシャツ姿でありながら化粧はきちんとしているという状況で、すらっとした脚を晒しながらタバコを吸う恵美子は本当に美しかった。
最初は思わず見惚れる俺に恥ずかしそうにしていたのだが、すぐに逆に見せ付けるような仕草をしてくるようになる。
ママの言うとおり、恵美子は淫乱でエロケバな女になるのかもしれない。

                   ******

『どう? タバコを吸う女は嫌い?』
いつものように届くママからのLINE。
俺もいつものようにトイレに篭って返事を送る。
『好きじゃない・・・とはいえない気持ちだ。正直今の妻を見ていると、すごくエロティックに感じるよ』
『そうでしょう? あなたは自分でも気が付いてないだけのマゾなのよ。奥様が変わって手が届かなくなることに興奮しているのよ』
『そ、そうなのか?』
俺はママからの文章にドキッとした。
確かに俺は今恵美子が俺から離れて行ってしまうことに不安を感じている。
だが、それ以上に変貌していく恵美子に興奮を隠しきれなくなっているのも事実なのだ。
『今日も奥様の心を解放してあげたわ。楽しみにして帰宅することね』
俺は自分が痛いほど勃起していることに気が付いた。

「ただいま」
自分の声が弾んでいるのがわかる。
玄関には靄がかかったかのような白煙が漂っている。
あの日以来恵美子はタバコを手放せなくなり、今では一日に三箱も吸う完全なヘビースモーカーだ。
火の付いたタバコをいつも細い指ではさみ、吸い口に口紅を付けている。

「お帰りなさい」
リビングから気だるそうな声がする。
最近の恵美子は俺の相手をするのが億劫そうだ。
ママからそう仕向けられているのかもしれない。
なんとなく俺を見下すような感じで、俺はどきどきしてしまう。
ママの言うとおり、俺はマゾなのかもしれない。

ソファに座っている恵美子に俺の目は釘付けになる。
今日の恵美子はピンクのミニスカートに胸が見えそうな豹柄のブラウス、そして太ももまでの網タイツを穿いてハイヒールのサンダルを履いていたのだ。

「恵美子・・・」
俺は思わず声を出す。
「ん?」
持っていたファッション雑誌から顔を上げ、タバコの煙を吐き出す恵美子。
真っ赤な唇がぬめぬめとなまめかしい。
俺はいつしか勃起していた。
これが恵美子なのか?
あのスナックのママに負けないケバケバしさじゃないか・・・

「どうしたの、あなた?」
俺がぽかんと見惚れていることに気が付き、すぐに脚を組みなおしてタバコを吸う恵美子。
いたずらっぽい笑みが俺を挑発しているようだ。
「い、いや・・・なんだかいつもの恵美子とは思えなくてな・・・」
俺はカバンを置いてネクタイを緩める。
「あら、それは褒め言葉かしら?」
クスッと笑う恵美子。
アイシャドウの塗られた目元が美しい。
「あ、ああ、そうだよ。ずいぶんとめかしこんでいるじゃないか」
「うふふ・・・ありがと」
笑いながらタバコの煙を吐き出す恵美子。
吸い口にはべったりと口紅が付いている。

「だけど・・・それはちょっと派手すぎじゃないか? それに靴を家の中で履くなんて・・・」
「あら、そうかしら? 葉子さんはとても似合うって褒めてくれたわよ。このぐらいちっとも派手じゃないわ。もっともっと派手でもいいぐらいよ。それにただの靴じゃなくてハイヒールよ。間違えないで」
恵美子はちょっとムッとしたような表情を浮かべる。
注意されたのが気に入らないらしい。
「靴でもハイヒールでもいいけど、家の中で履くのは・・・」
「もう、うるさいわね。仕方ないでしょ。常に履いてないと慣れなくて足首を痛めるじゃない。だからいつも履いて慣れておくの」
「慣れるって・・・」
どういうことだと言おうとしたが、恵美子がそれをさえぎる。
「ハイヒールは女を美しく見せるのよ。私は美しくありたいの。それにハイヒールを履いてると背筋がのびて気持ちいいのよ。どこで履いたっていいじゃない」
「わ、わかったよ。ただ床を傷つけないようにな・・・」
「わかってるわよ。それよりも食事したら。冷蔵庫に入っているから」
「ああ、そうするよ」
俺は着替えるためにリビングを出るのだった。

風呂に入りながら考える。
このままでは恵美子はママの言うなりになってしまうだろう。
今からでも賭けをやめると言わなくてはならない。
だが、それができなかった。
恵美子が変わってしまうのが怖いのに・・・
恵美子がママの言いなりになってしまうのがいやなのに・・・
どこかでそれを喜んでいる自分がいる。
そして、賭けをやめるとママにLINEを打つことも電話することもなぜかできないのだ。

先ほどのソファに座っていた恵美子のことを思い出す。
豹柄のブラウスにピンクのミニスカート、それに太ももまでの網タイツ。
胸のところからは紫色のブラジャーもチラッと見えていた。
なんてエロティックなんだ。
俺はたまらず湯船から出て勃起したモノをしごく。
このところ風呂に入ると行なってきたことだ。
ああ、恵美子・・・
セックスよりも気持ちいいよ・・・
恵美子・・・恵美子ぉ・・・
俺はけばけばしい恵美子の姿を思い出しながら、白濁液を飛ばしていた。

「ねえ、あなた・・・」
ベッドの中で恵美子が話しかけてきた。
かすかにタバコのにおいがする。
恵美子の体臭はタバコのにおいになってしまったかのようだ。
「どうした、恵美子」
「私・・・最近すごくいい気分なの」
にこやかに微笑む恵美子。
「葉子さんに会うとね、なんだか私が私じゃなくなるみたいなの。でも、それがすごく心地いいの」
「恵美子・・・」
「今まで吸わなかったタバコも美味しいって教えてもらったし、派手な格好で男たちの視線を集めるのも気持ちいいって教わったわ。私なんだか今までの私から解放されたみたいなの」
「解放?」
ママもそう言っていた。
恵美子の心を解放すると・・・
「ねえ、あなた。こんな私は嫌い? 嫌いなわけ無いわよね? いつも私を見て勃起しているものね」
クスッと笑う恵美子。
気が付いていたのか・・・
「うれしいわ。このところ私を抱こうとしないけど、インポになったわけじゃなさそうだし、いつでも相手ぐらいしてあげるわよ」
相手ぐらいしてあげる?
恵美子・・・
お前はお情けで俺の相手をするというのか?
俺は言葉を失った。

(続く)
  1. 2020/05/04(月) 21:00:00|
  2. 催眠・洗脳系
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3
<<変えられてしまった妻 (後) | ホーム | あーついー>>

コメント

読ませていただきました。NTR系特有のドキドキが止まりません。後編も楽しみにしています。
  1. 2020/05/04(月) 22:12:46 |
  2. URL |
  3. 白星 #JalddpaA
  4. [ 編集]

徐々に染まっていく描写が良いですね~
妻の変化だけでなくママが何者なのかとか、続きが気になります(^w^)
  1. 2020/05/04(月) 22:32:23 |
  2. URL |
  3. IMK #-
  4. [ 編集]

>>白星様
コメントありがとうございます。
後編も楽しんでいただけると嬉しいです。(´▽`)ノ

>>IMK様
やはりこういうのは変化を楽しみたいですよねー。
後編もお楽しみにー。(*´ω`)
  1. 2020/05/05(火) 18:30:39 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://masatomaikata.blog55.fc2.com/tb.php/5603-71d4b86c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

カレンダー

01 | 2024/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -

時計

プロフィール

舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

ブログバナー


バナー画像です。 リンク用にご使用くださってもOKです。

カテゴリー

FC2カウンター

オンラインカウンター

現在の閲覧者数:

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

管理人にメールなどを送りたい方はこちらからどうぞ

ブログ内検索

RSSフィード

ランキング

ランキングです。 来たついでに押してみてくださいねー。

フリーエリア

SEO対策: SEO対策:洗脳 SEO対策:改造 SEO対策:歴史 SEO対策:軍事

フリーエリア