昨日で終わったと思った?
もうちょっとだけ続くんじゃ。
ということで、新年SS第三弾です。
タイトルは「○○の妻は変身ヒーローである夫を補佐していましたが、悪の組織のばら撒いた細菌兵器をモロに浴びて、高速戦闘のエキスパート、カサカサ動くゴキブリ女にされました。」です。
診断メーカーさんに「
妻が寝取られて怪人にされたー(悪魔と妖怪もあるよ!)」という診断があるのですが、そちらで診断した結果をSS化してみました。
ですので、タイトルは診断結果そのものです。
お楽しみいただければと思います。
それではどうぞ。
○○の妻は変身ヒーローである夫を補佐していましたが、悪の組織のばら撒いた細菌兵器をモロに浴びて、高速戦闘のエキスパート、カサカサ動くゴキブリ女にされました。
「首都Bエリア、27ブロックにデムパー怪人出現との通報です! ヤッタレンジャーの出動要請が出ました!」
コンソールパネルを操作していたオペレーターの緑羽千紗(みどりば ちさ)が声を上げる。
「よし、ヤッタレンジャー、出動!」
司令官席の上昆寺(かみこんじ)司令が野太い声で指令を出す。
恰幅のよい人のいいおじさんといった顔立ちをしているが、司令官としての能力に疑いはない。
彼の指令はすぐに待機していたヤッタレンジャーの五人に伝達され、待機ボックスから出撃していく五人の姿がモニターに映し出された。
「行ってらっしゃい、あなた。気を付けて・・・」
思わず小声でそうつぶやく千紗。
できれば出撃する夫のそばに行って声をかけたい。
だがそれはかなわないこと。
だからこそ、千紗はモニター越しに夫の無事を祈らずにはいられなかった。
地球を狙う悪の組織「デムパー」
数年前から暗躍し始めたこの組織に対し、日本は特殊でユニークな方法で対抗した。
それこそ、子供向け特撮番組と思われるような特殊戦隊を編成し、デムパーに対抗したのだ。
行動戦隊ヤッタレンジャー。
レッド、ブルー、イエロー、ピンク、グリーンの五人の戦士が力を合わせてデムパー怪人を打ち倒す。
この方法は特撮番組を見慣れた日本人にはなじみやすく、五人の戦いは極めてスムーズに受け入れられたばかりか、デムパーに対する恐怖感も緩和してパニックを沈めるという副次効果をも生み出していた。
おかげでデムパーの侵略は一進一退で食い止められており、今ではこの様子を見た各国でも同様の正義の戦隊が結成されている。
このヤッタレンジャーの一人、ヤッタレグリーンこと緑羽健斗(みどりば けんと)こそ、千紗の愛する夫なのだった。
「ヤッタレレッドより入電。デムパー怪人の駆除に成功。周辺の被害は極めて軽微とのことです」
「警察や消防からも同様の報告が入っております。デムパー軍団の撤退は間違いないようです」
千紗やほかのオペレーターたちが次々と報告を行う。
どうやら今回もデムパーの侵略は未然に防ぐことができたようだ。
それにメンバーにもケガ人などは出ていないらしい。
もちろん念のためのメディカルチェックを行うので、おそらく今夜は戻っては来られないだろう。
だが、それでもとにかく無事でよかった。
千紗はほっと胸をなでおろした。
千紗はヤッタレンジャーのオペレーター。
ヤッタレンジャー本部で様々な情報を受け取り、上昆寺司令へと伝えるのが主な仕事である。
地味で危険性も少ないと言える仕事だが、それでもヤッタレンジャーの作戦行動にとっては無くてはならない存在であり、千紗もそのことは承知している。
そもそも彼女がヤッタレンジャーのオペレーターになったのも、少しでも夫である健斗の役に立ちたいと思ったからなのだ。
少しでも夫の役に立ちたい。
それが千紗の願いであった。
******
「交代です」
本部オペレーターの制服を着た同僚の古橋(ふるはし)が千紗の席にやってくる。
主にシフトで彼女の交代番に入ってくれる男性だ。
「交代します。よろしくお願いします」
「はい、お疲れ様でした」
千紗はヘッドホンを外し、席を立つ。
入れ替わりに古橋が席に着き、すぐにオペレーター業務を始める。
ヤッタレンジャー本部に一瞬の隙があってもならないのだ。
いつ何時、救援要請が入るのかわからないのだから。
「それじゃ、お先に失礼します」
「うむ、ご苦労さん」
上昆寺司令に挨拶して、司令室を出る。
ロッカーで着替えをして本日の勤務は終了。
「ふう・・・」
緊張から解放される瞬間だ。
ここから先はまるっきりの一般人として、ヤッタレンジャーとは全く関係ない人間を装わねばならない。
それはそれで苦労もあると言えばあるのだが、デムパーの魔手を逃れるためにはやむを得ないのだ。
ヤッタレンジャー本部の誰かがデムパーに捕らわれたりしたら大変なのだから。
見慣れた我が家の近くまで戻ってくる。
どうやら今日も何事もなく済んだようだ。
おそらく夫が帰るのは明日の朝だろう。
で、あれば、明日の朝は美味しいものでも用意してあげようか。
そんなことを考える千紗。
ふと見ると、通りに人が倒れているのが目に入る。
「えっ?」
驚いた千紗は、すぐさま駆け寄って声をかける。
「もしもし、大丈夫ですか? ヒッ!」
千紗は思わず息をのむ。
倒れていた男性の顔が、どす黒く変色し、苦悶の表情を浮かべていたのだ。
すでに息はなく、死んでいるのは間違いない。
すぐにスマホを取り出す千紗。
救急車?
いや、この場合は警察だろうか?
とにかく通報を・・・
そう思った千紗が顔を上げると、通りのあちこちで人が死んでいることに気が付く。
家から外に出ようとドアを開けたまま倒れている女性。
窓から上半身を外に乗り出したまま絶命し、垂れ下がっている男性。
街灯や家の中の明かりが照らす中、十数人がみな同じように顔をどす黒く変色させて死んでいるのだ。
「あ・・・あああ・・・」
あまりのことに地面にへたり込んでしまう千紗。
これはいったい・・・
まさかデムパーの・・・
一刻も早く・・・
「グッ・・・」
全身がカアッと熱くなる。
息が苦しくなり、目の前が真っ赤になる。
「あがっ・・・あがが・・・」
何か言おうとしても言葉が出ない。
全身が激痛に襲われ、焼けるように熱い。
「た・・・すけ・・・」
地面に横たわる千紗。
苦しい苦しい苦しい・・・
熱い熱い熱い・・・
誰か・・・
助けて・・・
あ・・・な・・・た・・・
意識が遠ざかる。
『キュヒーッ!』
『キュヒーッ! 実験は成功だ! 全員死んだか確認しろ!』
薄れていく意識の中、千紗はデムパーの戦闘員の声がかすかに聞こえたような気がした。
******
「はっ・・・」
ひんやりとした感触に目が覚める。
それもそのはず。
彼女は冷たく硬い台の上に寝かせられていたのだ。
「こ、ここは? 私はいったい?」
首を回して周囲を見る。
薄暗い室内に、様々な機械類が置かれ、ちかちかと光が明滅している。
病院かとも思ったが、とてもそんな雰囲気ではない。
「う・・・くっ」
躰を起こそうとしたものの、うまく動かない。
それにどうやら今の彼女は服も着ていないようだ。
いったいどういうことなのか?
「ほう・・・やはり生きていたか」
闇の中から重厚な声が響く。
千紗が声の方に振り向くと、ゆっくりと男が姿を現した。
トゲの付いた軍服風の衣装を着た偉丈夫。
その姿と顔を、千紗は見たことがある。
デムパーの指揮官ジュシンガー将軍だ。
「ジュシンガー将軍・・・」
そうつぶやいてから、思わずしまったと気付く千紗。
「ほう、俺を知っているとは、ヤッタレンジャーの関係者か?」
「た、たまたまテレビで見ただけです」
千紗は何とかごまかそうとする。
「ふん、まあいい。それよりも・・・」
「ひゃっ!」
ジュシンガー将軍の手が千紗の太ももに触れてくる。
「腐りもせず、ほぼ何の問題もなしとはな・・・驚いたぞ」
「な、何?」
何のことを言っているのか?
「ふん、わかっていないようだな。お前は我らの細菌兵器バイペストの実験に生き残ったのだ。これは信じられないことなのだぞ」
「細菌・・・兵器?」
やはりあの人たちはデムパーの犠牲に?
「そうだ。通常のペストの二倍の威力を持つバイペスト菌を散布した実験だ。あの地区の人間はことごとく死んだのに、お前だけは生き残った。なぜだ?」
「そ、そんなこと・・・」
千紗は首を振る。
彼女にだってわかるはずがないのだ。
「ふん、どうやらお前にはバイペスト菌に対する耐性があるようだ。そこで我々はお前を有効活用することにした」
ニヤリと笑うジュシンガー将軍。
整った顔だけに、その笑みは迫力がある。
「有効活用?」
「そうだ。お前をバイペスト菌をまき散らすゴキブリ怪人に改造し、バイペスト菌撒き散らし作戦を行わせる」
「わ、私を?」
千紗は愕然とする。
よりにもよって彼女を怪人にしようというのか?
そんな・・・
「い、いやっ! いやです!」
躰を起こして逃げようとする千紗。
だが、躰が思うように動かない。
「無駄だ。すでに改造は最終段階を残すのみとなっている。始めろ」
「「キュヒーッ!」」
白衣を着た数名の戦闘員たちが現れ、千紗の躰に電極やチューブを取り付けていく。
「いやっ! いやぁっ! むぐ・・・」
千紗の顔にマスクが付けられ、気体が流し込まれてくる。
ああ・・・
千紗は再び意識が遠くなっていくのを感じていた。
******
意識がだんだんと戻ってくる。
それと同時に力もみなぎってくる。
気持ちがいい。
今までとはまるで違う自分。
生まれ変わるというのはこういうことを言うのかもしれない。
「キシュシュ・・・」
彼女の口から声が漏れる。
今までに発したこともないような声。
でも、これこそが自分の声だと彼女は思う。
『起きるのだ』
命令が下る。
命令は絶対。
命令には従わなければ。
起きなければならない。
彼女は躰を起こす。
上にかけられていた白い布がはらりと落ちる。
それに伴い、彼女の新しい肉体があらわになる。
茶褐色のつややかな外皮。
蛇腹状の腹部。
硬くトゲのある両脚と両手。
すべてが力強くすぐれた肉体だ。
カツリと音がする。
台から足を下ろし、硬い床を踏みしめた彼女の足音。
鋭い爪と尖ったヒールが床を鳴らしたのだ。
彼女はそのまま立ち上がる。
背中には硬い翅。
髪の毛のような邪魔なものは消え、頭も固い外皮で覆われている。
額からは長い二本の触角。
ゆらゆらと揺れ、空気のかすかな振動さえも感じ取れた。
「クククク・・・さあ、お前が何者か言ってみろ」
ジュシンガー将軍が彼女の前に立ち、その指揮棒が彼女を指す。
「キシュシュシュ・・・私は偉大なるデムパーの蟲人ゴキブリ女ゴキブリージョですわ。キシュシュシュシュ」
奇妙な笑い声をあげる千紗。
いや、彼女はもはやデムパー怪人ゴキブリージョに変えられてしまっていた。
彼女の躰はまさに女性とゴキブリが融合した姿。
直立した女ゴキブリだったのだ。
「ククク、それでいい。改造中にお前のことがわかったぞ。お前はこいつの妻だったそうだな。こいつのことをどう思う?」
目の前に出される緑羽健斗の写真。
それは先日までは千紗の愛する夫だった人。
だが、今の彼女はその写真を鋭い爪で引き裂いていく。
「キシュシュシュシュ・・・この男は私たちデムパーの邪魔をする憎むべき男。このような男の妻だったことなど思い出したくもありませんわ」
「クククク・・・そうだ、お前はもうこんなやつの妻などではない。我がデムパーの蟲人だ。ならば、この男の始末はできるな?」
「もちろんです。私はヤッタレンジャーの司令部の位置を知っております。この躰をもってすれば忍び込むことなど容易いこと。そこでバイペスト菌をまき散らせば・・・キシュシュシュシュ・・・」
手の甲を口元にあてて笑うゴキブリージョ。
ヤッタレンジャーにとって最大のピンチが、今訪れようとしていた。
END
以上です。
残念ながら寝取られ風味はほとんどなかったかと思いますが、怪人化SSとして見ていただければ。
よろしければコメントなどいただけますと嬉しいです。
これで新年SSはすべて終了です。
手持ち全部放出しましたので、次作までは少々お時間をいただくかもしれません。
どうか気長にお待ちいただければと思います。
ではではまたー。
- 2020/01/05(日) 20:00:00|
- 怪人化・機械化系SS
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| コメント:7
オペレーターを怪人に改造するのは悪の組織からすれば非常に効率的ですよね。
細菌兵器でやられていてもやられていなくても正義の側にとってはマイナスの結果にしかならない訳ですね。
そこから展開する被害には大きな差がありますが。
そうすると細菌兵器作戦と言うのは非常に効果的な作戦ですね。
楽しませていただきました!
- 2020/01/06(月) 22:46:05 |
- URL |
- MAIZOUR=KUIH #gCIFGOqo
- [ 編集]
遅ればせながら読ませてもらいました。
戦隊名でまず笑わせてもらいました。
なんとなく古き良きネーミングでいいですなあ。
正体を知って狙われたんじゃなく耐性があったためなのが面白いですね。
もしかしたらウイルスで味方が壊滅して残った彼女が戦う未来もあったかも。
その才能も悪に利用されるのが皮肉ですねー。
ゴキブリ怪人てのも珍しいですな。
夫がふと天井を見上げると張り付いた変わり果てた妻の姿が
みたいなイメージが浮かびました。
前2作合わせお疲れ様!
- 2020/01/11(土) 12:50:03 |
- URL |
- くろにゃん #rC5TICeA
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