今日は私の誕生日なのですが、超短編が一本できたので投下いたします。
タイトルは「クモ女の誕生」です。
はい、タイトルを見てわかりますとおり、先日投下しました「
サソリ女の誕生」「
サソリ女の暗躍」と同じ世界観で書いてます。
いつもの通り、シチュのみの超短編ではありますが、楽しんでいただけましたら幸いです。
それではどうぞ。
クモ女の誕生
「またねー」
「また明日ー」
「じゃあねー」
手を振って別れあう女子高校生たち。
みな学校が終わった安堵感と、明日また会えるという確信を持って家路につく。
そう、その確信が何の根拠もないことに気づかずに・・・
「さて、急がなきゃ」
友人たちと別れた後、彼女は一人街中へと通じる道に向かう。
今日はジムで練習がある日だ。
急いで行かなくては遅れてしまう。
幼いころに病弱だった彼女は、体力を付けるためにと運動をすすめられ、子供のころからジムで体操を行ってきた。
もちろんそのような目的だったから、オリンピックを目指すなどというようなものではなく、今では健康維持と美容目的のようなものだ。
おかげで中学以降は体力にも自信が付き、風邪などもめったにひかなくなっている。
ありがたいことだった。
「あれ?」
角を曲がったところで、彼女は思わず足を止める。
いつも通っていた道だったが、この先工事中につき通行止め、迂回してくださいという立て看板とともに、バリケードが置かれていた。
見たところこの先で工事をやっているような様子もなかったが、二日前に通った時にはこのような表示はなかったので、昨日か今日工事が始まったのだろう。
だとすれば大型の機械が入ったりするのはまだこれからなのかもしれない。
「ちぇっ」
少し口をとがらせつつ、この通りを通るのをあきらめた彼女は、先を急ごうと迂回路へと入っていく。
そっちは細い路地であるが、この際はやむを得ない。
少し遠回りになるはずだから急がなくてはならないだろう。
背中のリュックを背負いなおし、少し早歩きで路地を行く彼女。
その背後に黒いスーツと帽子をかぶってサングラスをかけた二人の男たちが歩いてくる。
最初は特に気にも留めなかった彼女だったが、早歩きで歩いているにもかかわらず距離が離れないことに、ふと気づく。
確かに大人の男性と女子高校生の彼女とでは歩幅に違いはあるだろうが、それでも距離が遠ざかりも近づきもしないというのは何か変だ。
そう思い、彼女はさらに足を速めようとして、恐怖する。
前からも同じく黒のスーツに黒の帽子とサングラス姿の男たちが現れたのだ。
逃げ道を探して周囲を見回す彼女だったが、路地はブロック塀に挟まれたようになっており、どこかの家に通じる玄関口もない。
わき道に入るにはどちらかの男たちを超えていくしかなく、もはや逃げ場がない状態なのだ。
「くっ」
意を決して正面からくる男たちの間を何とかすり抜けようと走り出す彼女。
もしかしたら、男たちはたまたまそんな恰好をしてたまたま通りを歩いてきただけで、走り出した彼女を奇異の目で見ながら避けて通してくれるのではないかとも思ったが、残念ながらそうではなかった。
後ろの男たちは彼女が駆け出すと同時に走り始め、前の男たちは彼女を取り押さえようと待ち構えるのがすぐにわかったのだ。
「あうっ!」
彼女は何とか男たちの手を逃れようとしたが、腕をつかまれ、さらに何か薬のようなものを吹きかけられて、その場で意識が遠くなってしまったのだった。
******
「ん・・・んん・・・」
ゆっくりと意識が戻ってくる。
そっと目を開けると薄暗い室内のようだ。
周囲には何やら様々な機械があって、明滅したり小さな稼働音を響かせている。
「ここは? えっ?」
躰を起こそうとした彼女は、両腕が固定されていて動かせないことに気が付いた。
見ると、手首のところががっちりと金属の枷で留められており、感触からおそらく足首もそうなっているらしい。
つまり彼女は台の上に寝かされて身動きできなくなっているということなのだ。
しかも白い布をかけられている以外はおそらく裸で。
「ど、どうして?」
なぜこんな目に遭っているというのだろうか。
彼女には全く思い当たる節がない。
これからどうなってしまうのか、彼女は恐怖に打ち震えた。
『目が覚めたようだな。箕原愛梨沙(みのはら ありさ)』
スピーカーを通したような重々しい声が聞こえてくる。
しかも複数のスピーカーが天井に仕掛けられているようだ。
「どうして私の名前を?」
愛梨沙は驚いた。
名前を呼ばれたということは、誰かに間違われたのではなく、彼女が狙われたということだからだ。
『箕原愛梨沙よ。我々はヘルザロン』
「ヘルザロン?」
聞いたこともない名称だ。
人の名前なのか、それとも団体や会社名なのだろうか?
『そうだ。闇結社ヘルザロン。我はその首領である』
結社?
首領?
まるで一昔前の特撮番組のようではないか。
「私を・・・私をどうする気なんです?」
『箕原愛梨沙、お前は選ばれたのだ。我がヘルザロンはお前を歓迎する。お前は我が組織の改造人間にふさわしい存在だ。改造手術を受け、ヘルザロンの一員として生まれ変わるがいい』
愛梨沙の顔が青ざめる。
改造?
手術?
よくわからないが、自分の躰にろくでもないことが行われようとしているのははっきりとわかる。
冗談じゃないわ。
「いやっ! いやです! どうして? どうして私なの?」
首を振っていやいやをする愛梨沙。
『お前は肉体的に健康であり、体操の経験を有している。激しい動きをする改造人間には適しているのだ』
「そんなの私なんかより優秀な人はいっぱいいるじゃない!」
『優秀であればいいというものではない。むしろ肉体的な差異は改造でいくらでも強化できる。かえってお前のような目立たずそれでいてそれなりの経験を持つ者こそがふさわしい』
「そんな・・・いやぁっ!」
『恐怖を感じるのは今のうちだ。脳改造まで完了すれば、お前は改造人間となった喜びを感じるだろう。そしてヘルザロンへの忠誠を誓うようになる』
「いやぁっ! やめてぇっ!」
必死に躰をよじって逃れようとする愛梨沙。
だが、両手両足の枷はびくともしない。
ごとりと彼女の脇にある機械の上に透明なケースが置かれる。
「ひっ!」
その中では手のひらほどもある巨大なクモが蠢いていた。
『これは南米に生息する毒グモだ。このクモをお前に移植し融合させる。お前は改造人間クモ女として生まれ変わるのだ』
「ひぃーっ! いやぁぁぁぁっ! 助けてぇっ! 誰かぁぁぁぁっ!」
あらん限りの声で叫ぶ愛梨沙。
だが、その間にも彼女の躰に様々な機器類が取り付けられていく。
全身を白衣で包み、頭には目だけが覗くマスクをかぶった男女が無言で作業をしているのだ。
全員全く彼女の叫びには反応しようとさえしない。
『箕原愛梨沙の改造を始めよ』
「「「ヒィーッ!」」」
首領の声に白衣の男女たちは奇声を上げて応え、愛梨沙の顔に麻酔ガス用のマスクをつけていく。
必死に抵抗する愛梨沙だったが、やがて麻酔ガスが効き始め、意識が再び闇へと飲み込まれていった。
******
サッと躰にかけられていた白い布がはがされる。
下からは、黒と赤の短い毛におおわれた異形の躰が現れる。
それは愛梨沙の滑らかで美しいボディラインそのままであり、腰の括れや両胸のふくらみも女性らしさを思わせるものだったが、全身は短い剛毛に覆われ、黒と赤の縞が両腕と両脚を彩っていた。
足のつま先は一つになって大きなかぎ爪となっており、かかとはハイヒールのようにとがっている。
両手も指先には鋭い爪が伸び、手首のあたりにはトゲのようなものもついていた。
何より変化が大きいのは頭部であり、巨大な触角状の角が両脇から伸びており、髪の毛はすべて無くなって躰と同じような短い剛毛が覆っている。
目は大きな丸い単眼が二つの他に額にも四つあり、それぞれ黒く輝いていた。
口元は人間のようではあるものの、左右からは鋏角が伸びており、下あごも左右に開くようになっている。
それはまさにクモと若い女性の融合した姿であり、クモ女という名にふさわしい姿だった。
『目覚めるのだ、クモ女よ』
重々しい声が響く。
その声に寝ていたクモ女の躰がピクリと動き、黒い単眼に光が反射する。
次の瞬間、大きな音を立てて彼女の両手両足を固定していた枷が勢いよく吹き飛んでいく。
改造された躰の威力を首領に見せつけるのだ。
以前とは比べ物にならない力に、思わずクモ女の口元に笑みが浮かぶ。
「ケケケケケ・・・」
ゆっくりと躰を起こすクモ女。
その目が自分の躰を見下ろしている。
『目覚めたようだな、クモ女よ』
「ケケケケケ・・・はい、首領様」
スッと姿勢を正し、両手をクロスして一礼するクモ女。
『気分はどうかな?』
「はい、とてもいい気分です。私は闇結社ヘルザロンの改造人間クモ女。このような素晴らしい躰に改造していただき感謝いたします。どうぞ何なりとご命令を。ケケケケケ・・・」
誇らしげに笑い声をあげるクモ女。
ヘルザロンの誇る脳改造によって、彼女の思考は完全にゆがめられてしまっている。
もはや彼女は女子高生の箕原愛梨沙ではなく、闇結社ヘルザロンの改造人間クモ女なのだ。
『それでよい。お前は生まれ変わったのだ。これよりはヘルザロンのために働くがよい』
「もちろんです。ヘルザロンのためなら何でも致します。ヘルザロンこそ私のすべて。ケケケケケ・・・」
『では最初の命令を与える。お前の家族を始末してくるのだ。できるな?』
「お言葉ですが首領様、あいつらは元家族です。始末するなど造作もないこと。このクモ女にお任せくださいませ。ケケケケケ・・・」
深く一礼し、くるりと背を向けて手術室を後にするクモ女。
その口元には最初の使命を命じられた喜びの笑みが浮かんでいた。
******
カツカツと硬質な足音がアジトの廊下に響いていく。
初任務を終えてきたので、足取りもなんだか軽い。
家族だったなどという目障りな存在も抹消できた。
硬質化した自分の躰。
外骨格の強靭な肉体。
なんてすばらしいのだろうか。
こうして足音を響かせるのは本当に誇らしい。
そうクモ女は思う。
「あら、新入りさんかしら? キシュシュシュシュ・・・」
ちょうど自室から出てきたところらしい仲間の改造人間に声をかけられる。
茶褐色の硬そうな外骨格に覆われた美しい肉体に、巨大なハサミと化した右腕。
お尻からは毒針のついた尻尾が伸びている。
「はい。私はクモ女。改造を受けたばかりの者ですが、よろしく。ケケケケケ・・・」
「私はサソリ女よ。殺人なら任せて頂戴。よろしくね。キシュシュシュシュ・・・」
ハサミをカチカチと打ち鳴らして笑みを浮かべるサソリ女。
確かに人殺しは得意そうだ。
「私の部屋はここなの。気が向いたら遊びに来てね。キシュシュシュシュ・・・」
そう言って同じように誇らしげにカツカツと足音を響かせて去っていくサソリ女。
仲良くできそうな仲間がいるのは心強い。
あとでタイミングを見て部屋に行ってみることにしよう。
そう思ってほほ笑むクモ女。
さて、次の任務まで待機しなくては・・・
早く命令してほしいわ・・・
******
夜道を歩く一人の少女。
スイミングスクールからの帰りとのこと。
おそらく改造前の自分と同じぐらいだろうとクモ女は思う。
よかったわね・・・
あなたは選ばれたのよ・・・
偉大なる闇結社ヘルザロンにね・・・
もうすぐあなたは改造人間になれる・・・
素晴らしい世界が待っているわよ・・・
周囲に誰もいなくなったのを確認し、木から木へと飛び移るクモ女。
改造人間である彼女にとってこんなことは造作もない。
事実枝をゆする音さえわずかで、人間の耳では聞こえないくらいだ。
あの少女も何も気が付いていないに違いない。
「ひっ!」
突然頭上から白いひものようなものが巻き付いてきたことに驚く少女。
「いやっ! 何?」
ねばつき絡みついてくるひもを必死ではがそうとするが、動けば動くほど絡みついてくる。
「いやっ! いやっ!」
全身に巻き付いてくるひもから何とか逃れようとするが、ひもはどんどん絡まってくるのだ。
「ケケケケケ・・・無駄よ。私の糸は人間の力ごときでは切れないわ」
「えっ?」
頭上からの声に思わず顔を上げる少女。
「ひぃっ!」
そこには木の上で彼女を見下ろしている黒と赤の毛で覆われたクモの化け物がいたのだ。
その化け物がお尻から糸を出し、彼女を絡めとっている。
「いやっ、むぐ・・・」
悲鳴を上げようとするものの、ひもと言っていい太さのクモの糸が彼女の口を封じてしまう。
「怖がることはないわ。あなたは選ばれたのよ。闇結社ヘルザロンにね。ケケケケケ・・・」
彼女が身動きできなくなったのを見計らい、樹上から降りてくるクモ女。
そして右手を上げて戦闘員たちを呼びつける。
すぐに数人の戦闘員たちが現れ、クモ糸に絡みつかれて動けなくなった少女をワンボックスカーへと運び込む。
「うふふふ・・・あなたはどんな改造人間になるのかしら。水泳の心得があるみたいだから、きっと水が得意な改造人間だと思うけど。改造が終わったら仲良くしましょうね。ケケケケケ・・・」
運び込まれた少女に向かってそうつぶやくと、クモ女は周囲を再度確認して自らもワンボックスカーに乗り込む。
やがてワンボックスカーはいずこへともなく闇の中へと消え去るのだった。
エンド
以上です。
感想などいただけますと嬉しいです。
それではまた。
- 2019/06/09(日) 20:13:56|
- 怪人化・機械化系SS
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