ちょっと風邪をひいてしまったりなんだりでバタバタしてしまっている年明けなのですが、今日明日明後日でSSを一本投下しようと思います。
タイトルは「かわいいは正義」です。
正義と言いつつ悪堕ちものです。(笑)
あと、中盤以降で「男同士」のセックスシーンが登場しますので、そういうのが苦手な方はそっと閉じていただければと思います。
一応折り畳みは致しますけど、ツイッター等直接リンクの場合は折り畳みが役に立ちませんので、充分ご注意いただければと思います。
お楽しみいただければ幸いです。
それではどうぞ。
かわいいは正義
「バ、バカな! またしても敗れたというのか? 最強の・・・これまでにない最強の戦闘ユニットを送り出したというのに、なお敗れたというのか?」
西洋風の鎧姿のいかつい武人ががっくりと肩を落とし、うめくように声を絞り出す。
「信じられん・・・なぜ奴らは勝つのだ? 力はこちらの方が圧倒的に上だったはずだ・・・なぜだ!」
彼の目の前のモニターでは、勝利を決めたポーズを誇らしげに取る二人の姿が映っている。
赤い戦士と桃色の戦士。
男女二人のペアとのことだが、見た目にもそれほど強そうには見えない。
彼らの身に着けている赤とピンクのスーツの性能ともいわれるが、それを計算に入れたうえで凌駕する力を持つ戦闘ユニットを送り出しているはずなのだ。
なのに今回も敗退を喫した。
それが彼には信じられない。
『ジャゴーワンよ』
モニターの上に設置されているドクロの紋章の目が光る。
「ハッ、ハハァッ!」
まるでおびえた小動物のように身をすくめて、すぐさまひざまずく鎧姿の武人。
『どうやらその星は貴様には荷が重いようだ。一度故郷に帰って休養するがいい』
「な、なんと?」
予想もしなかった首領様のお言葉・・・とはすでに言えない。
もはや何度となく作戦を失敗している以上、その責めを問われるのは覚悟してはいた。
だが、おめおめと引き下がるわけにはいかない。
星団結社ジャマフィアにとって、休養とは失脚を意味することであり、失脚は死を意味するからである。
『今までご苦労であった。ゆっくり休むのだ』
「い、いえ、休養など必要ありません。ご安心を。まだ策は・・・」
必死に訴える武人。
休養などさせられてたまるものか。
『すでに後任がそちらに向かっている。速やかに引き継ぎ、そこを明け渡すのだ』
「なんですと? 後任が?」
それではすでに今回の作戦以前から交代を決められていたというのか?
その時、すっと司令室の背後の扉がスライドする。
そして足音とともに、三人の人影が入ってきた。
『どうやら来たようだな』
「はい首領様。ジャキュート、ただいま地球に着任いたしました」
ドクロの紋章の言葉に返事をし、すっとひざまずく三人。
返事をした一人は黒を基調とした軍服のような衣装を着ており、残る二人は白いエプロンに紺色のロングスカートのいわゆるメイド服を着て、背後に従うようにひざまずいている。
「ジャキュート! 後任は貴様だというのか?」
驚いたように背後を振り返る鎧姿の武人。
「お久しぶりです、ジャゴーワン将軍。お元気そうで何より」
屈託のない笑顔を見せるジャキュート。
輝くような金髪をしており、その姿はまだ成長しきっていない男性のもの。
いわばまだ少年ぽさが残っており、人間でいえば中学生から高校生といったぐらいではないだろうか。
その整った顔は美しいというよりも、かわいいとさえ言っていいかもしれない。
「首領様、これは何かのお間違えでは? このジャゴーワン、今まで七つの星を落としてまいりました。その私も苦戦するこの地球をジャキュートに任せるというのですか? ジャキュートよ、貴様これまでいくつの星を落としたのだ?」
苦々しげな口調でジャキュートに尋ねる武人。
「ジャゴーワン将軍・・・ボクなどとてもとても将軍の足元には。今までに二つの星を落としたのみです」
そう言って首を振るジャキュート。
「ですが、デンダルとオザーンですけどね」
だが、そう続けてニヤッと口元に笑みを浮かべる。
「デンダルとオザーン・・・だと?」
武人の顔に驚愕が広がる。
星団結社ジャマフィアと言えどもそこを落とすのは難しいと言われた二大星系。
その二つを落としたというのか?
「バカな・・・どうやって・・・」
「そうだよね? リア、エル」
笑みを浮かべたまま背後の二人のメイドに声をかけるジャキュート。
「はい。その通りです、ジャキュート様。わが故郷デンダルと」
「わが故郷オザーンは」
「「私たちが崩壊させました」」
ほほ笑みながら声を合わせる二人のメイド。
ジャキュート同様にこの二人もまだ成長しきっていない乙女という感じであり、美しいというよりはかわいいの部類であろう。
「信じられぬ・・・信じられぬ・・・」
わなわなと震えるジャゴーワン。
このような力強さのかけらもないような連中が、あの鉄壁を誇るデンダルとオザーンを落としたというのか?
『ジャゴーワンよ』
「ハ、ハハァッ」
慌ててドクロの紋章に向き直るジャゴーワン。
『下がれ』
「ぐ・・・」
『下がれ。おって呼び出すまで、故郷にて休養するのだ』
「・・・・・・ハハァッ」
紋章に一礼し、立ち上がるジャゴーワン。
呼び出されることなどもはやあるまい。
彼はすでに死刑執行書に首領のサインがなされてしまったのだ。
「ジャキュートよ、せいぜい失敗せぬよう頑張ることだな・・・」
憎々しげにそう言い捨てて司令室を出ていく。
「ふふふ・・・ボクが失敗するわけないじゃないか」
その後ろ姿を目で追い、そうつぶやくジャキュートだった。
******
『ああん、待ってよカズ君。一緒に帰ろ』
慌てて靴を履きながら学校の玄関を出る一人の女子高生。
ブレザーとスカートの制服がかわいらしく、茶色のショートヘアが風になびく。
『いいよ! なんで一緒に帰らなきゃならないんだよ! 勝手に帰れよ』
背後から追いかけてくる彼女に一瞥をくれ、無視するように歩いていくこちらは一人の男子高生。
どうやら一緒に帰る気はないらしい。
『なんでって、幼馴染なんだし、途中まで帰るルートは一緒なんだし、アルファチームのチームメイトなんだし、いいでしょ?』
先を行く彼にどうにか走って追いつくと、一緒に帰る理由をこれでもかと上げて並んで歩きだす女子。
『俺、今日はジムに行くからさ。先に帰れよ』
無愛想にそういうと、足早に離れようとする男子。
『待ってよカズ君。じゃそこまで一緒に』
『だからなんでだよ!』
『だって、いつジャマフィアが襲ってくるかわからないんだよ。近くにいた方が対処しやすいでしょ』
少し口をとがらせる女子。
すねた顔もまたかわいらしい。
『先日倒したばかりじゃないか。これまでの例から言って数日は大丈夫だよ。それになんかあったらすぐに連絡はとれるんだからいいじゃないか。じゃな!』
そう言って男子の方は女子を置いて駆け出して行ってしまう。
『あ、待ってよカズ君ったらぁ!』
女子の方は彼の走り去った方に少し手を伸ばすが、さすがに追いつけないと悟ったのか、そのままあきらめてトボトボと歩いていく。
その二人の様子を、ジャキュートは司令室のモニターで眺めていた。
「この走り去った男子がアルファチームの赤、つまりアルファレッド、深赤和希(みあか かずき)です。そして取り残された彼女がアルファチームのピンク、アルファピンクの淡桃聡美(あわもも さとみ)。アルファチームはこの二名で構成されています」
椅子に座ってモニターを見ているジャキュートに、そばで立って解説をする二人のメイド。
「地球には世界防衛組織の名の下、各地にチームが派遣されています。アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、ゼータの現在6チームが活動中で、それぞれ二名から五名のメンバーがいるようです。一例を上げますと北米南米をエリアとするガンマチームはやはり人数が多く、ガンマブルー、ガンマホワイト、ガンマイエロー、ガンマグリーン、ガンマピンクの五人となっています。色につきましては別チームと重なっても問題はないようです」
「アルファチームはこの日本という地域のみを担当としているようで、二人だけのようです。手始めとしてはここがよろしいかと」
「そうだね。まずはアルファチームを攻略しよう。それに、このミアカ・カズキというのは、なかなかにかわいいじゃないか。ボクのコレクションにできそうだ。君たちみたいにね」
さりげなく手を伸ばし、メイドの一人リアのあごをそっと撫でるジャキュート。
「あ・・・」
リアは思わずうっとりと目を細める。
「さて、ターゲットは決まった。あとは・・・ふふふふ・・・」
すっと椅子から立ち上がるジャキュート。
彼の美しく端正な顔に邪悪な笑みが浮かんでいた。
「ふう・・・」
ジムでトレーニングに励む和希。
日本を守るアルファチームの一員として、日ごろの鍛錬は欠かせない。
そして、それ以上に、和希は自分を必死に苛め抜きたい理由があった。
なぜなら・・・
汗を拭きながら鏡に映る自分の姿を見る和希。
「はあ・・・」
思わずため息が出てしまう。
柔らかなライン。
小柄な背丈。
かわいらしい女の子のような顔立ち。
トレーニングをしているのに、筋肉質の躰というよりは、どちらかというと女性的な柔和な躰付きである。
どうやら体質的なものらしく、どんなにトレーニングをしても筋肉が付いたように見えないのだ。
もちろんアルファレッドとしての戦闘力に問題はない。
だが、知らない人が見れば和希はなよっとした女性っぽい男子にしか思えない。
顔がかわいらしいのもそれに輪をかけている。
そのために学校内では結構いじられたりもするのだ。
悪気がないならまだしも、悪意を持ってからかってくる連中も多い。
露骨に女子制服を持ってきて似合いそうだよなとか言ってくる連中すらいるのだ。
おそらく実際に着てみれば似合ってしまうことだろう。
それほど彼の躰付きは女性っぽさがあるのだ。
だが、そういう連中に下手に手を出して騒ぎにでもなれば、彼が世界防衛組織の一員でありアルファレッドであることが公になってしまうかもしれない。
だからむやみなことはできず、そういうからかいにも苦笑いでごまかすぐらいしかない。
どうして・・・
どうして俺はこんな女っぽい躰なんだろう・・・
身長だってそれほど高くないし・・・
トレーニングしたってちっとも強く見えないし・・・
はあ・・・
和希は自分の躰が恨めしかった。
******
日本時間での翌朝。
和希と聡美が通う学校の近くの高級マンションの玄関から、一人の男子高校生が姿を現す。
和希たちの学校の制服を着ており、金髪で美しく整った顔立ちですらっとスリムな非の打ち所がないスタイルの男子だ。
彼に続くようにして日本ではあまり一般的ではない衣装を着た二人が玄関から出てくる。
紺のロングスカートの服に白いエプロンを着け、頭にはホワイトブリムと呼ばれる白いレースのついたカチューシャでショートカットの髪を留めている。
いわばメイドさんスタイルの二人であり、先に出てきた彼に従うようにあとに続いているのだ。
「行ってらっしゃいませ、ジャキュート様」
「お気を付けくださいませ、ジャキュート様」
そのかわいらしい顔に微笑みを浮かべ、深く頭を下げる二人のメイド。
「うん、行ってくる。急がせてすまなかったねエル、リア」
男子高校生の制服に身を包んだ彼こそ、星団結社ジャマフィアの新たに地球担当となったジャキュートその人である。
見た目的にも地球人とほとんど変わらない彼は、アルファチーム壊滅のために自ら行動を起こしたのだ。
「いえ、私たちはジャキュート様の忠実なるしもべ。ジャキュート様のご命令とあればどんなことでも致します」
「この場所が当面の拠点となるとのことですので、ジャキュート様がお気持ちよく過ごせるようにするのはしもべとして当然の務めです」
赤毛のエルに対してプラチナブロンドのリア。
二人ともとてもかわいい顔立ちをしている。
「それじゃ行ってくるよ。カズキ君に会うのが楽しみだ。ふふふ・・・」
カバンを手に学校へと向かうジャキュート。
二人は深々と頭を下げ、彼の姿が見えなくなるまで見送った。
学校に近づくにつれ、同じ制服を着た生徒たちが数多く見かけられるようになる。
皆一様に同じ方向を向き、学校へと歩いていく。
それが何だかジャキュートには面白い。
学校ねぇ・・・
知識として知ってはいるものの、実際そのようなもので学んだことなどないジャキュートに取り、いわば未知の世界である。
今回はアルファレッドを彼好みに染め上げ、アルファチームを内部から崩壊させることが目的ではあるが、学校というものを楽しむのも悪くはない。
「さて・・・まずは」
学校の校門をくぐり、玄関で靴を履き替える。
このあたりの支度はエルとリアがやってくれたので、何も問題はない。
さてと・・・
まずは潜入のための工作からだ。
学校では物事を教える側の教師というものと、教わる側の生徒というものに分かれているなど、基礎的なことは調べてある。
まずはその教師とやらがいる職員室とやらに出向き、そいつらが自分に疑念を抱かないようにする必要があるだろう。
カバンから出した上靴に履き替えたジャキュートは、手近な空き靴箱に外靴を入れると、おそらく教室へ向かおうとしていたであろう男子生徒を呼び止める。
怪訝そうに彼を見る男子生徒に、彼はすぐさま目を合わせて思念波を送り込む。
「職員室はどこか案内してくれるかな?」
「あ・・・ああ・・・」
一瞬目がうつろになった男子生徒だったが、すぐに気を取り直すと、彼を先導して歩き始める。
うん・・・問題なく効果はあるとは思っていたけど、地球人は比較的支配しやすそうだな・・・
思念波によって彼の言うことを素直に聞くようになった男子生徒の様子を見て、ジャキュートは思念波の効果を再認識する。
これこそが彼を星団結社ジャマフィアの幹部たらしめている能力なのだ。
思念波を送り込み、相手の思考を歪め、最終的には彼の言いなりにしてしまう能力。
これによって彼はエルとリアの二人を支配し、デンダルとオザーンを陥落させたのである。
そしていずれはアルファレッドも彼の支配に屈し、彼の手先となってこの地球を征服する手助けをするようになるだろう。
だが、そこまでの支配を及ぼすには、何度か相手に思念波を送って思考を歪め続けていかなくてはならない。
そのために多少時間をかける必要があるのが難点ではあるのだが、歪んだ思考が元に戻るようなことはないので、相手を完全に支配することができるのが特徴だった。
今回彼は、学校生活という場において、アルファレッドこと深赤和希に事あるごとに思念波を送り、彼の支配下に置こうという作戦に出たのだった。
職員室で一通りの教師に思念波を送り、自分を怪しまないように仕向けたところで、ジャキュートは適当な教室に入って席に着く。
最初怪訝そうにしていたクラスの連中も、すぐにジャキュートの思念波によって、彼が最初からクラスにいたかのようにふるまい始める。
彼にとってはこの程度のことなら朝飯前ではあるものの、ここからさらに一歩踏みこんで思考を歪めるまでとなれば、そこそこ時間がかかるのは仕方がないところだった。
とりあえず彼は教室のクラスメイト達に自分の存在を植え付け、紛れ込むことに成功したのだ。
******
「ふう・・・とりあえず、今日は今のところ異常なしか・・・」
お昼休み、人のいない校庭の隅で腕にはめたファイターブレスを使い、世界防衛組織の日本支部を通して現在の状況を確認する和希。
このファイターブレスは通信機の役割も果たすし、腕時計としての機能も有する。
だが、それ以上に重要なのは、このファイターブレスによって彼の位置が特定され、ブレスを通じてファイタースーツが送り込まれてくるのである。
つまりこのファイターブレスを使って和希はアルファレッドへといわば“変身”するのだ。
今のところ星団結社ジャマフィアの新たな動きはないようだ。
もし何か動きがあり、しかもそれが日本エリアに関係することであれば、すぐにこのファイターブレスを通じて世界防衛組織の日本支部から連絡が入ることになっている。
そうなれば授業中だろうが深夜だろうが行動しなくてはならないのがつらいところだが、ファイタースーツの適合者である以上仕方がない。
そして現在のところ、この日本エリアでは適合したのが和希と聡美しかいないというのも事実なのだった。
たぶん今頃聡美もファイターブレスで状況を確認し、ホッとしているんだろうなと和希は思う。
日本エリアは範囲こそ狭いものの、チームの構成が二人しかいないため、比較的襲撃される回数が多かったのだ。
やはりジャマフィアにしても人数が多いチームよりも少ないチームからつぶそうと考えるのは当然なのだろう。
なので、ほかのチームに比べて和希と聡美の戦闘回数は段違いに多く、逆にそれだけジャマフィアにとっては忌々しい相手だった。
「こんにちは、先輩」
「えっ?」
ファイターブレスをすぐさま時計モードに戻して顔を上げる和希。
そこにはいつの間に来たのか、金髪碧眼で色白の男子生徒が立っていた。
「え・・・と?」
誰だろう?
初めて見る顔だけど・・・
「あ、深赤先輩ですよね? 二年の?」
「あ・・・うん、そうだけど?」
自分の名字を言われ、和希はそう返事をする。
こんな生徒、うちの学校にいたんだ・・・
でも、いったい俺に何の用だ?
「よかった。いや、噂で聞いていた以上にかわいい方なので、深赤先輩に間違いないとは思ったんですけど。あ、ボクは一年C組のジャキュートと言います。留学生なのでジャキュートでフルネームなんです」
間違いないと知ってパアッと表情が明るくなる男子生徒。
とても整った顔立ちをしていて美青年なのだが、むしろその笑顔は美少年と言ってもいいかもしれない。
だが、彼がかわいいと言ったとたん、和希の表情は険しくなる。
「えーと、ジャキュート君だったっけ? 俺に対してかわいいなどと言う言葉は二度とつかわないでほしい。いいね?」
キッとにらみつける和希。
こういうのは最初が肝心だ。
見かけが女性的だからって、舐めてかかられては困るからな。
それにしても・・・本当に忌々しい・・・
「どうしてですか? 先輩、すごくかわいいじゃないですか」
きょとんとした顔でいうジャキュート。
もちろんわざとではあるが、なるほど、確かにカズキはかわいいと言われることを嫌っているようだと確信する。
「どうしてだって? 俺は男だぞ! 男に向かって普通かわいいなんて言うか? かっこいいとか男らしいとかなら言われても嬉しいだろうけど、かわいいなんて言われて嬉しいと思うのか? どうせ君も俺のことを男装した女子みたいな目で見ているんだろう!」
ぎりっと歯噛みする和希。
昔からそうだったのだ。
女の子と間違われたことはそれこそ数知れず。
学校の制服を着ているときはまだしも、私服で出歩くとボーイッシュな女性に見られることなど当たり前で、男性に声をかけられたことも10回や20回では済まないぐらい。
つまりそれだけ見た目的に女性ぽく見えるのだ。
それだけに和希はこの躰が嫌だった。
顔だって母に似たのか女の子ぽい顔立ちだと言われるし、背が低く小柄なことも要因だろう。
だから必死にトレーニングもしているし、アルファレッドとしての訓練も励んでいるのだが、一向に筋肉質の躰にはなってくれない。
体質的なものとは言うが、そんな体質はどこかに捨て去りたいぐらいだった。
「先輩・・・それは違いますよ」
「えっ?」
ジャキュートにそう言われ、思わず聞き返してしまう和希。
違うって、何が?
「先輩、ボクの目を見てください」
ジャキュートの目が一瞬輝いたように見える。
「あ・・・」
なんだろう・・・
和希はなぜだか目が釘付けになる。
ジャキュートの目を見つめたまま、目が離せなくなってしまったのだ。
「先輩は、かわいいと言われるのが嫌いなんじゃない。本当は大好きなんです」
えっ?
俺はかわいいと言われるのが好き?
どうして?
どうしてそんなことを?
「先輩は自分で自分がかわいいことを知っている。だから、自分がかわいいと言われたく思っているんです。でも、先輩も言うとおり、他人はあんまり男に対してかわいいとは言ってくれない。だから、かわいいと言ってほしいけど言ってもらえない苦痛を癒すために、自分はかわいいと言ってほしくないと思い込むようになったんです」
あ・・・
そんなことは考えたことがなかった・・・
そう・・・なのか?
俺は・・・
本当はかわいいと言ってほしかったのか?
「先輩・・・先輩はかわいいと言われるのが、本当は大好きなんです。だって、先輩はかわいいから」
ジャキュートが思念波を使って言葉を送り込む。
もちろんでたらめにもほどがある言葉だが、思念波によって思考が歪められるとそれは真実となる。
「俺は・・・かわいいと言われるのが本当は大好き・・・だって・・・俺は・・・かわいいから・・・」
知らず知らずのうちにジャキュートの言葉を繰り返す和希。
ジャキュートの言葉が彼の脳裏に刻み込まれていく。
「そう。先輩はかわいい。とってもかわいい。先輩は女の子のようにかわいいんです」
「俺はかわいい・・・とってもかわいい・・・俺は女の子のようにかわいい・・・」
何度も繰り返していく和希。
その様子にジャキュートがニヤッと笑う。
まずは種を植えこむことに成功したのだ。
あとはこれを育ててやればいい。
育てば・・・カズキはボク好みのかわいいしもべになるだろう。
くふふふふ・・・
「そうだ、先輩。LINEの交換しませんか?」
ジャキュートはポケットからスマホを取り出す。
地球でよく使われる通信機器だそうで、まだまだジャマフィアの持つテクノロジーに比べればレベルの低いものではあるが、なかなか便利なものだ。
「あ・・・ああ・・・いいよ」
なんだか頭がぼうっとする和希は、言われるままにLINEを交換して友達登録をする。
これでジャキュートは、いつでもカズキと連絡が取れるのだ。
「どうもありがとうございます。そうだ、先輩。先輩にいいものをあげますよ」
そう言ってジャキュートはポケットから紙袋に入った包みを出す。
「今日、家に帰ったらこれを開けてください。いいですね?」
「あ・・・ああ・・・家に帰ったら、これを開ける・・・」
「そうです。先輩はもうボクのことを信頼し、ボクの言葉をとても大事にします。いいですね?」
「うん・・・俺はジャキュートのことを信頼し・・・ジャキュートの言葉を大事にする・・・」
再びジャキュートの言葉を繰り返す和希。
「ふふふ・・・今日はここまでにしておきましょう。あんまり長い間不自然に話し込んでて目立つのもなんですし」
「あ・・・ああ・・・」
「それじゃ先輩。午後の授業もがんばってください」
「ああ・・・ありがとう、ジャキュート。それじゃね」
くるっと背を向けて立ち去っていく“後輩”に手を振る和希。
すでに彼の中ではジャキュートは大事な“後輩”だ。
「そうそう、一つ言い忘れてました」
ふと足を止めるジャキュート。
そして和希の方を振り返る。
「先輩はかわいい自分に似合うかわいい下着も大好きなんですよ。特に女の子が身に着けるようなかわいい下着が大好きで、身に着けずにはいられないんです」
そう言ってジャキュートはにやりと笑う。
「あ・・・俺は・・・かわいい俺に似合うかわいい下着が大好き・・・特に女の子が身に着けるようなかわいい下着が大好き・・・身に着けずにはいられない・・・」
和希はその言葉を繰り返していく。
自分自身に言い聞かせるように。
「それじゃまた。先輩」
「あ・・・ああ・・・」
和希はなぜかぼうっとした頭で去っていくジャキュートを見送った。
******
午後の授業を終え、何となく寝ぼけたようなぼんやりした頭で家路につく和希。
結局午後はほとんど授業に身が入らなかった。
なんだか頭がぼうっとして、考えがまとまらないのだ。
なんだろう・・・
風邪でもひいたのだろうか?
熱はなさそうだし、悪寒を感じるようなこともないけど・・・
今日は早めに寝るべきなのかもしれない。
「カズくーん」
背後から声がする。
振り向くと、今日も聡美が走ってくるのが目に入る。
「聡美・・・」
何となく足を止める和希。
「ハアハア・・・お疲れ様、カズ君。一緒に帰ろ」
走ってきた息を整え、にこやかな笑顔を見せる淡桃聡美。
その屈託のない笑顔がとてもかわいい。
聡美って・・・こんなにかわいかったんだ・・・
和希はぼんやりした頭でそんなことを思う。
「カズ君、どうかした?」
ぼうっとした感じで彼女を見つめる和希に、聡美はちょっとした違和感を感じる。
「あ・・・いや・・・別に・・・なんとなく聡美ってかわいいなって・・・」
「えっ?」
思わずビックリして聞き返してしまう聡美。
「あ・・・いや、ほら、帰るぞ」
「う、うん」
すたすたと歩き出す和希に、遅れまいとして聡美も後を追う。
突然のことに思わず頬を染めている聡美に対し、和希は戸惑いを隠せない。
俺は今何を言ったんだ?
聡美はかわいいって・・・言ったんだよな?
聡美はかわいい・・・
聡美はかわいい・・・
じゃあ俺は?
俺はどうなんだ?
俺は?
「なあ、聡美」
「なあに、カズ君」
まだ少し頬を染めている聡美。
和希がかわいいと言ってくれたのが嬉しかったのだ。
「俺って・・・かわいいか?」
「えっ?」
聡美の足が止まる。
「カズ君・・・また誰かに言われたの?」
「えっ?」
うって変わって表情が険しくなる聡美に和希も思わず足が止まる。
「カズ君・・・気にしなくていいんだよ。カズ君はかわいいんじゃない。カズ君はかっこいいの! 私はずっとカズ君はかっこいいって思ってる! だから、誰に何を言われても気にしなくていいんだからね! カズ君はかっこいいんだから!」
あ・・・
ドクンと心臓が高鳴る。
胸がキューッと痛くなる。
俺・・・
なんで俺、ショックを受けているんだ?
なんで俺、悲しくなっているんだ?
なんで・・・?
かっこいいって言われたから?
聡美が俺をかわいいんじゃないと言ったから?
かわいいんじゃない・・・かっこいいんだって・・・
俺は・・・
俺はかわいいって言ってほしかったのか?
俺はかわいいって・・・
言ってほしかったのか?
「カズ君」
「ご、ごめん。俺ちょっと用事があるから先に帰る。ごめん」
そう言って走り出す和希。
聡美の顔を見ていられなくなったのだ。
なんで?
なんでだよ?
なんで俺こんなにショックを受けているんだよ?
なんでだよ・・・
なんで聡美は俺をかわいいって言ってくれなかったんだよ・・・
走って走って自宅のあるアパートの階段を駆け上がる和希。
玄関の鍵を開け、そのまま自分の家に入って再度鍵をかける。
「ハアハアハア・・・」
リビングにカバンを放り投げ、思わずがっくりと座り込んでしまう。
ちくしょうちくしょう・・・
なにがなんだかわからない。
なんで俺はこんなにショックを受けたんだ?
あんなにかわいいって言われるのが嫌だったはずなのに・・・
あいつの声が頭の中でぐるぐるしている。
先輩は本当はかわいいって言われたかったんですよ。
そうなのか?
俺は本当はかわいいって言ってほしかったのか?
俺は本当は・・・
かわいいって言ってほしい・・・
言ってほしいんだ・・・
息が整ってきたことで少し落ち着いた和希は、とりあえず立ち上がって自分の部屋に放り出したカバンを持っていく。
そして制服のままベッドにゴロンと横になる。
なんだか今日は頭がぼうっとする。
本当に風邪かもしれない。
風邪薬とか飲んでおいた方がいいのだろうか・・・
それにしても・・・
あいつ・・・
和希の脳裏にジャキュートの顔が浮かんでくる。
あいつと話してから、なんだか変だ。
あいつ・・・
ジャキュートって言ったっけ・・・
あいつ・・・
俺のことをかわいいって言ってくれたんだよな・・・
俺のことをかわいいって・・・
和希はなんだかそれがうれしく感じる。
もっともっとかわいいって言ってほしい。
彼にかわいいって言われたい。
そう思うのだ。
なんなんだ・・・
なんで俺はこんなことを・・・
そうだ・・・
和希は躰を起こして足元のカバンを手に取る。
あいつ・・・何かくれたんだっけ。
昼休みが終わった後、ポケットに入れておいたのをカバンに入れ直したんだよな、確か。
カバンの中から包みを取り出す和希。
重さはとても軽い。
包んである紙袋は無地の茶色のものだったが、開けてみるとカラフルでかわいい感じの包装紙に包まれたものが出てくる。
「なんだ、これ?」
まるで女の子向けのファンシーなお店の包装紙のようだ。
がさがさと包装紙を開ける和希。
「えっ? ええええ?」
中から出てきたものに思わず目を疑ってしまう。
「こ、これって・・・?」
柔らかな手触り。
かわいらしいピンク色。
はた目には三角形の布のようにも見える。
「これって・・・女の子のパンツ・・・だよな・・・」
包みから出てきたのは、まぎれもなく女性用のショーツだった。
「あ・・・」
見ているだけで胸がドキドキする。
なんてかわいいんだろう・・・
男のパンツとは大違いだ。
柔らかくてかわいくて優しそうで・・・
穿いてみたい・・・
これ・・・穿いてみたい・・・
和希の中でむくむくと気持ちが募る。
先輩はかわいい下着も大好きなんですよ。
ジャキュートの言っていた言葉が思い浮かぶ。
特に先輩は女の子が身に着けるようなかわいい下着が大好きで、身に着けずにはいられないんです。
そうだ・・・
俺は女の子が身に着けるような下着が大好きで、身に着けずにはいられないんだ・・・
和希は立ち上がると、制服を脱ぎ、Tシャツもパンツも脱いで、靴下だけの姿になると、そっとそのショーツを穿いてみる。
もともと小柄な和希の躰が幸いしたのか、そのショーツはそれほどきつくもなくするっと穿くことができた。
これが・・・これが女の子のパンツ・・・
なんてかわいいんだろう・・・
だが、そのかわいらしさを大幅に削ぐものが嫌でも目についてしまう。
チンポって・・・こんなにグロテスクなものだったっけ?
かわいいピンクのショーツからはみ出すほどの男性器に思わず目をそむけたくなる和希。
ものすごい嫌悪感が彼を襲う。
かわいくない・・・
こんなの全然かわいくない。
かわいい俺には全然ふさわしくない。
こんなチンポなんていらない!
こんなのいらない!
もっと・・・もっとかわいいチンポがいい。
もっとかわいいチンポがいいよ!
自分の男性器に悲しくなる和希。
でも、それ以上に、女の子のかわいいショーツを穿いたことがなんだかうれしくて気持ちがいい。
もう男のパンツなんていらない。
俺は女の子のパンツが大好きなんだ。
かわいい俺にはかわいい女の子のパンツが一番なんだ。
和希はそう思う。
ふと、スマホが振動して何かの着信を伝えてくる。
「あれ? 聡美かな?」
アルファチームのチームメイトである聡美とは、腕時計型のファイターブレスでも連絡が取りあえるのだが、日常生活で怪しまれたりしないよう、普段はスマホを使っている。
クラスメイトとのLINEもしないわけじゃないが、任務上あんまり他者との深い交流は避けるよう通達されているため、表面上の付き合いしかしていない。
そもそも和希がこうしてアパートで暮らしているのも、家族との接点を極力なくし、任務に支障をきたさないようにという面からだ。
最初は寂しさもあったものの、こうして一人で暮らすと気楽なこともあり、和希はこのアパート生活が気に入っていた。
確かに食事の支度とか不便なこともあるが、やってみればできないことはないし、近くのスーパーで総菜を買ってもいい。
口うるさく言う両親がいないだけでも和希にとってはありがたかったのだ。
「違った・・・」
LINEの着信は聡美からではなかった。
登録したばかりの名前。
ジャキュートからだったのだ。
『先輩。プレゼントは気に入っていただけましたか?』
あ・・・
和希は自分の穿いているショーツに目をやる。
『ありがとう。うん、とても気に入ったよ』
和希は正直な気持ちをLINEで送る。
すぐにそれは既読となり、返信が帰ってくる。
『よかった。あの・・・もしよかったら、先輩が穿いている写真を送ってもらってもいいですか?』
あ・・・
どうしよう・・・
ちょっと恥ずかしい。
男なのに女の子のパンツを穿いているなんて変じゃないかな?
どうしよう・・・
だが、和希の手はスマホのカメラを自分に向けていく。
ジャキュート君からもらったんだもん・・・
ジャキュート君に見せないと悪いよね・・・
スマホで写真を撮り、LINEで送る。
『うっわぁ、すごくかわいいです。先輩はやっぱり女の子のショーツが似合いますね』
ジャキュートの返信にうれしくなる和希。
かわいいって言ってくれたのだ。
聡美が言ってくれなかったかわいいという言葉。
それをジャキュートは言ってくれた。
それが何より和希は嬉しい。
もっともっとかわいいって言ってほしい。
もっともっとかわいくなりたい。
ジャキュートにかわいいって褒めてもらいたい。
もっともっと・・・
『ありがとう。とても嬉しい』
『ボクはホントのことを言っただけですよ。先輩はかわいい。だからもっともっとかわいい服を着て見せてほしいんです。かわいい女の子の服を着たかわいい先輩の姿を』
かわいい女の子の服を着たかわいい俺・・・
かわいい女の子の服を着たかわいい俺・・・
うん・・・
もっともっとかわいくなるんだ。
俺はもっとかわいく。
でも・・・
『俺が女の子の服を着るのは変じゃない?』
『何を言ってるんですか。かわいい先輩がかわいい女の子の服を着るのは当たり前じゃないですか。そうだ。明日もプレゼントを渡しますよ。楽しみにしててくださいね』
プレゼント?
なんだろう?
何がもらえるのだろう?
ドキドキする。
かわいいものだといいなぁ・・・
『それじゃまた明日』
『うん。また明日』
和希は胸をときめかせながら、明日を楽しみにするのだった。
「ふふふ・・・どうやら意外と深く根を張ったみたいだね。地球人は結構精神的な攻撃には弱いのかもしれないな」
スマホを置き、ニヤッと笑みを浮かべるジャキュート。
拠点とした高級マンションの一室で、星団結社ジャマフィアの幹部としての黒い軍服風の衣装に着替え、椅子に座っている。
彼のそばには二人のメイドが立っており、いつでも彼の指示に従うべく待機していた。
「エル、リア、彼のための準備は?」
「はい。すでにほぼ整っております」
「ご命令があり次第、いつでもお迎えすることが可能です」
笑顔で答える二人のメイド。
まるでジャキュートに声をかけられるのがこの上ない至福とでもいうようだ。
「いい子だ」
両手で左右に立つエルとリアの股間をスカートの上からいじってやる。
「あん」
「はぁん」
思わず甘い声を出してしまう二人のメイド。
「君たちも嬉しいだろ? カズキがボクのコレクションに加わることが」
「はぁん・・・はい・・・楽しみです」
「彼が・・・あん・・・私たちの仲間になるのは嬉しいです」
頬を染め、快楽に身をよじりながらもジャキュートの質問に答える二人。
「ふふふ・・・明日が楽しみだ。二人ともおいで。なんだかボクもムラムラしてきちゃったよ。かわいがってあげる」
二人から手を放し、立ち上がるジャキュート。
「はい。ジャキュート様」
「お願いいたします。ジャキュート様」
そのままベッドルームへ向かうジャキュートを、頬を染めた二人のメイドは追いかけていくのだった。
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- 2019/01/02(水) 21:00:00|
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