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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ふたりはイヴィルシスターズ (3)

ふたりはイヴィルシスターズも今日で三日目です。
二人も順調に染まってきているようですが、まだもがいてきますので、そのあたりをお楽しみいただければと思います。

それではどうぞ。


「うああ・・・眠いー」
ぐったりと机に突っ伏する茉莉。
今日は遅刻せずに済んだものの、母にいつものように放っておかれていたらどうだったかわからない。
「おはよー。眠そうねー」
大きなあくびをしているところに唯がやってくる。
ポニーテールの髪型で明るい性格のいい娘だ。
「おはよー。眠いよー」
ぐてぇっと両手を伸ばして机に躰を預けながら顔だけで唯を見る茉莉。
「夜更かししたんでしょ?」
「うん・・・明け方まで起きてた。なんか夜になると目が冴えてさぁ・・・あーあ、太陽なんかなければいいのに・・・」
教室の外から差し込む朝の陽ざしについ恨みがましい目を向けてしまう。
デモンオー様の支配する邪悪と闇の世界ならこんな忌々しい朝日など存在しないのに・・・
デモンオー様の支配する邪悪と闇の世界なら・・・

「うんうん、わかるぅ。朝は一分でも長く寝ていたいよねー」
「おはよー、茉莉、唯」
二人の姿を見かけて希美も声をかけてくる。
こちらはショートボブの黒髪の優しい娘だ。
「おはよー」
やっぱり机の上で小さく手を振る茉莉。
その目が主のいない一つの席に止まる。
黒坂さん・・・今日は来てない・・・
まだ始業には少しあるとはいえ、いつもならとっくに来ている時間のはず。
明日学校で会おうと言って別れたのに・・・
何かあったのだろうか?
まさか・・・ワルピーが?

「お、おはようございます」
その時息を切らせて教室に絵美が入ってくる。
どうやら走ってきたらしい。
絵美が来たことでホッとする茉莉。
どうやらちょっと遅れただけだったようだ。
「おはよう黒坂さん」
「おはよう紅倉さん」
自分の席に向かう絵美に茉莉は声をかける。
はあはあと肩で息をしていたものの、昨日と全く同じような笑みを向けてくれたことに茉莉は嬉しくなった。

席に着いた絵美は鞄を脇にかけると茉莉と同じようにぐたーっと机に突っ伏する。
「黒坂さん」
いきなり突っ伏した絵美に驚く茉莉。
気が付くと茉莉は席を立っていた。
「えっ?」
「何?」
突然立ち上がった茉莉に唯と希美が困惑するのも構わずに、茉莉は絵美のところに行く。
「黒坂さん、どうしたの? 大丈夫?」
「あ、紅倉さん。ごめんなさい、大丈夫。あまりにも眠くて・・・ふあーー」
大きなあくびをする絵美に茉莉はホッとする。
何か具合でも悪くなったのかと思ったのだ。
「あはは・・・私も眠い」
「結局あれからほとんど寝ていなくて・・・」
絵美も眠そうな顔をしつつ笑顔を見せる。
「だよねぇ。なんか夜目が冴えちゃって」
「私も。今朝ほど太陽が憎いって思ったことはないわ」
「うん。デモンオー様の支配する邪悪と闇の世界なら太陽なんて存在しないのに・・・」
「ほんと、デモンオー様の支配する世界なら・・・」
二人は窓の外をにらみつける。
太陽なんてなくなってしまえ。

「あ、それはそうと、今日はできるだけ誰か別の人といるほうがいいわ。私たちが二人一緒にならない方がいいかも」
「そっか。いつあのワルピーが来るかわからないもんね。昨日も一昨日も学校でだったし」
絵美と別行動ということに茉莉はすごく残念に思ってしまうが、これも仕方がないかもしれない。
絵美も茉莉と別行動をしようと自分で言い出したものの、離れるのはつらく感じていた。
「とにかく、鷹紀先生とは一対一にならないようにしましょ」
「そうだね。まさか由華先生もだなんて・・・」
「何とか元に戻せるといいんだけど・・・」
「どうしたらいいんだろう・・・」
二人がどうしたものかと悩んでいると、チャイムが鳴り当の本人が教室に入ってくる。
「はい、席について。ホームルーム始めるわよ」
そういって由華は二人の方をちらっと見、微かに笑みを浮かべたのだった。

とりあえず午前中の授業は無事に済んだ。
うつらうつらしてしまって授業を聞いていなかった気もするが、まあ、何とかなるだろう。
試験の時はまた唯や希美と勉強会をすればいいと茉莉は思う。
そうだ・・・今度は黒坂さんも誘ってみよう。
黒坂さんは勉強得意そうだから、きっといろいろと教えてもらえるはず。
そんなことを思う茉莉。

休み時間もトイレに行ったり教室を出たりするなどして、何とか絵美と別々になるように行動した。
そのおかげかワルピーにも由華先生にも目を付けられずに済んでいるようだ。
あとは、お昼休みをどうするか。
お弁当は唯や希美と一緒に食べるとして、眠気マックスのこの状態を何とかしないと午後の授業は爆睡間違いなしである。
せめてどこかで仮眠をしたいけど・・・
そんなことを思いながら茉莉は鞄からお弁当を取り出して唯や希美のところに行く。
どこかいいところないかなぁ・・・

「あれ?」
見ると絵美がお弁当を持って教室を出ていくところだった。
どこか別のところで食べるのだろうか?
そういえばいつも彼女がどこでお弁当を食べているのか気にしたことはなかった。
今度は一緒に食べられるといいな・・・
デモンオー様が支配した世界なら一緒に食べられるかな・・・
早くそうなると・・・
そこまで考えてハッとする茉莉。
思わずぶんぶんと首を振る。
「茉莉?」
「どうかした?」
唯と希美が突然首を振った茉莉にきょとんとしている。
「あ、ううん。何でもない」
手を振ってごまかす茉莉。
私なんであんなことを・・・
そういえば朝も私・・・
・・・もしかして私・・・だんだん心が邪悪と闇に染まってきているのだろうか・・・

お弁当が味気ない。
私はなんでこんなところにいるのだろう・・・
私はなんでこの人たちと一緒にいるのだろう・・・
私はなんで紅倉さんと一緒にいないのだろう・・・
私はなんで・・・

いつもの図書館メンバーとのお昼。
今までならこんなに心がささくれ立つような気分になることはなかった。
三階の図書準備室に集まり、そこでお昼を食べながら本の話をする。
食べ終わったらそのまま隣の図書館で本を読む。
これがこれまでの絵美のお昼であり、楽しい時間のはずだった。
だけど、なぜか今日は心がささくれ立つ。
きゃいきゃいと囀りあう女子生徒たちの声がうるさくて仕方がない。
本なんて読んで何になるというのか・・・
本なんてしょせん空想の産物・・・
邪悪と闇の世界では何の役にも立たないもの・・・
デモンオー様の支配する邪悪と闇の世界ではなにも・・・

「ご馳走様」
お弁当を食べ終えた絵美はそそくさとその場を後にする。
何人かに声をかけられたような気もしたがどうでもいい。
どうせ彼女たちはただの人間。
デモンオー様の支配する邪悪と闇の世界では生き延びることすらできるかどうか怪しいもの。
デモンオー様の支配する世界・・・
デモンオー様・・・
「えっ?」
私は何を考えていたの?
絵美がふと今自分が何を考えていたのかを意識してぞっとする。
デモンオー様って・・・
私は今デモンオー様って・・・
私・・・
私・・・

教室に戻ってきて、鞄に空になった弁当箱をしまう。
見ると、茉莉が唯や希美たちと楽しそうにしている光景が目に入る。
あ・・・
なんだろう・・・
心がもやもやする。
あそこにいるのは私のはずなのに・・・
紅倉さんと一緒にいるのは私のはずなのに・・・
どうして私はあそこにいないのか?
どうして紅倉さんが他の女子たちと楽しそうにしているのか・・・

「また・・・」
自分の心に気が付いて愕然とする絵美。
私はどうしてしまったの?
いったい何がどうなって・・・
絵美は思わず教室を出る。
なんだか今日は自分が自分でないみたいだ。
きっと寝不足だからかもしれない。
さっきから眠気を我慢しているのがいけないんだ。
どこかで仮眠をとらなきゃ。
どこかで・・・

とはいえ、もともと勉学に励む施設である学校で気軽に仮眠をとれるところなどそうあるはずもない。
絵美はしばし校内をうろついた後で、屋上に抜けるための階段の踊り場に行く。
屋上は普段は施錠されているし、通じる階段も使用禁止になっているので、誰か来ることもそうないだろう。
使用禁止のところに入り込むということに少し抵抗を感じたものの、所詮は勝手に学校側が決めたルール。
こちらが律義に守ってやる必要などないと絵美は思う。
だから、いつもは高い壁のように感じた立ち入り禁止の柵も、今日は簡単に跨ぎ超えることができた。
ルールなんて意味がない。
守ろうとするかしないかだけなのだ。
昼休みの喧騒から逃れ、静かな踊り場に腰を下ろした絵美は、少しの間仮眠をとることにしてしばし壁にもたれかかってまどろんだ。

「茉莉・・・茉莉・・・茉莉ってば」
「ん・・・あ?」
ゆっくりと目を開ける茉莉。
そこには少し苦笑している唯の顔があった。
「唯?」
「唯じゃないわよ。もう午後の授業始まるよ。もうぐっすり寝ているんだもん。起こすのかわいそうになっちゃうぐらい」
どうやらお昼を食べた後で他愛もないおしゃべりをしていたはずが、いつのまにか寝てしまっていたらしい。
お昼食べた後でどこかで仮眠でもと思っていたので、これはこれでよかったのかもしれない。

「ん?」
茉莉を起こして自分の席に戻っていく唯に礼を言った後、ふと見るといつもの席に絵美がいない。
黒坂さんがいない?
もう授業が始まるというのにどこに行っているのだろう?
そういえば、一度お弁当箱を持って戻ってきたはずだけど、また出て行ったんだっけ・・・
するとそれから戻ってきてないのかな?

「静かにしろー。授業を始めるぞ」
午後の授業の歴史の教師が入ってくる。
絵美が戻ってくる気配はない。
もしかして・・・
心がざわつく。
不安が茉莉を襲う。
黒坂さん一人でいるところをワルピーに狙われたのではないだろうか?
黒坂さん一人でイヴィルシスターズにされようとしているのではないだろうか?
どきんと心臓が跳ね上がる。
そんなのは嫌だ・・・
黒坂さんと別々になるなんて絶対に嫌だ!

「先生!」
手を上げて立ち上がる茉莉。
突然のことに教室がざわめく。
「どうしたね?」
これから黒板に何か書き始めようと思っていた中年の男性教師が振り向いて茉莉を見る。
「お昼ごはんで食あたりを起こしました。トイレに行って保健室行きます」
茉莉は一息にそういうと、教師が何か言う間も与えずに教室を飛び出した。
黒坂さん・・・
黒坂さん・・・
黒坂さん!
茉莉はひたすら絵美のことを案じ、校内を探すのだった。

「う・・・ん・・・えっ?」
気が付くとあたりは真っ暗闇。
そんなに眠りこけてしまったのだろうか?
一瞬そんなことを思ったものの、周囲の闇が濃すぎることに絵美はすぐに気が付く。
「これは・・・」
すぐに立ち上がる絵美。
周囲は漆黒の闇。
屋上に通じる階段の踊り場にいたはずなのに、これはいったい・・・
考えられることはただ一つ。
「ワルピー! あなたなの?」
「ケケケケ・・・目が覚めたかピー?」
闇の中からワルピーの声がする。
「やっぱり・・・私をまたイヴィルエミィにするつもりなのね!」
なんとか鍵穴を作られないように手で胸を隠すようにする絵美。
もっとも、どこまで効果があるかは疑問だが。
「イヴィルシスターズが完全に心が邪悪と闇に染まるまでは何度でも繰り返すピー」
「私のことはもう放っておいて! 私なんかよりデモンオー様にふさわしい人はきっといるはずです。よりふさわしい人を選ぶべきよ!」
「ケケケケ・・・自分が助かるためなら他人を平気で犠牲に差し出そうとする。だんだんと心が邪悪と闇に染まってきたようだピー」
「あっ」
言われて愕然とする絵美。
確かに今のは誰かに役割を押し付けてしまえばいいという考えだ。
「そんな・・・」
自分はもう邪悪と闇に染まってきている・・・
それはもう感じざるを得ない。

「ここもいないかぁ・・・黒坂さんどこに行ったのかな? まさかワルピーに捕らえられちゃったんじゃ・・・」
闇の外から声が聞こえてくる。
それも自分を探す声だ。
「紅倉さん!」
彼女が自分を探しに来てくれた。
それは絵美にとってこの上ない喜びだった。
「ケケケケ・・・ちょうどいい具合にイヴィルマリィも来たピー」
「紅倉さんには手を出さないで! お願い!」
絵美はなんとか茉莉を助けようとワルピーにお願いする。
「そうはいかないピー。お前たちは二人そろってイヴィルシスターズなんだピー。茉莉も必要だピー」
「そんな・・・私はもうどうなってもいいから、紅倉さんだけは放っておいてあげて! お願い!」
「ダメだピー! 彼女も今連れてくるピー!」
闇の中のワルピーの気配が遠ざかろうとしている。
「ダメ! 紅倉さん! 逃げてぇ!」
必死で叫ぶ絵美。

「あれぇ? 黒坂さんの声? 黒坂さん、どこ?」
闇の向こうから茉莉の声が伝わってくる。
ワルピーがわざと流しているのか、それとももともと伝わるようになっているのかはわからないが、どうやらこちらの声も聞こえるらしい。
「ケケケケ・・・」
「あっ、ワルピー! やっぱりあんたが黒坂さんを?」
「ケケケケ・・・そうだピー。彼女はこの闇の中にいるピー」
「紅倉さん! 逃げてぇ! 私のことは放っておいていいから!」
声を限りに叫ぶ絵美。
「黒坂さん、待ってて、今行くから!」
ドクンと心臓が強く鼓動する。
来るつもりなのだ。
彼女は私のために来るつもりなのだ。
こんなことを思ったらいけないのかもしれないけど・・・
なんて嬉しいんだろう・・・

「ケケケケ・・・彼女に会いたいかピー?」
「会いたいさ! 会いたいにきまってる!」
「闇の中に入ることになってもかピー?」
「うん!」
「二人でまたイヴィルシスターズにされてしまうかもしれなくてもかピー?」
「それは・・・・・・黒坂さんと一緒ならそれでもいい!」
「よく言ったピー。くるといいピー」
「ええ!」
茉莉とワルピーの会話はそこで途切れる。
やがて闇の中から茉莉がゆっくりと姿を現した。

「紅倉さん!」
絵美は思わず駆け寄る。
「お待たせ、黒坂さん。休み時間が終わっても戻ってこないから心配したよ」
にこやかな笑顔の茉莉。
「バカ! バカよあなたは! 私のことなんか放っておけば・・・あなただけでも逃げてくれてよかったのに・・・」
絵美の目から涙が落ちる。
来てくれたのがうれしいのに、涙が出て仕方がないのだ。
「放っておけるわけないでしょ。大事な人なんだから」
「紅倉さん・・・バカ・・・大バカ・・・」
思わず茉莉の胸にすがって泣き崩れてしまう絵美。
「ひどいなぁ。そりゃ私はテストはいつも赤点寸前だけどさぁ」
そんな絵美を抱き寄せるようにして支える茉莉。
「今度・・・今度一緒に勉強しましょう」
少し落ち着いたのか、眼鏡をはずして涙をふく絵美。
「うん。ぜひ」
茉莉も大きくうなずいた。

「ケケケケ・・・二人そろったところでイヴィルシスターズに変身してもらうピー」
ワルピーが二本のイヴィルキーを取り出す。
「いい加減にして! 私たちのことはもう放っておいてよ! 黒坂さん泣いちゃったじゃない!」
茉莉が絵美を抱えたままワルピーの方を向いてにらみつける。
もうこんなことは終わりにしたいのだ。
「もうお願いだから私たちには構わないで!」
絵美も茉莉の胸に寄り添いながらワルピーにお願いする。
「うるさいんだピー! とっととイヴィルシスターズになるピー! イヴィルキーよ、二人を邪悪と闇に染めるんだピー!」
だが問答無用とばかりにワルピーが命じると、イヴィルキーの発する黒い筋が二人の胸の鍵穴を作り出す。
「ああっ!」
「いやぁっ!」
悲鳴を上げる二人の胸にイヴィルキーが差し込まれる。
「オープンロックだピー!」
イヴィルキーが回転し、カチッと音がして二人の胸に黒い円形の穴が開く。
「ダークネスインだピー!」
「いやぁぁぁぁ!」
「やめてぇぇぇぇ!」
二人の足元から闇が湧き起こり胸の穴へと吸い込まれ、同時に二人の躰を包んでいく。
やがて闇の中から、赤と黒の少女たちが現れた。

「赤の邪悪! イヴィルマリィ!」
「黒の邪悪! イヴィルエミィ!」
「「ふたりはイヴィルシスターズ!」」
「世界を邪悪に染めるため!」
「デモンオー様の目障りなものは!」
「「私たちが排除します!」」
いつものようにお互いのセリフを口にして、背中合わせにファイティングポーズをとる二人の魔女。
そしてやや自嘲気味に苦笑する。
「あーあ・・・やっぱりこうなっちゃったかぁ・・・」
ポーズをやめ、自分の姿を見下ろすイヴィルマリィ。
「そうね・・・でも、その恰好がとってもよく似合っているわよ、イヴィルマリィ」
イヴィルエミィがやさしく微笑む。
「ホント? ありがと。実は昨日も言ったけど結構気に入ってるの。お兄ちゃんの本で見てから、ボンデージってかっこいいなぁ、着てみたいなぁってずっと思っていたんだ」
あらためて足を動かしてブーツの確認をしたり、手をかざして長手袋の感触を確かめるイヴィルマリィ。
確かに結構気に入っているようだ。
「このヒールなんかでさ、今にも死にそうなやつとかを踏みつけてやったらさ、きっとヒィヒィ言って悲鳴を上げるよ。楽しそうだと思わない?」
「あっ、確かに。すっごく楽しそう」
思わずイヴィルエミィも自分のブーツのヒールを見てみる。
先端が細いピンヒール状になってて、踏まれたら確かに相当痛そうだ。
これは誰かを踏んでみなくてはと思う。

「で、ワルピー。今日は何をすればデモンオー様が喜んでくださるの?」
「ええ。早くデモンオー様の目障りなものを排除したいわ」
まるでこれからピクニックにでも出かけるような楽しそうな二人。
「それでいいピー。ついてくるピー」
二人はその言葉に従ってワルピーの後についていく。
ほどなくこの街の警察署の上空に黒い闇の球体が現れた。
「警察署?」
「ああ、確かに目障りだし、デモンオー様の支配する邪悪と闇の世界には必要ないよね」
イヴィルシスターズの二人の口元に邪悪な笑みが浮かぶ。
「デモンオー様の目障りなものは排除しなくちゃね」
「うん。デモンオー様の目障りなものは排除しなくちゃ」
「行きましょ、イヴィルマリィ」
「うん、行こう。イヴィルエミィ」
二人は手を取り合って闇の中から飛び出していく。
赤と黒の暴風が吹き荒れ、警察署は倒壊した。

                   ******

二人が気が付いた時、そこは誰もいない放課後の教室だった。
おそらく担任の鷹紀由華が適当なことを言って二人が午後いなかったことをごまかしたのだろう。
「終わった・・・ね」
「うん・・・」
「帰ろうか・・・」
「うん・・・」
二人はそれ以上言葉を交わすこともなく、何となく黙り込んだまま帰り支度を始める。
茉莉のスマホには唯や希美からのLINEが着信していたが、今は返信をする気にもなれず、既読スルーである。

鞄を持った二人はそのまま無言で玄関を出る。
そのままトボトボといつもの帰り道を歩いていく二人。
遠くで消防車や救急車のサイレンが鳴っている。
それを聞いていると、余計に二人は何も話せない。
「黒坂・・・さん・・・」
「えっ? 何?」
まさか話しかけられるとは思わなかったのか、ちょっと驚いたような表情で絵美が茉莉を見る。
「ドーナツは・・・食べていかないよね、やっぱり・・・」
「・・・・・・うん・・・・・・」
一瞬立ち止まった二人だったが、やはり無言で歩き出す。

「それじゃ、私はこっちだから」
ついに家の近所まで来てしまい、茉莉は絵美との分かれ道に到達してしまう。
「うん・・・さよなら・・・」
何か目を合わせないようにして別れの挨拶をする絵美。
「さよなら・・・またね」
別れがたいものを感じてはいたが、茉莉はぐっと我慢して手を振る。
「うん・・・またね・・・」
絵美がまたねと言ってくれたことに、茉莉は心底ホッとした。

                   ******

寝苦しい。
あれから結局ほとんど誰とも話していない。
唯や希美からのLINEもずっと既読スルーしているせいか、心配メッセージがてんこ盛りになっているが、それがかえって煩わしい。
晩御飯もあんまり食べなかったし、両親や兄とも話したくなくて避けるように自分の部屋にこもっていた。
怖かったのだ。
茉莉は怖かった。
自分がやってしまったことにではない。
それが心底から楽しかったからだ。
破壊が楽しく、人々が傷つくのが面白く、デモンオー様の目障りなものが消えていくのが嬉しかった。
それを自覚した時、茉莉は怖かったのだった。

黒坂さんはどうだったんだろう・・・
黒坂さんも楽しかったんだろうか・・・
黒坂さんもデモンオー様のために働けて嬉しかったんだろうか・・・
デモンオー様のために・・・
デモンオー様のために・・・
デモンオー様のために・・・

「ダメだぁ」
布団を蹴飛ばす茉莉。
目が冴えてどうしようもない。
夜眠るなんてどうかしている。
この闇の世界を楽しまなくてどうするのか。

茉莉は服を着替えてそっと外に出る。
両親に見つかると面倒だし、部屋に連れ戻されちゃうかもしれない。
そんなのはごめんだった。
そうだ・・・
昨夜の公園に行ってみよう。
今晩も黒坂さんが来ているかもしれない。
茉莉はそう思い、公園に向かって夜の道を歩いて行った。

絵美に会えるかもと思ってうきうきした気分で公園に来た茉莉だったが、残念ながら公園に絵美はいなかった。
「いない・・・そうか・・・こんな時間だもんね・・・」
がっかりしてブランコに腰を下ろす茉莉。
なんだか無性に絵美に会いたい。
でも、今隣に絵美はいない。
それがすごく悲しい。
「黒坂さん・・・会いたいよ・・・黒坂さん・・・」
会って何を話すというのでもない。
たぶんまた帰り道みたいに何も話せないかもしれない。
でも・・・
でも・・・
そばに彼女にいてほしい・・・
ずっとそばにいてほしい・・・
茉莉はそう思う。

「こんばんは」
突然聞き覚えのある声がして茉莉は驚いて顔を上げる。
そこには眼鏡をかけた顔に笑顔を浮かべた絵美が立っていた。
「黒坂さん・・・」
「隣・・・いい?」
「もちろん」
茉莉は大きくうなずく。
来てくれた。
絵美が来てくれたのだ。
それがすごく嬉しかった。

二人はしばらく無言でブランコを揺らす。
お互いに何か言いたいのだが、言葉が出てこない。
「また・・・やっちゃったね・・・」
さんざん何を言おうか迷った挙句、出てきた言葉はこれだった。
「うん・・・」
絵美もそれだけしか言わない。
「どうしたらいいのかなぁ・・・」
「うん・・・」
そこでまた会話が途切れてしまう。

「あ、あの・・・」
「あのさ・・・」
何か言おうとした瞬間に言葉がかぶってしまう二人。
「あ・・・」
「え・・・えーと・・・紅倉さんからどうぞ」
「あ、いや・・・黒坂さんから」
今度はお互いに譲り合ってしまう。
「うん・・・それじゃ・・・」
そう言ったものの、なかなか次の言葉が出てこない絵美。
茉莉もなんだか息を殺して絵美を見てしまう。

「あの・・・ね・・・」
「うん・・・」
「私・・・もうダメかもしれないの・・・」
「えっ?」
それは予想外の言葉だった。
ダメって?
ダメっていったい何がダメなんだろう・・・
「黒坂さん・・・」
「私ね・・・たぶんもうダメ。もう心が邪悪と闇に染まってしまったんだと思う・・・」
うつむいて話をつづける絵美。
その表情はなんだか自嘲とも吹っ切ったともいえるような笑みが浮かんでいる。
「黒坂さん・・・」
「私ね・・・今日すごく楽しかったの・・・」
「えっ?」
「すごく楽しかったの・・・警察署が壊れるのがすごく楽しかった。警察の人々が怪我したり瓦礫の下敷きになったりするのが見てて楽しかった。その人たちの悲鳴を聞くのが楽しかった。そしてね・・・」
「うん・・・」
「デモンオー様の目障りなものが消えてなくなることがとても嬉しかったの。デモンオー様のお役に立てたんだって思えてすごく・・・嬉しかった・・・」
「黒坂さん・・・」
茉莉はそれ以上の言葉が出なかった。

「だからね。私はもうダメなの。私はもうデモンオー様のことが頭から離れないの。デモンオー様はどんなお姿なんだろう。デモンオー様はどんなお声をしているんだろう。デモンオー様の前で跪いたらどんな気持ちになれるだろう。デモンオー様にイヴィルエミィって呼んでもらえたらどんなに嬉しいだろうって・・・そればかり考えているの」
「それって・・・」
「私はもうダメ・・・だから紅倉さん。私にはもうかかわらない方がいいと思うの。私はデモンオー様のしもべになるしかないと思う。でも、紅倉さんはなんとかイヴィルシスターズから外してもらえるようにお願いしてみるから・・・私だけで・・・」
うつむいて茉莉の方を見ようとしない絵美。
本当は一人は嫌だったのだ。
でも・・・大事な人だから巻き込みたくはない。

「黒坂さん・・・ダメだよ。それはダメだって」
茉莉が静かに首を振る。
「えっ?」
思わず顔を上げる絵美。
「私も・・・私ももうダメなんだもん。私も同じだよ。今日はすごく楽しかった。警察署を破壊してすごく楽しかったんだ。でも、それっていけないことだと思って何も言えなかった。帰り、ほとんど話をしなかったのは、それを黒坂さんに知られたくなかったから。ドーナツのことも最初から断られるのを承知で誘ったの」
「紅倉さん・・・あなたも?」
「でももういい。黒坂さんも私と同じだと知ったから。この世界のことなんてもうどうでもいい。二人なら何も怖くない!」
茉莉の表情が明るくなる。
同じだった。
絵美も同じだったのだ。
ならばもう二人でデモンオー様にお仕えしよう。
世界など作り変えてしまえばいい。

「ずっとこの世界が邪悪と闇に包まれるなんていけないことだって思っていた。でも、私たちがしなくても、いつか誰かがこの世界を壊しちゃうと思う。それならいっそ、デモンオー様にこの世界を支配してもらった方がいいと思わない?」
「ええ・・・そう思うわ。デモンオー様にこの世界を支配してもらうの。その方がずっといい」
「二人でこの世界をデモンオー様にささげるの。私たちなら・・・イヴィルシスターズならそれができると思う」
「ええ、私もそう思うわ、紅倉さん」
茉莉は苦笑する。
いったいいつまで私たちはお互いを名字で呼び合っているのだろう。
「それ、もうやめにしようよ。私のことは茉莉でいいよ」
「あっ・・・それじゃ私のことも絵美と」
「うん、絵美」
「ええ、茉莉」
お互いの名を呼び合う二人。
その目が自然と見つめ合う。
「二人でデモンオー様のために」
「ええ、デモンオー様のために」
「「この世界をデモンオー様のものに!」」
「あはははは」
「うふふふふ」
二人の少女の楽しそうな笑い声が深夜の公園に響き渡った。

                   ******

  1. 2018/11/17(土) 20:00:00|
  2. ふたりはイヴィルシスターズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3
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コメント

もう自然にデモンオー様の事や支配後の世界に思いを馳せてしまい、それに違和感を抱かない所まで来てしまいましたね(*゚∀゚)=3
昨日のコメントにも言いましたが今回は「一緒に堕ちていく」という歪んだ絆の表現が素晴らしいです(*・∀・*)

明日も楽しみにしております!(≧▽≦)
  1. 2018/11/17(土) 20:42:34 |
  2. URL |
  3. IMK #-
  4. [ 編集]

遂に心も屈しちゃいましたね、しゃあッ!(酷
心境が交互に描かれることで変化がより分かり易いです。
皮肉なことに2人の絆が深まるほど堕ちていくわけで
1人ならこんな簡単じゃなかったかもしれませんねー。
自然に他人犠牲にしようとする絵美の描写が好き。
これで偉大なるデモンオー様に会えたら完全ですなぁ。
  1. 2018/11/18(日) 16:27:56 |
  2. URL |
  3. くろにゃん #rC5TICeA
  4. [ 編集]

コメントありがとうございます

>>IMK様
今作ではほんと二人を書くのが楽しかったです。
やはり一緒に堕ちてほしいですからねー。

>>くろにゃん様
絵美も茉莉もお互いを思う心が堕ちにつながるという悲劇なんですよねー。
結末をお楽しみにー。(*´ω`)
  1. 2018/11/18(日) 18:53:04 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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