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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ふたりはイヴィルシスターズ (1)

昨日予告しました通り、今日からSSを投下いたします。

はい。
もうね、タイトルを一見しても本文を一読していただきましてもすぐにおわかりになります通り、先日来舞方がはまっておりますあの某黒と白のプリティでキュアキュアなお二人のお話に影響を受けて書いたSSです。
すでにリスペクトとかオマージュという域を超えてパロディになってしまっているかもしれません。
ですので、登場する二人のキャラ、紅倉茉莉(べにくら まり)と黒坂絵美(くろさか えみ)もどうしてもあの二人をイメージされてしまうと思いますし、作者自身そういう面がなきにしもであることは否定しませんが、あくまで別キャラと思っていただけましたら幸いです。

今日から四日間、この茉莉と絵美の二人が邪悪と闇に染まるまでの四日間をリアルでも四日間かけて投下しようと思います。
今日はその初日です。
長さとしては一番長くなりましたが、よろしければお楽しみいただければと思います。

それではどうぞ。


ふたりはイヴィルシスターズ

闇・・・
漆黒の闇・・・
何も見えず何も聞こえない。
目を開けているのか瞑っているのかもわからなくなるほどの闇。
だが・・・

「ウーム・・・ここがいい」
その奥から声が発せられる。
聞く者の腹に響き渡りそうな重々しい声。
そして、聞く者に何か恐怖心を感じさせるような声だ。

「ワルピー! ワルピーはおるか?」
その声が闇の中に声をかける。
すぐに闇の一部が動いたような気配がし、闇の中に一つの実体が現れる。
「ハッ、ここにおりますピー!」
ポフンという感じで実体化した闇は、黒くもこもこした小悪魔の姿をしていた。
毛むくじゃらの小型犬ぐらいの大きさをして、背中には蝙蝠のような羽をもち、尻尾の先が矢じりのようにとがっている。
「ワルピーよ。この世界が気に入った。余はこの世界が欲しい。この世界を手に入れてくるのだ」
闇の中にボウっと浮かび上がる青い球体。
それは宇宙空間から見た地球の姿。
闇の声はこの世界を手に入れよと命じているのだ。

「は、はっ! かしこまりましたピー。な、なれど、前の戦いで我らの手勢はすべて失われ、ご自身もほとんどのお力を失われたと。このワルピー一人ではいささか手に余りまするピー」
無理難題を押し付けられたかとやや困った声を出す小悪魔。
「案ずるな。これを授ける」
闇の声とともに、小悪魔の前に黒い鍵が現れる。
「これは?」
「この鍵はイヴィルキー。この鍵を使って忌々しい“正しい心と力を持つ者”の心をこじ開け、漆黒の闇を流し込むのだ。そうすれば、その者の心と力は邪悪と闇に染まり、わが忠実なる手駒となるであろう」
その言葉に応えるかのように、黒い鍵が鈍く輝く。
「このようなものが。これを使って闇のしもべを作り出し、そのしもべを使ってあの世界を支配するのですねピー?」
「その通りだ」
「かしこまりましたピー」
黒い鍵を尻尾で巻き付けて引き寄せる小悪魔。
心なしかその鍵を持つだけで力が湧いてくるような気がしてくる。

「それでは行ってまいりますピー」
「うむ。余も間もなく力を回復できよう。その祝いにあの世界を余に差し出すのだ」
「お任せくださいピー、デモンオー様」
鍵を手にした小悪魔は闇に向かって一礼すると、そのまま姿を闇の中へと消していった。

                   ******

「うーん・・・今日もいい天気ー。学校行くのなんてもったいないなぁ・・・あーあ・・・」
学校への道を歩きながら、思わずため息をついてしまう少女。
焦げ茶色のショートヘアが春の風に揺れている。
気候のいい今時期、教室で授業を受けているなんてつらすぎると思うのだ。
せめて校庭の木陰ででも授業してくれれば・・・
そんなことを思いながら、少女は重い足取りで学校へと向かっていく。
周囲には彼女と同じように学校へ向かう生徒たち。
皆同じ制服を着て同じ方向を向いている。
また今日も一日学校生活が始まるのだ。
もちろん友人としゃべったり遊んだりするのは大好きなので、学校に行くのは嫌いではないのだが・・・
「あーあ、授業さえなければなぁ・・・」
と、どうしても思ってしまうのが、この少女だった。

「キャッ!」
「わっ!」
突然前につんのめりそうになる少女。
歩く先にしゃがんでいた女子生徒がいたことに気が付かなかったため、そのままぶつかるような形になってしまったのだ。
幸い彼女のほうは転ばずに済んだのだが、背後から押すようになってしまったため、しゃがんでいた女子生徒のほうは前に転んでしまう。

「ご、ごめんごめん。大丈夫?」
慌てて手を差し出し、転んだ女子生徒を助け起こす。
「あ、はい、大丈夫です。こちらこそスマホを取り出したときに財布が落ちちゃって、それを拾おうとしゃがんでいたから」
助け起こされた女子生徒がにこやかに笑顔を見せる。
栗色のやや長めの髪をして、くりくりしたかわいい目に眼鏡をかけている、どちらかというとおとなしそうな少女だ。
「あ、同じクラスの? 黒坂(くろさか)さんだっけ?」
少女は助け起こした女子生徒に見覚えがあることに気が付いた。
「はい。黒坂です。あなたは紅倉(べにくら)さんでしたよね?」
「うん。紅倉茉莉(まり)。ごめんねホント。今日も授業やだなーって考えて歩いていたものだから気が付かなくて」
思わず頭をかく茉莉。
焦げ茶色のショートの髪がスポーティな雰囲気を出している。
「あ、その気持ちわかります。こんないい天気じゃ授業なんてやってられないって感じですよね」
「でしょでしょ。やってらんないよね。あ、遅れちゃう。行こう行こう」
「はい」
始業時間に遅れそうになり、少し小走りで学校に向かう二人の少女。
それを校舎の屋上から眺めている姿があった。

「むぅ・・・ここからこの街の様子を確認しようと思ったけど、まさかこんな早々に“正しい心と力を持つ者”が見つかるとは。しかも二人とも女の子だピー。あんな少女が“正しい心と力を持つ者”とはピー」
黒い毛の塊のようなものに蝙蝠の羽と矢じりのような先端の尻尾を持つ小悪魔が、女性教師の肩に乗っている。
今しがた校舎に入っていった二人の少女たち。
その少女たちが“正しい心と力を持つ者”であることを、小悪魔ははっきりと感じ取ったのだ。
「あの娘たちはお前の知っている娘たちかピー?」
「はい・・・私のクラスの子たちです・・・」
やや生気のない声で返事をする女性教師。
若く美人だが、その目はぼんやりとうつろだった。
「それはちょうどよかったピー。あとはあの娘たちにこの鍵を使うだけだピー」
黄色い目を輝かせ、ニヤッと笑みを浮かべる小悪魔。
やがて小悪魔は姿を消し、うつろなまなざしの女性教師は校舎の中へと消えていった。

「起立! 礼!」
一日の授業が終わり、終業のホームルームも終えて、教室内にはホッとした空気が流れていく。
「終わったー」
思わずそう口にしてしまう茉莉。
やっと授業が終わり、これから楽しい放課後である。
すでに今日の予定は昼休みの間に決まっていた。
「唯(ゆい)、希美(のぞみ)、したくできたら行くよー」
「うん!」
「ええ!」
茉莉の声に二人の少女たちが返事をする。
これから三人でお茶をしに行くのだ。
そのあとは流れでカラオケというのもあるかもしれない。
そう思うと茉莉の心は浮き立ってくる。

「あ、言い忘れてたわ。黒坂絵美(えみ)さん、紅倉茉莉さん、二人とも放課後ちょっと残ってちょうだい。やってほしいことがあるから」
その時教室の扉が開き、ホームルームを終えて出て行ったはずの担任の鷹紀由華(たかのり ゆか)が戻ってきて声をかける。
「あ・・・は、はい」
鞄の中身を確認し帰り支度をしていた絵美が、驚いたように顔を上げる。
「え、ええええ?」
一方の茉莉は突然のことに思わずそう声を上げていた。

「あ、あの、先生。今日は私用事があって・・・明日とかじゃいけません?」
すでに予定を入れていた茉莉が、何とかならないかお願いしてみる。
「ダメです。あなたたち二人にやってほしいことがあるの。残りなさい。いいわね」
いつになくきつい声で言い放つ由華。
だが、その目はどこかうつろで遠くを見ているような感じもする。
「は、はぁい・・・とほほ・・・」
がっくりと机に突っ伏してしまう茉莉。
「あちゃー、災難だったね、茉莉」
「先に行って待っているから、終わったら来てね」
茉莉に声をかけられていた二人が、今度は逆に茉莉にそう声をかけて手を振って去っていく。
「うー、なんで私がぁ・・・」
手を振りながらうらやましそうに二人を目で追うが、残れと言われたものは仕方がない。
さっさと先生の用事とやらを済ませて帰るしかない。
「しょうがないなぁ・・・」
ぶつくさ言いながら席を立つ茉莉を見て、思わず絵美は顔がほころんでいた。

校舎のはずれにあるほとんど使われていない倉庫の前に二人は立っている。
「なんでぇ? なんでこんな使っていない倉庫の中の片付けを、私と黒坂さんの二人でやらないといけないのぉ? 私何か悪いことしたかなぁ? あっ、もしかして、今朝黒坂さんを突き飛ばしちゃったから?」
目の前にある重々しい倉庫の扉を前に、がっくりと肩を落とした茉莉が自分に何か落ち度があったのかと自問自答している。
「いや、それなら突き飛ばされた私も一緒というのはおかしいと思うから違うんじゃないかな?」
もうさっきからこの調子でぶつくさと文句を言っている茉莉が、絵美は面白く感じて仕方がない。
紅倉さんってこんなに表情豊かで面白い人だったんだ・・・
と、絵美は思う。
二年生になってクラス替えがあってまだ日が浅く、クラスの半分ぐらいの人とはまだよくわかりあえていない。
だから、普段元気いっぱいで活動的に見える茉莉が、こうしょげかえっているのは新鮮で、言葉は悪いが面白く感じていたのだ。

「そっかぁ・・・そうだよねぇ。でも今朝はホントごめんね」
「ううん、もういいですから。あれは私も突然しゃがみこんだのがいけなかったし。おかげでこうして紅倉さんとお話しできるようになったし」
笑顔を見せて茉莉を安心させる絵美。
「あ、そういえば私も黒坂さんとこうやってお話しするのは初めてだ。よろしくね」
同じクラスとは言えども、タイプの違う絵美に対しどことなく遠いものを感じていた茉莉だったが、今朝の一件でなんだか一気に距離が縮まったような感じがする。
「こちらこそよろしく、紅倉さん」
絵美もぺこりと頭を下げる。
お互いクラスメイトではあるものの、なんだか初対面同士の挨拶のようだ。

「と、とにかく早く済ませてしまいましょう。紅倉さんは棚本(たなもと)さんと与瀬場(よせば)さんを待たせているんでしょ?」
なんだか倉庫の前で頭を下げあっていることに気恥しくなった絵美が扉に向かう。
「あっ、そうだった。早くしなくちゃ」
茉莉もポケットから担任に預かった倉庫の鍵を取り出し、扉の鍵穴に差し込んで鍵を開ける。
重たい扉を二人でこじ開けて中に入ると、埃臭い空気のにおいが広がった。

二人が入り込んだ倉庫の中は真っ暗だった。
「暗いね、電気電気」
茉莉が扉の横にある照明のスイッチをオンにする。
だが、倉庫の中は闇のままだ。
「あれ? おかしいね。故障かな?」
茉莉が何回もスイッチを入り切りしてみるが、照明が灯る気配はない。
「ダメだぁ。電気点かないや」
「おかしいわ・・・」
つぶやくように言う絵美の言葉に茉莉が振り向く。
見ると、暗い中でもわかるぐらいに絵美の顔が青ざめていた。
「黒坂さん?」
「おかしいわ」
「うん。どっか故障しているんだと思う。この暗さじゃ片付けは無理だね」
「ううん・・・そうじゃないの。いくら倉庫の中でも、扉が開いているのに外からの光が全く入らないなんてことがあると思う?」
「えっ?」
茉莉も気が付く。
確かに倉庫の中は薄暗いどころか、漆黒の闇なのだ。
いくらなんでも確かにおかしい。

「いったん出よう」
「ええ」
状況のおかしさに気が付いた二人が入り口から出ようとした瞬間、倉庫の扉が音を立てて勢い良く閉まる。
「わぁっ!」
「きゃあっ!」
はじかれるようにして尻餅をついてしまう二人。
「あいたたた」
「だ、大丈夫?」
茉莉に声をかけつつ自分もお尻をさすりながら立ち上がる絵美。
「うん、大丈夫。それにしてもいったい?」
茉莉も立ち上がって、倉庫の扉を開けに行く。
「あ、あれ? 開かない」
「う・・・ほ、ほんと・・・開かない」
両開きの扉の逆側を開けようとする絵美。
だが、二人がどう力を込めても、倉庫の扉はびくともしない。

「だ、ダメだぁ、おーい! 誰かぁ! 開けてぇ!」
「どなたかいませんかぁ! 出られなくなっちゃったんですぅ!」
ドンドンと扉をたたいて声を上げる二人。
だが、もともと校舎のはずれにある倉庫なので、めったに人も通らない。
外から開けてもらえる様子はなかった。
「こうなったら・・・」
茉莉が持ってきていたスマホを取り出す。
「これで誰かに連絡を・・・って、電波来てない? ウソ・・・」
「私のもだわ」
絵美も自分のスマホを確認するが、電波が届いてないことがわかる。
「スマホもダメなんてどうしよう・・・」
がっくりと肩を落とす茉莉。
「誰かぁー! お願いです。ここから出してください。閉じ込められちゃったんですー」
絵美がもう一度扉をたたいて外に向かって呼びかけるが、外からの返事はなかった。

「無駄だピー。ここはすでに閉ざされたピー。もうお前たちは外には出られないピー」
倉庫の奥の闇の中から声がして、黄色く輝く二つの目が二人を見つめてくる。
「な、何?」
「な、何なの?」
二人が驚いていると、黄色い目が近づいてきて、闇の中だというのに姿が見えるようになってくる。
それは黒い毛でできた毛玉のようなものに、蝙蝠のような羽と先端が矢じりのようになった尻尾を持つもこもこした物体で、それが闇の中で浮いているのだった。
「ぬ、ぬいぐるみ? ぬいぐるみがしゃべっている?」
思わず茉莉がそう言ってしまうのも無理はなく、外見だけで言えばぬいぐるみに見えないこともない。

「ぬいぐるみじゃないピー。われは邪悪と闇の世界をつかさどるデモンオー様にお仕えする使い魔で、ワルピーという名があるピー!」
もこもこしたぬいぐるみのような小悪魔が自分の名を告げる。
「柿ピー?」
「ちょ、ちょっと」
茉莉の返しに思わず苦笑する絵美。
こんな状況なのによくそんな返しができるものだと思うのだが、おかげで恐怖心がいくらか和らいだのも事実だ。
「柿ピーじゃないピー! ワルピーだピー!」
どうやら名前を間違えられて怒っているようではあるが、外見がぬいぐるみのようなので、あんまり凄みは感じない。
「そ、そのワルピーさんが私たちを閉じ込めてどうしようというのですか?」
「わ、私たちなんか食べてもおいしくないんだからね!」
キッとワルピーをにらみつける茉莉。
食われるにしたってただで食われるつもりはないのは明らかだ。

「食べないピー! われはお前たちをデモンオー様のしもべにするべくこの世界に来たんだピー!」
「デモンオー様のしもべ?」
「デモンオー様のしもべに?」
思わず茉莉と絵美の言葉が重なる。
「な、何よそれ! デモンオーだか海賊王だか知らないけど、そんなののしもべになるなんて願い下げだわ!」
「私もです! 邪悪と闇の世界の王のしもべなんて冗談じゃないわ!」
茉莉も絵美も強い口調で否定し、首を振る。
邪悪と闇の王のしもべなんて、考えただけでもぞっとすると二人は思うのだ。

「やかましいピー! お前たちをそのままにしておくわけにはいかないんだピー! お前たちはあの忌々しい“正しい心と力を持つ者”なのだピー! いずれお前たちは覚醒し、その力でデモンオー様の目障りな存在になるんだピー!」
「“正しい心と力を持つ者”?」
「それが私たちだっていうの?」
思わず顔を見合わせる茉莉と絵美。
自分たちが“正しい心と力を持つ者”だなんて思ったこともなかったのだ。

「な、何か間違ってませんか? 私、別に“正しい心と力を持つ者”なんかじゃないと思いますけど」
「そ、そうだよ。私なんてお母さんにお手伝いしろって言われても、宿題があるからってごまかしてしなかったりとか、お兄ちゃんとしょっちゅうケンカしてはお母さんに怒られたりとかしてるし・・・」
「あ・・・そうなんだ」
茉莉が自分は違うという否定の根拠として上げたことに、なんだか笑いがこみあげてくる絵美。
知り合ったばかりといえるような状況だったが、何となく紅倉さんらしいと思ってしまう絵美だった。

「間違いじゃないピー! われにもお前たちの力を感じるピー。お前たちはそのまま放っておけば、きっと手ごわい相手になるピー。だから今のうちに心を邪悪と闇に染めてしまうんだピー!」
「心を邪悪と闇に?」
「そ、そんな・・・いやです! そんなのいや!」
「私だっていやだ! 冗談じゃない! ふざけるな!」
絵美は思い切り首を振り、茉莉はさらに強くワルピーをにらみつける。
「お前たちの意志など関係ないピー! それに心が邪悪と闇に染まれば、お前たちは喜んでデモンオー様のために働くようになるんだピー!」
もこもこの小悪魔が赤い口にニィッと笑みを浮かべる。

「ふっざけるなぁっ!」
「あっ、紅倉さん!」
絵美が止めようと呼びかけるのも構わず、ワルピーにつかみかかっていく茉莉。
おそらく家ではいつも兄と言い合いになったりしたときには、こうして手が出てしまうのだろう。
だが、その突進をひょいとかわして、茉莉の手の届かない高さに浮かび上がるワルピー。
「このぉ! 好き勝手なことばかり言って! 降りてきなさいよ!」
「いやだピー! 今からこれでお前たちの心を邪悪と闇に染めてやるんだピー!」
そう言ってワルピーは尻尾を使ってデモンオーにもらった黒い鍵を取り出す。
「えっ?」
「何? 鍵?」
突然現れた黒い鍵に戸惑う二人。
だが、ワルピーは構わず黒い鍵を宙に浮かせる。
「イヴィルキーよ! この二人の“正しい心と力を持つ者”の心をこじ開け、邪悪と闇を注ぎ込むんだピー!」
ワルピーの呼びかけに応えるように、黒い鍵から二筋の闇の筋が二人の胸へとのびていく。
「えっ?」
「きゃぁっ!」
闇の筋は二人の胸に届くと、そこに黒い鍵穴を作り出す。
「な、なんなの?」
「ええ?」
自分の胸に現れた黒い鍵穴に驚く二人。
そして、その鍵穴に呼応するかのように、黒い鍵も二つに分裂したかと思うと、そのまますうっと二人の胸の鍵穴にそれぞれがはまり込んだ。

「オープンロックだピー!」
ワルピーがそう叫ぶと、二人の胸に差し込まれた黒い鍵がくるりと回転する。
そしてカチッという音とともに、二人の胸に黒く丸い穴が開く。
「ダークネスインだピー!」
突然轟音とともに二人の足元から黒い闇が湧き起こり、胸の穴へと吸い込まれていく。
「うわああああ!」
「きゃああああ!」
闇が入り込んでくる衝撃に思わず悲鳴を上げてしまう茉莉と絵美。
それと同時に、穴に入りきらない闇が二人の躰を包み込み、黒い球体へと化していく。
「ケケケケ・・・さあ、闇に包まれて生まれ変わるのだピー」
二人の姿が闇に包まれて見えなくなったのを確認し、満足そうにそうつぶやくワルピー。

やがて闇の球体がしぼみ始め、二人の姿が現れる。
一人は赤い衣装を、そしてもう一人は黒い衣装を身に着けていた。
「赤の邪悪! イヴィルマリィ!」
「黒の邪悪! イヴィルエミィ!」
「「ふたりはイヴィルシスターズ!」」
「世界を邪悪と闇に染めるため!」
「デモンオー様の目障りなものは!」
「「私たちが排除します!」」
二人は声を合わせて名乗りを上げ、ぐっとこぶしを握り締めてファイティングポーズのような姿勢をとる。
それは先ほどまでとは全く違った茉莉と絵美の姿だった。

「えええええ? 何これ何これ? 私何を言ってるの?」
「きゃあああ、な、なんなんですか? なんで私こんな格好を?」
ふとわれに返り、思わず今の自分の姿に驚いてしまう二人。
それも無理はない。
今の二人は学校の制服姿ではない。
首から下はノースリーブタイプのエナメルのようなつややかなボンデージレオタードで包まれ、二の腕から先を長手袋で覆い、太ももから下は膝上まで覆うロングブーツを履いている。
二人とも同じデザインの衣装ではあるが、イヴィルマリィのほうは赤、イヴィルエミィのほうは黒だった。
そして髪の色もそれに合わせて変化しており、焦げ茶色だった茉莉の髪は燃え立つような赤いショートに、栗色だった絵美の髪はカラスの濡れ羽のような漆黒のロングに染まっている。
さらにその髪を押さえるようにカチューシャが付けられていて、こちらは衣装とは逆にイヴィルマリィが黒、イヴィルエミィが赤だった。
ふたりに共通なのは冷たさを持ちやや吊り上がった目に付けられた黒のアイシャドウと、唇に真っ赤に塗られた口紅のみ。
イヴィルエミィは絵美の時にはかけていた眼鏡も消えていた。

「これはとても素敵だピー。まさに邪悪と闇の魔女にふさわしい姿だピー。デモンオー様もきっとお喜びになるに違いないピー」
闇の中から現れた二人の魔女の姿にワルピーは満足する。
「そ、そうかなぁ? 魔女というよりもこれってSMの女王様みたいだよぉ」
「えすえむのじょおうさまって?」
自分の姿を見下ろしてついつぶやいてしまったイヴィルマリィに、イヴィルエミィが問いかける。
「あ、その・・・えと・・・男の人をいじめて喜ばせる職業の女性・・・かな?」
「ふーん・・・イヴィルマリィったらよく知ってるのね」
「え? あ・・・いや、お兄ちゃんだから。お兄ちゃんの持っていた本に出てただけだから。お兄ちゃんの本で知っただけだから!」
慌てて首をぶんぶんと振るイヴィルマリィ。
「うふふ・・・そんな慌てることないのに」
くすっと笑ってしまうイヴィルエミィ。
邪悪と闇の魔女の姿に変わったとはいえ、全体的な面影は茉莉と絵美そのものである。
そのため、その笑みは邪悪さよりもかわいらしさを感じさせるものだった。

「よし、それではこれからお前たちにデモンオー様のために働いてもらうピー」
二人のイヴィルシスターズを前に指示を下そうとするワルピー。
これからこの二人を使って、この世界を邪悪と闇に染めなくてはならないのだ。
「ふっざけるなぁ!」
「ピ?」
いきなりイヴィルマリィに怒鳴りつけられ、目を丸くするワルピー。
「誰がデモンオー様のためになんて働くか!」
「そうよ! いくらデモンオー様のためとはいえ、世界を邪悪と闇に染めるなんてできるわけないじゃない! そんなことより私たちを元に戻しなさい!」
イヴィルマリィだけじゃなく、イヴィルエミィもキッとワルピーをにらみつけてくる。
先ほどまでの二人とは違い、今の二人には凄みがあった。

「むむっ? これはどうしたことだピー? 二人とも邪悪と闇に心を染められたはずじゃなかったのかピー?」
心を邪悪と闇に染められたのであれば、デモンオー様に喜んでお仕えするはず。
だが、今の二人はそうではないようだ。
「私たちは邪悪と闇になんか染まってない!」
「私たちは私たち。私もイヴィルマリィも簡単に染められたりはしないわ!」
きっぱりと言い放つ二人。
「むぅ・・・自分たちのことをイヴィルマリィやイヴィルエミィというあたり、全く染まってないわけではないようだが・・・さすが“正しい心と力を持つ者”ということかピー。となれば、何度か繰り返して染めていくしかなさそうだピー」
何度か繰り返すことで二人の闇も広がっていくはず。
そうなれば、やがては心が邪悪と闇に染まり、完全なるイヴィルシスターズとして完成するだろう。

「ならばこうするまでだピー!」
ワルピーの黄色い目がギラッと輝く。
「あ・・・」
「え・・・」
とたんにワルピーをにらみつけていた二人の目から輝きが失われる。
「ケケケケ・・・これでいい。さあ、お前たち、われの命に従うんだピー」
「はい・・・」
「命令に従います・・・」
うつろな目でワルピーに返事をするイヴィルマリィとイヴィルエミィ。
ワルピーによって精神支配されてしまったのだ。
「さあ、こっちに来るんだピー」
「はい・・・」
「はい・・・」
ゆっくりとワルピーのもとへ向かう二人。
やがて二人はワルピーとともに闇の中へと姿を消した。

この街の郊外にある大きな教会。
礼拝堂には休日ともなれば多くの人がやってくる。
教会自身も西洋風の見栄えのする建築物で、観光でやってくる者も多い。
その教会の塔の上、その上空に黒い球体が現れる。
まだ夕暮れには時間があるため通りを通る人も多く、人々はいきなり現れた黒い球体に驚いていた。

「あれを見るピー」
黒い闇の球体の中、ワルピーが外の光景を映し出す。
そこには人々が驚きの表情で上空を見上げる中、大きな教会が映っていた。
「この世界における信仰心ある連中の集まる場所だピー。この近郊では一番大きなものだピー」
ワルピーの言葉をうつろな表情で聞いている赤と黒の二人の少女。
おそらく二人がいつもの状態であれば、その教会が学校の近くにあっていつも見慣れているものだったことに気が付いただろう。
「あれを壊すんだピー」
無言でこくりとうなずく二人。
「あのようなものはデモンオー様にとっては目障りだピー。世界で崇拝されるべきはデモンオー様お一人であるべきだピー。そのほかのものを信仰する場所など必要ないピー。わかるな?」
再び二人がこくんとうなずく。
「それじゃ行くんだピー! デモンオー様の目障りなものをお前たちで排除するんだピー!」
「デモンオー様の目障りなものは・・・」
「私たちが排除します・・・」
抑揚のない口調でそういうと、赤と黒の少女たちは闇から外へと飛び出した。

「ううううあああああああああああ!」
「えええええええええいいいいい!」
それは突然荒れ狂った赤と黒の稲妻だった。
人々のみている前で、黒い球体から突如現れた二筋の赤と黒の稲妻が、教会を直撃したのだ。
「あはぁ・・・あは・・・あははははは」
「はぁん・・・ああん・・・あん・・・」
頬を紅潮させて教会の建物を破壊していく二人の少女。
殴り、蹴るごとに教会は崩壊していく。
二人のまとった赤と黒の闇のオーラが、逃げ惑う人々の目にはまるで稲妻のように映っていたのだった。

「行くよ、イヴィルエミィ」
「ええ、イヴィルマリィ」
二人が顔を見合わせてうなずき合う。
「レッドウィップ!」
「ブラックウィップ!」
二人の右手に赤と黒の闇の鞭が現れ、二人はそれを振り回す。
まるで竜巻でも通ったかのように、二人の通った後には瓦礫の山ができていく。

「よし、もういいだろうピー。戻ってくるピー」
宙に浮いている黒い球体からワルピーの声が二人に届く。
「はい・・・ああ・・・」
「はい・・・あふぅ・・・」
二人は崩壊した教会の残骸を見て、頬を赤く染めながら黒い球体内へと戻っていく。
「ご苦労だったピー。これで一つデモンオー様の目障りなものが消え去ったピー」
「はい・・・デモンオー様の目障りなものは排除します・・・」
「はい・・・デモンオー様のため・・・」
ほうっと吐息を漏らす二人。
それはまるで今まで官能を味わっていたかのようですらある。
「どうだピー? 気持ちよかっただろうピー?」
「はい・・・気持ちよかったです・・・」
「とても気持ちよかったです・・・」
相変わらず表情はうつろだが、それでも気持ちよさそうな二人だった。
「またお前たちには働いてもらうピー。とりあえず元に戻るピー」
「はい・・・」
「はい・・・」
二人の胸から黒い鍵が現れてワルピーの元へと戻っていく。
それと同時にすうっと二人の姿が元の紅倉茉莉と黒坂絵美に変化する。
そしてそのままくたっと倒れこんだ。
「まだ躰が適応していないから消耗が激しいみたいだピー。だが、これを繰り返していけば、二人は身も心も完全なるイヴィルシスターズとなり、デモンオー様に自らお仕えするようになるんだピー」
先端が矢じりのようになった尻尾を二本の黒い鍵に巻き付け、ワルピーはにやりと笑みを浮かべていた。

                   ******

「う・・・うーん・・・」
ゆっくりと目を開ける絵美。
気が付くと、かなり日が傾いた空が目に入る。
「あれ? 私・・・」
躰を起こすと、そこは片付けるように言われた倉庫の扉の前で、そばにもう一人倒れているのが分かった。
「べ、紅倉さん。紅倉さん」
倒れている茉莉を揺さぶってみる。
躰は温かく、命に別状はなさそうだ。
「紅倉さん!」
「う・・・うーん・・・お兄ちゃん・・・それは私のだってばぁ・・・」
絵美が少し声を大きくすると、茉莉が寝言のようなことを言う。
どうやら何かの取り合いをしているのかも知れない。
「紅倉さん、起きて!」
「ん・・・あ?」
絵美がまた少し強く揺さぶると、茉莉がゆっくりと目を開ける。
「あれ? 黒坂さん? なんでうちに?」
「うちじゃないです。まだ学校です」
「えっ?」
慌てて起きて周囲を見る茉莉。
確かにここは学校で、しかも片付けを言いつけられた倉庫の前だ。
なんでこんなところで寝ていたのだろう?

「私・・・なんでこんなところで寝てたんだろう?」
「わからない。なんだか悪い夢を見てたような気がする」
ゆっくりと首を振る絵美。
「うん・・・でも・・・でもなんだか気持ちよかった気もする」
「あ・・・うん・・・私も・・・」
二人は思わず顔を見合わせる。
もしかして二人とも同じ夢を見ていたのだろうか?

「あなたたち、何をしているの?」
「ひえっ」
「キャッ」
突然声をかけられて驚く二人。
見ると、校舎のほうから担任の鷹紀由華がやってくるところだった。
「鷹紀先生」
「す、すいません。ま、まだ何もやってなくて」
慌てて立ち上がり、頭を下げる茉莉。
自分たちが倉庫の片付けを言いつけられていたのを思い出したのだ。
「す、すみません」
絵美も茉莉と同じように頭を下げる。
それにしても、どうして二人して眠り込んでしまったりしたのだろうか・・・

「ああ、それはもういいわ。早く帰りなさい」
「えっ?」
「えっ?」
二人はきょとんとする。
だってまだ何もやっていないのだ。
倉庫の片づけはしなくていいのだろうか?
「で、でもまだ何も」
「いいのよ。もう用は済んだとの仰せなの」
無表情で二人を見る由華。
その目はどこかうつろだ。
「仰せ?」
「いいから帰りなさい」
やや強めの口調で言い放つ由華に、絵美も茉莉もおとなしく従うしかなくなってしまう。
「帰ろう、黒坂さん」
「え、ええ・・・」
まだ何か言いたげにしていた絵美の手を取り、茉莉は校舎のほうへ歩き出す。
やがて二人が校舎に消えると、由華の肩にワルピーが姿を現した。

「それでいいんだピー」
「はい・・・ワルピー様・・・」
小悪魔が肩に乗っているにもかかわらず、全く表情を変えない由華。
「あの二人もいずれデモンオー様の忠実なしもべとなるピー。お前がわれのしもべになったように」
「はい・・・ワルピー様」
「お前の心はもう一度くらいかわいがってやれば完全に闇に染まる。そうなれば、お前は自らわれに従うようになるピー。うれしいかピー?」
「はい・・・もちろんです、ワルピー様」
そう答える由華の目は、先ほどとは違って冷たい輝きを見せ始めているのだった。

「はあ・・・なんだったんだろうね、結局」
釈然としないものを感じはするものの、帰れというからにはとっとと帰ろうと思うのが茉莉である。
「何がどうなっているのかしら・・・」
絵美も茉莉同様にもやもやしたものを感じながら、学校の校門を出る。
「まあ、倉庫の片付けをしなくてよくなったからラッキーじゃない?」
「それはそうだけど・・・」
そういいながら、二人は通りへ通じる道を歩いていく。

通りに出たところで、二人の前をけたたましくサイレンを響かせながら、消防車や救急車が走り去っていく。
それも数台が続いており、何かあったらしい。
消防車や救急車だけではなく、パトカーも混じっている。
「何か、あったのかしら?」
絵美が消防車の向かった方向を見てみるが、現場が離れているのか、特に煙などが見える様子はない。
「さあ・・・」
茉莉も同じ方を見るが、やはり何もわからない。
とはいえ、消防車などが向かった方向は家へ向かう方角でもあるので、いずれ何か見えてくるかもしれない。
「あ、私家がこっちなんだけど、黒坂さんは?」
「あ、私もこっちよ」
「えっ、そうなんだ? 私7丁目なんだけど」
「私6丁目」
「あ、近いんだ」
「ホントね」
お互いの家の近さに驚く二人。
もしかしたらこれまでも気が付かなかっただけで、道ですれ違っていたりしていたのかもしれない。

「じゃあ、近くまで一緒に帰ろ」
「ええ、それはいいけど・・・紅倉さん、棚本さんと与瀬場さんと約束があったんじゃ?」
「あ!」
言われて気が付く茉莉。
そうだった。
希美と唯と遊ぶ約束していたのだ。
すっかり忘れていたことに青ざめる。
茉莉はすぐにスマホを取り出してLINEを送信する。

しばらくスマホとにらめっこしていた茉莉だったが、やがてその手が震えてくる。
「紅倉さん?」
何となくさよならを言いそびれてその場に残っていた絵美が、茉莉の様子にただならぬものを感じ、思わず声をかける。
「黒坂さん・・・」
「はい?」
わなわなと震えるように青ざめた顔をしている茉莉。
どう見てもただ事ではない。
「何かあったの?」
「来て!」
突然絵美の手をつかんで走り出す茉莉。
「キャッ! ど、どうしたの?」
絵美もそれに引っ張られるように一緒に走り出す。
「いいから来て!」
「う、うん」
何かただ事ではないと思いながら絵美は茉莉と一緒に走っていく。
その行先は、先ほど消防車や救急車が向かった方向だった。

「そ・・・んな・・・」
「う・・・そ・・・」
人だかりをかき分けて規制線のところまでたどり着いた二人は、目の前の光景に絶句する。
そこにはいつも見慣れていた観光名所ともなっていた教会が跡形もなく崩れ去り、瓦礫の山となっていたのだ。
「唯がLINEで言ってた通りだ。教会が崩れて大変なことになっているって・・・」
「な、何これ?」
絵美も目の前の光景に愕然としている。
規制線の中では大勢の警官や消防士たちが必死で救助作業に当たっている。
おそらく瓦礫の下にまだ多くの人が埋まっているのだろう。

「そんな・・・あれは夢じゃなかったの?」
「やっぱり・・・黒坂さんもこの教会を壊す夢を?」
「えっ? 紅倉さんもなの?」
二人はお互いの顔を見合わせる。
さっきまで妙な悪夢を見たように感じていたものが、夢ではなかったというのか?
「夢じゃ・・・なかったんだ・・・」
「そんな・・・これを・・・私たちが・・・?」
がっくりと膝から崩れ落ちる絵美。
赤色回転灯の光が時々彼女の眼鏡に反射していた。

「黒坂さん・・・」
支えるようにして彼女を立ち上がらせる茉莉。
彼女自身も相当にショックを受けていたが、それ以上にショックを受けたように見える絵美を放っておけないのだ。
「とりあえずこっちへ」
絵美に肩を貸して人ごみの中から連れ出す茉莉。
「ねえ・・・教えて・・・」
「えっ?」
「ねえ・・・教えて・・・あれは私たちがやったことなの?」
茉莉の肩に身を預けながら、絵美がポツリとそうつぶやく。
「あれは・・・私たちが・・・やったことなの?」
茉莉は違うと言いたかった。
だが、そういうにはあの夢はあまりにも生々しく記憶に残りすぎていた。
むしろ夢じゃなかったというほうが正しいのだろう。

「ねえ! 教えてよ! あれは私たちがやったことなの?」
思わず口調がきつくなる絵美。
わかっているのだ。
あれが夢ではなかったことが。
わかっているのだ。
あの惨劇は自分がやったことなのだと。
だが、認めたくはない。

「たぶん・・・そう・・・」
茉莉の言葉に息をのむ絵美。
それは聞きたくない言葉だったが、正しい言葉でもあった。
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!」
絵美の悲鳴が響く。
「どうして? どうしてよ? 私たちがどうしてあんなことをしなくちゃならないの? 私たちが何か悪いことでもした? ねえ、どうして?」
絵美が泣きながら茉莉の肩をつかんで揺さぶる。
それははからずも倉庫の前で片付けを言いつけられた茉莉が言っていたのと同じセリフだ。

「どうしてって・・・」
そんなこと茉莉にもわかるはずもない。
わかっているのは、自分たちが何か得体のしれないものに操られてあの教会を破壊し、多くの人を傷つけてしまったということだけ。
「教えてよ、紅倉さん!」
泣きながら揺さぶってくる絵美に対し、茉莉は自分こそ泣きたいのだと言いたかった。

「・・・ごめんね」
茉莉を揺さぶるのをやめ、眼鏡をはずして涙をぬぐう絵美。
「ごめんね。紅倉さんだって私と同じように巻き込まれただけだもん、わかんないよね。ごめんね」
「黒坂さん・・・」
「あー、泣いたら少し落ち着いた。あれ、やっぱり私たちがやっちゃったんだよね」
少し笑顔を見せる絵美に茉莉は心を痛める。
相当に無理をしているのだろう。
それはたぶん自分もなのだ。
「悪いことしちゃったんだから、責任は取らないといけないよね・・・」
「責任?」
責任とはいったい?
「うん。私・・・警察に自首してくる」
「警察に?」
「うん。教会を壊したのは私ですって自首する。あっ、紅倉さんは付き合わなくていいよ。あくまで私一人でやったことにするから」
「えっ?」
茉莉は驚いた。
彼女は・・・黒坂さんはあの破壊を自分一人で背負い込むつもりなのだ。
そんな・・・

「黒坂さん・・・それはダメだよ」
茉莉はゆっくりと首を振る。
「紅倉さん・・・」
「それはダメだよ。あれは私たち二人がやったことだもの。責任は二人で取らないと・・・」
「で・・・でも・・・」
「あーあ・・・お父さんやお母さんに怒られちゃうなー。お兄ちゃんには何言われるか・・・」
努めて明るく振舞う茉莉。
そうしないと自分でもおかしくなってしまいそうだ。
「紅倉さん・・・」
「さ、行こう。黒坂さん」
絵美の手を取る茉莉。
「ええ。行きましょう」
絵美も茉莉のその手をぐっと握りしめた。

トボトボと肩を落として道を歩いていく二人の少女。
警察に行った結果は散々だった。
まともに取り合ってもらえなかったばかりか、子供のたわごととして追い払われてしまったのだ。
あの教会の倒壊は、竜巻のような局地的な暴風とそれに伴う落雷によるものであり、人為的なものとは思われていないらしい。
そのため、二人の訴えは全く取り上げられなかったのだ。
それはそうだろう。
台風や地震で大きな被害が出たとして、その台風や地震は私がやったものだから捕まえてくださいなどと言ったって信じてもらえるはずがない。
なおも詰め寄ろうとする絵美だったが、茉莉はそれを制し、結局二人は交番を後にするしかなかった。

「ダメ・・・だったね・・・」
ぽつりとつぶやく茉莉。
「うん・・・」
絵美も力ない声で返事をする。
「仕方ないよ・・・自分自身のことだからまだ信じられるけど・・・そうじゃなかったら私だって信じられないもん」
「でも・・・でも・・・あんなことになって大勢の人がけがをして・・・死んだ人もいるかもしれないのに・・・赦されることじゃないわ」
「そうだけど・・・」
自分の手を見る茉莉。
感触がまだ残っている。
教会の壁を殴り壊したときの感触。
赤い鞭をふるった感触。
全部思い出すことができる。
そして・・・
そして・・・
それがとても気持ちよかったことも・・・
でも・・・
そんなこと感じるなんてどうかしている・・・

「あ、あのさ・・・この近くにおいしいドーナツのお店があるの。食べに行かない?」
少し空気を変えたくて、茉莉は絵美を誘ってみる。
甘いものでも食べれば、少しは気分も変わるだろう。
結局今日は唯や希美と遊ぶことはできなかった。
あの騒ぎで二人も早々に切り上げて帰ったらしい。
巻き込まれなかったのはよかったと思うけど、二人の顔を見られなかったのは残念だ。

「ううん。今日は家に帰ります。ごめんなさい」
茉莉の誘いに絵美は首を振る。
今は何も食べたくないのだ。
「そう・・・」
ちょっとがっかりする茉莉。
「家に帰って、パパとママに相談してみます。どうなるかわからないけど・・・明日学校に行けないかもしれないけど・・・」
「そんな・・・来てよ、学校。待ってるから」
茉莉は同じ体験をした者として、彼女が学校に来なかったらと思うと心細くて仕方がないのだ。
「うん。ありがとう紅倉さん。それじゃ今日はここで。さようなら」
少し寂しげな笑みを見せて手を振る絵美。
「さよなら。明日、待ってるから。待ってるからねー!」
背を向けて去っていく絵美に向かって茉莉も手を振り声をかける。
「うん」
絵美が最後に振り向いて笑顔を見せてくれたことが、茉莉は何とも言えず嬉しかった。

                   ******

  1. 2018/11/15(木) 21:00:00|
  2. ふたりはイヴィルシスターズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:5
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コメント

ふたりはイヴィルシスターズ読みました、口上とかそのままで良いです。初めから悪の変身物は斬新です。
  1. 2018/11/15(木) 23:16:22 |
  2. URL |
  3. nama #-
  4. [ 編集]

おおっ新シリーズですかw
二人は「プリキュラ」のときと違い強制的な書き換えと違って
どのように価値観が変わっていくのか
描写を楽しみにしております。
だんだん力をふるうことに快感を覚えて
「闇に支配されることがみんなにとって幸せになる」
的な思想になっていくのでしょうか?
  1. 2018/11/16(金) 01:59:15 |
  2. URL |
  3. あぼぼ #-
  4. [ 編集]

拝読しましたー
操られながらも破壊行動に快感を得て、正気に戻ったら罪悪感に苛まれる。
導入としては良い流れですねー(*・∀・*)
これから2人の中の価値観の変化や闇に染まっていく過程を見るのが楽しみです(≧▽≦)

私はプリキュアはほとんど知らないですがその分、新鮮な気持ちで見れて楽しめました(・ω・)
これからの数日間の楽しみができて嬉しいです( ≧∀≦)ノ
  1. 2018/11/16(金) 11:15:04 |
  2. URL |
  3. IMK #-
  4. [ 編集]

楽しみに待ってました!
雰囲気や各種ネタなど元ネタ再現度が凄い、2人の関係性とか強制決めポーズとか(笑)
担任が操られるのもあっちと違ってガッチリやってくれるみたいで嬉しい。
もちろん知らなくてもとても面白い作品に仕上がっていました。

まずキャラ描写がとても魅力的でした。
セリフがどれもイキイキしておりシリアスなのにどこか明るい感じなのがいいメリハリに。
本来光の戦士になる予定の存在を先に闇の戦士に変えてしまうというストーリーも新鮮。
邪悪なマスコットがまたいい。
トドメにあの堕とし方はかなりツボです。鍵で開けた心に闇が入り込むシーンはゾクゾク…!
さて、本人も知らないうちにどんな風に染められていくのか期待大です。


1話目からこんな大ボリュームで満足。こんなワクワクするのは久々ですわ、続き早く読みたいなあ
  1. 2018/11/16(金) 18:46:09 |
  2. URL |
  3. くろにゃん #rC5TICeA
  4. [ 編集]

皆様コメントありがとうございます

>>nama様
初めましてでしょうか?
コメントありがとうございます。
やはりそこはプリキュア系のお約束どころなので、いれちゃいましたー。>口上

>>あぼぼ様
「プリキュラ」は吸血鬼化だったので強制書き換えでしたけど、今作はかなり抵抗されました。
書いてて二人の無駄な抵抗が楽しかったです。(笑)

>>IMK様
コメントありがとうございますー。
今作ではそれほど二人の価値観の変化的なものは書けていないかもしれませんが、その分二人の結びつきの変化を楽しんでいただければと思います。

>>くろにゃん様
コメントありがとうございます。
堕とし方をツボと言っていただき、すごくうれしいです。
変身に関しましては最終日の見どころの一つと思っておりますので、お楽しみにー。
  1. 2018/11/16(金) 20:17:38 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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