今日は10月10日で、1010(千十=せんとお)ということで「銭湯の日」らしいですけど、私たち特撮系女戦闘員大好き人間にとっては、同じ「せんとお」なら「戦闘員の日」ということにしちゃったほうがはるかに良いんじゃないのということで、たぶん三年ぐらい前に言いだしたのが、おかげさまでいろいろな方々に認知していただき、今年も「戦闘員の日」ということで、何人かの方々がいろいろな戦闘員作品を投下なされていらっしゃるようです。
ありがたいことですー。ヽ(´▽`)ノ
もちろん私も言い出しっぺが手ぶらというわけにも参りませんので、一本SSを投下しようと思います。
タイトルは「四人の命運」です。
いつものようにシチュのみ短編ではありますが、楽しんでいただけましたら幸いです。
それではどうぞ。
四人の命運
「うっわー! もうこんなに暗くなっちゃった。みんな遅くまで待たせちゃってごめんねー。山田の奴職務熱心すぎるよー!」
学校から外に出ると、もう周囲は薄暗い。
時刻も午後5時を過ぎ、秋ともなるとこの時間はもう黄昏時だ。
なので、さっきまで補習を行っていた宏美(ひろみ)ちゃんは、すっかりしょげちゃっている。
「いいのいいの。みんなでおしゃべりしていたし、私たちもそれなりになんだかんだとあったから」
宏美ちゃんに気を使わせないようにと、香奈(かな)ちゃんがフォローする。
もっとも、彼女の言うことは半分だけ合っているにすぎず、委員会の雑務があった彼女はともかく、私と純恋(すみれ)ちゃんは、ただひたすら教室でおしゃべりしたりスマホを見たりしていただけだ。
「ほんとごめん。今回の試験だって、せっかくみんなが私のためにいろいろ教えてくれたのに、赤点なんて取っちゃって・・・うー、勉強苦手なんだよー」
申し訳なさそうに頭をかいている宏美ちゃん。
「気にしないでいいですわ。赤点だってぎりぎりでそうなったという話ですし、あと一問でもあっていれば回避できたというではありませんか。その赤点も今回の補習でカバーすれば何とかなるって話ですわ」
純恋ちゃんが眼鏡の奥の細い眼をさらに細めるような笑顔でほほ笑んでいる。
彼女は勉強がわりと得意なほうなので、今回も宏美ちゃんのために試験勉強を一緒にやるなど彼女のカバーをしていたのだ。
「むしろ今回の歴史に関しては私のほうこそきちんと教えられなくてごめんね」
そうなのだ。
今日宏美ちゃんが補習を受けたのは世界史。
歴史好きの私としてはいろいろと面白い話を取り混ぜて宏美ちゃんに教えたつもりだったんだけど、逆にその面白い話のほうに気が行ってしまったようで、肝心の年代暗記がおろそかになってしまったらしく・・・
うう・・・
申し訳ない・・・
「いやいや、弓香(ゆみか)の歴史の話は面白かったよ。なんていうか、やっぱりその時代の人も普通の人間なんだなぁって感じたし」
「でしょでしょ、歴史って何年に何があって何年には何があるっていうのばかり覚えさせられるけど、その何がってところを見ていくと面白いんだよねー」
そう、歴史はそこが面白い。
悲惨な戦争も、元をたどればへんてこな理由で始まっていたりするのも結構あったりするし。
「とにかく、今日はドリンクの一杯ぐらいはおごるからね。早く行こ! 今日は歌うぞー!」
さっきまでしょげていた宏美ちゃんが先頭に立って歩いていく。
もともと運動が得意の彼女だし、元気が売りのようなところがあるから、やっぱり彼女はしょげているのは似合わない。
それに、もともと歴女の私や秀才系お嬢様の純恋ちゃん、委員会活動に積極的な香奈ちゃんが、こうして友人として集まっているのも、宏美ちゃんが私たちを誘って仲間にしてくれたからなのだ。
おかげでなんだかんだ言って馬が合うらしい私たちは、こうして一緒にカラオケに行くところというわけなのよね。
「ここかー? カラオケボックスになったんだ」
「確か前は本屋さんだったよね?」
「シュッパンフキョーの波がこんなところにも・・・」
「香奈ちゃん、それ言いたいだけでしょ?」
「あ、わかった?」
思わず笑いあう私たち。
しばらく歩いて裏通りにやってきた私たち四人は、新しくできたというカラオケボックスにきたところだった。
「おんやぁ、宏美殿・・・四人以上のご利用でドリンク一杯サービスって書いてあるよぉ。まさかそれを見込んでさっきドリンクおごるって言ったんじゃ?」
私は入り口にでかでかと貼ってあるポスターのキャンペーン実施中の文字を読む。
「う・・・ばれたかー」
てへぺろとばかりに舌を出す宏美ちゃん。
なんというかこういうおどけたしぐさが彼女にはよく似合う。
一方で純恋ちゃんはまさにおしとやかなお嬢様といった雰囲気で、カラオケなんかいたしませんって感じに見えるけど、実は結構歌うのが好きだったりするんだよね。
「うふふふ・・・さ、入りましょ。秋の夜は長いようで短いですから」
純恋ちゃんに促され、私たちはカラオケボックスに入る。
さーて、今日はまず何を歌おうかなー。
******
「う・・・」
あれ?
私はいったい?
何がどうなって?
確か・・・
確かみんなで楽しくカラオケを歌っていたら、急に室内に白い煙のようなものが充満し始めて・・・
火事かと思って急いで部屋から出ようとしたけど、すぐに目の前が真っ暗になって・・・
もしかして、私、気を失っていた?
目を開けた私は、急いで周囲を確かめる。
よかった。
火事じゃなかったみたい。
それにしても薄暗い。
私は、隣に香奈ちゃんが倒れているのを確認すると、すぐに躰をゆすってみる。
ほかにも宏美ちゃんや純恋ちゃんもいるわ。
よかった、みんな無事みたい。
「うーん・・・」
私が躰をゆすったことで、香奈ちゃんも目を覚ます。
「香奈ちゃん。香奈ちゃん」
「ん・・・あ、弓香ちゃん」
香奈ちゃんのくりくりした目がすぐに焦点を合わせてくる。
よかった。
大丈夫みたい。
「こ、ここは?」
「わからないわ。少なくともあのカラオケルームではないみたい」
私は香奈ちゃんにそう答えながら、宏美ちゃんとい純恋ちゃんをゆすって起こす。
二人もすぐに目を覚まし、私たちはみんな無事であったことにひとまず安堵した。
私たちがいるところは牢屋であることはすぐに判明した。
とりあえずここがどこか確認するために、薄暗い中周囲を見渡した私たちの前に、立派な鉄格子が立ちはだかったのだ。
「どういうこと? 私たち閉じ込められちゃったってこと?」
「そんな・・・」
香奈ちゃんも純恋ちゃんも青ざめる。
いったいどうしてこんなところに鉄格子なんかがあるの?
「くそぉ! どういうことだ! 出せぇ!」
宏美ちゃんが鉄格子のところに行ってガシガシと揺らしてみるが、もちろんそんなことではびくともしない。
「ほかに出口は・・・」
私は室内を見渡してみるが、窓一つすらないこの部屋は、小さく暗い照明が天井にあるだけだった。
「クケケケケ・・・今回も四人か。どうやら無料サービスが効果的に働いているようだな」
「きゃぁーーー!」
「いやぁーーー!」
突然鉄格子の向こうに現れた人影に、私たちは思わず悲鳴を上げてしまう。
それは、その人影がどう見ても人間のものではなかったからだ。
全身が黒や赤の短い毛で覆われ、左右には腕が二本ずつ動いていて、顔には巨大な丸い目がいくつも光り、触覚のようなものまで生えている。
なんというか、クモと人とが合わさったような・・・そんな化け物だったのだ。
「キーッ! 素体のチェック完了しました」
続いて現れた男たちに、私はまた息をのむ。
首から下を躰にぴったりしたタイツのような衣装で覆い、腰には巨大なバックルのついたベルトを締め、顔には赤や青の色がべったりと塗りたくってあったからだ。
男たちは整列し、クモの化け物に奇声を出しながら右手を上げる。
「クケケケケ・・・結果はどうだ?」
「キーッ! 今回は二人が合格です。その女とこの女です」
全身黒タイツの男が指をさす。
嘘・・・
そんな・・・
男が指で示したのは、私と純恋ちゃんだったのだ。
「クケケケケ・・・二人か・・・まあ、仕方あるまい。前回のように主婦四人で合格者なしなどということがなかっただけ良しとするか」
クモの化け物が四本の腕で腕組みとあごに手を当てるのを同時に行う。
合格?
合格って何なの?
私と純恋ちゃんが合格って何なの?
「お前たちは何なんだ! 私たちをどうする気なんだ!」
今まで黙っていた宏美ちゃんが男たちに声を上げる。
たぶんその目は怒りに満ちているに違いない。
「クケケケケ・・・我々はゴルベダー。暗闇組織ゴルベダーだ。この世界はいずれ我々のものとなるのだ」
「ゴルベダー?」
「ゴルベダーって・・・ネットの都市伝説じゃ・・・」
クモの化け物の言葉に香奈ちゃんが反応する。
都市伝説?
そういえば聞いたことが・・・
ゴルベダーという謎の組織の化け物がひそかに闇の中で暗躍しているとか何とか・・・
ううん・・・
私たちの前にいるのは紛れもなく本物で、伝説なんかじゃない・・・
「クケケケケ・・・さあ、合格した二人を連れていけ」
「キーッ!」
「キーッ!」
クモの化け物の命令に右手を上げて応じた黒タイツの男たちが、鉄格子の一部を開けて入ってくる。
「今だ!」
「宏美ちゃん!」
その隙を突こうと宏美ちゃんが男たちに飛び掛かっていくが、黒タイツの男に一撃されて床にくずおれる。
「宏美ちゃん! いやっ! 離して!」
「何をするの! 離しなさい!」
「弓香ちゃん! 純恋ちゃん!」
黒タイツの男たちは私と純恋ちゃんをとらえ、無理やり引きずるように牢の外へと連れ出していく。
「弓香ちゃん! 純恋ちゃん!」
「か、香奈ちゃん! 宏美ちゃーん!」
私たちの必死の抵抗もむなしく、私と純恋ちゃんは宏美ちゃんと香奈ちゃんから引き離されてしまうのだった。
******
「うぐっ」
別の場所に連れてこられた私たちは無理やり制服を脱がされ、裸にされてしまう。
いや、脱がされるというよりも引き裂かれてしまったのだ。
抵抗など全く無駄だった。
黒タイツの男たちの力は強く、私たちの抵抗など痛くもかゆくもなさそうだったのだ。
私たちは次に透明なカプセルに入れられると、頭から緑色の液体をかぶせられる。
液体はじょじょに足元から溜まっていき、すごい勢いで腰から胸へと上がってくる。
私も純恋ちゃんも必死にカプセルをたたいたが、頑丈なカプセルは全く壊れるどころかひび一つ入らない。
やがて緑の液体は私の首から口、鼻の上から頭のてっぺんまで覆ってしまう。
私は必死になって息を止めていたものの、もはやどうしようもなくなって息をしようと液を飲み込んでしまう。
肺の中まで液体が入り、苦しくて苦しくてもうダメと思った時、ふと息ができることに私は気が付いた。
嘘・・・
どうして?
水の中なのに?
鼻からも口からも出入りするのは緑色の液体。
でも息ができる。
どういうことなのだろう?
私が不思議に思っていると、だんだん躰が暖かくなってくる。
じんわりと心地よい暖かさだ。
なんだか布団にくるまって朝まだ目が覚め切らずにまどろんでいるみたいな感じ。
とっても気持ちいい・・・
気持ちいい・・・
『選ばれし者よ・・・お前は選ばれた』
何か頭の中に声が聞こえる・・・
選ばれた?
私は選ばれた?
『そうだ。お前は偉大なる暗闇組織ゴルベダーによって選ばれた』
ゴルベダーによって選ばれた・・・
『偉大なるゴルベダーはお前を歓迎する。お前はゴルベダーに選ばれたのだ』
私は選ばれた・・・
偉大なるゴルベダーに私は選ばれた・・・
『そうだ。お前は偉大なるゴルベダーの一員となる。ゴルベダーの女戦闘員となるのだ』
私は偉大なるゴルベダーの一員となる・・・
私はゴルベダーの女戦闘員となる・・・
なんだろう・・・
なんだかとても気持ちがいい。
私は選ばれた。
私は女戦闘員になる。
『ゴルベダーこそが世界を支配するのにふさわしい組織。お前はそのゴルベダーの一員となる』
私はゴルベダーの一員となります。
『ゴルベダーのために働き、ゴルベダーのために忠誠を誓うのだ』
はい。
私はゴルベダーのために働き、ゴルベダーに忠誠を誓います。
『ゴルベダーに歯向かうものはすべて敵。敵は殺せ』
ゴルベダーに歯向かうものはすべて敵です。
敵は殺します。
『お前は選ばれた。お前はゴルベダーの女戦闘員』
はい。
私は選ばれました。
私はゴルベダーの女戦闘員です。
『目覚めるがいい。女戦闘員よ』
「キーーーーーッ!」
私はカプセルの中で服従の声を上げた。
カプセルから緑色の液が排出されていく。
「ごほっ、げほっ」
少しせき込んで肺の中の液体を吐き出すが、すぐに空気の呼吸に慣れていく。
躰には力がみなぎってくる。
なんてすばらしいのだろう。
私の躰は強化された。
私は選ばれた存在。
私は偉大なるゴルベダーの女戦闘員になったのよ。
カプセルが開き、私はゆっくりと外へ出る。
隣では私と同じようにゆっくりと出てくるスミレちゃんがいる。
いいえ・・・
そんな呼び方は彼女に失礼だわ。
今の彼女は私と同じように偉大なるゴルベダーの女戦闘員なのだから。
テーブルの上に用意されている私たちのスーツ。
生まれ変わった私たちは、それを一つ一つ身に着けていく。
網タイツ状になったレッグプロテクター。
それを普通のタイツを穿くようにして脚に穿いていく。
見た目とは裏腹に強い防御性を持つこの網タイツこそ、偉大なるゴルベダーの技術の高さだわ。
そして黒のレオタード型の女戦闘員スーツ。
背中のファスナーを下ろして着込んでいき、躰に密着させてファスナーを上げる。
着心地もよく動きを阻害しないうえ、やはり防御力にも防寒性にも優れている。
あらゆる場所で活動するための私たちにふさわしいスーツだ。
そしてそれ以上に見た目で女性のラインを意識させ、男どもにちょっとした油断や隙を生ませるという効果もある。
それこそが私たち女戦闘員の存在理由でもある。
さらに足や手を保護するブーツや手袋を身に着け、腰には大きなバックルのついたベルトを締める。
このバックルには偉大なるゴルベダーの紋章であるトカゲが描かれていて、これを締めると自分がゴルベダーの一員である喜びを改めて感じることができるわ。
最後に首元に赤いスカーフを巻いていく。
これは首を保護すると同時に、黒の中に赤を用いることで敵の目を集中させ、こちらの動きを見えづらくさせる目的がある。
どうせ人間の男どもの能力では、私たちにかないはしないのだけどね。
うふふふふ・・・
すべてを身に着けた私は、隣で同じように身に着け終わった女戦闘員を見る。
彼女はふと眼鏡を直すような仕草を見せるが、そのようなものはもはや不要となったことに気が付いて苦笑する。
いつしか彼女の顔にも男の戦闘員たちと同じように赤や青のペイントが塗られたように変化していて、私たちが人間とは別の存在になったことを示している。
鏡を見たわけではないが、おそらく私の顔もそうなっていることだろう。
スーツを身に着け終わった私たちは、腕組みをして待っていらっしゃったスパイダー様のもとへと行く。
「クケケケケ・・・改造が終わったようだな。さあ、お前たちが何者か俺様に言ってみろ」
「キーッ! 私は偉大なるゴルベダーの一員、女戦闘員です!」
「キーッ! 私も偉大なるゴルベダーの一員、女戦闘員です!」
私と隣にいるもう一人がそろって右手を上げ、スパイダー様に敬礼する。
スパイダー様は私たち女戦闘員を含めた戦闘員集団を指揮する怪人様だ。
スパイダー様の命令に私たちは従い、世界をゴルベダーのものとするのだ。
「クケケケケ・・・それでいい。今日からお前は女戦闘員274号、お前は275号だ。いいな?」
「キーッ! ありがとうございます。私は女戦闘員274号です」
「キーッ! 私は女戦闘員275号です。スパイダー様にナンバーを与えていただけて光栄です」
275号の言うとおりだわ。
ナンバーで呼ばれることの素晴らしさ。
私がゴルベダーの一員であり、ゴルベダーに選ばれたことの証であるナンバー。
なんて嬉しいのだろう。
「クケケケケ・・・お前たちと一緒に捕獲した残りの二名は、毒ガス工場での奴隷労働と決まった。お前たちが二人を毒ガス工場へ移送するのだ。いいな?」
「キーッ! かしこまりました、スパイダー様」
「キーッ! 私たちにお任せください!」
完成したばかりの私たちに任務を与えてくださるスパイダー様。
なんて嬉しいのだろう。
早くも偉大なるゴルベダーのために働くことができるなんて。
私は女戦闘員274号。
ゴルベダーのためなら何でもするわ。
******
私は275号とともに、数時間前に引きずられるように連れてこられた廊下を逆に歩いていく。
あの時の自分はなんて愚かだったのだろう。
あんなに抵抗していたなんてバカみたい。
このような素晴らしい存在に生まれ変われると知っていたなら、抵抗なんてしなかったのに。
でも、私は選ばれた。
残された二人はしょせん選ばれなかった女たち。
毒ガス工場での奴隷労働がふさわしいというところね。
うふふふふ・・・
鉄格子の向こうでおびえるようにうずくまっている二人の女たち。
ふふ・・・哀れなものね。
「お前たち。移送よ。出なさい」
私は二人に声をかける。
こんな下等な連中と数時間前まで一緒だったなんて吐き気がするわ。
隣にいる275号もどうやら同じ思いらしく、まるでにらみつけるかのように牢の中の二人を見つめているわ。
「えっ? ま、まさか・・・弓香? 弓香なの? それに純恋も? 二人ともその姿はいったい?」
まるで予想もしなかったものを見たかのように私たちを見つめてくる女。
確か幡巻(はたまき)宏美とかいったはず。
虫唾が走る。
私を以前の名前で呼ぶなんて。
そんな名前で呼ばれるなんておぞましい。
「おだまり! 私たちをそのような以前の名で呼ぶな! 死にたいのか?」
私が何か言う前に、隣の275号が女を怒鳴りつける。
当然だわ。
私たちゴルベダーの女戦闘員は名前で呼び合うような下等な連中とは違うのよ。
私たちには与えられたナンバーがあるの。
ナンバーで呼び合うのが私たちのやり方なの。
私たちにはもう真比古(まひこ)純恋だの池潟(いけがた)弓香だのという名前など意味がないもの。
そんなカビの生えたような名前などという呼び方をしているお前たちには理解できないでしょうけどね。
「す、純恋・・・」
「純恋ちゃん・・・」
唖然としたように私たちを見ている二人。
もう一人は登倉(のぼりくら)香奈とか言ったっけ。
ふん。
私たちが選ばれて生まれ変わったことも理解できないみたいね。
そんなのだからお前たちは選ばれなかったのよ。
奴隷がお似合いだわ。
「274号、さっさと連れていきましょう。こんな連中を見ていると、以前の自分を思い出して狂いそうになるわ」
275号の言うとおりだ。
この女たちとはこれまでの面識が深いだけに、かつての愚かだった自分を見せつけられているような気がしてしまうのよね。
「ええ、そうしましょう275号。こんな連中はさっさと毒ガス工場に放り込んでしまうほうがいいわ。どうせそこですぐにくたばると思うけど。うふふふふ・・・」
「ええ、そうね。うふふふふ・・・」
私と275号は顔を見合わせて笑みを浮かべる。
どうせ奴隷たちの生き死になど、選ばれた私たちには関係がないわ。
牢の入り口を開けて中に入り込む275号。
その時だった。
「ごめん! 純恋!」
「えっ? あっ!」
私も続いて入ろうとしたその瞬間、275号が顔を押さえてうずくまる。
「香奈! 早く!」
素早く私の脇を通り抜ける幡巻宏美。
その手にはポケットサイズの制汗スプレーが握られている。
これを275号の目にかけたんだわ。
「逃がさないわ!」
私は続いて出ようとした登倉香奈を背後から羽交い絞めにして取り押さえる。
幡巻宏美だけではなく、この女まで逃がすわけにはいかない。
「275号! 何をしている! 早く追え!」
「キ、キーッ! わかったわ!」
素早く目をぬぐい、すぐに幡巻宏美の後を追う275号。
これでいいわ。
バカな女。
偉大なるゴルベダーの女戦闘員の脚から逃げられるはずがないのに。
「は、離して! 離して! お願い!」
「うるさいわね! おとなしくしないと殺すわよ」
「ひっ!」
少し力を強めてやると女はおとなしくなる。
ふん・・・
最初からおとなしくしていればいいものを・・・
「きゃーーーー!」
えっ?
今の声は?
私は登倉香奈を立たせ、その腕を背中で押さえて歩き出させる。
たぶん今の悲鳴は幡巻宏美のだと思うんだけど・・・
私が登倉香奈を連れて廊下を曲がったところで、さっきの悲鳴の主が床に倒れていることに気が付いた。
そして、その前には血に濡れたカマをぺろりと舌で舐めているマンティス様のお姿も。
「クキキキキ・・・ふうーーん。それでお前はこの逃がした女を追っていたというわけなのね?」
赤く塗られた唇に冷たい笑みを浮かべているマンティス様の前には、275号が震えながら立っている。
「キ、キーッ! は・・・はい・・・うぐっ!」
「ひっ」
「ひぃーっ!」
私と登倉香奈の目の前で、マンティス様のカマが一旋し、275号の首が跳ね飛ばされる。
「クキキキキ・・・役立たずが! ゴルベダーに無能な者は不要よ」
マンティス様が緑色の血を噴き出して倒れた275号の死体をヒールで蹴り飛ばす。
ああ・・・
でも仕方ないわね。
275号がミスをしたのだから・・・
偉大なるゴルベダーに無能な者は不要。
当然だわ。
私たちは選ばれた存在。
選ばれたものにミスがあってはいけないの。
私も気を付けなくては・・・
「クキキキキ・・・そこのお前! 何をしている?」
「キ、キーッ! 私は女戦闘員274号です。今この女を地下の毒ガス工場に連れて行くところです」
私は冷静にマンティス様にお答えする。
「クキキキキ・・・そうか。早く行け。毒ガス工場では一人でも多くの奴隷を欲しがっているからな。全くこの女のミスのおかげで奴隷が一人いなくなってしまったではないか」
まだ少しピクピクと痙攣しながらもドロドロになって溶けていく275号の死体を、忌々しそうに一瞥するマンティス様。
あの改造の時にカプセルに注ぎ込まれた緑色の液体は、今では私たちの血液となっているのだ。
それは私たちが死ぬと同時に私たちの躰を溶かしていく。
私たちの躰から偉大なるゴルベダーの秘密が漏れることのないようにするためだ。
私はもう一度登倉香奈の腕をねじり上げるようにして廊下を歩きだす。
275号のことは残念だが、女戦闘員の代わりはまた補充されるだろう。
私は私で偉大なるゴルベダーに忠実に尽くせばいいのだ。
偉大なるゴルベダーに栄光あれ。
私は女戦闘員としてこれからゴルベダーのために働く喜びに打ち震えるのだった。
END
いかがでしたでしょうか?
残念ながら今年はたぶんこれ一本ということになるかと思います。
出来ればもう一本ぐらいは投下したいのですが・・・どうなりますか。
今日はこれにて。
それではまた。
- 2018/10/10(水) 21:00:00|
- 女幹部・戦闘員化系SS
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