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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ノモンハン8

張鼓峰事件以後、国境紛争に対しては強硬な態度を取るようになる関東軍ですが、参謀本部はそれに対して制御不能状態に陥っていました。

一つには中国での戦いが泥沼化しつつあり、それに対して国力を傾注せざるを得なかったこと。
二つ目には、その中国を後押しする米英を牽制しようと、独伊との間に三国軍事同盟を結びたい陸軍に対し、米英を敵に回すわけには行かないとする海軍側との軋轢がのっぴきならない事態になりつつあったこと。
この二点を中心とし、さらにもろもろのことが重なって参謀本部は手一杯の状態になっていたのです。

この上、ソ連と事を構えることはできない。
参謀本部の判断は正しいものでした。
しかし、それは関東軍にとっては弱腰以外の何者にも思えなかったのです。

参謀本部にとって関東軍の役目は、対ソ戦に備えてその準備を怠り無く行なうことであり、満州国の国境の不確定部分を多少ソ連(外蒙含む)に侵入されたとて、どっしりと構えて微動だにせずにいれば、ソ連もそれほど無茶はしないだろうという考えでした。
つまり、参謀本部は張鼓峰事件に鑑み、対ソ強硬路線は引っ込め、「侵されても侵さない」を関東軍に命じました。

面白くないのは関東軍でした。
関東軍は満州防衛に責任を持つ軍です。
それが国境を侵されても無視しろと言われたのであれば、面白いはずがありません。
「侵されても侵さない」というのであれば、満州国を見捨てろというのか?
関東軍作戦課は憤慨しました。
そして、関東軍独自の国境紛争に対する解決法を提示します。
「満ソ国境紛争処理要綱」です。

この「満ソ国境紛争処理要綱」は、関東軍作戦課の俊英辻正信(つじ まさのぶ)少佐が起草し、服部卓四郎(はっとり たくしろう)中佐の承諾を得て関東軍司令官植田謙吉(うえだ けんきち)大将が発表したものです。
ですが、その内容たるやあきれかえるものと言っていいでしょう。

確かに「満ソ国境紛争処理要綱」の出だしにはこうありました。
「軍(関東軍)は侵さず、侵さしめざるを満州防衛の基本方針とする」
つまり、ソ連軍(外蒙軍含む)が優勢であるとは言えども、国境線に関してはお互いにこれを侵さず侵されずという形を取るというものでした。
しかし、そこから先が問題でした。
「万一ソ連軍が越境して来た時には、周到なる準備計画の下に徹底的にこれを膺懲(ようちょう:懲らしめ思い知らせること)せしめ、ソ連の不法なる野望を初動において粉砕する」
つまり、ソ連軍がもし国境を越えて満州国に入ってきたら、関東軍は戦力を集中してこれを撃滅するというものでした。

これ自体は国境防衛として特に問題があるとは思えないのですが、その方法が問題だったのです。
「そのためには、一時的にソ連領に侵入したり、ソ連軍を満州国領内に誘致、滞留せしむるも可」
「国境線不明瞭なりし地域においては、現地防衛司令官が自主的に国境線を認定し、第一線部隊に指示すると同時に、戦力の多寡国境線の如何なりとも必勝を期す」
つまり、満州国政府ひいては日本政府とソ連政府が外交で話し合うべき国境線を、現地司令官が勝手に判断して国境と主張し、勝手に判断した国境をソ連軍が越えるよう仕向けることができ、そこを越えたソ連軍を排除するためには、天皇陛下の命令が無ければできないはずの軍の国境線の越境をしてもよいと言っているのです。

まさに関東軍は言ってはならないことを言っていたのです。
この命令は参謀本部を無視するだけではなく、全軍の司令官たるべき大元帥陛下(天皇陛下)をも無視することになるのです。

関東軍はこの「満ソ国境紛争処理要綱」を、一応は参謀本部に提出し認可を求めました。
しかし、連日中国での諸問題や、それ以上に日独伊三国軍事同盟の締結に向けて政府や海軍と角突き合わせている状況の参謀本部は、この「満ソ国境紛争処理要綱」に明確な指示を出しませんでした。

明確な指示を出さないということは許可できないということだから、少し頭を冷やして考え直せ。
これが参謀本部の考えであったかもしれません。
提出された「満ソ国境紛争処理要綱」が頭ごなしに否定されては関東軍の面子がなくなるだろう。
だから何も言わないことで、関東軍が察するのを待つということだったのでしょう。
しかし、関東軍司令部はそうは考えませんでした。
提出した「満ソ国境紛争処理要綱」がまずいなら何か言ってくるはず。
何も言ってこないということは、参謀本部はこの処理要綱を認めたのだと考えたのです。

こうして関東軍はこの「満ソ国境紛争処理要綱」を基本方針としてしまいます。
またしても悲劇を止めるタイミングを逸しました。

その9へ
  1. 2007/08/07(火) 20:51:29|
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