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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

奪われる顔

今日は短編SSを一本投下いたします。

タイトルは「奪われる顔」です。
いつものようにシチュのみの短編ですけど、お楽しみいただけましたら幸いです。

それではどうぞ。


奪われる顔

「うわぁ、すごいごちそうじゃない?」
驚きに思わず目を見開いている彼女の表情に、私はちょっと戸惑いを覚える。
「いやねぇ、そんなごちそうなんかじゃないわよ。単なる家庭料理じゃない」
私はフフッと笑って肩をすくめた。
「いやいやいや、これがごちそうじゃなかったら何がごちそうなの? おいしそうなハンバーグとオムライス。もう、よだれが出ちゃいそうよ」
大げさに手の甲でよだれを拭うようなしぐさをする彼女。
その様子に娘は大喜びだ。
「雪香(ゆきか)おねえちゃんもハンバーグ好き?」
「もちろんよぉ。愛由香(あゆか)ちゃんも好き?」
「うん。ママのハンバーグ大好きぃ!」
「愛由香ちゃんのママのハンバーグはとっても美味しいもんねぇ」
「うん!」
にこやかに娘に話を合わせてくれる彼女。
普段は世界を守るという重責を背負っている彼女に、少しでも安らげる時間を与えることができていればいいのだけど・・・
「さ、それじゃいただきましょ」
私は娘と彼女をテーブルに着け、みんなで食事を始めるのだった。

                   ******

「雪香おねえちゃん、今日はお泊りしていくんでしょ?」
夕食も後片付けも終え、しばらく雑談やらゲームやらで過ごしたあと、そろそろ眠くなってきた娘に寝る支度をさせる。
「ええ、泊っていくわ。だから愛由香ちゃんは安心しておねむしてね」
「はーい、おやすみなさい」
パジャマ姿で彼女におやすみなさいを言う娘を、私は部屋に連れていく。
そしてそのまま娘を寝かせ、一人で居間に戻ってくる。
途中、冷蔵庫から缶ビールを取り出すのは忘れない。

「お疲れ様、娘のお相手ありがとう」
「恵美(めぐみ)こそお疲れ様。愛由香ちゃんはかわいいし、お行儀がいいから楽なものよ」
こうして二人きりになると、私たちは友人同士に舞い戻る。
それもただの友人というよりは、戦友とでもいうべきか。

「それで? 最近また奴らの動きが活発なの?」
ビールの味が微妙に苦い。
「ええ・・・今のメンバーも頑張ってくれているんだけど、今だ奴らを封じ込めるまでには至ってないわ・・・」
どことなく彼女の返事も浮かない感じだ。
「でも、大きな被害は出ていないんでしょ? 雪香の頑張りのおかげだと思う」
「ありがと。幸い今のところ大きなのはね・・・というより、今回は向こうはまず私たちをつぶしにかかっているんじゃないかって気がするの」
「えっ?」
私は驚いた。
ジャクーガがフォーチュンナイツをつぶしに来ているというの?
そんな・・・
「間違いないの?」
「たぶんね。小さめの事件を起こして私たちを出動させ、そこで私たちに集中攻撃をおこなってくるというのがここ最近の流れなの」
信じられない。
確かにジャクーガを一度は封じ込めた私たちだから、邪魔な私たちから片付けようという考えなのかもしれないけど・・・

そう・・・
私たちはかつてともにジャクーガと戦った。
私はフォーチュンピンク、そして雪香はフォーチュンイエローとして。
私たちはいいコンビとしてチームでも信頼され、ともに手を取り合って戦ったのだ。
ジャクーガを封じ込めたのち、私は縁あって今の主人と結婚し、娘の愛由香を授かった。
雪香はそのままフォーチュンナイツにとどまり、今ではフォーチュンナイツチームの司令官として現場を仕切っている。
ただ、道は分かれてしまったけれど、私たちは今でもこうして普段から友人として付き合っているし、娘の愛由香は雪香のことを雪香おねえちゃんとして慕っている。
主人が月の半分以上を出張で過ごすので、遊びに来てくれる雪香はとてもありがたいのだろう。
もちろん私もいろいろな面で助かっているのは間違いない。

「おそらく誰か頭のいい奴が現れたんだと思う・・・恵美も気を付けて」
「私?」
雪香がこくんとうなずく。
「恵美は元フォーチュンピンク。ターゲットにならないとは言い切れないわ」
「そんな・・・」
私はすでに引退した身。
そりゃ、いろいろな面で雪香を手伝うことぐらいはできるとは思うけど、戦いからは引いた身よ。
そんな私まで狙うというの?
「とにかく充分に気を付けて。私もできる限り気を配るようにするから」
「わかったわ・・・」
私は再度苦いビールを口に運んだ。

                   ******

「ママ、今日も雪香おねえちゃん来てくれるかな?」
学校から帰ってきた愛由香が私に聞いてくる。
「どうかなー? 来てくれるといいねぇ」
我が家に雪香が来るのは週に一回から三回ほどと幅がある。
うちとしてはいつ来てもらっても構わないのだけど、やはり仕事の関係でなかなかそうもいかず、来られる時に来るというスタイルだ。
もちろん来るときにはLINEで知らせてくれるので、それに合わせて夕食の支度をすればいい。
まあ、実のところはいつも一人分多く用意して、来られない時には私の翌日の昼食に回しているだけなんだけどね。
一人暮らしの上に仕事が忙しい雪香は、だいたい食事は外食で済ませることが多くなっているらしいから、せめてうちで家庭料理を味わってもらわなきゃね。

そんな話をしていると、スマホにLINEが着信する。
思った通り雪香だ。
夫はこっちから送らない限り、めったに向こうから送ってくることはないのよね。
今日もお邪魔していい?
雪香のアイコンがそう言っている。
もちろんいいよー。
私はすぐにそう返す。
「雪香おねえちゃん、来てくれるって」
「わぁい、やったー!」
両手を上げて万歳する愛由香。
満面の笑顔で喜んでいる。
「それじゃ、今日はカレーにしようか」
「わぁい、もっとやったー!」
愛由香はカレーが大好き。
喜びのあまりくるくると回っている。
その様子に、私も思わず顔がほころんでいた。

それは突然のことだった。
いきなり寝室のドアが開いたかと思うと、そこからどかどかと数体の黒い影が居間に入り込んできたのだ。
「えっ? 何?」
「きゃあー!」
私が驚き、愛由香が悲鳴を上げていると、そいつらは私を突き飛ばすようにして愛由香を取り押さえてしまう。
「ママー!」
「あ、愛由香!」
「おっと、動くなフォーチュンピンク! いや、元フォーチュンピンクだったな。ゲロロロロ・・・」
私が思わず愛由香のところへ駆け寄ろうとしたとき、不気味な野太い声が私を制止する。
すでに愛由香は左右から全身が真っ黒な見たこともない連中に捕らえられており、一撃で助け出すのは難しい。
私はやむを得ず、状況を確認するために一度周りを見渡した。

「ゲロロロロ・・・それでいい。おとなしくしていれば殺しはしない」
そこには巨大な直立したガマガエルのような怪人がいた。
いうまでもなく、私たちがかつて幾度となく戦ってきたジャクーガの怪人だろう。
雪香の懸念が当たってしまったということなのか・・・
「ジャクーガの怪人! 愛由香を離しなさい! あなたの狙いは私でしょ?」
残念ながらフォーチュンリングのない今の私はフォーチュンピンクになることはできない。
生身ではおそらくこの怪人には立ち向かえないだろう。
せめて愛由香だけでも逃がさなくては・・・

「ゲロロロロ・・・俺様はジャクーガの怪人カオガエールだ。お前たちはフォーチュンナイツの司令官と仲がいいそうじゃないか。ゲロロロロ・・・そこで俺様がお前たちをそいつに対する罠に使用してやろうというのだ。ありがたく思え」
巨大な腹をゆすりながら口からはよだれをたらしているガマ怪人。
なんてこと・・・
私たちを人質にでもするつもりなんだわ・・・
そんなことは・・・

「ゲロロロロ・・・ムボーたちよ、その女を押さえつけろ」
「「キキーッ!」」
ガマガエル怪人の両脇にいた黒い連中が私を左右から取り押さえる。
くっ・・・
なんて力・・・
それにしてもこいつらは見たこともない連中だわ。
過去のジャクーガの戦闘員とは違って、全身頭からつま先まですっぽりと真っ黒。
しかもマスクをかぶったような目のくぼみや耳鼻の盛り上がりもなく、まるで黒いゆで卵のような頭部。
さらにくびれた腰や胸のふくらみなど、明らかにこいつらは女性形をしている。
いったい何者なの?

「ゲロロロロ・・・こいつらはムボーと言って、俺様の忠実なしもべ連中さ。俺様は人間の顔を食うのが大好きでな。気に入った人間、特に女の顔を食べるのさ」
「顔を食べる?」
「ゲロロロロ・・・そうだ。俺様に顔を食われた人間は、顔とともに人格や記憶なども俺様に消化され、顔のない生き人形のムボーとなるのさ。ゲロロロロ・・・」
腹をゆすって舌なめずりをするガマガエルの怪人。
なんと醜悪なのか・・・
人の顔を食べるだなんて・・・

「さらに面白いこともできるぞ。ゲロロロロ・・・」
ガマガエル怪人はそういうと、私の右腕を押さえているムボーとやらの顔に指先でへのへのもへじを書いていく。
すると、白い線で書かれたそのへのへのもへじがぐにゃりとゆがんでいき、むくむくと人間の顔になっていくではないか。
「え・・・嘘・・・そんな・・・」
見る見るうちにそのムボーとやらの顔が私の見知った顔になっていく。
「和美(かずみ)さん・・・」
顔が完成すると同時に頭部には髪が生え、躰には衣装が形作られる。
わずか数秒で、あの真っ黒な全身をしていたムボーは、かつて私たちフォーチュンナイツの本部で働いていたオペレーターの滝原(たきはら)和美へと変わっていた。
「キキーッ! 私は滝原和美の顔を着けていただいたムボー。カオガエール様、顔を作っていただきありがとうございます。キキーッ!」
私を抑えたまま嬉しそうに声を上げる和美さん。
いいえ、その中身はあの真っ黒なムボーなのだわ・・・
そんな・・・

「ゲロロロロ・・・こいつの顔を食ったことでお前の家もわかったわけだ。今ではこの通り俺様の忠実な人形であるムボーとなったのさ。本当はほかにも別人の顔を着けてやることもできるのだが、やはり本人の元の顔が一番しっくり来るらしくてな。顔を着けるときはたいてい元の顔を着けてやっている」
「そんな・・・」
「さて、お前の顔も食べさせてもらうぞ。ゲロロロロ・・・」
「い、いやっ! そんなこと!」
私は必死に逃れようと身をよじる。
しかし、ムボーにつかまれた両腕はびくともしない。
くっ・・・
フォーチュンリングさえあれば・・・
「ゲロロロロ・・・元フォーチュンピンクの味はいかがかな?」
ガマガエル怪人の口から大きな長い舌が伸びてくる。
「いやぁっ!」
私は必死に抵抗したものの、べろりと顔を舐められてしまう。
「んぐ・・・んぐ・・・これが元フォーチュンピンクの味か。なかなかに美味。結構甘みが強いようだな。ゲロロロロ・・・」
えっ?
何?
何がどうなったの?
「きゃぁーーー! ママーー!」
愛由香の叫び声だわ。
いったい何がどうなったの?
目も見えるし呼吸もできるし、音だって聞こえるわ。
「ママの顔がーー!」
私の顔?
私の顔がどうなったというの?
私の腕を押さえていたムボーたちの手が緩む。
私は急いでそいつらの手を振りほどき、自分の顔を触ってみた。
えっ?
何?
何なの?
私の顔・・・
私の顔が・・・
全然手に感じないわ!

ヒィーッ!
私は思わず叫び声をあげる。
いや、あげたつもりだった。
居間の鏡に映った私の顔は、まるでゆで卵のようにつるんとしていたのだ。
目も鼻も口も耳も髪の毛も何もない。
あるのはただ楕円形の卵のようなものが首の上に載っているだけ。
いやぁぁぁぁぁぁ!

「ゲロロロロ・・・うまかったぞ、元フォーチュンピンク。お前の顔は実にうまかった」
べろりと口の周りを舌で舐めまわしているカオガエール様。
えっ?
私は今なんて?
「ゲロロロロ・・・俺様の腹の中でお前の顔が消化されていくのだ。それと同時にお前の人格や意識も消化され、代わりに俺様の人形としての自我が形成されていく。ゲロロロロ・・・お前は俺様の忠実な人形のムボーとなるのだ」
そんな・・・
私は・・・
あれ?
私はいったい?
私の名前は?
どうしてこんなところに私はいるの?
私は?
私はいったい誰?

私の躰が黒く変わっていく。
着ていたものは消え去り、ただその躰のラインだけが覗いている。
足も手も躰もすべてが黒くなり、私のすべてが染まっていく。
私の前にはカオガエール様がいらっしゃり、私を見てくれている。
「キキーッ!」
私は右手を上げてカオガエール様に挨拶をする。
私のすべてをささげるご主人様。
カオガエール様。

「ゲロロロロ・・・どうやら消化が終わったようだな。もはや今までの自分などどうでもよくなっただろう?」
「キキーッ!」
はい、今までの自分などどうでもいいです・・・
「これからは生き人形のムボーとして俺様のために働くのだ。ゲロロロロ・・・」
「キキーッ!」
はい、カオガエール様のためなら何でも致します。
どうぞ何なりとご命令を・・・

「ママー! ママー!」
仲間に捕らえられて泣き叫んでいる少女。
ママがいなくなったのだろうか?
でも私には何の関係もない。
私はカオガエール様の命令に従うだけの存在。
カオガエール様、どうぞ私にご命令を・・・

「ゲロロロロ・・・次はお前だ。子供の顔の味はどんな味かな?」
「いやぁーっ! 助けてぇー!」
どうやらあの娘もカオガエール様に顔を食べていただけるらしい。
良かったわね。
あなたも私たちムボーの仲間になれるのよ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
悲鳴を上げる少女の顔をカオガエール様がひと舐めする。
舌が引き込まれると、少女の頭からは目も鼻も口も耳も髪の毛もすべてが消え去っていた。
とても素敵な無貌の頭部。
私たちと同じ頭部だわ。

やがてカオガエール様が口の周りを舌で舐めまわしていると、少女の躰が黒く染まり、小さなムボーが完成した。
「キキーッ!」
右手を上げて鳴き声を上げる小さなムボー。
私たちの仲間になった鳴き声だ。
おめでとう。

「ゲロロロロ・・・子供の顔はまだ味が若いな。まあいい、これでお前も俺様のムボーだ」
「キキーッ!」
新たな小さなムボーがカオガエール様に敬礼する。
仲間が増えるのはいい気分。
ともにカオガエール様にお仕えしましょうね。

「さて、これで罠の素材はそろったわけだ。二人とも来るがいい。ゲロロロロ・・・」
カオガエール様が呼んでいらっしゃる。
私はすぐにカオガエール様のそばに行く。
隣には小さなムボーもすぐに来る。
「ゲロロロロ・・・お前たちに顔を着けてやろう」
そうおっしゃって私の頭部に指でへのへのもへじを書いてくださるカオガエール様。
ああ・・・
なんて嬉しい・・・
カオガエール様に顔を着けていただけるなんて・・・

カオガエール様に書いていただいたへのへのもへじは、すぐにウネウネと変形し始めて私の頭部を変えていく。
目ができ、鼻が盛り上がり、耳が広がって口も作られる。
髪の毛も伸び、顔の色も黒から人間の肌の色へと変化する。
それと同時に躰のほうも変化をし始め、全身黒かった私の躰は、人間の女のようになって衣装も作られる。
先ほどまで鏡に映る私の躰は黒一色だったが、今ではよく見かける人間の女と変わりがない。
私は顔を着けていただいたのだ。
それも、ムボーとなる前の河城(かわしろ)恵美という女だった時の顔を。

「ゲロロロロ・・・これでいい。顔を着けたことでお前たちはもうしゃべれるはずだ。さあ、お前たちが何者か言ってみろ」
大きな腹を揺らしながらにたっと笑っているカオガエール様。
「キキーッ! 私は河城恵美の顔を着けていただいたムボーです。カオガエール様」
「キキーッ! 私は河城愛由香の顔を着けていただいたムボーです。何なりとご命令を」
私は隣にいる河城愛由香の顔をしたムボーとともにカオガエール様に敬礼する。
この顔を使ってカオガエール様のために働くのだ。
なんと素晴らしいことか・・・

「ゲロロロロ・・・それでいい。これからお前たちはその顔をした人間のふりをして、フォーチュンナイツの司令官を誘い出し、この薬で眠らせるのだ。いいな?」
「キキーッ! かしこまりました。ちょうど今晩この家に来る予定になっておりますのでその時に」
「キキーッ! この姿ならきっとあの女も油断すると思います」
私はカオガエール様から眠り薬を受け取る。
確か私の元となった女は今日はカレーを作ると考えていたはず。
薬を混ぜるにはちょうどいいわ。
くふふふふ・・・

「ゲロロロロ・・・今日来ることになっているのか、ちょうどいい。俺様は隠れているからしっかりやれ。お前も手伝うのだ。ゲロロロロ・・・」
「キキィーッ! かしこまりました。偶然遊びに来たことにして三人でフォーチュンナイツの司令官を出迎えます」
滝原和美の顔をしたムボーがカオガエール様にそう答える。
彼女の顔は元フォーチュンナイツのオペレーターだから、この家にいても不思議ではないわね。
たとえ眠り薬に気付かれたとしても、ムボーが三人いればフォーチュンナイツの司令官と言えども取り押さえることは可能なはず。

「それでは早速支度に入ります。キキーッ!」
「キキーッ!」
「キキーッ!」
私たちはそれぞれカオガエール様に敬礼すると、フォーチュンナイツの司令官を待ち受けるために台所へと向かう。
せいぜい美味しいカレーでもてなしてあげなければね。
くふふふふ・・・

                   ******

玄関の呼び鈴が鳴る。
どうやらターゲットが来たみたいね。
くふふふふ・・・
私たち三人は笑みを浮かべてほくそ笑む。
カオガエール様を悩ませるフォーチュンナイツ。
その司令官を今から罠にかけるのよ。
そう思うと私は笑みが浮かぶのを止められない。

「はぁーい」
私は精一杯の笑顔でターゲットを出迎える。
「こんばんはー。お邪魔します。いつもごめんね。はい、お土産」
ターゲットであるフォーチュンナイツチームの司令官田嶋(たじま)雪香が入ってくる。
その手にはデザート用にアイスクリームの箱を下げていた。
くふふふふ・・・
これから罠にかけられるとも知らずに、バカな女。

「あら、そんなのいいのに。さあ、入って入って」
私は愛想よくターゲットを室内へと迎え入れる。
「うーん、いい香り。今日はカレーね?」
「ええ、雪香の口に合うといいけど」
「恵美の甘いカレーは大好きよ。楽しみだわ」
全く疑いもせずに室内に入ってくるターゲットの田嶋雪香。

「えっ?」
と、その足が止まってしまう。
「和美さん? もしかして和美さんなの?」
驚いた表情の雪香。
無理もない。
私と愛由香の顔をした小さなムボーがいるだけと思っていたのだろう。
室内に三人目がいるとは思わなかったに違いない。

「お久しぶりです、雪香さん。いえ、今は田嶋司令なんでしたね」
滝原和美の顔をしたムボーが笑顔を浮かべている。
「今日、買い物に出かけたら偶然会ったのよ。それで思わず懐かしくて家に呼んだわけ。驚かせようと思って知らせなかったのはごめんね」
「そうだったの。驚いたわ。ほんと十年ぶりぐらいかしら。あのころはよくお茶とかしたものね」
「そうでしたね。懐かしい」
私たちは以前の顔をカオガエール様に着けていただいたおかげで、過去の記憶もいくらか持っている。
そのためこういう会話も問題なくできるのだ。

「さあ、座って座って。愛由香がお腹を空かせているわ。みんなでお食事にしましょう」
あまり昔話をしていては、何かのはずみで疑われないとも限らない。
それにお待たせしているカオガエール様にも申し訳ないわ。
私はターゲットを席に着かせ、薬の入ったカレーをふるまった。

                   ******

「う・・・うーん・・・」
ゆっくりと目を開ける田嶋雪香。
くふふふふ・・・
きっと驚くでしょうね。

「うーん・・・ここは? えっ? 私はいったい?」
目を覚ました彼女は思った通りに戸惑っている。
身動きできないように椅子に縛り付けられているのだから、それも当然か。
くふふふふ・・・

「恵美? これはいったい? 何かの冗談なの?」
縛り付けられた姿で私を見上げる田嶋雪香。
その様子を私とほかの二体のムボーが笑みを浮かべて見下ろしている。
「くふふふふ・・・冗談ではないわ」
「恵美! あなたいったい?」
「ゲロロロロ・・・そいつはもうお前の知っている女ではない。俺様のかわいい人形のムボーとなったのだ。ゲロロロロ・・・」
奥の部屋からのっそりと姿を現すカオガエール様。
ああ・・・
なんて素敵なお姿なのだろう・・・
あの方にお仕えしてると思うだけで、私は幸せを感じるわ。

「えっ? ジャクーガの怪人?」
「ゲロロロロ・・・俺様はジャクーガのカオガエール。お初にお目にかかる。フォーチュンナイツチームの田嶋司令」
巨体をゆすりながら一礼するカオガエール様。
「そんな・・・ジャクーガの怪人が・・・恵美たちに何をしたの?」
「ゲロロロロ・・・俺様がこいつらの顔を食って、俺様のかわいいムボーにしてやったのだ。ゲロロロロ・・・お前たち、正体を現すがいい」
カオガエール様の命令に、私たちは両手を顔の前で広げて上下させ、着けられた顔を消していく。
顔が消えると同時に躰も変化し、私たちは本当のムボーの姿へと戻っていく。
目も鼻も口もない、すべてが真っ黒の人形であるムボー。
これが私の本当の姿なのよ。
くふふふふ・・・

「そんな・・・こんなことって・・・」
私たちの本当の姿を見た田嶋雪香が絶句している。
顔などというものがあるからあんな無様な表情をさらさなくてはならないんだわ。
私たちはムボー。
顔などないから、あんな表情をすることはないの。
素晴らしいことだわ。

「ゲロロロロ・・・こいつらにはこんなこともできるぞ」
そう言ってカオガエール様が私たちに近づいてくる。
そしておもむろに私たち三人にまた顔を書いてくださった。
私の顔はすぐに変化し、目や鼻や口ができて髪も生えてくる。
躰もすぐに変化し、服などの身に着けているものもできていく。
ああ・・・なるほど・・・
カオガエール様ったら。
くふふふふ・・・

「ひっ! わ、私? 私が三人も?」
目を丸くして驚いている田嶋雪香。
目の前には彼女と同じ顔をして、彼女と同じ身体つきをした女が三人立っているのだ。
カオガエール様は私たち三人に田嶋雪香の顔を着けてくださったのだ。
私たちは三人ともが同じ姿に変化していた。
小さなムボーも身長が伸び、同じ姿になっている。
椅子に座らせられている本物と比べても、おそらく違いが分かる人間はいないだろう。

「ゲロロロロ・・・まあ外見だけならこのように完全に擬態することができるが、いかんせん中身が薄いのでな。できれば本人をムボー化するのが一番というわけだ。元フォーチュンイエローよ。ゲロロロロ・・・」
「くっ! 私を思い通りにできるなどと・・・私は絶対に・・・」
「ゲロロロロ・・・元フォーチュンイエローの味、たっぷりと楽しませてもらうぞ。ゲロロロロ・・・」
キッとにらみつける田嶋雪香に、カオガエール様の長い舌が伸びていった。

                   ******

「キキーッ!」
新たに産声を上げる一人のムボー。
ゆで卵のようにつるんとした頭と、女性らしいボディラインを持つ真っ黒な姿。
私たちの新たな仲間ね。
その生まれたばかりの新たなムボーに、カオガエール様がへのへのもへじを書いていく。
すると見る間に顔ができていき、躰も変化し始める。
やがて新たなムボーは、先ほどまでの姿であった田嶋雪香の姿をしたムボーへと変化した。

「キキーッ! 私は田嶋雪香の顔を着けていただいたムボーです。カオガエール様、何なりとご命令を」
「ゲロロロロ・・・お前はこれよりその姿でフォーチュンナイツチームの司令部へ戻り、田嶋雪香のふりをして内部よりかく乱するのだ。いいな? ゲロロロロ・・・」
「キキーッ! お任せくださいませカオガエール様。私は田嶋雪香のふりをして奴らを混乱させてやります」
にたっと笑う田嶋雪香の姿をしたムボー。
くふふふふ・・・
なんてすばらしいのかしら。
私も早く任務をいただきたいわ。
カオガエール様のためなら何でも致します。
どうかこのムボーにご命令を・・・
カオガエール様・・・

END

  1. 2018/06/03(日) 21:00:00|
  2. 洗脳・戦闘員化系SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:9
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コメント

感想

たいへん面白いお話しでした。

顔を奪って下僕化というアイデアは素晴らしいです。
更に顔を戻して擬態するなんて最高ですね。

いい作品ありがとうございました。
  1. 2018/06/03(日) 22:00:06 |
  2. URL |
  3. sen-goku #rFnOs2i6
  4. [ 編集]

顔を奪う能力を持った敵によって何かをされる話と期待しておりましたら、なるほどこういう手段になったのですね。

あえてその顔をっていうところが良かったです。
  1. 2018/06/03(日) 22:13:15 |
  2. URL |
  3. g-than #-
  4. [ 編集]

顔と共に記憶も奪って代わりに忠誠心が産まれるというのは良いですねー(*゚∀゚)=3
元の顔を付けられても記憶が戻ったりするわけでなく、本人は擬態しているにすぎないという心情も良かったです( ≧∀≦)ノ
  1. 2018/06/03(日) 22:38:55 |
  2. URL |
  3. IMK #-
  4. [ 編集]

タイトルを見てお面系かと思いきや、食べて消化し、同時に意識をムボー化していく展開は斬新ですねぇ。

ムボー化した後に、元の貌に戻った時の邪悪な悪メイク姿を想像して喜んでしまいました。

今日も楽しませていただきました。
ありがとうございます!
  1. 2018/06/04(月) 00:14:30 |
  2. URL |
  3. 満ゲツ #-
  4. [ 編集]

顔を食べて無個性化した上に、
顔を描いて様々な人間に擬態出来る素体人形にするのは良いアイディアですね。
あちこちに紛れ込ませて暗躍させられるので凄く便利そう・・・。
楽しませていただきました。
  1. 2018/06/04(月) 03:19:43 |
  2. URL |
  3. MAIZOUR=KUIH #gCIFGOqo
  4. [ 編集]

これは…予想以上に面白かった!

1アイデアで一味違う戦闘員モノとなってますね
まあなにせ顔は最大の個性といえるわけで
だからこそ食われたら自我も失い身も心も無個性な人形という説得力
そしてしまいにはただのマスクとして利用されるっていう…
弄ばれるその背徳的さにゾクゾクでございましたよ
この能力は他人に変身するだけじゃなくまだまだやれそうですね
堪能させてもらいました!(^ω^)
  1. 2018/06/04(月) 17:27:26 |
  2. URL |
  3. くろにゃん #rC5TICeA
  4. [ 編集]

皆様コメントありがとうございます

>>sen-goku様
顔を奪った後でへのへのもへじでも書いたら面白いなというのから発展してこうなりました。
だから書き込むのはへのへのもへじなんですよー。(笑)

>>g-than様
顔を奪って別の顔を着けるのではなく、あえて元の顔のほうがいい利点って何だろうかなと思ったらこうなりましたです。
楽しんでいただけて何よりですー。

>>IMK様
顔が奪われることで人形化し使役されてしまうっていいですよねー。
もはやムボーと化してしまった彼女たちにとって、顔は擬態の手段でしかないんでしょうねー。

>>満ゲツ様
特撮番組ですと絶対アイシャドウとか引いてますよねー。(笑)
そして邪悪な笑みを浮かべて、どう見たって気づくだろうという相手に気付かれないで接触するんでしょうねー。(笑)

>>MAIZOUR=KUIH様
初対面や久しぶりに会う相手とかに対するときはかなり有効に偽装できそうですよね。
姿は擬態できても記憶は擬態できないので、家族とか接触の多い友人とか同僚などには遅かれ早かれ気付かれそうですが、本人そのものをムボー化することで、そこもかなり改善できるのが本人をムボー化させるメリットなんですよね。

>>くろにゃん様
予想以上と言っていただきありがとうございます。
過去の自分自身であれ他人であれムボーにとっては顔は擬態のためのマスクに過ぎないんでしょうねー。
  1. 2018/06/04(月) 18:48:53 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

お久しぶりです。
最近はpixivのほうで時たま見ていました。

実は、こういうのが一番好みなんですよね。
文字通りの無個性となり、その上で首領の命に従って
以前の生活に戻りつつ情報収集や破壊工作にいそしむというのが。

だけど、意外とないんですよね、この手のMCもの。
エロゲ系もウェブ小説なんかも、
洗脳されると我が強くなる傾向が多くて。
 (女幹部にされるとかが、その典型ですね)
感想掲示板とかを見ても、
無個性化に惹かれる人ってあまり多くないと感じますね。

また、この手の作品、期待してます。
なんでしたら、この続きでフォーチュンナイツを一人ずつムボー化していただいても。
  1. 2018/06/17(日) 08:45:15 |
  2. URL |
  3. 通りすがりのMVマニア #6qCNEni2
  4. [ 編集]

>>通りすがりのMVマニア様
コメントありがとうございます。
あー、言われてみますと無個性化はあんまり見ないかもしれませんねぇ。
私も戦闘員化で無個性化させているつもりでも、それなりに自我が残っているものが多かったりしますしね。
怪人化や幹部化は確かに我が強くなる感じですもんねぇ。
個人的には無個性化は好きなので、またこういう作品は書いていきたいと思います。
ネタ次第なので、どうか気長にお待ちくださいー。
  1. 2018/06/17(日) 17:56:13 |
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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