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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

別れ

「グァスの嵐」第十回目です。

ご都合主義きわまれり・・・かな?

10、
右舷前方に現れたギャレーをミューは素早く見て取った。
「マスター、軍艦です。接触は回避したほうがよいとミューは考えます」
「お? どうやらどこぞのばか者がこの船の噂を聞きつけてきたようじゃな。ミュー、左に進路をずらすんじゃ。逃げるとしよう」
老人も年を取って老眼となった目でギャレーを認める。
左右のオールを規則正しく前後させ、先端の四角い帆をいっぱいに張って高速で接近してくるのが見える。
だが、心配は無い。
こちらは蒸気をいっぱいにすれば13ノットは優に出る。
あちらのギャレーは確かに全速で10ノット前後は出るだろうが、所詮は人力。
おそらく奴隷種族のラーオン人を多く使っているのだろうが、それでも全力でオールを漕げるのは一時間がせいぜいだ。
逃げ切ることはたやすいのだ。
老人がさほどの危機意識を持たずに蒸気船で行き来していた理由はここにある。
空間で狙われたとしても、振り切る自信があったのだ。
「はい、マスター」
ミューは投入口を開いて薪をどんどんくべていく。
ボイラーの温度が上がり、水蒸気がどんどん発生していく。
その水蒸気がピストンを動かして後部のプロペラの回転が上がる。
ぐーんと蒸気船は速度を上げ、進路を左舷に向けていく。
どんどん右前方から右後方へと遠ざかり始めるギャレーに老人はつい笑ってしまう。
「わははは・・・お前たちのような軍人がこのテオドロ・チアーノとミューの乗る蒸気船に追い付けるものか」
その老人の笑っている顔を見てミューも微笑みを浮かべるのだった。

左右のオールが必死に空気を掻いているというのに、ギャレーはじょじょに引き離されつつあった。
最初は相手の右舷前方にいたはずなのだが、今では相手の右舷後方を追いすがるような形になっている。
「なんだ? 一体奴はどれだけのスピードを出しているのだ?」
風向きがよくないにもかかわらず、オールも無いのにすごい速度だ。
「10ノット以上はでています。奴は化け物か!」
提督の言を艦長が引き継ぐ。
「逃がすわけには行かん。速度を上げろ!」
「しかし・・・これ以上の速度は十分が限界です。いくら大半がラーオン人でも限度がある」
艦長が首を振る。
「十分で追い付けばいい! それに奴らは怠け者だ。ムチの二三発も食らわせれば黙って漕ぐさ」
「しかし提督・・・」
「黙れ! ここで奴を逃がしてみろ、ワシも君もただではすまんぞ」
艦長の胸に指を突きつけて威嚇するエスキベル提督。
「・・・・・・」
艦長は唇を噛んで黙ってしまう。
「命令を下したまえ艦長!」
提督の怒鳴り声が響く。
その様子に副長も航海長も肩をすくめる。
「・・・わかりました。副長、最大戦速!」
「了解! 最大戦速!」
「最大戦速!」
しぶしぶ出された艦長の命令が、順送りで下甲板へ伝えられる。
すぐにオールの動きが速くなり、ギャレーの速度が上がって行く。
「現在速度、8ノット」
「もっと出せんのか!」
「無理です。これ以上はとても・・・」
艦長は首を振る。
いくらなんでもこんな速度を続けていたのでは奴隷が死んでしまう。
「これでは逃げられるぞ」
歯噛みするエスキベル提督。
目の前から遠ざかって行く自航船を、ただ黙って見送るしかできないのか・・・
彼は三角帽を甲板に叩きつけた。

後方に遠ざかるギャレー。
その姿はかなり小さくなってきている。
このままで行けば、あと十分もすれば振り切れるだろう。
老人もミューもそう思った瞬間だった。
突然大きな音がして、水蒸気が吹き上がる。
「ミュー!」
噴き出した高温の水蒸気がミューの姿を覆い、老人は驚いて叫び声を上げる。
「マスター、来ないで! ミューはこのぐらいの温度は平気です」
駆け寄ろうとした老人を手で制するミュー。
ミュー自身の外装はこのぐらいの高温では損傷は受けないものの、老人は大やけどをすることが確実だからだ。
水蒸気が逃げていくにしたがって、後部で回転していたプロペラの回転速度が落ちて行く。
それにつれて船足も遅くなる。
「ど、どうなったんじゃ?」
「マスター、申し訳ありません。強度不足により、ボイラーにひびが入ってしまいました。充分な強度を確保ししきれなかったミューのミスです」
ミューのミス?
いや、そうではあるまい。
鉄の作りが悪すぎたのだ・・・
粗雑な鉄で作れば強度が不足するのは当たり前。
このボイラーを作成した時にミューはそう言っていたではないか・・・
マスター、ミューはこのボイラーにはあまり圧力をかけたくありません・・・と・・・
やはり農機具しか作ったことの無い鍛冶職人では、均質な鉄の板を作るなど無理な話だったのだ。
だが、今はそんなことを言っている場合では無い。
「ミュー、直すことはできるのか?」
「はい、マスター。でも、それには時間が三十分は必要です」
すでにミューはボイラーの火を落とし始め、腕に仕込まれているレーザートーチを作動させるべく左手首を折り曲げている。
「三十分・・・」
老人は後方のギャレーを見る。
その姿は先ほどまでとは違い、再び大きくなってきていた。
オールの動きも激しく、かなりの速度を出していることは間違いない。
三十分もあればここへは優にたどり着くだろう。
間に合わない。
「ミュー、作業を続けろ」
「はい、マスター」
ミューは老人にうなずき、微笑みを浮かべる。
人間に安心感を与えるにはそれが一番なのだ。
「任せるぞ」
老人はそう言って船の船首部へ行く。
そこにはまだマストが残されており、帆を張りさえすれば帆走が可能なようになっていた。
老人は帆を張り始めた。

「艦長、相手の船足が止まりました!」
船首で見張りについている水兵が声を上げる。
「なんと? 何があったのだ?」
「何があろうと構わん。これは神が与えたもうたチャンスだ。追い付いて拿捕するんだ!」
身を乗り出して大声を上げるエスキベル提督。
「提督、相手は動けない様子。少し速度を落とされては・・・」
艦長は下甲板でオールを漕いでいる奴隷たちを思いやる。
優しさから出たものではなく、単純に戦闘力を失いたくないだけなのだが、提督には通じない。
「黙れ! あと十分ぐらいだ! ムチ打って漕がせるんだ!」
「て、提督・・・」
艦長は絶句する。
提督とてかつては一艦の艦長であっただろうが、提督となった今ではそのことは忘れ去られたのか?
それとも艦長であった時からこうだったのか?
艦長にはわからなかった。
「目標は帆を張っている模様!」
「見ろ! 相手は油断ならん連中だ! 一刻も早く拿捕するんだ。」
「わかりました」
艦長は敬礼し、その場を離れた。
自分の無力がひしひしと身に沁みた。

老人がロープを止め具に縛り付ける。
ばたばたと帆がはためき、ゆっくりと蒸気船を引っ張り始める。
ギャレーはかなり接近してきていたが、まだ追い付かれるには距離がある。
だが、一枚の帆では所詮出せる速度はしれていた。
ほんの少し追い付かれる時間を稼げるだけのことでしか無いだろう。
彼らに追い付かれた時、どうなるのか・・・
奴らはおそらく蒸気機関の仕組みを知って近隣諸国への脅威となるだろう。
そうならないようにひそかに各国の技術者に蒸気機関を広めようと老人は考えていたのだった。
そして、それ以上に気懸かりなのは・・・
おそらく奴らはミューをそのままにはしないだろう。
一体どんな目に合わされることか・・・
老人は決意した。

レーザートーチがパチパチと音を立て、ボイラーのひびの周囲を切り裂いていく。
その閃光がまぶしくて目が眩みそうだ。
しかし、ミューはまっすぐにその光を見つめている。
「ミュー、どんな具合かな?」
老人はそっとミューを背後から抱きしめる。
「あ、マスター、危ないです」
レーザートーチを慌てて切り、ミューは老人の腕を掴む。
「ミュー。しばらくこうさせてくれんか?」
「はい、マスター。修理はあと二十分ぐらいで終了です。しかし、それから圧力を上げるには・・・」
「いいんだ・・・もういいんだよ、ミュー」
ミューの躰は温かい。
まるで作られたなんてのは嘘のようだ。
いや、嘘に違いない。
「マスター? でも今のままでは、あと八分二十秒ほどでギャレーの追尾が成功します。よろしいのですか?」
「軍人なんぞに蒸気機関を渡したらろくなことにはならんわい。奴らはまたしてもわしの娘を奪って行くのか・・・」
老人の目に涙が浮かぶ。
「マスター?」
いつに無い老人の様子にミューは戸惑う。
今まで蓄積したデータが役に立たないのだ。
シナプス回路が適した行動を必死に探すが、うまく当てはまるものが無い。
「ミュー。今から言うことをよくお聞き」
ミューを振り向かせ、しっかりと正面から見据える老人。
「はい、マスター」
ミューの澄んだ瞳に老人の深くしわの刻まれた顔が映し出されている。
「今この時点を持ってミューをワシの支配から解き放つ。ワシはミューのマスターをやめる」
「えっ?」
ミューの顔に驚きの表情が浮かぶ。
あまり見せたことの無い表情だ。
それだけ今の老人の言葉がミューには理解しがたかった。
「マスター。それはどういう・・・」
「ワシはもうマスターではない。ミュー、ワシはもうマスターではないのだぞ」
老人はミューを再び抱きしめる。
「は、はい・・・ですが・・・」
「ミュー・・・奴らはお前を知れば、きっとお前を壊してしまう。そんなことはさせられんのじゃ」
ミューもそっと老人を抱きしめた。
「大丈夫です。ミューはそう簡単には壊されません。心配は無用です」
「ミュー。奴らを甘く見てはいかん。奴らはお前にきっとろくでもないことをする。その時にワシを殺すと脅すかも知れん。そんなことになったらワシは耐えられんよ」
「マス・・・チアーノ様」
マスターではないと言われたことに忠実に従うミュー。
「こうなったのもワシが悪いんじゃ。お前の言うとおりにしておけば・・・」
ミューに取りすがり泣き出してしまう老人。
「チアーノ様・・・」
ミューは優しく老人の背中をさすってやる。
ほんのわずか、時が止まったような静寂が訪れた。
「ミュー・・・いいマスターを探すんじゃぞ」
「えっ?」
ミューを振りほどいて老人は立ち上がる。
大きなフローティの木片を取り出すと、ミューの胴体に縛り付ける。
「チアーノ様、これは?」
「黙っておれ!」
老人はミューを黙らせると、木片を取り付けたミューを抱き上げてみる。
ほとんど重さを感じんか・・・大丈夫じゃな・・・
その感触に満足した老人は黙ってうなずいた。
「チアーノ様、これでは躰が浮いてしまいます。修理ができません」
「修理は必要ない。ミュー。しっかり生きるのじゃぞ」
「だめです、チアーノ様! それはだめですー!」
「マスターとしての最後の命令じゃ。おとなしくするのじゃ」
フローティによって躰の重さを失ったミューは、老人に軽々と抱え上げられてしまう。
「マスター!」
マスターとしての命令といわれたミューは混乱する。
今のミューには老人がマスターなのかマスターで無いのか一瞬判断に戸惑いを生じた。
「さらばじゃ、ミュー。お前との暮らしは楽しかったぞ」
老人にとってはその一瞬で充分だった。
老人はミューをたかだかと放り投げ、船から放り出した。
「マスターーーーーー!」
空中に放り投げられたミューはただ叫ぶしかできなかった。
  1. 2006/09/01(金) 21:59:28|
  2. グァスの嵐
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北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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