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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ホワイトプリム(Enne様作:g-than様画)

「舞方雅人の趣味の世界」の二周年記念として、いつもお世話になっていますEnne様よりSSを、g-than様よりそのSSのイラスト集をいただきました。

説明は・・・不要かと思いますので、どうか楽しんでいただければと思います。
それではどうぞ。

「ホワイトプリム」

「またくるよぉぉぉぉぉっ!」
光の中に包まれて崩壊して行く暗黒カフェ ホワイト・プリムの『ゲスト』。
セーバーチームの必殺技が炸裂し、『ゲスト』は砕け散ったのだ。
ヒトそっくりだけど、なんであんなおぞましいものをホワイトプリムは世に放つのだろう。
私はその様子をモニターで見ながらホッと息を吐く。
『こちらセーバーレッド。「ゲスト」は撃破した。他にいないか探ってくれ』
「了解、セーバーレッド。現在周囲にはホワイト・プリムの残党は潜んでいないようです」
私はすぐに周囲を全周探査してクリアなことを確認し、報告する。
「秋奈(あきな)ちゃん、みんなを撤収させてちょうだい。警戒も解除」
背後の一段高くなった位置から、司令の盛逸成実(もりはや なるみ)の指示が飛ぶ。
まだ若いものの、冷静沈着な司令官だ。
「了解しました」
私はいったん背後の司令にうなずくと、すぐにヘッドフォンのマイクに向かって指示を伝える。
「セーバーチームの皆さんは撤収してください。警戒態勢も解除になりました。状況終了です」
『了解した。セーバーチーム、撤収する』
セーバーレッドの永戸(ながと)さんが指示を受け取って、他のメンバーにも伝えて行く。
『秋奈ちゃん。政司(せいじ)は無事だよ。心配要らないからね』
「な、永戸さん!」
私はきっと真っ赤になっちゃったかもしれない。
そ、そりゃあお兄ちゃんのことは心配だけど、ここでモニターしているんだから無事なことぐらいわかるもん。
『秋奈! お前戦闘中もう少しましな指示よこせよな! 敵の位置とか的確に。隣の四釜(しかま)さんを見習え』
ヘッドフォンにお兄ちゃんの怒鳴り声が入ってくる。
「な、何よ! 私だって一所懸命やっているんだからね! そりゃ四釜さんのようには上手くできないけど・・・」
私は思わず言い返す。
私だってちゃんと指示を送っているつもりなのだ。
セーバーチームに頑張って欲しいのはみんな一緒なんだからね。
『秋奈ちゃん』
「あ、は、はい、永戸さん」
『大丈夫だよ。政司は憎まれ口を聞いているだけさ。俺たちには秋奈ちゃんのこと褒めているんだぜ』
『だ、誰が褒めているかよ! 薫(かおる)、変なこと言ってんじゃねえよ!』
『変なことか? いっつも秋奈もだいぶ上手くなったよなって言っているのは誰だっけ?』
セーバーグリーンの西下(にしした)さんだ。
おとなしい人だけど、怒らせると怖いんだぞってお兄ちゃんがいつも言ってる。
『うわわっ、誰がそんなこと言っているかよ! 了(りょう)てめえっ!』
『あははは・・・さあ、撤収しようぜ』
笑い声がヘッドフォンに交錯した。
セーバーチームは無敵だわ。

「お疲れ様でした」
制服を着替えて、警備員の前を通り過ぎる。
私たちオペレーターには交代要員がいて、半日ずつの勤務。
ホワイト・プリムの動き次第だけど、休日もちゃんとある。
でも・・・セーバーチームは交代要員も休日も無い。
お兄ちゃん・・・大変だよね。
日本の平和は俺が守るって意気込んでいるけど・・・
早くホワイト・プリムが壊滅して、平和な世界にならないかなぁ。
私は何の変哲も無い建物を、普通のOLのような顔をして出る。
まさか日本の平和を守るセーバーチームのオペレーターが、こんなところから電車通勤しているとは思わないでしょう。
私は駅へ向かって歩き出した。

あれ?
電車を降りた私はアパートへ向かって歩いていたが、人気の無い公園のところで何か物音がしたような気がしたのだ。
なんだろう?
もしかしたら誰かが乱暴されているのかもしれない。
私はよく考えもせずに公園に入り込む。
樹木が月明かりをさえぎって暗がりを作っている。
街灯の明かりもその暗がりには差し込まない。
私はそっとその暗がりに近づいた。

「気を失ったようね。連れて行きなさい!」
「「はい、お嬢様!」」
私は思わず息を飲んだ。
そこにいたのは、純白のドレスに身を包んだ暗黒カフェ ホワイト・プリムの女幹部インビーナと、カフェの女性型戦闘員「メイド」たち四体だったのだ。
頭部には特徴的な白いメイド・プリムと、それに黒いメイド服を着て、腰にはホワイト・プリムの紋章の入ったトレイを携え、両手には白手袋、両脚には白のニーハイストッキングと黒いメイド靴という姿で暗躍するメイドは、暗黒結社ホワイト・プリムの尖兵として『ゲスト』たちのサポートをする連中だ。
全員が女性の姿をしているのは、戦う男たちを萌え殺すためといわれるが、実はヒトじゃない、案外アリのような生き物なのかもしれない。
そういえば、都市伝説のように世間では、カフェに出入りすると『ゲスト』となり、ホワイトプリムの戦力になるのだとかそんな噂も流れていたっけ。
うん、いまは関係ないわ、メイドの足元にはセーラー服姿の少女が横たわっている。
大きな怪我はしていないようだわ。
どうやら気を失っているらしい。
塾の帰りにでもばったり奴らに出会ってしまったのだろうか。
何とかして助けなきゃ。

「もしもし、こちら粟端(あわはし)です。本部応答願います」
私は植え込みの影に身を隠し、セーバー本部に連絡を取る。
バッグの中から取り出したハンディタイプの通信機は、電波妨害に強い最新型。
のはずなんだけど・・・
イヤホンから聞こえてきたのはガリガリザリザリというノイズだけ。
なんてこと・・・これじゃ連絡取れないじゃない。
お兄ちゃんたちに来てもらわなくちゃならないのに・・・
あ、大変。
メイドがセーラー服の少女を抱え上げたわ。
このままじゃ連れて行かれちゃう。
ど、どうしよう・・・
公衆電話探している時間も無いよ。
どうしよう・・・

「引き揚げるわ。周囲を警戒なさい。カフェへの入り口を見つけられないように、よろしくて?」
にこりと笑って乗馬ムチを振るうインビーナ。
彼女の指示でメイドたちが公園の奥に向かって行く。
そうか、このまま後をつけて行けばホワイト・プリムのカフェがわかるんだ。
カフェを見つければセーバーチームにきてもらうこともできるよね。
よし、このまま後をつけよう。
彼女を見捨てるわけにいかないよ。
私はそっとメイドたちの後を追った。

どうやらあいつらは私には気がついていないみたい。
私はスパイ映画のヒロインみたく、できるだけ付かず離れずに付いていく。
インビーナは意気揚々とメイドたちを従え、先頭に立って歩いていく。
まだそれほど遅くない時間帯なのに、公園はしんとして静か。
きっと奴らが何か仕掛けをしているのかもしれない。
だから通信機も作動しないんだわ。

ええっ?
ここって?
公園の奥、市街地と公園とが入り組んでいる場所、これは病院かしら、あ、張り紙も、そっか使われなくなった病院なんだ。
きっとあの廃病院がカフェの出入り口なんだわ。
考えたものね。
ここなら公園の奥と入り組んでいて注意も惹かないものね、入り口がきっちり閉じられていないのも、いかにも見捨てられた場所って感じ。

インビーナが乗馬ムチをさっと振って、メイドたちを廃院の奥に入れていく。
黒いメイド服姿の女たちが一斉に病院に入っていくなんて、ちょっと異様かも。
でも、どうしよう・・・
あの少女も連れて行かれちゃう・・・
通信機はさっきからノイズばっかりだし・・・
あっ!
私は急いで身を隠す。
今、一瞬インビーナがこっちを見た?
こっちを見て笑ったような・・・
気のせいかな・・・
あ、入っていっちゃった・・・
どうしよう・・・

「もしもし・・・もしもし・・・」
ダメだわ・・・
聞こえるのはノイズばかり。
肝心な時に役に立たないんだから。
こうなったら公園の外へ出て公衆電話か通信機が回復するところへ戻るしか・・・
でも待って。
このまま戻ったら信じてもらえないかもしれないわ。
完璧なカムフラージュされていたら、いったん離れたらわからなくなっちゃうかもしれない。
ここは一度あの廃院を調べなきゃ・・・
セーバーチームのお仕事を少しでも減らすのも、オペレーターとしての任務よね。
私は意を決して、廃病院に近づいた。

「くっさーい・・・」
どうして使われなくなっていても病院って薬くさいのかしら・・・
私は思わず顔をしかめながら奥に入っていく。
そこには三つほどの病室があって、いずれもが扉は開いていた。
「うそ・・・誰もいない?」
私は目を疑った。
がらんとした広がりが各個室にあるだけで、ほかには何も無い。
「あいつらはどこへ行ったの?」
その時、私は病室の一つの床に何かが落ちていることに気が付いた。
ピンク色の四角いもの。
開いたドアの影でよく見えない。
私は仕方なくその病室に入って、ドアを閉めた。

ガクン
えっ?
いきなり床が沈み始める。
私は危うくバランスを崩しそうになったものの、どうにか壁によりかかって躰を支えた。
なるほどね。
ドアを閉めるとエレベータになっているのか。
やっぱりここがホワイト・プリムのカフェへの入り口なんだわ。
私はハンドバッグの中から護身用のスタンガンを取り出すと、あらためて落ちていたピンク色の物を拾ってみる。
なーんだ。
パスケースじゃない。
きっとあの少女のものだわ。
後で渡してあげなくちゃ。
私はパスケースをハンドバッグに入れ、スタンガンを構えてエレベータが止まるのを待った。

誰もいない?
エレベータが止まったところで扉が開く。
私はできるだけ壁に身を寄せて扉の向こう側を覗いてみた。
白く薄暗い通路。
奥の方で曲がっているのか、突き当たっているようにも見える。
無用心なのか・・・それとも侵入されることなど考えていないのか。
私は監視カメラみたいなものが無いかどうか確認する。
少なくともそれと思われるようなものは見当たらない。
とにかく、ここにいたらいつあいつらが戻ってくるかもしれないわね。
私はそっとエレベータをおり、通路を歩き出した。

静かな通路。
何か不気味さを感じるわ。
いったん戻った方がいいかなぁ。
でも・・・なんだかまっすぐ歩いているはずなのに、通ってきた後ろは真っ暗でよくわからない。
通信機はさっぱりだし・・・
どうしよう・・・
あ、扉があるわ。
とりあえず中を確認してみましょう。

「開いている?」
ドアノブは意外にもするりとまわった。
もしかして罠?
でも、いまさら遅いよぉ。
私は意を決してドアを開く。
そして素早く入り込んでドアを閉め、中の様子を窺った。

「だ、誰?」
薄暗がりの向こうから声が聞こえた。
え?
もしかして?
私は良く目を凝らして闇を見る。
あ・・・
どうやら部屋の奥、薄闇の向こうに鉄格子の嵌まった牢屋が設えてあるらしい。
しかも、そこにはあのセーラー服の少女が腰を下ろしていたのだ。

「大丈夫? 怪我は無い?」
私はすぐに鉄格子に駆け寄った。
「あ、あなたは?」
セーラー服の少女がすぐに起き上がって私の方に来る。
涙を浮かべている彼女はなんかとても可愛い。
「私は粟端秋奈(あわはし あきな)。セーバーチームの一員よ。助けに来たわ」
「セーバーチームの? ああ、ありがとうございます」
見るからにホッとした表情を浮かべる少女。
セーバーチームってこうしてみんなに安心を与えているんだわ。
「あなたは神宮(こうみや)さんね? パスケースを拾ったわ」
「はい、神宮弥生(こうみや やよい)です」
「珍しい苗字ね、普通はじんぐうって読んじゃうわよ」
「ええ、よく間違われます」
にこやかに笑顔を見せてくれる弥生ちゃん。
よかった、無事で。
そうとなったら脱出しなきゃ。

牢には頑丈な鍵が掛かっている。
それはそうよね。
捕らえた少女を逃がすわけにはいかないもの。
見張りもいないということは、鍵だけで充分と踏んだんでしょう。
「見張りがいないようだけど、鍵も持っていっちゃった?」
「ごめんなさい、よくわかりません。でも、そこらへんに置いてあるかも」
弥生ちゃんが首を振る。
仕方ないわよね。
気を失わされて連れて来られたんだもの。
「わかったわ。探してみるね」
私は薄闇の中、何か無いかと探してみる。
鍵さえあれば、弥生ちゃんを連れて脱出すればいいだけだ。

さすがに何も無い部屋。
鍵は見つからない。
そろそろあきらめて別の手を考えた方がいいかもしれないわね。
「粟端さん」
心細そうに牢の中で私を伺っていた弥生ちゃんが私を呼んでいる。
「秋奈でいいわよ。どうしたの?」
「壁の向こう側で声がするんです。こっちにくるみたい」
どうやら弥生ちゃんは彼女なりに様子を探ってくれていたみたい。
壁の向こうの音を聞いてくれていたんだ。
「本当? 来るのは一人?」
「一人みたいです。私の様子を確認しにくるみたい」
私はうなずいた。
一人ならばスタンガンで気絶させればいいし、上手くいけば鍵を持っているかも。
「わかったわ。入り口で待ち伏せしてやっつけちゃいましょう。どのみちここには隠れる場所が無いから、入ってこられたらばれちゃうわ。その前に・・・」
私はスタンガンを握り締める。
スタンガンと言ってもこれは強力なもの。
目盛りを最大にすれば、メイドぐらいは倒せるはず。
「気をつけてください、秋奈さん」
「ええ、任せて」
大丈夫大丈夫。
私はセーバーチームの一員。
ちゃんと護身術の訓練だって受けているんだから。

私は入り口のすぐ脇にへばりつき、敵が入ってくるのを待ち受ける。
メイドだったら、とにかくスタンガンで倒して鍵のありかを訊き出すの。
弥生ちゃんと一緒に脱出するんだから。

シュッと音がして扉がスライドする。
黒い人影が入ってきたその時、私は思い切りスタンガンを押し付けた。
「ギャウッ」
そのまま悲鳴を上げて崩れる人影。
私は急いで廊下を確かめ、他に誰もいないことを確認したところで、倒れたメイドを引きずり込んだ。

ピクリともせずに意識を失っているメイド。
見れば見るほどこいつってば人間の女性そのものだよね。
まさに、そこらへんからスタイルのいい女性を誘拐して、白いプリムと黒メイド服を着せ、ヒールの低いメイド靴と手袋を履かせましたって感じ。
でも・・・
まさか、本当にそうなんじゃ・・・
倒されたメイドを持ち帰って解剖したことがあるはずだけど・・・
人間とは違う生き物だって言っていたはず・・・
でも・・・
つやつやの唇は、女の人の唇そのものだよ・・・

「秋奈さん、どうですか?」
あっ、いけないいけない。
私は弥生ちゃんの言葉にハッとなる。
鍵を探さなきゃ。
って、ラッキー!
この腰のトレイと一緒に付けているのは鍵束じゃない。
ツいているぅ。
私は鍵束を手にとって、弥生ちゃんの閉じ込められている牢に向かう。
きっとこの中のどれかが牢の鍵に違いない。
私は一つずつ鍵を合わせ、どうにか弥生ちゃんを救出することに成功した。

気を失わせたメイドを弥生ちゃんの替わりに牢に入れて鍵をかける。
「さ、脱出よ」
私は弥生ちゃんにそう言うと、ドアをそっと開けて左右を見た。
薄暗い通路は静かで不気味。
でも、人影は無い。
私は後ろにいる弥生ちゃんにうなずいて見せると、彼女を連れてそっと部屋を出る。
こんなところはさっさと抜け出さないとね。
セーバーチームに知らせれば、お兄ちゃんたちがこんなアジトは破壊してくれるわ。
そのためにも一刻も早く・・・

変・・・だ・・・
この通路はまっすぐだったはず・・・
こんなところに曲がり角なんて・・・
迷った?
似たような通路だったから・・・
でも、一本道だったはず・・・
どうして?
私は少し焦っていた。
エレベータを降りて、一本道の通路をやってきたはずなのに・・・
部屋を出た時に左右を間違えた?
そんなはずないよ。
方向音痴じゃないもん。
でも・・・
それじゃどうしてエレベータに着かないの?

「秋奈さん・・・」
心配になったのか弥生ちゃんが背後から声をかけてくる。
「ん、何?」
私は努めて明るい声を出した。
内心の不安を知られるわけには行かないもんね。
「・・・大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。もう少しで出口よ」
私は自分自身に言い聞かせるようにそう言った。

突然、ウインウインウインと警報が鳴り始める。
いけない!
見つかった?
『メイドの皆さん、メイドの皆さん。確保した人間が脱走してよ。すぐに捕獲なさい!』
インビーナの声だわ。
きっと牢に入れたメイドが気がついたんだ。
どうしよう・・・

「秋奈さん、大変。後ろから足音が」
弥生ちゃんが不安そうに私の肩を叩く。
振り向いた私の耳にも、確かに複数の足音がこちらに近づいてくるのが聞こえてきた。
この通路は左右を壁に囲まれたトンネル状の通路。
前後を挟まれたら逃げ場所はない。
「弥生ちゃん、走るわよ!」
「はい」
私は弥生ちゃんを引き連れて走り出す。
お願い・・・
エレベータにたどり着いて・・・

『はい、お嬢様』
『はい、お嬢様』
私は足を止める。
前からもメイドたちの声がするのだ。
「秋奈さん・・・」
「弥生ちゃん、ごめんね。どうやら挟まれちゃったわ」
私は必死に左右を見る。
どうにか逃げ場は・・・
あった!
通路の脇にドアがある。
何があるかわからないけど、このままここにいるよりはずっとマシ。
「秋奈さん」
「うん、あそこに隠れよう」
私は弥生ちゃんを連れてドアのところに行き、手を掛ける。
幸い鍵は掛かっておらず、ギイという音を立ててドアは開いた。
私は素早く中を覗く。
中は真っ暗で、何となくひんやりしていた。
どうやら敵の気配はないわね。
隠れるには都合が良さそう。
「弥生ちゃん、入るよ」
「はい」
私は弥生ちゃんをカバーするようにして部屋に入り、ドアを閉じた。

『はい、お嬢様』
『はい、お嬢様』
ドアの向こうではメイドたちの声が錯綜している。
きっと私たちを見つけられないで焦っているのかもしれない。
どうにかここを脱出しなきゃ・・・
私はともかく弥生ちゃんは民間人。
なんとしても助けなきゃ・・・
「秋奈さん・・・」
私の上着の裾をそっと握り締めてくる弥生ちゃん。
心細いんだわ。
私がもっとしっかりしなきゃ。
「大丈夫よ弥生ちゃん。絶対にここから連れ出してあげるからね」
「はい」
不安そうにしながらも笑みを見せてくれる弥生ちゃん。
えらいなぁ。
私を励ましてくれているんだわ。
ありがとう。

闇の中、寄り添って壁に背中を付け座り込んでいる私たち。
通路からはメイドの声はもうあまり聞こえない。
どうやら助かったようね。
でも、油断は禁物。
もう少し様子を見た方がいいわ。
「秋奈さん・・・あれ、なんでしょう?」
弥生ちゃんが闇の中を指差す。
薄暗い通路だったとはいえ、それでも明かりのあった通路からこの真っ暗な部屋に入ったのだ。
闇に目が慣れるまでは少しかかった。
「あれは・・・」
部屋自体はさほど広くない部屋だ。
いくつもの箱が置いてあり、上からは何か薄っぺらなものがぶら下がっている。
私は立ち上がると、そのぶら下がっているものを見に行った。

「メイド服?」
ぶら下がっていたのは、なんとあのメイドたちの着ているような漆黒のメイド服だった。
白くてレース飾りのような襞の付いたメイド・プリムといっしょに吊るされたメイド服。
これって、つまりメイドたちの衣装ってことよね。
「これって・・・メイド服ですか?」
弥生ちゃんも驚いたのか口元に両手を当てている。
「そのようね。でも、これはチャンスだわ」
「チャンス?」
弥生ちゃんに私はうなずいた。
メイドがどのように作られているのかはともかく、この衣装を着てメイドに変装したら、きっと怪しまれずにこのアジトを出ることができるわ。
「これを着て奴らの仲間に変装するの。そうしたら、怪しまれずに行動できるわ。出口も探しやすくなる」
「でも・・・そんなに上手く行くでしょうか? それに・・・着ても大丈夫なんでしょうか?」
弥生ちゃんの心配ももっともだわ。
でも、今のままじゃ、他に手段がないことも事実。
細心の注意を払って着れば、何とかなると思うわ。
「ここを抜け出すまでの間だけ。ここを抜け出したらすぐに脱ぎましょう。だからほんのちょっとだけ我慢して」
私の言葉にしぶしぶうなずく弥生ちゃん。
当然だよね。
私だってこんなところでメイド服着るなんて思わなかったもん。
でも、今のカッコじゃすぐ見つかっちゃうわ。
仕方ないのよ。

私は手を伸ばすと、ぶら下げられているメイドプリムとメイド服を取り外す。
すべすべした手触りがなんだかとても素敵。
これを素肌に着るって、もしかしてすごく気持ちいいのかも・・・
何を考えているの、私?
私は首を振ると、なんだか飾り文字のようなロゴの入った手近な箱を開け、一式全てを取り出した。
うわぁ・・・
白い目の詰まった繊維でできたような手首までの丈の手袋。
かかとが低いヒールと靴先が丸く、足の甲をバンドで止めるようになっているメイド靴。
真っ白な繊維でできているオーバーニーストッキングのようなもの、それに同じ色の下着?それからそれからこのやたらふわふわしてるのは。
わかった、メイドたちのスカートをふっくら膨らませている切り替えしが、わぁ5段にもなってるペチコート・・・のようなものだわ。
そして、暗黒カフェホワイト・プリムの紋章の入ったシルバートレイ。
まさにメイドのコスプレセットだわ。
どうしてこんなものが・・・
やっぱり中身は女の人?
そういえば女幹部インビーナだって普通の女性と変わりない姿だわ。
暗黒カフェの連中、人間と同じ姿をしているのかも・・・

見ると弥生ちゃんもメイド服を取り外して、コスプレセットを広げている。
こんなところで真剣にコスプレしようとしているなんて、なんか私たちって間抜けっぽいね。
「まず、私が着てみるね。外から見てて変だったらすぐに教えて」
「はい」
真剣な表情でうなずく弥生ちゃん。
可愛いなぁ。
こんな妹欲しいなぁ。
お兄ちゃんじゃ可愛らしさどころか、かっこよさもないもんね。

私は意を決すると、上着もスカートもブラウスも脱いでいく。
弥生ちゃんのじっと見つめる視線がちょっと恥ずかしいけれど、服のうえから着るわけにいかないもんね。
靴を脱いで、ナチュラルベージュのパンストも脱ぎ・・・
「ご、ごめん。ちょっとだけ後ろ向いてくれる?」
女同士でも何となく恥ずかしい。
「えっ? 下着も脱ぐんですか?」
弥生ちゃんが驚いた。
「うん。メイドたちが何させられるのかよくわかっていないから、スカートとかまくられたりすると困るでしょだから下着も交換しないとまずいと思うの」
「あ、はい。わかりました」
くるっと振り向いて私に背を向けてくれる弥生ちゃん。
私も弥生ちゃんに背を向けながら、ブラとショーツを脱いでいく。
ひんやりした空気が肌寒い。
まずはこれよね。
私は裸になったところで、急いで下着のようなものと白のオーバーニーストッキングのようなものを手に取った。
サイズ的に問題は無いと思うけど・・・
伸縮性有りそうだし・・・
でもこれって・・・
確かに形はオーバーニーストッキングにそっくりだけどもっとつやつやすべすべ・・・
どうやって編み上げたのかしら1箇所の継ぎもないわ見たところ伸縮部分も無いように見えるし。
穿いても下がってくるんじゃないかなぁ。
メイド服着るから大丈夫なのかな?
でも、それにしたって・・・
私は少しの間目の前のストッキングのようなものを見つめていた。
とにかく裸でいるわけにいかないわ。
私は気を引き締めると、くしゃくしゃとつま先を手繰り寄せ、右足から通していった。

「ひゃぁっ」
「ど、どうしたんですか?」
思わず私が上げてしまった声に、弥生ちゃんが心配して声をかけてくる。
「あ、いや、なんでもないの。なんでもない」
私は思わず首を振る。
穿いた瞬間の肌触りがあまりにもよくて思わず・・・なんて言えるわけないもんね。
それにしてもなんて肌触りなの・・・
すべすべしてするすると肌を滑るように引き上げられる。
つま先から足首の辺りはきゅっと引き締まるように密着して、そのまま太ももまで張り付いてくるよう。
両脚入れて腰まで引き上げると、しわも一切なく、完全に肌に吸い付いてくる。
ずり下がる気配なんてまったくない。
こんなストッキング初めてよ。
いつも穿いているストッキングとは全然違うわ。
私はちょっと脚を動かしてみる。
まったく問題なく肌に密着しているわ。
すごい。

もしかしたら、私は少し呆けていたかも。
それほどこのストッキングの履き心地はよかったのだ。
ストッキングでこれなら・・・ペチコートやメイド服なら・・・
私の心臓はドキドキと激しく打つ。
私・・・興奮している?
メイド服を着るのを楽しみにしている?
ち、違うよ・・・
これは仕方なく着るんだから・・・
私はメイド服をそっと手に取る。
すべすべした感触が気持ちいい。
ちょっとだけ・・・
ちょっとだけ・・・ね・・・
私はメイド服に頬擦りする。
気持ちいい・・・
すべすべで気持ちいいよぉ・・・

心地よさを満喫した私は、次にメイド服を着ようとしてふと気がついた。
これって・・・どうやって着るのかな?
開口部は頸回りのわずかな部分だけ。
まさかここから躰を入れられるとは思えない、エプロンドレスをスカートのほうからかぶるなんてなんかいやだし。
でも、他には開口部なんて・・・
あら?
ここが開いている。
メイド服の背中にあるシーム部分が開いているのだ。
なるほど、これならここから着られるわ。
でも、ファスナーもマジックテープのようなものもない。
一体どうやって留めるのだろう。
メイドの背中が開いていたなんて聞かないし・・・
ええい、考えていてもしょうがない。
今はこれを着て変装することが大事なのよ。
私はメイド服の背中にある開口部を広げ、脚から通していく。
ショーツを穿くように両脚を通して腰までたくし上げ、次に胸のあたりまで持ち上げて両腕を片方ずつ通していく。
袖口から両手を出すと、今度は前からかぶりこむようにして、首周りの開口部に頭を入れていく。
ペチコートのふくらみがちゃんとスカートの中に収まったのを確認してから、背中を閉じるだけに整えていく。
すべすべの生地が肌にさらさらと擦れていくのがとても気持ちいい。
「弥生ちゃん、背中を見てくれる?」
私は弥生ちゃんにお願いした。
もしかしたら見逃していただけで、ファスナーが隠れていたのかもしれないし、そうじゃないにしても、素肌が出ていないか確認してもらわなきゃ。
「はい、もうそちらを向いてもいいですか?」
「いいよ。もう着ちゃったから」
私は全身を包み込む滑らかな生地の感触を楽しみながら、エプロンドレスと胸元のリボンの位置を整えた。
メイドたちもこんなふうに緊張しながら見られているのだろうか?
頸周りのレースのような襟元の立ったカラーを整えてリボンをきゅっと締めると気分までしゃっきりする
最後に頭部を飾る特徴的なあのメイドプリムは、髪の毛もきゅっと留めつけてる。
そのため整髪に困ることはないけれど、きっと恥ずかしすぎるって思っていたのだ。
でも、そんなことはまったくない。
これで完成って気がするよ。
それに暗い部屋の中なのに、プリムを付けた途端にものがはっきり見えた。
きっと何かの仕掛けがあるのかもしれないわ。
だからアジト内が薄暗いのも納得いく。
きっとかえって明るすぎると気恥ずかしいからじゃないのかな。

「背中・・・どうすればいいんですか?」
私の背後に回ってくる弥生ちゃん。
闇の中、さっきよりもすごく気配を感じ取れる。
まるで全身が神経になったみたい。
これなら暗闇の中でも問題なく動けそう。
「背中開いているでしょ? 素肌が出ていないか見てくれる?」
「えっ? 開いてなんてないですよ。ていうか、開いていたんですか?」
「えっ? 開いてない?」
弥生ちゃんがふしぎそうに訊いてきたことに私は驚いた。
あれほど明確に開いていたのに・・・
「背中、何もないですよ。開いているどころか縫い目もないですよ」
「ええっ? 本当?」
私は躰をくねらせて背中を見てみようとする。
でも見られるはずもない。
まあ・・・いいか。
開いてないならそれでいいよね。
それよりも・・・
全身がふわふわするメイド服とストッキングに包まれる。
あはあ・・・
気持ちいいわぁ。
これってすごく気持ちいいよ。
メイドたちはみんなこんな感触を味わっているのかな?
それとも人間が着たからなのかな?
どっちにしても、この感触は素晴らしいよぉ。
「秋奈さん・・・秋奈さん!」
「はあ・・・素敵ぃ・・・」
私はきっと艶めかしい声を出していたに違いない。
だって、すごく気持ちよくて淫靡な気分になっちゃいそうなんだもん。
全身をくまなく愛撫されるようなそんな感じ・・・
もう最高・・・
「大丈夫ですか? 変じゃないですか?」
弥生ちゃんが心配してる。
変なわけない。
こんなに気持ちいいんだもん。
絶対変なわけないよ。
「大丈夫。さ、弥生ちゃんも着るのよ」
私は全身を包む心地よさに捕らわれながら、弥生ちゃんにもこの感触を味わって欲しいと思っていた。

「どう? とっても着心地がいいでしょ?」
私はストッキングとメイド服を身につけた弥生ちゃんに訊いてみた。
確かに背中の開口部は綺麗に消えている。
どういう仕組みなんだろ。
脱げなくなったりしたら大変かなぁ・・・
「はあん・・・はい、とっても・・・」
うっとりとした笑みを口元に浮かべている弥生ちゃん。
その笑みはとても淫蕩だ。
きっとあまりにも気持ちよくて蕩けるような気分になっているに違いない。
「はい、メイド靴と手袋。トレイも忘れないでね」
私がそれらを差し出すと、弥生ちゃんはこくんとうなずいて受け取り、無言でそれらを身につける。
ストッキングを穿いた弥生ちゃんの綺麗な脚が、メイド靴に差し込まれていき、両手に履いた白手袋をぎゅっぎゅっと握って指になじませる。
私は何となくその仕草に見惚れ、ただただ弥生ちゃんを眺めていた。
最後にトレイを腰に携えた弥生ちゃんは、一瞬躰をピクッとさせる。
あ、しまった!
何かあるとまずいと思って、私が先に全てを身につけるつもりだったのに、弥生ちゃんが着ていくのを見ているうちに先に全部つけられちゃった。
「弥生ちゃん、大丈夫?」
私は心配になる。
メイド服そのものは問題なくてもメイド靴やトレイに仕掛けがあったかも・・・
「えっ? なんともないですよ」
あっさりと拍子抜けするような弥生ちゃんの返事。
「ホント? なんかピクってなったから」
「そうですか? 特に何も・・・」
すっかりメイドの姿になった弥生ちゃんが首をかしげる。
わあ・・・
全身のラインが美しい・・・
すごく似合うよ・・・
私も似合うかなぁ・・・
「ならいいけど・・・」
私は弥生ちゃんが問題無さそうなのを確認して、自分の手袋とメイド靴を身につける。
最後にトレイを腰に携えて完成。
トレイを抱えたとき、一瞬全身に電気が走ったような気がして、すごく気持ちよかった。

全て身に付け終わった私たちは、どこから見ても立派なホワイト・プリムの女性型戦闘員、そう「メイド」だ。
「うん、これでいいわ」
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私はメイドの姿になった弥生ちゃんとお互いの姿を確認すると、今まで私たちが着ていた服やバッグなどをひとまとめにする。
これをどうにかしないと、もし見つかったりしたら私たちがメイドの姿をしているってばれちゃうわ。
どこかに隠さないと・・・
見つけた。
あれはダストシュートだわ。
ごみにしてしまえば見つかることもないはず。
全てごみとして処分してしまおう。
弥生ちゃんには悪いけど、ここから無事に帰ったら弁償するからね。
「弥生ちゃん、手伝って」
「えっ? どうするんですか?」
「ごめんね、悪いんだけど、この服とかバッグを処分するの。これが見つかったら変装しているのがばれちゃうでしょ」
私はとりあえず持てる分を持ってダストシュートのところへ行く。
閉じられたシューターの蓋を開け、中を覗きこんでみた。
下に向かって口が開いており、ここから投げ込めばちょっとやそっとでは見つかりそうにない。
「服・・・捨てちゃうんですか?」
「ごめんね。ここから脱出したら私が責任持って弁償するから」
私は両手を合わせて拝みこむように頭を下げた。
セーラー服も下着も何もかも捨てるって言われたら、そりゃあ困るよね。

『・・・・・・』
えっ?
今何か?
「弥生ちゃん、今何か言った?」
「えっ? いえ、別に何も」
「そう・・・」
なんか聞こえた気がしたんだけど・・・
気のせいか・・・
「じゃ、まず私のから捨てるね」
不安そうな弥生ちゃんの口元。
全身を白と黒で覆われている弥生ちゃんはとても可愛い。
て素敵だわ。
それにスタイルもいいから、メイド服がよく似合っている。
私もそうなのかな・・・
そうだといいな・・・

服も下着も靴もバッグも通信機も何もかもダストシュートに投げ捨てる。
通信機はちょっと躊躇ったものの、持っていることがばれたら取り返しがつかないので、やむを得なかった。
これで私がセーバーチームのオペレータ粟端秋奈であることを証明するものは何も無いはず。
メイドの一員としてごまかせるはずよね。
「ごめんね、弥生ちゃん。弥生ちゃんのもちょうだい」
弥生ちゃんは黙ってうなずくと、セーラー服や白のソックス、黒革の靴やカバンを手渡してくれた。
私はそれらを全てダストシュートに放り込み、弥生ちゃんの痕跡を抹消する。
これで私たちはメイドの一員。
アジト内をうろついても怪しまれることは少ないはず。
さあ、脱出路を探さなきゃ。

「弥生ちゃん、『はい、お嬢様』って言ってみて」
「えっ? はい、お嬢様・・・ですか?」
弥生ちゃんが不思議そうにする。
でもこれは重要なこと。
私たちはメイドなんだから。
「そう、『はい、お嬢様』。これはメイドたちの鳴き声って言うか発声なの。メイドとして行動するならこれは欠かせないわ」
「は、恥ずかしいですね・・・」
弥生ちゃんのメイド・プリムをつけた可愛い横顔の口元がほんのり染まる。
そりゃあ、私だって恥ずかしいけど・・・
この格好をしている以上仕方ないじゃない・・・
「いい、ちょっと練習するよ? はい、お嬢様!」
私はメイドたちがよくやる背筋を伸ばしてするお辞儀をしながら声を出してみる。
あは・・・
なんか別人になったみたいで気持ちいいね。
「は、はい、お嬢様・・・」
最後は蚊の鳴くような声になっちゃう弥生ちゃん。
きっと恥ずかしさでいっぱいなんだろうな。
でも、両手はちゃんと胸元のところで重ねあわせている。
スタイルいい弥生ちゃんはメイド服がとてもよく似合っていた。
「弥生ちゃん。今の私たちは暗黒カフェ ホワイト・プリムの女戦闘員、そうメイドなんだよ。恥ずかしがることないよ。プリムつけてればメイドなんて十把一からげ」
確かにプリムをつけてれば「メイド」でとおるだろう。
でも、個性は何となくある気もするんだけどね。
・・・ううん、メイドはメイドなりに一生懸命に働いてるんだよ、可愛いし。
「はい、お嬢様! はい、お嬢様! はい、お嬢様!」
弥生ちゃんは何度か声を出して練習してる。
もしかしたら努力家なのかも。
敬礼も何度も繰り返して可愛いなぁ。
「うん、その感じ、忘れないでね」
「はい、お嬢様!」
「あはは・・・」
弥生ちゃんがメイドの「鳴き声」で返事したので、私は思わず笑っちゃった。

「さ、行くよ」
「はい。じゃなかった、はい、お嬢様」
私は思わず笑みを浮かべると、ゆっくりとドアを開ける。
うわぁ・・・
通路がすごく明るい。
さっきまでとはまったく違うわ。
やっぱりメイドたちに合わせて作ってあるようね。
左右を見るけどメイドたちの姿はなし。
よし、このままエレベータに向かって行けばいいわね。
「ついてきて、弥生ちゃん」
私は先に立って、通路をエレベータに向かって歩き出す。
先ほどまでは迷路のように感じたこのアジトが、今は手に取るようにわかる。
この通路を右に行けば司令室。
この部屋は動力室。
あっちはメイドの居住区。
外部へのエレベータは・・・こっちね。
私は自信を持って角を曲がる。
もう迷うことはないわ。

と、曲がり角からそっと通路を伺っていた私たちの前を、一列になった三人のメイドたちが通り過ぎていく。
みんな背筋がスラリと伸びて、いかにも目的のために働いているって感じがする。
いつもお兄ちゃんの後ろにくっついている私とはずいぶん違うわ。
やっぱりかっこいいよね。

あれ?
彼女たち何か言っている?
彼女たちが立ち去っていく時に何か聞こえたような・・・
違う?
今も聞こえる?
なんだろう・・・
私はその囁くような声に耳を・・・ううん、全身の神経を向けた。

『・・・フェ・・・もべ』
『・・・身を・・・び』
『・・・に・・・を・・・服従』
『カ・ぇ・・・栄光・れ』
よく聞き取れない。
でも意味があるような・・・
ううん、すごく大事なことのような気がする・・・
不快じゃない・・・
何となく心地いい・・・
もっと聞いていたい・・・

カツコツという足音。
私たちのブーツの足音とは明らかに違う音。
それが私たちの向かっているエレベータの方からやってくる。
「秋奈さん」
どうやら背後の弥生ちゃんも気が付いたらしい。
不安そうな声に内心が現れている。
「だ、大丈夫。堂々としていればばれない」
私もそう言うのが精いっぱい。
心臓はドキドキ。
全身から冷や汗が出そう。
私は振り返って逃げ出したい気持ちを必死に抑え、ゆっくりと歩みを進める。
こんなところで逃げ出したら、変装している意味がなくなってしまう。
できるだけ普段の行動と見せかけなきゃ。

最悪だわ。
通路の向こうから歩いてきたのは、純白のドレスを身に付けた暗黒カフェ ホワイト・プリムの女幹部インビーナ。
人間と変わらない姿は、メイドのように顔をうつむけてなんかいない。
黒いショートの髪にサークレットを嵌め、白いロンググローブを嵌めた手には乗馬ムチを携えていらっしゃる。
逆らうことなどできない素敵なお嬢様だ。
背後に二体のメイドを従えて歩いてくる姿はまさにお嬢様。
思わずひれ伏してしまいそうだわ。
私はできるだけ平静を装いつつ通路の端に直立して、お嬢様が通り過ぎるのをやり過ごそうとした。

カツコツとお嬢様の白いパンプスの足音が響く。
私も弥生ちゃんも生きた心地がしない。
お願い・・・
早く通り過ぎて・・・
思わず目をつぶってしまう。

足音が止まる。
心臓がキューッと締め付けられるよう。
「あなたたち」
インビーナお嬢様の威厳ある声が響く。
「私はインビーナなのよ。お辞儀を忘れていてよ!」
しまったぁ・・・
お辞儀するのを忘れていたわ。
「は、はい、お嬢様」
「はい、お嬢様」
私は慌てて背筋を伸ばし、たどたどしく声をあげる。
私の脇では弥生ちゃんもどうにか声をあげてお辞儀をした。
「ふふふ・・・」
私はどきっとする。
インビーナが笑っているのだ。
何かおかしなところがあったのだろうか・・・
私はもう全身から冷や汗がにじみ出そうな思いで立ち尽くす。
でもすごい。
全然このメイド服はべたつかないわ。
これだけ汗をかけば、べたついて当然なのに・・・
「どうやらあなたたちは作られたばかりのようね。そんなあなたたちがどこへ行こうというのかしら? うん? 320号」
320?
私のこと?
ど、どうして?
私はハッと気がついた。
私の身につけている腰の銀のトレイ。
このトレイにはホワイト・プリムの紋章と数字が入っていたのだ。
まさしくその数字は320。
これはメイドのナンバーだったんだわ。
「そ、それは・・・」
私はどうにかこの場を逃れるべく頭を働かせる。
作られたばかりの新人ということなら、多少の変な行動はごまかせるかもしれない。

「ん? 馬鹿っ!」
突然インビーナのムチが私を打ち据える。
私はいきなりの肩口への一撃に、思わずその場にしゃがみこんだ。
「作られたばかりだからって、ナンバーが先の者より前に出るなんて何事? このお馬鹿っ!」
私は何がなんだかわからずに、肩口の痛みに顔をゆがめる。
「す、すみません。お赦しを・・・」
痛みをこらえながら、私は土下座をするようにお嬢様に頭を下げた。
今は逆らわない方がいい。
とにかくこの場を乗り切らなきゃ・・・
「あなたもあなたね!」
お嬢様の乗馬ムチの先がすっと弥生ちゃんに向けられた。
「は、はい、お嬢様・・・も、申し訳ありません」
弥生ちゃんも何がなんだかわかっていないと思うけど、とにかく彼女も頭を下げる。
一体何がいけなかったの?
「ほぼ同時に作られたのでしょうけど、ナンバーが一つでも少ない者は先輩として行動する。それがメイドの行動理念ではなくて? どうかしら、319号!」
あ・・・
弥生ちゃんは319号だったんだ・・・
私が先に歩いちゃいけなかったんだ・・・
なんてうかつ。
先輩メイドより先に立つなんて・・・
責めを受けて当然だわ。
私ったら・・・
「申し訳ありません。私がおろかでした。メイド319号より先に歩くなど、あってはならないことでした。お赦し下さいませ」
私は必死に頭を床にこすり付けるようにしてあやまった。
お嬢様だけじゃなく、弥生ちゃんにも失礼なことしちゃったんだもの・・・
どうか赦してください。

「いいわ、よろしくてよ。今回だけは許してあげる、だけど、ふらふらどこに行くつもりかしら?」
お嬢様のお言葉が重くのしかかる。
脱走しようとしていたなんて言えるはずがない。
「は、はい、お嬢様・・・アジト内の確認です。脱走した人間の捜索に協力しようと・・・」
319号の弥生ちゃんが何とかごまかそうとしている。
あまり追求しないで下さい、インビーナお嬢様。
「そう。それなら他のメイドに任せるがいいわ。あなたたちはわたくしについていらっしゃい」
ええっ?
お嬢様とご一緒するなんて・・・
「は、はい、お嬢様・・・しかし」
弥生ちゃんもどうにかついて行かずに済ませようとしてくれている。
ごめんなさい、私の数字が後なばかりに・・・
「口答えするつもり? 躾けがなっていないようね」
ビュッとインビーナお嬢様のムチが空を切る。
「はい、お嬢様! 申し訳ありません。お供いたします」
319号の弥生ちゃんの背筋が伸びる。
私はただひれ伏して、事の成り行きを見ているしかない。
「320号をつれて付いてらっしゃい。いいわね」
「はい、お嬢様! かしこまりました。320号! いつまで這い蹲っているの? 立ち上がってお嬢様にお辞儀をなさい!」
私はその言葉に弾かれたように立ち上がる。
そして全身に緊張をみなぎらせて背筋を伸ばし、これ以上はない態度でインビーナお嬢様にお辞儀をする。
「はい、お嬢様!」
「ふ・・・」
インビーナお嬢様は何か笑みを浮かべると、私と319号を交互に見て、おもむろに背を向ける。
そしてインビーナお嬢様に付き従うメイド41号と173号の後に続き、私たちは通路を歩き出した。
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『・りム・・・もべ』
『・・・身を・・・ことは・・・』
『・・・すべて・・・絶対・・・』
『・・・栄光・』
ずぅっと聞こえてくるこの囁き。
なんだかとても心地いい。
思わず私自身がそうつぶやきたくなるような気がする。
でも・・・
でも・・・
なんか変じゃない?
私の中で何かが警告を発している。
いけない・・・いけない・・・
心地よさに惑わされてはいけない・・・
そんな気がするわ。

「319号、320号、あなたたちは別命あるまでここで待機なさい。いいわね!」
連れてこられたドアの前でインビーナお嬢様がそう命じる。
命令には絶対服従。
「はい、お嬢様!」
私と319号はすぐさま両手を腰の前で重ねるとお辞儀をする。
背筋を伸ばして、胸を張ってお辞儀するのはとても気持ちがいい。
「うふっ」
インビーナお嬢様はにっこりと微笑まれると、二人のメイドを連れて通路を歩き出す。
私はその後ろ姿が見えなくなるまでお辞儀をし続けると、319号に続いてドアをくぐった。

ドアの中はこじんまりとした部屋だった。
作り付けのベッドがあり、テーブルも置かれている。
きっとメイドにとっての小間使い部屋なのだろう。
ベッドの広さから言って二人用だわ。
「私たちは別命あるまで待機よ。ゆっくりしましょ、320号」
319号がそう言ってベッドに腰掛ける。
黒いメイド服に包まれた姿がとても素敵。
柔らかそうな太ももは、純白のストッキングで包まれている。
「はい、319号」
私は少し間を開けて、319号の隣に腰掛けた。
柔らかなベッドがすごく心地いい。
メイドって、決して使い捨てなんかじゃないんだわ。
私はそれがすごく嬉しかった。

ベッドに腰掛けた私は、なんだか眠くなってきた。
319号は先ほどから何かをつぶやいているし・・・
そういえば・・・今は何時なんだろう・・・
今まで私って何していたっけ?
確か・・・セーバーベースからの帰り道・・・
私は弾かれたようにハッとなる。
私ったら何を・・・
すっかりメイドとしてこんな部屋で落ち着いて・・・
私は思わず自分の両手を見る。
白くつややかな手袋を嵌めた両手。
力強く、メイドの活動を支える両手。
違う!
違う違う!
この服だ。
この服が私をおかしくしちゃう。
メイドであることを喜んじゃう。
私は隣の319・・・違う違う、えーと・・・弥生ちゃんだ!
弥生ちゃんの方を振り向いた。

「・・・しもべ・・・」
「・・・を捧げる・・・喜び・・・」
「・・プリム・・・お嬢様・・・服従を・・・」
「・・・栄光・・・」
私はぞっとした。
弥生ちゃんはさっきからそうつぶやいていたのだ。
あの声。
耳元で囁いていた心地よい声。
あの声が囁いていた言葉。
私たちメイドにとっての大事な誓い・・・
メイドにとって?
誓い?
違う違う!
いけない、このままじゃ・・・
私は弥生ちゃんを正気づかせるために頬を張ろうとする。
先輩メイドである弥生ちゃんを叩こうとすることは、すごく勇気が要ることだったけど、私は必死で弥生ちゃんの頬を張る。
「弥生ちゃん! しっかりして!」
一瞬敵意とも言うべきものを弥生ちゃんより感じたものの、頬を押さえた弥生ちゃんの口元が少し緩んだ。
「320・・・じゃない、秋奈さん?」
「ごめん、悪いけど、すぐそれ脱いで!」
「えっ、ええっ?」
私は弥生ちゃんの返事を聞かずに、すぐにメイド靴を脱がし始める。
「や、やめてよ320号。こ、これを履いていないとお嬢様にご奉仕が・・・」
弥生ちゃんは脚を引っ込めようとするけど、私はやめるつもりはない。
右足のメイド靴を脱がせ、左足も脱がせにかかる。
「ごめんね弥生ちゃん。でもこれを着ているとおかしくなっちゃうの。メイドになっちゃうのよ」
「メイドに・・・?」
弥生ちゃんの躰がピクッと固くなる。
「だから脱がなきゃならないの。ごめんね」
私は左足の靴を脱がせ、ストッキングに包まれた脚を解放する。
後はトレイも手袋も外しちゃって・・・
「本当なんですか? 本当にメイドになっちゃうんですか?」
「確信はないけれど・・・でも、弥生ちゃんだって自分の名前よりもナンバーのほうがしっくりする気がしたでしょ?」
「そ、それは・・・」
口ごもる弥生ちゃん。
もしかして脱ぎたくないのかも・・・
私はどきっとした。
弥生ちゃんを脱がせることだけ考えていて、自分が脱ぐときのことを考えていなかった・・・
このメイド服を脱ぐ?
裸になるの?
以前の衣装は処分しちゃったし・・・
でも・・・
脱がなければ・・・
私は首を振って再度弥生ちゃんのトレイに手を掛ける。
「恥ずかしいかもしれないけど我慢して」
「わ、わかりました。わかりましたから手を離してくれませんか? 自分で脱げますから」
弥生ちゃんが私を押しとどめた。
それもそうか。
いくら同性だって衣装を脱がされるのは抵抗あるよね。
「わかったわ」
私はうなずいて手を離す。

弥生ちゃんはしぶしぶながらだったのかもしれないけど、立ち上がってトレイを置いて、手袋を脱いでいく。
私はそれを横目で見ながら、自分のトレイや手袋を外し始めた。
心臓がドキドキする。
衣服を脱ぐことがこんなにも苦しいことだなんて・・・
脱ぎたくない・・・
私の中で何かが命令してくるよう・・・
脱ぐな、脱ぐなって言ってくる。
ダメ!
脱がなきゃダメ!
脱がなきゃメイドになってしまうわ。
私はセーバーチームのオペレーターなんだから・・・

私はどうにかメイド服を脱ぎ捨てる。
必死に脱ぐって考えていたら、背中にスリットが入って脱げるようになったのだ。
今まで明るく感じていた室内が、メイド・プリムを外すと急に真っ暗な闇になる。
怖い・・・
こんな闇の中で裸でいるなんて・・・
いやだ・・・いやだよ・・・
でも、私は首を振り、必死の思いでストッキングも脱ぎ捨てる。
すっかり裸になった私は、手探りに近い状態でベッドの上からシーツを外し、それを躰に巻き付けた。
「ふう・・・」
真っ暗な中、とりあえずシーツにくるまれた私は一息つく。
弥生ちゃんはどうかしら。
私は暗がりの中に弥生ちゃんの姿を探した。

「すん・・・すん・・・」
弥生ちゃんは泣いていた。
私の言うとおりに裸になった弥生ちゃんは、肩を震わせて泣いていたのだ。
きっとつらい思いだったに違いない。
私だってメイド服を脱ぐのに必死の思いだったもん。
でも、弥生ちゃんは脱いでくれた。
私はそれが嬉しかった。
「弥生ちゃん・・・」
私は近づいて声をかけ、そっとシーツでくるんであげる。
恥ずかしいよね。
心細いよね。
こんな暗闇の中、裸でいるなんて耐えられないよね。
ごめんね。
私がこんな衣装を着て変装しようなんて言ったから・・・
「秋奈さん・・・」
弥生ちゃんが振り向いた。
闇の中でも涙に濡れた頬がわかる。
私は思わず抱きしめた。
「ごめんね、弥生ちゃん」
「秋奈さん・・・私怖い。裸でいるなんて怖い。着たいの・・・あのメイド服が着たいの」
弥生ちゃんは必死に私を見つめてくる。
でも私は首を振った。
「ダメ。それだけはダメ。あれを着たら敵の思う壺よ。私たちはメイドになっちゃう」
「敵? 敵ってなんですか? 本当にメイドになっちゃうんですか? 秋奈さんは確かめたんですか?」
「えっ?」
私はどきっとした。
そ、そりゃあ、確かめてはいないけど・・・
でも、あのメイド服を着ていたら・・・
着ていることがすごく気持ちよくて・・・
はい、お嬢様なんて言うようになって・・・
ダメ!
とにかくダメなの!
「ダメ! とにかくダメ! お願い弥生ちゃん。きっと助けが来るから。お兄ちゃんが助けに来てくれるから」
私はギュッと弥生ちゃんを抱きしめ、そう自分に言い聞かせた。

渇く・・・
渇く・・・
渇いていく・・・
露出しているのは耐えられない・・・
着たい・・・
着たい・・・
包まれたい・・・
闇の衣装に包まれたい・・・

暗闇の中、私は弥生ちゃんと二人でシーツにくるまって時を過ごす。
あれから何時間経ったのだろう・・・
何時間?
ううん・・・何日かもしれない・・・
メイド服・・・
メイド服・・・
すべすべしてとても気持ちいい・・・
着たい・・・
着たい・・・
あの心地よさに包まれたい・・・

どうしてこんなところにいるんだろう・・・
私たちはここで何をしているんだろう・・・
心が渇く・・・
じりじりと焼き尽くされるような思い。
裸だから・・・
裸だから心が渇く・・・
満たされたい・・・
漆黒の闇に包まれたい・・・

「秋奈・・・さん・・・」
弥生ちゃんが顔を上げる。
ずっとうつむいて躰を震わせていた弥生ちゃん。
「弥生ちゃん・・・もうすぐだよ・・・もうすぐ・・・」
何がもうすぐ?
もうすぐ何だと言うの?
変だ・・・
頭が働かない・・・
思うことはただ一つ・・・
メイド服が着たい・・・
「秋奈さん・・・私・・・メイド服・・・着たい・・・」
弥生ちゃんの目が私を見つめてくる。
その目が必死に訴えてくる。
「ダメ・・・着てはダメ・・・」
私はもう何度言ったかわからない言葉を繰り返す。
着てはダメ・・・
なぜダメなんだろう・・・
「秋奈さ・・・ん・・・だったら・・・だったら触るだけ・・・触るだけでいいの・・・触るだけで・・・」
「ダメ・・・それでもダメ・・・」
「どうして? どうしてなの? 触るだけでどうしていけないの?」
弥生ちゃんの声がきつくなる。
「どうしてって・・・あれに触ったら・・・触っちゃったら・・・」
触ったら・・・どうだというの?
何があるというの?
わからない・・・
思い出せない・・・
暗闇の中でどうして私たちは裸でいるんだろう・・・
手を伸ばせば、すぐにメイド服が手に届く・・・
メイド服・・・着たい・・・
あのメイド服に包まれたい・・・

「め・イ・ど・・・服・・・」
ふらっと立ち上がる弥生ちゃん。
何をする気かしら?
シーツがはずれ、暗闇の中に彼女の裸身が浮き上がる。
「メイ・・ど・ふ・く・・」
そのまま彼女はふらふらと脱ぎ散らされたメイド服やストッキングのところへ向かって行く。
いけ・・・ない・・・
私もシーツを纏ったまま立ち上がる。
メイド服はダメ・・・
メイド服はダメ・・・
私は半ば朦朧とする意識の中でそれだけを思っていた。

「はぁ・・・メイド服・・・」
弥生ちゃんがぺたんと床に座り込んでメイド服に手を伸ばす。
私は倒れこむようにして、その手の先にあるメイド服を奪い取った。

ああ・・・
なんて素敵な肌触りなんだろう・・・
これ・・・
これが欲しかったの・・・
私はこの瞬間に確信する。
このメイド服が私を満たしてくれるのだ。
このメイド服が私を包んでくれるのだ。
ああ・・・
私が飢えていたのはこの感触に包まれること。
このメイド服に包まれることだったんだわ。
私は手に取ったメイド服を思いっきり抱きしめた。

飢えた目で私をにらみつける弥生ちゃん。
私はうなずくと、抱きしめていたメイド服をそっと渡す。
このメイド服は弥生ちゃんのもの。
私のはあっちにある。
私をずーっと待っているのだ。
いつ着てくれるのかと言わんばかりに、私を待っている。
私は立ち上がるとシーツを放り出す。
こんなものに躰を包むなんてバカみたい・・・
私はすぐに私のメイド服を手に取った。

ストッキングに脚を通し、メイド服を身に付ける。
すべすべした肌触りがとても気持ちいい。
どうしてこれを脱いだりしたんだろう。
もう絶対に脱いだりしないわ。
これは私そのものなの。
私はこの衣装と一体なのよ。

ヒールの低いメイド靴を履き、両手には手首までの白手袋。
メイド・プリムに飾られた頭はすっきりとして周囲もよく見える。
「はい、お嬢様!」
再びホワイト・プリムの紋章の入ったトレイを携えた私は、すごく嬉しくなって叫んじゃった。
私の隣では、弥生ちゃんも同じように背筋を伸ばして立っている。
スタイルがいいからすごくよく似合う。
「はい、お嬢様!」
弥生ちゃんも嬉しそうに声をあげた。
ああ、なんて素晴らしいんだろう・・・
ホワイト・プリムに栄光あれ!

瞑想。
誓いの言葉。
ホワイト・プリムへの忠誠。
メイドとしての誇り。
私たちはそういったものを心行くまで味わう。

319号と一緒にする誓いの言葉の唱和。
「・・・しもべ・・・」
頭の中に囁かれる言葉と同じ言葉を紡ぐ319号の唇。
それがふと私に近づき、私の唇と重ね合わさる。
はあん・・・
全身を駆け抜ける電流のような快感が気持ちいい。
「・・・喜び・・・」
くらくらするような快楽に酔い痴れながら、私も誓いを唱和する。
そして、今度は私の唇が319号の唇と重なった。
赤く艶めかしい319号の唇。
「・・・服従・・・」
それが次の誓いの言葉を奏で、再び私の唇と重なり合う。
「ホワイト・プリム・・・」
私は誓いの最後のフレーズをつぶやきながら、319号と抱き合った。
もう私は迷ったりしない。
私はメイド320号。
この身はホワイト・プリムのもの。
もう以前の私ではないわ。

             ******

「うふふ・・・どうやら、完了したようね」
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私たちの前に立っていらっしゃるのはインビーナお嬢様。
純白のワンピースがつややかに輝いていらっしゃる。
だけどお嬢様が一体何のことを仰っているのか私にはわからない。
でも、インビーナお嬢様のお言葉は力強い。
私たちメイドを導いてくださる強さにあふれている。
「320号」
「はい、お嬢様!」
私はインビーナお嬢様にお辞儀をする。
番号を呼んでいただけるのは光栄なこと。
「あなたには特別任務についてもらうわ」
「はい、お嬢様!」
特別任務?
私はまだ作られたばかりだというのに・・・
「以前のあなたはセーバーチームのオペレーターだったわ。その記憶はあるわね?」
「はい、お嬢様! もちろんです。ですがそれは過去のことです。思い出したくもございません」
それは本当のこと。
あんな人間なんていう躾けの行き届かない生き物だったなんて考えたくも無いわ。
メイドであることは本当に幸せ。
「うふ・・・そう・・・それでいいわ。けれど、セーバーチームを壊滅させるためにはあなたの記憶が不可欠。わたくしに仕えなさい」
「はい、お嬢様! もちろんです。何なりと」
「セーバーチームの要、司令の盛逸成実を捕らえるの。よろしくて?」
インビーナお嬢様のご命令だわ。
「はい、お嬢様! かしこまりました。セーバーチームの司令官、盛逸成実を捕らえます」
私は胸を張って命令に答える。
命令は絶対服従。
それが躾けを受けたメイドの喜びなの。

「319号、あなたはこれからも320号の指導に当たってもらうわ」
えっ?
それは本当ですか、インビーナお嬢様?
私は思わず嬉しさに飛び上がりそうだった。
おそらくは別々に配属されるもの。
そう思っていた私にとっては、319号とこれからもともにあることができるのはすごく嬉しい。
インビーナお嬢様、ありがとうございます。
「よろしくて320号、あなたはわたくし達のホワイト・プリムへの昇華にとまどいと抵抗を感じていたわね?けれどそれを319号が導いてくれた。これはすばらしい事だわ」
ああ・・・
その通りです、インビーナお嬢様。
私はおろかにも人間であろうといたしました。
319号はそんな私を救ってくれたのです。
「320号、あなたはこれからも319号とともに行動し、メイドの喜びを自らのものになさい!」
「はい、お嬢様!」
「はい、お嬢様!」
私がインビーナお嬢様のお言葉に、大いなる喜びを感じて声をあげると、319号が続いて綺麗に和した服従の声をあげてくれた。

「よくってよ、では誓いの言葉を」
「「はい、お嬢様!」」
私と319号はうなずいた。
誓いの言葉。
私たちの頭の中にいつも語りかけられる言葉。
メイドにとっての大事な言葉。
それを口にすることは喜び以外の何者でもない。
「「ホワイト・プリムのしもべ」」
「「カフェに身を捧げることは喜び」」
「「カフェに全てを、お嬢様には絶対服従を」」
「「ホワイト・プリムに栄光あれ!」」
私は胸の奥から声を出し、319号とあの部屋で何度となく交し合った誓いの言葉を誇らしく宣言した。
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  1. 2007/07/17(火) 19:50:32|
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  4. | コメント:8
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コメント

メイド軍団

 えー、ずらりと並んだメイド軍団見て、思わず「円盤皇女ワるきゅーレ」の真田さん&ネコミミメイド軍団を思い浮かべてしまいましたw
  1. 2007/07/17(火) 20:56:01 |
  2. URL |
  3. 通りすがりのMCマニア #6qCNEni2
  4. [ 編集]

皆さんの素晴らしいコラボが見れてとても幸せです。
ありがとうございます。(^▽^)ノ
  1. 2007/07/17(火) 22:23:52 |
  2. URL |
  3. misyu #il1EYvco
  4. [ 編集]

これはまた…なんと申しましょうか…、新感覚ですね。
アレンジという観点からも大変面白いですし、洗脳という観点からも、舞方様の作品の良さを損なうことなく仕上げられていると思います。
イラストもまた素晴らしいですね。私の場合、さほどメイド好きというわけではないのですが、この作品のメイドは凄く良いです。
楽しませて頂きました。
  1. 2007/07/18(水) 01:42:54 |
  2. URL |
  3. 折尾楽太郎 #-
  4. [ 編集]

>>通りすがりのMCマニア様
うわ、そんなシーンがあったんですか。
確かにg-thanさんの描かれたメイドさんの集団は迫力ですよねー。
素晴らしいです。

>>misyu様
こういったコラボが楽しめるのも、ネットがあればこそですね。
g-thanさんとEnneさんのお二人には感謝感謝です。

>>折尾楽太郎様
ある意味パロディではありますが、パロディでありながらちゃんと自己主張してますよね。
こうしていじってもらえるのは作者としても嬉しいことです。
これからも多くの人に楽しんでもらえるようなSSを書いて行きたいですね。
  1. 2007/07/18(水) 20:48:34 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

閲覧いただき感謝、いやホント。舞方さんの「グレイバー」を拝見して、これでメイドさんに置き換えたら面白いよね、とその場のイキヲイでちょっと変換してみたわけです。最初は、ええ最初はネw。
そこにg-thanさんが乗ってくださったものですから、こりゃぁちゃんとおかしく無いように…まぁそんなのは所詮小手先、私のパートはたいした事は無いわけで、どうか皆さん、g-thanさんのドールアイメイドさんたちを愛でて上げてください。
  1. 2007/07/18(水) 21:55:43 |
  2. URL |
  3. Enne #XtDHfxHE
  4. [ 編集]

舞方さん>
MC系のコミュニティだと結構有名ですよ>真田さん&ネコミミメイド軍団

特に真田さん初登場の第1期3話が強烈です。
主の婿に近づく女性を洗脳光線でことごとくネコミミメイドにしてしまうんですからw
しかも、以降の話にも事あるごとに主や婿のお世話役としてネコミミメイド軍団が登場するんだから、下手な悪の組織よりはるかにたちが悪いです(笑)>真田さん
  1. 2007/07/18(水) 22:20:32 |
  2. URL |
  3. 通りすがりのMCマニア #6qCNEni2
  4. [ 編集]

舞方さん、Enneさんどうもお疲れ様でした~

100人のメイド戦闘員っていかがですかって言う
提案を受け、描かせていただくことになりましたが、
いざ仕上がってしまうと、すっかりご満悦です。(効率よく増殖させる方法をとってはいますが)

MCマニア 様>ワるきゅーレはすっかり忘れていましたね~、描いてる時はAikaだとかナジカ電撃作戦の方を気にしてたりしてました。
しかし真田さんの可愛さはガチ(笑)
  1. 2007/07/18(水) 22:45:42 |
  2. URL |
  3. g-than #-
  4. [ 編集]

>>Enne様
いつもながら素敵なアイディアをお持ちですね。
メイド戦闘員とは思いもよりませんでした。
自分の作品でありながら、まったく別のものになってしまったことに驚きです。
これからも楽しい作品をよろしくですー。

>>通りすがりのMCマニア様
なるほどー。
洗脳光線は良さそうですねー。
今度探してみますです。

>>g-than様
こちらこそ素晴らしいイラストを楽しませていただきました。
美しく無表情のメイドさんたち。
彼女たちを従えて悪事を働かせるというのも良さそうです。
ホワイトプリムの首領になりたいですね。(笑)
  1. 2007/07/19(木) 21:09:54 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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