ようやく書きあがったので、今日から五日間連続で中篇SSを一本投下いたします。
一日か二日ほど早いのですが、ちょうど七十万ヒットに到達するので、記念作品となりますね。
皆様に楽しんでいただければと思います。
1、
「グゲェェェェェ!」
光の中に包まれて崩壊して行く暗黒組織ルインの怪人。
セーバーチームの必殺技が炸裂し、怪人は砕け散ったのだ。
私はその様子をモニターで見ながらホッと息を吐く。
『こちらセーバーレッド。怪人は撃破した。他にいないか探ってくれ』
「了解、セーバーレッド。現在周囲にはルインの残党は潜んでいないようです」
私はすぐに周囲を全周探査してクリアなことを確認し、報告する。
「秋奈(あきな)ちゃん、みんなを撤収させてちょうだい。警戒も解除」
背後の一段高くなった位置から、司令の盛逸成実(もりはや なるみ)の指示が飛ぶ。
まだ若いものの、冷静沈着な司令官だ。
「了解しました」
私はいったん背後の司令にうなずくと、すぐにヘッドフォンのマイクに向かって指示を伝える。
「セーバーチームの皆さんは撤収してください。警戒態勢も解除になりました。状況終了です」
『了解した。セーバーチーム、撤収する』
セーバーレッドの永戸(ながと)さんが指示を受け取って、他のメンバーにも伝えて行く。
『秋奈ちゃん。政司(せいじ)は無事だよ。心配要らないからね』
「な、永戸さん!」
私はきっと真っ赤になっちゃったかもしれない。
そ、そりゃあお兄ちゃんのことは心配だけど、ここでモニターしているんだから無事なことぐらいわかるもん。
『秋奈! お前戦闘中もう少しましな指示よこせよな! 敵の位置とか的確に。隣の四釜(しかま)さんを見習え』
ヘッドフォンにお兄ちゃんの怒鳴り声が入ってくる。
「な、何よ! 私だって一所懸命やっているんだからね! そりゃ四釜さんのようには上手くできないけど・・・」
私は思わず言い返す。
私だってちゃんと指示を送っているつもりなのだ。
セーバーチームに頑張って欲しいのはみんな一緒なんだからね。
『秋奈ちゃん』
「あ、は、はい、永戸さん」
『大丈夫だよ。政司は憎まれ口を聞いているだけさ。俺たちには秋奈ちゃんのこと褒めているんだぜ』
『だ、誰が褒めているかよ! 薫(かおる)、変なこと言ってんじゃねえよ!』
『変なことか? いっつも秋奈もだいぶ上手くなったよなって言っているのは誰だっけ?』
セーバーグリーンの西下(にしした)さんだ。
おとなしい人だけど、怒らせると怖いんだぞってお兄ちゃんがいつも言ってる。
『うわわっ、誰がそんなこと言っているかよ! 了(りょう)てめえっ!』
『あははは・・・さあ、撤収しようぜ』
笑い声がヘッドフォンに交錯した。
セーバーチームは無敵だわ。
「お疲れ様でした」
制服を着替えて、警備員の前を通り過ぎる。
私たちオペレーターには交代要員がいて、半日ずつの勤務。
ルインの動き次第だけど、休日もちゃんとある。
でも・・・セーバーチームは交代要員も休日も無い。
お兄ちゃん・・・大変だよね。
日本の平和は俺が守るって意気込んでいるけど・・・
早くルインが壊滅して、平和な世界にならないかなぁ。
私は何の変哲も無い建物を、普通のOLのような顔をして出る。
まさか日本の平和を守るセーバーチームのオペレーターが、こんなところから電車通勤しているとは思わないでしょう。
私は駅へ向かって歩き出した。
あれ?
電車を降りた私はアパートへ向かって歩いていたが、人気の無い公園のところで何か物音がしたような気がしたのだ。
なんだろう?
もしかしたら誰かが乱暴されているのかもしれない。
私はよく考えもせずに公園に入り込む。
樹木が月明かりをさえぎって暗がりを作っている。
街灯の明かりもその暗がりには差し込まない。
私はそっとその暗がりに近づいた。
「気を失ったようね。連れて行きなさい!」
「「ルーィ!」」
私は思わず息を飲んだ。
そこにいたのは、赤いビキニ型のアーマーに身を包んだ暗黒結社ルインの女幹部インビーナと、結社の女性型戦闘員グレイバーたち四体だったのだ。
口元だけをのぞかせた頭部を覆うマスクと、それにつながった黒いレオタードを着て、腰にはルインの紋章の入ったベルトを締め、両手にはロンググローブ、両脚にはストッキングと黒いロングブーツという姿で暗躍するグレイバーは、暗黒結社ルインの尖兵として怪人たちのサポートをする連中だ。
全員が女性の姿をしているのは、戦う男たちを惑わせるためといわれるが、案外アリのような生き物なのかもしれない。
グレイバーの足元にはセーラー服姿の少女が横たわっている。
大きな怪我はしていないようだわ。
どうやら気を失っているらしい。
塾の帰りにでもばったり奴らに出会ってしまったのだろうか。
何とかして助けなきゃ。
「もしもし、こちら粟端(あわはし)です。本部応答願います」
私は植え込みの影に身を隠し、セーバー本部に連絡を取る。
バッグの中から取り出したハンディタイプの通信機は、電波妨害に強い最新型。
のはずなんだけど・・・
イヤホンから聞こえてきたのはガリガリザリザリというノイズだけ。
なんてこと・・・これじゃ連絡取れないじゃない。
お兄ちゃんたちに来てもらわなくちゃならないのに・・・
あ、大変。
グレイバーがセーラー服の少女を抱え上げたわ。
このままじゃ連れて行かれちゃう。
ど、どうしよう・・・
公衆電話探している時間も無いよ。
どうしよう・・・
「引き揚げるわよ。周囲を警戒しなさい。アジトへの入り口を見つけられないようにね」
にやりと笑って乗馬ムチを振るうインビーナ。
彼女の指示でグレイバーたちが公園の奥に向かって行く。
そうか、このまま後をつけて行けばルインのアジトがわかるんだ。
アジトを見つければセーバーチームにきてもらうこともできるよね。
よし、このまま後をつけよう。
彼女を見捨てるわけにいかないよ。
私はそっとグレイバーたちの後を追った。
どうやらあいつらは私には気がついていないみたい。
私はスパイ映画のヒロインみたく、できるだけ付かず離れずに付いていく。
インビーナは意気揚々とグレイバーたちを従え、先頭に立って歩いていく。
まだそれほど遅くない時間帯なのに、公園はしんとして静か。
きっと奴らが何か仕掛けをしているのかもしれない。
だから通信機も作動しないんだわ。
ええっ?
おトイレ?
まさかみんなでおしっこ?
なわけないよね・・・
きっとあの公衆トイレがアジトの出入り口なんだわ。
考えたものね。
公衆トイレから出入りするなんて想像もつかないものね。
インビーナが乗馬ムチをさっと振って、グレイバーたちをトイレに入れていく。
黒いマスクレオタード姿の女たちが一斉にトイレに入っていくなんて、ちょっと異様かも。
でも、どうしよう・・・
あの少女も連れて行かれちゃう・・・
通信機はさっきからノイズばっかりだし・・・
あっ!
私は急いで身を隠す。
今、一瞬インビーナがこっちを見た?
こっちを見て笑ったような・・・
気のせいかな・・・
あ、入っていっちゃった・・・
どうしよう・・・
「もしもし・・・もしもし・・・」
ダメだわ・・・
聞こえるのはノイズばかり。
肝心な時に役に立たないんだから。
こうなったら公園の外へ出て公衆電話か通信機が回復するところへ戻るしか・・・
でも待って。
このまま戻ったら信じてもらえないかもしれないわ。
完璧なカムフラージュされていたら、いったん離れたらわからなくなっちゃうかもしれない。
ここは一度あのトイレを調べなきゃ・・・
セーバーチームのお仕事を少しでも減らすのも、オペレーターとしての任務よね。
私は意を決して、公衆トイレに近づいた。
「くっさーい・・・」
どうしてこう公衆トイレってくさいのかしら・・・
私は思わず顔をしかめながら女性用に入っていく。
そこには三つほどの個室があって、いずれもが扉は開いていた。
「うそ・・・誰もいない?」
私は目を疑った。
清潔とはお世辞にもいえない便器が各個室にあるだけで、ほかには何も無い。
「あいつらはどこへ行ったの?」
その時、私は個室の一つの床に何かが落ちていることに気が付いた。
ピンク色の四角いもの。
開いたドアの影でよく見えない。
私は仕方なくその個室に入って、ドアを閉めた。
ガクン
えっ?
いきなり床が沈み始める。
私は危うくバランスを崩しそうになったものの、どうにか壁によりかかって躰を支えた。
なるほどね。
ドアを閉めるとエレベータになっているのか。
やっぱりここがルインのアジトの入り口なんだわ。
私はハンドバッグの中から護身用のスタンガンを取り出すと、あらためて落ちていたピンク色の物を拾ってみる。
なーんだ。
パスケースじゃない。
きっとあの少女のものだわ。
後で渡してあげなくちゃ。
私はパスケースをハンドバッグに入れ、スタンガンを構えてエレベータが止まるのを待った。
誰もいない?
エレベータが止まったところで扉が開く。
私はできるだけ壁に身を寄せて扉の向こう側を覗いてみた。
白く薄暗い通路。
奥の方で曲がっているのか、突き当たっているようにも見える。
無用心なのか・・・それとも侵入されることなど考えていないのか。
私は監視カメラみたいなものが無いかどうか確認する。
少なくともそれと思われるようなものは見当たらない。
とにかく、ここにいたらいつあいつらが戻ってくるかもしれないわね。
私はそっとエレベータをおり、通路を歩き出した。
静かな通路。
何か不気味さを感じるわ。
いったん戻った方がいいかなぁ。
でも・・・なんだかまっすぐ歩いているはずなのに、通ってきた後ろは真っ暗でよくわからない。
通信機はさっぱりだし・・・
どうしよう・・・
あ、扉があるわ。
とりあえず中を確認してみましょう。
「開いている?」
ドアノブは意外にもするりとまわった。
もしかして罠?
でも、いまさら遅いよぉ。
私は意を決してドアを開く。
そして素早く入り込んでドアを閉め、中の様子を窺った。
「だ、誰?」
薄暗がりの向こうから声が聞こえた。
え?
もしかして?
私は良く目を凝らして闇を見る。
あ・・・
どうやら部屋の奥、薄闇の向こうに鉄格子の嵌まった牢屋が設えてあるらしい。
しかも、そこにはあのセーラー服の少女が腰を下ろしていたのだ。
「大丈夫? 怪我は無い?」
私はすぐに鉄格子に駆け寄った。
「あ、あなたは?」
セーラー服の少女がすぐに起き上がって私の方に来る。
涙を浮かべている彼女はなんかとても可愛い。
「私は粟端秋奈(あわはし あきな)。セーバーチームの一員よ。助けに来たわ」
「セーバーチームの? ああ、ありがとうございます」
見るからにホッとした表情を浮かべる少女。
セーバーチームってこうしてみんなに安心を与えているんだわ。
「あなたは神宮(こうみや)さんね? パスケースを拾ったわ」
「はい、神宮弥生(こうみや やよい)です」
「珍しい苗字ね、普通はじんぐうって読んじゃうわよ」
「ええ、よく間違われます」
にこやかに笑顔を見せてくれる弥生ちゃん。
よかった、無事で。
そうとなったら脱出しなきゃ。
牢には頑丈な鍵が掛かっている。
それはそうよね。
捕らえた少女を逃がすわけにはいかないもの。
見張りもいないということは、鍵だけで充分と踏んだんでしょう。
「見張りがいないようだけど、鍵も持っていっちゃった?」
「ごめんなさい、よくわかりません。でも、そこらへんに置いてあるかも」
弥生ちゃんが首を振る。
仕方ないわよね。
気を失わされて連れて来られたんだもの。
「わかったわ。探してみるね」
私は薄闇の中、何か無いかと探してみる。
鍵さえあれば、弥生ちゃんを連れて脱出すればいいだけだ。
さすがに何も無い部屋。
鍵は見つからない。
そろそろあきらめて別の手を考えた方がいいかもしれないわね。
「粟端さん」
心細そうに牢の中で私を伺っていた弥生ちゃんが私を呼んでいる。
「秋奈でいいわよ。どうしたの?」
「壁の向こう側で声がするんです。こっちにくるみたい」
どうやら弥生ちゃんは彼女なりに様子を探ってくれていたみたい。
壁の向こうの音を聞いてくれていたんだ。
「本当? 来るのは一人?」
「一人みたいです。私の様子を確認しにくるみたい」
私はうなずいた。
一人ならばスタンガンで気絶させればいいし、上手くいけば鍵を持っているかも。
「わかったわ。入り口で待ち伏せしてやっつけちゃいましょう。どのみちここには隠れる場所が無いから、入ってこられたらばれちゃうわ。その前に・・・」
私はスタンガンを握り締める。
スタンガンと言ってもこれは強力なもの。
目盛りを最大にすれば、グレイバーぐらいは倒せるはず。
「気をつけてください、秋奈さん」
「ええ、任せて」
大丈夫大丈夫。
私はセーバーチームの一員。
ちゃんと護身術の訓練だって受けているんだから。
私は入り口のすぐ脇にへばりつき、敵が入ってくるのを待ち受ける。
グレイバーだったら、とにかくスタンガンで倒して鍵のありかを訊き出すの。
弥生ちゃんと一緒に脱出するんだから。
シュッと音がして扉がスライドする。
黒い人影が入ってきたその時、私は思い切りスタンガンを押し付けた。
「ギャウッ」
そのまま悲鳴を上げて崩れる人影。
私は急いで廊下を確かめ、他に誰もいないことを確認したところで、倒れたグレイバーを引きずり込んだ。
ピクリともせずに意識を失っているグレイバー。
見れば見るほどこいつってば人間の女性そのものだよね。
まさに、そこらへんからスタイルのいい女性を誘拐して、マスクつきの黒レオタを着せ、ブーツと手袋を履かせましたって感じ。
でも・・・
まさか、本当にそうなんじゃ・・・
倒されたグレイバーを持ち帰って解剖したことがあるはずだけど・・・
人間とは違う生き物だって言っていたはず・・・
でも・・・
黒く塗られた唇は、女の人の唇そのものだよ・・・
「秋奈さん、どうですか?」
あっ、いけないいけない。
私は弥生ちゃんの言葉にハッとなる。
鍵を探さなきゃ。
って、ラッキー!
この腰のベルトに付いているのは鍵束じゃない。
ツいているぅ。
私は鍵束を手にとって、弥生ちゃんの閉じ込められている牢に向かう。
きっとこの中のどれかが牢の鍵に違いない。
私は一つずつ鍵を合わせ、どうにか弥生ちゃんを救出することに成功した。
- 2007/07/02(月) 20:11:34|
- グレイバー
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