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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

妻も娘も失った男

ゴールデンウィークですので、一本SSを投下いたします。
タイトルは「妻も娘も失った男」です。

実はこのSSは、すでに約二年前にはできあがっていたのですが、いいタイミングで発表しようとか考えているうちに、どんどん時間がたってしまいました。orz

もともとこのSSはpixivでお世話になっておりますnezumi様のイラスト、「昆虫怪人」や、「怪人製造中」に刺激を受けて書いたものでして、さっさと公開しなくてはならないなぁとは思ってはいたのですが・・・ (^_^;)ゞ
(「」内タイトルをクリックでpixivに飛べます)

nezumi様のイラストを脳裏に浮かべながらお読みいただければと思います。
それではどうぞ。


妻も娘も失った男


それは一本の電話からだった・・・
仕事中の会社にかけられた妻からの電話。
パニックを起こしているのか、支離滅裂なことをわめきながら、とにかく帰ってきての一点張りだったため、仕方なく上司に早退の許可をもらって俺は家に帰った。

家に着くと、妻が泣いていた。
俺を見ると飛びついてきて、あの子が、智香(ともか)がと言ったきり、嗚咽を漏らすだけで要領を得ない。
何とか妻をなだめ、落ち着かせて話を聞き、そして俺は言葉を失った。

なんと智香の通う小学校が、テロリストに占拠されたというのだ。
あわててテレビを点けてみたが、どこにもそんなニュースは流れていない。
妻が言うには、今のところ報道管制がしかれているのだと言う。

発端は小学校から路上に飛び出してきた男だったらしい。
その男は、躰の半分がまるで焼け爛れたかのようにグズグズになっており、助け起こした人に苦しい息の下から、学校に化け物が現れ、占拠してしまったと言ったのだ。
化け物は学校の女性教師を取り込み、真っ黒な蟻のようなものにしてしまったらしい。
蟻になった女性教師は化け物の手先となって、ほかの女性教師を襲いだし、さらには女子生徒までもが化け物によって蟻にさせられたという。
男は酸によって溶かされるか、蟻となった女性教師や女子生徒の餌とされてしまったとも。

もちろん最初は怪我による男の精神異常と思われたが、学校に確認に行った警察官が二人とも戻ってこず、窓から全身真っ黒な女の姿を見かけたことから、学校で何かが起こったというのはほんとらしいというのだ。

確かに本当ならそろそろ家に帰ってきてもいい時間なのに、智香は戻ってきていない。
俺は背筋が冷たくなるのを感じていた。

                   ******

数日が経った・・・
智香は帰ってこなかった。
妻は憔悴し、食事ものどを通らないようだ。
俺も食欲がない。
我が家はまるで灯が消えたみたいだ。

学校で何があったのかはわからない。
情報が錯綜し、本当にわからないのだ。
突入した警官隊は誰一人戻ってこなかった。
機動隊も遠巻きに眺めるだけ。
学校の付近は立ち入り禁止になっている。
そして、黒い女たちが時々目撃された。
それはいずれも裸に近いような姿だが、全身は真っ黒で、口元だけが白く覗いているらしい。
眼はなく、額に一対の触覚が伸びていて、どうやらそれで周囲を把握するようだ。
お尻は巨大に突き出しているらしくまさに直立した蟻のような姿。
そしてその黒い女には、大人も子供もいるらしい・・・

やがて黒い女だけではなくなった。
黄色や白や茶色の女も現れたのだ。
それと同時に、奇妙なうわさが流れてきた。
黒い娘が帰ってくると、その家の母親がいっしょに消えるというのだ。
黒い娘とともにどこかへ行ってしまうらしい。
旦那さんはどうなったのか・・・
俺には悪い想像しか浮かばない・・・
智香・・・
頼むから無事に戻ってきてくれ・・・

                   ******

何度目かの眠れぬ夜を過ごしていると、不意に玄関が開いた音がした。
おかしいな、鍵はかけたはずなのに・・・
俺は様子を見にベッドを抜け出して玄関へ向かおうとする。
「あなた?」
隣で妻が眼を覚まし、俺を見上げた。
彼女もあんまり眠れていないようだ。
「もしかして智香が・・・」
それは彼女の心からの希望なのだろう。
「そこで寝ていなさい。俺が様子を見てくるから」
俺はそういうと部屋を出る。
後ろで小さく、気をつけてと言う妻の声が聞こえた。

リビングに入ったところで俺は足を止める。
闇の中に人影があることに気が付いたのだ。
「誰だ?」
俺はすぐに室内の明かりをつける。
明かりに照らされたその姿に俺は思わず息を呑んだ。

リビングにいたのは少女だった。
いや、少女のような姿をした何かだ。
それは頭から足の先まで真っ黒に覆われており、つややかに輝いている。
躰の線はまだ少女そのもののやわらかさを見せており、そこだけを見れば少女が奇妙な全身タイツを着ているようにも見えるだろう。
だが、頭は口元だけを除きすっぽりと覆われており、目も耳も髪の毛も存在しない。
額からは一対の触角のようなものが生えていて、小刻みに揺れている。
お尻のところには巨大な昆虫の腹部のようなふくらみが付いており、どう見ても蟻と少女が融合した生き物にしか見えなかった。

「うふふ・・・ただいまかな、パパ」
俺が何も言えずにいると、その蟻少女がそう口にした。
「ま・・・まさか・・・智香、智香なのか?」
「違うよー」
くすくすと笑う黒い少女。
「それは私が生まれ変わる前までの名前。私は女王様に生まれ変わらせていただいたの。今の私はクロアリ0125なの。間違えないでね」
笑みを浮かべたまま蟻少女はそう言った。
「クロアリ0125・・・」
「うん。見て。私の躰。素敵でしょ? 女王様に蟻にしていただいたのよ」
くるりと一回転して自分の躰を見せ付ける蟻少女。
「な、なんで・・・なんでそんな躰に・・・」
「うふふ・・・女王様がね、最初にこの服を用意してくださったの。最初は裸みたいで恥ずかしいって思ったけど、着るとすごく気持ちよくて・・・みんなで気持ちいいねって言っていると順番に女王様に呼ばれて、触覚とお尻を付けてもらって蟻になったの。香織ちゃんも沙耶ちゃんもみんな蟻になったんだよ」
それがとても楽しい思い出であるかのように無邪気に話す蟻少女。
俺は頭を何かで殴られたかのような気がした。
この蟻少女は智香なのだ。
人間のままの口元にほくろがある。
間違いなく智香のほくろだ。
「智香・・・」
「もう違うってばぁ。私はクロアリ0125なの。それよりママはいないの?」
触角をぴくぴくと震わせている蟻少女。
なぜだ・・・
なぜこんなことになってしまったんだ・・・

「あなた? もしかして智香が帰ってきたの?」
奥から妻がやってくる。
きっとリビングで話し声がしたからだろう。
俺はしまったと思ったが、もう後の祭りである。
「あ、ママだ。ママこんばんはー」
蟻少女がにこやかに話しかける。
「えっ? えっ? えっ?」
目の前の蟻少女がママと呼びかけることに混乱したのか、妻が困惑の表情を浮かべる。
「喜んで、ママ。女王様がね、ママも蟲にしてくれるんだって。ママもいっしょに蟲になろ。いっしょに女王様にお仕えしよ」
「な!」
俺は驚いた。
うわさはこのことだったんだ。
変わり果てた子供たちが、その母親まで連れて行ってしまうのだ。
そんなことはさせてたまるものか。

「ママ、これを着てね」
蟻少女が茶色の布のようなものを取り出す。
バサッと広げられたそれは、両手両足の付いた全身タイツ。
これを妻に着せようというのか?
「だめだ! 着ちゃだめだ!」
俺は思わず声を荒げる。
「もう、パパったら邪魔しないで! これを着ればママも蟲になれるんだよ。いっしょに女王様にお仕えすることができるんだよ」
俺が止めたことで、蟻少女は腰に手を当てて怒っている。
だが、あれを着せるわけにはいかない。
あれを着せたら妻も智香といっしょに行ってしまうに違いないのだ。
「だめだ! 着るんじゃない!」
俺は妻をにらみつける。
明らかに妻はどうしようか悩んでいるのだ。
ここで強く止めねば、きっとこの子と行ってしまう。

「智香? あなたは本当に智香なの?」
「それは私が人間だったときの名前だよ。今の私はクロアリ0125なの。ママもすぐに蟲になれるよ。だからそれを着ていっしょに行こ」
無邪気な笑顔で妻に語りかける蟻少女。
その声は智香のものだ。
その口元のほくろも智香のものだ。
躰つきだって智香のものに間違いない。
畜生・・・
畜生・・・
どうして智香がそんな蟻の格好をしているんだ・・・

「あなた・・・」
俺のほうを見る妻。
その目は行かせてくれと言っている。
おずおずと床に置かれた全身タイツを手に取ろうとしている。
「だめだ! 許さん!」
俺は首を振る。
「もうパパったらうるさいなぁ。最後のお別れに今晩一晩待ってあげてもいいよって思っていたのに、こんなんじゃすぐにママをつれてっちゃうよ?」
触角を震わせている蟻少女。
目はないのに、きっと俺をにらみつけているのだろう。
「だめだ! ママは行かせない! 女王様とやらに言え! ママは行かせないし智香も返してもらうって!」
そうだ。
智香を返してもらうんだ。
こんな奇妙な格好はやめさせ、家に戻ってこさせるんだ。
女王とやらに会いに行ってやる!

「パパって何もわかってないんだね。ママが一緒に来ないとママは女王様に逆らう生き物だから溶かせって言うよ。そうしたらママ死んじゃうんだよ? それでもいいの?」
「いいわけないだろう! だから俺を女王様のところに連れて行け! 女王様やらと話し合う!」
俺は妻の前に立つように進み出る。
「パパは男だからだめ。女王様は男はいらないっていうの。だからママだけ連れて行くの」
「いいから連れて行け!」
「もう、パパはうるさい。少しおとなしくしてて」
そういうと蟻少女はくるりと背を向けた。
「うおばっ!」
蟻少女の巨大なお尻から何かの液が吹きかけられる。
俺は急速に躰がしびれ、その場に倒れこむ。
「あなたっ!」
あわてて妻がそばに寄ってくるが、俺は意識ははっきりしているものの、躰が動かず、声もうまく出てこない。
「大丈夫だよママ。女王様は何も言ってないからパパを動けなくしただけ。ねえ、早くあれを着ていっしょに来て」
だめだ・・・
行ってはだめだ・・・
俺はそう言いたかったが、口が思うように動かない。
首を振ることもできず、ただ妻を見上げるだけだ。
妻は俺と蟻少女を交互に見比べながら、やがて意を決したようにこう言った。
「あなた・・・ごめんなさい」
そして茶色の全身タイツを持って奥の部屋へと行ってしまった。
俺はそれをただ見ているだけだった。

妻が出て行ったあとも、俺は何とか躰を動かそうと努力した。
だが、しびれは一向に収まらず、まったく身動きが取れない。
そんな俺を蟻少女は笑みを浮かべながら、ソファに座って眺めていた。

やがて奥の部屋から妻が出てくる。
俺はその姿に思わず息を呑んでしまった。
妻は首から下をあの茶色い全身タイツで覆っており、まるで何も着ていないかのように躰の線があらわだったのだ。
考えてみれば、もうしばらく妻の躰を見ていない。
普段わりとゆったりした服を着ていることもあって、妻の躰がまだこれほどきれいなラインを保っているとは思わなかったのだ。

俺がじっと見ていることに気が付いたのか、妻は少しほほを赤らめる。
「いやだわ・・・そんなに見ないで。恥ずかしい」
躰のラインを隠そうとする妻。
だが、もちろん全身タイツでは隠せるものではない。
きれいだよと妻に言ってやりたかったが、俺の口は少しうめき声を出せただけ。
畜生・・・
畜生畜生畜生・・・

「わぁ、やっぱりママは女王様が選んだだけのことはあるね。すごくきれい。とても似合っているよ」
蟻少女が立ち上がって妻にそういう。
目がないのに見えているのは不思議だが、おそらくあの触覚の力なのだろう。
もしかしたらあの触覚によって操られているのかもしれない。
「さ、ママ行こう。女王様がお待ちかねよ」
すっと手を差し出す蟻少女。
妻はその手を受け取るかどうか迷っている。
「どうしたのママ? ママが行かないと私の蟻酸でパパを溶かしちゃうよ」
その言葉にはっとしたように俺を見る妻。
だめだ・・・
俺は溶かされてもいい・・・
だから・・・
だから行ってはだめだ・・・
俺は必死にそう訴えようとした。
だが、妻は俺から目をそらすと、蟻少女の手を取った。
「お願いだからパパには手を出さないで」
「うん。ママが来てくれればパパはどうでもいいの」
「わかったわ。行きましょう」
妻は蟻少女といっしょに玄関へ向かう。
途中、一度だけ俺のほうを振り返ったが、妻は何も言わずに少しだけ悲しげな表情で俺を見つめるだけだった。
俺はただそれをなすすべなく見送るしかなかった・・・

                   ******

「う・・・くそっ」
やっと躰が動くようになってくる。
あれからどのくらい経ったのか?
俺は必死に躰を動かして起き上がる。
よし。
何とかなりそうだ。
俺はよろめきながら玄関へと向かう。
待ってろ・・・
すぐに助けに行く。
女王とやらをぶちのめし、妻と娘を救うのだ。
畜生!
絶対助けてやるからな・・・

俺は玄関を出ると周囲を見渡した。
まだ夜は明けていない。
それほど時間は経っていないということか?
パジャマ姿のままだがかまうものか。
たぶん妻たちは学校にいるだろう。
だが今は学校は立ち入り禁止のはず。
どうやってここまで・・・
そう思った俺の目に地面に開いた穴が映る。
これか・・・
確かに智香は蟻になってしまっていた。
蟻だから穴を掘ってきたというわけか。
この穴を通れば学校まで続いているかも。
考えている暇はない。
俺は穴にもぐりこんだ。

穴は大人の俺が通ってもまだ余裕があるぐらいの太さだった。
きっと妻を連れて行くために広めにしたのかもしれない。
だとすれば、横穴など作らず、まっすぐ学校まで通じている可能性が高いだろう。
俺は這いずるようにして穴の中を進んでいく。
二人とも待っていろ。
きっと俺が助けてやるからな。

どれぐらい進んだだろうか?
穴の中では右も左もわからない。
ただとにかく先へ進むだけ。
いつになったら出口に付くのかまったくわからない。
だが、とにかく俺は先へ進むだけだった。

不意に周囲が広がった。
どうやら穴から抜け出たらしい。
幸い蟻少女とは出くわさなかったようだが、ここはいったい?
そう思って周りを見ると、どうやら思ったとおり学校の敷地内らしい。
しかも、体育館の裏手である。
芝生になっていて地面がやわらかそうだから、ここから穴を掘り始めたのかもしれない。
見るとほかにもいくつか地面に穴が開いている。
ここから蟻少女たちは外へ出て行っているのだろうか。

俺は妻を捜すために校舎に近づいていく。
真っ暗な校舎。
どこにも明かりはついていない。
月明かりのおかげで多少は見えるが、蟻少女たちは明かりは必要ないらしい。

体育館の脇に扉がある。
あそこから入れるかもしれない。
俺は近づいてそっと扉をスライドさせてみる。
すると思ったより簡単に扉が開いた。
覗き込むと、中はやはり暗い。
だが、窓から差し込む月明かりで、中の様子はうっすらとわかる。
何だあれは?
思わず声に出しそうになって慌てて口を押さえてしまう。
がらんとした体育館の中央に、小山のような物体がうごめいていたのだ。
そう、それはまさにうごめいていた。
何か巨大な心臓かなんかのように脈動していたのだ。
赤黒い巨大な小山のような肉の塊。
そんなのが体育館にあったのだ。

「あっ」
今度はついに声を上げてしまった。
その巨大な肉の塊に、先ほど見た茶色の全身タイツ姿の女性が捕らえられているのだ。
両手両足を肉の壁にめり込ませ、まるで磔にされているみたい。
間違いない。
あれは妻だ。
妻があの肉の塊に捕まっているんだ。
「由梨香(ゆりか)!」
俺はすぐさま駆け寄っていく。
だが、妻のところにたどり着けはしなかった。

妻に駆け寄ろうとした俺は、足元の変化に気づかなかったのだ。
今まで固い床だと思っていた足元は、妻に近づくに連れて変化し、その肉の塊と同じような肉の床になっていたのだ。
気が付いたときには足元は肉に埋まり、俺はバランスを崩して前のめりに倒れてしまう。
躰を支えるために床に着いた手も、見る間に肉に埋もれていき、俺はまるで泥沼に四つん這いで這っているような体勢になっていた。
「うわっ、くそっ」
俺は必死に両手を引き抜こうとしたものの、まさしく泥沼の中に手を突っ込んでいるようなもので抜けてこない。
足もひざまで埋まってしまってどうしようもない。
くそっ・・・
ここまで来て・・・

「もう、パパったら、また邪魔しに来たの? しつこいなぁ」
口元に笑みを浮かべた蟻少女がもがいている俺の前に現れる。
「智香・・・」
「違うって言ってるでしょ! 私はクロアリ0125。やっぱり人間って下等で頭悪いのね」
「くそっ、そこをどくんだ!」
俺は蟻少女をにらみつける。
だが、威勢のいい言葉とは裏腹に、俺の両手両脚はがっちりと肉の中に埋もれている。
「だめだよパパ。今ママが女王様に蟲にしてもらっている最中なの。終わるまで邪魔しないで」
「蟲にだと?」
「そうだよ。ママは女王様に選ばれたの。連れてきても中には女王様に選ばれない人もいるから、ママは幸運だったのよ」
肉の床の上に問題なく立っている蟻少女。
どうしてなんだ?
なぜ妻と智香なんだ?
「幸運だなんてことあるものか。女王とやらに会わせろ! 由梨香と智香を返せ!」
「うるさいなぁ。少しは静かにして。またしびれさせちゃうよ」
くっ・・・
ここまで来てしびれさせられてはかなわない。
何とかこの手足を引き抜いてしまうまでは・・・

「あなた? あなたなの?」
俺の声が届いたのか、巨大な肉の塊に捕らわれている妻の声がする。
「由梨香。俺だ。待ってろ、すぐに助けに行く」
くそっ、何でこう手足が引き抜けないんだ・・・
「どこにいるの? いやぁ! 何も見えない! 何も聞こえないわ! あなた、どこなの?」
何だって?
俺は驚いて顔を上げる。
見ると、妻の頭は口元だけが覗くマスクのようなものをかぶせられていた。
眼も耳も完全にマスクに覆われており、髪の毛もまったくない。
まるで目の前にいる蟻少女の頭部とほとんど同じなのだ。
そんな・・・
もう妻は蟲にされつつあるというのか?
「由梨香! 由梨香!」
「いやぁっ! 怖い! 何も見えない! 何も聞こえない!」
俺の呼びかけも聞こえていないようで、恐怖に首を振っている。
「大丈夫だよママ。すぐに女王様が触角をつけてくださるわ。そうすれば女王様のお声も聞こえるようになるし、周りのこともすごくはっきり感じるようになるわ」
蟻少女は妻を見上げて笑みを浮かべている。
もうすぐ仲間になるとでも言うつもりか?

「いやぁ・・・いやよぉ」
「由梨香! 由梨香ぁ!」
俺は必死に手足を動かそうとするが、まったく動かせない。
絶望だけが重くのしかかってくる状態だ。
俺の声も妻には聞こえないようで、妻は恐怖に小刻みに震えている。
いや、違う・・・
恐怖に震えているんじゃない。
妻の躰に何かが流し込まれているんだ。
妻の躰には肉塊から何本かのチューブのようなものが伸びている。
あちこちにつながれているそれらから、何かが流し込まれているのだ。
そんな・・・
妻が蟲にされてしまう・・・

「ああ・・・あああ・・・何? 何なのこれ?」
妻の声がちょっと変化する。
先ほどまでの恐怖ではなく、甘い感じだ。
「気持ちいい・・・何だか気持ちいいの・・・ああ・・・いい・・・」
躰を身悶えさせている妻。
全身のラインがあらわになっているので、それがなんともなまめかしい。
こんな状況なのに、俺は思わず見つめてしまう。

やがて妻の体に変化が現れる。
形のよかった両胸が、まるでメロンかスイカのように巨大になっていくのだ。
躰を覆っている全身タイツは、その変化を何の問題もなく受け入れていくようで、まるで妻の肌そのもののよう。
チューブがつながった背中からは、じょじょに薄い膜のようなものが広がり、左右に伸びて巨大な斑点のある翅になっていく。
まるで蝶か蛾の翅のようだ。
妻は・・・
妻は蛾になるというのか?

「ああ・・・ああ・・・」
口をだらしなく開き、まるで快感に酔いしれているかのような妻の声がする。
妻の躰を覆う茶色の全身タイツもつややかに輝き、まるでエナメルのようだ。
広がった翅は大きく、妻の背丈ほどにもなっていく。
翅には黒い大きな斑点が付いており、まるで目玉のよう。
俺は妻の変化をただ黙って見ているしかなかった。

「ひぎぃっ!」
突然妻が悲鳴を上げる。
あまりのことにうつむいていた俺が顔を上げると、妻のマスクに覆われた頭の額部分に二本のチューブが突き立っていた。
「由梨香!」
チューブはすぐに引き抜かれ、その開いた穴に、なにやら木の葉の葉脈のような形のものがはめ込まれる。
「ひゃうっ!」
それは妻の額に密着し、二本の震える触角となる。
蛾の触角だ。
「由梨香!」
「ああ・・・ああああ・・・何これ・・・感じる・・・感じるわぁ・・・すごく感じるのぉ」
妻の額で触角が揺れ、そのたびに妻の躰が小刻みに揺れている。
「ああ・・・はい・・・私は毒蛾・・・女王様にお仕えする毒蛾・・・」
「由梨香! しっかりしろ! 負けるんじゃない! 気をしっかりと持つんだ!」
俺は必死に呼びかける。
聞こえなくたってかまわない。
もう叫ぶしかないのだ。

不意に妻につながっていたチューブがすべてはずされる。
チューブの抜けたあとは痛々しい穴が開いていたものの、それらは見る見るうちに消えていく。
やがて、両手両足が自由になった妻は、ふわりと床に降り立った。
「由梨香・・・」
俺は床に四つんばいになったまま、妻の姿を見上げる。
背中に大きな翅を広げた妻の姿は美しかった。
だが、それはもう人間の美しさではなかった。
着ていた全身タイツは肌に密着し、巨大な胸には乳首が浮き出ている。
股間も性器が浮き出ていて、とてもなまめかしい。
足はハイヒールのような形になっていて、尖ったつま先と高いかかとが肉の床を踏みしめていた。
マスクで覆われた顔は口元だけが元のまま。
目も耳も髪の毛もなくなっている。
変わりに木の葉の葉脈のような触角が二本、額でさわさわと動いていた。
「由梨香・・・」
俺はもう一度妻の名を呼ぶ。
返事が返ってくることを期待して・・・

「うふふふふ・・・」
妻の口から小さな笑いが漏れる。
「あなたったら、まだそこにいたの? バカねぇ。さっさと逃げ出せばいいものを」
「由梨香・・・」
「違うわ。それは私が生まれ変わる前の名前よ。私は女王様のおかげで生まれ変わったわ。見て。私は毒蛾。今の私の名はドクガ0021。女王様にお仕えする蟲の一員なの。うふふふふ」
笑みを浮かべながらゆっくりと俺のほうへ歩いてくる妻。
俺は絶望に打ちひしがれる。
助けられなかった・・・
妻は蟲に・・・毒蛾にされてしまったのだ。
智香同様、女王に仕える蟲になってしまったんだ・・・
「くっ・・・」
俺は歯噛みする。
畜生畜生・・・

「うふふふ・・・おめでとうママ。これでママも蟲の仲間ね」
蟻少女の智香が妻のそばで微笑んでいた。
「ありがとう、クロアリ0125。でも私はもうあなたのママなんかじゃないわよ。私たちは蟲同士。女王様にお仕えする仲間でしょ」
「そうね。私たちは蟲同士。仲良くしましょ」
「もちろんよ。よろしくね、クロアリ0125」
「こちらこそ、ドクガ0021。触角の具合はどう? 素敵でしょ?」
「ええ、すばらしいわ。今まで目や耳に頼っていたなんてバカみたい。触角がすべて教えてくれるわ。獲物がどこにいてどんな姿でどんな匂いを出しているのか。空気の動きさえ感じ取れる」
くるりと一回転して喜びを表している妻。
俺は二人の会話をなすすべなく聞いているだけだった。

「うふふふふ・・・ところで、この床に這いつくばっている無様な男をいつまで放っておけばいいのかしら? 私、生まれ変わった自分の能力を確かめてみたいわ」
妻が俺のほうを向く。
床に這いつくばった無様の男とは俺のことか?
「うふふふ・・・私は女王様から何も命じられてはいないわ。あなたの好きにすればいいんじゃない? ドクガ0021」
「うふ・・・そうね。そうさせてもらおうかしら。うふふふふ・・・」
さらに俺に近づいてくる毒蛾になった妻。
その口元には今まで見たこともないような冷酷な笑みが浮かんでいた。
「由梨香・・・俺を殺すつもりなのか?」
「ほんとバカねぇ。言ったでしょ。私は由梨香なんていう名前じゃないって。私はドクガ0021。それぐらい覚えなさい」
「ドクガ・・・0021・・・」
「ハイ、よくできました。見てぇ、このおっぱい。大きいでしょ? この中には毒液がたくさん詰まっているの。あなたにたっぷりと味わわせてあげるわぁ」
両手で巨大な胸を持ち上げる毒蛾女。
俺はその様子を黙って見ているだけだ。
「さようなら・・・“あなた”」
彼女の胸から紫色の液体が吹きかけられ、俺は全身に激痛を感じて悲鳴を上げながら意識を失った。
俺は妻も娘も、そして命さえも失ってしまったのだった・・・

END
  1. 2017/05/05(金) 20:28:33|
  2. 異形・魔物化系SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:7
<<劇的勝利! | ホーム | 三連勝キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!>>

コメント


舞方様
sen-gokuです。
昆虫人化いいですね。
女王の正体は何なんでしょう?
蟻だけでなく蛾まで出るとは、女王蟻という訳では無いようですね。
クワガタやカブトムシはの女性怪人化は難しいかな。
  1. 2017/05/05(金) 21:28:40 |
  2. URL |
  3. sen-goku #rFnOs2i6
  4. [ 編集]

良いですね~
恐怖があっという間に快感と忠誠に変わってしまうのは最高です(*゚∀゚*)
元になったイラストは私も好きでしたね~妄想しながら読ませていただきました(=゚ω゚=)
  1. 2017/05/05(金) 21:43:58 |
  2. URL |
  3. IMK #-
  4. [ 編集]

あの虫化ネタは良いですよね。
その裏にあるストーリーを形にするとこう言うSSが出来上がるんですね~。
執筆お疲れ様でした。
  1. 2017/05/06(土) 06:14:11 |
  2. URL |
  3. MAIZOUR=KUIH #gCIFGOqo
  4. [ 編集]

いいですねえ!
イラストと合わせて物凄く興奮します。

いやー、妻娘が女怪人にいいなあ。
夫にはなんですが私的には羨ましくあります(笑)
他にはどんな虫怪人がいるのか気になりますな。
コードネームで呼び合うのもステキですね!
  1. 2017/05/06(土) 19:06:02 |
  2. URL |
  3. くろにゃん #ZPkIsW/o
  4. [ 編集]

皆様コメントありがとうございました

>>sen-goku様
女王の正体は特に考えていませんでしたが、アリやハチのような女王を頂点とした社会なんでしょうね。

>>IMK様
洗脳の醍醐味ですよねー。
嫌っていた相手に心酔しちゃったりするのも大好きです。
イラストは本当に素敵ですよね。

>>MAIZOUR=KUIH様
ありがとうございます。
虫化はほんとグロとエロの融合という感じで好きなんですよねー。

>>くろにゃん様
愛する身近な人が手の届かないところに行ってしまうというのがまたいいですよねー。
コードネーム呼びは私も好きですー。
  1. 2017/05/06(土) 21:14:02 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

コメント初描き込みです。
改造シーンの描写と一瞬で毒蛾に堕ちていく様子がたまりませんでした。
娘がさらわれていた数日間も娘に同じことがされていたと考えるとドキドキします´∀`
  1. 2017/05/07(日) 09:11:08 |
  2. URL |
  3. nezumi #-
  4. [ 編集]

>>nezumi様
ありがとうございます。
すべてはnezumiさんのイラストがあってのことです。
本当に素敵な作品を拝見させていただきました。
ヽ(´▽`)ノ
  1. 2017/05/07(日) 20:02:47 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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