今日はお久し振りのホリドルです。
先日某スレに話が出ていたのは嬉しかったですねー。
少しだけですが、楽しんでいただければ幸いです。
23、
痛みが薄らいで行く・・・
傷を付けられた腹部に温かみが戻ってくる。
「ん・・・あ・・・」
「しゃべらないで」
力強い制止の声。
それは安心感を彼女に与える声だ。
かつてその声は違う女から発せられていたはず・・・
しかし、今はこの声こそが彼女にとっての全てをゆだねる存在だった。
「デス・・・ルリカ・・・様・・・」
「いいから、おとなしくしていなさい」
あ・・・
すごくホッとする。
私・・・助かったんだ・・・
ゆっくりと目を開けるレディベータ。
濃密な闇の中、うっすらとデスルリカの姿が目に映る。
ねじれた角を生やしたサークレットが額に嵌まり、その下の目は軽くつぶられていた。
デスルリカ様・・・
それはまさに大いなる闇の片腕であり、彼女にとって全てを捧げつくす存在。
今、そのデスルリカの手がレディベータの腹部の傷を癒しているのだった。
つと、レディベータの目から涙がこぼれる。
「ベータ、大丈夫? 痛いの?」
今まで黙っていたレディアルファも声をかける。
痛々しい姿のレディベータ。
はらわたが煮えくり返るほどの怒り。
八つ裂きにしても足りないほどの光の手駒に対する憎しみ。
それらがレディアルファの中で入り混じる。
「ご、めんなさい・・・ごめんなさい・・・」
レディベータは思わず泣き出していた。
「ベータ・・・」
「ベータ!」
デスルリカとレディアルファは思わず顔を見合わせる。
レディベータの腹部の傷は思ったよりひどかった。
ホーリードールサキの放った青い閃光は、光の魔力を集めたものであり、レディベータの魔力障壁を越えてしまったのだ。
損傷した内蔵を再生し、肉体を治癒するにはそれなりの魔力を注ぎ込むしかない。
デスルリカはレディベータの腹部に手を当てて、魔力を送り込み治癒を行なっていたのだった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
泣きながら謝り続けるレディベータ。
「ベータ。あなたが悪いんじゃないわ。悪いのは光の手駒。あいつらよ!」
レディアルファがレディベータの手を握り締める。
そう、憎むべきは奴ら。
赦さない!
「これでいいわ。ただ、魔力消耗が激しいわね。補充が必要か・・・」
ふうと息をつき、レディベータの腹部から手を離すデスルリカ。
額にうっすらと汗が滲んでいる。
治癒は彼女の魔力もそうだが、対象の魔力も消耗するのだ。
レディベータは魔力が枯渇していた。
肉体の維持と魔力障壁で大幅に減っていた上に、治癒で使われたことでほぼ枯渇していたのだ。
「デスルリカ様、私が手に入れて・・・」
「いいえ、あなたはここにいなさい。ベータをお願い」
にっこりと微笑むデスルリカ。
彼女にはレディアルファがこの可愛い闇の少女をすごく愛しんでいることを知っていたのだ。
「デスルリカ様・・・」
レディアルファはうなずいて、魔力を失いぐったりしている可愛い少女に目を移す。
「ア・・・ルファお姉・・・さま・・・」
先ほどまで泣いていたレディベータが、今度は無理やり笑顔を作っている。
「私のせいで・・・光の手駒を・・・ごめんなさい・・・私は・・・大丈夫・・・」
「ベータ・・・」
レディアルファはそっとレディベータを抱きしめた。
『ただいま』
闇の世界に声が響く。
いつもなら弾むような声なのに、今日はおとなしい。
「ふふ・・・娘が帰ってきたようね。あなたがたはここにしばらくいなさい。大丈夫。娘はまだ人間だから」
デスルリカが二人の闇の女にそう言う。
「はい。デスルリカ様」
「ありがとう・・・ございます。デスルリカ・・・様。グッ・・・」
上半身を起こして見送ろうとしたレディベータは、たちまち表情を歪ませた。
「バカ! おとなしくしてなさい!」
慌ててレディベータを抱きかかえるレディアルファ。
「ゆっくり休むのよ、レディベータ。今魔力を手に入れてくるわ」
「はい・・・」
悔しそうな表情のレディベータ。
デスルリカは、そんな二人を心配しながらも、闇の中に姿を消した。
「お帰りなさい、紗希。今日は遅かったのね」
今しもリビングから顔を出したかのように、にこやかに出迎える留理香。
シックなグレーのタイトスカートのスーツに身を包み、これからどこかへ出かけるといった感じだ。
引き締まった脚がナチュラルブラウンのパンストに包まれて美しい。
「ただいま、お母さん」
紗希は無表情のまま、留理香の方をチラッと見ただけでその脇を通り過ぎようとした。
えっ?
留理香は一瞬ゾクッとする。
娘の目がまるで無機質なガラス玉のように思えたのだ。
「紗希・・・」
「なあに、お母さん」
振り向いた紗希が笑いかけてくる。
気のせい?
いつもと同じ紗希の笑みにホッとする留理香。
きっと魔力を消耗しているからだわ・・・
だからちょっとおかしな感覚に捕らわれているのかも・・・
浮かんだ奇妙な考えを必死に振り払う留理香。
「今日は遅かったのね」
「アスミちゃんと遊んでいたの。遅くなってごめんなさい」
紗希の表情が翳り、しおらしく頭を下げる。
「そう・・・お母さんはちょっと出かけてくるから留守番をお願いね。ご飯はお鍋にカレーがあるから、よそって食べてちょうだい」
「はい、行ってらっしゃい」
うなずくとそのままリビングへ入っていく紗希。
留理香は釈然としないまま、玄関を出る。
そして、時々後を振り返りながら、家を後にした。
「お帰りなさい、明日美。遅かったのね」
「ごめんなさい、お母様」
玄関に入ってきた娘を出迎える明日美の母浅葉麻美(あさば あさみ)。
このところ帰りが遅いことを心配し、今日は少し言っておかなければと思ってはいたものの、目の前でしゅんとしている娘を見ると、無事に帰ってきただけでいいわとも思う。
「紗希ちゃんも一緒だったんでしょ? ダメよ。紗希ちゃんのお母さんも心配するんだからね」
「はい。ごめんなさいお母様」
明日美が顔を上げる。
ゾクリ・・・
冷たい目。
明日美の目は冷たく彼女を見つめている。
「あ、明日美・・・?」
「もう遅くならないようにしますから赦してください、お母様」
うつろで心に何も響かない明日美の謝罪。
今までこんなことはなかった。
明日美は優しくて、ちょっと引っ込み思案で、でも芯は強くて、紗希ちゃんが大好きで・・・
「明日美? あなた・・・本当に明日美なの?」
「はい、私はアスミですわ。お母様」
にこやかに答える明日美。
ただ、その笑みは母である麻美には実体が無いものに感じる。
「と、とにかくお上がりなさい。ご飯にしましょ」
そう言った麻美がふと目を止める。
明日美の服に茶色い染みがあったのだ。
染み・・・?
「明日美、それ、何を付けたの?」
麻美はしゃがみこんで明日美の両肩を掴む。
「明日美、これ・・・血じゃないの? ちょっと見せなさい」
無言で立ち尽くす明日美からカバンをひったくり、急いで服の前を開いてみる。
「ヒッ!」
麻美は息を飲んだ。
娘のお腹には紫色のあざと、まだ肉が盛り上がって血が滲んでいる傷があったのだ。
「明日美! これはいったい?」
「光波が減衰中により修復に問題発生。でもお母様、修復はあと1時間ほどで終了しますわ」
にっこり微笑む明日美。
その笑みは麻美の背筋をぞっとさせる。
「明日美、ふざけないで! その傷はどうしたの? 答えて!」
「血液も90%まで回復。現時点でも戦闘に支障ありません」
笑みを浮かべながら淡々と状況を説明していく明日美。
「あ・・・明日美?」
麻美は娘が何を言っているのか理解できなかった。
娘に何が起こっているのか?
ひざがガクガクする。
目の前にいるのは本当に娘なのだろうか?
あなた・・・
会議で遅くなっている夫が、今は無性にいて欲しかった。
- 2007/05/31(木) 20:43:23|
- ホーリードール
-
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| コメント:4
久々のホーリードールですね。一瞬静かな展開かと思いきや、微妙に怖いというか、背筋がゾクッとするような展開になってきましたね。
アスミは完全にホーリードールとしての意識しかなくなってしまいましたか。元の“明日美”に戻ることはあるんでしょうか・・・。
しばらく小説書いてないな・・・。仕事落ち着いたら久しぶりに書くかな・・・。時間かかりそうだけど・・・。
- 2007/05/31(木) 22:07:00 |
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- metchy #-
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新作お疲れ様です~
光側のキャラたちの方が冷たいものがひしひしと感じられる雰囲気ですよね。
紗希の変化が多少遅れているようですが、果たしてルリカさんは我が子の異変にどう対応するのか楽しみです。
- 2007/05/31(木) 22:26:28 |
- URL |
- g-than #-
- [ 編集]
>>metchy様
なんだかんだと闇も光もそれぞれの目的のためだけに動いていますからね。
人間にとってはどちらもあまりよくないものかもしれません。
少しでもゾクッとしていただけたら、私としては大成功です。
明日美はこれからどうなるやらですね。
SS、楽しみにしておりますです。
>>g-than様
書き込みありがとうございます。
あんまり光だけが冷たくても困りものなので、少しはデスルリカさんにも暴れてもらおうかなと思っております。
お楽しみに。
>>コメントくださいました方
了解しました。
- 2007/06/01(金) 21:44:26 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
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