バーナード君登場ですー。
戦機が熟しつつありますよー。
「パゾク級輸送艦ブラデア、出港します」
「よし、続いてワルトラントが出港するわ。本艦はその次に続く」
出港作業中のブリュメルのブリッジ。
私は遠ざかって行く輸送艦を眺めている。
この重要な時期にここを離れなければならないとは、さぞ・・・
「マツナガ大尉? あれに乗っているの?」
「ええ、そのようだわ」
背後から掛けられたリーザの声に私は答える。
窓外を出港して行く重巡ワルトラント。
艦隊旗艦として赤く塗装された船体に見慣れない機体が載っている。
YMS-14ゲルググ。
いや、つい先日正式採用された機体だからMS-14か・・・
重量感ある機体は機動性に富み、ビームライフルを搭載している。
優秀な機体らしい。
ウッズマン機動部隊には目いっぱいのモビルスーツが回されてきている。
ワルトラントに六機。
ブリュメルに三機。
スタメルに三機。
ドズル閣下の執念が乗り移ったかのよう。
コンスコン閣下の仇討ちとはいえ、これほどの戦力を回すに値する存在。
連邦の白い悪魔・・・
それはすでに単なる一機のモビルスーツではないんだわ。
連邦の象徴となってしまい、ジオンにとってはその撃破こそが重要となってしまっている。
でも・・・
それは連邦の思惑に嵌まってしまっているのではないだろうか・・・
現に連邦は木馬を単独で後方撹乱に使用している。
われわれはそれに踊らされるように木馬に戦力を差し向けては消耗しているわ。
このモビルスーツがソロモンから減少したことで、ソロモンが不利になるとも思えないけど、現時点で木馬に向かうのは時期が悪すぎる。
なぜ?
私は納得行かなかった。
航行する艦隊。
サイド5へ俺たちは向かっている。
コロンブス級の輸送艦をベースに改装を施した簡易型モビルスーツ母艦とサラミス級の巡洋艦が二隻。
わずか三隻の小艦隊だが、その任務は重要だ。
“あの”第13独立艦隊の後方支援である。
ジャブローはあの第13独立艦隊を囮専門としてジオンの戦力を引き付ける役割を押し付けたらしい。
だが、一隻で次々と押し寄せるジオンの攻撃を跳ね除けるのは至難の業だ。
そこでレビル将軍は宇宙艦隊司令のティアンム提督と図り、背後から支援を行なうべくこの艦隊を派遣してきたというわけだ。
試作品を中心としたイレギュラーズとある意味いつ沈められてももったいなくない小艦隊を使って、ジオンの戦力を分断させることができるのならこれに越したことは無い。
だが、その消耗品とみなされた艦隊に配備された兵士は、その任務が重要だといわれたところで慰めにはならないな。
「浮かない顔しているわね? バーナード中尉殿」
喫煙コーナーでタバコを吸っていた俺に声を掛けてくるブルネットの長い髪の女性。
無重力が彼女の髪をさらさらとひるがえさせている。
「こんなところへわざわざどうしたんですか? エリアルド大尉殿」
俺はタバコの煙を彼女に掛からないように、排煙装置目掛けて吐き出していく。
「うふふ・・・お互い呼びなれない階級になっちゃったわね」
俺のそばに座って髪を掻き揚げるソフィア・エリアルド大尉。
このコロンブス改型モビルスーツ母艦「ガンビア・ベイ」の主戦力であるジム小隊の隊長である。
連邦空軍のパイロットとしてフライマンタに乗っていた時期に俺の命を救ってくれたことなど、彼女は知る由もないだろうな。
結局俺もそのことを告げるでもなく彼女とはこうして一緒に過ごしている。
前衛に出るジム小隊の彼女を俺のボール小隊が援護する形なのだ。
「そうですね」
俺は苦笑する。
乗艦を沈められたり、同僚を失ったりしながらも、ただ生き残っているというだけで俺は中尉に昇進した。
昇進したのならジムぐらい回して欲しいものなのだが、まわってきたのはバッジだけ。
相変わらずの棺桶暮らしというわけだ。
「ねえ、お願いがあるんだけど・・・中尉殿」
上目遣いで俺の顔を覗き込んでくるエリアルド大尉。
「なんですか? 大尉殿?」
俺はまたタバコを吸う。
艦内時間は深夜01:00。
本来なら寝ていなくてはならない時刻だ。
「抱いて・・・」
「ぶはっ、がはっ、げほっ」
俺は咳き込んだ。
いきなり何を・・・
「怖いの・・・」
俺の腕にすがってくるエリアルド大尉。
「大尉・・・」
「次の出撃をしたら帰って来れないかもしれない・・・そう思うと怖い」
「大尉・・・」
俺はタバコを灰皿に放り込み、大尉のか細い肩を抱いてやる。
「ボールでの出撃は3回が限度と聞いているわ。4回目を生き残るのは至難の業。でもあなたはすでに5度の出撃をして帰ってきている」
それは事実だ。
ボールのような棺桶はパブリクと同じくらいに帰還率が低い。
俺の部下たちもすでに幾人も死んでいる。
ボールでモビルスーツとやりあうこと自体が無謀なのだ。
「お願い。中尉の強運を分けて欲しいの。私の内膣に」
「大尉・・・俺は強運なんかじゃありませんよ。俺が生き残ったのは、単に敵がボールなどいつでも落とせるから無視されたまでです。敵が本気で“キャッチボール”に来たら、すぐにアウトにされちまう」
「ううん、そんなこと無い。あなたは生き延びているわ。もちろん運だけじゃない。それだけの技量を持っているの。だから・・・」
俺の顔を見つめているエリアルド大尉。
その青い瞳が吸い込まれそうなほどだ。
「大尉、今の自分の気持ちをあまり本気にしないほうがいい・・・これから出撃で気が昂ぶっているんですよ」
こんなセリフ・・・誰かが言っているだろうな・・・
「違う・・・違うわ。私・・・抱いて欲しいの・・・あなたに恐怖を静めて欲しいの・・・他でもないあなたに・・・」
「大尉・・・本当に俺でいいのか?」
俺は彼女を抱きしめる。
「ソフィア・・・」
自分の名を呼んで欲しいのか大尉はファーストネームを俺に告げる。
「わかった、ソフィア。俺の部屋に行こう」
俺はソフィアを連れて喫煙ルームを後にした。
「旗艦ワルトラントより入電。木馬の情報つかめず」
「ふう・・・」
ブリュメルの艦橋にため息が流れる。
ソロモンを出港以来三日。
木馬の行方は杳として知れなかった。
サイド6を出てソロモンに向かったのなら、そろそろ出会ってもおかしくない。
ルートを変えた?
ソロモンへは来ないというのか?
リーザも落ち着かない様子だ。
ウッズマン司令はカリカリしている。
木馬も捉えられず、ソロモンでの戦闘にも参加できないとなれば、遊兵と化したこの艦隊はいい笑いものだろう。
「ワルトラントより再度入電。索敵のためにモビルスーツを発進させろとのことです」
「チッ! 了解したと伝えろ」
リーザの返事を聞いた私はすぐに艦橋を出る準備をする。
「マリー、お願いね」
「了解。索敵線は何線?」
ヘルメットを被りながら確認する。
「二線出すわ。一機は手元に置いておきたいから」
「了解。それじゃアヤメを残しておくわね」
「気をつけてね」
「うん、ありがと」
私は首もとのシールを嵌めながらハンガーデッキへ向かった。
漆黒の戦乙女
ゲルググとギャンが並び立つ…陽の目を浴びるも遅すぎた傑作機といわれた機体と、歴史の表舞台に出ることができなくなった機体が轡を並べているわけですね…コンペ以来の姿なんだろうなぁ…映像にはなってないだろうけど
アヤメはお留守番ですか、うまく説得しないといけませんね
4月29日 23:23
姫宮 翼
ホワイトベースの存在が大きくなり始めた所ですね。
ローネフェルトさんは少し、作戦の内容に疑問を持ち始めていますね。当然と言えば当然なんですが。
戦争関連のお話は大体、上層部と現地の兵とのギャップが大きくなりますね。
にしても、バーナード中尉とエリアルド大尉は戦場における男女の関係ですね。ローネフェルトさんのほうだとかなりの修羅場になりそうですが。
4月30日 9:55
舞方雅人
>>漆黒の戦乙女様
TV版でシャアのゲルググとマ・クベのギャンの同時登場ぐらいでしょうか。
ローネがギャンを使いこなせるか楽しみです。
アヤメの説得は・・・何とかなるでしょう。ww
>>姫宮 翼様
上層部は現状ではなく地図上で作戦を立てますからね。
ギャップはどうしてもでてくるのでしょう。
エリアルドさんは・・・死亡フラグ立てちゃったかも・・・
4月30日 21:30
- 2006/04/28(金) 22:12:32|
- ガンダムSS
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