今日は四月一日、エイプリルフールですね。
となりますと、またまたあの方の登場です。
今年は誰がだまされるのでしょうか?
それではどうぞ。
四月馬鹿の勝負
「それじゃ、また。来週は必ず空けておいてね」
「ええ、もちろん。あなたのご両親に会うんでしょ? 楽しみだわ」
私は精一杯の媚を売る。
「君なら大丈夫だよ。両親もきっと君を気に入ってくれるよ」
「そうだといいけど・・・」
「大丈夫さ。それじゃ」
私は別れ際に甘いキスを交わし、名残惜しそうな目で彼を見送る。
彼の乗る車が角を曲がって見えなくなったところで、私は思わず吹き出した。
「アッハハハハ・・・」
バーカ。
何が両親に会ってくれよ。
何がプロポーズよ。
あなたはただの金づる。
いろいろと貢いでくれちゃってまあ・・・
でもそろそろ見切ろうかと思っていたしいい頃合ね。
携帯のメルアドと番号を変更して連絡取れないようにしなきゃ。
それにしても男ってバカよねぇ。
ちょっとかわいこぶって甘い声で誘いをかければ、すぐに鼻の下伸ばしてだまされてくれるんだから。
親の手術?
弟の事故?
ホントこっちの嘘にすぐ引っかかっていくらでも金を出してくれるんだもの。
男をだますのって止められないわぁ。
まあ、見た目と頭の回転の良さではそう引けは取らないつもりだけど、こうも男どもがコロコロとだまされてくれると才能があるんじゃないかと思えちゃうわぁ。
詐欺師には向いているのかもね。
今の職場、そろそろ飽きたし身バレしたらヤバイしで転職するつもりだけど、職が見つからなかったら詐欺師をやるというのもいいかも。
たぶん、今の私ならあの噂に聞く四月馬鹿だってだませるんじゃないかしらね。
「ククククク・・・はたしてそうかな?」
えっ?
いきなり背後から声をかけられて私は驚いた。
足を止めて振り向くと、もう春だと言うのに黒いコートをしっかりと着込み、帽子を目深にかぶった男が立っていた。
「な、なんですか? 何か用ですか?」
私は少し驚いた。
歩いていた私の背後にいつの間にこんな近くに男が来ていたのだろう?
それに、私は考えを口にしていないはずなのに・・・
「おや? 用があるのはそちらではないのか? 四月馬鹿だってだませるんだろう?」
「あ、あれは言葉の綾で・・・って、ど、どうしてそのことを?」
「ふふふふ・・・わかるさ。なんてったって、俺がその四月馬鹿なんだからな」
男はそう言って帽子を取る。
「ひっ!」
思わず私は息を飲んだ。
だって、帽子の下からは、どう見ても動物の馬の顔とその上に生えている鹿の角が現れたのだから。
「あ・・・ああ・・・」
私は思わず後ずさる。
「ヒヒヒヒ・・・どうした? 四月馬鹿をだましてみせるんじゃなかったのか?」
「嘘・・・嘘よ・・・四月馬鹿なんて都市伝説のはず・・・実在するはずが・・・」
「おいおい、俺はまぎれもなく四月馬鹿さ。実在の妖怪だよ」
ニタァッと笑ってくる四月馬鹿。
その頭部はどう見ても作り物とは思えない。
で、でも・・・
「嘘・・・嘘よ・・・だ、だまされるもんですか。私をだまそうったってそうは行かないわ」
私は首を振って頭をはっきりさせる。
四月馬鹿なんているものですか!
「クックック・・・最初にだまそうとしたのはそちらだぜ。まあいい、今はお前をだますつもりはないよ」
「えっ?」
だますつもりはない?
どういうこと?
四月馬鹿は人をだまして仲間にしてしまうんじゃなかったかしら?
「だますつもりはないって・・・?」
「ああ、お前は人をだますのが得意そうだからな。俺がだまそうと思ってもなかなか引っかからないだろう?」
「まあ、そうね。ちょっとやそっとではだまされない自信はあるわ」
私は少しいい気分になる。
もしこの目の前のが本当の四月馬鹿なのだとしたら、褒められるのは悪くないわ。
「そこでだ」
四月馬鹿が歯をむき出す。
「ちょうど日付も変わったばかり。今日は四月一日だ。一年で一番人をだましやすく、だましづらい日でもある。そこで今晩23時までにどちらがどれだけ人をだましたか勝負しようではないか」
「勝負?」
「そうだ。人を何人だませるか数を競う。そうだな・・・相手からお金をだまし取れるぐらいだませたら成功ということにしよう」
ふーん・・・
結構面白そうじゃない。
男からお金をだまし取るのは得意だし、乗ってみてもいいかな。
「受けて立ってもいいけど、勝負に乗ったらだまされたなってのは無しよ」
「そんなことはしないさ。これでも四月馬鹿、そんな引っ掛けはたまにしかやらん」
「たまにはやるのね」
私は思わず苦笑する。
なんだかこの妖怪、嫌いじゃないわ。
******
「ありがとう。このお礼は必ず・・・ううっ・・・」
「いいって、早く弟さんのところに・・・」
「ううっ・・・本当にありがとう・・・」
私はそう言って涙をぬぐいながら男の元をあとにする。
あはははは・・・
ホント男ってチョロイわぁ。
これで五人目っと。
お金も十万にはなったかしらね。
時間はもうすぐ23時。
エイプリルフールの一日をあちこち駆けずり回るなんてなにやってんだか。
でもまあ、面白かったし、結構私って人をだます才能みたいなのがあるってのを再認識できたからいいか。
「お待たせ」
私は待ち合わせ場所にやってくる。
四月馬鹿は黒いコートに帽子をかぶった姿でおとなしく待っていたみたい。
さーて、あっちは何人だましてきたのかしらね。
「ふむ。時間通りだな」
帽子の影から鋭い眼光が覗いている。
「遅刻するのは好きじゃないの」
「ふむ。いい心がけだ」
「そんなことどうでもいいわ。それよりも、そっちは何人だましてきたの?」
私は少しドキドキする。
考えてみればあっちは妖怪。
しかもだますのが仕事みたいなもの。
なんか勝負に乗っちゃったけど、失敗だったかも。
「五人だ」
四月馬鹿の言葉に私はホッとした。
五人か・・・
ならば同点だわ。
よかった・・・負けなくて。
「ふふふ・・・私も五人よ。この勝負は引き分けね」
うん、引き分けという結果は悪くないわ。
「クク・・・クククク・・・ククククク・・・」
えっ?
四月馬鹿が笑っている?
「な、何がおかしいの?」
「クックックック・・・引き分けだと? 本当にそう思っているのか?」
「えっ? どういうこと?」
引き分けじゃないの?
「よく見てみろ、お前が手にした金を」
「えっ?」
私はハンドバッグから財布を取り出してみる。
そこには今日男たちからだまし取ったお金が入っている。
ざっとみて十万ほど。
これが何か・・・
えっ?
これ・・・これって?
私は驚いた。
一万円札の中に、肖像画が馬の顔をしたものがあるのだ。
それも鹿の角が生えて・・・
これって・・・
「ひーっひっひっひ! そうさ。今日お前がだましたと思っていた男の中に俺が混じっていたのさ」
「そ、そんな・・・それって?」
「つまりお前がだましたと思った相手はだまされたふりをしていただけだったと言うわけさ。この俺様がな」
なんてこと・・・
なんて・・・
「ちょっと待って!」
私は四月馬鹿を怒鳴りつける。
「そんなの納得行かない! だまされたふりって、ふりだろうがなんだろうがお金をちゃんともらってきたじゃない。ふりだろうがなんだろうがだまして奪ったことには違いないはずよ!」
「ほう。おとなしく引き下がるかと思ったがそうきたか。じゃあ、だまされたと言うことにしてやってもよい」
えっ?
意外と簡単に引き下がる四月馬鹿。
ちょっと拍子抜けだけど、認めてくれるならいいわ。
「それじゃ五人対五人で引き分けでいいわね?」
「ひーっひっひっひっひ・・・」
再び笑い始める四月馬鹿。
今度はなんなのよ。
「お前、本当に引き分けだと思っているのか?」
「えっ?」
「あのなぁ。俺は四月馬鹿だ。人をだますのが商売の妖怪だ。なぜその俺が正しい人数を言うと思っているんだ?」
「あ・・・」
「残念だったなぁ。俺は六人だましてきていたのさ。ひーっひっひっひ」
「そ、そんな・・・」
「お前は俺の言った人数を信じた。つまりお前は俺にだまされたのさ。クックックック・・・」
「あ・・・あああ・・・そんなぁ・・・」
私の躰が変わり始める。
手がひづめに変化して行き、服が裂けて肌が茶色い毛に覆われていく。
鼻面が伸び、頭のてっぺんからは角も生えてくる。
そんなぁ・・・
私は・・・私は馬鹿になっちゃうのぉ?
「こわがることはない。お前はなかなかだますことに長けたメスだ。馬鹿のメスとなってもっともっと人間をたぶらかすがいい」
こわがることはない?
ああ・・・
おっしゃるとおりだわぁ・・・
私は何を恐れていたのかしら・・・
四月馬鹿様の手で私は馬鹿に生まれ変わるのよ。
これからはたくさん人間をだますことができるわ。
きっと楽しくてたまらないでしょう。
四月馬鹿様とともに、人間どもをたぶらかすのよ。
楽しみだわぁ・・・
私は完全に生まれ変わった躰に満足し、四月馬鹿様にひざまずく。
これからは四月馬鹿様に従い、馬鹿として生きるのよ。
なんてすばらしいのかしら。
私は興奮に思わずいななきを上げるのだった。
END
- 2015/04/01(水) 21:04:36|
- 四月馬鹿
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今年も来ましたねぇ,馬鹿様(^o^)
やはり,馬鹿様の方が人間よりも,一枚も二枚も上手でしたね(*^.^*)
- 2015/04/01(水) 21:59:23 |
- URL |
- 悪堕ちキッド #-
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毎年、この日が来るのを楽しみにしております。
馬鹿になった人々は、普段どこで何をしているのでしょうか?
一般の馬鹿のアフターストーリーも気になる今日この頃です。
- 2015/04/01(水) 23:02:06 |
- URL |
- GTR1496 #LEZBwiAM
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>>悪堕ちキッド様
今回はやや強引だったかもしれませんが。(^_^;)ゝ
>>MAIZOUR=KUIH 様
さらに言えば四月馬鹿は妖怪なので、“人”をだましたことにならないので、やはり彼女の負けなんですよねー。(笑)
>>GTR1496様
普段も暗躍しているのかもしれません。
毎日のように詐欺のニュースが出るのは彼らの暗躍によるものなのかも。(笑)
>>柏木様
一般的な文章の作法には反していますが、読みやすい行数で一段空けをするようにとかはしております。
- 2015/04/02(木) 20:10:25 |
- URL |
- 舞方雅人 #fR9d3WYs
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