ちょっと早いですが、本日の更新をやっちゃいますね。
今日はホーリードールの7回目です。
それではー。
7、
金属音が響く。
正確には金属ではない。
ホーリードールサキの繰り出す青いレイピアとビーストの爪が交わる時に発する音だ。
地下の駐車場には何台もの車があるが、それらの間を縫うようにして三体の人影が移動する。
「ドールアスミ! そっちへ行ったよ!」
「わかっていますわ。そちらへ追い込みますわね」
赤いミニスカート姿のホーリードールアスミが高級外車の屋根から両手をビーストに向けて構える。
その手のひらから赤い光弾が発射され、ビーストの足元に命中した。
『ウゴォォォォォ』
ビーストはあちこちに傷を受け、戦意を喪失していたものの、執拗に繰り出される攻撃を何とかしようと必死だった。
「行きましたわ。ドールサキ」
「うん。次でしとめる!」
青いレイピアが蛍光灯の明かりを反射して冷たく光り輝いている。
「うふふふ・・・ビーストもこれでお終いですわね」
先ほどまでの無表情さとは一変して、にこやかに笑みを浮かべているホーリードールアスミ。
「うん。闇に穢れた者を追い詰めるってわくわくするよ。気持ちいい・・・」
ホーリードールサキも何か熱に浮かされたようにうっとりとしている。
「ええ、ゾクゾクして・・・とても気持ちいいですわ・・・」
その笑みは冷たく、普段の明日美にはまったく似つかわしくないものだ。
『グオォォォォォ』
跳躍を繰り返し、ひたすら死角に入り込みながら逃亡を図るビーストだったが、二人のホーリードールの連携に阻まれて次第に追い詰められていく。
「いただきぃ!」
「ここまでですわ!」
飛び掛ったホーリードールサキのレイピアがビーストの首筋に突き刺さり、ホーリードールアスミの手から放たれた火球がビーストの全身を包み込む。
『グギャァァァァァ』
ビーストの悲鳴。
「やったね!」
「やりましたわ」
二人のホーリードールが寄り添って燃え上がるビーストを見つめる。
やがて、ビーストは崩れるように倒れこむ。
しばらくはピクピクと躰を蠢かせていたものの、それもすぐに収まってしまう。
そこには黒く焦げた男性の死体があるだけだった。
「うふふ・・・闇に穢された者の末路ね」
ホーリードールサキはつま先で死体をつつく。
そこには死者を悼む気持ちはまったくない。
「はあ・・・気持ちいいですわ・・・闇を撃ち払うって最高の気分ですわ・・・」
胸に手を当てて頬を染めているホーリードールアスミ。
「うん。最高だよね。特に死ぬところなんかピクピクってしちゃって可愛いぐらいだよね」
ホーリードールサキも同じように胸に手を当てて目をつぶり余韻を感じていく。
「それじゃ行きましょう。ドールサキ」
「うん。行こう。ドールアスミ」
二人は顔を見合わせてにこやかに微笑むと、地下駐車場を後にした。
「どうやら倒されたようです、デスルリカ様」
ふわふわした闇の中でレディアルファが跪く。
上も下もないような闇の中で雪菜は苦しい息のもとで必死に痛みを耐えていた。
「ガフッ・・・た、助けて・・・お母さん・・・」
雪菜は霞む目で闇の中を見据える。
光のまったくない闇の中だというのに、レディアルファの姿だけはしっかりと捉えることができる。
真っ黒な衣装を身に着けているにもかかわらず、その美しい輪郭は少しもぼやけることなく雪菜の目に映っている。
「あれはあくまで試作品。目的は充分に達したわ。気にすることはないわよ、レディアルファ」
優しいが凛とした声が闇の中に響く。
その声とともに一人の女性が闇の中に現れた。
頭の両脇からねじれた角が生え、すらりとした姿態にはつややかなとげ付きのレオタードを纏っている。
腰にはアクセントとして銀色のチェーンがベルト代わりに巻きついており、長手袋とハイヒールのブーツが手足を彩っていた。
「ありがとうございます、デスルリカ様」
レディアルファは神妙にうつむいている。
「です・・・る・・・りか・・・様?」
雪菜は何か夢でも見ているような思いがした。
闇から現れたのは優しい笑みを浮かべた美しい女性だったからだ。
「かわいそうに・・・」
「えっ?」
デスルリカの視線が雪菜を捉える。
「光に見捨てられた哀れな子」
「え? あ・・・」
「心配はいらないわ。私があなたを導いてあげる」
デスルリカは雪菜のそばに来るとすっとしゃがみこみその手を雪菜にかざした。
「え?」
雪菜の痛みがすうっと引いていく。
「あ・・・」
雪菜は涙があふれてきた。
誰も・・・
誰も助けてくれなかった・・・
紗希ちゃんも明日美ちゃんも助けてくれなかった・・・
みんな・・・みんな・・・私が死ねばいいと望んでいたんだ・・・
みんな・・・みんな・・・私が死にそうだったのをあざ笑っていたんだ・・・
でも・・・
でもこの人は違う・・・
この人は助けてくれた・・・
この人だけが私を・・・
「どう? 痛みは引いた?」
「はい・・・はい・・・ありがとうございます・・・ありがとうございます」
雪菜は涙を流しながらお礼を述べる。
「いいのよ。かわいそうに・・・苦しかったでしょう?」
雪菜はデスルリカに優しく抱きかかえられる。
「あ・・・あぐっ・・・えぐっ・・・うわーん!」
雪菜は極まって泣き出してしまう。
「いいのよ。思いっきり泣きなさい。そしてあなたを見捨てた光と人間どもを憎みなさい」
そっと雪菜を抱きしめるデスルリカ。
それはまるで母親が娘を抱きしめているかのようだった。
「えぐっ・・・うっうっ・・・に・・・くむ?」
泣きじゃくりながら雪菜はデスルリカを見上げる。
「そう・・・あなたの躰はぐちゃぐちゃにされてしまった・・・助かるには躰を作り変えるしかないわ」
「躰を・・・作り変える?」
雪菜は驚いた。
手術が必要だということなのか?
そんなお金が家にあるのだろうか?
でも・・・でも死にたくないよぉ・・・
「そう・・・光を憎み人間どもを闇で支配する闇の女として生まれ変わるの。そうすればあなたはもう死ななくてすむわ。あなたは死んでもいいの?」
「死にたくない・・・死にたくないです」
雪菜は首を振る。
当然だろう。
「わかっているわ。私に全てをゆだねなさい。たった一言言うだけでいいのよ」
デスルリカが妖しく微笑む。
「ひと・・・こと?」
「そう。光が憎い、人間が憎いって言うの」
光が憎い?
私は光が憎いの?
でも・・・
でも・・・
あの時そばにいた人たちが憎い・・・
私を助けてくれなかったすべての人が憎い・・・
私が死にそうだったのをあざ笑っていた二人が憎い・・・
この人の・・・デスルリカさんの言うとおりにしよう・・・
だって・・・
だって・・・私を救ってくれたのはこの人だけなんだもん・・・
「私は・・・私は光が憎い。人間が憎い!」
雪菜ははっきりとそう言った。
「あ・・・れ?」
通学路途中にある公園のベンチで紗希は気が付いた。
「私・・・いったい?」
「紗希ちゃん・・・」
隣に座っている明日美が涙を流している。
「あれ? 明日美ちゃん、どうしたの? どこか痛いの?」
紗希は驚いた。
明日美が泣いているのはどうしてなのだろう。
明日美はお嬢様として人前で感情をあらわにすることを控えるようにしつけられている。
その明日美が泣くなんてよほどのことに違いない。
「明日美ちゃん・・・」
「紗希ちゃん・・・先ほどのことは夢ですよね?」
明日美はすがるような眼で紗希を見つめる。
「えっ?」
明日美の言葉で紗希の脳裏に先ほどのビーストとの戦いが蘇る。
「あ・・・」
紗希の顔色が変わる。
「紗希ちゃん・・・あれは悪い夢なんですよね?」
「あ・・・明日美ちゃん・・・」
「夢だと言ってください、紗希ちゃん。そうじゃないと・・・そうじゃないと私・・・」
明日美はうつむきただ涙を流している。
「明日美ちゃん・・・私・・・私たち化け物と・・・」
「やめてください!」
明日美が耳をふさいでしまう。
「聞きたくありません・・・聞きたくありません・・・」
「明日美ちゃん・・・」
紗希も悲しくなってくる。
「明日美ちゃん・・・私だっておんなじだよ・・・そんなふうに言わないでよ・・・」
紗希の目からも涙が落ちてくる。
「なぜ私たちがこんな目に遭うんですか? なぜ私たちが戦わなければならないんですか?」
「明日美ちゃん・・・」
「あの・・・あの化け物は人でした。人だったんです」
紗希はその言葉にショックを受ける。
確かに死んだ化け物は人間の姿に戻っていた。
でも、人を傷つけたなんて考えたくも無かったのだ。
「そ、そんなこと・・・」
「紗希ちゃん。私たちは人を殺しちゃったんです」
明日美の手がぎゅっと握り締められる。
「あ・・・ああ・・・」
紗希も顔面が蒼白になる。
人を殺してしまったなんて・・・
いったいどうしたらいいのだろう・・・
「私、もう家へ帰れないですわ・・・お母様にもお父様にももう会えない・・・」
「明日美ちゃん・・・家へ、家へおいでよ。お母さんならきっと私たちの話を聞いてくれるよ」
「紗希ちゃん・・・」
明日美が顔を上げる。
「大丈夫だよ、明日美ちゃん。お母さんならきっと何とかしてくれるよ」
「ええ、おば様はとても頼りになりますものね」
紗希の差し出す手をがっちりと握る明日美。
二人は立ち上がって家路をたどり始めるのだった。
姫宮 翼
ホーリードールと化した二人は容赦無いですね。むしろを闇を駆逐するのに快楽を覚えているみたいですね。こっちのほうが「人形」としてはよろしいと思っているんでしょうね。ゼーラ様は。雪菜ちゃんは闇ですね。そりゃ、あんな事が起これば誰でもこっちに来ちゃいそうですが。この後、雪菜ちゃんがどのような闇の少女になるのか楽しみです。
1月24日 20:10
漆黒の戦乙女
闇の存在を消し去るのをとても楽しんでますね…どっちが正義か分かったもんじゃないですよねwそしてドール時のことを覚えているために傷つく二人…もとの人間の心はどうなってもいいっていう考えが浮き彫りですねお母さんを頼る二人…帰ったら雪奈ちゃんといっしょにいて、一波乱かなぁ今の二人ならドールより闇のほうに行きそうな感じもしますがねw同じようにやさしくされたらww
1月25日 23:20
舞方雅人
>姫宮 翼様
二人はじょじょにドールとしての意識に染まって行くことになると思います。普段からサキ、アスミと呼び合うようになるかも。(笑) 雪菜はきっと可愛い闇の少女になってくれるはずですよー。
>漆黒の戦乙女様
そうですね。今のように精神に衝撃を受けている状態だと、闇の誘いに屈しそうですね。でも、そこはゼーラ様。対応策を実行してくるはずです。ドール化がさらに進むはずですよ。
1月26日 8:46
- 2006/01/24(火) 17:20:53|
- ホーリードール
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