1864年5月5日。
ウィルダネス(樹海)で、グラントの北軍とリーの南軍が戦闘に入った頃、ヨークタウン半島でも、北軍の一軍勢が進撃を開始します。
指揮官はベンジャミン・フランクリン・バトラー少将。
軍人としての指揮能力にはクエスチョンマークのつく人物であったそうですが、それもそのはず。
彼は軍事というものを学んだことがありませんでした。
彼は民主党の有力政治家であり、上院議員という立場であったために、少将という肩書きをもらったに過ぎないのです。
軍人というよりも政治家だった彼は、1862年、ファラガット提督の北軍艦隊による封鎖で陥落したニューオーリンズに執政官として勇躍乗り込んできます。
彼はここで、「ハイエナ」「ケダモノ」などの悪名をとどろかすほどの悪政を敷き、ニューオーリンズ市民より蛇蝎のごとく嫌われたものの、市民より没収した財産をもって財を成しました。
結局12月にニューオーリンズを離れることになりますが、バトラーの悪名は北部でもとどろきました。
しかし、彼は民主党の実力者でした。
リンカーンはむやみに彼を解任することはできませんでした。
グラントもそのことは心得ており、軍事的能力に欠ける彼のために、軍団長は有能なものを配するように手当てしていたのでした。
そのバトラーが、再び自分の出番が来たとばかりに三万の兵力を海軍の支援のもと、リッチモンドの南側のアポマトックス川とジェームス川の合流点近辺に上陸させます。
彼はそのままリッチモンドとピータースバーグを結ぶ鉄道線路を遮断すればよかったのですが、とりあえず彼は防備を固めるべく陣地構築に励みます。
そして、それから鉄道に向かいました。
バトラーの北軍の正面にいたのは、わずか数千の南軍兵士だけでした。
しかし、バトラーは様子見だけだったのか、小競り合いをしただけで引き返します。
さらに、ピータースバーグを攻略するつもりだったものが、町と川を挟んでしまう位置に上陸したために、町を攻撃するにはまた渡河しなくてはならない状況でした。
バトラーは現状を呪うだけ呪った後、ピータースバーグを無視して、一気にリッチモンドへ向かいます。
三万の軍勢であれば、リーがいない今ならリッチモンド攻略も可能だと考えたのかもしれません。
しかし、ピータースバーグや鉄道のあたりでうろうろしているうちに、南軍は防備を固めつつありました。
ボーリガール将軍率いる二万の軍勢が、防衛ラインを引くことに成功していたのです。
5月16日。
ボーリガールとバトラーの両軍は激突。
これは双方ともに四千ほどの損害を出して、北軍優勢に終わりましたが、バトラーはまたも防御陣地まで後退してしまいます。
ボーリガールはこれを追って、バトラーの陣地を囲むように塹壕陣地を構築します。
さほどの抵抗も無くこの陣地が完成してしまうと、バトラーの三万の北軍は陣地に閉じ込められてしまいました。
わずか数千の兵士を張り付かせることで、バトラーの三万を封じ込めた南軍は、ここが最大の捕虜収容所だとうそぶき、事実グラント自らもそれを認めざるを得ないような状況となったのです。
結局、バトラーは後にグラントが救出するまで“捕虜収容所”の中でした。
なすすべなく時が経つのを待つしかなかったのです。
一方その頃、シェナンドー峡谷でも、北軍の一部隊が南軍に痛い目にあっていました。
フランツ・ジーゲル少将率いる八千の軍勢は、シェナンドー峡谷の南軍兵力を排除し、状況が許せばリーの軍勢の背後を脅かすことを目的として出発します。
この時点でシェナンドー峡谷にいた南軍は、インボーデン准将の騎兵とブレッキンリッジ少将の歩兵合わせて四千ほどでした。
彼らはリーより援軍の望み無しといわれていたので、手持ちの兵力だけでジーゲルを迎え撃たねばなりませんでした。
インボーデンの騎兵部隊は、ジーゲルの北軍に繰り返し襲撃をかけて足取りを遅くさせるとともに、ブレッキンリッジはできるだけ兵力をかき集めて北軍を迎え撃つ準備をします。
この時、14歳から18歳の少年士官候補生250名もブレッキンリッジの指揮下に入りました。
ブレッキンリッジはできるだけ北で北軍を迎え撃つべく、ニューマーケットという町の郊外に布陣。
同様に布陣したジーゲルに対して先制攻撃を仕掛けます。
北軍は歩兵を二段構えにして迎え撃ち、南軍の攻撃を受け止めました。
そして突進を止められた南軍を打ち倒し、後退させることに成功します。
ここで追撃を仕掛ければ、勝利は北軍のものでした。
しかし、ジーゲルは躊躇します。
この一瞬が明暗を分けました。
ブレッキンリッジは、できるだけ戦闘に参加させないでおこうと後方に温存していた少年士官候補生250名を含む待機していた部隊を投入します。
「この命令を出したことに、神のお許しを・・・」
ブレッキンリッジがそう言って投入した少年兵たちは、のろのろとやってきた北軍歩兵を追い散らします。
そしてそのまま北軍主力のいる丘に突撃し、これを陥落せしめます。
北軍は後退するしかありませんでした。
結局ジーゲルはシェナンドー峡谷から去ったのです。
ヨークタウン半島とシェナンドー峡谷。
リーに揺さぶりをかけることができるはずの両翼からの攻撃は、あっけなく頓挫してしまいました。
その31へ
- 2007/05/03(木) 20:57:59|
- アメリカ南北戦争概略
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0