新年堕とし玉(お年玉)SSの第二弾を投下します。
本当は三が日の間に投下したかったのですが、書きあがるのに時間がかかってしまいました。
何とか松の内の七日までに間に合いました。
タイトルは「蛇魔女ジャルーナ」です。
今回もいわゆるシチュのみの短編です。
短い作品ですが、お楽しみいただけますとうれしいです。
それではどうぞ。
「蛇魔女ジャルーナ」
「う・・・ここは? 私はいったい?」
長いまつげがぴくぴくと震え、やがてうっすらと目を開ける後川綾乃(うしろかわ あやの)。
いったい何がどうなったというのか?
綾乃はとにかく状況を把握しようと周囲を見回す。
どうやら室内にいるらしい・・・
「えっ? キャッ」
思わず声を上げてしまう綾乃。
自分が何も身に着けていないことに気がついたのだ。
「えっ? 何?」
思わず手で隠そうとしたものの、両手が動かない。
「え? え?」
何が何だかわからない。
だが、じょじょに状況が綾乃にも飲み込めてくる。
持ち前の冷静さで落ち着きを取り戻しつつあったのだ。
どうやら綾乃は捕らえられてしまったらしい。
Xの形をした磔台に裸で縛り付けられているのだ。
薄暗い部屋に磔になっている綾乃。
このようなことをするのは奴らしかありえない。
ぎりっと綾乃は唇を噛んだ。
「気が付いたようだな」
ドスのきいた低い声が室内に響く。
そしてうろこに覆われた全身に蛇の頭部を持ち、厚い胸板と太い腕をした偉丈夫が姿を現した。
ジャジャー帝国の指揮官コブラー将軍だ。
「コブラー将軍・・・やはりあなたが・・・」
裸をさらす恥ずかしさを飲み込み、キッとコブラー将軍をにらみつける綾乃。
本来ならすぐにでも戦士たちを呼び、決戦を挑みたいところだがこの状態ではそうもいかない。
「クックック・・・いい目だ。さすがはわがジャジャー帝国に何度も煮え湯を飲ませてきた“マングース”のメンバーを統率する女司令官だな」
ちろちろと舌を出しながらニタァッと笑みを浮かべるコブラー将軍。
毒蛇コブラのように頭部の両脇から左右に広がったのど部分がそのまま両肩へとつながっている。
「クッ・・・」
やはりわかった上で捕らわれたらしい。
綾乃が地球を守る正義の秘密戦隊マングースの司令官であることは機密事項のはずだったが、どこかで情報が漏れたのだろう。
「お前たちにはずいぶんと世話になったからな。戦闘指揮官のマムシーまでも失うとは思わなかったぞ」
鋭い爪をした手で綾乃のあごを持ち上げるコブラー。
綾乃はその手を振り払うように首を振り、ありったけの憎悪をこめてにらみつける。
「あなたたちの野望はおしまいよ。マングースがある限りあなたたちの侵略は成功しないわ。地球は渡さない」
「クックック・・・確かにお前たちは強い。だがどんな強い生き物も頭を失えば弱くなるもの。そうだろう?」
「クッ」
そういうことか。
マングースの戦士たちに歯が立たないものだから、司令官である自分を殺そうというのだろう。
裸にしたということは辱めて殺すつもりなのかもしれない。
「残念ね。私を殺したところでマングースはびくともしないわ。殺すならさっさと殺したらどう?」
綾乃は不敵に笑みを浮かべる。
美人の女司令官などと国防会議などでは呼ばれたものだが、まさにその言葉にたがわぬ美しさだ。
「クックック・・・死ぬのは怖いか?」
「・・・それは・・・怖いわ・・・」
死ぬのは怖い。
それは当然だろう。
生きているものにとって死は怖い。
だが、彼女が死んでもマングースは生き残る。
マングースさえ健在ならば地球は守られるだろう。
それはたぶん間違いない。
「クックック・・・安心しろ。お前を殺しはしない」
意外なことを言うコブラー。
思わず綾乃も顔を上げてコブラーを見上げてしまう。
「殺しはしない?」
「そうだ。お前は地球人にしては優秀なメスだ。殺してしまうには惜しい。どうだ、我らとともにこの地球を支配せぬか? お前ならわがジャジャー帝国のいい女戦士になるだろう」
「はぁ?」
綾乃は驚いた。
言うに事欠いて一緒に地球を支配しようだと?
あきれてものも言えない。
「ふざけないで! 誰があなた方に協力などするものですか! 私を見損なわないでちょうだい!」
「ほう・・・殺されてもか?」
コブラーの顔から笑みが消え、鋭い目でにらみつけてくる。
背筋が凍りそうな恐怖感だが、綾乃はそれを必死で振り払った。
「たとえ殺されても、あなた方に協力するなどありえないわ」
綾乃はキッとコブラーをにらみつけた。
「クックック・・・やはりな。殺されると聞いて怖気づいて協力を申し出るようなメスなら、むしろあっさりと殺してしまおうと思ったが、殺されても協力しないと言い切るか。それでこそ我が見込んだメスだ」
再びニタァッっと笑みを浮かべるコブラー。
「さあ、わかったらさっさと殺したらどう?」
もはや助かることはないだろう。
おそらくマングースの戦士たちは綾乃がいないことに気が付いているだろうが、救出が間に合うとは思えない。
むざむざ死ぬのは悔しいが、きっと仇は討ってくれるはず・・・
「クックック・・・焦るな。実のところお前の意思など関係ないのだ」
相変わらず笑みを浮かべたままのコブラー。
ちろちろと先が二つに割れた舌が見え隠れする。
「関係ない?」
どういうことなのだろう。
「クックック・・・そうだ。お前はすぐに自らの意思で喜んで我々に従うようになる」
「何をバカなことを! 殺されたってそんなことはありえないと言ったはずよ!」
「クックック・・・我がジャジャー帝国はこれまでも利用価値のある者を仲間へと変えてきた。今まで地球人には利用価値のある者はいないと思っていたが、どうやらお前はそうではない」
鋭い爪のついた右手を手のひらを上にして差し出すコブラー。
その手のひらの上にうろこの付いた蛇の皮のようなものが現れる。
「これが何かわかるか?」
「?」
綾乃は首をかしげる。
蛇の皮のようだが、これがいったいどうしたというのだろう?
「これをお前の躰に貼り付けてやる。そうすればこの皮がお前の躰に広がってお前の躰をジャジャー帝国のメスへと変化させるのだ。その上で我らに忠実となるよう洗脳してやろう。クックック・・・」
「な?」
息を飲む綾乃。
冗談ではない。
ジャジャー帝国のメスになどされてたまるものか。
「や、やめてぇっ!!」
綾乃は必死になって逃れようとする。
しかし、両手両足はがっちりと金具に固定され、磔状態から抜け出せない。
「無駄だ。お前の力程度ではその金具を破壊することはできん」
ゆっくりと近づいてくるコブラー。
やがてコブラーは、もがく綾乃の白いお腹にぺたりと蛇皮を貼り付ける。
「ひやぁっ!」
最初は冷んやり冷たく感じたものの、やがてそこがじんわりと火照ってくる。
「いやっ、いやぁっ!!」
次にコブラーは同じような蛇皮を綾乃の両足の脛部分に貼り付けた。
「ああん、いやぁっ・・・」
身を捩って逃れようとするものの、両手両脚が拘束されていてはどうすることもできない。
お腹と両脚がじんわりと火照り、なんだかとても気持ちよくなってくる。
むずがゆいような痛いような不思議な感じが全身に広がっていく。
綾乃は身もだえしながらその感覚を受け入れるしかない。
「ああ・・・いや、いやぁ・・・」
やがて貼り付けられた蛇皮がじわじわと広がり始める。
おへそから下腹部へと広がり、形良い両胸をも覆っていく。
脛からもふくらはぎからひざへと広がり、うろこが両脚を覆っていく。
「ああ・・・そ、そんな・・・いやぁっ」
自分の腹部と両脚が蛇皮に覆われていくのを見て綾乃は恐怖におののく。
しかし、それがどうにも気持ちよく、本当に恐怖を感じているのかわからない。
綾乃の両足はすでに足の甲まで蛇皮に覆われ、足指がくっついてかかとが伸び、まるでハイヒールタイプのブーツを履いているような形へと変化する。
腹部に広がった蛇皮も背中へと広がっていき、股間から首までを覆うまるで蛇皮でできたレオタードのような姿に変わっていく。
「ああ・・・あああ・・・」
自分の躰が蛇皮に覆われていくのをなすすべなく見ている綾乃。
だが、それとともに躰中に広がっていく、えも言われぬ快感がたまらない。
「ククククク・・・両手にはこれをつけてやろう」
コブラーの手に新たに蛇皮が現れる。
それは綾乃の両手の甲に貼り付けられると、すぐさま変化し始めた。
左手の蛇皮は手袋のように左手を覆い、指先に鋭い爪を形作る。
一方右手の蛇皮はまるで綾乃の右手から蛇の頭部が生えてきたかのように右手の先を蛇の頭へと変えてしまう。
らんらんと輝く目を持ち、ぱっくりと開けた口からは毒の牙が鋭く生え、先の割れた舌がちろちろと出入りする毒蛇の頭。
綾乃の右手はそんな蛇の頭のようになってしまったのだった。
「ひぃぃぃっ! いやぁっ!!」
しゅるしゅると伸びて綾乃の顔に近づいてくる綾乃の右手。
その舌先が綾乃の頬に触れんばかりになっている。
「いやっ、戻して! 私の手をもとに戻してぇ!!」
自分の躰が変わっていくことにショックを受けているはずなのに、どんどん躰は気持ちよくなっていく。
それが綾乃には耐えられなかった。
「クックック・・・おびえることはない。これをかぶればすぐに新たな躰を誇らしく思うようになる」
コブラーが次に手にしたのは蛇の頭部を模したヘルメットだった。
鼻から上をすっぽり覆う形をしており、縦長の瞳をした蛇の目が付いている。
「いやぁ・・・やめてぇ・・・これ以上私を変えないでぇ」
幼子がいやいやをするように首を振る綾乃。
すでに躰は蛇皮に覆われ、まるで蛇皮のレオタードやブーツ、手袋を身につけているようだ。
わずかに太ももと二の腕の一部だけが人間らしさを保っている。
「クックック・・・さあ、ジャジャー帝国の一員となるがいい」
ゆっくりと綾乃の頭にヘルメットをかぶせるコブラー。
必死に頭を動かして拒む綾乃だったが、躰を拘束されている以上どうしようもない。
すっぽりと綾乃の頭にヘルメットがかぶせられ、両耳の辺りから上は蛇の頭部に覆われてしまう。
「ああっ、いやぁっ」
頭を振ってもがく綾乃。
だが、かぶせられたヘルメットは綾乃の頭にがっちりと嵌ってしまってとても抜けるものではない。
そしてヘルメットの蛇の目が輝きを増し、綾乃の目の代わりをし始める。
「な、何? いやぁっ! 私の頭をいじらないでぇ!!」
苦痛に悲鳴を上げる綾乃。
先ほどまでの快楽とは違ううねりが綾乃の脳をかき混ぜているのだ。
「ククククク・・・少しの辛抱だ。すぐにお前の思考はジャジャー帝国のメスへと変化する」
「ああ・・・そんなの・・・そんなのはいやぁっ!!」
ひときわ大きく悲鳴を上げ、がっくりとうなだれる綾乃。
全身の力が抜け、どうやら気を失ってしまったらしい。
「クックック・・・これでよい。次に目を覚ますときが楽しみだ」
コブラーの口の端が釣りあがり、ニタァッという笑みが浮かんだ。
******
「ケケ・・・ケケケケケ・・・」
がっくりとうなだれた綾乃の口から不気味な笑い声が響き始める。
真っ赤に染まった唇となったその口からは、人間のものとは思えない先が二つに割れた細長い舌がちろちろと出入りし始めていた。
やがてゆっくりと顔を上げる綾乃。
ヘルメットの蛇の目が再びらんらんと輝き始めている。
するりとまるで骨がなくなったかのように両手をうねらせて拘束金具から抜き取ると、両足も同じように金具から引き抜いてしまう。
そして、ゆっくりと二三歩前に踏み出すと、腕組みをして様子をみていたコブラーに対し笑みを浮かべた。
「クックック・・・自力で拘束を抜け出したか。気分はどうかな? 生まれ変わった気分は?」
「ケケケケケケ・・・はい、最高ですわ。私はもう下等な人間などではありません。あのような拘束など私たちジャジャー帝国の者には無意味なこと」
うねうねと動く右手を胸の前に持ってくると、愛しそうにその右手の蛇の頭を左手でなでる綾乃。
茶色に黒のまだら模様のうろこに覆われたその姿は、まさに蛇女というにふさわしい。
「クックック・・・それでいい。お前はもうジャジャー帝国のメス。蛇魔女ジャルーナと名乗るがいい」
満足そうにうなずくコブラー。
目の前にいるメスはなかなかに美しく、また邪悪を感じさせるものだったのだ。
「ケケケケケケ・・・それが私の新たなる名前なのですね。ありがとうございます。私は偉大なるジャジャー帝国の蛇魔女ジャルーナ。ジャジャー帝国に永遠の忠誠を誓いますわ」
ちろちろと舌を出し入れさせながらニタァッと笑う綾乃。
いや、もはや彼女は身も心も蛇魔女ジャルーナと化していた。
「ククククク・・・そうだ。お前は蛇魔女ジャルーナ。これからはジャジャー帝国の一員として秘密戦隊マングースと戦うのだ」
「もちろんです。秘密戦隊マングースはジャジャー帝国に歯向かう憎むべき敵。あのような連中の司令官などを務めていたかと思うとゾッとしますわ。その罪滅ぼしのためにも必ずや連中をこの手で始末してご覧に入れます。ケケケケケケ・・・」
「クックックック・・・うむ。お前の手腕、見せてもらうぞ」
「かしこまりましたわコブラー様。ですがその前に・・・」
満足そうにうなずいているコブラーの前にスッとひざまずくジャルーナ。
「生まれ変わった私の忠誠心をお見せしたいと思いますわ。ケケケケケケ・・・」
いやらしい笑い声を上げながら、コブラーの股間をそっと右手の蛇頭でなで上げるジャルーナ。
その顔には淫靡な笑みが浮かんでいる。
「クックック・・・いいだろう。お前の忠誠心、見せてもらうとしよう。来るがいい」
「はい、コブラー様。生まれ変わりました私の躰、存分にお楽しみくださいませ。ケケケケケケ・・・」
導かれるままに立ち上がり、ジャルーナはコブラーの後に付いていく。
新たなジャジャー帝国の女幹部の誕生だった。
******
「う・・・あ・・・ここは?」
ゆっくりと目を開ける鮎村舞(あゆむら まい)。
彼女は秘密戦隊マングースの一員“マングースイエロー”としてジャジャー帝国と戦っていたのだが、どうやら捕らえられてしまったらしい。
気が付くと彼女の躰は両手両脚を拘束され、X字型に磔になっていたのだ。
しかも生まれたままの姿である。
「ケケケケケケ・・・目が覚めたようね、鮎村舞。いいえ、わがジャジャー帝国に歯向かう愚か者マングースイエロー」
「誰?」
舞が顔を上げると、ゆっくりと近づいてくる人影が見える。
頭は蛇の頭部を模したヘルメットをすっぽりとかぶり、口元は人間のようだが真っ赤な唇からは先が二つに割れた舌がちろちろと出入りしている。
躰は女性のようなやわらかいラインをしており、形の良い両胸が双丘をなしているが、レオタードのような茶色と黒のまだらの蛇皮に覆われていた。
鋭い爪の左手になでられている右手はまさに蛇の頭であり、こちらも目を輝かせて舌をちろちろと伸ばしている。
両足は太ももまである蛇皮のハイヒールブーツに覆われており、カツコツと足音を立てていた。
マントを翻したさまはまさにジャジャー帝国の女幹部という雰囲気であり、おそらく強敵であることは間違いない。
「やはりジャジャー帝国・・・」
歯噛みする舞。
油断をしたつもりはなかったが、綾乃司令からの呼び出しと思い、出向いたところを捕らわれるとは思わなかったのだ。
「ケケケケケケ・・・私はジャジャー帝国の蛇魔女ジャルーナ。偉大なるジャジャー帝国の忠実なるしもべ」
ゆっくりと舞のそばまでやってくるジャルーナ。
その口元にはニタァッという笑みが浮かんでいる。
「蛇魔女ジャルーナ・・・綾乃司令のコードを使ったのはお前なの?」
マングースの隊員にはそれぞれ個別のコードが設けられている。
そのコードは偽造不可能といわれており、それゆえに綾乃のコードを使って発せられた呼び出しに舞は疑いを感じなかったのだ。
「ケケケケケケ・・・そうよ。まさか本物のコードが罠に使われるとは思わなかったかしら?」
「本物のコード? ということはやはり綾乃司令はお前たちの手に? 綾乃司令はどこ?」
裸体をさらしているにもかかわらず気丈にもジャルーナをにらみつける舞。
マングースイエローとしての活躍は伊達ではない。
「ケケケケケケ・・・後川綾乃はもういないわ」
右手の蛇頭を口元に当てて高笑いをするジャルーナ。
「いない? まさか綾乃司令を・・・」
「ケケケケケケ・・・後川綾乃はもういない。私は生まれ変わったの。今の私は偉大なるジャジャー帝国のメス。蛇魔女ジャルーナよ!」
「えっ? ま、まさか・・・そんな・・・綾乃司令? 綾乃司令なんですか?」
ジャルーナが何を言ったのかを理解し、愕然とする舞。
まさか目の前にいるこの蛇女が綾乃司令だというのか?
「ケケケケケケ・・・ええそうよ。でも言ったでしょ。後川綾乃などという下等なメスはもういないわ。そのような過去があったことを思い出すだけでも不愉快よ。私はジャジャー帝国の蛇魔女ジャルーナなの」
まるで生まれ変わった自分を確認するかのように自分の名を連呼するジャルーナ。
彼女にとっては思い出したくもない過去なのだ。
「そんな・・・綾乃司令が・・・嘘でしょ・・・」
舞にはとても信じられない。
あの美人で優しくてそれでいて凛とした綾乃司令がジャジャー帝国の一員になってしまうなんて・・・
おぞましい蛇女になってしまうなんて・・・
「ケケケケケケ・・・嘘じゃないわ。見て。私は生まれ変わったの。こんなに素敵な躰にしたいただいたのよ」
自分の躰を見せ付けるようにくるりと一回転するジャルーナ。
女性としての柔らかなラインは見る者が見れば美しいかもしれない。
「この腕も素敵でしょ。この口で何人もの人間ののどに噛み付いて毒を流し込んでやったわ。みんなぴくぴくと痙攣して死んでいくの。最高に楽しいわよ。ケケケケケケ・・・」
高笑いを発しながら右手の蛇頭を左手でなでるジャルーナ。
あの綾乃司令の面影は全くない。
だが、よく見ると口元にあるほくろが綾乃であったことを物語っている。
「そんな・・・そんな・・・」
愕然としている舞。
もし本当なら、司令官としてマングースのすべてを知っている者が敵にまわったことになる。
それはマングースにとっては計り知れないほどのダメージに違いない。
「ケケケケケケ・・・ショックを受けるのも当然ね。でも心配することはないわ」
「え?」
「あなたもすぐにジャジャー帝国の一員にしてあげる。クグツヘビとしてジャジャー帝国のために働くのよ。ケケケケケケ・・・」
「そ、そんな・・・」
クグツヘビというのは全身がうろこで覆われた人間のような姿をしたジャジャー帝国の戦闘員だ。
命令に従い冷酷に人間を襲ってくる。
「いやっ! いやよ! クグツヘビなんかにされるなんていやぁっ!!」
ぶんぶんと首を振る舞。
「ケケケケケケ・・・怖がることはないわ。クグツヘビになれば何も考えることなどなくなるのよ。悩みもなくなるし命令に従うだけで快感になるの。素敵だと思うわよ」
うろこでざらっとした左手で舞のあごをなでるジャルーナ。
「いやぁっ! やめてぇっ!」
「ケケケケケケ・・・これが何かわかるかしら?」
舞のあごをなでていたジャルーナがその左手の平を上にする。
するとそこに緑色のうろこのようなものが現れた。
「う・・・うろこ・・・」
「そう。これはクグツヘビのうろこ。これをあなたの躰に貼り付ければ・・・ケケケケケケ・・・」
ジャルーナの不気味な笑い声が響く。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!」
舞の悲鳴がその笑い声に重なった。
******
「シャーッ!」
カツコツとヒールの音を響かせ、ジャルーナの前にやってくる一体のクグツヘビ。
女性らしい柔らかなラインをさらけ出してはいるものの、その全身は頭からつま先まですっぽりと緑色のうろこ状の全身タイツのようなものに覆われており、目と口だけが覗いている。
その目は人間のものだが瞳は縦に細長く、口からも先が二つに割れた舌がちろちろと出入りしている。
両手の指先には鋭い爪が伸び、両足はかかとが伸びてハイヒールのようになっていた。
「ケケケケケケ・・・素敵なクグツヘビになったわね。もう心もクグツヘビに変わったでしょう?」
「シャーッ! はい、私はクグツヘビ№63。どうぞ何なりとご命令を」
スッとジャルーナにひざまずくクグツヘビ。
それは先ほどまで磔にされていたマングースイエロー、鮎村舞の生まれ変わった姿だった。
「ケケケケケケ・・・これでもうお前は我らジャジャー帝国の一員。その身をジャジャー帝国のためにささげるのよ」
ジャルーナの右手の蛇頭が63号の頭をなでる。
「シャーッ! もちろんです。私はクグツヘビ。ジャジャー帝国の命令に従い、この身を使い捨てていただくことこそ最大の喜びです」
ニタァッと笑みを浮かべる63号。
彼女にとってはもうジャジャー帝国の命令に従うことこそがすべてなのだ。
「ケケケケケケ・・・それでいいわ。我がジャジャー帝国に歯向かう愚か者たちを始末するのです。いいわね」
「シャーッ! かしこまりました。ジャジャー帝国に栄光あれ!」
立ち上がり右手を斜めに上げて敬礼する63号。
その姿を見るジャルーナの口元には、満足そうなゆがんだ笑みが浮かんでいた。
END
いかがでしたでしょうか?
今年は何とか創作のペースを上げていければなと思っております。
お付き合いよろしくお願いいたします。
それではまた。
- 2013/01/07(月) 21:00:00|
- 怪人化・機械化系SS
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