5月最後の更新は短編SSを投下します。
昭和仮面ライダーの異色作に「仮面ライダーアマゾン」という作品がありました。
話数的には短かった作品なのですが、主人公が裸の野生児とか女戦闘員の赤ジューシャが出てきたりとか、決め技が切断技だとかいろいろと異色尽くしの作品でした。
その「仮面ライダーアマゾン」の第19話に、「出動、ガランダー少年部隊!」というお話がありまして、後半の敵ガランダー帝国のフクロウ獣人が、子供たちに目玉を取り付けて支配するというシーンがありました。

支配された少年少女たちは皆黒い全身タイツ姿になり、ガランダー少年部隊として活動するわけですが、このお話を見たときに、少年少女ではなく若い女性を支配してくれたらいいのになと思ったのが、今回のSSのきっかけでした。
タイトルは「妖艶! ガランダー人妻隊」です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
それではどうぞ。
OP 「おーおーぞらにきけーー! おーれーのー名はー・・・」
「妖艶! ガランダー人妻隊」
「ふう・・・遅くなっちゃったわ。早く帰ってご飯の支度をしないと・・・」
勤めを終えて自宅へと急ぐタイトスーツ姿の美女。
肩からはバッグを提げ、手には先ほど購入してきた食材の入ったスーパーのビニール袋を持っている。
おそらくちょっとした残業が入ってしまったのだろう。
急いで帰宅して晩御飯の支度をしようというのか、どうしても急ぎ足になってしまう。
「う・・・どうしよう・・・」
分かれ道で彼女が立ち止まる。
片方は遠回りだが人通りも多く明るい道。
もう片方は近道ではあるものの、暗がりが多く人もほとんど通らない道。
普段であれば迷うことなどない。
だが、夫が帰ってくるまでに食事支度を済ませたい彼女にとって、近道はとても魅力的だった。
「今日はこっちで・・・」
いつもならば通らない近道を歩き出す彼女。
その選択がのちに彼女の運命を変えていくとも知らず・・・
「うう・・・やはりこっちに来るんじゃなかったかしら・・・この公園を通らないとならないし・・・」
昼間ならば子供たちの歓声でにぎわう公園も、夜8時前ともなればだれも居ない。
街灯もほとんどなく、木々が陰を作るためにどうしても闇が濃く感じてしまう。
こうなると、だれもいないことはかえってありがたいぐらいだったが、不気味さが彼女の足を速めさせていた。
ホウ・・・ホウ・・・
どこかでフクロウが鳴いている?
まだそんな夜遅いわけでもないのに?
だが、彼女はそんなことを気にする余裕はない。
ドサッ・・・
「ひっ!」
物音に息を呑む。
何かが倒れたような音。
「な、何? 何なの?」
思わず周囲を見回して確認する。
すると、少し離れた公園の一角に一人の女性が倒れているのが目に映る。
「えっ?」
何があったのかはわからないが、どうやら会社帰りのOLのようだ。
一瞬ためらいはしたものの、やはり彼女は倒れている女性を放っておくことなどできなかった。
「もしもし・・・どうしましたか? 大丈夫ですか?」
おずおずと近づいて倒れている女性に声をかける。。
すると、近づいてくるもう一体の人影に気がついた。
「ホウ・・・ホウ・・・女、見たな!」
「えっ?」
彼女が顔を上げると、そこには羽を広げた巨大なフクロウのような化け物が立っていた。
「ヒィィィィ!!」
思わず手にしたビニール袋を取り落とす。
中に入っていたたまごがぐしゃっと音を立てた。
「ホウホウ・・・俺様はガランダー帝国のフクロウ獣人。女、貴様は人妻か?」
「あ、あああああ・・・」
あまりのことに声が出ず、思わずぺたんと尻餅をついてしまう彼女。
「答えろ! 人妻か?」
フクロウ獣人がずいと近づく。
全身が羽毛に覆われ、巨大なくちばしが印象的だ。
「ああ・・・は・・・はい・・・」
後ずさりながら思わずうなずいてしまう彼女。
「ホウホウ・・・ならばお前も加えてやろう。これを見ろ!」
フクロウ獣人が羽を広げ、そこから何枚もの羽根が飛び散っていく。
「あ・・・あああ・・・」
その光景を目にした彼女が突然目を抑えて倒れこむ。
そして動かなくなってしまった。
「ホウホウ・・・これでよい。さあ、お前たち、立つのだ」
フクロウ獣人がそういうと、倒れていた二人の女性がゆっくりと立ち上がる。
そして、うつろな目をしてフクロウ獣人の前に整列した。
「ククククク・・・付いてくるのだ。お前たち。ホウホウ・・・」
「・・・はい・・・フクロウ獣人様・・・」
二人はフクロウ獣人に従って歩き出す。
やがて彼らの姿は闇の中へと消えていった。
******
痛っ・・・
腕に走る何かを刺されたような痛みに目が覚める。
「ホウホウ・・・そうだ。そのままそれを着せるのだ」
そばで何か声が聞こえる・・・
なぜか躰が動かない。
えっ?
何?
私は今どうなっているの?
彼女の躰がまさぐられ、躰に何かを着せられていく。
「いやっ! 何なの? 怖い! あなた、助けてぇ!」
彼女は必死で躰を動かし周りを見ようとするが、なぜかまったく目が見えず、躰も動かすことができなかった。
「ホウホウ・・・目が覚めたようだな。だが動こうとしても無駄だ。お前の躰は今強化薬によって強化されている最中なのだ」
強化?
躰が熱く感じるのはそのせいなの?
いったい私の体はどうなっているの?
「ククククク・・・心配はいらん。お前はこれからガランダー人妻隊の一員として生まれ変わるのだ。俺様の配下としてな。ホウホウ・・・」
彼女の脳裏にあのフクロウの化け物の姿が思い浮かぶ。
「いやぁっ! 助けてぇっ! あなたぁっ!」
彼女は愛する夫に助けを求めたが、応えは返ってこなかった・・・
「ククククク・・・これでよい。ホウホウ・・・」
フクロウ獣人の手でピンポン玉を半分に切ったような感じの丸い目が付けられる。
白目の部分が黄色く、黒いギョロッとした黒目が付いている目玉だ。
すると、今まで見えなかった目が見えるようになると同時に、急速に自分が何者になったのかが脳裏に染み渡ってくる。
やがて彼女の唇が真っ赤に染まり、冷たい笑みが浮かんできた。
なんて気持ちがいいんだろう・・・
彼女はそう思う。
フクロウ獣人様の手によって、彼女たちは生まれ変わったのだ。
夜目が利くようになった新しい眼で彼女は自分の躰を見る。
胸に白いひも状の飾りのついた黒いレオタード。
脚には網タイツを穿いて黒いブーツを履いている。
両手には皮手袋を付け、腰にはガランダー帝国のベルトが巻かれていた。
彼女は自分の姿に喜びを覚えると、ゆっくりと立ち上がった。
「「「キュオー!」」」
一斉に右手を上げて奇声を発する5人の女性たち。
いずれもひも飾りの付いた黒いレオタードに身を包み、黄色く丸い目をつけている。
一糸乱れぬその姿に、フクロウ獣人は満足した。
「ククククク・・・いかがですかゼロ大帝。わがガランダー人妻隊は」
振り返って、偉大なる大幹部ゼロ大帝に配下となった女たちを紹介するフクロウ獣人。
そこには重々しい銀色の甲冑に身を包み、両側に羽根が広がったような前立てのついた兜をかぶった偉丈夫が立っていた。
「フクロウ獣人よ。お前の羽催眠によって視力を奪ったのち、新たに目を与えることで支配するお前の力はわかった。だが、なぜ人妻隊なのだ」
偉丈夫がフクロウ獣人の背後に居並ぶ黒レオタード姿の女たちを見る。
「ホウホウ・・・人妻とはどうやら人間どもにとっては甘美な響きを持つもののようでして、ごらんのようにこの女たちもなかなかの美人ぞろい。男どもの油断を誘うには充分かと。ホウホウ・・・」
「なるほど。確かにこの者たちならば、男どもは見惚れて充分に油断しよう。早速このガランダー人妻隊を率いて東京を混乱に陥れるのだ!」
フクロウ獣人の説明に思わず納得するゼロ大帝。
確かに網タイツに黒レオタードという姿の女性たちは、匂い立つような色気を感じさせるに充分だったのだ。
「かしこまりましたゼロ大帝。お前たち、付いてくるのだ。ホウホウ・・・」
「「「キュオー!!」」」
奇声を発し、フクロウ獣人の後に続く女たち。
いずれも口元に笑みを浮かべ、生まれ変わった自分に喜びを感じているようだった。
******
「キュオー!」
「キュオー!」
奇声を上げて破壊と殺戮を繰り返す。
フクロウ獣人の命に従い、宝石店を襲い、銀行を破壊する。
快楽。
圧倒的な快楽に酔いしれる。
彼女たちにとってガランダー人妻隊である喜びは何物にも換えがたかった。
とはいえ、任務を終えてアジトに戻れば、フクロウ獣人に付けられた目玉ははずされてしまう。
そうなると目が見えなくなってしまい、さらには自分は何をやっているんだろうという不安が押し寄せてきて泣いてしまったりもするのだが、翌日また目玉を付けられてしまうとそんな気持ちなどどこかへ消えうせて、再びガランダー人妻隊としての誇りと喜びに包まれる。
そしてまた、破壊と殺戮を楽しむのだった。
だが、そんな幸せな時間も長くはなかった。
「アーマーゾーーン!」
突然現れた赤と緑の混じったトカゲのような姿の獣人。
そいつはそんな姿をしているにもかかわらず、同じ獣人であるフクロウ獣人に楯突いたのだ。
そしてガランダー人妻隊である彼女たちを蹴散らし、さらには黒ジューシャたちも蹴散らして、フクロウ獣人に向かっていく。
「だいせつだーーーん!!」
何度かの殴り合いののち、そいつは腕に付いたひれを刃物のように使ってフクロウ獣人を切り裂いた。
フクロウ獣人は血しぶきをあげて倒れこみ、二度と起き上がることなく息絶えた。
そして彼女たちも意識を失った。
******
夜。
隣で夫が寝息を立てる中、ゆっくりと彼女は起き上がる。
そしてそっと寝室を抜け出すと、タンスの奥に仕舞いこんだ衣装を静かに取り出した。
それは胸のところに白いひも飾りの付いた黒いレオタード。
もちろん網タイツやガランダーベルトも忘れない。
彼女はそれらをうっとりと眺めると、一つ一つを身に着ける。
網タイツをじかに穿き、黒レオタードを着込み、皮手袋を手にはめる。
そしてガランダーベルトを腰に巻き、最後に丸い目玉を目にはめる。
途端に全身に快感が走り、力がみなぎってくる。
唇が赤く染まり、思わず笑みが浮かんでくる。
彼女は静かに玄関で黒いハイヒールブーツを履くと、そっと家を後にする。
そしていただいた目玉のおかげで夜の闇がまるで昼間のように見えることに喜びを感じながら、ある場所へ向かって走り出す。
強化された肉体はぐんぐんとスピードを増し、ちょっと地面を蹴っただけでもかなり高くまで飛ぶことができる。
夜の闇を疾走するだけで、あの楽しかった日々がよみがえる。
破壊と殺戮に酔いしれた日々。
あの日々はもう戻ってはこない。
やってきたのは見覚えのある地下室。
あの日、フクロウ獣人が倒されたことで放棄された地下アジトだ。
今ではがらんとしてだれもいない単なる廃墟に過ぎない。
だが、彼女にとってはここが落ち着く場所だった。
フクロウ獣人が倒されたあと、彼女の視力は元に戻った。
目玉をはずしても見えるようになり、正気に戻った彼女は心配していた夫の元へと戻ったのだった。
だが、あの日以来彼女は夫を愛せなくなってしまっていることに気が付いた。
フクロウ獣人に支配され、獣人のその圧倒的な力をまざまざと見せ付けられた彼女にとり、夫はちっぽけでつまらない存在に思えてしまったのだ。
もやもやした思いを抱きながら日常を送っていた彼女は、ある日ガランダー人妻隊だったときのユニフォームであるこのレオタードのことを思い出した。
正気に戻ったときはこの格好があまりにも恥ずかしく感じ、二度と着ないと思ったものだったが、最近ではあの格好こそが本当の自分の格好だという気がしてきていたのだ。
ある夜、彼女はついにタンスの奥に仕舞ったレオタードを手に取った。
その瞬間、かつてのフクロウ獣人の下でガランダー人妻隊として働いた記憶が懐かしくよみがえった。
彼女はもう居ても立ってもいられず、人妻隊の衣装に着替え、このアジトの跡地にやってきたのだった。
コトンと何かの音がする。
彼女が振り返ると、そこには同じ格好をしたもう一人の女性が居た。
「キュオー!」
「キュオー!」
思わず右手を上げて奇声を出す。
えもいわれぬ快感が全身を染め上げる。
やがて、またしても一人、また一人と同じくレオタード姿の女性がやってくる。
皆、かつての人妻隊の女性たちだ。
いずれも以前と同じく黒レオタードを着込んで、目には丸い目玉をはめ込んでいた。
「「「キュオー!!」」」
彼女たちは整列して右手を上げ、かつてゼロ大帝が立っていた場所に敬礼する。
だが、今は命令を下すゼロ大帝もフクロウ獣人も居ない。
彼女たちの奇声はむなしく廃墟となったアジトに響くだけ。
「フクロウ獣人様・・・」
「フクロウ獣人様・・・」
自分たちを支配してくれたフクロウ獣人がもう居ないことに彼女たちはどうしようもない寂しさを感じた。
やがて彼女たちは輪になって座り込む。
何をするでも、何を話すでもない。
ただ、お互いの存在だけが彼女たちにとってのすべてだった。
あの破壊と殺戮の日々はもう戻らない。
いずれ朝になれば、彼女たちは家に戻って服を着替え、朝食を作って夫を仕事に送り出すだろう。
そんな日常をこれからも繰り返さなくてはならないのだ。
いつか・・・
いつか、その繰り返しに耐えられなくなったとき、彼女たちはまた夜の街で破壊と殺戮を楽しんでしまうのかもしれない。
そのときはあのトカゲの姿をした獣人、仮面ライダーアマゾンとやらが彼女たちを倒すだろう。
だが、それでもかまわないではないかと彼女たちは思う。
彼女たちはガランダー帝国のガランダー人妻隊なのだ。
ガランダー帝国に栄光あれ。
END
- 2012/05/31(木) 20:55:06|
- 怪人化・機械化系SS
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