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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

しずく(3)

2500日記念SS「しずく」の三回目です。

そろそろ物語が動きます。

それではどうぞ。



それからの一週間、俺は気が気ではなかった。
ジャンプ空間という異空間に入ってしまった今となっては、ジャンプミスをしたとわかっていてもどうすることもできない。
ただひたすら無事に通常の宇宙空間に戻れることを祈るしかないのだ。
ジャンプも一週間で終わるとは限らない。
ごく普通のジャンプは、1パーセクジャンプだろうが最大の6パーセクジャンプだろうが、要する時間はほぼ一定で一週間と決まっている。
これは決まりごとのようなものでなぜそうなるのかということはまだ完全にはわかってはいない。
ジャンプミスはこの一週間という時間さえ狂ってしまう可能性があるのだ。
偵察局の受けた報告の中には、ジャンプミスで六週間もの間ジャンプ空間にとらわれていたという宇宙船も結構あった。
「ガムボール」には予備を含めておよそ四週間分の食料があるが、その間に通常空間に戻れることを期待するしかない。

考えたくはないが、最悪なのは通常空間に戻れないことだ。
ジャンプミスした宇宙船の何割かは通常空間にそれっきり戻ってこない。
頼むからそれだけは・・・

不幸中の幸いは「ガムボール」の機関部に損傷らしい損傷がなかったことだ。
多くの場合、ジャンプミスをした宇宙船はジャンプドライブが損傷を受けているものだ。
だが、「ガムボール」はいまのところパワープラントは無事に動いているし、ジャンプドライブや機動ドライブも見た目に異常はない。
もっとも、ジャンプミスをした以上は一度点検を受けなくてはならないだろうけどな。

願わくば無事に生きて通常空間に出られますように・・・

                   ******

気が気じゃない日々を約二週間ほど過ごしたころ、コンピュータの警告音が鳴り、「ガムボール」は唐突に通常の宇宙空間へと放り出された。
俺は安堵のため息をついたが、今度は別の心配が押し寄せてくる。
ここはいったいどこなんだ?
近くに人がいる惑星なり衛星はあるのか?
あったとして「ガムボール」が寄港できるCタイプ以上の宇宙港はあるのか?
俺はすぐにコンピュータを使って周囲の観測を行った。
この観測結果をコンピュータに入っているライブラリデータと照合すれば、ここがどこかわかるはずだ。
ここからここまでのジャンプミス

本当はすぐにでも救難信号を出すべきなのかもしれない。
しかし、ここがどこかわからず、もし海賊の跳梁跋扈するような空間だったら、SOS信号は逆に海賊をおびき寄せてしまうことになりかねない。
どうせ通常空間に出た以上は自動識別発信装置から船籍データが発信されているから、軍艦や警備艦に不審船としていきなり攻撃を受けることもないだろう。
まずはここがどこか確かめるのが先だ。

通常空間に出てホッとした俺は、空腹を感じて船内食を温める。
もしかしたら六週間出てこられないのじゃないかと思って、できるだけ食料を食べないようにしていたんだったっけ。
まずは通常空間に無事出られたことに感謝だな。
俺は観測データをコンピュータに照合させながら食事をすませることにした。

俺が食事を終え、コンピュータが照合結果をはじき出したのと、センサーが何者かの接近を知らせてきたのはほぼ同時刻だった。
「接近警報? 宇宙船か?」
俺は思わずそういいながら船外モニターを操作する。
「ガムボール」のコクピットは軍艦と違い、正面には外部視察ができるようにガラスのような透明な外板が使われているが、その一部を切り替えて船体各所にある外部モニターの映像を映し出すこともできるのだ。
もちろんガラスとは違って船体外板と同程度の強度を持っていることは言うまでもない。

そこに映し出されたのは船尾をオレンジ色に発光させた一隻の小型艇だった。
おそらく大きさ的には20トン程度だろう。
惑星の近傍でさまざまな任務に使われる一般的な小艇の大きさだ。
進路はこちらにまっすぐ向かっているのは間違いない。
どうやらこちらの存在に気がつき、確認のために向かってくるのだろう。
となればおそらくは警備艇ということか。

『・・・中の宇宙船、応答せよ。こちらはピューリティ連合神殿警護隊の警備艇である。停泊中の宇宙船、応答せよ・・・繰り返す・・・』
案の定通信機をつなげるとスピーカーから呼びかけが入ってくる。
ピューリティ連合神殿警護隊の警備艇?
ピューリティ連合だと?
俺は驚いた。
リーヴァーズ・ディープ宙域の小国家のひとつじゃないか・・・

                   ******

ピューリティ連合・・・
帝国偵察局認証トラベラー協会発行ライブラリデータによれば、帝国コア宙域よりおよそ100パーセク離れた場所に位置するリーヴァーズ・ディープ宙域内、宙域図上O(オー)に位置するドリンサー星域に属する小規模星間国家ということになる。

国家を構成しているのは主星系であるピューリティの他、わずかにプルガトリィ星系の二星系だけであり、リーヴァーズ・ディープ宙域全体を見渡しても恒星間国家としては最小の部類である。
しかも、“連合”とは言いながらも、プルガトリィ星系はピューリティによる支配を受けた植民地状態であり、実質的には二星系にまたがったピューリティの単独国家に過ぎない。
ピューリティ連合(ピューリティ&プルガトリィ)

ピューリティでは、宇宙を支配する宇宙神「バホート」への信仰が国家宗教とされており、政府はバホート神に仕える神官が神の代理として政務を勤めている。
バホート神に対する信仰は絶対であり、その教義に疑問を持つことは許されない。
これは外世界からの訪問者にも適用されるため、外世界からピューリティを訪れる訪問者は充分注意が必要である。
しばしば外世界よりの訪問者がバホート神信仰による宗教的行為との間でトラブルが発生することと、ピューリティ連合自体の外世界からの訪問を歓迎しない政策により、トラベラー協会では訪問には充分に注意が必要とされる「アンバーゾーン」の指定となっている・・・か・・・

まさにそのとおりと言っていい状況が俺の身には起こっている。
いま俺がいるのは「ガムボール」のコクピットではない。
ピューリティ連合の警備艇の船室に監禁状態なのだ。
そのため、「ガムボール」のライブラリデータをプリントアウトしたものを読んでいるというわけだ・・・

あのあとすぐにピューリティ連合の警備艇がもう一隻到着し、二隻が「ガムボール」を囲むような形となった。
そしてそのうちの一隻が臨検をすると告げ、「ガムボール」に接舷してきたのだ。
エアロックからどかどかと入ってきたのは三人の男女。
青いごわごわした宇宙服に身を包み、火薬式の銃を持っていた。
ピューリティ連合の技術力はトラベラー協会および偵察局で言うところのレベルA。
すなわち初期星間後期レベルの技術力しかない。
帝国内でごく一般的に流通している技術レベルはレベルBからCあたりの標準星間レベルだから、それよりはワンランク落ちるというわけだ。
実際彼らの着ている宇宙服は機能こそ標準的なもののようだが、重量や着心地の面では一段落ちるもののようだった。
警備艇も帝国内で一般的に見られるスラスター駆動ではなく、反重力駆動で動いているのだろう。
どうりで推進器の発光がオレンジ色のはずだ。
ちなみに各星系の技術レベルをトラベラー協会や偵察局では技術なしの0(ゼロ)から始まり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、A、B、C、D、E、F、Gとランク分けされている。
帝国の最高技術はFであり、太古種族の遺跡等から発見されたまだ未解明の技術あたりはレベルGの技術となる。
もっとも、帝国内の研究基地などでは一部レベルGの技術も実用化されているらしいが。

やってきた彼らはすぐに俺を拘束し、「ガムボール」のコンピュータに触れないようにと命じてきた。
そして銃を突きつけるようにして警備艇に移され、この部屋に監禁されたというわけだ。
なるほど。
「アンバーゾーン」指定となるのもうなずける。

6時間ほどして俺は警備艇の一室から引き出された。
エアロックを抜けて外にでると、そこがおそらく軌道宇宙港の一部であることがわかる。
通路の窓からは足元に広がる青い綺麗な惑星が見えた。
おそらくこれが惑星ピューリティということなのだろう。
濃厚な大気と表面の八割の海を持つ青い惑星。
これなら多くの人はこの惑星が住みやすいいい星だと思うに違いない。
そして、このような素敵な星にめぐり合わせてくれた神に感謝をするだろう。
バホート神とやらが崇拝されるのもうなずける。

窓外には接岸している多くの宇宙船も見て取れた。
多くは小型艇のようだが、中には恒星間宇宙船もあるようだ。
ライブラリデータによれば、ピューリティ連合には恒星間宇宙船を建造できる造船所を持たないはずなので、どこかからの輸入品ということになるのだろうか。
そんな中に混じって小さな球体が浮いていることに俺はホッとした。
「ガムボール」だ。
どうやら俺と一緒に移送されてきたらしい。
もう一度あれを無事に取り戻せるといいのだが・・・
俺は不安を抱えつつ青い制服の連中に従った。
いま逆らうのは得策ではないだろう。

                   ******

それからの二日間、俺はほとほと嫌気がさしていた。
青い制服の連中、神殿警護隊というらしいが、こいつらはピューリティ連合政府において警察と軍の仕事を兼ねているような連中らしい。
この神殿警護隊の連中が入れ替わり立ち代りなぜ俺がこのピューリティに来たのか理由を言えと言ってくる。
どうやら俺の前職が帝国恒星間偵察局の職員だったということから、俺を帝国から来たスパイとでも思っているらしい。
そんなバカなはずがあるものか。
帝国のスパイだったらもう少し上手に潜入するだろうさ。
わざわざジャンプミスなんかするものか。

とはいえ、それを信じてもらうのは容易じゃない。
まして相手は俺を疑ってかかっている。
ちょっとでも供述に食い違いがあれば、それ見たことかと俺をスパイに仕立て上げるぐらいはやりかねない。
まったく・・・
外国人嫌いもたいがいにしてほしいものだ。

ピューリティ連合はその立地位置からして、わずか1パーセク先に「ソロマニ連合」というほぼ六宙域にもなる複数宙域にまたがる巨大星間国家がある。
わずか二星系しか持たないピューリティ連合などその気になれば一瞬で飲み込まれてしまうだろう。
それを防ぐために極力外世界との接触を断っているということなのかもしれないが、それにしたってジャンプミスで遭難していた人間相手にここまで疑いを向けるとは・・・

ピューリティ連合に来て三日目、俺は再び尋問を受けていた。
いままでの俺の返答に問題がないと思ったのか、それともよほど手ごわいと思ったのかはわからないが、いつもの神殿警護隊の連中ではなく、白いひだのあるトーガのような衣装を身にまとった若い男性が相手だった。
彼は同じく白いゆったりした衣装を着た女性を連れていたが、神殿警護隊の連中がうやうやしくしていたことから、どうやらこのピューリティでもある程度の実力者らしい。
宗教国家であるピューリティであるから、もしかしたら宗教家なのかもしれない。

「はじめまして。ミシェル・ダルドーさんでしたね。私はこのピューリティ連合において一級神官を務めますパドゥモ・ドッジといいます」
トーガ姿のその男は俺の座らせられた席の前に着くと、そう自己紹介を行った。
「神殿警護隊による取調べでのいろいろな無礼は大変失礼いたしました。しかし、これも我がピューリティ連合の置かれている立場ではやむをえないこととご理解いただけたらと思います」
ドッジはまず頭を下げ一礼をしてきた。
いままでの神殿警護隊の連中とは違うようだ。
「また、あなたがいままで主張してきたこの星系に来た理由が宇宙船のジャンプミスによるもの、というのがにわかには信じがたかったのも事実なのです。何せあなたの乗ってきた宇宙船は機関部に故障らしきものが見当たらなかったのですから」
「本当なのか?」
俺は改めて問いかける。
いままでも神殿警護隊の連中がそのようなことを言っていたが、俺自身ジャンプ後に調べたときには確かに故障らしき兆候はなかった。
だが、ジャンプドライブは精密機械だ。
見た目ではわからなくてもどこかに故障があるという疑いは捨て切れなかったのだ。

「ええ、どうやらそのようです。整備士たちがチェックしたようですから」
ドッジの言葉に俺はホッとした。
ジャンプドライブは宇宙船で一番金がかかっている場所だ。
当然故障した場合の修理費用もほかの場所に比べて高くなる。
俺の手持ちクレジットでは修理費用を出せるかどうかわからなかったのだ。
故障していないというのは俺にとっては非常に朗報だった。

「たいていの宇宙船はジャンプミスをすれば何らかの故障が起こるのが普通です。しかしあの宇宙船は故障していなかった。となれば、ジャンプミスではなく故意にこの星系にやってきたと疑われても仕方ありますまい。違いますか?」
「確かにそうかもしれないが、そのようなことで嘘をつく理由が俺にはない。だいたいこの星系に来たくて来たわけではないのだから」
俺は何度も繰り返してきたセリフを言う。
帝国にしろソロマニ連合にしろ、こんなちっぽけな恒星間国家の動向など気にしてはおるまい。
だいたいがこのリーヴァーズ・ディープ宙域にはここと同じような恒星間小国家が十二もある。
ここは帝国、アスラン、ソロマニの三大国に挟まれた緩衝地帯だ。
それぞれの大国が直接ぶつかり合うことを避けるために、この宙域には手を出さないことを暗黙のうちに認めている。
特に人類同士である帝国とソロマニ連合はともかく、直立したネコ科の猛獣のような異種族アスラン人に率いられているアスラン氏族国連合とは帝国も何度か戦火を交えているのだ。
そのためお互いが接触しないように緩衝地帯を設けるようにしたのがこのリーヴァーズ・ディープ宙域というわけなのだ。
だから、ここには小さな恒星間小国家がいくつもあって、それぞれが独自に政治を営んでいる。
そのうちの一つ二つが何かやっているからといって、周囲に影響を及ぼしたりさえしなければ三大国にしてみれば痛くもかゆくもない話なのだ。
こそこそスパイを送り込んだりするよりも、何か動きがあれば力で叩き潰せば済む。
そのことが彼らにはわかっていないのだろうか・・・

「まあまあ、あなたのご不満はわかります。ですがこれも我が国が小国であるが故のことだとご寛容ください。最後に形式的な質問をいくつかさせていただきますが、その前に飲み物でもいかがですか?」
ドッジが傍らに控えていた女性に指示をする。
「いや、結構。できれば早いとこ済ませて開放してほしい。この星系から出て行けというなら従うつもりだ」
俺は女性が立ち上がったところだったが首を振った。
一刻も早く開放されたかったからと、飲み物に何か仕掛けられるということを恐れたのだ。

「そうですか・・・それでは仕方ありませんね」
ドッジが何か取り出したことに気をとられ、俺は立ち上がった女性が俺のそばに来たことを見過ごした。
服の上から俺の腕に拳銃型の無針注射器が押し当てられ、中の薬剤が注入される。
「しま・・・」
俺は椅子を蹴ってあわてて飛びのいたが、すでに後の祭り。
クッ・・・
こいつら何をしやがった?


PS:ちょっとしたアンケートを設置いたしましたので、よろしければ投票お願いいたします。
参考にさせていただこうと思います。
  1. 2012/05/23(水) 21:03:51|
  2. しずく
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北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
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