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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

しずく(2)

2500日記念SS「しずく」の二回目です。

まだまだ序盤であまり面白みがないかもしれませんが、楽しんでいただければうれしいです。

それではどうぞ。



ガーギルへの航海はまったくもって順調そのものだった。
故障も不調もまったくなし。
きわめて静かな航海だった。
俺はジャンプ中の一週間の間、退屈を紛らせるのに必死になるだけで済んだのだ。
このたった一回の航海で、俺はこの「ガムボール」がとても気に入った。

ガーギルの軌道宇宙港で運んできた船荷を降ろす。
「ガムボール」は惑星の地表に降りることはできないのだ。
なので軌道上に宇宙港設備があるA、B、Cタイプの宇宙港でないと使用できない。
このあたりがあまりこの船が売れ筋で無い理由の一つでもあるのだろう。
完全流線型であれば地表に降りることができるので、どの宇宙港でもかまわずに行くことができるのだから。

だが、そんなのは行く先を選べばいいだけだ。
むしろDやEタイプの宇宙港しかないような星系は商売に不向きなことが多い。
確実に儲けようと思えばそんなところは行かないほうがいいのだ。

さて、今回の航海と退職一時金の残りが七万八千クレジットほどある。
そこで俺は投機品を探してみることにした。
ブローカーを通せば結構いい儲けが期待できるかもしれない。

どういうわけか俺はこういった場面では妙に鼻が利く。
今回も宇宙港の酒場に顔を出したところ、ブローカーにめぐり合うことに成功した。
いい兆候だったが、残念なことに出物が悪かった。
四台のエアラフトを売りたいというのだ。
エアラフトとは反重力輸送機器の一種で、低空を反重力で移動するそりのようなものだ。
売ればかなりの額になるだろうが、いかんせん買うのにもかなり金がかかる。
今の手持ちではとても手が出ない。

幸いもう一種の商品が面白そうだったのでそっちを購入することにする。
10トン分のガーギル産のブランデーだ。
酒類は結構高値で売れるはず。
俺は商談を進めることにした。

1トン当たり六千クレジットで商談成立。
10トン分六万とブローカー手数料5%の三千クレジットを支払う。
荷は明日にでも「ガムボール」に運んでくれるらしい。

結局それ以上の出物は出ず、残りの42トンを宇宙港差し回しの船荷で埋めることにする。
もちろん燃料費や諸経費も払う。
問題はどこへ行くかだ・・・
ここからジャンプ1で行けるのは、ギャリソンとカーナシュの二ヶ所。
カーナシュに戻るのは面白くないが、行き先としては考慮しなくてはならない。
酒をより高く買ってくれそうなのはカーナシュのほうか・・・
やっぱり一度戻るとしようか・・・

それよりも俺は重要なことを忘れるところだった。
宇宙船をジャンプさせるには「ジャンプ準備」プログラムが必要だ。
だが、「ガムボール」にはその「ジャンプ準備」プログラムが入力されていない。
「ガムボール」付随のモデル1型コンピュータには「機動ドライブ」、「ジャンプ-1」、「航法」、「アンチハイジャック」、「ライブラリ」の五つが標準で組み込まれているが、肝心の「ジャンプ準備」プログラムは入っていないのだ。
何せ「ジャンプ準備」プログラムは価格が高い。
八十万クレジットもするのだ。
なので、カーナシュからガーギルまでは一回使いきりの「1パーセクジャンプ準備」プログラムをガバスが入れてくれたのだ。
これは一万クレジットで宇宙港で買うことができるもの。
八十万貯めて「ジャンプ準備」プログラムを買うか、誰かコンピュータに詳しい奴に作ってもらうかするまでは、こうして「使いきりジャンプ準備」プログラムを買うしかない。

カーナシュ・ガーギル・ギャリソン2
カーナシュへのジャンプはこれまた順調で何も問題は無かった。
俺は以前と同じく一週間の退屈をいかにして紛らすかにのみ集中していたといっていい。
本を読みゲームをし映像を見て過ごす。
退屈な一週間。
仲間内には「ファストドラッグ」という薬を使って、この一週間をわずか数時間にしか感じなくさせるという奴もいるが、そこまでするのもなぁという気がして俺は使っていない。
だが、あまりにも船旅が退屈ならそれも悪くないかもしれないな。

                   ******

カーナシュの軌道宇宙港にたどり着いた俺は、まずガーギルの宇宙港から頼まれた船荷を降ろす。
ガーギルからは結局10トン分しか船荷を預かることはできず、一万クレジットしか稼ぐことはできなかった。
うーん・・・これは甘く見ていると痛い目を見るかも知れないぞ。

今手元に残っているのは一万二千四百クレジット。
ジャンプごとに一万クレジットかかるというのは痛すぎる。
俺はすぐにその足でガバスの元へと向かうことにした。

「よう、ミシェル。もう戻ってきたのか?」
宇宙港付随の偵察局基地で俺はガバスに会う。
相変わらずの赤ら顔でにたにたと笑っていた。
「やあ、ガバス。実は頼みごとがあってきたんだ」
「頼みごと?」
怪訝そうな顔をするガバス。
「ああ、廃棄処分の偵察艦からでも『ジャンプ準備プログラム』を手に入れるわけには行かないかな」
俺は両手を合わせて拝むようにガバスに頼み込む。
「ああ、そのことか。やっぱり『ジャンプ準備プログラム』が無きゃ何にもできねぇからな」
にたにたと笑っているガバス。
こいつめ、わかっているくせに。
「ところで、ガーギルに行ってきたんだろ? 手ぶらでご訪問かい?」
俺は苦笑する。
足元見やがって・・・
「わかったよ。ガーギル産のブランデーを1トン分くれてやる。それで手を打ってくれ」
「よっしゃ、そう来なくっちゃ。すぐに組み込んでおいてやるよ。宇宙船のブースを教えておいてくれ」
満足そうに笑みを浮かべるガバスに俺は宇宙船の桟橋を教えてやる。
するとガバスはすぐに局内へと消えていった。

俺はガバス用に1トン分のブランデーをよけると、残りを売るためにブローカーを探しに行く。
幸いすぐにブローカーは見つかり、9トン分のブランデーをさばいてくれた。
驚いたことにこのブランデーは掘り出し物だったらしい。
なんと1トン二万クレジットで売れたというのだ。
俺はブローカーに感謝し、5%の手数料九千クレジットを引いた十七万一千クレジットを手に入れた。
これで残金は十八万三千四百クレジット。
どうやら一息つけそうだ。

さて、このカーナシュからまたガーギルへ行くというのもなんだか味気ない。
とは言うものの、「ガムボール」はジャンプ1船だから、1パーセクのジャンプしかできない。
偵察艦のように2パーセクのジャンプ2ができれば行き先もぐんと増えるのだが・・・
俺は宙域図に眼をやった。
俺が今いるのは帝国の中でもはずれのほうの位置にある「リーヴァーズ・ディープ」と呼ばれる宙域だ。
リーヴァーズ・ディープ宙域図(部分)
ここは帝国とあまり仲の良くない二大国であるアスラン氏族国連合およびソロマニ連合との三大国間の緩衝地帯のようなものだ。
三大国はお互い宙域の一部を占めてはいるものの、その間の空域はそれぞれ手を出さずに済ませている。
そのためそれぞれの大国の影響を受けている中小の星間国家がいくつか成立し、お互い独自の世界を作っているのだ。
そういった恒星間小国家をまたにかけて貿易をする強者もいるが、やはり帝国内のような治安の安全性は見込めない。
一攫千金を求めるつもりも俺には無い。
となれば、安全な帝国内での貿易をするのが良い。

幸いここから2パーセクのところに、ラヴィニア星系がある。
ラヴィニアはウラカッシュ星域の星域首都でありテクノロジーレベルも高い。
貿易の出発点としては申し分ない。
さらにラヴィニアからは、ジャンプ1でいける星系がラヴィニア含めて6個もある。
しかもすべてCタイプ以上の宇宙港だ。
ラヴィニアライン
「ガムボール」で貿易をするならこういう星の並びがいいだろう。
問題は、ここからどうやって行くかだが・・・

俺は再び宇宙港まで出向くと、宇宙船用品の取扱店に入っていった。
ここでは宇宙船に関する部品等いろいろなものが手に入る。
これもこのカーナシュがBタイプ宇宙港であるおかげだな。

宇宙港の規模というのはさまざまなものがあるが、トラベラー協会や偵察局ではそれを五段階評価で分けている。
一番規模が大きくさまざまなことができるのがAタイプ宇宙港であり、以下B、C、D、Eタイプへとランクが下がっていくのだ。
ちなみに宇宙港が無い星系はX(エックス)で表される。
Aタイプ宇宙港には恒星間宇宙船を建造可能な造船施設が付随していなくてはならず、Bタイプ宇宙港では非恒星間宇宙船の建造ができなくてはならない。
つまりここカーナシュでは非恒星間宇宙船が作れるわけだ。
それだけに宇宙船の部品も手に入れやすい。
もっとも、ここのテクノロジーで手に入らないレベルの高技術の部品は輸入になるので割高にはなるが。

俺は可変型増設タンクを手に入れることにする。
増設タンクというのは、船倉内に設置して燃料の容量を増加させるものだ。
燃料の増加ができれば、二回目のジャンプをすることもできる。
つまり、二連続ジャンプで今まで行けなかった場所に行くことができるようになるのだ。
俺の「ガムボール」の場合であれば、ジャンプ一回につき10トンの燃料が必要になる。
つまり10トン分の燃料を余分に船倉に蓄えておけば、一回目のジャンプ後にその燃料を船体タンクに移し変えることで二回目のジャンプをすることができ、2パーセク先の星までいけるのだ。

増設タンクには固定式と可変式がある。
固定式はいったん設置すれば船内タンクと同じように燃料を移し変える手間が無く使用することができるが、その分船倉の容量が減ってしまう。
一方可変式はいちいち燃料を移し変える手間がかかるが、物によっては巨大な水袋のようなものもあり、折りたためばほとんど場所をとらずに済ませられるものがあるので、使わないときは船倉容量をほぼ以前のまま使えるのだ。
俺はこっちを使うことにした。

10トンタイプの特殊繊維で作られた可変増設タンクは一万クレジットで買うことができた。
これなら折りたためば1トン程度の大きさにすることができる。
船倉がその分小さくなってしまうが、なに、あって困るものじゃない。
いざとなればジャンプが二回できるというのは心強い気分になれるのだ。

可変増設タンク・・・と言っても液体燃料用の特殊袋だが、を手に入れた俺は、早速ラヴィニアラインへ向かうことにする。
まずは宇宙港から委託される船荷を確認しようと思ったが、このカーナシュからならばラヴィニア行きの貨物はうなるほどあるに違いない。
むしろ増設タンク分の船倉容量が少なくなるのだから、安く買って高く売れる投機品を探してみたほうがいい。
そう思った俺は宙港街でブローカーを探すことにした。

カーナシュは人口も多くBタイプの宇宙港がある星系だ。
宙港街にはさまざまなブローカーがうろついている。
小規模運送会社の船長や俺のような個人商船の船長を相手に貿易品を売りつけようと狙っているのだ。
酒場に行けばそんなブローカーとはたいてい出会うことができる。
宙港街の酒場はいわばそういう会合の場でもあるのだ。

俺は酒場の店主を通じてひとりのブローカーを紹介してもらった。
タイトスカートのスーツがよく似合う女性だ。
かけているきつめのメガネが表情を引き締めて知的に見せている。
俺はこういう女性は嫌いじゃない。
いつかは秘書として彼女のような女性をそばにおいて仕事をするのも悪くないな。

彼女が提示してきたのはカーナシュ綿という綿の一種だった。
これはこのカーナシュで取れる繊維植物で、衣料品にはよく使用されている。
今回はこのカーナシュ綿の梱包55トンを引き取ってほしいという。
繊維品だから急ぐ必要はないし、だいたいの人間は服を着るわけだからどこでだって売れるだろう。
だが、問題は俺の行き先になりそうなラヴィニアやアストリアが主に農産物輸出をしている星系だということだ。
そういう星系はこういった繊維品は自前で生産していることが多く、持っていっても安く買い叩かれる可能性がある。
俺は別の商品がないかたずねてみた。

すると彼女は量が少なくてもいいのならと、カーナシュで作られているコインを提示してきた。
このコインは金を含有しており、さらに細工が精巧なので工芸品としての価値もあり、好事家にはそれなりの価格で売れるらしい。
トン数にしたら4トンほどしかないが、1トン当たりの価格は二万クレジットと普通の船荷の二十倍にもなる。
しかもこれでもかなり良心的価格らしい。
どうしたものか・・・

結局俺は彼女からコインを4トン分購入し、残りを宇宙港からの貨物で済ませることにした。
彼女には手数料と合わせて八万四千クレジットを払い、宇宙港には使用量と燃料代、それと「ガムボール」の生活必需品の手配料合わせて四千二百クレジットを支払う。
その代わり宇宙港からは35トン分の貨物の運送費三万五千クレジットを受け取った。
残金は十三万二百。
ガバスが「ジャンプ準備」プログラムを組み込んでくれたからジャンプに費用はもうかからない。
よしよし、何とかなってきたかな。

俺はガバスに別れを告げると、「ガムボール」を発進させた。
わずか数週間の付き合いだが、俺にはこの「ガムボール」がとても性に合っている気がした。
たった1G加速しかできないし、ジャンプもわずか1パーセクだし、大気圏突入さえできない不便な船だが、それでもこの「ガムボール」はたった一人で運航する宇宙船としては必要にして充分だった。
以前乗っていた偵察艦より使い勝手は悪いが、その使い勝手の悪さが逆に俺には面白くも思えたのだ。

「ジャンプ準備」プログラムを作動させ、俺は一回目のジャンプに備える。
ラヴィニアは2パーセク先の星系だ。
途中で一回深宇宙に出て、そこで燃料を積み替えてもう一回ジャンプする必要がある。
まずその途中の深宇宙までのジャンプの計算を行うのだ。

6時間ほどの航行ののち、「ガムボール」はジャンプ可能距離に到達する。
宇宙船のジャンプは巨大な重力場のそばでは不安定になり、事故の可能性が高くなる。
つまり、ある星系からジャンプしようと思ったら、その惑星なり衛星なりから一定の距離を離れなくてはならないのだ。
この距離はほぼ惑星直径の100倍にあたり、ジャンプする宇宙船は惑星等の重力場から100倍直径分離れてからジャンプするのが普通なのだ。
俺は「ガムボール」をほぼ静止させ、ジャンプドライブを作動させる。
一瞬躰がよじれるような感じがして「ガムボール」が「ジャンプ空間」と呼ばれる異空間に入ったことを感じさせる。
だが、次の瞬間、俺はいままでの航海で感じたことのないような振動とコンピュータが発した警告音とで最悪の事態が起こってしまったことに気がついた。
通常通りジャンプが行われなくなってしまった状態・・・ジャンプミスだ・・・
俺は青ざめた。
  1. 2012/05/22(火) 20:53:05|
  2. しずく
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