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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

しずく(1)

昨日ご案内いたしましたとおり、今日から八日間連続で一本SSを投下したいと思います。

タイトルは「しずく」です。

今回はいつもとは趣を異にしまして、私が大学時代から楽しんでおりましたSFテーブルトークRPG「TRAVELLER:トラベラー」の世界観をそっくりそのままお借りしてまいりました。
舞台となるのは「リーヴァーズ・ディープ宙域」です。
ですので、「TRAVELLER」をご存じない方には、若干お楽しみいただきづらいかもしれませんが、できるだけ世界観は文中で説明するようにはしたつもりです。
また、主人公の乗る宇宙船は、ネットで見かけたオリジナル宇宙船を使わせていただきました。

なお、世界観や舞台は「TRAVELLER」のものを使わせていただきましたが、キャラクターや事件、政府の設定などはオリジナルとなっておりますので、ご了承くださいませ。

それではどうぞ。


「しずく」

「よう、ミシェル、今日で終わりなんだってな」
赤ら顔した陽気なオヤジであるガバスが声をかけてくる。
彼のいうとおり今日で俺はこの偵察局を去ることになる。
明日からは心機一転、別の働き口を探すことになるのだが、俺は特に不安を感じてはいなかった。

「ああ、あんたにも世話になったな」
俺はガバスに手を振って返事する。
彼はこの偵察局カーナシュ基地の艦船運行課の主任で、俺も世話になってきた相手だ。
彼がいなかったら俺の乗っていた偵察艦はまともに動きやしなかっただろう。

「寂しくなるなぁ。もう一期ぐらい勤める気は無かったのか?」
近づいてきたガバスが俺の肩に手を乗せる。
「ああ、それも考えたんだけどね。でも、まだ若いうちに次の仕事に就いたほうがいいと思ったんだ」
これは俺の本音だ。
正直言って帝国の恒星間偵察局というのは職場としては悪くない。
報酬だって充分すぎるぐらいだろう。
何せこの宇宙に君臨する巨大帝国の公務員なんだからな。

銀河に羽ばたいた人類が作り上げた巨大な星間国家「(第三の)銀河帝国」。
ただ「帝国」とだけ呼ばれることがほとんどのこの既知宇宙最大の星間国家は、その内部に優に一万を超える星々を従えている。
古くから使用されている「パーセク」を距離基準にし、8X10パーセクで1星域として、それを縦横4X4の16星域を集めたものが宙域と呼ばれる範囲。
その宙域を帝国は約17も治めているのだ。
途方も無い広さである。

最も銀河に広がっているのは人類だけではない。
異種族だって広がっている。
それらも巨大な星間国家を形成しているが、その中には帝国と敵対しているものも少なくはない。
もっとも、今現在は表立って帝国と事を構えている国は無い。
一応の平和が保たれているのだ。
だが、ちょっとしたバランスの変化で、宇宙は戦乱に包まれる可能性があるのは間違いない。

そんな帝国の中で「帝国恒星間偵察局(IISS)」というのは「帝国軍」と並んで重要な組織である。
恒星間の広い空間は光の速さを超えなくては飛び越えることなどできやしない。
人類はジャンプドライブというものを開発してその問題を解決したが、そうなると通信もそのジャンプドライブを積んだ宇宙船で運ばなくてはならなくなる。
電波を送ったのでは何年かかるかわからないのだ。
その帝国内の通信業務をつかさどるのが偵察局である。
早い話が帝国内の郵便屋だ。
そしてそれと同じく重要な任務が各世界の情報を収集することだ。
それは各星系の惑星の数等にはじまって、その世界の人口や主要産業にいたるまであらゆることを調査するのである。
その情報が帝国の基本情報となり、徴税等が行われることになるのだ。
偵察局が無ければ帝国は成り立たないといわれるゆえんである。

俺はこの偵察局で独立任務部に就いていた。
この各星系の情報収集をする部門である。
とにかく何でもやらされるので、宇宙船の操縦から力仕事までこなさなくてはならないのだ。
そのため若い人材が好まれ、俺のように1期4年の任期を3期も勤めるともう年寄り扱いである。
そんなわけで俺はここらで偵察局を辞め、別の仕事に就こうと思ったのだ。

「独立任務部に偵察艦使用の申請は出したのか?」
「いいや、しばらくはのんびり過ごそうと思ってね。まあ、パイロットの資格はあるから、そのうちどこかの商船会社にでも就職するよ」
偵察局の独立任務部ではパイロットの資格は必須なので、必然的に退職者はパイロットの資格持ちとなる。
そのため常時パイロットを求めている商船会社に就職する人間も多い。
商船会社にしても自前でパイロットを養成する余裕の無い中小会社も多く、偵察局出身者はわりと再就職には困らないのだ。
とはいえ多少の貯金もあるし、しばらくはのんびりするつもりだった。

「そうか。ところでお前さんさえよければいい話があるんだがどうだ?」
ガバスがにやっと笑みを浮かべる。
このオヤジがこんな表情を浮かべるときは要注意なんだがな・・・
「いい話?」
俺はとりあえず聞いてみる。
「ちょっとこっちへ来てくれ」
ガバスは基地の艦船が保管されている区画に向かっていく。
やむなく俺もそれに付き従うことにした。

「これは?」
そこにはいつも見慣れた楔形の偵察艦と並んで、あまり見かけない真ん丸の宇宙船が浮いていた。
まさに球体としか言いようの無いデザインで、下部と思しきところからは推進器であるスラストプレートがのぞいている。
直径は15メートルほどしかなく、宇宙船としてはかなり小さな部類だろう。
それにしても球形とは珍しいものだ。
球形は宇宙船としては意外と使いづらいのだ。
その形状は容積を生かすには球面が邪魔となって生かしきれず、また完全流線型とならないために大気圏内での使用ができないのだ。
せいぜいガスジャイアント(巨大ガス状惑星)での燃料補給が可能であるというぐらいである。

「小さい船だな。小艇かい?」
「いいや、これでも恒星間宇宙船さ」
ガバスの言葉に俺は驚いた。
こんなに小さくて恒星間宇宙船だと?
最小クラスの偵察艦よりもまだ小さいじゃないか。
「球形だから小さく見えるだけさ。これでも偵察艦と同じく100トンはある」
「これで100トン・・・」
宇宙船のトン数は液体水素1トンの容量を基にする。
空間にしたら約14立方メートルだ。
つまり100トンとは、液体水素100トン分の容積を持っているということで、重量ではない。
とはいえ、100トンとは小さい船だ。
恒星間宇宙船としては最小となるのが100トンだけど、この船は見ため的には同じ100トンの偵察艦の半分ほどの長さしかない。

「ギャリソンにあるヴァーノン造船が作った小型商船でね、わずか100トンなので一人でも充分に運用が可能というのが売りなんだそうだ」
確かに・・・
200トン以上の宇宙船になればパイロット以外にも航宙士や機関士が必要になってくるが、200トン未満の宇宙船にはその規定が無い。
だからパイロット一人でも運行が可能なのだ。
偵察艦が便利な理由もそこにある。
偵察局員一人でも目的の星系にいくことができるというのは、フットワーク的に非常に軽いのだ。
「船荷はどのくらい積めるんだい?」
「52トンだ」
「52トンも?」
俺はまたしても驚かされた。
100トンの宇宙船で52トンもの船荷が積めるなんて想像もできない。
偵察艦なんぞはわずか3トンしか積めないというのに・・・

「まあ、その分ジャンプは1パーセクだし加速も1Gしかできないがな」
ガバスが苦笑する。
だが、商船としてはそれでも悪くない。
実際数多く就航している200トン級の自由貿易船や400トン級の指定設計商船なんかはいずれもジャンプ1に1G加速だ。
つまりこの小さな球体は、充分商船としてやっていける宇宙船なんじゃないのか?

「問題は客をまったく載せられないことだな。貨物だけだと一ヶ月二航海として8万から10万クレジット・・・投機品貿易でもしないと赤字だなぁ・・・」
「それはちょっときついな。やはり商船としては小さすぎるか・・・」
赤字運行では商売にならないからなぁ。
「でもな、助成金がでる航路ならそう悪くないぞ。どんな商船でも一隻でも多く来てほしいって航路はあるからな。それにな・・・」
「それに?」
「一人で運行できるってことは給料が要らない。わずらわしい人間関係も気にしなくていい。一人で宇宙を飛びたいって奴は結構多いと思うぜ」
俺はうなずいた。
商船会社に就職しようとは思っていたものの、そこでのわずらわしい人間関係はごめんだった。
偵察局のいいところは、単独行動が多かったことなのだ。
だれにもわずらわされたくないというのはよくわかる。

「まあ、実際このカーナシュからガーギル、ギャリソン間なんてのはいずれもBタイプ以上の宇宙港のある星系ばかりだ。こいつで商売を始めるにはいいラインだと思わんか?」
「ガバス、いったい何が言いたいんだ?」
俺もいい加減に焦れてきた。
この小さな宇宙船が、俺にいったい何のかかわりがあるというのか?
「こいつで商売を始めてみないかってことさ」
「俺が? この丸っこい宇宙船で?」
俺は目が点になる。
そりゃあ、いずれどこかの商船会社に就職しようとは思っていたが、自分で貿易船オーナーになるなんて考えても見なかったのだ。
「よせやい。俺にはこいつを買う金なんか無いぜ」
恒星間宇宙船となれば中古の偵察艦だって千七百万クレジットはする。
俺の退職金がせいぜい三万クレジット。
逆立ちしたって宇宙船なんか買えっこない。

「それがな、いい申し出があるんだよ」
先ほどと同じようにガバスがにやっと笑う。
「いい申し出?」
「ああ、実はな、ヴァーノン造船はこいつを作ってみたものの、思ったように販売実績が伸びてないんだ」
「売れてない? なぜだ?」
小型一人乗りの商船は悪くないと思うが・・・
「さっきも言ったとおり、こいつは客を乗せられない。自然と収入は貨物輸送に限られる。となれば船体費用と運行費用をまかなうのが大変なのさ」
「それはわかる。助成金なしじゃきつい」
「だが助成金対象の宇宙船はある程度一般的なものでなきゃならん。運行数が少なければ必要な宇宙船とはみなされない」
「なるほど」
俺はうなずく。
「そこでヴァーノン造船ではこの船を普及させるべく手を打ってきたのさ。退役偵察局員に10年間無償で貸し出すという形でね」
「無償で貸し出す?」
「そうさ。運行費用こそ必要だが、船体の費用は当面ただでいいという形だ。そして商船として充分実用に足るという実績を作れば、助成金をもらってこの船を使ってみようという連中も出てくるはずだからな」
「なるほどな」
俺は納得した。
ヴァーノン造船では一時的に赤字になってもこの船の実用性をアピールできればいいということなのだ。
それに退役偵察局員であれば、使用した宇宙船を最悪偵察局が買い上げてくれるかもしれないという思惑もあるのだろう。

「だが・・・俺は偵察局員だぞ。商売がうまくいく保証なんてない」
「なあに、運行費用だけなら宇宙港差し回しの船荷を運ぶだけでも充分稼げるさ。それだけでも実績になるんだよ」
「なるほどね」
俺は苦笑した。
ヴァーノン造船は何が何でもこの船を売りたいらしい。
いや、それは名目で、偵察局とのかかわりをより太くしたいというのが目的だろうか。
「OK、わかったよ。使わせてもらうよ。実際宇宙船が手に入るなんて夢のようだしな」
「そう来なくっちゃ。実はすでに書類は用意済みだ。あとはお前さんのサインをするだけだ」
やれやれ、手回しがいいことだ。
おそらく紹介料のいくらかでももらっているんだろう・・・

                   ******

エアロックを抜けた俺は宇宙服のバイザーを開ける。
冷んやりとした空気に新型船の真新しいにおいが混じっている。
まだ二、三度しか宇宙を飛んでいない船。
新品の宇宙船だ。
それも誰のものでもない俺のものだ。
俺は胸の鼓動が高まるのを抑え切れなかった。

船体は四層になっている。
一番下が機関室。
ここには宇宙船を跳躍させるジャンプドライブと、通常空間を移動させる機動ドライブ、そして船全体に動力を送るパワープラントがおいてある。
そして船の頭脳とも言うべきコンピュータもこの機関室に付随していた。
モデル1型のごくごく平凡なコンピュータだが、船の運航にはなくてはならない装置である。

二層目と三層目はカーゴルームになっている。
この二層であわせて52トンもの船荷を積むことができるのだ。
もっとも球形の壁になっているので、コンテナにすると52トンいっぱいというわけにはいかないだろう。

一番上が居住区と艦橋になっている。
艦橋というよりもコクピットといったほうがいい感じで、操作パネルとシートがあるだけの狭い場所だ。
徹底的に簡素化され価格を安く仕上げているらしい。
居住区も二人分の専用室を一緒くたにした感じで、ベッドが二つに共用室という感じだ。

あと武器設置点が一ヶ所あり、武装する場合はここに武器を搭載することになる。
武装のコントロールはコクピットでできるようになっているようだ。
燃料はこういった内部スペースと外板の間に入る形になっている。
11トンの燃料で1パーセク分のジャンプを一回と、4週間分のパワープラントの動力をまかなうようになっている。

正直武装に関しては望み薄だと思っていたのだが、ガバスが廃棄する偵察艦から引っぺがした奴でよければくれてやるということだったので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
これで単架砲塔と一門のビームレーザーを搭載することができた。
ただし、廃棄処分のジャンク品だから動作保障はなし。
金がたまったら早々に買い換えろということだ。
とはいえ非武装に比べれば、武器があれば身を守ることができるので心強いことこの上ない。
もちろん武装に関しては許可をもらってあるのは言うまでもない。

ガバスによれば、ヴァーノン造船ではこいつのことを「ゴルフボール」級小型貨物船と呼んでいるらしい。
いかにもこの球形の宇宙船にふさわしい名前だろう。
ヴァーノン造船ではほかにも球形宇宙船を手がけており、「ベースボール」級自由貿易船なんてのもあるらしい。
噂ではこの「ゴルフボール」級の改装型をS型偵察艦として偵察局に採用してもらいたいという思惑もあるそうだ。
やっぱりな。
だから退役偵察局員に船を貸すなんてことをしているのだろう。
まあ、どっちにしても俺にとっては渡りに船だ。
大事に使わせてもらうとしよう。

無事に退役の手続きを終えた俺は、早速船の登録に行ってくる。
ガバスのおかげであとは名前を書くばかりとなっていた書類に記入し、船主登録を済ませれば晴れてあの船は俺のものになるというわけだ。
もちろんあくまで俺は貸与してもらっただけだが、実質的には俺のものといってもいい。
10年後、うまく商売を続けていられればこいつの船体費用ぐらいは払えるかもしれないしな。

俺はこの船を「ガムボール」と名付けることにした。
「ゴルフボール」級貨物船「ガムボール」。
小さいが、噛めばいい味がするというわけだ。

俺は早速宇宙港当局に掛け合って、低純度燃料を11トン入れてもらった。
低純度は安いのがとりえ。
1トン百クレジットで買える。
しめて千百クレジットだ。
さらに食料等の消費物資を搬入してもらう。
ジャンプには一週間という時間が必要だ。
その間の食い物だってバカにはならない。
水だって必要だ。
これが一人あたり二千クレジット。
この船は俺一人だから二千クレジットだけとなる。
あと宇宙港使用料が百クレジット。
全部で三千三百クレジットを俺は支払ってくる。
俺の退職一時金が三万クレジットだから、その十分の一が出て行ってしまう計算だ。
おいおい、商売がうまくいかなきゃ大変だぞこれは・・・

このカーナシュからジャンプ1で行けるのは隣のガーギルしか無い。
カーナシュ・ガーギル・ギャリソン
ガーギルはテクノロジーこそ高いが、人口が七千人ほどしかいないため商売先としてはあまり魅力が無い。
なのでガーギル行きの貨物はどれほどあるか心配していたが、幸いその心配は杞憂に終わり船倉を一杯にするのに充分な貨物を見つけることができた。
というわけで宇宙港から52トン分の船荷を預かりガーギルに運ぶことにする。
まずはここから出発だ。
輸送費は先払いなので、宇宙港から1トン千クレジットの輸送費五万二千クレジットを受け取った。
差し引き四万八千七百クレジットの儲けか。
なるほど、運行費用しか払わないですむなら船倉を一杯にすれば充分儲けは出るわけだ。
  1. 2012/05/21(月) 21:00:00|
  2. しずく
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北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
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