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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ミサイル集中射

政治的戦略的戦術的の三拍子揃った奇襲により、アラブ側は第三次中東戦争で一敗地にまみれました。

アラブ側はこの屈辱を晴らすべく、六年の間耐えに耐えます。
そして、今度はアラブ側が乾坤一擲の奇襲作戦を敢行することになります。

アメリカがバックに付いているイスラエルは、情報収集能力においては中東随一という自負がありました。
エジプト、シリアを中心とするアラブ軍が戦力を集中してイスラエルを攻撃しようとすれば、その兆候をたちどころにイスラエルは察知して、対応が可能と踏んでいたのです。

事実この時も、優秀なイスラエル情報部は正確にアラブ軍の戦力集中を察知しておりました。

しかし、情報は正しくても、評価を間違えればその情報は無価値となります。

エジプト軍は以前より対イスラエル戦のために戦力を集中して侵攻するという設定の演習を繰り返しました。
約二十回の演習は当然イスラエルに察知され、イスラエル側も万が一の実際の侵攻に備えて兵員を集結させたり民間人として暮らしている予備役兵を再度動員したりするなど対策を取っておりました。

しかし、実際の侵攻が無い状態が続くと、やがてエジプト軍には侵攻の意思は無く、演習も単なるパフォーマンスと受け取られるようになって行きます。

イスラエルはより確実な状況を情報部なりが確認するまで、エジプトやシリアなどの軍事力の集中を見過ごすようになってしまいました。

頃や良しと見たアラブ側は、ついに1973年10月6日、イスラエルに対し奇襲攻撃をかけました。
第三次中東戦争終結からわずか六年のつかの間の平和は終わったのです。
第四次中東戦争(イスラエル側呼称ヨム・キプール戦争、アラブ側呼称10月戦争もしくはラマダン戦争)の始まりでした。

シリア側の奇襲に呼応してエジプト軍も兵員約八十万人、戦車約二千両、火砲約二千三百門を持ってスエズ運河を渡河します。

バーレブラインと豪語していたイスラエルの防御陣地は各所で寸断され、エジプト軍はシナイ半島に橋頭堡を次々と確保します。

前線が悲鳴のような救援要請を次々送ってくる中、イスラエル軍は混乱しつつも反撃に出ます。

前進してくるエジプト軍戦車群に対し、中東最強とうたわれたイスラエル空軍が対地攻撃をすることで、その進撃を止めるのが当面の作戦とされました。

奇襲をまぬがれた制空戦闘用のF-4と地上攻撃用のA-4が各地の基地から飛び立ち、イスラエル上層部にホッとした空気が流れます。
しかし、戦況報告に彼らは再び愕然とすることになりました。

最強であるはずの空軍機が次々と撃墜されていくのです。

空対空戦闘であれば負けない自信に満ちた彼らを迎え撃ったのは、ソ連製の対空ミサイルの集中射撃でした。
F-4もA-4もエジプト軍の進撃を止めるどころか、あまりの損害の多さに飛行禁止区域を設けざるを得ないほどでした。

「まだ我々には戦車がある」
イスラエルの切り札とも言えるのは戦車でした。
アメリカ製のM-48やイギリスのセンチュリオンの改良型を中核としたイスラエル機甲部隊は、第三次中東戦争で見せたその猛威を再び発揮するべく、エジプト軍に向かいます。

第三次中東戦争で威力を発揮したオール・タンク・ドクトリン。
その威力を再び世界は目の当たりにするかと思われました。

しかし、エジプト軍は戦車部隊に対し戦車部隊で対抗するのではなく、歩兵を持って対抗します。

ヨーロッパでは森林などの地形の複雑さにより、使い勝手が悪く評価の低かったソ連製対戦車ミサイル9M14、NATOコード名AT-3サガー。
エジプト軍はこのサガーミサイルを歩兵部隊に大量配備していたのです。

兵士が直接目視しながら戦車に誘導するサガーは、今述べたようにヨーロッパでは使いづらい兵器でした。
しかし、シナイ半島は砂漠です。
視界を遮る邪魔者はありません。
エジプト軍は満を持してイスラエルの戦車部隊を待ち受けたのです。

オール・タンク・ドクトリンにより、歩兵の支援を排除したイスラエル戦車部隊はエジプト軍の罠に嵌まりました。
一斉に複数のミサイルが飛んでくる戦場で、イスラエルの各戦車は瞬く間に破壊されていきました。
一両の戦車に平均二三発のミサイルが命中していたと言いますから、驚くべきミサイルの集中射でした。

結局イスラエル軍は後退。
オール・タンク・ドクトリンは無残に敗北したのでした。

第四次中東戦争はその後防御に徹したイスラエル軍により、結局はエジプト軍の進撃は止められます。
戦力を使い果たしたエジプト軍に対し、ようやく反撃に出たイスラエル軍は航空機の支援のもと、戦車と歩兵が共同で攻撃をするという諸兵科連合部隊になっていました。

最終的にはスエズ運河を逆渡河したイスラエル軍により、首都カイロが脅かされる事態に陥ったエジプト軍は休戦を受諾。

1973年10月24日、第四次中東戦争は終結しました。

一ヶ月足らずの戦争でしたが、世界に与えた影響は大きく、日本ではオイルショックが発生してトイレットペーパーの買占め狂乱が起きたのは記憶の残っている方も多いでしょう。

この後エジプトとイスラエルの和平が実ったことで、現在のところ、この第四次中東戦争が最後の中東戦争になっています。
できればこのまま最後であってほしいものですね。

それではまた。
  1. 2007/02/23(金) 21:37:31|
  2. 趣味
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

出ました!スティンガー!ですね。
歩兵の携行兵器というある意味最小単位があれほどの威力を発揮するとは、イスラエルは夢にも思ってなかったでしょうね。
西側の最新兵器を揃えてたイスラエルがソ連製の、しかも欧州では使いづらいとある意味見捨てられた兵器によってやられたというのはなんか運命の皮肉めいたものを感じます。

しかしほんと携行歩兵火器の強力化は近代戦の大きな転換点になってますよね。今や対地•対空を問わなくなってますし。
A.T.D運用での戦車が歩兵+ミサイルにやられる姿ってのは
「機関銃の登場がそれまでの戦場の主役だった騎兵を駆逐した姿」
に重なって見える気もしますし。
いずれは「1人で戦艦を制圧する機械化歩兵」なんて漫画みたいなものも登場するのかも…なんて。
  1. 2007/02/23(金) 23:02:22 |
  2. URL |
  3. 空風鈴ハイパー #-
  4. [ 編集]

>>空風鈴ハイパー様
えーと、サガーの方ですね。
スティンガーは米軍の携帯対空ミサイルですので。
しかし、まさにおっしゃるとおり。
イスラエルとしても大量の戦車をあれほど短時間のうちに失うとは思いもよらなかったでしょうね。

>1人で戦艦を制圧する機械化歩兵・・・モビルスーツですなぁ。
  1. 2007/02/24(土) 22:09:40 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
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