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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

戦車ばっかり

第二次世界大戦時、各国の軍隊では諸兵科連合と言って、戦車部隊を中心に自動車化歩兵や砲兵、工兵などをバランスよく組み込んだ一種の戦闘集団を形成し、敵軍に当たるという思想が取り入れられました。

これは戦車単独ではどうしても敵の歩兵による近接突撃や、対戦車砲陣地からの攻撃などに脆弱であったため、戦車と歩兵砲兵などがお互いの弱点をカバーしあう必要性に基づいたものだったのです。

しかし、この鉄則とも言うべき諸兵科連合をあえて放棄した軍隊がありました。

イスラエル軍です。

中東の砂漠地帯では平坦な砂地が延々と続きます。
そこでは防御側は身を守れるような森や林はおろか、岩陰すらありません。
塹壕を掘ろうにも、足元の砂は掘れば掘るだけ崩れ、深い塹壕を掘るのは不可能です。

そういう地形では、身を隠しながら敵戦車を待ち受ける対戦車砲もほとんど剥き出しで砂地の上に展開せざるを得ませんでした。

第二次及び第三次中東戦争時のエジプト軍の主力対戦車砲はソ連製の100ミリ対戦車砲でしたが、砂地の上の対戦車砲は容易に発見されますし、また運良く先手を取ることができても、その命中率は一キロ先の目標に対して50%ほどと、決して必中の対戦車砲ではなかったのです。

そこでイスラエル軍は、機動性に難のある歩兵や砲兵を分離し、戦車部隊単独で敵陣に突っ込むことを考えました。
発想者はイスラエル・タル大佐。(イスラエルという名前のようです)

タル大佐の案によれば、機動性に富む戦車部隊であれば、敵陣の対戦車砲に対して迂回行動を取ることも、他の戦車の援護の元で対戦車砲に必中距離まで詰め寄り一撃を加えることも容易だというのです。

このアイディアはオール・タンク・ドクトリンと呼ばれ、すぐにイスラエル軍機甲部隊の中心思想になりました。

第三次中東戦争。
1967年6/5から6/10までのいわゆる六日間戦争(これはイスラエル側の呼び方で、アラブ側は六月戦争と呼びます)において、イスラエル軍はこのオール・タンク・ドクトリンのもとアラブ側に奇襲をかけます。

制空権確保のためにレーダーに引っかからないように低空で侵入したイスラエル空軍機は、開戦三時間でエジプト空軍基地を壊滅に追い込みます。
約二百機の航空機と百人のパイロットを失ったエジプト軍は、もはや航空戦力を全てなくしたと言っても過言ではありませんでした。

そして、イスラエル機甲師団はシナイ半島のエジプト軍を蹂躙して行きます。
オール・タンク・ドクトリンは大成功を収め、エジプト軍の防衛陣地は各所で寸断されました。
機動防御のエジプト軍戦車部隊も、優秀なイスラエル戦車兵の猛攻の前に各所で壊滅。
戦争はほぼ大勢が決しました。

エジプトと同様に、シリア、ヨルダンの二カ国もイスラエルの奇襲を受け、大損害を出します。
結局第三次中東戦争はイスラエルの大勝利で停戦が受け入れられました。

シナイ半島でのわずか四日間の戦いで、エジプト陸軍が受けた損害は、死傷者約一万五千、捕虜約五千。
捕獲された車両は戦車が八百、野砲/自走砲が数百、車両は千両をくだらなかったといわれ、破壊された車両と合わせると、実にエジプト軍の保有する車両の八割を失ったと言います。

一方イスラエル側の損害は死傷者約千三百。
圧倒的な大勝利でした。

オール・タンク・ドクトリンはまさに無敵イスラエル軍の中心だったのです。

だが・・・
アラブ側も黙ってはいませんでした。
オール・タンク・ドクトリンにも斜陽が忍び寄ってきます。

それはこの次に。
それではまた。
  1. 2007/02/22(木) 21:21:34|
  2. 趣味
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3
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コメント

第三次中東戦争のイスラエル軍の成功は、戦略的奇襲と方法的奇襲によるもので、「ドクトリン」というほどのものではなかったと思うんですよね。
舞方さんがそう遠くないうちに書いてくれると思うのですが、第四次中東戦争ではアラブ側が戦略的奇襲と方法的奇襲で逆襲を行うことになるわけで。
ちょっと対策を取られて滅多打ちにされてしまうものを「ドクトリン」と呼んでいいものか。

しかし、こういった過程って、なんていうか、「あの国」ですよね。

我々は優れた民族である!
我々は包囲されている!
東方に入植するのだ!
戦車だ! 戦車だ! 戦車だ!

ユダヤ人国家なのにねえ。いや、だからこそなのでしょうか。
  1. 2007/02/22(木) 22:25:11 |
  2. URL |
  3. とくめー@MCリンク集 #h6sG9QMo
  4. [ 編集]

う!とくめーさんの厳しいつっこみ…。
ケーブルの検証番組で見たんですが、あの圧勝はエジプト側の政治的•軍事的油断と空軍の先制による航空優勢などが最大の要因で、ドクトリンの効果のほどは(少なくともあの戦争に関しては)疑問としてましたね。
ある研究家のコメだと
「あの圧勝がドクトリンの効果と錯覚した事がかえって思想を硬直させ、過剰な信仰•幻想にも近い(ドクトリンへの)妄信を生み、結果後々柔軟な発想の妨げとなった。そして…。」
とまでいっちゃってました。

でも大戦時の砂漠戦でのロンメルの
「砂漠=海、戦車=船」
に例えられる用兵を突き詰めたかのようなこのドクトリンはユニークですよね。
まるである意味で騎士の時代の戦術のような特化型•極端さで。

なんか突っ込んじゃいましたけど、続き楽しみにしてますよー!
  1. 2007/02/22(木) 23:27:31 |
  2. URL |
  3. 空風鈴ハイパー #-
  4. [ 編集]

>>とくめー様
おっしゃるとおりですねー。
オール・タンク・ドクトリンは幻想に過ぎなかったようです。
しかし、圧倒的な飽和射撃にはイスラエル戦車部隊といえどもなすすべが無かったみたいですね。
それにしてもイスラエルは中東の不安定要素の一つですよねー。

>>空風鈴ハイパー様
錯覚が金科玉条になったのは日本軍も同じだったかもしれないですね。
肉弾攻撃により近代要塞(旅順)を攻略したと思い込み、精神力による猛攻こそが重要という錯覚を起こしましたからね。
軍事に限らず思い込みというのは怖いものです。
  1. 2007/02/23(金) 21:44:46 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
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