北緯41度46分、西経50度14分。
地図を見ていただくとわかると思うんですが、この位置は北大西洋でも結構南寄りです。
英国本土よりはるかに南であり、ニューヨークの沖合いと言っていい位置ですが、ここがあのタイタニックの沈没位置なんですね。
と、言うことは、このあたりまで氷山が流れてくるということです。
そう、氷の塊が、です。
1940年。
フランスはドイツの電撃作戦の前に敗れ去りました。
ドイツはフランスの港という大西洋への出口を得たことになったのです。
そのため、1940年後半より、ドイツのUボートは大西洋での通商破壊活動に猛威を振るうことになります。
英国は非常に苦境に立たされました。
島国である英国は、当然のごとく船舶により必需品を運んでいます。
Uボートはそれら商船を無差別に襲撃して、英国を干上がらせるのです。
原子力潜水艦と違い、当時の潜水艦は可潜艦です。
比較的浅い水深を潜るUボートにとって、一番の脅威は航空機でした。
英国は航空機によってUボートを空から封じ込めたいと考えましたが、当時の英軍の航空機では、航続距離などの関係でどうしても大西洋の中央部には航空機の届かない大きな穴ができてしまいます。
航空母艦があればいいのですが、当時の英国はまだまだ護衛空母もなく、艦隊空母は数が少なくて商船護衛などに振り向けることはできません。
英国はどうにかして北大西洋の中央部に長距離哨戒機を飛ばせる航空基地が欲しかったのです。
そんなときにチャーチルのもとに一つのアイディアが持ち込まれました。
発案者はジェフリー・パイク。
アイディアとは、氷を使って洋上に航空基地を作る。
つまり「氷山空母」を作って、そこを拠点に航空機を飛ばそうというものだったのです。
氷と言っても、普通の氷ではありませんでした。
「パイクリート」と呼ばれるおがくずを一割ぐらい混ぜた水を凍らせたものでした。
これは通常の氷に比べて固く溶けにくいという性質を持っており、これをベースに建造物を作ることは可能と考えられたのです。
計画は「ハバクック(ハボクック)」と呼ばれ、具体的には金属の骨組みにパイクリートでできたブロックを積み上げて行くというものでした。
全長600メートル、最大幅100メートル、排水量200万トンという凄まじく巨大な氷と金属の建造物は、上面が平らに整備され、滑走路として使われます。
もちろんパイクリートと言えども溶けないわけではないため、冷気を循環させて低温を維持するといった工夫もなされる予定でした。
計画では推進器も備えられ、約18ノットの速度で移動し、100機以上の航空機を搭載する海上航空拠点となるというものでした。
アイディアはチャーチルのゴーサインを得て、1943年にカナダで実際に試験が行なわれたそうです。
しかし、当然のごとくいろいろな問題が噴出し、さらには米国の参戦で護衛空母が数多く配備されることなどから、計画は中止。
氷山空母は幻となりました。
ただ、その稀有壮大な着想が仮想戦記などではもてはやされ、小説上では活躍していることもあるようです。
SF好きとしては、地球上ではなく宇宙空間を行く氷の宇宙船であれば溶けることをそれほど心配しなくてもいいのになと思います。
それではまた。
- 2007/02/14(水) 21:45:20|
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ばかでかい空母といえば、中学時代の社会科の教師が『関空はいざというとき、超巨大空母として稼働するように出来ているんだ』などと言っていたことを思い出します(笑)
無論、冷静に考えれば荒唐無稽なネタ話ではあるんですが、ネタ話にしては面白いと当時思った記憶があります。
あと、氷山といえば、北の海の流氷南限は釧路付近だそうです。緯度的にはタイタニックの事故現場とほぼ同じぐらいですね。
とはいえ、今年はまだ流氷が接岸していないらしいと聞きます。ここにもまた温暖化の影響が。
- 2007/02/14(水) 22:18:03 |
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- 通りすがりのMCマニア #6qCNEni2
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「イオンフォゼカス号だー♪」
って銀英伝ネタですいません。
でも確かにSF向きな題材ですよね。かなり無茶なとこが特に(笑)。
そういえばこの類のもので、D作戦に際してイギリスは海岸線の独軍攻撃するために
「筒型ロケットをつけた巨大な車輪を海上から滑走させる車輪爆弾?計画」
とかもあったらしいですが(陽動目的だったそうですが)こういう戦時下なんかの奇抜なアイデアの数々って面白いですよね。
- 2007/02/15(木) 12:26:20 |
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- 空風鈴ハイパー #-
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>>通りすがりのMCマニア様
関空は巨大空母ですか~。
なるほどある意味不沈空母かもしれないですね。
流氷も時によっては漁船あたりが閉じ込められちゃったりしますね。
第一管区では砕氷型の巡視船を備えていますからね。
氷は結構馬鹿にならないです。
>>空風鈴ハイパー様
イオンファゼカス、懐かしー。
宇宙空間は絶対零度に近いから氷は溶けづらいですよね。
車輪型兵器は聞いたことあります。
まっすぐ走らなかったらしいですよね。
戦時中はいろいろなアイディアが出るもんですね。
- 2007/02/15(木) 21:49:05 |
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- 舞方雅人 #-
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まさか現実にあったとは・・・びっくりアイデアですね。銀英伝もそうですが、私はアニメ版ゾイドを思い出しました。氷塊の中に基地を作り、それでゆっくり移動というものでしたが、現実に元があるものだったとは。まあ、ゾイドはもう少しひねってあってチャフを雪っぽくしてそれで電波かく乱なんかやってましたけど。
- 2007/02/17(土) 11:28:50 |
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- ALTION #-
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>>ALTION様
人間なんでも考えるものなんですよねぇ。
特に戦争中はコストが度外視されたりもしますから、普通ならやらないような事もやっちゃいますからね。
ゾイドにもそんな話があったんですか。
案外元ネタはこれだったりして。(笑)
- 2007/02/17(土) 21:13:13 |
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- 舞方雅人 #-
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