参謀総長モルトケの指示のとおり、プロイセン軍は多方面からオーストリア領ベーメンへと侵攻を開始いたしました。
この時点でプロイセン軍の最大の懸念は、オーストリア軍が内線の利を生かして侵攻してきたプロイセン軍を各個撃破してくることでしたが、幸いなことにオーストリア軍はそのような行動をとってはきませんでした。
とはいえ、オーストリア軍もただ座してプロイセン軍の侵攻を指をくわえて見ていたわけではありません。
プロイセン方面に対するオーストリア軍の司令官ベネデク将軍は、プロイセン方面に対する全軍が集結する時間を稼ぐため、小規模な軍勢をそれぞれ侵攻してきたプロイセン軍にぶつけます。
1866年6月27日から28日にかけオーストリア軍の第6軍団、第10軍団、第8軍団がそれぞれプロイセンの第二軍に対して時間稼ぎの戦闘を仕掛けましたが、いずれも撃退されてしまいました。
6月29日にはオーストリア軍の第1軍団とザクセン軍の連合軍がプロイセン第一軍にこれまた敗退。
オーストリア第4軍もプロイセン第二軍に攻撃を仕掛けこちらも敗退という結果に終わります。
プロイセン軍は第一軍とエルベ軍が合流してオーストリア軍の北西から近づく形をとり、第二軍が北東から近づくことでオーストリア軍を挟撃する態勢を整えつつありました。
これに対し当初は対プロイセン方面の全軍を集結させてプロイセンの第一軍と決戦に及ぶつもりであったオーストリア軍のベネデク将軍でしたが、オーストリア各軍団の敗走の報が次々ともたらされるに伴いだんだんと意気消沈してしまいます。
ベネデク将軍はついに対プロイセン方面のオーストリア軍全軍をケーニヒグレーツの要塞に後退させることにし、7月1日にオーストリアとザクセンの連合軍はケーニヒグレーツへと後退いたしました。
プロイセン軍はオーストリア軍がケーニヒグレーツに後退したことでオーストリア軍を封じ込めることに成功しましたが、これは実はモルトケの望んだ結果とは異なりました。
モルトケとしてはオーストリア軍を野戦で包囲殲滅するつもりであり、オーストリア軍を要塞に押し込めるつもりはなかったからです。
一方オーストリア軍司令官のベネデク将軍はすっかりプロイセン軍との戦いに対する自信を失ってしまっておりました。
いまだオーストリア軍は大きな損害を受けてはおらずまだまだ戦える状態にあったにもかかわらず、ベネデク将軍はオーストリア皇帝に対し以下のような電報を打ってしまいます。
「早急に(プロイセンと)講和を結んでください。そうでなければわが軍の破滅は不可避です」
これが「1866年の破滅電報」と呼ばれ戦史に残るものとなりましたが、当然のごとくいまだたいした戦いも行わないうちからのこの電報に対し、皇帝からは「講和は不可能。会戦は行われたのか?」という電報が届き、ベネデク将軍に対して暗にプロイセン軍との決戦を行うよう要求します。
ベネデク将軍はこれにより気の進まない会戦を行わざるを得なくなりました。
一方、プロイセンとともにオーストリアに宣戦布告をしたイタリア軍も、ヴェネツィアを手に入れるために動き出しておりました。
ところがこの戦争は実はイタリアにとっては行う必要のない戦いでした。
プロイセンとオーストリアとの間の戦争が不可避となってくるに従い、オーストリアからイタリアに対して「中立を守ってくれるのであればその見返りとしてヴェネツィアを引き渡す」という申し入れがなされていたのです。
つまり、イタリアは戦争に参加せずに中立を守っているだけで手に入ったヴェネツィアを、わざわざ戦争で取りに行くということをしていたのです。
とはいえイタリアはすでにプロイセンと同盟を結んでしまっていたので戦争に参加せざるを得ませんでした。
イタリア軍はオーストリア方面に約二十五万もの兵力を集めそのうち約二十万を主力とし、国王直卒の第一兵団十二万とジャルジニ将軍率いる第二兵団八万の二つに分けてヴェローナを目指してこちらも分進合撃を行うべくオーストリア領へと侵攻を開始しました。
このイタリア軍に対抗するイタリア方面のオーストリア軍の司令官はアルブレヒト大公でした。
一説によれば彼は激戦の予想されるプロイセン方面の指揮をさっさとベネデクに押し付け、自分はそれほど激戦にはならないと思われたイタリア方面の指揮を引き受けたといいます。
ともあれアルブレヒト大公の手元には、オーストリア軍約十五万がおりました。
しかし、その半数は海岸守備隊や要塞守備隊であり、野戦兵力としては三個軍団約七万五千しかありません。
イタリア軍主力は二十万もいるので、数的にはオーストリア軍は圧倒的に不利です。
しかし、アルブレヒト大公はベネデク将軍とは違い、この七万五千を率いてイタリア軍を各個撃破しようともくろみました。
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- 2011/11/25(金) 21:16:27|
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