1966年8月、P1127という計画名から始まり、ケストレルという実用試験機を経て先行量産型が製作されたホーカー・シドレー社の垂直離着陸(VTOL)機「ハリアー」が初飛行を行いました。
すでにケストレルという実用試験機で充分なテストが行われていたとはいえ、世界初の実用VTOL機となったハリアーは、まさに滑走路がなくても運用が可能な航空機として夢のような存在でありました。
もともとジェットエンジンの噴射口の向きを変えて、下向きに噴射することで垂直に離陸するというアイディアを考えたのは、フランス人の航空機設計者ミッシェル・ウィボーという人だったといいます。
しかし、彼の考えは当時のフランス政府や航空機メーカーには受け入れられず、逆に彼の試作した噴射口の向きを変えることのできるジェットエンジンが英国製エンジンを基にしたものだったことから、彼のアイディアは英国のブリストル社とホーカー社が興味を示すことになったことで、世界初の実用VTOL機は英国製ということになったといいます。
彼のアイディアは英国で発展し、一台のエンジンに噴射口を四つも持ち、それらが向きを変えることで噴射の方向を変えるというペガサスエンジンへと進化していきました。
そしてそのペガサスエンジンを搭載し、垂直離着陸を行うことのできる航空機として実験が繰り返され、完成したのがハリアーだったのです。
垂直離着陸のできるハリアーは、ヘリコプターと同様にごく狭い平坦な場所から飛び立つことができ、運動性はヘリコプターをはるかに越えるジェット機として期待されました。
冷戦が激しかった当時、ソ連軍の航空奇襲攻撃を受けやすい滑走路のある飛行場からではなく、カモフラージュした前線に近い平坦な場所から発進できるハリアーは大いに期待された新型機だったのです。
ところが、ハリアーを実際に運用してみると、どうも「どこからでもというわけには行かないぞ」というのがわかってきました。
ヘリコプターもその大きなローターで作り出す下方への気流はすさまじいものがありますが、ハリアーのペガサスエンジンが作り出す下方噴射はそれどころではなかったのです。
完全に舗装された場所ならそうでもないのですが、ハリアーの運用目的である「前線に近い平坦な場所からの発進」用に用意された、地面を平らにするための穴あき鉄板で整地された簡易ヘリポートのような場所では、ハリアーの発する下方噴射が穴あき鉄板の下に入り込んで穴あき鉄板を空中に放り上げてしまうのです。
また、舗装された滑走路のような場所でも、舗装と土の境目あたりでは下方噴射が土をえぐって舗装の下に入り込み、舗装を持ち上げてぼろぼろにしてしまうことさえありました。
さらには、下方噴射の位置にマンホールなんかがあったりすると、そのマンホールの穴から噴射が下水管に入り込み、離れた場所から汚水を吹き上げるなんてこともあったといいます。
ハリアーが飛ぼうとすると、兵舎のトイレから汚水が噴出してきたなんてシャレにもなりません。
とはいえ、そのあたりは運用する上で気を付ければいいだけのことで、ハリアーそのものの優秀性には何の問題もありませんでした。
特に狭い艦上で運用できるというのは大きなメリットであり、「インヴィンシブル」級の軽空母のみならず、「アトランティック・コンベア」のようなコンテナ船からも発進しようと思えば発進できたというのはハリアーならではのことだったでしょう。

残念ながらハリアーの運用もそろそろ耐用年数を迎え、英国やアメリカでは退役がすすんでいます。
後継機となるF-35Bはペガサスエンジンのようにすべての噴射口を変化するのではなく、機体中央のファンを回すタイプになるらしく、ハリアーとはまた考え方が違うようです。
世界初の実用VTOL機として、また現在に至るまでたった二機種しかない実用VTOL攻撃機として、ハリアーはまさに傑作機といわれる機体であることは間違いないでしょう。
個人的にも好きな機体のひとつです。
それではまた。
- 2011/08/23(火) 21:15:34|
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ハリアーはフォークランド紛争のニュース映像で見ましたが、UFOみたいにふわりと浮き上がって何だか奇妙な感じがしましたね。SFアニメでも見ているようであっけに取られてテレビを見ていました。
商船でも簡易空母として使える可能性があるというのは確かに魅力的ですね。
- 2011/08/24(水) 22:54:07 |
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- 富士男 #-
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>>富士男様
あの特殊な機動性が空戦で有利に働いたようですよね。
ハリアーが海上での航空戦力に大きな一面を開いたのは間違いないですね。
- 2011/08/25(木) 21:00:48 |
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- 舞方雅人 #-
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