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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

黒薔薇女

昨日予告したとおり、本日はSSを投下いたしますね。

まずは下の画像を見ていただけますでしょうか。

20070124210811.jpg

20070124210854.jpg


これは、私がいつもお世話になっているg-thanさんが、以前(と言っても二年ぐらい前)に描いたイメージラフと、それに繋がる黒薔薇女のイラストなんですが、先日メッセでお話している時にこの絵を見せていただいたんです。

それで、ちょうどその時メッセで一緒にお話していたEnneさんと会話がはずみまして、お互いにこのイメージイラストから受けた印象に基づいて、私ならこんな話にする、私ならこうするよといった会話になったんです。

で、それならばお互いにSSを書いてみようという事になりまして、今回g-thanさんのブログと同時公開させていただくことになりました。

私がこのイラストから受けたイメージを元にしたSSは以下に掲載し、Enneさんが受けたイメージを元にしたSSは、g-thanさんのブログで同時公開されます。

よろしければ、ぜひg-thanさんのブログにもお立ち寄りいただき、同じイメージイラストからインスピレーションを受けた二つのSSの違いをお楽しみいただければと思います。

最後に、イメージイラストを見せてくださったg-thanさんと、この企画に賛同して下さり、SSを製作してくださったEnneさんに改めて感謝いたしたいと思います。
どうもありがとうございました。

それでは「黒薔薇女」お楽しみいただければと思います。

薔薇・・・
庭の一角に咲いている薔薇・・・
美しい薔薇・・・
その色は黒。
闇のように黒い黒薔薇。
これは珍しいこと。
普通の黒薔薇は深紅色。
ここまで真っ黒なのは珍しい。

「先生」
私はその声に振り向いた。
そこにはセーラー服にプリーツスカートを身に纏った少女が立っていた。
確か・・・
「あなたは一年C組の香葉村さんだったかしら?」
「はい。香葉村美穂(かわむら みほ)です。先生、どうなさったのですか? 気分でも・・・」
私の方を心配そうに覗きこんでくる小柄な少女。
きっと私が薔薇を見てぼうっとしていたのを気に掛けてくれたんだわ。
「あ、なんでもないのよ。この黒薔薇は珍しいでしょ。だから見入ってしまったのね」
私は笑顔を浮かべて心配している香葉村さんにそう言った。
「ああ、そうだったんですか。私てっきり・・・何か思い悩んでいらっしゃるのかと・・・」
香葉村さんの表情がほころぶ。
よかった。
生徒に心配掛けさせるなんて教師としては失格だわね。
「それにしても珍しいですよね、この黒薔薇って」
「ええ、ここまで黒いのは珍しいでしょうね」
香葉村さんは私の横までやってきて、庭の黒薔薇を見渡している。
「この黒薔薇って、先生がお育てになったんですよね?」
「えっ? ええ、まあ・・・」
私は少し気恥ずかしくなる。
育てたと言っても、実際に手を加えているのは私以外に庭師の方とかいるし、私がしたことはこの苗を持っていたことぐらいだろう。
そう・・・
私はこの苗を持っていた・・・
「レッドアイって言うんでしたっけ? この黒薔薇」
香葉村さんの言葉に私はうなずく。
「そう。黒薔薇なのにレッドアイだなんて変な名前でしょ。でも、この花の名前だけは覚えていたの」
「そうなんですかー。それにしてもいい香り」
香葉村さんはすうっと胸いっぱいに香りをかいでいる。
そう、この花はとても香りがいいのよね。
私もこの花の香りを嗅ぐととても心が落ち着くの。
だから先ほどのようにぼうっとしちゃうんだけどね。
「シスターローゼ、お手伝いいただけますか?」
校舎の方で私を呼ぶ声がする。
この学院の学院長であるシスターマーサだわ。
「はい、今行きます」
私はそう返事をして、香葉村さんに別れを告げる。
何となく名残惜しそうな表情で、香葉村さんは私を見送ってくれた。

「せっかく生徒とお話していたのにすみませんね」
学院長が本当にすまなそうに頭を下げてくる。
とんでもないことだわ。
私こそ学院長にはお世話になりっぱなし。
このお方がいなければ私は一体どうなっていたことか・・・
「ちょっと放課後でぼうっとしていたのを心配させちゃったようでして・・・」
私は我ながら情け無い事実を打ち明ける。
「そうでしたか。あまり思いつめないで下さいね」
学院長の優しさに私は胸が熱くなる。
私のような得体の知れない者を雇っていただいているだけでも、申し訳ないというのに・・・
「これからの授業で使う教材が届いたんですが、大きくて重くて・・・歳は取りたくないものですわねぇ」
そう言ってにこやかに微笑んでいる学院長。
無論お歳だなんて言っても、まだ五十代のはず。
まだまだこれからですわ。
「お任せ下さい。私が運んでおきますから。どこへ運びましょうか?」
私は学院長について、教材の届けられた玄関へ向かう。
業者さんもどうせなら中まで運んでくれればいいのに。
そう思った私だったが、玄関には両手で抱えられるほどの大きさの箱が一個あるだけだった。
「これを運べばいいのですか?」
「はい、理科教室までお願いします」
「わかりました」
私は尼僧服の袖をまくって箱を持ち上げる。
あら?
それほど重いものじゃないわ。
よかった。
「すみませんねぇ。助かりますわ。それにしてもシスターローゼは力がおありなんですね」
学院長が頭を下げる。
「そんなたいしたものでは、私こそ学院長にいただいたご恩はこんなものではすみませんから。どうぞいつでもこき使って下さいませ」
「まあ、うふふふ」
私と学院長は思わず笑いあう。
「それじゃお願いします。理科教室の鍵は開いていますから」
「はい。お任せ下さい」
私は学院長に一礼すると、理科教室へ向かった。

そう・・・
私が学院長に受けたご恩はとてもこんなものでは返せない。
二年前・・・
私はどうしたわけかこの学院の前で倒れていた。
ここは私立聖エレーヌ女学院。
宗教法人により設立されたミッション系のお嬢様学院である。
高原の静かな環境で、周囲からある程度隔離し、次代を担う才女やしとやかな妻となる女性を育み愛しむ場所。
そんな場所の門前で、早朝私は倒れているところを発見された。
その時の私は、衰弱が激しかったらしく、学院長の呼びかけにも、薔薇が・・・黒薔薇が・・・とうめいていたらしい。
私にはそれ以前の記憶はまったく無い。
覚えているのは、レッドアイという名の黒薔薇の苗を大事に抱え、ベッドの上で目覚めてからのことだけ。
私が誰なのか・・・
どこで何をしていたのか・・・
私は一切覚えていなかった。

学院長はそんな私を暖かく迎え入れてくれ、しばらく滞在することを許可してくれた。
黒薔薇の名前は覚えているのに、自分の名前すら思い出せない私に、シスターローゼという名を与えてくださり、補助教員としての待遇まで与えてくださったのだ。
衰弱していた私だったが、回復は目を見張るほどで、数日後にはもう問題なく活動できるようになった。
警察の事情聴取も形式的なもので、捜索願に該当者が無ければ後はどうしようもないようだった。
私は学院長の行為に感謝し、この身を神に捧げることでこれからを生きていこうと思った。
幸い、私は教員としての素質のようなものがあったのか、今まで特に問題も無く勤めることができたのだった。

「ふう、ここに置いとけばいいかしらね」
私は理科教室の一角にダンボールを置く。
中身が気になったけど、理科系の担当はシスターマリーだから、勝手に開けるのは悪いでしょうね。
私は好奇心を抑えて教室を出ると、机の上においてあった鍵でドアの鍵を閉める。
後はこの鍵を職員室へ戻せばOKね。
『キャー!』
悲鳴?
一体何事?
私はすぐに鍵をポケットに入れて、悲鳴の方へ走り出す。
尼僧服の長いスカートが邪魔だけど、そんなことは言っていられない。
確か悲鳴は二年生の教室の辺り。
私は普段生徒に廊下を走らないように注意しているのも忘れて、廊下を駆けていった。

二年B組の前には女生徒たちが不安そうな表情で中を覗きこんでいた。
おそらく悲鳴の元はあそこに違いないわね。
私はすぐに駆け寄ると、生徒たちに何があったのかを聞いてみる。
「あ、ローザ先生、田之口(たのぐち)さんが・・・」
「田之口さんが急に倒れて・・・」
生徒たちが口々に訴える。
私が教室の中を覗くと、女生徒が一人床に倒れている。
青白い顔をして血の気が無い。
私はすぐに駆け寄ると、倒れている少女を抱え起こした。
「田之口さん、しっかりしなさい! 誰か? 保健室のシスタールシアに連絡した?」
「今呼びに行っています」
私はそのことにうなずくと、再び田之口さんの容態を見る。
真っ青な顔をして呼吸も心拍も浅い。
まるで大量に血を失ったかのよう。
これは救急車を呼んだほうがいいかもしれないわ。
私は彼女を抱きかかえると、保健室へ走り出す。
とりあえず保健医のシスタールシアに見てもらい、場合によっては病院へ連れて行こう。
「入れ違いになると困るから、もしシスタールシアが来たら保健室にいると言ってちょうだい」
「わかりました、ローザ先生」
私は生徒の返事を聞きながら、廊下を保健室に向かって走った。

ドクン・・・
心臓が突然跳ね上がる。
えっ?
私の足が突然止まる。
あれは・・・
廊下の窓から見える学院の敷地の外。
そこに一人の人影が立っている。
青い髪を後ろでシニョンにした小柄な女性。
黒いサングラスに隠されて瞳を見ることはできないけれど、少女と言ってもいいようなあどけない表情を浮かべている。
ロングコートを纏ったその女性は、たたずむようにして学院の方をまっすぐに覗き込んでいた。
誰?
あれは・・・誰?
私は背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
足が震えて動かない。
何かが・・・
私にとって何か良く無いことが・・・
彼女によってもたらされる・・・
私は叫びだしたいのを必死にこらえ、何とか目をそらそうとした。
でも、私の目は彼女に釘付けになる。
抱えている田之口さんを落とさぬように必死に抱きながら、私は廊下に立ち尽くしていた。
サングラスの奥の瞳は間違いなく私を見ている。
彼女は私を知っている。
彼女は一体何者なの?
私に何の関係があるの?
彼女の唇が笑みを形作り、ゆっくりと動き出す。
ミ・・・ツ・・・ケ・・・タ・・・
「イヤァァァァァァァァァァ!」
私は叫んでいた。

「・・・ローゼ・・・スターローゼ」
「えっ?」
私ははっとして振り向いた。
「大丈夫ですか? シスターローゼ」
そう言って私を覗き込んでいるのは、保健担当のシスタールシアだった。
「あ・・・私・・・一体?」
私は田之口さんを抱いたまま意識が飛んでいたらしい。
「保健室で待っても来なかったものですから、すぐに探しに来たんですよ」
「そ、そうでしたか・・・」
私は窓の外をみる。
先ほどの童顔の女性の姿は無い。
「あ、あの・・・」
「なんですか? 彼女をすぐに保健室へ」
「あ、はい」
私はシスタールシアの後に続き、保健室に田之口さんを届ける。
童顔の女性のことはたずねることはできなかった。

「どうやら貧血のようですわね。少し寝かせれば大丈夫でしょう」
ベッドに寝かせた田之口さんを診察したシスタールシアが安堵の表情を浮かべる。
「えっ? それだけ? なんですか?」
私は驚いた。
てっきり何か危険な状態じゃないかと思っていたのだ。
でも、ベッドに寝かせられた田之口さんは、すやすやと落ち着いた寝息を立てている。
顔色も先ほどよりはずっといい。
「時々女の子は無茶なダイエットをしますからね。きっとその影響が出たんでしょう」
それはよくわかるわ。
確かに誰でも美しくありたいし、そのためには食事を取らないぐらいは平気でやるものね。
でも・・・
本当に貧血だけなのかな?
「シスターローゼ」
「あ、はい」
「後は私の方で引き受けますから。お仕事に戻られても結構です」
シスタールシアが優しく微笑んでいる。
本当に天使の微笑みだわ。
「わかりました。よろしくお願いいたします」
私は一礼して、保健室を後にした。

私は学院の外へ出て、先ほどの女性を探してみる。
彼女が何者かは知らないけれど、さっきは間違いなく私を見つけたと言っていた。
本当なら会いたく無い。
彼女は何か会ってはいけない存在のような気がするのだ。
会った時には私は取り返しがつかないことになってしまうような・・・
そう思いながら私は廊下から彼女が見えた位置に行ってみる。
夕暮れの日が差している道路。
そこには誰もいない。
私は何となくホッとして胸をなでおろす。
神に感謝して十字を切り、私は両手を組んで祈りを捧げた。
ありがとうございます・・・願わくば二度と会わずにすみますことを・・・

学院はその敷地内に寮を持っている。
職員寮と生徒寮である。
私はもちろん職員寮に一室を与えられていて、食事も寮の食堂でとることになっている。
いつもなら美味しい食事を楽しむのだけど、今日は食欲が無い。
あの女性のことが気にかかるのと、なぜか食べたいという気にならないのだ。
私は食事を辞退する旨を告げ、読みかけの本を読んで気を紛らせる。
夜のお勤めを終えた後は早々に寝床につく。
今日は巡回当番。
私は目覚ましを深夜1時にセットして眠りについた。

ピピッピピッピピッ・・・
目覚ましが鳴っている。
私は眠い目を擦りながら起きだし、尼僧服を身にまとう。
重い尼僧服だけど、これを着てウィンプルを頭から被れば気持ちもすっきりする。
神にお仕えするシスターとしての自覚に目覚めるというのかしら。
私は十字を切ってお祈りをすると、まずは職員寮を見回る。
懐中電灯に照らされる廊下は、昼間とは違い不気味だけど、何事も無いことを確認して、私は学生寮へ向かった。

生徒寮の鍵を開け、内部に入る。
ここが数時間前まで女生徒たちの喧騒に満ちていた場所とは思えないほどの静寂。
私は再びドアに鍵をかけ、廊下を歩き出す。
一年から三年までの生徒たちが暮らす生徒寮。
時にはこの時間でも規則を破って起きている生徒がいたりするのだ。
もちろんそんな生徒には厳重注意が待っている。
でも、若い娘たちは羽目をはずしたくなるものなのよね。
私はそんなことを考えながら生徒寮を一周する。
異常なし・・・
そう思って学院の方へ向かおうとしたとき、私は何か引っかかるものを感じて立ち止まる。
私は以前から何か勘というか感覚の鋭いようなところがあった。
もちろん記憶を無くする以前はどうだったのかわからないけど、この学院に来てからは他の人たちが気がつかないような気配とか、物音などを察知することができたのだ。
私は何が引っかかったのかを確かめようと廊下の窓のところへ行く。
「これか・・・」
私は苦笑した。
誰かが開けた窓を閉めたときに留め金をかけ忘れたのだろう。
窓は外からでも容易に開けられるようになっていたのだ。
うっかりミスなのだろうが、無用心には違いない。
私は明日報告することにして、留め金を書けた後にメモを取っておく。

さて、残るは学院ね。
私は生徒寮を出て鍵をかけ、学院の建物に向かう。
学院の玄関の鍵を開けようとした時、私はふと話し声が聞こえた気がして立ち止まった。
気のせい?
私はそう思ってしばし耳を澄ます。
そうすると遠くの物音が増幅されて聞こえることが良くあるのだ。
他の人はそんなことはできないって言うけど、私は普通にそういったことができる。
小さな物音もよく聞こうとすると大きく聞こえるのだ。
聞こえる。
確かに話し声だわ。
それも複数。
どうやら女生徒たちが数人裏庭の方にいるみたい。
この学院の裏庭はあの黒薔薇を初めとした花壇など庭園があり、生徒たちの憩いの場ともなっている。
休み時間を裏庭で過ごす子達も多かった。
私は学院内の巡回を後回しにして裏庭に向かった。

私は目を疑った。
裏庭にいたのは数人の女生徒たち。
驚いたことにそのいずれもが奇妙な姿をしていたのだ。
もうすぐ六月とはいえ、裸なのである。
それもただの裸ではない。
脚から胴体にかけて草の蔓のようなものが巻きつき、ところどころに葉をつけているのだ。
あれは・・・薔薇の葉っぱ?
彼女たちは躰に薔薇を巻きつけているというの?
彼女たちはみなこちらに背を向けて黒薔薇の咲いている場所に集まっている。
どうやら何かを見つめているらしい。
でも何を?
黒薔薇をこんな時間に?
私は彼女たちの奇妙さに何か心惹かれるものを感じる。
美しい・・・
彼女たちの後ろ姿は見惚れてしまうほどに美しかった。
そのうち、彼女たちが一斉に振り返った。
私は思わず壁に身を隠す。
気が付かれただろうか・・・
何となく私は彼女たちが何をしているのか気になっていた。
できれば最後まで見ていたかったのだ。

しばしの間を置いて恐る恐る壁から顔を出して覗き込む。
すると、彼女たちは左右に分かれていて、その足元に横たわっているものが見えた。
「!」
田之口さん・・・
あれは田之口さんだわ。
放課後に倒れた田之口さんがなぜ?
しかも彼女も裸で黒薔薇のそばに横たわっている。
出て行かなきゃ・・・
彼女は貧血で倒れたというのに、こんなところで裸で寝かせておくわけには行かないわ。
でも、私はなぜか動けなかった。
目だけは彼女たちに向けられ、躰はまったく動けなかったのだ。
「うふふ・・・そろそろね」
「彼女もこれで私たちの仲間。素敵ですわ」
「彼女も選ばれた存在。学院の支配者になるのですわ」
少女たちが口々にしゃべっている。
そして再び一人が振り向くと、こう言ったのだった。
「ローゼ先生。こちらへいらっしゃいませんか? 覗き見は趣味が悪いですわ」

私はもう少しで悲鳴を上げるところだったかもしれない。
振り向いた彼女の目は赤く輝き、口元には妖しい笑みを浮かべ、両の乳房には漆黒の黒薔薇が大輪の花を咲かせていたのだ。
「あ、あ、あなたたちは一体?」
私はそれだけ言うのが精いっぱいだった。
続いて振り返った少女たちはいずれも同じような姿をして私に微笑んでいる。
「うふふふ・・・怖がることはございませんわ。ローザ先生は私たちの母なのですから」
「母? 母ってどういうこと?」
「すぐにわかりますわ。さあ、こちらへ。新たな娘の誕生ですわ」
胸に黒薔薇を咲かせた少女たちが私を誘う。
私は奇妙なことに恐怖が薄らぐのを感じていた。
最初の衝撃は無くなり、彼女たちの姿を美しいと感じてさえいたのだ。
私はゆっくりと彼女たちに近づいた。

寝かされているのは田之口さん。
月明かりに照らされた裸身が綺麗。
だけど、躰が小刻みに震えている。
「寒がっているわ。早く部屋へ」
私はようやく彼女を連れ出すことに思い至る。
でも、私が差し出した手はさえぎられた。
「薔薇の娘の誕生ですわ。おとなしくそのまま見ていてください」
私はその言葉に手を引いてしまった。
どうしてしまったのだろう。
どうして私はこんなにドキドキしているのだろう。
だめなのに・・・
この先を見てしまってはだめなのに・・・
そう思う私の目の前で田之口さんに変化が現れる。
月明かりの中、彼女のくるぶし辺りから芽が出たのだ。

それはまさしく植物の芽だった。
芽はすぐに自分のなすべきことをするかのように彼女の脚に巻きついていく。
みるみる伸びて行く蔓は彼女の脚に絡みついた後、さらに胴体へ這い登り、両の胸に巻きついていく。
そして・・・彼女の胸は先端がつぼみのように膨らみ・・・
「ああ・・・」
なんて綺麗・・・
黒い薔薇が・・・大きな黒い薔薇が咲いたのだった。

目を開ける田之口さん。
その目は真っ赤に輝き、口元の笑みは他の薔薇少女たちと同じく冷たくて妖艶だった。
やがて彼女はゆっくりと起き上がる。
「うふふふ・・・」
妖しく笑う薔薇少女。
「新しい姉妹の誕生ね」
「おめでとう」
「おめでとう」
口々にお祝いをいい、彼女を抱き寄せる薔薇少女たち。
田之口さんは、いいえ、田之口さんだった薔薇少女はそれを嬉しそうに受け止めている。

「ローザ先生」
私の脇にいた薔薇少女が私を呼ぶ。
「私たちにお言葉を」
「えっ?」
「ローザ先生の娘たちにお言葉を下さいませ」
微笑む薔薇少女。
「ち、がう・・・私は・・・私はあなたたちの母なんかじゃないわ」
私は首を振る。

「もう、ここまで来てもまだ思い出さないの?」
突然私の背後から声が掛けられる。
私は背筋に冷水を浴びせられたかのように、その声に身を固くした。
「まったくぅ・・・記憶を失っている改造人間なんてぇ。その割りにちゃんとレッドアイを育てているし」
恐る恐る振り向いた私の前には放課後の廊下で見たあの童顔の女性が立っていた。
あの時とは違い、サングラスははずして赤い瞳が覗いている。
衣装はまるで胸を強調するかのような黄色いカップの付いた紺色のレオタード。
太ももまでのエナメルのストッキングに両腕は二の腕までの長手袋。
まるでコスプレのような感じの衣装だけど、彼女には結構似合っている。
「あなたは・・・あなたが彼女たちをこんな風にしたのね?」
私は彼女をにらみつけた。
この女は危険だ。
私の勘が彼女が普通の人間ではないことを告げている。
「ハァ? 何を言い出すの? これはあなたがやったことでしょぉ」
えっ?
私が?
嘘・・・
嘘よ・・・
「アーア・・・もう早く思い出しなさいよ。お前は私が改造したデュナイト“ローズ”なの。もっとも、あの女に命名させれば“黒薔薇女”なんて面白みの無いネーミングになるんでしょうけどね」
少女のような外見に似合わず、冷たい笑みを浮かべる目の前の女性。
私には何のことだか・・・
何のことだか?
私は・・・?
彼女を・・・?
知って・・・いる?
「まだ思い出さないのぉ? 信じられなーい! 私は副官子・・・じゃなくてぇ! お前を改造したときにはクインスと名乗っていたわよ」
クイ・・・ンス?
ああ・・・
いや、いやよ・・・
思い出したくない、思い出したくないよぉ・・・
私は頭を抱えてうずくまる。
「まったくぅ・・・改造後の性能試験の対落下試験で頭打つなんてどういうつもりよ! しかもそのままふらふらとどこか行っちゃうし・・・追跡システムもイかれちゃったらしくて見失ってすごく怒られて・・・」
ああ・・・
やめて・・・
思い出させないで・・・
尼僧服の中で私の躰がじわりと蠢く。
「レッドアイが咲いているっていう報告を受けて急いで来てみれば、記憶を失ったとかで神に仕えちゃったりしているし」
私の頭の中で何かが目覚めていく。
いやだ・・・いやだよぉ・・・
「もうー! こんな過去の不始末をあの女に知られたらどうなると思っているのよぉ」
「いやだぁっ!」
私は叫ぶ。
でも・・・
私は・・・
私・・・は・・・
私の躰が変わっていく。
尼僧服を脱ぎ捨て、私は本当の姿を取り戻す。
私の頭部には黒く巨大な薔薇の花が咲き、胸にも同じような薔薇が咲く。
両手と両脚は茎のように緑色になり、蔓がムチのように伸びていく。
そうか・・・
思い出したわ・・・
私は・・・
私は黒薔薇女。
うふふふふ・・・

私はゆっくりと立ち上がる。
周囲には可愛い私の娘たち。
「さあ、咲き誇りなさい。娘たち」
私は娘たちに呼びかける。
娘たちの胸に咲いていた黒薔薇が一斉に更なる変化を迎えていく。
中心が広がり、赤く輝く目が現れたのだ。
「うふふふ・・・レッドアイが咲いたのね」
私は咲き誇る娘たちに微笑みかけた。

                    ******

「ローザ先生、お呼びですか?」
うふふ・・・
私は舌なめずりをして香葉村さんを迎え入れる。
数学準備室はいまや私の拠点。
学院の優秀な娘にレッドアイを寄生させることで黒薔薇少女に生まれ変わらせる。
そして黒薔薇少女たちは日本中へ広がっていくの。
うふふふ・・・
素晴らしいわ。
「いらっしゃい、香葉村さん。さあ、あなたも私の手で生まれ変わらせてあげる」
私はゆっくり立ち上がると黒薔薇女に姿を変えた。
  1. 2007/01/24(水) 21:23:40|
  2. 怪人化・機械化系SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
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コメント

私は本当にこういうストーリーが良いです.
反転になられる話がもっと沒入になりますよ.
g-than様の絵も気に入ります.
ブルログに文を書くという文を見て予想はしたが
こんな良い文は気に入ります.
もし, 次に書く文も構想しているんですか?
  1. 2007/01/24(水) 21:40:53 |
  2. URL |
  3. ベルクルド #-
  4. [ 編集]

どうもです。こちらにコメントを書かせていただくのは初めて…ですかね?
拝見しました。g-thanさんたちと裏ではそんなお話が進んでいたとは…。
記憶をなくした改造戦士ですか。クィンスの過去も垣間見れて楽しませて頂きました。
一定の条件が決まっていても人によっていろんな話が出てくるのは、物書きの面白いところですね。
ただ、私の場合は一つ見てしまうとなかなか頭が切り替えられなくて……ああ、柔軟な頭が欲しい(T_T)
主にg-thanさんのサイトしかコメントを出さない私でしたが、これを機に舞方さんのサイトにもちょくちょく顔を出させて頂こうと思います。
PS.私事ですが、先日はありがとうございました。
  1. 2007/01/24(水) 22:58:50 |
  2. URL |
  3. T-Fly #-
  4. [ 編集]

祭りだワッショイ!(笑)
でもこういう企画はいいですねー。
「蜂娘祭」思い出しちゃいました。
T-FLYさんも仰ってますが
「同じ絵でも違う見方で」SSにするってのは面白いですね。

お忙しい身とは思いますがこういった企画今後もやっていただけたら。

あとやっぱり
「シスター、全寮制の女学院&女教師、保健室」
ってワードはいい響きですよねー(笑)。妄想がいくらでも膨らむ三点セット(笑)ですね。
  1. 2007/01/25(木) 00:59:38 |
  2. URL |
  3. 空風鈴ハイパー #-
  4. [ 編集]

モチーフ色々ですね~
次はどういうものがでてくるのか…楽しみが増えてきてしまいますね

そういえば、来月キルタイムコミュニケーションから洗脳ヒロインアンソロジーというまんまなタイトルのコミックが出るらしいです、期待できるといいなぁなんて
それと今月発売した魔法少女エンジェリックカリン、個人的にお勧めです、洗脳は…妄想必須な感じで悪コスありということもありますのでいい感じかもしれません
  1. 2007/01/25(木) 21:04:57 |
  2. URL |
  3. 漆黒の戦乙女 #c4EIgJbw
  4. [ 編集]

>>ベルクルド様
楽しんでいただけて何よりです。
g-thanさんのイラストは妄想をかき立ててくれますよね。
次作は今日載せましたので、こちらも楽しんでいただければ幸いです。

>>T-Fly様
こちらでは始めましてですね。
g-thanさんの所に掲載されたT-Fly様のSSはすごく楽しませていただきました。
私の作品も楽しんでいただければ幸いです。
よろしくお願いしますです。

ところで先日と言いますと?

>>空風鈴ハイパー様
ちょっとしたお祭でした。
g-thanさんのイラストはいろいろと妄想させてくださるので、本当に執筆し甲斐がありますね。
機会があればこれからも行なっていきたいです。
でも、一人じゃできないですからねー。(笑)

>「シスター、全寮制の女学院&女教師、保健室」
これ、いいですねー。
妄想がかき立てられますです。
SS書きたくなりますね。(笑)

>>漆黒の戦乙女様
ショッカーのようにいろいろな動植物と融合した女性怪人は魅力的だと思います。
それを実に見事にg-thanさんは描いてくださるんですよね。
素晴らしい絵描き様だと思います。
これからもお互いにいい影響を与え合えたらいいですね。

エンジェリックカノン・・・見てみます。
結構良さそうですね。
気になりますです。
  1. 2007/01/25(木) 21:27:30 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2010/07/26(月) 14:23:16 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

>>コメントをくださいました方

ご質問の件ですが、コートは確かに男性用の地味なトレンチコートっぽいものを想像しておりました。
ですが防寒用ではなく、コートもサングラスもあくまで悪の組織の幹部である「クインス」が、日中人目のある場所で自分の姿を晒すのは得策ではないと判断したゆえの変装のために身につけていたものです。

このクインスなる存在に関しましては、私のブログのリンク先でありますg-than様のブログ、「Kiss in the dark」をご訪問いただけますと、クインスとそれが属する悪の組織S・S・Bのことがご理解いただけるかと思います。

また、夜の段階ではコートとサングラスをはずしていたのは、自らの作品である改造人間とそれに関わる生徒達しかその場にいなかったため、変装する必要がなかったという理由と、記憶を失っている黒薔薇女に自らが何者であるかを見せ付ける必要があったため、普段の派手な格好で現れたのです。
おそらくコートとサングラスは、近くに待機しているであろう女戦闘員にでも持たせておいたのではないでしょうか。ww

どちらかというと私の作品は、仮面ライダーなどの特撮系番組をイメージして書かれているものが多いです。
ですので、その世界(特撮系番組)でのお約束のようなこともよくやります。
日中、コートにサングラスでうかがっていたら、かえって怪しまれそうなものですが、お約束なのでそういう格好の人は怪しまれないのです。(笑)
そのあたりを楽しんでいただければうれしいです。

このたびはコメントどうもありがとうございました。
またうちのブログに遊びに来て下さいませ。
  1. 2010/07/26(月) 19:37:05 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2010/07/26(月) 20:02:39 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

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舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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