1922年(大正11年)に締結したワシントン海軍軍縮条約は、各国の海軍力整備に大きな影響を与えました。
列強各国は戦艦と航空母艦について、その合計排水量の上限を決められてしまい、その制限の中で建造することを余儀なくされたのです。
それはアメリカ合衆国とて同様でした。
アメリカは航空母艦について合計13万5千トンまでしか持てなくなってしまったのです。
(これは英国と同トン数であり、日本は8万1千トンまでに制限されました)
アメリカは給炭船を改造した最初の空母「ラングレー」に始まり、巡洋戦艦を改造した「レキシントン」「サラトガ」に続いて小型空母「レンジャー」を建造しましたが、この「レンジャー」は搭載機数はともかく小型ゆえに防御力に難がある空母でしたので、これまでの空母運用のノウハウをつぎ込んだ傑作中型空母「ヨークタウン」級を二隻(「ヨークタウン」と「エンタープライズ」)を建造します。
この時点で条約で制限された排水量にあと1万5千トンほどとなってしまったため、バランスのいい「ヨークタウン」級(2万トン)をこれ以上作ることはできなくなってしまいましたが、アメリカはこの1万5千トンを無駄にするつもりもなく、この制限内で小型空母一隻を作ろうと考えます。
(のちに条約の期限が切れたあと、「ヨークタウン」級の三番艦「ホーネット」が建造されました)
当初は1万4500トンの「レンジャー」の同型艦を造ろうという案も出ましたが、やはり「レンジャー」にはいろいろと問題点もあったため、使い勝手のいい「ヨークタウン」級を小型化した感じの空母にすることで設計がまとまり建造が開始されました。
こうして基準排水量1万4700トンという小型空母「ワスプ」が1940年4月に完成します。
全長は226メートル、最大幅は33メートルと、「ヨークタウン」級に比べて全長が20メートル短いぐらいの大きさで、搭載機数も80機ほどと遜色ないものでしたが、最高速度は「ヨークタウン」級の33ノットに対して29.5ノットとやや落ち、何より「レンジャー」同様どうしても防御力は低いものにならざるを得ませんでした。

完成した「ワスプ」は、すでに第二次世界大戦が始まっていた欧州方面に派遣され、英国の戦闘機を地中海のマルタ島に運ぶなど航空機運搬の任務についておりましたが、太平洋戦争が始まると日本海軍との戦いでアメリカは空母「レキシントン」「ヨークタウン」を沈められてしまうなど一時的に稼働空母が二隻しかいない状況に陥ってしまったため、防御力が低いことを承知の上で「ワスプ」を太平洋に回さざるを得なくなってしまいます。
1942年6月、「ワスプ」は太平洋に回航され、対日戦に参加します。
その後日本軍のガダルカナル島上陸により、「ワスプ」はソロモン海方面に進出し、「サラトガ」「エンタープライズ」とともに「第二次ソロモン海戦」を戦います。
この「第二次ソロモン海戦」では、日本の小型空母「龍驤(りゅうじょう)」を撃沈し、ガダルカナル島への輸送作戦を阻止したものの、空母「エンタープライズ」が損傷して修理のために後退。
また、空母「サラトガ」も日本軍の「伊26」潜水艦の攻撃を受け損傷。
これまた修理のために後退せざるを得ず、「ワスプ」は米軍にとって本当に貴重な空母になってしまいます。
1942年9月15日。
「ワスプ」はサンクリストバル島沖を遊弋しておりました。
14時30分ごろ、日本軍の潜水艦「伊19」の潜望鏡がその姿を捉えます。
「伊19」の木梨艦長は攻撃を命令。
魚雷6本が「伊19」から放たれました。
14時45分ごろ、「ワスプ」の舷側に3本の水柱が立ち上ります。
「伊19」の放った魚雷6本のうち3本が命中したのです。
1万5千トンほどの小型空母に魚雷3本の命中はダメージが大きく、「ワスプ」は搭載機の燃料や弾薬が誘爆し、手の施しようがなくなります。

15時20分、シャーマン艦長は乗員に「ワスプ」からの退艦を命令。
「ワスプ」は味方駆逐艦の魚雷で処分されました。
ちなみにこのとき「伊19」の放った6本の魚雷のうち残りの3本は、1本が戦艦「ノースカロライナ」に命中し損傷させた上、駆逐艦「オブライエン」にも1本が命中、「オブライエン」はのちに沈没というすさまじいものでした。
ジガバチの名を冠した空母「ワスプ」ですが、残念ながら蜂の一刺しならぬ魚雷の一刺されで沈んでしまいました。
米軍はこれで稼働空母が「ホーネット」のみという非常事態に陥りますが、残念なことに日本軍はこの状況をうまく利することができませんでした。
なお、「ワスプ」の名は現在強襲揚陸艦に受け継がれております。
それではまた。
- 2011/05/20(金) 21:55:56|
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「レンジャー」や「ワスプ」はさすがに中途半端な感じの艦ですが、色々試行錯誤を重ねた日本の空母に比べてアメリカ空母は割りと早期に技術が確立されたような感じですね。「翔鶴」型は日本空母のスタンダードとなりましたが、「ヨークタウン」型と比べると何だか華奢に見えますし。
- 2011/05/22(日) 15:12:28 |
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- 富士男 #-
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>>富士男様
やはりアメリカ空母の大きなアドバンテージとしてダメージコントロールの高さが上げられますよね。
初期の「レキシントン」やこの「ワスプ」はダメージコントロールがうまく行かなかったようですが、「エセックス」級以後はホントに沈みにくい空母でした。
翻って日本空母はというと・・・
ダメージコントロールの貧弱さは覆い隠せませんね。
- 2011/05/22(日) 21:18:28 |
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- 舞方雅人 #-
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