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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

騎士物語(2)

騎士物語の二回目です。

それではどうぞ。


「お爺様、ただいま戻りました」
午後の日差しが差し込む書斎でお爺様は本を読んでいらっしゃったが、私とエリーヌが入っていくと、顔を上げて笑みを浮かべてくれた。
「おお、クロディーヌ。お帰り。無事で何よりだ。エリーヌもご苦労であったな」
本を閉じて膝の上に置き、両手を広げて私を迎えてくれるお爺様。
「ありがとうございます、アンリ様」
エリーヌが片膝をついて一礼する。
「お爺様もお元気そうでうれしいわ」
私はお爺様に抱きつくと、その頬にそっとキスをした。
「早馬で戦いのことは聞いたよ。よくやってくれた。ラシェル家の誉れだ」
「ありがとうございます、お爺様」
私はお爺様から離れ、ほめてもらえたことに礼を言う。
お父様亡き今、ラシェル家はお爺様と私が守っていかなくてはならない。
少しでもその役に立てたのであればうれしいわ。
「土産話を聞きたいところだが、今日は疲れているだろう。旅の汚れを落として休むがいい」
「はい、そうさせていただきます。お爺様」
お爺様の配慮に感謝して私たちは部屋を出る。
もうくたくただったのだ。

「わ、私は自分でやりますからマスター」
「だめ。一緒に来なさい。いつも言っているでしょ」
私は湯浴みにエリーヌを引っ張っていく。
人の手で作られたものとはいえ、ユニットドールは人間とほとんど変わりない外見をしているのだ。
女の子は身奇麗にしておかなくちゃね。

湯船に溜められたお湯を桶に取り、私はエリーヌの躰を拭く。
エリーヌは観念したようにおとなしく、私に拭かれるがままになっていた。
それにしても・・・
本当にこれが作られたものだというのだろうか?
肌のやわらかさも温かさも人間と変わりが無い。
小ぶりの胸の膨らみも、股間の性器だって変わりが無い。
ここまで人間そっくりに作る必要があるのだろうか?

唯一といっていい違いは首筋の後ろにある三つのソケット。
ユニットドールはここにアーマドールからのケーブルをつなぎ、アーマドールの基本動作を制御する。
そのため騎士は、歩くとか腕を振り上げるなどといった基本動作を制御せずに、戦いの動作だけを行わせることができるのだ。

アーマドールとは言ってみれば騎士の着る鎧である。
その外見は騎士が儀礼のときや戦いのときなどに着る全身鎧に酷似している。
ユニットドールと操縦者が乗り込むために頭部と胸部がやや太くなっており、それに合わせて脚部も太くはなっているものの、全体を見ればまさにヘルメットをかぶり全身を鎧で覆った騎士の姿そのものなのだ。
鎧は武器の一種であるから戦いに使われ、傷ついたり壊れたりするもの。
アーマドールも同様に、戦いに使われて傷つき壊れていく。
壊れるのは仕方ないとは言うものの、精密な制御システムを作る端から壊されるのではたまらない。
せめて制御システムは取り外しが可能なようにしておき、本体が壊れても制御システムは無事であるようにしたい。
制御システムが取り外しができるとなると、今度は持ち運びが大変である。
どうせなら自力で移動ができる制御システムであるほうがいい。
と、なれば、高貴なる者が連れて歩いても見栄えのいい形であるほうがいい。
そんな考えがユニットドールをこうした人間型に導いたのだ。
そりゃ、一緒に歩くなら金属の塊なんかであるよりも、エリーヌのような人間の形をしているもののほうがいいというのはわかる。
でも、これではあまりに人間に似すぎている。
まさに魔法技術の傑作。
私自身、エリーヌを作られたものであるという認識は持ちづらく感じていた。

「はい、終わり」
私はエリーヌの髪の毛を拭いてやる。
金色の髪がとてもきれい。
うらやましいぐらいだわ。
「ありがとうございます、マスター」
エリーヌのにこやかな笑顔を見て、私は思わず抱きしめたくなってしまう。
ファクトリーの連中は、きっと騎士にこういう感情が湧くことを計算していたのだろう。
こういう保護心が湧く対象であれば、戦場でもユニットドールを確保して連れ帰ってくれるに違いないからだ。
悔しいが、その策略に私自身もハマっているというわけか・・・
「どういたしまして」
私はエリーヌに笑顔を返して風呂場から出し、自らの躰を拭き始める。
ぬるくなったお湯を含んだタオルが気持ちよかった。

                    ******

「おはようございます、マスター」
エリーヌが部屋に入ってきて鎧戸を開ける。
とたんに窓から朝の光が差し込んできてまぶしい。
私は寝ぼけ眼をこすりながら、ベッドで上半身を起こした。
「おはよう・・・もう朝なの?」
とてもじゃないが寝たりないわ。
それにしても、久しぶりの家のベッドは気もちよかったぁ。
「もう二度目の鐘が鳴り響きました。早く支度をしないと遅れます」
エリーヌはそういうと、着替えをベッドの脇に置いてくれる。
いけない。
今日は王宮に出向いて帰還の報告をしないといけないんだわ。
私はすぐに飛び起きると、服を着替えて身支度を整え始めた。

「おはようございます、お爺様」
食卓にはすでにお爺様が着いていた。
「ああ、クロディーヌ、おはよう」
お爺様がにこやかに微笑んでくださる。
めがねの奥の細い目が、よりいっそう細くなっていた。
私はすぐに食事の用意をさせ、朝食をかき込んでいく。
国王陛下の午前中の謁見に間に合うようにしなければ。
「ん・・・げほっ」
あわててパンをのどに詰まらせる。
「こらこら。あわてて食事をするからじゃ。もう少し落ち着いて食べなさい」
お爺様が笑っている。
「は、はい、お爺様」
私はショコラを飲んで落ち着いたところでそう言う。
う~・・・
恥ずかしいざまを見せてしまったわ。

「ご馳走様でした。それではお爺様、国王陛下に帰還のご挨拶をしに行ってまいります」
食事を終えた私は、ナプキンで口をぬぐうと席を立つ。
簡単な朝食だけど、やっぱり家で食べる食事は美味しいわ。
夕べの食事といい、あとでコックのゲランに美味しかったと言ってあげなくてはね。
「くれぐれも陛下に失礼の無いようにな。クロディーヌ」
「はい、お爺様」
私はお爺様の表情が少し翳ったのを見た。
「クロディーヌ、そなたには苦労をかける。そなたの父が生きておれば・・・」
またその話。
私は黙って首を振る。
「その話は言わないでくださいお爺様。父の死はどうしようもなかったことです」
「だが、クロディーヌ、せめてそなたが男であったなら・・・王宮で惨めな思いをすることも・・・」
「お爺様、お気になさらないでください。私が女だということでいろいろ言われているのは確かです。でも、私はそんなことはなんとも思っておりませんから」
男に生まれなかったのは私の力でどうにかなることではないし、ほかにラシェル家を継ぐことができる男子がいるわけでもないのだ。
どうあれラシェル家は私が継ぐしかない。
そりゃあ、いずれは婿を迎えて子を産まなければならないのだろうけど、今はこうして気兼ねなく男のようにしているのも悪くないのだ。
少々のことは気にするまでもない。
少々のことは・・・

「マスター、そろそろ出かけましょう」
いつものように白い躰にぴったりした特殊スーツを着たエリーヌが迎えに来る。
アーマドールのユニットドールとして、騎士のそばに控えていなくてはならないのだ。
「それでは行ってまいります、お爺様」
「うむ、気をつけてな」
私はお爺様に抱きついて頬にキスをすると、エリーヌを連れて部屋を出た。

ゴトゴトと馬車が揺れる。
昨日までと違い、今日は馬車の座席に座っての移動。
窓の外では、朝のざわめきが町を彩っている。
王宮までのしばしの間、私は生き生きとした町の表情を楽しんでいた。
「ファクトリーには手配をしておきました。王宮から戻るころには、職人たちが来ていると思います」
私の向かい側に座るエリーヌの報告に、私は黙ってうなずく。
戦いで傷付いた外板や消耗品を交換し、整備を行ってもらうのだ。
おそらく二日もすれば、“エリーヌ”はまた元通りぴかぴかに磨き抜かれた姿になるだろう。
新たな戦いに備え、身だしなみを整えるのだ。

程なく馬車は王宮に到着する。
正門の左右にはまさに磨き抜かれたアーマドールが屹立し、周囲を無言で威圧している。
そばにいる衛兵も銀色に赤い飾りのついた胸当てを着け、アーマドールに勝るとも劣らない派手さで国王の権力を見せ付けていた。
私は衛兵に身分と用向きを伝え、王宮内へと馬車を進ませる。
広大な庭園を抜け、宮殿玄関で馬車を降りると、私はエリーヌとともに宮殿の中へと入っていった。

謁見の間。
そこは数多くの廷臣が国王陛下に謁見を許される場所。
私とエリーヌは、幾人かの人々が謁見を待つ控え室の中で順番を待つ。
商人や官僚、地方から来た貴族、そして私のようにユニットドールを従えた騎士が国王陛下への目通りを待っている。
そのいずれもが、エリーヌを連れた私に好奇と嫌悪の無遠慮な視線を向けていて、隣の人とひそひそ話をしているのだ。
いつもと同じこと。
もう慣れてしまった。
女だてらに騎士を名乗りアーマドールを乗りこなす存在など、男の騎士たちには耐えられるものではないのだろう。
逆に商人や貴族には物珍しい珍獣にでも見えるのか、エリーヌと私の取り合わせをいやらしい目で見るものも少なくない。
ふう・・・
慣れたとは言っても、戦場にいるほうがはるかにましだわ・・・

「騎士クロディーヌ・ラシェル殿」
名を呼ばれた私は、エリーヌを連れて謁見の間に進む。
大きな両開きの扉が開き、広い室内に通される。
がらんとした部屋は、国王陛下の権力の大きさを誇示するように窓も柱も巨大で天井も高かった。
部屋の奥の一段高くなった玉座には初老の国王陛下が座り、その周りを重臣たちが詰めている。
初老とはいえ国王陛下は精気に満ちた顔つきをしており、その威厳は周囲を圧していた。

私とエリーヌは室内の中ほどまで進み、そこで膝を折って一礼する。
国王陛下のお言葉を待ち、そして今回の遠征の結果を報告するのだ。
「クロディーヌ・ラシェルよ。よう無事で戻った。余はうれしいぞ」
重々しく響く国王陛下の声。
その力強いお言葉に、私は思わず畏怖の念を抱いてしまう。
「ありがたき幸せ。これもすべて国王陛下のご威光の賜物かと」
深々と頭を下げる私とエリーヌ。
「うむ。報告はすでに受けている。辺境の村・・・なんと言ったかな?」
「ロウォーヌでございます、陛下」
「そうであったな。ロウォーヌ村だ。ロウォーヌ村をよく我が手に収めてくれた」
耳打ちをなされたのであろう重臣の方の声が聞こえ、再度お言葉を下さる国王陛下。
「あの土地は国王陛下にこそふさわしいもの。私はただそれを証明したに過ぎません」
「うむうむ。そなたの働き見事であった。これでしばらくあのビュシエール男爵もおとなしくしておろう。愉快なことよ。わっはっはっは・・・」
国王陛下がお笑いになっている。
ビュシエール家は男爵家ではあるものの、その勢力は侮りがたいものがあるので、国王陛下も内心苦々しくお思いだったのかもしれないわ。

「クロディーヌ・ラシェルよ。褒美を取らす。好きなものを言ってみよ。地位か? 領地か?」
私は黙って首を振る。
地位も領地もほしくないわけじゃない。
でも、ラシェル家は先年のザルクエンヌ遠征で加増を受けている。
ここで更なる加増を受けては、ほかの騎士たちの嫉視を受け、ろくなことにはならない。
なので、ここは辞退するほうがいいのだ。
「国王陛下のありがたきお言葉、このクロディーヌ心より感謝いたしております。なれど、此度のことは国王陛下のご威光を知らしめるためのものであり、褒美を受けるようなことではございません。どうか私ごとき若輩者にご配慮はご無用にお願いいたします。ただ、国王陛下にはラシェル家という忠実なる臣下がいることをお気に留めていただきさえすれば、このクロディーヌ、望外の喜びでございます」
「うむ。そうか。そなたは欲がないな。わかった。今後もラシェル家の忠誠に期待するぞ」
私の返事に満足してうなずかれる国王陛下。
これで少しはラシェル家の印象を強められたはず。
私はともかく、ラシェル家は今後も続いていかなくてはならないのだ。
足元は固いほうがいい。

「陛下」
国王陛下の傍らから声が上がったとき、私はいやな予感がした。
声をかけたのはフォーコンブレ侯爵ロスタン。
国王陛下の腰ぎんちゃくといわれている男だ。
あまりいい噂は聞かない。
「何かな、ロスタン」
「クロディーヌ殿の申しよう、若年ながらなかなかお見事。このロスタンも感服つかまつりました。いかがでしょう? 此度のことはクロディーヌ殿には少々物足りなかったのではありますまいか。であるからこそ褒美には値しないとおっしゃられておられるのかと」
クッ・・・
そう来たか・・・
私は唇を噛み締める。
「ふむ・・・騎士同士の戦いは決して物足りぬとは思わなかったが・・・」
もちろん物足りないなどあるはずもない。
できればこのような遠征はそうそうあってほしくないぐらいなのだ。
「いえいえ、陛下、クロディーヌ殿であればその実力にふさわしい任務があろうというもの。いかがでしょう? 先日来辺境を騒がせておる謎のアーマドールの探索と排除をお命じになられては?」
謎のアーマドール?
いったい何のことだろう・・・
「おお、あの話か・・・ふむ・・・確かクレマン家の者が向かったはずだが、どうなったのか?」
「それが、あの者アーマドールもろとも行方が知れませぬ。おそらくは返り討ちにあったものかと・・・」
「ふむ・・・侮れぬということか」
「はい、陛下。なればこそ」
私は黙って国王陛下とフォーコンブレ侯爵の会話を聞いているしかない。
言葉をさしはさむことなどできはしないのだ。

「ふむ、どうかなクロディーヌ・ラシェルよ。そなた、この任を引き受けてはみぬか?」
「ハッ、国王陛下のご命令とあれば、このクロディーヌに否やはございません」
私は内心を抑えてこう答えるしかなかった。
「うむ、では任せるとしよう。無事に帰還したあかつきには、今度こそ褒美を取らせるぞ」
「ハッ、ありがたき幸せにございます」
「うむ。下がるがいい」
「ハハァッ」
私は国王陛下に一礼を行うと、フォーコンブレ侯爵をにらみつけるように一瞥し、エリーヌをつれて謁見の間を出る。
まったく・・・
してやられたわ・・・
  1. 2011/02/09(水) 21:19:03|
  2. 騎士物語
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3
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コメント

謎のアーマードールキタ!いよいよ「そういう」展開が始まりそうですね。

ユニットドールがなぜああいう形なのかの考証が面白かったです。
女騎士&ユニットドールのペアが好奇の目で見られるというのは、世間的には、騎士は戦場での夜、ユニットドールと……というように認識されているのだろうか、などと想像。
  1. 2011/02/09(水) 21:30:49 |
  2. URL |
  3. maledict #gR92Clc.
  4. [ 編集]

ロスタンという男、どんな物語にでもいそうな、権力者に媚びる金魚のフンですな。
主人公は大体こんな存在に振り回されっぱなしなんですよね。

今日は時間軸としてはあまり進まなかったですが、明日は急展開を迎えそうですね。
これはwktkです。
  1. 2011/02/09(水) 21:37:24 |
  2. URL |
  3. metchy #zuCundjc
  4. [ 編集]

>>maledict様
実際はどうあれ騎士とユニットドールがそう見られるのはあるかと思いますねー。
なので、クロディーヌとエリーヌもそう見られてしまうのでしょう。

>>metchy様
フォーコンブレ侯には別の出番も用意してやればよかったんでしょうけどねー。
主人公はこういう奴には振り回されちゃいますよねー。
  1. 2011/02/10(木) 20:31:25 |
  2. URL |
  3. 舞方雅人 #-
  4. [ 編集]

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